1.緒言
2015 年 4 月に食品表示法が施行され,事業者の責任で,科学的根拠を基に,商品パッケー ジに機能性食品の表示ができる機能性表示食品制度がスタートした。機能性食品とは,食 品がもつ機能のうち,「栄養機能」を一次機能,「感覚機能(おいしさ)」を二次機能と定 義し,新たに明らかになった三次機能である「生体調節機能」をもつ食品を,「機能性食品」 として示すものである(藤巻 1988)。これまで,機能性を表示できる食品は,国が個別に 許可した特定保健用食品(トクホ)と国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られてい た。しかし,高齢化が進む中,病気や介護を予防し健康長寿社会を実現するため,より緩 やかな認証方式で,対象成分も拡大した「機能性表示食品」が世界に先駆けて新たに導入 されたⅰ (表 1)。同時に栄養機能食品においても生鮮食品の機能性表示が可能となり,今 後,生鮮食品の機能性表示が増えることが期待される。 生鮮食品における機能性表示が拡大すれば,機能性食品が身近になるという点で,消費 者にも大きなメリットがある。荒井(1997)は,機能性食品は通常食品と医薬品の中間に 位置づけられるものであり,日常の食生活の工夫によって病気を予防したいという人々の The objective for this study is to grasp the degree of recognition with a new food system, its function claims, and how to promote it with appropriate consumer education. The results of the questionnaire survey show: 1)The degree of recognition for the new system is low with consumers who foster a preschool age child, 2)with fresh food, the degree of recognition is low despite the presence or absence of a preschool age child, and 3)false recognitions of function claims by consumers will undermine their willingness to buy foods with those that are valid.機能性表示食品 (food with function claims),生鮮食品 (fresh food), ア ン ケ ー ト (questionnaire),消 費 者 教 育 (consumer education), 食品表示 (food labeling)
キーワード:
〔研究ノート〕
生鮮食品の機能性表示における消費者教育の現状と課題
Current Status and Issues of Consumer Education for Fresh Foods
with Function Claims
藤原なつみ
*(Natsumi Fujiwara)
* 立命館大学(Ritsumeikan university)
願望を反映した現代版「医食同源」の実例だとしている。従来,加工食品やサプリメント が中心であった機能性表示が生鮮食品にも広がることで,気軽に食生活に取り入れやすく なるため,健康を意識する消費者にとって待ち望まれた制度であり,今後,消費者の健康 を維持していくうえで重要な制度だといえよう。 一方で,萱島・井川(2008)が指摘するように,従来,家庭科教育は食品の栄養機能に 重点を置いてきたため,消費者は生体調節機能や機能性成分をはじめとする食品の可能性 に関する基礎知識を体系的に学んでおらず,十分な知識を有していない。特に生鮮食品に おいては,特定保健用食品では表示事例がなく,栄養機能食品では 2015 年まで表示対象 が加工食品に限られていたため,消費者が生鮮食品を購入する際に機能性について目にす る機会はなかった。新たに導入された機能性表示食品制度でも,生鮮食品の事例は 2017 年 11 月 24 日時点で 10 事例と非常に少ないⅱ。このように,生鮮食品においては,機能 性表示が市場に広まっていないために,消費者が実際に商品を手に取る機会が限られてい ることから,認知度は低く,理解が進んでいないことが推察される。 池上ら(2008)が指摘するように,栄養・健康に関する食品表示についての消費者の理 解度や表示方法の課題を扱った国内の先行研究は少なく,さらに,生鮮食品の機能性表示 に関してはほとんど先行研究がない。そこで,本研究では,生鮮食品の機能性表示に関す る消費者の認知度や理解度について現状を把握するとともに,その結果を元に,今後必要 な生鮮食品の機能性表示に関する消費者教育の在り方について検討した。
2.研究方法
(1)仮説の検討 本研究では,生鮮食品の機能性表示への関心が高い一方で,表示について誤解を抱きや すい可能性が高い消費者として,未就学の子を育てる子育て層を想定した。その理由は, 第一に,機能性表示のある生鮮食品の利用意向は 20 代,30 代,60 代女性で高いという調 査結果が出ているためⅲ,第二に,宮腰ら(1999)が食品添加物を例に明らかにしたように, 育児に忙しい母親は食品への関心が高い一方で,実際に「気にする」「表示の確認をする」 人は少ない傾向があると推測されるためである。子育て層の母親は,機能性表示について 表 1 機能性が表示されている食品 特定保健用食品 栄養機能食品 機能性表示食品 認証方式 国による個別許可 自己認証(国への届出不要) 事前届出制 対象成分 国が安全性・有効性を許可 し,審査した許可成分 ビタミン13種類 ミネラル6種類 脂肪酸1種類 事業者の責任で科学的根拠 を届け出た成分 可能な 機能性表示 健康の維持増進に役立つ, 又は適する旨を表示(疾病リ スク低減に資する旨を含む) 栄養成分の機能の表示(国 が定める定型文) 健康の維持増進に役立つ, 又は適する旨を表示(疾病リ スク低減に資する旨を除く) 生鮮食品 対象(但し,事例なし) 対象(2015年∼) 対象 出典 森田(2016)を元に筆者が作成正しく理解をしている場合は購入意思が高いが,実際には食品表示を確認しておらず,正 しく理解していない場合が多いと考えられるⅳ。以上より,20 ∼ 30 代の母親を中心とし た子育て層の消費者は,①機能性表示の認知度が低く,②生鮮食品における機能性表示食 品を誤って理解しており購入意思も低い傾向がある,という仮説を立てた。そして,イン ターネット調査では,家庭に未就学児がいる消費者グループ(子育て層グループ)とそう でない消費者グループ(非子育て層グループ)を設定し,回答結果を比較した。 (2)インターネット調査 2017 年 3 月 17 日∼ 19 日にインターネット調査(委託先:株式会社マクロミル)を行った。 対象者条件は,全国 18 歳以上男女で,スクリーニング調査において「週に 1 回以上小売 店(スーパーマーケット,直売所等)買いものに行く」と回答した 1,030 名とした。さらに, 家庭に未就学児がいる消費者グループ(子育て層グループ)が 515 名,そうでない消費者 グループ(非子育て層グループ)が 515 名となるように割付条件を設定した。回答者全体 の属性は,性別では男性 265 名(25.7%),女性 765 名(74.3%)と女性が多くなっている。 年代別では,10 代 2 名(0.2%),20 代 147 名(14.3%),30 代 668 名(64.9%),40 代 83 名(8.1%), 50 代 74 名(7.2%),60 代以上 56 名(5.4%)と 30 代が最も多く,次いで 20 代が多くなっ ている。その他,未婚者が 98 名(9.5%)に対して既婚者が 932 名(90.5%),子どもなしの 家庭が 127 名(12.3%)に対して子どもありの家庭が 903 名(87.7%)といった内訳となっ ている。なお,子育て層グループの内訳は,性別では女性 433 名,年代別では 20 代 121 名, 30 代 388 名,40 代 6 名となっており,大半を 20 代,30 代女性が占めている。 対象とする生鮮食品は,本研究開始時点で機能性表示を行っている生鮮食品が,温州み かんと大豆もやしの二品目のみとなっていたことから,最初に機能性表示を始めた事例と して,温州みかんでは「三ケ日みかん」(三ヶ日町農業協同組合,以下,JA みっかび), 大豆もやしでは「大豆イソフラボン子大豆もやし(以下,子大豆もやし)」(株式会社サラ ダコスモ)をそれぞれ取り上げた。そして,実際に商品のパッケージ(図 1)を示したうえ, 認知度や理解度,類似商品と比較した際の購入意思について質問し,両グループの回答結 果について独立性の検定を行った。分析にあたっては,IBM SPSS Statistic 23 を用いた。 図1 三ヶ日みかんの表示(左)と大豆イソフラボン子大豆もやしの表示(右)ⅴ
3.結果と考察
(1)機能性表示食品の認知度 機能性表示食品(生鮮食品以外を含む)の認知度については,全体では「聞いたことは あるがあまり知らない(41.5%)」,「なんとなく知っている(40.7%)」という回答が大半 を占め,子育て層で「知らない」という回答が有意に多い傾向にあった(表 2)。「機能性 表示食品」という言葉を知った情報源は,「メーカーの CM,チラシ,新聞広告(57.8%)」 が最も多く,次いで「店頭の商品(34.5%)」と,メーカーが発信する情報が多かった。 「その他(3.4%)」では,「テレビ」「情報番組」「ニュース」などテレビで見たという回答 が 31 名中 19 名で過半数を占めており,消費者教育を受けて知ったとする回答は,「学校」 が 2 名,「家庭科の授業」が 1 名であった(図 2)。 表2 「機能性表示食品」という言葉を知っていますか(N=1,030) 内容もよく知っ ている なんとなく知っ ている 聞いたことはある があまり知らない まったく知らな い 合計 子育て層 32(6.2%) 194(37.7%) 223(43.3%) 66(12.8%) 515(100.0%) 非子育て層 42(8.2%) 225(43.7%) 204(39.6%) 44( 8.5%) 515(100.0%) 合計 74(7.2%) 419(40.7%) 427(41.5%) 110(10.7%) 1030(100.0%) χ2 =8.890,df = 3,p=0.031,有意水準 5%点において有意な結果が得られた 図2 「機能性表示食品」という言葉についてどこで知りましたか(複数回答・N=920) 0% A)メーカーのCM, チラシ,新聞広告 B)新聞・インターネットなどの記事 C)店頭の商品 D)メーカーのホームページ,パンフレット E)インターネットのショッピングサイト F)友人・知人・家族からの口コミ G)その他(ご記入ください:【 】) 57.8 28.8 34.5 7.8 5.3 4.8 3.4 20% 40% 60% 80% 100% (2)生鮮食品の事例 1:三ケ日みかん(JA みっかび) 「三ヶ日みかん」の機能性表示の認知度について,パッケージ(図 1)を示して尋ねた ところ,回答者の 83.0%が「表示を見たことがない」と回答しており,子育て層と非子育 て層の間で有意な差はなかった(表 3)。類似商品(かんきつ類)と価格を比較した際の 購入については,「類似商品(かんきつ類)と比べ,価格が同じなら購入したい」という 回答が過半数で最も多く,子育て層と非子育て層の間で有意な差はなかった。(表 4)。 さらに,それぞれの理由を自由記述にて尋ね,「健康維持できそうだから」「食べる事に よって体にとって良い事があるから」といった類似の回答を,「健康によい・体によい」 という一つのカテゴリとして分類して集計した。その際,「届出表示の骨の健康に役立つ という言葉が気になるので,体にいいものなら食べてみたい」といった二つ以上の要素を含む回答は,「健康によい・体によい」「骨の健康によい・骨粗鬆症によい」の両方のカテ ゴリにおいて集計対象とした。 その結果,特に購入意思が高いと推察される「価格が高くても購入したい」と回答した 層では,理由として「健康によさそう・体によい(27 名)」が最も多く挙げられており,「骨 の健康によい・骨粗鬆症によい(8名)」など表示内容に対する理解をした上で回答して いることが見てとれる回答例も複数見られた。一方,購入意思が低いと推察される「価格 が安くても購入したくない」と回答した層では,「余計な添加物が入っていそう(34 歳・ 女性)」「不自然さを感じる(66 歳・男性)」(いずれも「安全ではなさそう・不信感がある」 の回答例)など表示内容に対する誤った理解を元に不信感を示す回答が見られた(図 3)。 表3 この機能性表示食品の表示を見たことはありますか:三ヶ日みかん 店頭で見たこと がある 店頭ではないが,テ レビや新聞等の媒体 で見たことがある 見たことがない その他 合計 子育て層 61(11.8%) 28(5.4%) 426(82.7%) 0(0.0%) 515(100.0%) 非子育て層 50( 9.7%) 36(7.0%) 429(83.3%) 0(0.0%) 515(100.0%) 合計 111(10.8%) 64(6.2%) 855(83.0%) 0(0.0%) 1030(100.0%) χ2=2.101,df = 2,p=0.350,有意水準 5%点において有意な結果は得られなかった 表4 機能性表示のある食品を購入したいですか:三ヶ日みかん 価格が高くても 購入したい 価格が同じなら 購入したい 価格が安ければ 購入したい 価格が安くても 購入したくない 合計 子育て層 43(8.3%) 293(56.9%) 138(26.8%) 41( 8.0%) 515(100.0%) 非子育て層 51(9.9%) 280(54.4%) 132(25.6%) 52(10.1%) 515(100.0%) 合計 94(9.1%) 573(55.6%) 270(26.2%) 93( 9.0%) 1030(100.0%) χ2=2.410,df = 3,p=0.492,有意水準 5%点において有意な結果は得られなかった 図3 類似商品と比べて価格が安くても購入したくない理由:三ヶ日みかん(N=93) 21 10 7 7 5 5 5 4 4 2 2 21 0 5 10 15 20 25 30 みかんを買わない・食べない 特になし・なんとなく 安全ではなさそう・不信感がある 特定の商品を買っている まずそう よくわからない・表示が理解できない こだわり・興味がない 味を重視している みかんに機能性を求めない 価格を重視している 表示の栄養素は不要である その他 また,パッケージ(図 1)を示した上で,商品の特徴としてあてはまるものを選択して もらう設問では,実際に表示されている「特定の成分において栄養価が高い(68.9%)」が 最も多く選択されたものの,「添加物が含まれている(3.7%)」のように,表示されておら
ず且つ誤った内容の選択肢を選んだ回答者も一部存在しており,表示を誤認している消費 者が存在していることが確認できた(図 4)。 図4 商品にどのような特徴があると思いますか:三ヶ日みかん(複数回答・N=1,030) A)安全性が高い B)安全性が低い E)味がおいしい F)味がおいしくない G)添加物が含まれている H)添加物が含まれていない I)すべてあてはまらない C)特定の成分において栄養価が高い D)特定の成分において栄養価が低い 0% 20% 40% 60% 80% 100% 29.7 68.9 1.7 1.9 1.0 3.7 8.3 11.4 16.4 (3)生鮮食品の事例 2:大豆イソフラボン子大豆もやし(株式会社サラダコスモ) 「子大豆もやし」の機能性表示の認知度については,回答者の 91.3%が「表示を見たこ とがない」と回答しており,子育て層と非子育て層の間で有意な差はなかった(表 5)。 類似商品との比較については,「類似商品(もやし)と価格が同じなら購入したい」とい う回答が最も多く(50.3%),子育て層と非子育て層で有意な差はなかった(表 6)。 表 5 この機能性表示食品の表示を見たことはありますか:子大豆もやし 店頭で見たこと がある 店頭ではないが、テ レビや新聞等の媒体 で見たことがある 見たことがない その他 合計 子育て層 37(7.2%) 12(2.3%) 465(90.3%) 1(0.2%) 515(100.0%) 非子育て層 30(5.8%) 10(1.9%) 475(92.2%) 0(0.0%) 515(100.0%) 合計 67(6.5%) 22(2.1%) 940(91.3%) 1(0.1%) 1030(100.0%) χ2=2.020,df = 3,p=0.568、有意水準 5%点において有意な結果は得られなかった 表 6 機能性表示のある食品を購入したいですか:子大豆もやし 価格が高くても 購入したい 価格が同じなら 購入したい 価格が安ければ 購入したい 価格が安くても 購入したくない 合計 子育て層 55(10.7%) 266(51.7%) 127(24.7%) 67(13.0%) 515(100.0%) 非子育て層 64(12.4%) 252(48.9%) 123(23.9%) 76(14.8%) 515(100.0%) 合計 119(11.6%) 518(50.3%) 250(24.3%) 143(13.9%) 1030(100.0%) χ2 =1.689,df = 3,p=0.639、有意水準 5%点において有意な結果は得られなかった さらに,それぞれの理由を自由記述において尋ね,三ヶ日みかんの例と同様に,類似の 回答は一つのカテゴリとして集計した。その結果,「価格が高くても購入したい」と回答 した層では,理由として,「栄養・栄養成分が含まれている(37 名)」が最も多く挙げら れており,「葉酸が含まれている(11 名)」「イソフラボンが含まれている(4 名)」など具 体的な栄養素の名称を挙げたり,「妊娠中なので葉酸を積極的にとりたい」など,自身の
体の状態を踏まえたうえで選択していたりと,しっかりと表示内容を理解していることが 窺える回答がみられた。それに対して,「価格が安くても購入したくない」と回答した層 では,その理由として「違いがわからないのでふつうのもやしでよい」など,緑豆もやし との差異が十分に伝わっていないとみられる回答が多かった。三ヶ日みかんの例と同様に 「遺伝子組み換えっぽいから(37 歳・女性)」「加工度が高そうに見えるので買わない。な るべく自然のものを購入したい(31 歳・女性)」(いずれも「安全ではなさそう・不信感 がある」の回答例)など,誤った理解に基づく回答も見られた(図 5)。 また,パッケージ(図 1)を示した上で,商品の特徴として該当するものを選ぶ設問では, 実際に表示されている「特定の成分において栄養価が高い(68.3%)」が最も多く選択され たものの,「添加物が含まれている(4.1%)」のように,表示されておらず且つ誤った内容 の選択肢を選んだ回答者もおり,表示を誤認している消費者の存在が確認できた(図 6)。 (4)考察 まず,機能性表示食品に対する認知度は子育て層で有意に低いことがわかった。但し, 本研究では,子育て層の大半が 30 代であるのに対し,非子育て層が 40 代以上の回答者を 多く含んでおり,さらに年代が上がるほど認知度は高かったため,未就学の子の有無では なく,年齢が結果に影響している可能性にも留意する必要があるだろう 。 図 5 類似商品と比べて価格が安くても購入したくない理由:子大豆もやし(N = 143) 19 0 5 10 15 20 20 17 17 16 9 7 4 3 2 2 2 25 25 30 35 40 ふつうのもやしでよい もやし/豆もやしを買わない・食べない 特になし・なんとなく まずそう 安全ではなさそう・不信感がある 特定の商品を買っている こだわり・興味がない 商品を知らない・見たことがない もやしに機能性を求めない パッケージが嫌い 量が少なそう 中身が見えない その他 図 6 商品にどのような特徴があると思いますか:子大豆もやし(複数回答・N=1,030) A)安全性が高い B)安全性が低い E)味がおいしい F)味がおいしくない G)添加物が含まれている H)添加物が含まれていない I)調理が容易である J)料理に手間がかかる K)すべてあてはまらない C)特定の成分において栄養価が高い D)特定の成分において栄養価が低い 0% 20% 40% 60% 80% 100% 24.7 68.3 1.7 2.4 1.5 4.1 6.1 1.2 16.5 12.2 14.0
次に,生鮮食品の機能性表示の認知度は,三ケ日みかんと子大豆もやしのいずれも認知 度が低く,子育て層と非子育て層で有意な差はなかった。さらに,生鮮食品の購入意思で も,子育て層と非子育て層で有意な差はなかった。そして,購入意思が高い層では,比較 的正確に表示内容が理解されている一方で,購入意思が低い層では,生鮮食品の機能性に 関して誤った理解をしている回答例が見られた。 以上より,本研究の仮説であった,①未就学の子を持つ消費者は,機能性表示の認知度 が低い,という点に関しては,「未就学の子を持つ消費者は,他の消費者に比べて認知度 が低い。但し,未就学の子の有無ではなく回答者の年齢が影響している可能性もある」,「生 鮮食品においては,未就学の子の有無に関わらず,全体的に機能性表示の認知度が低い」 ことが明らかになった。また,②未就学の子を持つ消費者は,機能性表示食品の購入意思 は低い傾向にある,という点に関しては,三ヶ日みかんと子大豆もやしを対象とした限定 的な調査結果ではあるが,「機能性表示のある生鮮食品の購入意思の高さは,未就学の子 の有無には影響は受けない」,「購入意思の高さは,表示内容を正しく理解できているか否 かに影響を受けている可能性がある」ことが明らかになった。 それでは,機能性表示食品はなぜ誤って理解されてしまうのだろうか。その理由として, 第一に,消費者が食品の三次機能である「機能性」を十分に理解していないことが考えら れる。小田嶋(2016)が指摘しているように,「一次機能」である栄養機能を活用する仕 組みは国家レベルでの体系化がなされているのに対し,「三次機能」は,その研究の歴史 が相対的に浅く,身体に対する作用も多様で複雑であるため,国が健康政策に積極的に取 り入れるには至っておらず,国民への教育啓発も十分にはなされていない。食品自体がも ともと「機能性」を有していることの理解がないために,機能性表示が,「添加物」「人工 的」といった誤った印象を与えてしまっていると推察される。 第二に,食品表示全般において教育の機会が少ないことが考えられる。食品表示法は, 基本理念において,「消費者に対し必要な情報が提供されることが消費者の権利」である としている(食品表示法 3 条)。しかし,消費者庁作成のパンフレットによる意識啓発等 は行われているものの,消費者が食品表示について学ぶ機会は限定的である。食品表示を 実際の消費行動に活かしていくために必要な知識や情報の量は膨大であるうえに,それら は日々更新されていくため,学校教育等において普遍的な知識の教育を行うことできても, その後,継続的に最新の制度について教育を行っていくことは困難であろう。 こうした現状を打破するために,食品表示制度に関する新たな消費者教育のあり方を提 言するとすれば,第一に,萱島・井川(2008)が提案したように,家庭科において,食品 の機能性を総合的に学ぶことできる授業を構築することが有効だろう。機能性に対する理 解が進めば,機能性食品に対する誤解は減少していくと期待される。第二に,子育て世代 において機能性表示食品の認知度が低かったことを踏まえ,妊娠中の女性に市町村が行う 保健指導等において,食品表示制度や機能性について学ぶ機会を提供することも有効だろ う。機能性表示の認知度の低さには,子育て中であることではなく年齢が影響している可 能性もあるが,その場合であっても,妊娠中の保健指導は,対象が女性の一部に限定され るものの,若年層の成人が保健や栄養について学ぶ場であることから,一つの機会として
有効であると考えられる。第三に,食品製造業者や小売店など事業者の協力を得て,現状 の食品表示や POP 等による情報発信の中で,食品の機能性を伝えていくことが効果的だ と考える。消費者への教育においては,学校教育等に加え,日常的な消費行動の中におい て繰り返される学びが重要な役割を果たす。そこで,食品表示そのものを,意識啓発の機 会と捉え,事業者がより消費者にとってわかりやすい情報発信ができるようなしくみを構 築するのである。現状の機能性表示食品制度では,消費者の誤認を防ぐために,食品製造 者などの事業者に正確な表現を求めることが重視されている。虚偽誇大広告を防ぐための 規制は必要だが,一方で,事業者の情報発信が,消費者の食品表示についての理解を深め るうえで大きな役割を果たしていることも確かであろう。本研究においても,機能性表示 食品を知ったきっかけとして「食品メーカーの CM,チラシ,広告記事」を挙げる回答が 多くなっているように,事業者が機能性表示食品の認知度を高める役割を果たしているこ とが明らかになっている。具体的には,生鮮食品の機能性に関する研究成果を,生産者や 小売店からの協力を得て,売り場においてわかりやすく表示するなど,科学的根拠を示し ていくことも,食品の機能性について理解を促す手助けとなるだろう。
4.結語
本研究では,研究対象が温州みかんと大豆もやしに限られていること,機能性表示のな い三ケ日みかんや子大豆もやしの認知度と相対的な比較を行っていないこと,生鮮食品以 外の機能性表示食品の認知度と比較した上で生鮮食品の機能性表示の認知度の低さを証明 しているわけではないこと,認知度の高さは未就学の子の有無と年齢のどちらにより影響 を受けるのかは明確にならなかったこと,などの限界はあるが,未就学児の有無にかかわ らず,生鮮食品の機能性表示についての認知度は低い傾向にあること,購入意思が低い回 答者層には,誤った理解をしている例が複数見られることを明らかにした。 こうした消費者の理解不足は,機能性表示制度の普及と正しい活用を妨げる要因になる。 医薬品に頼らず,消費者自身が食生活の工夫によって健康寿命の延伸を実現していくため に,機能性成分を活用することの有用性は大きい。食に関する多くの情報が横溢する中で, 正確な情報を得て食生活に活かしていくためには,食品の機能性と食品表示制度に関する 消費者教育を,それぞれに進めていく必要があるといえる。 【謝辞・附記】 本研究では,株式会社サラダコスモ 研究開発部 中田様,石川様,三ヶ日町農業協同組 合 柑橘課 宮崎様から,貴重なご意見をいただきました。また,この研究の一部は,公益 財団法人食生活研究会の研究助成を受けて実施しました。ここに記して感謝申し上げます。 注 ⅰ 生鮮食品に機能性表示が導入された経緯,ねらい,今後の課題等は以下の資料を参照規制改革会議「規制改革に関する答申∼経済再生への突破口」(2013 年6月5日公表) http://www8. cao. go. jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130605/item1. pdf
規制改革推進会議第 1 回専門チーム会合(2017 年 11 月 22 日開催)
http://www8. cao. go. jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/hotline/20171122/agenda.html ⅱ 消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索データベース」
http://www. fld. caa. go. jp/caaks/cssc01/(2017 年 11 月 24 日閲覧)
2017 年 11 月 24 日現在,1,179 品目に掲載されている中で,生鮮食品は 10 品目で,内訳はみ かん(β−クリプトキサンチン)と大豆もやし(大豆イソフラボン)のみである。生鮮食品の 機能性表示食品としての届出・受理数が少ない原因は湯田(2017)を参照。 ⅲ (公社)日本通信販売協会「機能性表示食品制度に関する調査について」(2017 年 11 月 30 日閲覧)http://www. jadma. org/pdf/2016/supplement_survey. pdf ⅳ 本研究で実施した質問紙調査法による予備調査(対象者:A 市私立保育園の母親と職員 20 名,内訳:年齢 30 ∼ 60 代/性別 男性 1 名・女性 19 名,調査期間:2016 年 12 月 13 日∼ 28 日) においても,20 名中 14 名が機能性表示制度について「まったく知らない」「聞いたことはあ るがあまり知らない」と回答し,機能性表示のある生鮮食品に対して「人工的な手を加えた商 品だと思う」など,誤った理解をしている回答例も見られた。
ⅴ 三ヶ日みかんについて JA みっかび http://www. ja-shizuoka. or. jp/mikkabi/ 子大豆もやしについて 株式会社サラダコスモ http://www. saladcosmo. co. jp/ ⅵ 本研究結果では,回答者全体の世代別にみると,「内容もよく知っている」「なんとなく知っ ている」と回答する割合は,20 代の 39.5%(N=147),30 代の 46.4%(N=668)に対し,40 代 が 57.8%(N=83),50 代が 54%(N=74),60 代以上が 64.3%(N = 56)と高い年代層におい て認知度が高い傾向にあった。 【引用文献】 荒井綜一(1997), 食品の機能−その研究の現状と未来像−, 日本家政学会誌, Vol 48, No.7, 645 ∼ 652 藤巻正生(1988), 食品機能:機能性食品創製の基盤, 学会出版センター 池上幸江・山田和彦・池本真二・倉田澄子・清水俊雄・藤澤由美子・由田克士・和田政裕・ 坂本 元子(2008), 栄養・健康表示の社会的ニーズの解明と食育実践への活用に関する研究, 日本 栄養・食糧学会誌, 61(6), 285 ∼ 302 萱島知子・井川佳子(2008), 消費者雑誌にみる食品の機能性の記事に関する研究, 日本食生活 学会誌, 19 巻, 2 号, 124 ∼ 131 宮腰由紀子・西田美佐・塩原正一(1999), 母親の食品添加物への意識と行動―出産・育児によ る変化―, 順天堂医学, 45(1), 51 ∼ 63 森田満樹(2016), 食品表示法ガイドブック 判断に迷わない新しい食品基準のポイント, ぎょう せい 小田嶋文彦(2016),機能性表示食品制度の意義と課題,ファルマシア,52(6), 515 ∼ 519 湯田直樹(2017), 届出状況から読み解く機能性表示食品, 健康・栄養食品研究, Vol16, No.1, 1 ∼ 10