海浜植物イソスミレの汀線 ─ 内陸傾度における出現位置
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(2) 118. 植生学会誌 ♦ Vegetation Science Vol. 37, No. 2, 2020. にしていくことは,保全対象種の生育状況を把握する だけでなく,その生育立地特性を理解していく上でも 有用と考えられる.これまでイソスミレに関し,東北 地方や北海道地方の砂質海岸においてコウボウムギ, シロヨモギ,ハマゴウ,ハマナス,ハイネズなどと共 に生育し,砂丘の草本植生や矮小低木林を構成してい る こ と( 宮 脇 1977; 鈴 木 1987,1988; 中 西・ 福 本 1994) ,山陰地方東部において大面積の砂質海岸に 偏って分布し(Kuroda & Sawada 2019),ハマゴウ群 落 の エ リ ア を 中 心 に み ら れ る こ と(Kuroda & Tetsu 2017)などが示されているが,本種に着目した調査事 例はなく,生育状況の実態や生育立地特性に関する知 見は不足している.そこで本研究では,汀線 ─ 内陸 傾度におけるイソスミレの出現位置と本種の生育する 海浜植生の成帯構造を明らかにするために,各地の砂 質海岸でベルトトランセクト調査を行った.. ■ 調査地の概要 イソスミレの国内分布域をおおよそカバーするよう に, 調 査 は 京 都 府(K), 石 川 県(I), 新 潟 県(N), 山形県(Y) ,青森県日本海側(A1),同県太平洋側 (A2) , 北海道(H)の砂質海岸計 7 ヶ所で行った(Fig. 1) .保全の観点から地名などの詳細は伏せる.各調査 地最寄りの気象観測所における 1981-2010 年の平年値 によると(気象庁,https://www.jma.go.jp/jma/menu/me 130E. 40N. 140E. A1(6) Y(5) N(4) I (2,3) K(1). H(9) A2(7,8). nureport.html, 2019.5 参照),年平均気温は 7.2-15.2°C, 最寒月平均気温は −4.1-5.0°C,暖かさの指数は 57.5121.6°C・月,寒さの指数は −30.6-0.0°C・月の範囲に あり,京都府,石川県,新潟県,山形県の調査地が暖 温帯に,青森県,北海道の調査地が冷温帯に含まれ る.また,年降水量は 1281-2365 mm の範囲にあり, 京都府,石川県,新潟県,山形県,青森県日本海側の 調査地は冬季に積雪・降水量の多い日本海式気候下に ある.積雪の多さは北西季節風の影響によるもので, これらの地域の平均風速は冬季に大きい傾向にある. 国内の暖温帯や冷温帯の海浜植生では,汀線から内 陸方向に向かって,植被の疎らな打ち上げ帯,草本性 の海浜植物が主体となる草本帯(コウボウムギ帯,ハ マニンニク帯,ケカモノハシ帯など),木本性の海浜 植物が優占する矮低木帯(ハマゴウ帯,ハマナス帯な ど),木本性の内陸植物が中心となる低木帯と変化・ 配列する成帯構造が認められる(中西・福本 1987, 1991; 成瀬ほか 1992).このような成帯構造は本研究 の調査地でも観察されたが,実際には開発や人為攪乱 の影響により構造が単純化あるいは破壊された海浜植 生が多くを占めている.最も内陸側に位置する低木帯 はクロマツ植林やその他の土地利用により全ての調査 地で著しく縮小しており,まとまった植分はほとんど みられなかった.. ■ 方法 各調査地を踏査し,イソスミレの分布箇所をおおよ そ把握した後,本種の代表的な生育場所を通るよう に,汀線に対し垂直・内陸方向にライン(1-2 本)を ひいた.その上に 2 m × 2 m の調査区を連続的に設置 し,植生調査を行った.ラインは人為攪乱(人の踏み つけや車両の走行)や外来種(特に外来緑化植物)の 少ない場所に設置するよう努めたが,そのような場所 が見つからなかった場合は人為攪乱跡地や外来種の繁 茂地を通る形で設置した.ラインの終点は低木林やク ロマツ林の前面までを基本とした.植生調査では群落. 30N. Fig. 1. Location of the seven study sites: K, I, N, Y, A1, A2, H. Numerical values in parentheses indicate the belt number (see Fig. 2) .. 高,植被率,出現種(維管束植物)の被度(%)を記 録した.また,オートレベルを用い,ラインに沿って 10 m 以下の間隔で水準測量を行ったほか,漂着物の 堆積状況から高潮線のポイントを記録した.以上の調 査 は 2016 年 7 月 か ら 9 月,2017 年 6 月 か ら 8 月 に 行った. 植生調査で確認された種を海浜植物,内陸植物,外.
(3) 海浜植物イソスミレの汀線 ─ 内陸傾度における出現位置. 来 植 物 に 区 分 し た. こ こ で 海 浜 植 物 は, 澤 田 ほ か (2007)で示された在来の海岸植物(砂浜,砂丘,海 崖,塩湿地など海岸特有の立地に出現し,その他の立 地にはほとんど出現しない在来の維管束植物)のうち 砂浜・砂丘生(浜堤を含む)のものとし,それ以外の 在来植物を内陸植物とした.外来植物は村中(2002) に従って抽出した.学名は BGPlants 和名 ─ 学名イン デ ッ ク ス(YList) (http://ylist.info/index.html, 2019.10 参照)に従った. 調査データをもとに,汀線からの距離・比高と,イ ソスミレおよびその他の主な優占種(いずれかの調査 区で被度 10% 以上を示した種)の被度との関係を図 示した.汀線は東京湾平均海面を基準とし,調査地に 最寄りの観測所の潮位データ(気象庁,https://www. jma.go.jp/jma/menu/menureport.html, 2019.5 参照)と前 浜の傾斜角度をもとに,調査時のデータを補正して求 めた.比高は 2 測量点間の傾斜が直線状に変化すると 仮定し,最終的に調査区ごと算出した.また,植被 率・群落高の変化や海浜植物の移り変わりから,ライ ン上の植生を打ち上げ帯,草本帯,矮低木帯,低木帯 に区分した.海浜地形の用語の定義については中西 (1988)に従い, 「前浜」は低潮時の汀線から高潮時に 波が打ち寄せる限界線までの部分, 「後浜」は高潮時 に波が打ち寄せる限界線から暴風時に波が到達する限 界線までの部分,「砂丘」は風によって運ばれた砂が 堆積してできた丘状の地形, 「浜堤」は波によって打 ち上げられた砂が堆積してできた堤状の地形を表す用 語として使用した.. ■ 結果 汀線からの距離・比高と出現種の被度の関係を Fig. 2 に示す.以下,ベルトごと,地形,成帯構造,イソ スミレの出現位置について述べる.なお,出現種に関 する数値データとして,各調査地における出現頻度の 一覧を電子付録 Appendix 1 に,ベルト 1-9 の各ゾー ンにおける出現頻度と最大被度の一覧を同 Apppendix 2(a-i)に,ベルト 1-9 のイソスミレ出現調査区にお ける被度の一覧を同 Appendix 3(a-i)に示した. ベルト 1(調査地 K) : 後浜の後部はほぼ平坦で 44 m 地点までみられ,そこからやや急に斜上する砂丘 が続いていた.植生は 38 m 地点から始まり,ハマニ ガナが疎らに生育する打ち上げ帯(Z1),ハマニガナ, コウボウムギ,ネコノシタの優占する草本帯(Z2),. 119. ハマゴウの優占する矮低木帯(Z3),エノキの優占す る低木帯(Z4)の順に配列していた.打ち上げ帯と 草本帯の幅はそれぞれ 4 m,8 m と短く,矮低木帯の 幅は 62 m と長かった.イソスミレは矮低木帯の前部 から後部にかけてみられ,その出現位置の幅(最も汀 線寄りから最も内陸側の出現位置までの距離)は約 50 m であった. ベルト 2(調査地 I) : 斜上する後浜が 40 m 地点ま でみられ,そこから同程度の傾斜で砂丘が続く地形で あった.植生は 33 m 地点から始まり,ハマヒルガオ などが疎らに生育する打ち上げ帯,ハマヒルガオ,コ ウボウムギの優占する草本帯,ハマゴウの優占する矮 低木帯と続き,それより内陸側はネムノキ,アオツヅ ラフジの優占する低木帯となっていた.打ち上げ帯, 草本帯,矮低木帯の幅はそれぞれ 6 m,10 m,100 m で,ベルト 1 と同様,矮低木帯が長かった.イソスミ レは矮低木帯の後部から低木帯にかけてみられ,その 幅は約 30 m であった. ベルト 3(調査地 I): 平坦な後浜が 44 m 地点まで のび,そこから直線状に斜上する砂丘が続いていた. 植生は 38 m 地点から始まり,ハマヒルガオなどが疎 らに生育する打ち上げ帯,ネコノシタの優占する草本 帯,ハマゴウの優占する矮低木帯,クロマツの優占す る低木帯と変化した.矮低木帯の幅は 112 m と調査し たベルトの中で最も長かった.イソスミレは矮低木帯 の中ほどでみられ,その幅は約 20 m であった. ベルト 4(調査地 N): 後浜に緩やかな浜堤が続く地 形であった.20 m 地点付近に浜堤が波に削られてで きた急傾斜の部分があり,打ち上げ帯はみられず,草 本帯も一部失われていた.植生は 24 m 地点から始ま り,ハマヒルガオ,コウボウムギ,ハマボウフウ,ハ マエンドウ,カワラヨモギの優占する草本帯,ハマゴ ウの優占する矮低木帯と続いていた.イソスミレは矮 低木帯でみられ,その幅は約 20 m であった. ベルト 5(調査地 Y): 斜上する後浜が 40 m 地点ま でみられ,そこから砂丘がやや階段状となって続いて いた.植生は 38 m 地点から始まり,ハマボウフウ, コウボウムギなどが疎らに生育する打ち上げ帯,ハマ ボウフウ,コウボウムギ,テンキグサなどの多い草本 帯,ハマナス,ナワシロイチゴなどの優占する矮低木 帯,アキグミの優占する低木帯の順に配列していた. 草本帯ではオオハマガヤ,チガヤ,ススキの優占する 植分が一部成立していた.イソスミレは矮低木帯でみ られ,その幅は約 10 m であった..
(4) 120. 植生学会誌 ♦ Vegetation Science Vol. 37, No. 2, 2020. Fig. 2 (1/3). Belt no. 1 (site K, Kyoto Prefecture) ハマニガナ コウボウムギ ネコノシタ ハマゴウ カワラヨモギ イソスミレ ノブドウ エノキ. 10. Z1 Z2. Z3. Z4. 0. 5. HE (m). 15. 20. *Ixeris repens *Carex kobomugi *Wollastonia dentata *Vitex rotundifolia Artemisia capillaris *Viola grayi Ampelopsis glandulosa var. heterophylla Celtis sinensis. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. Distance from shoreline (m). Belt no. 2 (site I, Ishikawa Prefecture) ハマヒルガオ コウボウムギ ハマベノギク ハマゴウ カワラヨモギ イソスミレ アオツヅラフジ ネムノキ ヌカススキ. 10. Z3. Z4. 5. Z1 Z2. 0. HE (m). 15. *Calystegia soldanella *Carex kobomugi *Aster arenarius *Vitex rotundifolia Artemisia capillaris *Viola grayi Cocculus trilobus Albizia julibrissin Aira caryophyllea subsp. multicaulis. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. 140. 160. 180. Distance from shoreline (m). Belt no. 3 (site I, Ishikawa Prefecture) *Calystegia soldanella *Glehnia littoralis *Ischaemum anthephoroides *Wollastonia dentata *Vitex rotundifolia Artemisia capillaris *Viola grayi Cocculus trilobus Paederia foetida Pinus thunbergii. 10. Z1. Z2. Z3. Z4. 0. 5. HE (m). 15. 20. ハマヒルガオ ハマボウフウ ケカモノハシ ネコノシタ ハマゴウ カワラヨモギ イソスミレ アオツヅラフジ ヘクソカズラ クロマツ. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. 140. 160. 180. Distance from shoreline (m). Fig. 2. Changes in height above sea level(HE)and cover for each species along the shoreline -inland gradient in each belt. Fig. 2. Changes in height above sea level (HE) and cover for each species along the shoreline-inland gradient in each belt. Changes Changes in height above sea expressedasas lines formed by connecting the atvalues at the Plant quadrats. Plant is in height above sealevel level are are expressed lines formed by connecting the values the quadrats. cover, which iscover, shown which for shown for Viola grayi (black) andthethe main dominant species (gray) 10%cover or more in any of setis on a Viola grayi (black) and main dominant species (gray) that had that 10% had or more in anycover of the quadrats setthe on aquadrats given line, represented bybybar length withwith five five classes: 50-100%, 10-25%, and1lower than 1%. Inverted indicate trian-50%, 1-10%, -10%, 100%, 25 10-25%, and lower thantriangles 1%. Inverted given line, is represented bar length classes: 50-25-50%, high-tide points. Zone classification is as follows: Z1, tidal drift zone; Z2, herb zone; Z3, dwarf shrub zone; Z4, shrub zone. *Dune -tide points. Zone classification is as follows: Z1, tidal drift zone; Z2, herb zone; Z3, dwarf shrub zone; Z4, gles indicate high species. shrub zone. *Dune species.. - 14 -.
(5) 121. 海浜植物イソスミレの汀線 ─ 内陸傾度における出現位置. Fig. 2 (2/3). Belt no. 4 (site N, Niigata Prefecture). 5. ハマヒルガオ コウボウムギ ハマニガナ ハマボウフウ ウンラン ハマエンドウ カワラヨモギ ハマゴウ ケカモノハシ イソスミレ オオウシノケグサ カワラサイコ. Z2. Z3. 0. HE (m). *Calystegia soldanella *Carex kobomugi *Ixeris repens *Glehnia littoralis *Linaria japonica *Lathyrus japonicus Artemisia capillaris *Vitex rotundifolia *Ischaemum anthephoroides *Viola grayi Festuca rubra var. rubra Potentilla chinensis. 0. 20. 40. 60. 80. 100. Distance from shoreline (m). Belt no. 5 (site Y, Yamagata Prefecture) ハマボウフウ コウボウムギ ハマヒルガオ ケカモノハシ オオハマガヤ チガヤ テンキグサ カワラヨモギ ハマエンドウ ハルガヤ ハマナス ススキ クロマツ ナワシロイチゴ ナキリスゲ イソスミレ ヨモギ アキグミ. 10. Z1. 5. Z2. Z3. Z4. 0. HE (m). 15. *Glehnia littoralis *Carex kobomugi *Calystegia soldanella *Ischaemum anthephoroides Ammophila breviligulata Imperata cylindrica var. koenigii *Leymus mollis Artemisia capillaris *Lathyrus japonicus Anthoxanthum odoratum subsp. odoratum *Rosa rugosa Miscanthus sinensis Pinus thunbergii Rubus parvifolius Carex lenta var. lenta *Viola grayi Artemisia indica var. maximowiczii Elaeagnus umbellata var. umbellata. 0. 20. 40. 60. 80. 100. Distance from shoreline (m). Belt no. 6 (site A1, Aomori Prefecture) コウボウムギ ハマヒルガオ ハマニガナ ケカモノハシ イソスミレ オオウシノケグサ ツルウメモドキ エビヅル チガヤ ハマナス カワラヨモギ. 10 5. HE (m). 15. *Carex kobomugi *Calystegia soldanella *Ixeris repens *Ischaemum anthephoroides *Viola grayi Festuca rubra var. rubra Celastrus orbiculatus var. orbiculatus Vitis ficifolia Imperata cylindrica var. koenigii *Rosa rugosa Artemisia capillaris. Z3. 0. Z2 0. 20. 40. 60. 80. Distance from shoreline (m). Fig. 2. Continued.. Fig. 2. Continued.. - 15 -. 100. 120. 140. 160.
(6) 122. 植生学会誌 ♦ Vegetation Science Vol. 37, No. 2, 2020. Fig. 2 (3/3). Belt no. 7 (site A2, Aomori Prefecture) *Ixeris repens *Leymus mollis *Carex kobomugi *Glehnia littoralis *Calystegia soldanella *Viola grayi *Linaria japonica *Rosa rugosa Pinus thunbergii. Z2. Z3. 5. Z1. 0. HE (m). 10. ハマニガナ テンキグサ コウボウムギ ハマボウフウ ハマヒルガオ イソスミレ ウンラン ハマナス クロマツ. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. 140. 160. 180. 200. 220. Distance from shoreline (m). Belt no. 8 (site A2, Aomori Prefecture) コウボウムギ ハマボウフウ ハマニガナ ハマヒルガオ ウンラン イソスミレ ハマナス クロマツ オオウシノケグサ ケカモノハシ カシワ ヒロハクサフジ サルトリイバラ エビヅル. 10. Z2. Z3. 5. Z1. 0. HE (m). 15. *Carex kobomugi *Glehnia littoralis *Ixeris repens *Calystegia soldanella *Linaria japonica *Viola grayi *Rosa rugosa Pinus thunbergii Festuca rubra var. rubra *Ischaemum anthephoroides Quercus dentata Vicia japonica Smilax china Vitis ficifolia. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. 140. 160. 180. 200. 220. 240. Distance from shoreline (m). Belt no. 9 (site H, Hokkaido Prefecture) *Carex kobomugi *Carex pumila *Leymus mollis Festuca rubra var. rubra *Lathyrus japonicus Arenaria lateriflora *Rosa rugosa Zoysia japonica *Viola grayi Luzula capitata Anthoxanthum nitens var. sachalinense Trifolium repens Vitis coignetiae. コウボウムギ コウボウシバ テンキグサ オオウシノケグサ ハマエンドウ オオヤマフスマ ハマナス シバ イソスミレ スズメノヤリ コウボウ シロツメクサ ヤマブドウ. Z1 Z2. 5. Z3. 0. HE (m). Z2. 0. 20. 40. 60. 80. Distance from shoreline (m). Fig. 2. Continued.. Fig. 2. Continued.. ベルト 6(調査地 A1) : 斜上する後浜が 40 m 地点 までのび,そこからやや急に斜上する砂丘が続いてい た.打ち上げ帯は欠落していた.植生は 38 m 地点か. ら始まり,コウボウムギ,ハマヒルガオ,ケカモノハ シの優占する草本帯に,ハマナスのほか,エビヅル, チガヤの優占する矮低木帯が続いていた.イソスミレ - 16 -.
(7) 海浜植物イソスミレの汀線 ─ 内陸傾度における出現位置. は草本帯の後部でみられ,その幅は約 15 m であった. ベルト 7(調査地 A2) : 低平な後浜が 100 m 地点を 超えてのび,ごく緩やかに斜上する砂丘が続いてい た.植生は 58 m 地点から始まり,ハマニガナ,テン キグサなどが疎らに生育する打ち上げ帯,ハマニガ ナ,コウボウムギ,ハマボウフウの多い草本帯,ハマ ナスとクロマツが混生する矮低木帯と変化した.打ち 上げ帯の幅が 36 m,草本帯の幅が 102 m と長いのが 特徴的であった.イソスミレは草本帯の後部でみら れ,その幅は約 15 m であった. ベルト 8(調査地 A2) : 地形の特徴はベルト 7 と同 様で,平坦な後浜に緩やかに斜上する砂丘が続いてい た.植生は 46 m 地点から始まり,コウボウムギ,ハ マボウフウなどが疎らに生育する打ち上げ帯,ハマニ ガナ,ハマボウフウ,ハマヒルガオの優占する草本 帯,ハマナスの優占する矮低木帯と変化した.草本帯 の幅は 146 m と調査したベルトの中で最も長かった. イソスミレは草本帯の後部から矮低木帯の前部にかけ てみられ,その幅は約 85 m であった. ベルト 9(調査地 H): 斜上する後浜が 20 m 地点ま でみられ,平坦な浜堤が続く地形であった.植生は 17 m 地点から始まり,コウボウムギが疎らに生育す る打ち上げ帯,コウボウムギ,テンキグサの優占する 草本帯,ハマナスの優占する矮低木帯と続いていた が,52 m 地点で矮低木帯は途切れ,コウボウムギの ほか,オオウシノケグサ,シバ,スズメノヤリ,シロ ツメクサ,ヤマブドウなどの目立つ草本帯となってい た.汀線側の草本帯と矮低木帯の間に車両走行の跡が あり(37-39 m 地点),植生が分断されていた.イソ スミレは主として矮低木帯より内陸側の草本帯でみら れ,その幅は約 15 m であった.. ■ 考察. 123. 後部と,ハマナス,ハイネズの優占する矮低木帯でイ ソスミレを確認しているが,その出現位置と幅は今回 認められた傾向と同様であった.ハビタットがやや内 陸側に位置し,かつ限定的であったことから,イソス ミレは海浜植物の中でも開発により失われやすい種で あり,その保全に向けては砂浜・砂丘域(浜堤を含 む)の縮小を避けることが極めて重要と考えられる. このことは,それぞれの地域で十分な個体数を確保 し,個体群内の遺伝的多様性を保持していくためにも 求められる(Hirai et al. 2012).生育適地の解明や効果 的な域内保全方法の検討に向け,今後,サンドブラス ティング(風により吹きつけられる砂の粒子),ソル トスプレー,光条件といった様々な環境因子が本種の 定着・生育に及ぼす影響について調べていく必要があ る. 気候帯別にみると,イソスミレは冷温帯では主に草 本帯,暖温帯では主に矮低木帯でみられるという共通 点があったが,草本帯,矮低木帯それぞれにおける出 現位置の始点は調査地ごとに異なっていた.冷温帯の 調査地 A1(ベルト 6)と調査地 A2(ベルト 7, 8)を 比較すると,低平な後浜と緩やかな砂丘からなる調査 地 A2 の成帯構造は,やや急に斜上する後浜および砂 丘からなる調査地 A1 のそれを内陸側に引き延ばした ような形となっており,草本帯はより内陸側から始 まって幅広く,イソスミレの出現位置もより後方に位 置していた(Fig. 2).中西・福本(1994)は,浜がな だらかで砂丘のピークが内陸にあるところでは波浪の 影響により草本帯が汀線から離れた位置から始まるこ とを指摘している.調査地 A2 のイソスミレも,こう した波浪の影響により出現位置の始点が草本帯のより 後方にあると思われる.また,暖温帯の調査地 K(ベ ルト 1)と調査地 I(ベルト 2, 3)を比較すると,イ ソスミレの出現位置は調査地 I でより後方に位置して いた(Fig. 2).調査地 I の砂丘の傾斜は調査地 K より. 調査地全体でみると,イソスミレは打ち上げ帯,草 本帯の前部,低木帯にはほとんど出現せず,草本帯の. も緩やかで,矮低木帯がより内陸側に伸びていること が特徴的であったが,出現位置の始点が両者で異なる. 後部から矮低木帯を中心的なハビタットとしていた (Fig. 2) .出現位置の幅の平均値は 28.9 m で,草本帯 や矮低木帯の主な優占種であるハマヒルガオ,コウボ ウムギ,ハマボウフウ,ハマゴウなどと比較すると全. 原因について本研究の結果から考察するのは困難で あった. 中西・福本(1987, 1991, 1994)は,地域における季 節風の当たり方や浜の堆積物の粒度の違いが飛砂の多. 般に狭い傾向にあった.本研究の調査地 A1,A2 に近 い津軽半島と下北半島の海浜植生でベルトトランセク ト調査を行った中西・福本(1994)は,コウボウム. 寡を生じさせ,それが海浜地形の形成に影響し,海浜 植生の成帯構造の差異となって表れることを指摘して いる.イソスミレの保全にあたっても,こうした地域. ギ,オニシバ,ケカモノハシなどの優占する草本帯の. の自然地理的条件やそれに起因する成帯構造の特性を.
(8) 124. 植生学会誌 ♦ Vegetation Science Vol. 37, No. 2, 2020. 念頭においておく必要があると考えられる. 今回,調査地 Y および H では外来種の繁茂や人為 攪乱の跡が認められた場所で調査を行った.このうち 調査地 Y では,イソスミレがチガヤ,ナワシロイチ ゴなどの内陸植物のほか,外来植物のハルガヤと混生 しており(Fig. 2),これらの植物に被陰されている状 況が観察された.前面の砂丘で優占するイネ科草本の 中でも,特にその海側斜面を覆う緑化由来のオオハマ ガヤにより後背の立地の安定化が進み,様々な内陸植 物,外来植物の定着が促進され,このような状況が生 じたと考えられる.調査地 H ではイソスミレが被陰 されている状況は認められなかったが,地形が浜堤 で,前面にハマナスの矮低木帯があることから立地は 安定しており(Fig. 2),内陸植物や外来植物が繁茂し やすい状況にあると推察された.調査地 Y や H のよ うな場所でイソスミレの保全を図っていくためには, 競合する植物の除去や生育状況のモニタリングが必要 と考えられる.なお,本研究では調査対象から除外し たが,イソスミレは海岸砂地のクロマツ林でみられる こともある(石川県環境安全部自然保護課 2000; 大 橋ほか 2016) .これらのクロマツ林は伐採・落ち葉掻 きなどの人為により利用,維持管理されてきたもので あるが,燃料革命・肥料革命後に放置され,広葉樹林 化の進んでいるものが多い(山中ほか 2005; 黒田・ 豊原 2017) .クロマツ林に生育するイソスミレの保全 においても,他の草本類や広葉樹が繁茂しないよう注 意する必要があると考えられる.. ■ 謝辞 現地調査に協力いただきました大田千絵様に厚くお 礼申し上げます.本研究には JSPS 科研費 JP15K18817 を使用しました.. ■ 摘要 1. 海浜植物イソスミレの汀線−内陸傾度における 出現位置と本種の生育する海浜植生の成帯構造を明ら かにするために,各地の砂質海岸でベルトトランセク ト調査を行った. 2. 調査地の海浜植生は植被の疎らな打ち上げ帯, ハマヒルガオ,コウボウムギ,ハマボウフウなど草本 性の海浜植物から構成される草本帯,ハマゴウ,ハマ ナスなど木本性の海浜植物が優占する矮低木帯,アキ. グミなど木本性の内陸植物が中心となる低木帯に区分 された. 3. イソスミレは打ち上げ帯,草本帯の前部,低木 帯にはほとんど出現せず,草本帯の後部から矮低木帯 を中心的なハビタットとしていた.出現位置の幅は草 本帯や矮低木帯の主な優占種であるハマヒルガオ,コ ウボウムギ,ハマボウフウ,ハマゴウなどのそれと比 較すると狭い傾向にあった. 4. ハビタットがやや内陸側に位置し,かつ限定的 であったことから,イソスミレは海浜植物の中でも開 発により失われやすい種であり,その保全に向けては 砂浜・砂丘域の縮小を避けることが極めて重要と考え られた.. ■ 引用文献 早坂大亮・藤原一繪 2006. 神奈川県湘南海岸に現存する海 浜植物群落の成立要因.日本緑化工学会誌,32: 346-354. Hirai, M., Kudo, N., Ohsako, T. & Utsumi, T. 2012. Genetic diversity of the endangered coastal violet Viola grayi Franchet et Savatier(Violaceae)and its genetic relationship to the species in subsection Rostratae. Conservation Genetics, 13: 837-848. 石川県環境安全部自然保護課(編)2000. 石川県の絶滅のお それのある野生生物<植物編>─いしかわレッドデータ ブック─.石川県環境安全部自然保護課,金沢. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編)2015. レッドデータブック 2014 ─日本の絶滅のおそれのある野 生生物─ 8 植物 I(維管束植物).ぎょうせい,東京. 加藤雅啓・海老原 淳(編)2011. 国立科学博物館叢書─⑪ 日本の固有植物.東海大学出版会,秦野. Kuroda, A. & Sawada, Y. 2019. Species-area relationships in isolated coastal sandy patches: Implications for the conservation of beach-dune flora in a rocky coastal region of western Japan. Applied Vegetation Science, 22: 522-533. Kuroda, A. & Tetsu, S. 2017. Vegetation zonation and distribution of threatened dune plant species along shoreline-inland gradients on sandy coasts in the eastern part of the San’in region, western Japan. Vegetation Science, 34: 23-37. 黒田有寿茂・豊原源太郎 2017. マツ林.「図説 日本の植生 第 2 版」 (福嶋 司 編),28-31. 朝倉書店.東京. McLachlan, A. & Defeo, O. 2018. The Ecology of Sandy Shores (Third Edition) . Academic Press, London. 宮脇 昭(編)1977. 日本の植生.学研,東京. 村中孝司 2002. 外来種リスト(維管束植物) .「外来種ハン ドブック」 (日本生態学会 編),320-353. 地人書館,東 京. 永松 大・松島 肇 2014. 日本の海浜植生,その現状と将 来への提言.景観生態学,19: 1-3. 中西弘樹 1988. 海浜地形と海浜植生に関する用語について. 植物地理・分類研究,36: 123-126. 中西弘樹・福本 紘 1987. 南日本における海浜植生の成帯 構造と地形.日本生態学会誌,37: 197-207. 中西弘樹・福本 紘 1991. 山陰地方における海浜植生の成 帯構造と地形.日本生態学会誌,41: 225-235..
(9) 海浜植物イソスミレの汀線 ─ 内陸傾度における出現位置. 中西弘樹・福本 紘 1994. 本州最北部の海浜植生の成帯構 造と地形.Hikobia, 11: 575-586. 成瀬敏郎・福本 紘・中西弘樹 1992. 日本の海浜にみられ る植生帯と地形断面形および堆積物の関係.地形,13: 203-216. 岡 浩平・吉﨑真司・小堀洋美 2009. 湘南海岸沿岸域にお ける砂丘の開発が海浜植生に及ぼす影響.景観生態学, 14: 119-128. 大橋広好・門田裕一・木原 浩・邑田 仁・米倉浩司(編) 2016. 改訂新版 日本の野生植物 3 バラ科∼センダン科. 平凡社,東京. 佐々木真二郎・近藤哲也・松島 肇 2002. 北海道石狩海岸 における車両の走行が植生と土壌に及ぼす影響.日本緑化 工学会誌,28: 342-352.. 125. 澤田佳宏 2014. 海浜植物のレッドリスト記載状況と保全上 の課題.景観生態学,19: 25-34. 澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部 保 2007. 日本の海 岸植物チェックリスト.人と自然,17: 85-101. 鈴木邦男 1987. 海岸砂丘矮生植物群落.「日本植生誌 東北」 (宮脇 昭 編),222-229. 至文堂,東京. 鈴木邦男 1988. 海岸砂丘草本植生.「日本植生誌 北海道」 (宮脇 昭 編),204-211. 至文堂,東京. 山中典和・川崎絵里子・玉井重信 2005. 鳥取県における海 岸クロマツ林の林分構造と広葉樹の侵入状況.森林応用研 究,14: 27-33. 由良 浩 2014. 砂丘植生を取り巻く危機的状況とその要因. 景観生態学,19: 5-14..
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