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v h H 白 h p I一一『奈良法学会雑誌J第10巻 3・4号 (1998年3月) 問 題 の 所 在 倒産処理のために特別清算の申立てがされる事例が増え、実務上の手続に絡んで新たな解釈問題も出てきている。 株式会社の特別清算の制度は、昭和二二年の荷法改正 (同年法律七二号)によって、会社整理の制度とともに設け られた。そのいずれも、資産状態の不良な株式会社の錯雑した権利関係を裁判所の関与のもとに処理しようとするも のであるが、会社整理が存立中の会社につきその更生をはかる制度であるのに対し、特別清算は、解散後の会社につ いて、清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情がある場合や債務超過の疑いがある場合に、破産を避け、子続の進 行を関係人の自治に委ねつつ裁判所の監督のもとに清算を行う特別手続(商四三一条l
四五六条、非訟二一一八条ノ である。従来、特別清算の利用率は甚だ低く、 いわゆるバブル経済の崩壊後の倒産件数の増加 八 i 一 三 一 八 条 ノ 一 五 ) に必ずしも連動しておらず、税務対策のための利用が多いとされてきたが、最近では、本来の倒産処理のための利用 ( 1 ) に向かっているという。そのために、これまであまり論じられたことのない若干の問題が浮上している。本稿で取り第10巻 3・4号一一2 上げる特別清算と相殺の問題も そのひとつである。 特別清算は、 その開始決定から債権者集会の招集、協定の可決・認可を経て手続の終了に至るが、手続の中心とな るのは、特別清算中の会社と債権者との債務処理方法についての合意である﹁協定﹂であり、清算人が作成して申出 をし債権者集会において法定多数の同意を得て可決された協定は、これに対する裁判所の認可決定の確定により効力 を 生 じ 、 その効力は、協定の対象となった債権だけでなく、性質上協定の対象となりえた総ての債権の債権者に及ぴ、 債権者集会への出欠や決議への賛否等をとわない ( 商 四 五
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条三項、破三二一条・三二六条)。問題となるのは、会社 に対して債権を有する債権者が同時に会社に対して債務を負担しており、会社に対する債権が協定の効力を受けるも のであった場合に、 その債権者は、協定にかかわらず相殺ができるのかどうか、 である。たとえば、協定において債 権の一部免除や弁済期の猶予がなされた場合に、もし協定の成立前に両債権がすでに相殺適状にあったならば、債権 者は、本来の債権額で直ちに相殺することが認められるのかどうかが問題となるわけである。 不案内な領域の問題でもあり、 十分な検討を重ねてもいないままに提出しなければならないのは残念であるが、 と りあえず私見をまとめて、多年の実務経験を基礎に企業倒産法を講じてこられた森井英雄教授のご教示をえたいと思 7 0 (1)特別清算事件の申立件数の推移(昭和三 O 年 1 平成五年)については上柳克郎ほか編・新版注釈会社法問一二 O 百 円 、 お よ ぴ 、 青山善充ほか編・会社更生・会社整理・特別清算の実務と理論・判例タイムズ八六六号四五 O 頁など参照。いずれも、各年度 の可法統計年報(民事・行政編)によるものである。なお、特別清算の利用の実情について、東京地裁商事部研究会報告﹁特 別清算付﹂判例時報一三 O 五 号 三 頁 [ 佐 賀 義 史 ] 、 新 版 注 釈 会 社 法 問 三 八 一 頁 以 下 [ 青 山 善 充 ] 、 東 西 倒 産 実 務 研 究 会 編 ・ 破 産 ・ 特別清算二六六頁以下、才口千晴﹁特別清算手続の特徴﹂判例タイムズ八六六号四四七頁、多比羅誠﹁最近における特別清算 事 件 の 動 向 ﹂ 判 例 タ イ ム ズ 八 六 六 号 四 四 八 頁 以 下 参 照 。裁 判 例 と 学 説 1 特別清算債権による相殺についての直接の裁判例は、これまで全く報告されておらず、学説もほとんど論じて いない。したがって、特別清算に即した解釈を構築していく必要がある。 そのための参考として、蕗法による株式会社の特別清算の協定と共に広義の強制和議に属する諸制度、すなわち、 破産法による破産終結のためにする強制和議、和議法による和議、商法による株式会社の整理および会社更生法によ る株式会社の更生に視野を拡大し、 それらの手続における(広義の)強制和議の発効後に強制和議債権者が和議条件 に拘束されずに相殺できるかという問題が、判例・学説上どのように扱われているかを観ておきたい。 1 最上級審の裁判例としては、 ただ一つ、和議法上の和議につき、大審院昭和一
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年一月一六日判決民集一四巻 二一頁をみる。そこでは、、和議債権は和議認可決定が確定した後においては和議条件によらないで相殺をすることが できないとし、消極説をとっている。 事 案 は 、 X 無尽会社がY
に昭和六年一O
月分以降の無尽掛返金請求の訴えを提起したところ、 Y は昭和九年六月二 九日の第一審口頭弁論において反対債権による相殺の意思表示をしたが、 X は昭和七年五月二二日に和議開始決定を 3一一特別清算と相殺 受け、和議認可決定が昭和九年四月二八日に確定していたから、第一審裁判所および控訴裁判所は相殺は許されない と判示してX
勝訴の判決をした。Y
は 、 上告して、破産法・和議法の定める相殺禁止債権以外は民法に従いいつでも 相殺できるはずだと争ったが、大審院は、次のように判示して、これを斥けた。 ﹁和議法第五十七条破産法第三百二十六条第一項ノ規定ニ依レパ和議ハ其ノ認可決定ノ確定スルトキハ和議債権者 全員ノ為且其ノ全員ニ対シ効力ヲ生ズルモノナレパ、和議条件ニシテ和議債権ノ弁済期ヲ猶予スルモノナランニハ、第10巻3・4号一一4 爾後譲歩又ハ和議ノ取消ナキ限リ総テノ和議債権ハ和議条件ノ定ムルトコロニ従ヒ弁済期ノ猶予ヲ受クルコトトナル ベク、従テ和議債権者ハ猶予期限ノ到来前ニ在リテハ和議債権ノ履行ヲ求ムルコトヲ得ザルハ勿論、 又之ヲ以テ相殺 ヲ為スコトヲ得ザルモノ卜断ゼザル可ラズ。蓋和議認可ノ決定後ニ於テモ和議条件一一拘ルコトナク其ノ債権全額ヲ以 テ相殺シ得ルモノトセパ、単リ当該和議債権者ノミ和議条件ニ依ラズシテ弁済ヲ受クルト同一ノ結果ヲ賓ラスノミナ ラズ、之ガ為ニ和議条件ハ根抵ヨリ破壊セラレ、其ノ円滑ナル履行ハ到底之ヲ期スルヲ得ザル虞アルベク、所論相殺 ニ関スル破産法ノ規定ハ和議認可決定ノ確定前ニ限リ其ノ準用アルモノト解スルヲ相当トスレパナリ。﹂ ﹁和議債権ガ既ニ債務者ニ対スル債務ト相殺遮状ニ在ルトキト雄モ和議認可決定ノ確定シタル限リ相殺一一供シ得ザ ルモノナルコト前点ニ対シ説明スル如クニシテ、叙上ノ制限ニ対シ法律上別ニ例外ヲ設クルコトナキガ故ニ、本件ニ 於テ被上告人ノ債務中ニ仮ニ和議管財人ガ所論ノ如クニ債権ト差引控除セラルベキモノトシテ計上シタル金額ノ部ニ 上告人ノ確定債権ヲ包合スルモノトスルモ、 現ニ相殺セザリシ以上、和議認可ノ決定確定後ノ今日ニ於テハ最早相殺 ヲ為スコトヲ得ザルモノト断ゼザル可ラズ。﹂ 2 下級審裁判例としても、 ただ一つ、破産法上の破産終結のための強制和議につき、大阪地方裁判所昭和四七年 一
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月 三O
日判決下民集二三巻九l
一二号五七二頁をみるにとどまる。そこでは、右の大審院判決に触れつつも、反 対に、和議条件によらない相殺を認める積極説(ただし、例外を認める) が と ら れ て い る 。 事案は、原告は破産宣告を受け昭和四六年一O
月五日に強制和議認可決定が確定し、和議条件のひとつに﹁破産債 権者は破産債権の八割を免除する﹂と定められているが、昭和四七年二月二八日の口頭弁論期日に反対債権による相 殺の意思表示をした、 というものである。裁判所は、次のように詳細な理由を述べたうえ、相殺の抗弁を認容して原 告の請求を棄却すべきものとした。﹁本件の争点は和議認可決定確定後の相殺が和議条件に拘束されその条件内でのみなされ得るか、或いは和議条件 に拘らず債権全額をもって相殺し得るかの法律上の判断にある。﹂﹁破産法九八条は、破産債権者が破産宣告当時破産 者に対し債務を負担するときは﹁破産手続ニ依ラズシテ相殺ヲ為スコトヲ得﹂と規定し、同法九五条の別除権の行使 と同旨の規定をおいているが、他方、同法三二六条は強制和議は﹁破産債権者ノ全員ノ為且其ノ全員ニ対シテ効力ヲ 有ス﹂る旨規定し、何ら破産債権者に限定を付していないうえに、相殺については、 者の如く強制和議に関し破産債権者から除外する旨の同法二九三条に匹敵する規定が存しない。そこで、この問題の 一般先取特権その他の一般債権 判定は、破産法九八条、九五条に力点をおくか、同法三二六条に重点をおくかによって自らその結論を左右すること になるがこの点につき同法三二六条に依拠し、かっ、和議条件の崩壊防止を理由に、和議条件の範囲内でのみ相殺し 得る旨の判例がある(大判昭一
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・一・一六民集一四巻二三貝)。しかしながら、和議条件の確保は、右の相殺制限の みでは目的を達しないし、また破産法九八条が相殺権を﹁破産手続ニ依ラズシテ﹂行使し得る旨を規定する趣旨は、 一般破産債権者に対し優先権を有する別除権と同一の目的ないしそれ以上に強い理由をもってその優越性を保護しょ うとするところにあるから、強制和議においても別除権者ないしこれよりも低位の優先権者である一般先取特権者を も保護する同法二九三条を類推適用し、特段の事情のない限り、強制和議認可決定確定後もその和議条件と無関係に 5一一特別清算と相殺 債権額全額につき相殺をなし得るものと考える。すなわち 一体、相殺権は単に当事者聞の請求履行の省略という便 宜、公平を図るばかりではなく、相殺による決済を信頼して交互に相手方に債権を保有し合うという相殺の担保的機 むしろこれを重視しなければならないのであって、 一種の債権質類似の作用を営んでいる側面を見逃す 能 を も 有 し 、 ことはできない。しかも、相殺は単なる担保権や優先権と異り、公の競売手続や強制執行手続をも省略し、私人の相 殺の意思表示のみで一挙に債権債務関係を精算消滅させる点で対当額の限度内で一種の私的執行ないし自力救済を認第10巻3・4号一- 6 めたものともいえる点において一層強力な執行的機能をも併せ持つものである。したがって、相殺権は、破産法二九 一二条の﹁一般ノ優先権﹂を類推解釈してこれに含まれるものと考えるべきであるから、相殺権者は破産宣告当時反対 債権を有する限り、同条に従い原則として﹁破産債権者ト看倣﹂されず同法三二六条の適用を受けないのであって、 強制和議の条件と無関係に債権全額につき相殺が許されるものといわなければならない。けだし、このように解しな ければ著しく公平を失し、相殺権者に不測の損害を与える不合理な結果を生ずるからである。したがって、当裁判所 は前記判例の見解を採らないこととする。﹂ ﹁もっとも、相殺権者が強制和議を確知しながら敢えて相殺をなさず、破産債権者として強制和議に参加し、その 和議条件に基く支払を受けるなどの事情により相殺権を放棄したものと認められるような特段の事情がある場合には、 和議条件に拘束され、 その範囲内においてのみ相殺できるにすぎなくなると考える。﹂ 3 学説における見解は、 分かれている。右の大審院昭和一
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年一月一六日判決に賛成する消極説は少ない。これ に対して、積極説をとるものが多く、前記大阪地裁昭和四七年一O
月 三 一O
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判決の基礎ともなっている。 多数の学説が積極説をとるのは、要するに、相殺の担保的機能を重視することによる。 ( 2 ) 積極説の論者は、その相殺機能重視の理由をそれぞれに表現しているが、詳しくは次のような理由が挙げられてい ( 3 ) ヲ h v。
(一) ① 相殺権と別除権とは、同一の目的を有し、破産法において相前後して規定されているが、相殺権は、相殺額に っき他の債権者の競合を許さないだけでなく、別除権におけるような不足額の原則(破九六条)に服しない点で、別 除権よりもさらに優遇される権利である。相殺権と別除権の行使がともに破産手続の効力を受けないのに、相殺権者 が別除権者と異なり強制和議の効力に服するというのは、当をえない。② 消極説では和議条件の履行の確保のために和議認可決定の確定後は相殺を許さないとするが、和議の提供・可 決 の 段 階 、 さらに和議認可決定後その確定前でも、相殺は可能なのであるから、和議の可決・認否にさいしては、 む しろ、相殺権の行使による消滅を予想される和議債務者・破産者の債権額をその積極財産より控除して和議条件の履 行の確否を決すべきものである。 ③ 和議の成立により相殺権の喪失・放棄を認めるのは不当である。相殺権者は、破産手続参加と別個に相殺権の 行使を認められている ( 破 九 八 条 ) のであり、破産子続参加を強いられることはなく、 また、破産手続の参加により あるいは中間配当の受領により当然には相殺権を失わないのに、破産債権満足の一子段たるに過ぎない強制和議の認 可決定により相殺権を失、 7 w ﹂ と は 権 衡 を 失 す る 。 消極説は、要するに、和議の効力と和議履行の確保を重視するものといえるが、 理由の展開は少ない。 ワ 白 谷口安平・倒産処理法[第二版]三五四頁は、破産法上の和議および和議法上の和議につき、 たんに、﹁和議認可決 定の確定以後は変更された自働債権をもってしか相殺できない﹂とし、前記大審院昭和一
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年一月一六日判決と会社 更生法一六二条一項を挙げるにとどまる。伊藤良・破産法三八二頁は、破産法上の強制和議につき、 やや詳しく、﹁相 殺の担保的機能もあるいは[破産法]九八条にもとづく相殺権の保障も、 一定額の白働債権が存在することを前提と し て お り 、 その自働債権自体が和議条件の認可によって免除や猶予などの変更を受ければ、相殺権の範囲も変更され 7一一帯別清算と相殺 たとみざるをえない﹂から、消極説が妥当であり、﹁実質的にみても、和議認可までに相殺権の行使が可能であったに もかかわらずその行使をしなかった以上、相殺権の範囲が変更されてもやむをえない﹂とする。霜島甲一・倒産法体 系二六八頁以下・四九四百九は、清算型の倒産処理である破産・特別清算の場合には、債権債務の関係を将来に残さず、 できるだけ精算する必要があり、相殺の制限はないが、再建型倒産である和議法上の和議については、﹁和議債権者が、第10巻3・4号 一-8 和議条件による期限の猶予を受け入れ和議認可決定の確定によって再建に着手したのちに、相殺権を行使するのは許 されない﹂と説く。 なお、実務からの消極説として、和議法上の和議につき、麻上ほか編・注解和議法四一二百九以下[吉永順作]は、 和議の法的性質を契約と把えるならば、﹁和議条件で全ての和議債権の一部を免除した以上、全和議債権者相互間にお いても、免除された和議債権は存在しないものとして取り扱うべきであり、 一人の和議債権者の抜け駆け的相殺権の 行使は、他の和議債権者の利益を侵害して和議の履行を不可能にする可能性があり、到底許されない﹂というべく、 もし、﹁和議開始前の和議債権者の和議成立後における旧債権全額による相殺を承認するとすれば、和議開始後に取得 した和議債権に基づく和議成立によって相殺権の制限の解除された後における旧債権全額(一部免除された部分も自 然債務として残っている)による相殺権の行使を否定する理由は、何も出てこないのではあるまいか﹂と積極説を批 判する。また、特別清算につき、 山口和男・特別清算の理論と裁判実務三一二頁は、﹁会社との間で相殺をすることの できる債権も協定の対象になると考える以上、協定がいったん成立したときは、 その協定の内容として相殺権の放棄 がされているものとみなし、相殺はもはや許されないと解すべきではなかろうか。そのように解しないと、協定の実 行が極めて困難になるおそれがある﹂とし、積極説のように相殺権を別除権に準じて考えるのであれば、別除権と同 様 に 、 そもそもこれを協定の対象外の債権とし、債権者集会における議決権も認めないとするのでなければ一貫しな ぃ、と批判している。 4 立法例としては、積極説の論者によってしばしば援用される現行ドイツ和議法(一九三五年)五四条が注目さ れ る 。 そこでは、和議債権者が和議開始後も依然として相殺ができると規定し、相殺の緩和および制限に関するドイツ破
産法五四条・五五条(日本の破産法九九条・一
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二 条 ・ 一O
四条に相当)を準用しつつ、﹁相殺が許される限り、 そ の 相殺をする権能は、和議の効力によって影響を受けない﹂旨の明文を設けている。これを受けて、 一九九九年に施行 されるドイツ新倒産法(一九九四年)九四条も、﹁倒産債権者が倒産手続の開始当時に法律によりまたは合意に基づき 相殺する権利を有するときは、この権利は倒産手続によって影響を受けない﹂と定める。 現行ドイツ和議法五四条の趣旨は、和議法上の和議の認可決定が確定した場合の法的状態を、破産法上の強制和議 の認可決定が確定した場合の法的状態に相応させるにある。その解釈として、相殺禁止の規定にふれない限り、和議 債権者は、和議認可後でも、和議による猶予や免除の効力にかかわらず、本来の債権全額をもって相殺する権利を保 有し、例外は和議債務者の反対債権が和議認可後に成立した場合だけである。相殺の意思表示は、和議の履行手続が 行われる場合またはその継続中でもでき、和議債権者は、和議の履行による分割弁済により自己の債権が反対債権の ( 4 ) 額まで減少するに至るまで相殺の意思表示を待つこともできると解されている。 しかし、現行ドイツ和議法は、わが国の和議法(大正一一年法律七二号)より一O
年余後れて制定されたものであ ( 5 ) って、わが国の和議法にとっての直接の母法ではない。このような明文の規定をおいていないわが国の和議法による 和議その他の倒産手続における解釈への受けとめ方は別に考える必要がある。とくに、会社整理および特別清算の手 9-ーキ寺別清算と相殺 続では、和議法上の和議と異なり相殺に関する規定(商四O
三条・四五八条)をおいているが、 ドイツ和議法五四条 におけるとは異なり、破産法上の相殺禁止の規定(破一O
四条)を準用するのみで、相殺権の拡張についての規定(破一
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二 条 ) は準用されない。また、 わが国では、会社更生法一六二条が、更生債権者または更生担保権者の相殺権の 行使につき、債権および債務の双方が更生債権および更生担保権の届出期間の満了前に相殺適状となったことを要件 ﹀ } 1 レ 、 その届出期間内に限り、更生手続によらないで相殺ができるものと定めており、各種の倒産手続における相殺第10巻3・4号 一 一10 権を異別に取り扱うための解釈論的支柱がすでに与えられている点で、ドイツ法とは異なる。 ( 2 ) 特別清算につき、上柳ほか編・新版注釈会社法田四八六頁以下[竹下守夫]、東京地裁商事部研究会報告﹁特別清算同﹂判例 時報一三 O 八号六頁、青山ほか編・会社更生・会社整理・特別清算の実務と理論四八七頁[太田武聖]、破産法上の強制和議お よび和議法上の和議につき、斎藤ほか編・演習破産法一四九頁以下[渡辺僅之︺、宮脇ほか編・破産・和議法の基礎三五一頁以 下[野村秀敏]、石川ほか編・破産・和議の実務と理論四 O 七 頁 以 下 [ 飯 塚 重 男 ] な ど 。 ( 3 ) 破産法上の強制和議およぴ和議法上の和議につき、とくに、菊井維大・判例民事手続法五一一頁以下、山木戸克己・破産法 二 七 六 頁 ・ 二 七 八 頁 以 下 ) 。 ( 4 ) ︿ 也 ・ 巴 巾 可 ¥ 富 。 Z ・
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・ ロ 吋 ・ ( 5 ) 日本の現行和議法は、当時最新の立法として注目された一九一四年のオ 1 ス ト リ l 和議法を範としてできたものであるとい ぅ。その間の事情については、加藤正治・破産法研究五巻四九一頁以下参照。ドイツ和議法の沿革については、現代外国法典 叢書田独逸民事訴訟法 W ・ 和 議 法 一 頁 以 下 が 詳 し い 。私
見 私見は、結論として消極説に賛成である。 特別清算会社に対して債権を有する債権者が同時に特別清算会社に対して債務を負担している場合、その債権者は、 特別清算において成立した協定の認可決定の確定により債権の減額・猶予等の効力を受けるから、その後は本来の債 権額により直ちに相殺することはできない。その理由を、以下に述べる。1
各種の倒産手続において相殺権の取扱が統一的でなければならないとする理由はない。それぞれの性質を異に する異別の倒産手続において相殺の担保的機能が異なりうるのは、 むしろ当然である。特別清算も、商法の規定による会社の清算の一種であり、法は、通常清算から特別清算への移行を予定しており(商 四三一条一項)、商法上の通常清算に関する規定(商四一七条
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四 三O
条)が、清算の﹁総則﹂として、特別清算にも 適用される。ただ、通常清算は、裁判外の手続であり、これに対する裁判所の監督(非訟二二六条ノ二・二二五条ノ 二五)も後見的なものにすぎないのに対し、特別清算は、狭義の裁判所に係属し、厳しい監督のもとに行われる裁判 上の手続である点が異る。しかし、特別清算と破産との径庭は、より大きく、 かっ、本質的である。 もともと、特別清算は、破産が多大の費用と日時を費やして乏しい成果にしか至りえないことにかんがみ、清算会 社に破産原因を存する疑いがあるような場合においても、破産を避け、和議的な清算手続を進めるために認められた ものである。破産手続では、破産宣告と同時に裁判所が破産管財人を選任し、破産財団の管理処分権は破産管財人に 専属し、否認権の行使もその職務であり、調査・確定の手続を経た破産債権に平等の配当が行われる。この破産手続 に比べて、特別清算は、簡易かつ能率的な清算手続であり、会社の解散によりすでに始まっている通常清算の機関と 手続をそのまま引き継いで行うだけでなく、手続の進行も関係人の自治に委ねられている点が多い。特別清算では、 債権の調査・確定や否認の手続や訴訟もなく、個別的な債務処理に努め、資産の換価の完了をまたずに協定案を作成 して債権者集会の可決にもちこむことができ、最終的には債権者集会における多数決の議決を経た債権者と清算会社 11-特別清算と相殺 との互譲による﹁協定﹂によって清算手続を行うのであり、破産のように清算が強制的に行われるわけではない。学 者が特別清算を、あるいは﹁和議法に依る破産予防の為にする強制和議をも更に予防するいわば強制和議予防の強制 和議﹂(小野木常・和議制度の研究二六三頁)とし、あるいは﹁手続的にみれば、通常清算と特別清算の中間的なもの﹂ (新版注釈会社法問三八O
頁[青山善充])とするゆえんである。 各種の倒産手続のうち、破産法上の破産終結のための強制和議のように、破産法上の関係人の法的地位を前提とし第10巻 3・4号一一 12 て行われる手続において、相殺権を破産法二九三条の﹁一般ノ優先権﹂に含まれるものとし、強制和議認可決定後も その和議条件と無関係に債権額全額につき相殺を認める見解(前記大阪地裁昭和四七年一
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月 三O
日判決参照)には、 理由がある。しかし、破産とは性質を異にし関係人の法的地位を異にする和議法上の和議や株式会社の整理・特別清 算において同じ見解を採らねばならぬ理由はなく、 むしろ、和議法上の和議について前記大審院昭和一O
年一月一六 日判決が示したように、また、会社更生法一六二条が明文をもって一不すように、 それぞれの手続の特質に即して相殺 権の取扱を決しなければならない。特別清算において協定認可決定の確定後にその効力にかかわりなく相殺ができる かどうかは、性質を異にする破産における相殺権者の地位から推及するのではなく、特別清算に即して解答を見出す べ き で あ る 。 2 積極説の多くは、相殺権と別除権とを並列し、相殺権が別除権よりもさらに優遇されなければならないことを 理由とするが、この立論は、 はなはだ理解に苦しまざるをえない。 別除権と相殺権は いずれも、当該債権者にとって倒産手続における債権者平等の強制を免れさせる点では同一で あ る が 、 その根拠においては異別であり、特別清算における協定の効力について両者を同一に扱いあるいは相殺権を 別除権よりも優遇しなければならない理由はない。 別除権とされるのは、対象財産の担保価値を物権的に把握している権利であり、 それゆえに一般の債権者平等の原 則の例外として別除的満足を許容されるのである。相殺権は、担保権ではない。相殺は、 いわゆる﹁担保的機能﹂を 有する債務消滅原因にすぎない。そして、その相殺の﹁担保的機能﹂といわれるものは、債権者・債務者聞の公平を ( 6 ) 理由とする。同額の債務を相互に負担し合っていながら、相手方の資産状態が悪化した場合に、相殺を認めないとす れば、相手方からは十分の弁済を受けえないにもかかわらず、満額の弁済を強いられることになって、著しく当事者聞の公平に反するため、相殺による回収を図ることが容認されるのである。これも、債権者平等の原則に対する例外 ということはできようが、 その例外を認める根拠において別除権とは異なるのであり、当事者聞の公平を超える倒産 手続債権者相互間の衡平の確保のために必要な場合については、特別の相殺禁止が定められているのである(破一
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四条、商四O
一 一 一 粂 ・ 四 五 六 条 、 会 更 一 六 三 条 ) 。 したがって、和議法上の和議や株式会社の特別清算において別除権者を一般の手続債権者と区別して取り扱うこと につき明文の規定(和四一二条、商四三九条四項・四四九条)をおいているのに対し、相殺権者に関しなんら格別の規 定をおいていないのは、相殺権者については、手続参加につき特別の取扱いを認めない趣旨と解すべきであろう。 とくに、和議認可決定あるいは特別清算の協定認可決定の確定後にその効力にかかわりなく相殺ができるかどうか は、直接には債権者全員と相殺権者との聞の問題であって、もはや債権者・債務者聞の公平だけの問題ではないので ふ の ヲ Q 。 3 問題の解決に決定的な意味をもつのは、 したがって、専ら、特別清算における協定の法的性質および効力の解 明でなければならない。 特別清算も清算にほかならないが、特別清算における協定の手続は、倒産法上、 一 一 様 の 強 制 和 議 に 属 す る 。 13一一特別清算と相殺 強制和議の代表とされる破産法上の強制和議および和議法上の和議の法的性質については、周知のとおり、古くか (契約説・裁判説・折衷説) があり、未だに帰一するところを知らない。特別清算における協定の法的 ら芋説の対立 性質にいたっては、 それが商法のなかに規定され、実務での利用も最近までは極めて稀であったという事情もあって、 十分に議論されてこなかった。 学説として特別清算における協定の本質に立ち入って精細に論じたものは、 ほとんどなく、特別清算の制度が (2)第10巻 3・4号一一 14 創設されてから聞もない時期に発表された小野木常﹁和議制度の研究﹂(有斐閣・昭和二ハ年) の所論をみるだけであ る ( 7 ) 小野木博士によれば、協定は、他の強制和議と等しく裁判上の形成行為であり、次のように説かれる。すなわち、 協定は、特別清算人による協定の申出、債権者集会における協定の可決、裁判所の協定認可決定、 の つ 一 段 階 を 経 る が 、 同じく商法の規定する株式会社の整理が全債権者の同意によって成立し効力を生ずる同意和議にほかならないのに対 して、特別清算における協定は、法定多数の債権者の同意のほか、 さらに裁判所の認可によって成立し効力を生ずる のであり、協定の成立に関与しない債権者およびこれに反対する債権者のような少数債権者も協定に拘束される 高 法四五
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条三一項、破産法三三一条・三三六条一項)。裁判外の和議が債務者および債権者全員の意思表示の合致によっ て成立するのに対して、協定は、他の強制和議と同じく、 理念上は意思表示の合致によって成立すべきものを、債務 者・債権者および一般経済上において営むその機能上 いわゆる少数債権者を拘束して成立を可能にするため、債権 者の一般の利益に合致することの徴表の認められる場合に、厳格な手続法の規定に従う特別清算手続を通じて成立さ せ、少数債権者の意思はこれによって補充されるのである。協定の効力に対する法律要件は、債務者および債権者の 意思の合致と同一の機能を営む債権者集会の可決と裁判所の認可との結合から成る、 認可された協定自体にほかなら ない。したがって、協定の認可決定の確定によって会社債権者の全員のためにかつ全員に対して生ずる協定の効力は、 ﹁その性質上既判力及ぴ形成力を意味するものと解すべきである﹂、 というのである。 もし、協定の法的性質につき、裁判説を採り、 とくに小野木説のように協定の効力を確定した認可決定の既判力・ 形成力とみるならは、 その効力がすべての債権者に及ぶ以上、 それらの債権者の権利は実体的に変更・形成され、 そ の形成要件の存在も既判力をもって確定されることになる。したがって、 その後に一部の債権者が、協定による債権の減額や猶予にかかわらず一冗の債権額で相殺することができないのは、当然の結論である。 (3) 特別清算における協定を裁判ないしその混成行為とみるのは、多分に無理がある。前述のように、特別清算が 簡易かつ能率的な清算手続であり、 多く関係人の自治に委ねられているという基本的な性格に反するといわなければ ならない。現在の文献の多くは、協定の法的性質につき、契約説をとっている。 代表的な学説として、竹下守夫教授は、次のように説く(新版・注釈会社法田四六一頁以下・有斐閣・平成二年)。 すなわち、協定は、特別清算手続に参加した債権者と会社との間でなされる、(原則的には)清算を目的とする﹁集団 的和解契約﹂である。協定との関係で裁判所に認められている権限は、清算人が各債権者の権利を不当に害すること な く 、 かつ手続参加者全員の意思の合致を得られる協定案を作成するよう、これを監督・援助すること、 可 お よ び 、 決された協定が真一に各債権者の利益を不当に害することがないかを事後審査することに限られる。協定が効力を生ず るために裁判所の許可が必要であるといっても、法的効果の発生の根拠は、当事者たる会社と債権者との合意にある と 見 る べ く 、 その意味で協定は一種の和解契約である。成立形式の上では、各当事者の意思表示は債権者集会でなさ れねばならず、債権者の意思表示は、集会における決議として集団的になされ、法定多数の同意があれば、決議に反 対した者も、多数決原理により法律上は同意したものとみなされるという意味で、協定は集団的和解である、 と 15一一特別清算と相殺 間然するところのない所説であり、 正 当 と 解 さ れ る 。 特別清算における協定の効力は、 その性質上協定の対象となりうるすべての債権の債権者に及ぶ ( 商 四 五
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条 4 三項、破三二六条一項)。この効力は、各個の債権者が債権の申出をしたかどうか、債権者集会に出席したかどうか、 決議に賛成したかどうか等をとわない。 (1) 認可決定の確定による協定の発効(商四五O
条三項、破三一二条)により、実体法上の効力として、協定の内第10巻3・4号一一 16 容どおりの和解契約が、協定成立の時に、協定の効力を受ける個々の債権者と特別清算会社および協定のための保証 人等との聞に締結されたのと同一の法律効果が生ずる。協定によって債権はその目的である給付の内容・金額・弁済 たとえば、減額・猶予を内容とする協定であれば、 その認可決定の確定とともに、協定どおり 期などに変更を受け、 に債権額が減額され、あるいは弁済期が猶予されたという実体的効果が生ずることになる。 したがって、特別清算会社に対して債務を負担する者が同時に会社に対して債権を有し、両債権が協定成立前に相 殺適状にあった場合でも、認可決定の発効により協定が効力を生じて当該債権につき減額・猶予等の実体的効果がす でに生じた後においては、相殺は、 それが許されるといっても、 その減額されあるいは猶予された債権をもってなさ れるのであり、相殺適状が成立した当時あるいは協定発効前の対当額で相殺の効果が生ずることはありえない。ドイ ツ和議法五四条のような明文の特則が設けられておれば、 それに従うのは当然であるが、 わが法の特別清算につき同 様の規定はなく、また、前述のような特別清算の性質に徴して、 そのような規定が設けられなかったことは異とする に 足 ら な い 。 (2) 実務上、相殺権を有する債権者は、協定の成立前に相殺を了しているのが普通であるという。 一般の債権管理 としては、当然であろう。それだけに、相殺権の行使がなされていない状況を前提として協定がすでに多数債権者の 同意により成立し、裁判所の認可決定が確定して協定の実行に入った後に至って相殺がなされ、 その結果、あるいは 協定条件の変更のためにふたたび協定の申出・可決・認可の手続をとることが必要となったり(商四五一条てあるい は協定の実行の見込みがなくなって裁判所の職権による破産宣告がなされる (商四五五条後段)という事態に陥るこ とを容認すべきではないと考える。もし、相殺権を有する債権者が相殺権の存在を知りながらあえて相殺をせずに、 債権全額について債権の届出をし、議決権を行使した場合には、相殺権を放棄したものとみる余地もあるといわなけ
( 8 ) ればならない。 ( 6 ) 林良平﹁担保の機能と効力﹂担保法大系 5 巻五三二頁以下、奥田昌道・債権総論[増補版]五七 O 頁 な ど 参 照 。 ( 7 ) 小野木常・和議制度の研究一六五頁 l 二六四頁、とくに二五九頁以下、小野木常日中野貞一郎・新版強制執行法・破産法議 義一八四頁以下・二三七頁以下。 ( 8 ) 同旨、麻上ほか編・注解和議法四二二頁[吉永順作]、山口・特別清算の理論と裁判実務三二一頁など。 17一一特別清算と相殺