美術館施設との連携による造形教材の開発 : 北海道立釧路芸術館における版画ワークショップの事例
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 美術館施設との連携による造形教材の開発 一北海道立釧路芸術館における版画ワークショップの事例−. 佐々木 宰・滝田 彩*. 北海道教育大学釧路枚美術教育講座 *更別村立上更別小学校(北海道河西郡). OntheDevelopmentofArtProgramsinCo−OperationwithMuseums −ACaseofWorkshopforPrintmakinginKushiroArtMuseum,Hokkaido−. SASAKITsukasaandTAKITAAya* DepartmentofArtEducaiton,KushiroCampus,HokkaidoUniversityofEducaiton KamisarabetsuElementarySchool,Sarabetsu,Hokkaido. 要 旨 平成21年度から,北海道立釧路芸術館及び釧路市立美術館の協力を得て,「美術館施設と学校教育の連携 による芸術文化環境形成のための基礎研究」を開始した。その一環として,北海道立釧路芸術館において開 催されるワークショップの教材開発を行った。本学釧路校美術研究室と同館とは従来から連携による教材開 発を行っていたが,今回は学生が主体となって教材の開発からワークショップにおける実践までを完遂した。. このことによって,大学における教科教育の学習成果と美術館施設のもつ教育力を生かした新しい連携モデ ルを示すことができた。. はじめに. 北海道釧路市には,北海道立釧路芸術館と釧路. 平成21年度からは,科学研究費補助金による研 究プロジェクト「美術館施設と学校教育の連携に よる芸術文化環境形成のための基礎研究」(研究. 市立美術館の2つの美術館施設がある。これら2. 代表者:佐々木宰)を開始し,釧路市及び近隣地. 館はそれぞれ異なる設置目的や作品収集の方針を. 域における芸術文化環境の形成に寄与する新たな. 持っているが,釧路市及び東北海道の芸術文化の. 連携の在り方を模索している1)。. 振興と教育に大きな役割を果たしている。本学釧. 本稿は,その一環として行われた学生と北海道. 路校美術研究室は,両館の教育普及事業を通して. 立釧路芸術館との協力による教材開発の過程とそ. 交流と連携を図ってきた。. の成果を報告するものである。. 153.
(3) 佐々木 宰・滝田. 1.北海道立釧路芸術館との連携による実践 研究の経過 (1)開館から平成19年までの経過. 彩. (2)学生を主体とした実践の取り組み. 前述の通り,これまでの連携では釧路芸術館の 学芸員及びスタッフと筆者(佐々木)が主体となっ. て枠組みを準備し,大学の授業やボランティア活. 筆者(佐々木)は平成10年に北海道立釧路芸術. 動などとして学生の参加を促してきた。しかし,. 館(以下,釧路芸術館)が開館して以来,同館と. 平成20年度からは,学生を主体とする新たな連携. の連携による実践研究を継続してきた。連携は芸. と実践を試みた。すなわち,これまで補助的な関. 術館の各種事業を通した学芸員との個人的な交流. 与に限定されてきた学生自身に学芸員と直接的な. から始まり,非常勤講師としての学芸員の招聴,. 関わりを持たせ,造形教材の開発と実践を行う試. 大学の授業の一環としての芸術館見学など,連携. みである。筆者の一人,滝田が自身の卒業研究(版. を生かした大学授業の試みへと展開していった。. 画の教材研究)の一環として,釧路芸術館のワー. また,ワークショップなどの教育普及活動に学生. クショップにおける教材開発と指導を行うことに. がボランティアスタッフとして参加するなど,学. なった。. 生個人を通した連携も進んでいった。平成17年に. 平成20年度当初,釧路芸術館では平成20年11月. は,釧路芸術館の企画展において,学生の作品展. 23日からの「棟方志功展」の開催が予定されてお. 示・空間構成を依頼され,大学の授業として取り. り4),同展の会期中に小学生を対象としたワーク. 組んだ2)。平成18年及び平成19年には,筆者(佐々. ショップを持つことが検討されていた。滝田の卒. 木)が同館の教育普及事業であるジュニア・アー. 業研究課題が「/ト学生における版を使った表現の. トスクールの講師として,学芸員の協力のもとに. 意義と教材開発」であったため,ワークショップ. 教材開発及び指導を行っが)。 これまでの連携による実践研究の成果の第一に. の趣旨に合致した。. 滝田の卒業研究は,小学校図画工作において長. は,学芸員をはじめとする同館スタッフとの. く扱われてきた「版画」の可能性を拡張する教材. フォーマル,インフォーマルな協力体制を確立し. 開発を目的としていた。その背景には,図画工作. たことがあげられる。第二に,この協力体制によっ. の学習内容や教科書題材が多様化している状況に. て,大学における教科教育研究の成果を,生涯教. あって,実際の教育現場で行われる紙版画や木版. 育という文脈で検証することが可能になったこと. 画の表現には大きな変化がなく,むしろ学校にお. があげられる。釧路芸術館としては,学校教育に. ける版画教材の典型になりつつある現状への疑問. おける美術教育の内容や方法を踏まえた教育普及. がある。他方,小学校学習指導要領には「版画」. 活動を構想・実施できたということになる。すな. という指導事項が既になく,留意事項として「版. わち,連携教育の成果は,互いの異なる立場から. に表す経験」が示されている。教科書題材も造形. の視点を碇供し,自らの研究と教育を再認識させ. 遊びを含む幅広い造形活動の中で「版」とその原. たことであったといえる。さらに,地域における. 理による活動を設定している状況にある。. 教員養成機関と生涯教育機関の協力による地域の. こうしたことから,絵画の一つの形式として既. 美術文化やその環境形成に関する具体的なモデル. に定着している「版画」の技法的な側面や,それ. ケースを示したことである。. に伴う表現の学習ばかりではなく,版の原理とそ. しかし,その一方で,今後の継続的な連携協力. れを生かした造形表現の多様性を学習するための. をいかに維持し,より多様な層の参加者をふくむ. 教材の開発を試み,ワークショップにおける実践. 柔軟な関係を作り得るかが課題として残されてい. を通してその教育的な価値を考察することとし. た∩. た。. そのために,版種による版画表現の多様性を認. 154.
(4) 美術館施設との連携による造形教材の開発. 識するとともに,学習指導要領の変遷とともに版. 容(平易な版で表すなど)の一部は,絵画ではな. 画の扱いがどのように変化し,またその変化が教. く「造形遊び」の活動の一つとして扱われるよう. 科書題材にどのように反映されてきたかを確認し. になってきた。. た。その上で,釧路芸術館の学芸員と意見交換を. 繰り返し,教材の開発に取り組んだ。 したがって,滝田の研究における釧路芸術館と. このような経緯から,版画教材には,絵画表現 の一形式としての版画そのもののを直接的に扱う. ものと,版画の特性を生かした多様な造形活動を. の連携は,教材の開発とその安当性を検証するこ. 扱うものが併存している。前者は,既存の版画表. とを目的としたものであり,美術館施設における. 現を体験することによって,その表現の特性と方. 学生の活動体験を目的としていた従来の連携とは. 法を学ぶことが中心的な内容になる。木版画を例. 性格を異にするものであった。釧路芸術館側も五. にすれば,計画的な制作手順,白と黒の配分によ. 十嵐聡美学芸員が中心になって,滝田の研究に対. る効果,彫刻刀の使い方と彫りの効果,刷りの方. して全面的な協力をした。同時に,開発された教. 法などが学習内容になる。後者は,版画の原理を. 材よる同館の教育普及事業の内容充実が企図され. 多様な造形活動の中で体験するこによって,版画. ていた。. だけでなく,「版」を介した造形の多様性と可能 性を学ぶことが中心的な内容になる。こうした活. 2.小学生のための「版を使った表現活動」 の教材開発 (1)教材開発の背景と目的. 版画は小学校図画工作の教材として,戦後から 現在に至るまで広く扱われてきた。日常生活を主 題にして黒インクで刷られた紙版画や木版画は,. 動を前者と区別するために,ここでは「版を使っ た表現」と呼ぶ。本稿で扱う教材開発は,この「版 を使った表現」を中心としたものである。版の原 理の学習とその応用を通して,既存の版画との関 係を意識させながらも創造的で自由な発想を促す 「版を使った表現」の可能性を追求した。. また,この教材開発は釧路芸術館のワーク. 多くの人たちが持っている版画のイメージであろ. ショップにおいて小学生を対象に実践することを. う。本来,版画にはそれぞれの版種の特性に応じ. 前碇としていた。したがって,小学校図画工作の. た様々な技法や表現方法がある。多様な版画の表. 教材としての条件(学習指導要領との関連,授業. 現特性から,小学生の発達段階に応じた教育的な. 時数,教室などの空間的条件)は想定せずに,釧. 意図が抽出され,現在の図画工作における版画教. 路芸術館の空間や設備など,自由度の高い環境の. 材が開発されてきた。. 中で「版を使った表現」の可能性を追究すること. 昭和33年改訂の小学校学習指導要領では,版画. を優先した。. は独立した領域として設定され,各学年の学習内 容が詳細に示されている。昭和43年改訂によって. 版画は絵画領域の一部となり,さらに昭和52年改. (2)教材のねらい. 「版を使った表現」の教材を開発するにあたっ. 訂によって表現領域の絵画分野における一つの表. て,次の3つの要素を含めることにした。. 現方法という扱いになった。指導事項の記載内容. ① 「版を使った表現」と「版画」の両方の側面. は簡素化されてきたが,紙版や木版,彫刻刀の使. を含めること。. 用などは示されていた。平成10年改訂から,版画. ② 色彩を多用すること。. は「内容」としての記載ではなくなり,「指導計. ③ 大きな作品をつくること。. 画の作成と各学年にわたる内容の取り扱い」の留. ①にある「両方の側面を含める」とは,「版を使っ. 意事項の一つとして「版に表す経験」と記載され. た表現」を独立して扱うものではなく,絵画形式. ている5)。他方,低学年で扱われていた版画の内. としての「版画」も意識させることで,版による. 155.
(5) 佐々木 宰・滝田. 造形の多様性を示そうとしたことによる。. 彩. 路芸術館の五十嵐聡美学芸員と複数回にわたる打. (彰の「色彩の多様」は,版画がもつ単色のイメー. 合せをもった。五十嵐学芸員は,棟方志功展の作. ジをとり払おうとしたことによる。単色には独自. 品鑑賞をワークショップのどこかの段階に入れ,. の美しさがあるものの,版画をより身近に感じさ. 展覧会の内容との関連を持たせることを碇案し. せるために,絵を描くときのように色彩豊かで楽. た。『釈迦十大弟子』から教材のヒントを得るこ. しい作品づくりをめざした。. とができたのも,こうした打合せの結果である。. ③の「大きな作品」は,釧路芸術館の空間を生 かし,学校ではできない制作をしたいと考えたこ とによる。また,年齢の異なる小学生の共同制作. (3)試行と準備. スチレンボードによる等身大のパズル版画の試. によって,互いに影響を与えたり,受けたりしな. 作では,想定外の問題が多数確認された。縦. がら創造活動を高めていくことをねらった。. 180cm,横90cmのスチレンボードは予想よりも. これら3つの要素を含めた教材を検討した結. 高価で,しかも切りにくい材料であった。電熱線. 果,スチレンボードを版材にした等身大のパズル. で溶かしながら切る「スチロールカッター」を試. 版画を原案とすることにした。パズル版画とは,. したが,スチロールカッターのアーム(弓)の長. 一つの版を切り分けてそれぞれに別色のインクを. さが20cm程度なので,ボードの端からそれ以上. つけ,それらを再び一つに組み合わせてから刷り. の奥の部分は切れなかった。通常のカッターの方. 取る多色刷りの方法である。/ト学校の図画工作教. が容易に切れるが,やや力を要するために小学校. 科書などでも紹介されている技法である。版の切. 低学年では難しさが予想された。スチレンボード. り分けを容易にするため,版の材料には木材など. の他,発泡スチロール板でも試したが,カッター. ではなく,スチレンボードを想定した。等身大の. で切ると断面がボロボロになり不適と判断され. 人物像(自分)という主題については,大きな作. た。. 品をつくるという目的がある。また,等身大のア. スチレンボードの切りにくさが問題であったの. イデアは,釧路芸術館の棟方志功展における展示. で,段ボールなどでも試したが,インクののりが. 作品『釈迦十大弟子』からヒントを得ている。一. 良くなかった。パズル用に扱える厚みがありなが. 人一人の作品を並べることによって,群像として. ら安価で切りやすく,インクののりが良い材料を. のより大きな作品を提示できると考えたのであ. 探した結果,「養生用プラダン」が適しているこ. る。これらの検討を経て,次のような教材の原案. とがわかった。「プラダン」は,段ボールのよう. を立てることができた。. な中空の構造をもつプラスチック製の板材で,梱. ① スチレンボードの上に体を横たわらせ,ポー. 包材などに使用されている。色,厚さ,大きさな. ズをとらせる。もう一人が体の輪郭線をボード. ど各種あり,本教材で用いたものは,厚さ2.5mm,. にマーカー描いていく。. 大きさが縦180cm・横90cm,乳白色半透明の養. ② 輪郭線に沿ってボードを切りだし,さらに顔,. 上半身,下半身など切り分けていく。 ③ 油性マーカーなどで模様などを描いて版に凹 みをつける。. ④ 切り分けた版それぞれにインクをつけてから 組み合わせて刷る。. 生用のプラダンである。. 厚みが2.5mmあるが,はさみで容易に切るこ とができた。カッターを使えば,より簡単に切る. ことができるので,低学年から高学年の児童に対 応する材料であると判断した。スチレンボードの ように油性マーカーで描くことで表面を溶かして. ⑤ 別に作ったスタンプで髪などの仕上げをする。. 凹みをつけることはできないので,堅い突起物で. ⑥ 完成作品の鑑賞活動を行う。. 表面に凹みをつけることにした。それほどの力を. こうしたねらいと原案を設定するまでには,釧. 156. 入れなくても,十分な凹みができることがわかっ.
(6) 美術館施設との連携による造形教材の開発. た。また,プラダンが透明素材であることから,. 組み合わせて双方からの創造活動を提供するこ. 立ったままプラダンを持ち,反対側から透けて見. とである。また,色彩豊かな大きな作品づくり. える人体の輪郭を描くことができるようになっ. もねらいとしている。. た。これは,スチレンボードや段ボールではでき ないことである。 この他,段ボールやモール,油土などを使った. ⑧ 方法と手順 i)ペアをつくり,プラダンに好きなポーズを 写し取る。. 簡単なスタンプによる表現のバリエーションを考. ii)形の通りにプラダンを切る。. 案した。. iii)洋服の模様などを,突起物で凹ませる。. インクについては,水性絵の具,ポスターカラー. などを含む様々なインクをのせて試し刷りした結 果,水溶性版画インクが最も適していることがわ. iv)色分けしたい部分ごとに切り分ける。 Ⅴ)各部にインクをのせ,刷り台の上で組み合 わせる。. かった。紙は大きさを考えて,幅90cmのロール. vi)画用紙をのせて馬連で刷る。. 画用紙を用いることにした。. di)スタンプをつくり,刷り上がりに髪や模様. 材料の選定や,その特徴を生かした具体的な活 動内容の構想,さらに実際の試行を経て,教材の. を加えていく。 Ⅴ正i)完成作品を鑑賞する。. 骨格ができていった。. (4)教材(プログラム)の完成. 上記のような試行と準備を経て,ワークショッ プにおけるプログラムを完成させた。プログラム. 3.ワークショップの実施 (1)ワークショップ実践の経過. ワークショップは,平成20年11月29日(土)と. の概要は以下の通りである。. 30日(日)の2日間に,それぞれ10時から15時に. ① 企画の名称(題材名):楽しい版画教室「コ. 行われた。初日の参加者は,小学生9名と70歳代. ロ・チョキ・ペッタン」 ② 実施日:平成20年11月29日(土)・30日(日), 10時∼15時. ③ 場所:北海道立釧路芸術館 美術ワーク ショップ室 ④ 指導:滝田彩(北海道教育大学美術研究室), 五十嵐聡美(釧路芸術館学芸員). ⑤ 指導補助:釧路芸術館ボランティアSOAの 会,北海道教育大学美術研究室学生. の女性1人の合計10名,第2日目の参加者は小学 生10名であった。/ト学生は第1学年から第6学年. までの児童が参加しが)。 ワークショップの指導は筆者(滝田)を中心と. して,釧路芸術館の五十嵐学芸員とともに行われ た。指導補助として,同館のボランティアスタッ. フ及び北海道教育大学釧路校美術研究室学生の協 力を得た。初日の反省を第2日目の指導に反映さ えて若干のプログラム変更を行ったが,基本的な. ⑥ 対象:小学生(各日10名程度). 活動の経過は変えていない。以下には,実践の経. ⑦ ねらい:本企画は,プラダンを使い等身大の. 過を記述するとともに,作品の完成に至るまでの. 版画を作るものである。棟方志功展の関連企画. 子どもたちの反応などを述べていく。. であり,棟方の『釈迦十大弟子』にヒントを得. 美術ワークショップで参加者と顔をあわせた. て,子どもの等身大の版画を作る。学校で行わ. 後,展示室に移動して棟方志功展を鑑賞するとこ. れる版画は紙版画や木版画が一般的なので,釧. ろからワークショップを開始した。展示された棟. 路芸術館の利点を生かして,普段の学校では味. 方の作品を鑑賞しながら,版画作品の面白さを子. わえない活動を企画した。本企画のねらいの一. どもたちに感じさせることを活動の導入とした。. つは,従来の版画と,新しい版を使った表現を. 作品の解説は五十嵐学芸員が担当し,わかりやす. 157.
(7) 佐々木 宰・滝田. 彩. い言葉で語りかけたり,クイズを取り入れたりし. ては理解しにくかったようである。頭,上着,ズ. ながら,棟方の作品の解説を行った。棟方の作品. ボン,靴や手など,違う色にしたい箇所を指し示. のスケールの大きさ,大胆なデフォルメによる躍. させながら切り分ける部位を説明していった。切. 動感あふれる人物表現,想像を版画に表していく. り分ける作業は,ハサミやカッターを使って順調. ことなどの特徴を,子どもたちに気付かせるよう. に進められた。ここまでの作業を参加者全員が午. にした。特に,人物のポーズに注意を向け,制作. 前中2時間のなかで終了させることができた。. に反映できるように配慮した。子どもたちは『東. 午後からは,刷りの作業となった。厚手の黒色. 北経鬼門譜』や『門舞頒』,『釈迦十大弟子』など. プラダンに粘着テープで「見当」をつけたものを. に驚きながら約15分程度の鑑賞を終えた(図1)。. 刷り台とし,これを2箇所に置いた。水溶性版画. 美術ワークショップ室に戻り,制作を開始した。. インクを8色(赤,朱,黄,藍,緑,茶,黒,白),. 二人一組になり,一人がプラダンを持って窓を背. プラスチック製バット(練り台)とローラーを用. にしてポーズをつくり,もう一人が反対側から輪. 意した。用紙については,90cm幅のロール画用. 郭線をマーカーでなぞっていった。輪郭線のほか,. 紙を170cm長に切ったものを用意した。. あごと首の境目や上着とズボンの境目,手や靴な. 刷り台が2箇所なので,参加者10人を2蛙に分. どもなぞらせた。実際の形よりも歪んだもの,ぶ. け,5人ずつ協力しながら刷りを行ってもらった。. れた形のものもあったが,正確になぞることにこ. 版が数点に切り分けられているため,別々にイン. だわったり,失敗を恐れて萎縮するような雰囲気. クをのせる必要があるからである(図5)。イン. ではなかった。むしろ様々なポーズや形を楽しむ. クをのせた部品は,刷り台の上で人型に組み直さ. ように活動が進められた(図2)。. れ(図6),その上から4人がかりで紙をあて,. 輪郭線を描いた後,線にそってプラダンを切り,. ばれんで刷っていった(図7)。紙をゆっくりと. 人型を切り出していった(図3)。当初,安全面. はがし,刷り上がると子どもたちから歓声があ. からはさみの使用を前碇としていたが,大きなサ. がった(図8)。版にインクをのせ,組み上げて. イズのプラダンから等身大の人型をはさみで切り. 刷る作業は1時間40分程度の時間を要した。. 出す作業は予想以上にたいへんであった。カッ. 刷り上げた作品のインクを乾かしている間に,. ターを併用すると,どの子どもも概ねうまく切り. 段ボールや,モール,粘土などの材料のほか,様々. 出すことができた。ただし,年齢差がはっきりと. なものの形をスタンプにして模様をつけられるこ. 出るために,低学年児童には補助が必要であった。. とを指示した。それぞれ思い思いにスタンプをつ. 切り出した人型に,突起物を使って凹みをつけ. くり,作品の上に押し当てていった。充分な時間. ていった。表面に凹みをつけると,その部分はイ. を確保することができなかったが,子どもたちは. ンクがのらず,白(紙の色)で表現されることは,. スタンプ作りを楽しみながら,作品にアクセント. ほとんどの子どもが理解できていたようである。. を与え,完成させた(図9,図10)。. 凹みをつけるというよりも,突起物を押しつけて 「描く」ことを意識させた。適当な道具がなかっ. 完成した作品を1点ずつ紹介しながら鑑賞する 時間を15分程度とり,制作者からのコメントを交. たため,プラスチック製のスプーンで線をつけた. えて全員の作品を鑑賞した(図11)。全作品をパ. が,道具としては軽すぎたようであった。しかし,. ネルに掲示して一列に並べると,それぞれの個性. 思い通りにいかない線描は,逆に上手・下手にこ. があらわれ,のびのびとした作品群となった。作. だわらない自由な表現を生んだともいえる(図. 品は,棟方志功展の会期中,釧路芸術館のロビー. 4)。. に展示され好評を博した(図12∼図15)。. 次に,人型を色分けしたい部分ごとに切り分け ていく活動を行った。子どもたちは色分けについ. 158.
(8) 美術館施設との連携による造形教材の開発 \ゾ︰ドrきノ′. 図1 棟方志功展の鑑賞. い. 図5 ローラーで各部にインクをのせる. ▼・−……・¶. 卜L 図2 プラダンに輪郭線を措いていく. 図6 刷り台の上でインクをのせた部分を組み上げる 図3 プラダンから人型を切り出す. ーJ. 図4. プラダンの表面に線の跡をつけていく. 図7 画用紙をあててばれんで刷る. 159.
(9) 佐々木 宰・滝田 彩. 、 ・. =三這 /」. /. 図8 刷り上がった作品群. 図12 完成してロビーに展示された作品群. 諭. 軋∵..鮎m甲. 己ごL. 11り1ト ﹁. ︷宰†i・・沌. ㌧‖m〓山己㌻F. 、▲. 、ち 図9 スタンプを使って髪の毛をつけていく. 図13 完成してロビーに展示された作品群. 〉」/. 図10 ラップの芯を使ったスタンプの例. \. 図14 完成してロビーに展示された作品群. ¶. ■ ■■¶. 図‖ 完成した作品の鑑賞活動. 160. 1. //. 図15 完成してロビーに展示された作品群. 顎l﹁〓棚1. /. / ノy. ﹂Tl、㌧. −. \、、⊥ヶ』㌢ご;竺ブ. ●l川1− ﹂●. ■こ. ノー・′. ノ 仁丹け/. 川摺ブ. 、. =摘甜相. 廿Iパ咽hトj. 、:−. n′1一+∴がタ・㌦. 熟▲酌て. ︹轡﹀冊乳−. l●.
(10) 美術館施設との連携による造形教材の開発 (2)結果と考察. 2日間のワークショップを通して,等身大の版. プで取り上げられ,ボランティアスタッフによっ て子どもたちに指導されている。. 画作品20点を完成させることができた。プラダン. を版にした活動や,版を切り分けて多色刷りをす る方法は参加者にとって初めての体験であった が,全ての参加者を作品の完成にまで導くことが できた。. 4.連携モデルと課題 (1)教材開発の成果. 前章で示したとおり,学生と学芸員の共同によ. ワークショップの実践を通して得られた成果は. る教材開発及びワークショップによる実践は,初. 主に3点にまとめられる。一つは,版を使った表. 期の目標を達成することができた。開発された教. 現活動によって,個性的な表現や表現上の工夫を. 材は,釧路芸術館の棟方志功展にあわせたワーク. 引き出すことができたことである。版を使った表. ショップとして内容的に合致するものであった。. 現は,絵を描くことよりも自由が利かないが,そ. またワークショップにおける実践では,2日間の. のことが子どもたちの工夫を生み,また細部に拘. 参加者のベ20名が,それぞれの個性を発揮しなが. 泥しない伸びやかな表現を促したといえる。版画. ら作品を完成させていることから,開発した教材. の原理を用いながら,既存の版画の様式にとらわ. が,小学校低学年から高学年及び大人まで幅広く. れずに「版による表現」を意識させることができ. 適用できるものであることが確認された。. た。また,多色刷りによる色彩,等身大の大きな. 教材開発には約3ケ月間に及ぶ試行錯誤の時間. 作品づくりもでき,当初の教材のねらいはほぼ達. を要したが,それに先だって,小学校における版. 成できたといえる。. 画や版で表す造形活動の現状認識,小学校学習指. 成果の第二は,どの学年の児童にも適用できる. 導要領におけるこれらの表現の取り扱い,さらに. 方法であったことである。既存の版画教材では,. 教科書における題材例の変遷過程の把握などに. 下絵の出来によって完成度が左右されると言われ. 数ヶ月を要している。また,版画という造形表現. ており,学年や個人による描画能力が出やすい。. の解釈にも相当の時間を要している。すなわち,. しかし,この教材は下絵をつくらず,プラダンに. 版画や版を用いた表現活動は,筆や鉛筆で描く絵. 透けて見える形をなぞることで版を作っていくた. 画表現とどう異なるのか,版画として表現される. め,低学年から高学年まで幅広い適用範囲をもつ. 意味とは何か,という問いに対する答えを得るた. 教材であることが改めて確認できた。. めに相当の時間と労力を要した。. 第三は,互いに協力しながら作品づくりができ. 教材開発は,一時的なイベントのための活動プ. たことである。さらに,出来上がった作品を並べ. ログラムを作ることではない。対象者の学習経験. て碇示することによって,群像としての表現の面. はもとより,与えようとする活動内容が,これま. 白さを伝えることができた。これは,棟方志功展. でどのような教育目的をもって学校教育のなかで. で鑑賞した作品にも通じる要素であり,釧路芸術. 扱われてきたかを把握した上で,現在の対象者に. 館との共同企画ならではの効果を確認できた。. それを提供する意味を考えなければならない。こ. 教材やワークショップの進め方について,実践. れには教科数青学の研究方法が必要となる。他方,. から得られた細かな反省点は少なくないが,参加. 扱う内容そのものが持つ意味の考察もまた不可欠. した子どもたちの反応や感想,完成作品の反響な. あり,教科数青学による研究方法のほか,芸術学,. どから,開発した教材の有効性は確認することが. 美術史,制作を通した研究も求められる。. できた。 なお,この教材で扱ったプラダンによる版画は,. 後日,釧路芸術館の冬休みのミニ・ワークショッ. 今回の釧路芸術館との連携による教材開発の成 果は,大学が提供する教科教育研究と,釧路芸術. 館が碇供する芸術研究の両側面から行うことがで. 161.
(11) 佐々木 宰・滝田. きたことである。同時に,これを学生自身が行っ. 彩. これに対して,今回の教材開発では,学生を主. たことであり,連携による教材開発の可能性を学. 体とした連携を試み,一定の成果を上げた(図17)。. 生はもとより,大学と釧路芸術館の双方が認識し. これまで大学教員と釧路芸術館学芸員との協同作. たことであるといえる。. 業によって行われてきた部分を学生と学芸員との 作業に移し,教員はプログラム開発の全体調整の. (2)新たな連携のモデル. 役割を果たすことにした。学芸員の協力を得なが. 従来の釧路芸術館との連携はワークショップ等. ら学生が教材を開発し,ワークショップにおいて. のプログラムの開発を通して行われてきたが,学. 指導をすることが可能であることは,今回の事例. 生の関わりは主にプログラムの実践などに限定さ. からも明かである。この連携によって,学生の教. れていた。従来の連携モデル(図16)においては,. 科教育研究は実践の場を得るだけでなく,内容研. 大学側が釧路芸術館に碇供するものは,開発した. 究を深めることができた。釧路芸術館としては,. プログラムやその組織化のためのノウハウであ. 有効な教育普及プログラムを得たことになり,さ. り,学生が深く関与する機会を持つことができな. らに教育普及活動における教科教育の視点を認識. かった。学生はワークショップにおける指導やそ. したことが成果となろう。大学としては連携によ. の補助的な役割であった。このような連携は,そ. る学生の教育効果を確認できた。. の時々の大学・学生・釧路芸術館の状況にあわせ. このモデルによる連携を継続的に行えるかどう. て柔軟に対応してきた結果であり,学生の関与は. かはさらに検討を加える必要がある。しかし,今. 限定的であったものの,生涯教育という視点での. 回の教材開発を通して得られた連携のモデルは,. 美術教育研究の機会を生んだ。. 大学が仲介役・調整役となって,美術館施設とさ まざまな芸術・教育関係機関の連携を構築する可 能性を含んでいる。現段階では,地域の学校及び. 教員と美術館施設との連携に発展させることを構 想しているが,その取り組みについては稿を改め て報告し,分析と考察を行いたい。. 注 1)平成20年産科学研究費補助金・基盤研究(C)「美術. 館施設と学校教育の連携による芸術文化環境形成のた 図16 従来の連携のモデル. めの基礎研究」,研究代表者:佐々木宰,課題番号: 20530792. 2)佐々木宰,「道立釧路芸術館との連携による大学授業 の試み」,『北海道生涯学習研究』,第6号,2006, pp.109−118. 3)佐々木宰,「北海道立釧路芸術館との連携による美術 教育実践研究」,『北海道生涯学習研究』,第7号,2007, pp.85−94.佐々木宰,「北海道立釧路芸術館との連携に よる美術教育実践研究(2)」,『北海道生涯学習研究』,第. 8号,2008,pp.99−108. 4)展覧会「棟方志功展−わだぼゴッホになる」は平 成20年11月23日から平成21年1月18日を会期として,. 北海道立釧路芸術館で開催された。 図17 学生を中心とした連携のモテざル図. 162. 5)「各学年の「A表現」の(2)については,児童や学校.
(12) 美術館施設との連携による造形教材の開発 の実態に応じて,児童が工夫して楽しめる程度の版に. 表す経験やつくったものを焼成する経験ができるよう にすること。」と示されている。 6)2日間を通して,第1学年が1名,第2学年が5名, 第3学年が3名,第4学年が5名,第5学年が4名, 第6学年が1名であった。. 参考文献 ・伊藤弥四夫,『実践造形教育体系13 各種の版による表 現』,開隆堂,1982. ・佐川美智子,『版画一進化する技法と表現』,文遊社, 2007. ・滝田彩,「/ト学生における版を使った表現の意義と教材 開発」,平成20年度北海道教育人学教育学部釧路校学士 論文,2009. ・日本子どもの版画研究会,『子どものはんが』,日本文 教出版,2007.. 付 記 本稿は,平成20年度科学研究費補助金・基盤研 究(C)「美術館施設と学校教育の連携による芸 術文化環境形成のための基礎研究」(研究代表者 :佐々木宰,課題番号:20530792)の成果の一部 である。なお,本稿の執筆にあたっては,「はじ. めに」「1.北海道立釧路芸術館との連携による 実践研究の経過」「4.連携モデルと課題」を佐々. 木が,「2.小学生のための版を使った表現活動 の教材開発」「3.ワークショップの実施」を滝 田が担当し,全体を佐々木がまとめた。 本研究を遂行するにあたり,研究協力者である 北海道立釧路芸術館の柴動学芸主幹,五十嵐聡美 学芸員,福地大輔学芸員をはじめ同館のみなさま に多大な協力をいただきました。あらためて感謝 いたします。. (佐々木 宰 釧路校准教授). (滝田 彩 更別村立上更別小学校 特別支援教育支援員). 163.
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