地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果についての一考察 : AASLの21世紀を生きる学習者のための活動基準を活用して
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. . 地域を題材とした美術科の授業が 生徒のエンパワーメントに及ぼす効果についての一考察 ― AASLの21世紀を生きる学習者のための活動基準を活用して ―. 冨尾 拓・橋本 忠和* 北海道教育大学附属函館中学校 *. 北海道教育大学函館校橋本研究室. Research on the Effect of Community Empowerment of Art-education by Utilizing Local Regional Subjects in a Junior High School ― Using “STANDARDS FOR THE 21st-CENTURY LEARNER IN ACTION” in AASL ―. TOMIO Taku and HASHIMOTO Tadakazu* Hakodate junior high school Hokkaido University of Education *Department of Art Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 2021年度完全実施の新学習指導要領に向けての改訂の趣旨の中に,「生活を美しく豊かにす る造形や美術の働き,美術文化にいついての理解を深める学習の充実を図る。」1)ことが示され 2) ことが重視されることが読 ており,これまで以上に「地域の材料や題材などを取り上げる」. み取れる。ただ,地域題材を活用した美術科授業が21世紀を生きる学習者として生徒のどのよ うな資質・能力を育成しているのかを読み解く基準がなければ,その授業は地域文化等の鑑賞 と,表現技法で追体験に終始してしまい,授業を改善する評価が曖昧になってしまう怖れがあ る。そこで,本研究においては,北海道教育大学附属函館中学校美術科において平成26年度に 中学1年生を対象に実践した「楽しく伝える~愛情たっぷり函館弁当~」を研究対象に,アメ リカ・スクール・ライブラリアン協会(AASL)が示す,学習者としてのエンパワーメントを 読み解く活動基準を活用して,地域題材授業が中学生のエンパワーメントに及ぼす効果の分析 を試みた。すると対象授業は,中学生の地域への所属感を意識させるとともに,その「市民意 識」を高める可能性を見出すことができた。. 547.
(3) 冨尾 拓・橋本 忠和. カリキュラム・マネジメントの指針として「これ. 1 はじめに. からの社会を創り出していく子供たちが,社会や. 社会の動向が大きく変化するなか,情報の拡張. 世界に向き合い関わり合い,自らの人生を切り拓. やデジタル化が急激し進み,それらを扱うツール. いていく」ために示されている「社会に開かれた. の多様化が目まぐるしい進歩を遂げている現状で. 教育課程」7)と通じる。教育と社会において,よ. ある。. りよい教育を通じてよりよい社会をつくる目標を. そのような中,新しい学習指導要領が告示さ. 共有し,社会と連携・協働しながら,未来のつく. れ,21世紀型能力の習得の育成をねらいとする教. り手となる学習者に必要な資質・能力を育むこと. 育の方向性が示された。そこでの21世紀における. を求めている点においてAASLと共通するものが. 学習者の学びの姿を推察すると,中央教育審議会. あると考えられる。. 答申は,学習者に身につけさせる「資質・能力」. 続いて,AASLと美術との接点を整理すると,. は次の「3つの柱」に基づいて整理できるとして. これまで美術科は「生活の中の造形や美術の働き,. いる。. 美術文化に関心を持って,生涯にわたり主体的に. ① 「何を理解しているか,何ができるか(生. 8) を重視しており,それを 関わっていくこと等」. きて働く「知識・技能」の習得)」 ② 「理解していること・できることをどう使. 発展させるように次期学習指導要領においても社 会と関わりをもつカリキュラムで下記のような資. うか(未知の状況にも対応できる「思考力・. 質・能力を育むとしている。. 判断力・表現力等」の育成). ・生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関. ③ 「どのように社会・世界と関わり,よりよ い人生を送るか(学びを人生や社会に生かそ うとする「学びに向かう力・人間性等」に涵 3). わる資質・能力とは,造形的な視点を豊かに もつこと。 ・生活や社会の中の形や色彩などの造形的な要 素に着目する。. 養) 」. このうち3点目の柱を概観してみると課題に対. ・造形的な要素よるコミュニケーションを通し. しての個人による判断の基準が求められ,創造的. て,一人一人の生徒が自分とのかかわりの中. な思考やコミュニケーションを重視した協働的な. で美術や美術文化を捉え,生活や社会と豊か. 学習形態を取り入れた問題解決への姿勢が期待さ. 9) に関わることができる。. れていることが読み取れる。. この社会との接点を重視する美術科における考. この姿勢は, 「急速に進展する国際社会で成功. え方は, 「社会に開かれた教育」の視点と重なり,. するために, 学習者たちは,高いレベルのスキル,. 10) AASLの示す「学びは社会的文脈の中で行われる」. 4) と 心構え,責任を身につけなければならない」. と通じるものであると考えられる。. いう視点のもと活動基準作成を試みるアメリカ. ただ,審議のまとめでは,美術科における以下. ン・スクール・ライブラリアン協会(以下AASL. の課題点を指摘している。. とする)の主張と通じるものがある。. 「感性や想像力等を豊かに働かせて,思考・判断. すなわち,AASLは21世紀におけるすべての学. し,表現したり鑑賞したりするなどの資質・能. 習者は,多様な視点にたって質の高い情報にアク. 力を相互に関連させながら育成することや,生. セスし,その意味を理解しながら独自の結論や新. 活を美しく豊かにする造形や美術の働き,美術. しい知識を生み出し,その知識を他者と分かち合. 文化についての実感的な理解を深め,生活や社. 5). 「学びは社会的文脈 うこと の必要性を主張し, 6). の中で行われる」 ことを重視している。これは 「社会とのつながり」を生徒の学びの中に生かす. 548. 会と豊かに関わる態度を育成すること等につい 11) ては,更なる充実が求められる」. この文面にあるように,AASLの示す「学びは.
(4) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. 社会的文脈の中で行われる」という視点を美術教. 実践での成果を見出す研究を展開するのである. 育において具現化するには,生活や社会とどのよ. が,AASLの活動基準が上記に示したように多種. うに連携を図り,そこで,どのような資質能力が. の項目・内容で構成されているので,本論文にお. 相互に関連させながら育んでいけばよいのかの道. いては研究の第一歩として,美術教育における造. 筋を示す必要があると思われる。. 形活動での学習者の創造的な思考に通じる活動基. そこで,本研究では北海道教育大学附属函館中. 準として「A 探求を行い,クリティカルに考えて,. 学校美術科で中学1年生を対象に実践した「楽し. 知識を獲得する」にまず着目した。また,各基準. く伝える~愛情たっぷり函館弁当~」を研究対象. における構成要素についても地域連携における題. に,その学習者を育む視点において美術科との接. 材を設定することから,中学生への将来の市民と. 点が見出せたAASLが示す「学習者としてのエン. しての自覚の育成にあたる「③ 責任」に焦点を. パワーメントを読み解く活動基準」を活用して,. 当て,実践の成果が学習者である中学生のエンパ. 地域題材授業が中学生のエンパワーメントに及ぼ. ワーメントをどう引き出したかを,各項目の内容. す効果の分析を試みることとした。. に沿って見出すこととした。. このAASLの活動基準は以下の4つの基準から 構成されている。 A 探求を行い,クリティカルに考えて,知識 を獲得する。 B 結論を導き出し,十分な情報にもとづいて 意思決定を行い,知識を新しい状況に適用し て,新しい知識を生み出す。 C 知識を分かち合い,倫理的かつ生産的に民 主主義社会に参加する。 12) D 人格と美意識を育む。. そして各活動基準の内容を構成する要素として 下記の4つの活動基準の項目が示されている。 (図 1) ① スキル(主題を理解し,学び,考え,習熟. 図1 21世紀の学習者のための活動の構成要素14). するために必要な基礎的能力) ② 行動に結びつく資質(思考や知的行動を左. 1−1 エンパワーメントとは. 右する持続的な信念や態度のことで,実際の. 本来,エンパワーメントとは,17世紀に,法律. 活動によって評価できる). 用語として「公的な権威や法律的な権限を与える. ③ 責任(研究や調査,問題解決などを行うと. こと」という意味で使用されたのが最初といわれ. きに自立的な学習者がとる共通の行動). ている。その後,第2次世界大戦後,アメリカで. ④ 自己評価の方策(自らの学びを振り返って,. 多くの社会変革活動を契機として広く使用される. 13) スキル,資質,責任の有効性を判断する). ようになり,公民権運動やフェミニズム運動,カ. 加えて,各基準において学年ごとのベンチマー. ウンセリング等へと広まり,社会的に差別や搾取. クが多岐にわたり細かく設定されている。本研究. を受けたりする人々が自らコントロールしていく. では,これらの活動基準を基に,美術科における. 15) 力を取り戻すプロセスを意味するようになった。. 地域を題材とした単元が中学生のエンパワーメン. ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典による. トをいかに引き出すのかという視点に立ち,授業. と,「エンパワーメントとは,社会,組織の構成. 549.
(5) 冨尾 拓・橋本 忠和. 員ひとりひとりが,発展や改革に必要な力をつけ 16). るようになる」というエンパワーメントの視点は,. る(エンパワーメント)という意味の言葉」 と. 主体的な学びと通じ,「きずなを育むこと」は対. 解説されている。. 話的な学びへと通じていくと思われる。. この中での「発展や改革に必要な力」としての. 今後,美術教育においても生徒に学習活動で,. 個人のエンパワーメントの定義として巴山玉蓮・. 主体的・対話的で深い学び=アクティブラーニン. 星旦がその論文の中で紹介している清水準一の記. グの視点で授業改善を具現化する際にも,生徒の. 述が参考になる。. エンパワーメントとの接点を留意することが必要. 「一個人が個々の生活に対し意思決定をし,統御. になると思われる。. できるようになる,またはできていると感じら 1−3 美術科で生徒のエンパワーメントを抽. れるようになること」17) 本研究では,この清水の個人レベルでとらえた. 出・分析する必要性とは. 定義を「生徒一人一人が個々の生活に対し意思決. 次期学習指導要領の美術科で示されている目標. 定をし,統御できるようになる,またはできてい. では表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,造形的. ると感じられるようになること」として本論文の. な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の美術. エンパワーメントの定義として活用する。. や美術文化と豊かに関わる資質・能力を以下の目 標を設定することで育成しようとしている。. 1−2 学習者のエンパワーメントが重視される 背景. ① 対象や事象を捉える造形的な視点について 理解するとともに,表現方法を創意工夫し,. 21世紀に求められる学習者の資質・能力の育成. 創造的に表すことができるようにする。. が期待されている背景に,次期学習指導要領 総. ② 造形的なよさや美しさ,表現の意図と工夫,. 則によると, 「主体的・対話的で深い学びの実現 18). 美術の働きなどについて考え,主題を生み出. に向けた授業改善」 が求められている。. し豊かに発想し構想を練ったり,美術や美術. その中の主体的な学びとは, 「身に付けた知識. 文化に対する見方や感じ方を深めたりするこ. 及び技能を活用したり,思考力,判断力,表現力. とができるようにする。. 19). 等や学びに向かう力」 とされている。これは本. ③ 美術の創造活動の喜びを味わい,美術を愛. 研究で示した「生徒一人一人が個々の生活に対し. 好する心情を育み,感性を豊かにし,心豊か. 意思決定をし,統御できるようになる,またはで. な生活を創造していく態度を養い,豊かな情. きていると感じられるようになること」と先のエ. 22) 操を培う。. ンパワーメントの定義と重なるところがある。. 以上の記述を受け,美術科では調和のとれた人. 加えて,対話的な学びにおいても「多様な他者. 間形成のために美術教育が果たす役割を強調し,. と協働することの重要性などを実感しながら理解. 美的情操の教育が道徳の基盤であり,感覚の陶冶. することができるよう,各教科等の特質に応じた. がさまざまな分野での創造への基盤であることな. 20). 体験活動を重視し,家庭や地域社会と連携」 す. ど,その意義を見出してきた。. ると整理されている。これはコミュニケーショ. というのも,次期学習指導要領総則の中学校教. ン・エンパワーメントの研究をしている安梅勅江. 育の基本と教育課程の役割の中に,「個性を生か. がエンパワーメントを「元気にすること,力を引. し多様な人々との協働を促す教育の充実に努める. き出すこと,きずなを育むこと,そして共感に基. 23) という表記があるように,21世紀を生き こと。」. 21) であるとし づいた人間同士のネットワーク化」. 抜く子どもたちにとって,次に起こる問題に柔軟. て「共創」を重視している視点と重なる。. に対応するための知識や技能を,他者と協力しな. したがって学習者の「意思決定をし,統御でき. がら創造し,共に学び続ける態度の育成において,. 550.
(6) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. 美術科が果たす役割は大きいと考えられるからで. 確に判断する」,「適切に表現する」力の育成に取. ある。. り組み,21世紀に求められる学力が目指す資質・. 加えて,次期学習指導要領解説 美術科編には,. 能力の育成に寄与する新しい美術科授業モデルの. 地域の材料や題材などを取り上げる項目におい. 追究をしてきた。その中で,学習活動の要素とし. て,材料の取り上げ方については,小学校での材. て「スキル」のプロセスにおける基本的な表現や. 料体験を基にし,中学校では発展的に取りあげる. 探求に関する技量が大切になっていることが見い. ようにされている。加えて未体験の材料などに挑. だしてきた。. 戦することも, 「表現の可能性を広げたり,生徒. その成果の上に立って,これまでの生徒の作品. の意欲を喚起したりするために必要である」と示. や自己評価の記載を手がかりに,AASLの示す基. 24). されている。. 準にあてはめ,検証・分析を行うことで,評価の. こうした未体験の題材に触れ挑むことは,生徒. 信頼性を上げ,題材や指導等の改善点を明らかに. のエンパワーメントを刺激し,高める契機となる. し,それを次の学びへ移行・活用できるものと考. ものと思われる。. える。. そこで,美術科として展開する地域題材を扱っ. そこで,本研究においては,北海道教育大学附. た教育課程の構築や生徒の内面の力(エンパワー. 属函館中学校美術科において平成26年度に中学1. メント)を引き出す「めざす姿」の実現に向け,. 年生を対象に実践した「楽しく伝える~愛情たっ. 美術科ならではの見方や考え方を踏まえた上で. ぷり函館弁当~」を研究対象に,アメリカ・スクー. 「学習者のための活動基準を利用したエンパワー. ル・ライブラリアン協会(AASL)が示す,学習. メント」の抽出・分析することは,固有の知識,. 者としてのエンパワーメントを読み解く活動基準. 個別スキルなどの要素を洗い出し,そのひとつひ. のうち基準1「探求を行いクリティカルに考えて. とつが生徒のエンパワーメントにどのような影響. 知識を獲得する」の中の「責任」の構成要素のベ. を与え,生徒が自分自身の力で問題や課題を解決. ンチマークを活用して,地域題材授業が中学生の. していくことに導く手立てを探ることに繋がると. エンパワーメントに及ぼす効果の分析・考察を試. 思われる。したがって,本研究では,こうした一. みている。. 定の基準に基づいた抽出と分析によって,生徒が 社会的技術や能力を獲得するプロセスの検証を試 みたいと考えている。 そうすることで身近な地域を題材にした美術科. 2 AASLの21世紀を生きる学習者のための 活動基準とは. の授業は,中学生の社会や地域への所属感を意識. AASLが提唱する,21世紀を生きる学習者のた. させ,将来を担う世代としての社会的「責任」を. めの活動基準とは,学びのプロセスに焦点を合わ. 効果的に高めることができるのかを検証すること. せることによって,子どもたちの学びの基準を,. を期待できるからである。. ・基本的なスキル(skills). なお,AASLが提唱する「21世紀を生きる学習. ・資質(dispositions). 者のための活動基準」には,探求を行い,クリティ. ・責任(responsibilities). カルに考えて,知識を獲得する基準が示されてい. ・自己評価の方策(self-assessment strategies). る。. 25) の4つの基準(standards)や指標(indicators). 一方,これまで美術科では,生徒自身の主体的. さらにはその根底にある9つの共通の信条とし. な問題解決能力に焦点をおき,その探求過程の中. て示されたものである。. で,これまで培った知識や技能を「使える」もの. この学びの各基準には生涯学習の基盤になるよ. に変換する資質・能力として「深く思考する」, 「的. うな構成要素として「スキル,資質,責任,自己. 551.
(7) 冨尾 拓・橋本 忠和. 評価の方策」が示されおり,加えて,基準におい. ① スキル. て学年ごとのベンチマークが多岐にわたり細かく. ② 行動に結びつく資質. 設定されている。これらの具体的な場面を想定し. ③ 責 任. た基準項目は,今日の学習者に高い価値をもたら. ④ 自己評価の方策. 26). すものとして設定されている 。. そして,3番目の階層には,各構成要素の下の 「指標」である。構成要素の能力を発揮するため. 2−1 21世紀を生きる学習者のための活動基準 設定の背景. にとる行動を記したもので,21世紀の学びのスキ ルを教えるプログラムの骨格として利用できる。. AASLが設定した,21世紀を生きる学習者のた めの活動基準は,すべての学習者が豊かな情報社 会で活躍するため,情報リテラシーの定義を広げ, デジタル,ビジュアル,テキスト,テクノロジー などにかかわる多様なリテラシーを取り入れた学 びの基準として構築されたものである。さらに, 設定の背景には,自発的な行動に結びつくスキル が重要であるという認識が込められている27)。 こうした,情報リテラシーやテクノロジーの利 用, クリティカルな思考や倫理的な意思決定など, すべての基盤はスキルと子どもたちの主体的な行 動の実現であり,それらは多様な観点を求めるこ とから,情報を評価し,テクノロジーを適切に利 用し,情報リテラシーのスキルを応用し,様々な 表現形式を利用するまでを子どもたちが進んで行 うことができる力の育成することが期待されてい る28)。 2−2 活動基準の内容. 図2 基準の構造29). 「21世紀の学習者のための基準」と関連項目は 階層的に構成されている。最も上位の「基準」は. 最後の2つの階層は, 「ベンチマーク(水準点)」. 以下の4つである。(図2). と「具体的な活動例」という構造になっている。. ① 探求を行い,クリティカルに考えて,知識. 発達の段階に応じて具体的なスキルを示し,身に. を獲得する。 ② 結論を導き出し,十分な情報にもとづいて 意思決定を行い,知識を新しい状況に適用し. 付けさせている能力と姿が,連続されたつながり の中での子どもの変容する様子を示したものであ る。. て,新しい知識を生み出す。 ③ 知識を分かち合い,倫理的かつ生産的に民 主主義社会に参加する。. 3 分析対象の事例の概要・内容. ④ 人格と美意識を育む。. 本検証事例では,地域題材を活用した,主体的. 続いて2番目の階層には,各基準の4つの「構. ・ 対話的で深い学びを実現するために,協働的な. 成要素」として示されている。. 学習を設定し,仲間とのイメージの共有がされや. 552.
(8) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. すい共同制作の授業形態を取り入れている。. 度3月)を目前に控え,私たちの街【函館】に. これは美術科において見方・考え方を働かせな. 着目し,画商品(駅弁)を開発する取組を行う. がらも,話し合い活動の中で問題解決や論理的思. ものである。地域素材を使った内容構成や観光. 考といった教科等を横断する汎用的な資質・能力. 地函館をPRするパッケージデザインなど,生. を高めるために,より身近で現実性のある地域素. 徒自身による課題発見を促し,分析させながら,. 材を取り入れた課題設定を提示し,生徒の内発的. イメージを形にするプロセスを共同制作で追究. 動機を高め,他の分野への視点の拡がりを期待し. していく。. ているからである。さらに,教師の示す課題をグ. ⑤ 題材の指導目標. ループ内で協力し,課題発見能力や問題解決能力. a 自らの考えや思いを表現していくステップ. を協働的な学びの中で習得させることをねらいと. から美の秩序や構成の基本・表現方法を理解. している。加えて,生徒の論理的思考力や批判的. し,主体的に取り組みながら,興味や関心を. 思考力の高まりも期待している。. さらに深めている。 . 3−1 対象の事例の概要. . 【美術への関心・意欲・態度】. b 発想を大切にしてふくらませ,形や色のも. 本事例は,地域題材を活用した,主体的・対話. つ色彩を効果的に使って自分たちの主題が美. 的で深い学びの実現に向けた協働的な学習活動を. しく表現できるように構想を練っている。. 意識した問題解決型の共同制作の事例である。そ. . の概要は以下の通りである。. c 計画的・段階的に表現し,形や色彩表現な. ① 題名: 『楽しく伝える』愛情たっぷり函館弁 当. 【発想・構想の能力】 どの表現方法を工夫し効果的に制作してい る。. 【創造的な技能】. d 自他のイメージや構想を互いに批評し合う ことにより,互いの良さや個性を理解し合っ ている。. 【鑑賞の能力】. ⑥ 焦点化した資質・能力 本題材では学習課題に対してこれまで身につけ た知識・技能を過去の記憶の再生にだけに頼るの ではなく,認知の変化を意識した解決を目指すも のである。共同制作という学習形態を利用し,認 知プロセスによる分析・評価・創造といった過程 から,思考力の育成を目指している。そして「思 考力を育むための主な認知プロセス」については, ブルームのタキソノミーを参考に,他者へのプレ ゼンテーションを通じて,「分析」のための思考 として「整理・原因解明」を自分なりに行い,問 図3 プレゼンで用いたパネル(生徒制作). 題解決のための「評価」を体感させ,他者と共有 させることで基礎的な能力の定着と創造的な思考. ② 実施学年:1年生(男子19名 女子17名). 力の育成を図り,課題発見能力,問題解決能力等. ③ 実施時期:2016年10月実施. の汎用的な資質・能力へ転化させていくようにし. ④ 題材の設定のきっかけ. ている。. 本題材では,北海道新幹線の開業(平成27年. 553.
(9) 冨尾 拓・橋本 忠和. 3−2 活動内容のプロセス. 図4 プレゼンで用いた模型(生徒制作). 図5 商品提案プレゼンと評価の視点. 554.
(10) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. 4 学習者のエンパワーメントを引き出す手 立て. ①問題解決的な学習過程を組むこと ②題材のつながりを見通した指導構想を持つこと, ③必然性,目的意識を喚起すること. 身近な地域素材を活用した題材は,現実感を高. ④共有,吟味等の言語活動を従事させること. め,未体験の題材に触れることは,生徒のエンパ. ⑤親和的な学習環境をつくること. ワーメントを刺激し,高める契機となるものと思 4−1−2 手立て2「プロジェクト学習と演習」. われる。. の展開. したがって,美術科として展開する地域題材を 扱った教育課程の構築や生徒の内面の力を引き出. ①「出会う・広げる」プロセス. す「めざす姿」の実現に向け,美術科ならではの. これから学ぶことを確認し,これまでの学びと. 見方や考え方を踏まえた,題材設定を行った。. どうつながっているのかを明らかにしながら,問. さらに,単元を通じて学びを深める演習課題や. 題解決への見通しをもたせる。. 可視化を意識した思考ツールの取り入れ,さらに. ②「高める」プロセス. エンカウンター等の要素をと入れた共同制作での. 認知プロセスによる思考力の育成を意識し,比. 学習活動の展開を通して,学習者のエンパワーメ. 較する,関係付ける等「どのように」考えさせる. ントを引き出す手だとしている。. のかを明示し,問題解決的な学習を行う。協働的 な学習を取り入れ,言語活動の充実を図る。. 4−1 手立てとねらいとしたエンパワーメント. ③「深める」プロセス. 4−1−1 手立て1「プロジェクト学習と演習」. 特定の問題に限定するのではなく,発展的な問. 設定の背景. 題に転移させ,学んだことをどのように活用すれ. 学習指導要領の総則の第1章「教育課程編成の. ばよいか振り返り,メタ認知したりする場面を設. 一般方針」には,「基礎的・基本的な知識及び技能. 定する。. を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決. ④「創る・探る」プロセス. するために必要な思考力,判断力,表現力その他. 深く思考し,的確に判断する過程を経てたどり. の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り. 着いた仮説を,実際の製作を通して試行錯誤しな. 組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努め. がら基礎から積み上げていく学びと基礎に降りて. 30). なければならない」 と示されている。. いく学びで適切な表現を求める過程。. さらに,このような教育の充実のために,言語. ⑤「まとめる。伝える」プロセス. 活動の充実を図ることも求められている。. プレゼンテーションや発表を通して学びの振り. 加えて,総則の教育課程実施上の配慮事項の⑵. 返りと再確認を行うとともに,実生活において意. には, 「体験的な学習や基礎的・基本的な知識及び. 識して学んだことを用いて課題の解決に生かす段. 31). 技能を活用した問題解決的な学習を重視する。」. 階へ転化このように,授業モデルを意識した取組. ことが重視されている。. は問題解決へのてがかりとなり,個人の自己表現. 以上の指摘等から,美術科においては, 「活用」. や集団の表現においてもその深まりがみられ,生. を「問題解決的な学習において,既習の知識・技. 徒に段階的に思考の深まりを体感させながら課題. 能と関連させて思考し,主体的に問題を解決する. 解決に向けて,創造的な思考力を追究することが. 力」ととらえ教科の本質に迫る手がかりとしてい. できた。. る。 そこで本授業では,以下の項目を授業モデルの. 4−1−3 手立て3 「現実的・挑戦的な課題設定」. 構想の際に取り入れている。. 課題設定を現実的で挑戦的なテーマとして設定. 555.
(11) 冨尾 拓・橋本 忠和. することで生徒にとって魅力的なものとなり学習. け再チームとして結成した。各チームは1A①班. 意欲の向上につながった。課題は次のようなもの. と1B①班と1C①班が同ファイルを共有し,気. である。. づきや考えをはじめ,収集した情報や制作のため. 2015年度末北海道新幹線の開業にあたり,多く の企業が新商品の企画開発に取り組みはじめま した。鉄道会社は開業にむけて,北海道在住の 子どもたちによる函館PR戦略の一環として, 駅構内で限定販売される,函館弁当の商品開発 をしてほしいとの依頼がありました。函館ブラ ンドを全面に押し出したユニークで温かい企画 を求めています。. のコンセプトシートなどをそのファイルに集積さ せることで,クラス間を超え,チームとして情報 の蓄積や考えの共有を図った。一見他の班がライ バルになりがちなコンペを縦の軸でつなげること で美術科における基礎的 ・ 基本的な知識や技能の 定着を早め,連帯感や意欲を高める効果が得られ た。 4−1−6 手だて6「題材を意識した思考ツー ルの活用」. 4−1−4 手立て4「エンカウンターの要素を 取入れた環境の設定」. 実践例で示した題材の中で,生徒の協働学習の 場面で,指導において思考ツールの開発を行った。. これまでの検証で,深い思考(創造的な思考). 六角形の付箋と半透明の付箋の活用プレゼン後. をするためには安心感の持てる場面や環境の設定. に取り入れた六角形の付箋は,各グループの思考. が必要であるとわかった。前述した実践例では,. の分析を可視化するうえで大変効果的である。ま. 鑑賞の授業において,まず4~5名の班を構成し,. た,かたまりごとに丸い半透明の大きな付箋を置. そこにエンカウンターの要素を取り入れること. き,それぞれのかたまりのテーマを一目で見てと. で,自分自身の役割と居場所を確保した環境の設. ることができるようにしたので参考になった。付. 定を行っている。そうした環境の設定で生徒は責. 箋の形態や透過などを変えるだけで子どもたち. 任を自覚し,チームの中の存在意義を感じている. の,感覚や意識に大きく刺激を与えることができ. と思われる。. た。. 図6 生徒の活動風景. 図7 思考ツール「六角形の付箋」. 4−1−5 手立て5「学年をつなぐ,共有ファ. 4−2 責任の発達ステージからみた事例の成果. イル」. この成果分析において本研究が,「21世紀を生. 今回の共同制作では各クラスを貫く,共有ファ. きる学習者の活動基準」の基準1に絞り込んだ理. イルを活用し,各3クラスの9班を縦軸で結びつ. 由としては,美術教育における資質・能力の育成. 556.
(12) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. に関して,主体的で対話的な深い学びには,造形 活動での学習者の「創造的な思考」に通じるもの. ・単語1つ・2つをいじる程度ではなく,情報を 自分の言葉に置き換える。. があり,この視点は,「創造的な思考」「クリティ. ②指標1.3.2. カル」というという言葉の接点から,キーワード. A ねらい:情報の収集と評価を通して異なる考. を導いて基準1「A 探求を行い,クリティカル. え方を求める。. に考えて,知識を獲得する」に着目した。また,. B サンプル行動. 各基準における構成要素についても地域連携にお. ・ある問題について異なるものの見方が存在する. ける題材を設定の背景に,中学生への将来の市民. ときは,それを認識する。. としての自覚の育成をねらいとしていることか. ・異なる視点を提供する信用できる情報源を探す。. ら, 「③ 責任」に焦点を当て,学習者である中学. ・提示された情報の正確さを著者の観点が歪めて. 生のエンパワーメントをどう引き出したかを,各. いるかどうかを判断するために,すべての情報. 項目の内容に沿って検証することとした。. 源を評価する。 ③指標1.3.3 . 4−2−1 「責任」の発達ステージの概要. A ねらい:情報の収集や利用に際し,倫理的・. AASLが示す活動基準において,「③ 責任」と. 法的ガイドラインに従う。. は新しい理解を倫理的かつ思慮深く成功に導く問. B サンプル行動. 題解決や調査や,研究の過程で発揮される共通の. ・製作中の作品や,発表された資料における文章,. 32). 行動とみなすことができる」 と定義されている。. 視覚資料,音楽について,著作権のガイドライ. こ の 定 義 に 関 連 し て21世 紀 の 学 び に 関 し て. ンに従う。. ASSLは以下のようにとらえている。. ・情報を正確に提示する。. 「学習者自らの活動的な参与を必然的に求められ. ・情報源から集めた情報をと自分の考えや結論を. る。そこには,学びを習得した学習者は単に多 くの理論を記憶したり,他者によって作られた 33). 結論を鵜呑みにするものではない」 。. 明確に区別できる。 ④指標1.3.4 A ねらい:学びの共同体の中でのアイデアの交. このAASLの視点から考えると,学びの習得に. 換に貢献する。. おいて, 「責任」は,情報やアイデアを追究し,. B サンプル行動. それらをいかに適用していくかを理解し,結論を. ・ディスカッションとプレゼンテーションを通じ. 導き出すという新たな考えや価値を生み出すこと. て,他者の学びに貢献するために,関連した情. ができる生徒の育成に関与するものと捉える事が. 報を共有する。. できる。. ・グループの協議で意見を述べ,根拠を指示する。 ・他者の意見と根拠に耳を傾ける。. 4−2−2 「責任」の発達ステージの指標の内容 ①指標1.3.1 . ・グループでの意見交換で,質問をしたり回答し たりする。. A ねらい:クリエータや制作者の著作権・知的 財産権を尊重する。 B サンプル行動 ・よく知られていない,または多数の情報源の中 にはない情報について引用する。 ・情報源から直接抜き出してきた素材については 引用符をつける。. ⑤指標1.3.5 A ねらい:責任をもって情報テクノロジーを利 用する。 B サンプル行動 ・ウエブサイトから音楽やビデオを盗用すること なく,正規に購入する。 ・適切なウエブサイトにアクセスする。. 557.
(13) 冨尾 拓・橋本 忠和. ・個人情報を守りつつ,動的でない正確な情報だ. た生徒の感想として「授業を振り返り身についた. けを投稿することによって,電子的なソーシャ. と思う力」を尋ねたところ,発想の深め方,柔軟. ルツールを責任をもって使うことができる。. な思考,根拠を示した説明,ゼロから生みだす創 造力,計画性,が上げられた。こうした記述内容. 4−3 事例「『楽しく伝える』愛情たっぷり函 館弁当」の分析 構成要素「責任」での基準1「探求し,クリティ. を見ても,収集した情報を自分たちの言葉で置き 変えて新たな価値として表現する姿から,ステー ジ3の段階を達成していると思われる。. カルに思考し,そして知識を得る」の指標1.3.1か ら1.3.5で,中学1年生の事例を分析する. 4−3−2 指標1.3.2での分析 「情報の収集と評価を通して異なる考え方を求め. 4−3−1 指標1.3.1での分析 「クリエータや制作者の著作権・知的財産権を尊 重する」. る」 ①想定されるサンプル行動 他班の提案と自分たちの提案を比較してより. ①想定されるサンプル行動. 効果的な戦略方法を練るために情報の収集に当. 函館の名物や実施に販売されている企画商品. たる。. の特徴や効果を取り入れ自分たちの視点で新た. ②達成を想定した発達のステージと内容. な企画弁当を提案する。. ステージ2:自分たちの班の提案と他の班の異. ②達成を想定した発達のステージと内容 ステージ3:情報を自分の言葉に置き換えて表. なる観点を示し,情報を見つける。 ③発達のステージから見た事例の成果. 現できる。情報源を整理して分類 する。 ③発達のステージから見た事例の成果 図8は,生徒が企画弁当を提案する際に活用し たパネルである。このパネルと関連付けて,プレ ゼンソフトによる提案も行っている。授業を終え. 図9 戦略会議を行う生徒の様子. 図9は情報の収集を整理して,企画弁当のター ゲットの絞込みやコンセプトを検討している様子 である。実践後の生徒の感想からは, 「授業を振り 返り身についたと思う力」を尋ねたところ,発表 する力,仲間と協力するコミュニケーション力,相 手の立場にたった考え方,地域のよさ,があげら れている。こうした記述から,自分たちの班の提 案の際に,他の班の異なる観点を示し,情報うま 図8 プレゼン用パネル. 558. く活用しようとする姿勢が読み取れる。その姿勢.
(14) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. 等からステージ2の段階を達成できたと思われる。. ①想定されるサンプル行動 班員役割を分担し,持ち寄った情報を構成し. 4−3−3 指標1.3.3での分析. たりする中で質問をしたり,根拠を示したディ. 「情報の収集や利用に際し,倫理的・法的ガイド. スカッションを行なったりする。. ラインに従う」 ①想定されるサンプル行動 プレゼンの資料の情報に根拠を持って提案が できる。. ②達成を想定した発達のステージと内容 ステージ3:他の班のプレゼンに意見と根拠を 持って耳を傾け自分の班でその意 見や根拠を発表する。. ②達成を想定した発達のステージと内容 . ③発達のステージから見た事例の成果. ステージ1:プ レゼンのテンプレートにした がって情報を整理し,必要な情報 を抜粋して扱う。 ③発達のステージから見た事例の成果. 図10 プレゼン資料作成のための情報収集風景. 図10の制作場面等においてプレゼン用テンプ. 図11 会社名(班)をあらわすシンボルマーク. レートにしたがって,情報を取捨選択して内容の 構成を考えることができていた。. 図11は会社名にあたるネーミングの検討やシン. 実践後に 「授業を振り返り身についたと思う力」. ボルマーク作成など,企画会議を行いながら,担. を尋ねたところ,色や文字のバランス,人に自分. 当者が制作したマークである。地域の文化を理解. の意見を伝えることの意味,配色に関する力,イ. しようと地元に沿った会社名を提案したチームの. メージを形にする力情報をまとめる力,リーダー. 作品である。実践後のアンケートでは「仲間との. シップ等が上げられていた。指定した型にした. 話し合い活動を通じて自分の考えを深めたり,広. がって正確な情報と必要な情報を効果的に配置す. げたりすることができていると思いますか。」と. る様子などから,ステージ1の段階を達成してい. いう質問に対して,82%の生徒がそう感じたと回. たと思われる。. 答している。このことから,ステージ3に当たる, 他の班のプレゼンに意見と根拠を持って耳を傾け. 4−3−4 指標1.3.4での分析. 自分の班でその意見や根拠を発表する段階は達成. 「学びの共同体の中でのアイデアの交換に貢献す. できていたと思われる。. る」. 559.
(15) 冨尾 拓・橋本 忠和. 4−3−5 指標1.3.5での分析 「責任をもって情報テクノロジーを利用する」 ①想定されるサンプル行動 . 5 今後の取り組みに向けて 5−1 生徒の活動をASSLの基準での分析を通 して. 情報の発信に関して,個人情報の保護を意思 した提案ができる。. 前項において美術科における,地域題材を活用. ②達成を想定した発達のステージと内容. した実践を通して,中学生のエンパワーメントに. ステージ2:教師から与えられた選択肢の中か. 及ぼす効果の分析を試みた。その実践の検証を通. ら適切なデジタルツールの利用を. して,生徒のアンケート調査の結果を概観するこ. 心がけ,情報の収集に当たる。. とができた。その結果,各指標において以下の生. ③発達のステージから見た事例の成果. 徒の表現活動等の特徴を見出し,整理することが できた。 ①指標1.3.1 収集した情報を自分たちの言葉で置き変え て新たな価値(お弁当)として表現する姿 ②指標1.3.2 自分たちの班の提案の際に,他の班の異な る観点を示し,情報うまく活用しようとする 姿 ③指標1.3.3 指定した型にしたがって正確な情報と必要. 図12 企画弁当の提案を行うコンペの様子. な情報を効果的に配置する姿 ④指標1.3.4. 図12の発表場面を前に伝え方の工夫を何度も検. 他の班のプレゼンに意見と根拠を持って耳. 討し,企画弁当の売込みの仕方を工夫する生徒の. を傾け自分の班でその意見や根拠を発表する. 様子から,自分たちの作品に愛着を持ち,情報の. ⑤指標1.3.5姿. 発信と個人情報等の保護についても意識が見られ. 教師から与えられた選択肢の中から適切な. 始めた。今回の授業を終え,「身につけた力が発. 情報の収集に当たる姿. 揮されたと思う場面」を尋ねたところ,職場体験. 以上の「③ 責任」における基準1「A 探求を. でのコミュニケーション,総合の時間でのプレゼ. 行い,クリティカルに考えて,知識を獲得する」. ンテーション,社会科の発表会,生活習慣の見直. をスクリーンに生徒の活動を見ることで,ASSL. し(見通し力 計画性),委員会や学級での掲示. が育成を目指す21世紀を生きる学習者の能力や資. 物等の制作等,美術科の学びを他教科や領域に広. 質の基準の一部ではあったが,地域連携を軸とし. げ活用の意識が高まった様子が感じられる。これ. た美術科の授業実践を通して育めることが確認で. らことから教師から与えられた選択肢の中から適. きた。そして,を明日の地域を活性化する「地域. 切な情報の収集に当たるステージ2の内容は達成. のお弁当」づくりプロセスでの中学生の姿から「責. できたと考えられる。. 任」という地域への所属感=「市民意識」を高め る可能性を見出すことができた。 5−2 今後への取り組み 生徒のエンパワーメントを引き出し伸ばす授業. 560.
(16) 地域を題材とした美術科の授業が生徒のエンパワーメントに及ぼす効果. づくり・改善の指針を見出すため,AASLの21世 紀を生きる学習者のための活動基準を活用して自 らの地域連携の美術科の授業を評価・分析してみ た。すると,以下の2点の課題点が浮かびあがっ. 書,p.9 13)同上,p.9 14)同上,p.9 15)巴山玉蓮・星旦二,2003, 「エンパワーメントに関す る理論と論点」総合年研究第81号 p.6. てきた。. 16)ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. ①21世紀を生きる学習者のための活動基準は図. https://kotobank.jp/dictionary/britannica/. 2のようにその構成が階層化しておりそれぞ れの基準で多くの指標が存在する。それをす べて使って実践を評価することはかなりの時 間と労力を要すると思われる。実践ごとに有 用な構成要素を焦点化するとともに,ITを 活用した集計方法を確立する必要がある。 ②基準ごとの指標によって,生徒のエンパワー メントの状態が明らかになるのだが,その状 態の改善等を促す教師の指導法をどのように 展開すればよいのか,美術科オリジナルの各 指標のサンプル行動等とそれに対応した指導 指針からなる評価表を作成する必要性がある。 今後は,教育現場での生徒のエンパワーメント の向上を意識した授業事例開発を通して先にあげ. (2017年9月20日取得) 17)巴山玉蓮・星旦二,2003, 「エンパワーメントに関す る理論と論点」総合年研究第81号 p.8 18)文部科学省,2017,「中学校学習指導要領解説総則 編」 ,p.3 19)同上,p.17 20)同上,p.1 21)安梅勅江,2012, 「コミュニティ・エンパワメントの 技法当事者主体の新しいシステムづくり医歯薬出版株 式会社,p.5 22)文部科学省,前掲書,p.9 23)同上,p.17 24)同上,p.134 25)アメリカン・スクール・ライブラリアン協会,前掲 書,p.7 26)同上,p.14 27)同上,p.9 28)同上,p.8. た2点の課題の解決に継続的に取り組んでいきた. 29)同上,p.9. い。. 30)文部科学省,前掲書,p.16 31)同上,p.60 32)アメリカン・スクール・ライブラリアン協会,前掲. 註. 書,p.50 33)同上,p.50. 1)文部科学省,2017,「中学校学習指導要領解説美術 編」,p.11 2)同上,p.134 3)中央教育審議会,2016, 「幼稚園,小学校,中学校,. (冨尾 拓 附属函館中学校教諭) (橋本 忠和 函館校教授) . 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及 び必要な方策等について (答申) 」文部科学省,pp.28-31 4)アメリカン・スクール・ライブラリアン協会,2010 『シリーズ学習者のエンパワーメント第1巻 21世紀 を生きる学習者の活動基準』みつわ印刷,p.7 5)同上,p.7 6)同上,p.8 7)中央教育審議会,前掲書,pp.19-20 8)文部科学省,前掲書,p.92 9)同上,p.92 10)アメリカン・スクール・ライブラリアン協会,前掲 書,p.8 11)中央教育審議会,前掲書,p.205 12)アメリカン・スクール・ライブラリアン協会,前掲. 561.
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