アイヌ文化を含めた「自然」単元開発
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(2) アイヌ文化を含めた「自然」単元開発. 一、はじめに 本稿では、現代文教材のテーマとして頻出する 「自然」を、その他 の同一テーマの見られる作品を鑑賞することにより、筆者の主張を 深 く読 み取 るという ことを試 みた実 践 を報 告 し、その成 果 と課 題 について検討する。 また、この 「自然」の単元は、現在の学習者に変化し続ける社会に 対 応 す るための二 十 一 世 紀 型 能 力 をつけるために、自 分 の身 近 な 知識と学習について学ぶことのできるものである。今回は、北海道で 生 活す る学 習 者 の郷 土 の自 然 として、 「 アイヌ文 化 」の自 然 観 を絡 めた単元を作成した。稿者は、平成三十年度に赴任し、北海道での 生活経験がなかったため、アイヌ文化について尋ねたものの道外から 来 た稿 者 よりも先 行 知 識 が無 いという ことに危 機 感 を抱 き、今 回 授業で扱うことを試みた。. 二、単元 につい て 今回は単元名を、 「自然の眺め方・付き合い方」と題し、目標を設 定した。 (一) 単元の目 標 高 等学 校学習 指導 要 領「読 むこと」エ 文章 の構成や 展開を確 か め,内容や表現の仕 方について評価 したり,書き手の意図をとらえ. 石 畝 美央. たりすること」を重点を置きつつ、以下に三点に留意する。. ・自然を通して自らの暮らしを見つめ直す。 ・自分の生きている世界を知り、関心を高める。 ・他者の様々な考えを学び、自分のものの見方、考え方を深め る。. ( 二) 活 動 の ポ イ ン ト 先 に述 べたよう に、本 単 元ではまず 最 初 に、同 一 テー マの複 数 の テキストを用いて、説明文のメタ的な読みを試みた。これまでの学習 指 導 の研 究 の中 で、学 習 者 の 「 メタ認 知 」や 文 章 の 「 認 識 」をどのよ う に誘 発 す るかという 研 究 では、河 野 順 子 (二 〇 〇 二 )において、 「説 明的文章の改善 には、他者との間で引き起こされる葛藤(感情 的経験)が重要」であるという、 「読むこと」における 「メタ認知」の重 要性が示された。河野を初めとして、吉川(二〇〇三)が、三つの実 践例を通し、説明的文章の中でも展開構造のメタ認知を促す学習 指 導 を提 案 した。今 回 は、複 数 のテキストを用 い、教 材 のメタ認 知 を行う テクストを 「メタテクスト」として位置づけ、単元を構 想す る。 ただ一つの教材では読み方を学ぶことができなくでも、複 数の教材 を用いることにより、その読み方を深めることができることがメタテ クストを用いることの利点である。 ( 三 ) 主な 教 材. −108−.
(3) 本単元で扱う教材は以下である。 ①「ゴリラの思いやり」山極寿一 新編現代文B改訂版 ②「平成狸合戦ぽんぽこ」スタジオジブリ 高畑勲 ③「もののけ姫」スタジオジブリ 宮崎駿 ④「里山の風景」『ジブリの森へ』米村みゆき ⑤「アイヌ民族の暮らしと自然」『北海道の自然と暮らし』北の 生 活 文庫 企 画 編 集 会 議 ⑥「 イランカラプテ~ こんにちはアイヌ文 化 」公 益 財 団 法 人 ア イヌ民族文化財団 ( 四) 単 元の 流 れと ア イ デ ア 単元の流れは次のようにまとめることができる。 第一次(五時間)「ゴリラの思いやり」の読解 筆者の主張 と何により主張をしているかを明 確にする。 第二次(四時間)「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」の鑑賞 鑑賞の際は、ゴリラの思いやり同様、筆者の主 張 と何 によりその主 張 が強 められているかを 意識させる。 第三次(二時間)「里山の風景」を前次までの学習の補助教材とし て用い、メタテキストを用いた学習の統括をす る。 第 四 次 (二 時 間 )前 学 習 までのそれぞれの筆 者 ・監 督 の主 張 をふ まえ、 「 アイヌ民 族 の暮らしと自 然 」を通 して 自らの郷土と先行知識をもとに思考する。そ の際、補助として映像資料「イランカラプテ~ こんにち はアイ ヌ文 化 」を 用 いて、アイヌの. 人々の自然観を学びその位置づけを行う。. 学習者は高校二学年二十六人である。文章を読むことに抵抗が あるものの、自分の思ったことや考えたことを素直に発言でき、話の 登場人物や流れを理解する能力はもっている。本単元指導にあたっ て、学 習 者 に教 科 書 の中 から関 心 のある教材選 ばせ多 数 決 により 本 教材 を選 定 した。学習 者は、 「ゴリラの思 いや り」という題 そのも のに関心をもち、題にもある 「ゴリラ」の行動そのものは新鮮に受け 止めていたものの、その動物の話を通して作者が何を言いたかったの かまでは自力で読み取ることが困難であった。 そのため、作 者 が何 を通 して、何 を主 張 しよう としているのかを 学 習 す ることをこの単 元 を通 して行 い、その終 着 地 として、自 己 の 世界とこれまでの自分の生活の中での先行知識と結びつけより世界 を深 くみるためにと、 「 アイヌ文 化 」の学 習 も絡 めた単 元 案 を作 成 した。 単元の流れとして、まず説明文「ゴリラの思 いや り」から、作者の 主 張 と、その主 張 を裏 付けるためのアプロー チの仕 方 を確 認す る。 そして、同 じく 「 自 然 」をテー マとしている作 品 を使 用 す るのだが、 文 章が続くと学習 意 欲 の継続 が困 難になるため、文章でなく映像 作品により、先に説明文で行った、作者の主張とそのアプローチの仕 方 を考えた。そしてそのための補助教材 として、それぞれの映 像 作 品を分析し、作者の自然観について述べている 「里山の風景」を扱った。 こう して、三 者 の自 然 に対 す る考え方 、そのアプロー チの仕 方 を 学び、それらを自分 たちの世界に広げるため、自分たちのいる世界 にかつて住んでいた人 々 の自然観を通 し、作品をより深 く読むとい うことを試みた。 このアイヌ民族の 「自然とのつきあい方、眺め方」により、これまで の山極、宮崎、高畑と通じるものはないかという点を確認した。. −109−.
(4) (五)学習内容 の実際と考 察 全 十 三 時 間 の長 時 間 に渡 る単 元 である。それぞれの教材 として 扱った内容を紹介しながら各学習内容について触れていきたい。 第一次では、 「ゴリラの思いやり」の読解を行った。本教材は、ゴ リラの他の生命への関わり方を通して人間 の自然への接 し方について 問題を投げかけている。 学習者は本文の大まかな内容はつかめるものの、筆者の主張は読 み取ることが難易なため、第一段、第二段と、それぞれの事象を整 理しながらの読解を試みた。 第二次は、当初映画を鑑賞する予定ではなかったが、学習者の先 行 知 識 の状 況 に応 じて映 画 の鑑 賞 をした。 『 平 成 狸 合 戦 ぽんぽこ』 は、その語り口調や使われる語句が難解なようであったが、アニメと いう親しみ深 い資料であったことから学習者達は積極的に鑑賞して いた。本教材は、人間の山林開発に反撃し、人間と共存しながらも 自然の回復を目指す狸を描き、 「人間も含めた生命本位の自然観」 を有している。 『もののけ姫』は、室町時代を舞台として自然と人間 の対立 を描き、人間 に傷 つけられつつも回復 していく自然のあり方 を 「自然の驚異」として描いていた。本教材は、前者に比べて鋭い目線 で描かれるが、学習者はこちらの方が印象に残った様子であった。鑑 賞の際はそれぞれ監督が違うこと、しかし、自然に関わる共通のテ ーマを持っていることを告げ、それぞれの主張とそのアプロー チの仕 方を意識するように促した。 第 三 次 では、前次 までの統 括 としてこれらの映 画 について評 した 「 里 山 の風 景 」では、各 監 督 の自 然 と人 間 の問 題 についてのアプロー チや主張の違いが端的に記されている。この教材では、 ジブリ映 画 において示 さ れる自 然 と人間 との対 立 。 「ゴリラの思 いやり」の文末には、 他の生命を救うどころか、利用し尽くした末に絶滅の危機に追. い詰め、さらには都合の良いように改善していこうというのが人間 の姿勢である。それは、多 種 の仲 間と傷 つけ合 わず に共 存しよう とす るゴリラの流儀とは遠いところにある。ビンティの美 談 が、人 間 と野 生 動 物 との付 き合 い方 を反 省 す るきっかけになればと思 わずにはいられない。. と、多種の仲間と共存しようとする 「ゴリラの流儀」として示される 他の生命の関わり方が提示される。この一次から三次で扱った話を 通して、自然と対立せず、むしろ自然に対し 「カムイ」として敬意を 払 い、食 料 として身 を授 けてくれた生 き物 の霊 送 りの儀 式「 イオマ ンテ」として感謝する行事を行っていたアイヌの人々の生き方を見 ると、今様々な方法で主張されていた自然の問題があったが、最も 上手く自然と付き合っていたのはアイヌの人々でないかとアイヌの 自然観を位置づけることができた。 学習者は 「イランカラプテ~こんにちはアイヌ文化」において初め て目 にす るアイヌの人 々 の文 化 に衝 撃を受けていたものの、関 心 を 持って学習に取り組んでいた。しかし、知識を与えることが多くなり、 生徒の言語活動の場をあまり設定できなかったことが課題となった。 本 単 元 全 体 の課 題 としては、言 語 活 動 をどう 取 り入 れていくか という ことと、最 初 のメタテキストを用 いた学 習 と後 の発 展 として のアイヌ文化の学習の結びつきが曖昧になってしまった点である。. 三 、参 考 引用 文 献 ・ 山極 寿一「ゴリラの思 いや り」 新編現代文B改訂版 大修館 書店、平成三十年四月 ・ 宮崎駿『もののけ姫』スタジオジブリ 一九九七年七月公開 ・ 米 村 みゆき 「 里 山 の風 景 」『 ジブリの森 へ― 高 畑 勲 ・宮 崎 駿 を読 む[増 補 版]』二〇 〇 八 年 四 月 増 補 版第 一 刷 発行 三九頁~四 一頁. −110−.
(5) ・ 西田太郎「メタ認知的活動を意図した文学の読みの学習」 ・ 「 アイヌ民 族 の暮 らしと自 然 」『 北 海 道 の自 然 と暮 らし』北 の生 活 文 庫 企 画 編 集 会議 北 海 道 新 聞 社 一 九 九 七 年 四 月 ・ 「 イランカラプテ~こんにちはアイヌ文化 」公 益 財 団法 人アイヌ 民族文化 財団 ・ 河 野順 子「 説 明 的 文 章 の学 習 指 導 改 善 への提 案 ー「 メタ認 知 の 内 面 化 」モデルを通 してー 」『 国 語 科 教 育 』第 五 十 一 集 二 〇 〇 二年 ・ 吉川芳則「説明的文章の展開構造のメタ認知を促す学習指導」 『国語科教育』第五十四巻 二〇〇三年 附 記 本 単元 の現 代 文 教 材 において、ジブリ映画と米村みゆき 「里 山 の風 景 」を用 いるという 構 想 は村 山 太 郎 氏 (武 庫 川 女 子 大 学 )の講 義 において、 「 メタテクストを用 いた授 業 構 想 を作 る」という 活 動 の 中で作成したものである。記して感謝の意を表する。 (いしぐろみお/北海道厚真高等学校). −111−.
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