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慶良間国立公園化における海域設定の社会学的考察 : 水深30 メートルという設定を巡って: 沖縄地域学リポジトリ

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Author(s)

圓田, 浩二

Citation

沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of

Humanities and Social Sciences(17): 49-59

Issue Date

2015-03-03

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/19005

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〈論文〉

慶良間国立公園化における海域設定の社会学的考察

―水深 30 メートルという設定を巡って―

The sociological approach to the discussion of the Keramashoto National Park

-Concerning the designation of a 30 meter water depth boundary for the

park-圓田 浩二

*1 要 約  2014 年3月5日、慶良間諸島が環境省から、国立公園に指定された。本報告では、 海域指定にともなってなされた水深 30 メートルという深度の設定が、今回の国立公園 化によって、新たに設定されたものではなく、1990 年代から続く、沖縄本島と慶良間 諸島のダイビング・ショップの利用海域を巡る紛争から生まれたアイディアであるこ とを明らかにする。そして、この水深 30 メートルの深度設定が、慶良間諸島の(地元) ダイビング業者の考え出した苦肉の策であることと、その公式化の3つのプロセス(ラ ムサール条約、エコツーリズム推進法による認可、国立公園化)によることを報告する。 利害関係と既得権維持から出発した海域利用の問題が、サンゴを食害するオニヒトデ の大量発生という事件を通じて、環境保全問題へと発展した。その正統性と手続きに ついて、地域社会やダイビング業者、行政、自治体の関係性を社会学的観点から、フィー ルド調査のデータをもとに、時系列的に分析し、解釈する。 キーワード:エコツーリズム、国立公園、慶良間、スクーバ・ダイビング Abstract

On March 5, 2014 The Kerama Islands, including Tokashiki Village and Zamami Village were designated as a national park by the Ministry of the Environment. However, setting a water depth of 30 meters as the boundary of the park was not simultaneously designated. Since the 1990’s there has been a dispute over the use of the waters by diving shops both from the main island of Okinawa and those of the Kerama Islands. Because of this, the promotion of the 30 meters depth boundary has been proposed by the diving shops of the Kerama islands as a last resort. In this paper I report on three processes which can contribute to the resolution of this issue: the conclusions of the Ramsar Convention, the approval of an ecotourism promotion method, and becoming a national park. The source of the problem of the utilization of the coastal waters started from self-interest and vested rights interests and developed into an environmental conservation problem due to a mass outbreak of Crown of Thorns Starfi sh (Acanthaster) which feed on coral and cause damage. About the legitimacy and procedures of the process, I analyze and

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interpret the relationship between the local community, diving shops, ministries and agencies, and the local governments based on chronological order data of the fi eld investigation from a sociological point of view. Keywords: Ecotourism, National park, Kerama, Scuba diving

1.問題設定  2014 年3月5日、慶良間諸島(渡嘉敷村と座間味村の人口 1562 人 2014 年4月1日時点)は、 沖縄海岸国定公園から除外され、「慶良間諸島国立公園」として、環境省から国立公園に指定さ れた。日本では 31 番目の国立公園の誕生であり、新規の国立公園の指定としては、1987 年の 釧路湿原国立公園の指定以来、27 年ぶりであった。国立公園に指定されたことで、地元の沖縄 では、新聞やテレビなどのメディアによって、大々的に報道された。そこには、3月5日という「サ ンゴの日」に指定という、環境省側の「粋な計らい」もあった。慶良間国立公園を象徴するものが、 サンゴである。慶良間諸島は、サンゴを観光資源に、海水浴客やシュノーケリング、スクーバ・ ダイビング客などを目当てとする海洋観光業が発展してきた。その観光客を当て込んで、民宿 や飲食店、売店などが盛んになった。  今回の国立公園の指定において、特筆すべき点は、 これまでの海域を含んだ国立公園と比べて、海域が 広範にわたって、国立公園内に指定されていること である。大小 30 あまりの島が存在する慶良間諸島全 域を覆う国立公園指定海域が 90,475ha と広大であ り、国立公園指定陸域面積 3,520ha の 25.7 倍となる。 この広大な海域の国立公園化は、ホエール・ウォッ チングのためのクジラの子育て・保護、そして、スクー バ・ダイビングのための特定観光資源としての、サ ンゴ礁の保全という2点がその理由となって可能と なった。陸域から7キロの海域と、水深 30メートル までの海域が、国立公園内に指定された。  本論文の問いは、水深 30 メートルという設定が どのような根拠にもとづいて行われたのかを問うも のである。この問いを解明するための研究方法は、 フィールド調査によって得られた得られたインタ ビュー ・ データや各種資料を用いる。 2.先行研究 先行研究については、以下の3点を紹介したい。一つ目は宮内久光 [2003] による座間味島の 観光化の研究である。この研究では、座間味島における、ダイビング産業による観光地化につ いて、県外出身者が果たした役割について分析している。2002 年までに開業したダイビング・ ショップ 26 軒のうち、県外出身者の経営者が 12 人にも及ぶことに触れている [ 宮内 2003  p.77]。また、座間味島に 2002 年時点で、26 の業者が存在していることについて、「人口規模 を考慮すると、日本有数のダイビングサービス立地密度である」[ 宮内 2003 p.76] と述べて いる。座間味と渡嘉敷村のダイビング業者の集中と過密化が、ダイビング ・ ポイントを巡る、沖 「画像1 「慶良間地域エコツーリズム推 進全体構想」p.2」 「画像2 「慶良間地域エコツーリズム推 進全体構想」p.5」

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縄本島の業者との、コンフリクトの大きな要因となっていく。また、宮内が言及した座間味島 のダイビング業者の集中と過密化の問題が、各島におけるダイビング協会の設立の大きな要因 となっていく。この座間味村におけるダイビング業者の集中と過密化の問題は、業者間での存 亡をかけた「強制と排除」の問題につながっていく [ 圓田 2011]。座間味島は、宮内の指摘す るとおり、「ダイビングを軸とした観光産業の発展」を成し遂げた [ 宮内 2003 p.89]。本稿では、 座間味村が、宮内が現地調査を行った 2002 年からの動き、渡嘉敷村との提携、ラムサール条約 へのサンゴ礁の登録、エコツーリズム推進法による認可、国定公園から国立公園への格上げな どに注目しながら、30 メートルという深度設定を島に観光化という発展をもたらしたダイビン グ産業との関わりから、考察していく。  二つ目は家中茂 [2007] の研究である。観光資源としての「サンゴ礁」について、座間味村で のフィールド調査から、島のダイビング産業の展開からの考察を行っている。特に、観光化の 要因となったダイビングサービスの誕生そのものが、明治時代からの島の基幹産業であった鰹 節製造と海の利用との関連性を指摘している。鰹を生き餌となる小魚がサンゴ礁に群れている ため、漁業によって長年継承された知識がダイビング産業へと継承されたと指摘している。実際、 スクーバ ・ ダイビングでは、多様な海洋生物が生息するサンゴ礁が主要なダイビング・ポイン トとなっている。これを、家中は「ダイビングの鑑賞対象としてのサンゴ礁(商品としてのサ ンゴ礁)」と名付けている [ 家中 2007 p.98]。また、ダイビング・ポイントの保全のための MPA(海洋保護区)の設定と、2001 年に発生したサンゴを食害するオニヒトデの大発生に対 する座間味村のダイビング業者とダイビング協会が選択した独自の取り組み「最重要保全区域 の設定」についても、詳述している。本稿では、家中の研究がなされた後の、慶良間諸島とそ の海域のエコツーリズム推進法による認可と国立公園化による海域利用の問題を検討している。  三つ目は圓田浩二 [2007b] による座間味村におけるダイビング ・ ポイントの保全と利用に関 する研究である。この論文では、ダイビング ・ ポイントの保全とはサンゴ礁の保全のほぼ同義で あることを確認した上で、保全活動に至る経緯(オニヒトデの大発生と駆除活動、そのルール 化)について記述し、ともに駆除活動に参加する体験型調査によって、2007 年までのサンゴ礁 保全の活動の状況について詳述している。そして、座間味村におけるサンゴ礁保全活動の形態は、 三つのタイプに分けることができると紹介している。その三つのタイプとは、①里海、②緩衝 地帯や共生地帯、③人間や社会システムによる積極的関与である [ 圓田 2007b p.72-73]。本 稿との関連では、保全活動を誰が行うのかと、誰がその保全活動がなされたポイントを利用で きるのかという問題につながっていく。 3.時系列的な問題の存在:海は誰のものか?  この問いを解答へと導くためには、慶良間海域の利用を巡る複雑な経緯と問題点を把握して おかねばならない。水深 30 メートルという深度設定は、実は、慶良間海域を巡る歴史的な問題 を抱えていたため、導き出された答えなのである。その経緯を見てみよう。  3-1.ダイビング ・ ポイントを巡る紛争  1990 年代には、慶良間海域での、有名なダイビング ・ ポイントを巡る水上での争いが生じて いる。大型船で多くのダイバーを連れてくる沖縄本島のダイビング業者に対し、小さな船をも つ地元のダイビング業者は、海の利用に関する優先権を主張し始めた。1993 年 4 月 13 日の新

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聞記事「ダイビング 「締め出しは一方的」 沖縄本島の業者が会議」[ 沖縄タイムス 21 面  1版 ] という記事がある。座間味村漁協組合長の名前で、「ポイントでは地元の船を優先させる」 ことを要望してきたことに対して、沖縄本島側の業者が集まって会議を開き、その対応を協議 したという記事である。  1980 年代に、スクーバ ・ ダイビングがマリン ・ レジャーやスポーツとして、人気を博し、沖 縄観光の行動メニューになった時、県都・那覇から 40 キロ離れた慶良間諸島は、その交通の利 便性に加え、海洋観光資源しての美しい砂浜、数多くのサンゴ礁、多様な海洋生物、海中での 高い透明度によって、ダイバーたちにとって、憧れの場所となった。1990 年頃になると、ダイ ビング船が高速化・大型化し、これまでダイビング業者の船では、越えるのが難しかった慶良 間海峡を行き来できるようになった。すると、新聞記事にもあった沖縄本島のダイビング業者 が大型船で多くのダイバーを乗せて、渡嘉敷・座間味両村の地先にあるダイビング ・ ポイントを 使用するようになった。当然のように、渡嘉敷・座間味両村の「地元」のダイビング業者は、当然、 この事態を歓迎することはできず、また黙認することもできなかった。地元の業者の多くは、 小さな船をもつ零細な業者が多かったため、相当な脅威として、その目に映ったであろうと推 測することは難しくない。この事態への異議申立てが上で紹介した新聞記事となる。  例えば、座間味村の阿嘉島にある、慶良間を代表する有名なダイビング ・ ポイント「西にしばま浜」を 例にあげてみよう。その頃のピーク時には、地元のダイビング・ショップのオーナーから、西 浜に一日 1000 人ものダイバーが潜っていたというエピソードを聞いたことがある。西浜は、白 い砂地が広がり、「根」といわれる岩はサンゴに覆われ、そのサンゴの周りには、何種類もの小 型魚とそれを餌とする大型魚、小型のエビやカニなどもサンゴの間や岩の穴に住んでいる。また、 水深が浅いため、初心者クラスのダイバーでも潜水できるという点で、人気を博していた。そ こに、那覇からの何隻もの大型船がやってきて、一隻あたり、一度に 20 人から 30 人ものダイバー を潜らせる。地元の座間味村のダイビング ・ ショップは、その頃、ショップ数が急増しつつある 状況下にあったため、ダイビング ・ ポイントを巡る争いが生じたのである。沖縄を訪れたダイバー たちからは、座間味と沖縄本島の船での「言い争いがあった」場面に遭遇したという証言を直 接に聞いたことがある。観光で訪れているダイバー、つまり「お客さん」が乗船しているのが を承知の上で、その目の前で言い争いが日常的に繰り広げられたのである。  慶良間海域を座間味村側が優先的に利用するための主張は次のようなものであった。座間味 村側は、当初、漁業権を盾に、海面利用に関しての優先的使用を主張した。しかし、漁業権だ けでは、ダイビングによる海の利用を制限 ・ 規制できないことがわかってきた。海面利用権(船 の停泊)では、水中活動を行うダイビングを規制できない。座間味村側は、新たな方策を探る ことになる。  これに影響したと思われるのが、1996 年の東京高裁の 2 審判決である。この判決では、漁協 側による「潜水料徴収に法的な根拠はない」とされた [ 池・有賀 1999 p.15]。そのため、漁 協を通じての、沖縄本島のダイビング業者に対しての、座間味諸島近海でのダイビング船の操 業停止、つまり上の新聞記事での「締め出し」は法的に難しくなった。そのため、座間味村の ダイビング業者は、別の方策を探らなければならなくなった。  3-2.オニヒトデの大発生と駆除活動  また、2000 年代前半に、慶良間海域でサンゴを食害するオニヒトデの大発生が生じ、サンゴ

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の保全活動が活発になった。この保全活動を通じて、地元 ダイビング業者はダイビング ・ ポイントの優先的な利用を 主張していく。この問題については、家中 [2007] や圓田 [2007b] に詳しい紹介と分析がなされているが、2014 年 時点から見た、その後のサンゴ礁保全活動を踏まえつつ、 オニヒトデの大発生と駆除活動について見てゆきたい。  2001 年に慶良間海域で大量発生したオニヒトデは、 サ ンゴを食害するため、被害にあったサンゴは死亡し、白い 石灰質部分の骨格を残して、瓦礫化してしまう。当然、サ ンゴ礁を住処とする、魚類や甲殻類などの海洋生物も居場 所を失ってしまう。そして、ダイビング ・ ポイントしての観光資源的な価値を失ってしまう。 そこで、座間味村のダイビング業者は、「ダイビング協会」を組織化し、保全活動のルール化と 活動を行うことになった。  2002 年には、駆除されたオニヒトデは 6.7 万匹に及んだ。当時は、オニヒトデを一匹ずつ、 金属製の大きなピンセットやトングを使って捕獲していた。また、オニヒトデはその棘に毒を もち、刺されるは大きく腫れ、痛みが長時間続く。さらに、アレルギー体質の人が触れると死 に至る可能性(アナフィラキシーショック)もある。オニヒトデの駆除活動は、海面から時に は数十メートルの深度の海底で行われ、駆除対象であるオニヒトデにも危険性をもっている。 しかも、誰でも行うことができる活動ではない。潜水機器を使うことができる人、つまり地元 のダイビング・ショップのオーナーやスタッフたちによって行われてきた。オンシーズンには、 観光客であるダイバーへの対応で早朝から夜遅くまで時間が割かれるため、主にオフシーズン に、有志のボランティアによって行われてきた。  2004 年の記録によると、座間味村全体で、年 314 回の駆除活動が行われた。その内訳は、座 間味島の 172 回、阿嘉島と慶留間島の 142 回である。そして、オニヒトデの危機は、2005 年 頃には去って行った。オニヒトデ駆除活動の成果によって、いくつかの重要なポイントは保全 された(保全できなかったポイントもある [ 圓田 2007b])。また、オニヒトデの数が激減した ため危機は去り、自然の生物であるサンゴは自然再生を始めた。  現在は、多くのポイントで美しいサンゴ礁と多様な海洋 生物を見ることができる。ちなみに、座間味村、阿嘉島と 慶留間島のダイビング業者が加盟する「あか・げるまダイ ビング協会」では、年間 40 回の保全活動を行っている。 筆者が参加した 2014 年の駆除活動は「西浜」と呼ばれる 有名ポイント近くで行われた。その駆除活動では7つの ショップが参加していた。この1回の活動では、 オニヒト デが1匹、サンゴを食害する巻き貝であるシロレイシガイ ダマシ約 500 匹が捕獲 ・ 駆除された(画像 4 参照)。こ のように、オニヒトデの大量発生の危機が去った後も、座 間味島、阿嘉島と慶留間島、渡嘉敷島、沖縄本島のダイビング業者によって、サンゴ礁保全活 動は行われ続けている。 [ 画像3 瓦礫化したサンゴ 2014.5. 6 撮影 ] [ 画像4 駆除されたオニヒトデとシロ レイシガイダマシ 2014.5.19 撮影 ]

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 3-3.慶良間海域の公式化  スクーバ ・ ダイビングによって観光化に成功し、その観光資源である「サンゴ礁」をアピール しつつも、保全活動を行わざるをえなくなった渡嘉敷村と座間味村は、法律や条約を通じて、 サンゴの保全とその利用を公的なものとしていく運動を行っていく。その公式化のプロセスは 三つ存在する。2005 年のラムサール条約への登録、2012 年のエコツーリズム推進法による認可、 2014 年の国立公園化の三つである。その準備期間として存在した事業があった。それは、沖縄 県が行ったエコツーリズム推進事業三カ年計画である。2002 年から 2005 年まで実施され、慶 良間海域のサンゴ礁がモデル地域として選定され、実施調査と保全利用協定が検討された。結 果的には、有効な対策が見出されることはなかったが、そこでは慶良間海域の公式化に向けて のさまざまなアイディアが生まれ、実施されることになった。  一つ目は、ラムサール条約*2への登録である。ラムサール条約は、1971 年制定された、湿地 の保存に関する国際条約である。慶良間地域は、2005 年 11 月に、そのサンゴ礁 353ha が登録 された。ちなみに、現在のところ、日本国内では、47 の登録地が存在している。  二つ目は、2012 年6月に、国内で2番目の認可を受けたエコツーリズム推進法である。この 法律の認可を受けるためには、「慶良間地域エコツーリズム推進全体構想」を環境省などの各省 庁に提出し、認可を受けなければならない(画像 1 と 2 参照)。認可を受けた後は、この全体 構想の下で、当該自治体が「特定観光資源」に指定した対象物の利用方法と保全方法を条例化 して、この法律を施行しなければならない。渡嘉敷村と座間味村は、特定観光資源として、「サ ンゴ礁」を指定し、陸域から7キロの海域と、水深 30 メートルまでの海域を、保全・管理する ことになった。しかし、認可を受けて 2 年半がたっても、条例化には至っていない。その理由は、 渡嘉敷、座間味、阿嘉 ・ 慶留間、沖縄本島が所属するそれぞれ保全部会の意見がまとまらず、統 一された利用と保全のルールの合意が達成されていないためである。本稿で問題としている水 深 30 メートルという設定は、このエコツーリズム推進法との絡みで、慶良間地域エコツーリズ ム推進全体構想の中に盛り込まれたのである。  三つ目は、2014 年3月の国立公園化である。それまで、慶良間海域は 1978 年に沖縄海岸国 定公園に編入されていたが、そこから昇格する形で慶良間国立公園が成立した。慶良間諸島と その海域は、自然公園法と環境省によって管理されることになった。そのため、自然保護官(レ ンジャー)が配置され、慶良間自然保護事務所が設置されている。慶良間国立公園には、画像 2 で見るように、慶良間地域エコツーリズム推進全体構想で提案された、陸域から7キロの海域と、 水深 30 メートルまでの海域を踏襲する形で、その海域が含まれることになった。  以上のように、座間味村と渡嘉敷村は、公的な機関や団体から認可を受ける形で、観光地と してのブランド化を行うと同時に、その対価である利用と保全に関わるルール作りを行わねば ならなくなった。いわば、ローカルなルールに行われてきた海の利用方法や保全のルールを、 フォーマルなルールとして解釈し、変更していくという運動に参加せざるをえなくなった。エ コツーリズムという考え方が公的な形で入ってきたのが 2002 年、そして 2012 年にエコツーリ ズム推進法による認可を受けた。しかし、エコツーリズム推進法の施行に際しての条例化がで きていないことからわかるように、ルール作りと合意形成に大きな問題を抱えている。その問 題の根幹に関わる問題の一つが、水深 30 メートルという設定である。このことについて考えて みよう。

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4.なぜ水深 30 メートルなのか?  4-1.水深 30 メートル  2012 年のエコツーリズム推進法による認可と、2014 年の国立公園化がなされたことは上で 見てきた。この法的整備の際、水深 30 メートルの深度設定がなされた。この深度設定は、慶良 間諸島の(地元)ダイビング業者の考え出した苦肉の策であった。一般的にいうと、レジャー ・ ダイバーが潜れるのは水深 30 メートルまでとなっている。水深 30 メートルを超えると、血液 中の窒素分圧が高くなるという窒素酔いが生じてくる。現実的にも、一般的なレジャー・ダイ ビングの場合、平均的な潜水深度は 10 数メートル前後で、潜水時間は1回の潜水で 45 分前後 となっており、1 日に2、3回潜ることが多い。「レジャーダイバーのダイブプロフィールを調べ ると、最大深度が約 22 m、潜水時間が 45 分程度である」(山見 2010 p. 1)とされている。  これは、スクーバ ・ ダイビングの認定証である「C カード(Certification Card)」の基準にも 合致している。「オープン ・ ウォター」と言われる初級レベルで、水深は 18 メートルまでの水 域を潜水することができる。通常のダイビングは、10 メートルから 20 メートルの水深で行わ れる。次のレベル以上では、水深 40 メートルまで潜ることができるようになる。しかし、水深 40 メートルの水域では、ダイバーがその水深で活動できる潜水時間はたったの9分である。  エコツーリズム推進法のよる認可と国立公園化で設定 された水深 30 メートルという設定の根拠は、「太陽の光 が届く範囲が 30 メートルくらいで、サンゴが生育でき る」(那覇自然環境事務所の自然保護官へのインタビュー  2014.3.25)からという理由である。しかし、ダイバー の間で「慶良間ブルー」と呼ばれるほどの高い透明度をも つ慶良間海域では、海中の透明度 60 メートルを超えるこ とは多い。もちろん、潮流や天候などの海況に大きく左右 される。実際に、水深 50 メートル海底でも、サンゴは生 息している。右の画像5は、慶良間の海域で、筆者が潜水 したときに撮影した写真である。この画像の中心に小さく映っている魚は、「アケボノハゼ」と 呼ばれる、稀少で美しい小さなハゼの仲間である。観賞魚としても人気のある体長6センチか ら8センチの魚である。この魚は、水深 30 メートルから 55 メートルに生息すると、魚類図鑑 (http://sorairo-net.com/aquarium/fish/kuroyurihaze/001.html 2014.12.13 参照)には書か れている。画像 5 に見るように、水深 50 メートルの海底でも、多くのサンゴを見ることができる。  オープン ・ ウォターはダイビングの初級資格である。その次の資格であるアドバンス・オープ ン・ウォーター・ダイバーでは、水深 40 メートルまで潜ること可能であると決められている。 本来ならば、水深 40 メートルに設定し、ダイバーの資格基準に合わせる方が合理的であると考 えられる。この水深 30 メートルという深度設定は、表向きの名目「サンゴに太陽光線が届くの は水深 30 メートルまで」ではなく、一般ダイバーの潜水深度にもとづいた設定であり、沖縄本 島のダイビング業者の締め出しを狙った深度設定であると推察できるのである。  4-2.海域利用の問題  1993 年の新聞記事に見るように、利害関係と既得権維持から生じた海域利用の問題が、サン ゴを食害するオニヒトデの大量発生という事件を通じて、環境保全問題へと発展した。2007 年 [ 画像5 水深 50 メートルのサンゴ  2014.5.6 撮影 ]

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には、渡嘉敷村と座間味村が「けらま海域保全会議」を組織した。これに対して、沖縄本島側 では「本島けらま保全会議」を組織し、本島の約 150 のダイビング業者中 72 業者がこれに参 加した。  2001 年に大量発生したオニヒトデは、観光資源であるサンゴを食害し、サンゴ礁を損壊させ てしまうため、関係者は保全活動に携わざるをえなかった。駆除活動に熱心であった座間味村は、 膨大な数のオニヒトデの駆除とサンゴの保全という成果を、新聞やテレビといった地元メディ アを経由させて、大きく宣伝した。地元のダイビング業者の保全活動は、慶良間海域のエコツー リズム推進法による認可と、国立公園化によって一応の完成を見ることになる。  しかし、問題は山積している。一つ目は、慶良間海域が、エコツーリズム推進法による認可 を受けたが、まだ施行はされていない。施行に必要な両村での統一した、利用と保全に関する 条例案が両村議会に提出される段階にまで至っておらず、いまだ原案すら公的には作成されて いないという問題である。その理由は、サンゴ礁の保全活動やダイビング ・ ポイントの利用制限 について、渡嘉敷村と座間味村の両村間と沖縄本島という部会間、そして、各部会の内部でも 意見統一ができていないためである。これは大きな問題である。2002 年に沖縄県が行ったエコ ツーリズム推進事業から数えて 10 年目に、慶良間地域エコツーリズム推進全体構想が、環境省 によって、2012 年6月に認可された。2年半たった今でも、両村内での利用と保全に関する条 例が作られていないため、エコツーリズム推進法の施行ができていない。  二つ目は、沖縄本島のダイビング業者の慶良間海域の利用についてである。法律上、ルール に則った保全活動を行えば、沖縄本島のダイビング業者も、慶良間諸島の内海のダイビング ・ ポ イントを利用できるはずである(これまでは、紳士協定にもとづき沖縄本島のダイビング業者 は慶良間の内海のダイビング ・ ポイントを利用できなかった)。この問題が解決されていない。 慶良間諸島と沖縄本島のダイビング業者は、紳士協定によるゾーニングで対応してきた。座間 味村のダイビング業者は、座間味諸島の内海を利用できる。多く見積もると 100 近くダイビン グ ・ ポイントを所有し、そこには数多くの有名なポイントが存在する。渡嘉敷村のダイビング業 者は、渡嘉敷島周辺のおよそ 30 のダイビング ・ ポイントを所有し、利用できる。沖縄本島に所 属するダイビング業者が利用できるのは、渡嘉敷村に属する東側に存在する前島・黒島周辺と、 渡嘉敷島北部と、座間味村内の地元ダイビング・ショップが利用しない許可されたポイントで ある。海域利用に関して沖縄本島側の業者は、エコツーリズム推進法による認可と国立公園化 によって、相対的に立場が弱くなった。渡嘉敷・座間味両村側からすれば、ダイビング ・ ポイン トを無料で利用させてあげている、沖縄本島側からすれば、使わせてもらっている、いつ利用 できなくなるかは予想できないという状況が続いている。  三つ目は、法による規制が遵守されれば、渡嘉敷・座間味村にある既存のダイビング業者が、 慶良間海域で営業ができなくなる可能性があることである。保全活動に参加していない・でき ないダイビング業者が存在している。皮肉なことに、もともと両村外のダイビング業者を閉め 出す目的で成立していた法律の導入や国立公園化が、両村内のダイビング業者を締め出す可能 性をもつことになった。このことが、上で述べた各部会の内部でも意見統一ができていない原 因の一つである。  以上見てきたように、2001 年のオニヒトデの大発生と、2002 年の沖縄県によるエコツーリ ズム推進事業への参加から発展していった、ダイビング ・ ポイントであるサンゴ礁の保全活動 の義務化と「特定観光資源化」によって、渡嘉敷村と座間味村は、エコツーリズム推進法によ

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る認可を得て、そして国立公園化に成功した。そこでは、保全活動をしなければ、ダイビング・ ポイントの利用権が取得できないという論理を形成してきた。こうして、沖縄本島のダイビン グ業者が慶良間のポイントを利用できなくなる可能性が顕在化した。同時に、法の下の平等では、 渡嘉敷 ・ 座間味村内のダイビング業者にも、保全活動に参加しない・できないため、この論理が 厳密に適用されれば、ダイビング ・ ポイントを利用できなくなる業者が出現する可能性が生じて しまった。こうして、エコツーリズム推進法の施行のための、渡嘉敷・座間味両村での統一さ れた保全と利用に関するルールの条例化が困難になる事態を招いている。 5.水深 30 メートルから見える社会  本稿では、「慶良間国立公園化における海域設定の社会学的考察-水深 30 メートルという設 定を巡って-」と題して、2014 年の慶良間国立公園の制定にともない設定された、公園内の海 域における深度設定 30 メートルがなぜ、どういう経緯で決定されたのかを論じてきた。その答 えは、座間味村、渡嘉敷村、沖縄本島のダイビング業者による、ダイビング ・ スポットとして有 名な「ケラマ」を巡る争いから、導き出された深度設定であった。これには、座間味村の歴史 や海の利用に関する文化、そして、1980 年代から本格化したダイビング産業による観光地化が 大きく関連している。  結論としていくつかの論点をまとめてみよう。1990 年代に顕在化した座間味村と沖縄本島業 者による、ダイビング ・ ポイントを利用を巡る利用問題が、約 25 年の時間を経て一応の決着を 見ることになった。エコツーリズム推進法による認可と国立公園化によって、渡嘉敷・座間味 村は、法律を盾として、海の優先的な利用権を獲得した。そして、両村と日本国は、慶良間海 域内の、一般的なレジャー ・ ダイバーが利用できる水深 30 メートルまでの海域を、保全活動の 義務化と利用をセットとして、管理 ・ 利用していくことになった。本島側のダイビング業者にとっ ては、地先以外の公海上の「海の自由」に、利用制限が公的に課せられることになった。渡嘉敷・ 座間味村は、海の利用に関する「大義名分」を得たことになる。  この経緯を、もう一度、歴史的に見てみよう。座間味村は、ま ず漁協を通して、漁業権を盾に交渉したが、これがうまくいかな いことがわかると、渡嘉敷村との提携、ラムサール条約へのサン ゴ礁の登録、エコツーリズム推進法による認可、国定公園から国 立公園への格上げによって、「サンゴ礁」という観光資源の保全 と利用を公的なものにしていった。そのとき、利用されたのが、 ダイバーなどのマリンレジャーを楽しむ観光客や水中写真家、サ ンゴなどの海洋生物に関わる研究者たちによって、長年構築され てきた「慶良間」というブランドであった。このブランドを利用 し、さらに高めていくために、地元の商工会はロゴマークを作成 した。画像6がそれである。  座間味村が採った選択は、結果的に、ローカル・ルールを、フォーマル ・ ルールとナショナ ル ・ ルールへと変えることになった。1990 年代の漁業権を盾にした本島ダイビング業者への自 粛要請は、座間味村の内海を利用しないでほしいという、言うなれば「お願い」であった。そ の要請や「お願い」が法的な根拠をもつことになった。法の下での平等によって、経済的 ・ 人員 的な要因で、座間味・渡嘉敷村の主要なダイビング ・ ポイントへの保全活動の人員を提供できな [ 画像6 慶良間のブランド化 のロゴマーク ]

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い本島業者は、渡嘉敷・座間味村側が利用しないポイントを利用したいと「お願い」を行って、 いわば「利用させてもらっている」。2001 年のオニヒトデの大量発生によって生じたダイビン グ観光の存亡の危機回避のために行った座間味村の保全活動が村外の主体(アクター)であった、 メディアや研究者によって評価されることによって、海の利用に関する発言力を増していった。 そして、海域に存在するサンゴ礁を「特定観光資源」として位置づけ、保全活動と利用を結び つけた。慶良間海域の利用は、エコツーリズム推進法による認可と国立公園化によって、法的 ・ 公的に、制限されることになった。こうして、座間味村側のダイビング業者は、ダイビング ・ ポ イントの利用を巡る問題に、一応の決着をつけた。  30 メートルという深度設定は、言わば「苦肉の策」であった。そのために、保全活動のルー ルを厳しく適用すれば、村内のダイビング業者がその基準を満たすことができないため、ダイ バーを潜らせることができない、営業活動ができないという問題が生じた。エコツーリズム推 進法による認可から2年半を経た現在でも、両村内での利用と保全に関する条例が作られてお らず、エコツーリズム推進法の施行が行われていないのは、その証左と言えるだろう。  また、国による 2014 年の慶良間諸島国立公園の制定によって、日本国もまた、サンゴ礁の保 全や管理の義務がもつことになった。今後、エコツーリズム推進法と国立公園とがどのように 関連し合うのか、慶良間の美しい海がどのように利用されていくのか、保全 ・ 管理されていくか について、今後も注目していきたい。 謝辞  本研究は、文部科学省による科学研究費助成事業、課題番号 23530715、「エコツーリズム導 入に関する社会運動論的考察―環境保全と観光利用の両立―」による研究成果の一部である。 注 *1 沖縄大学 人文学部 国際コミュニケーション学科 教授 *2 ラムサール条約とは 1971 年に制定され、1975 年に発効した湿原の保存に関する国際条約 である。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat)である。当初 は、水鳥にとって貴重な生息地である湿地における生態系を守る目的で作られた。「ラムサー ル条約」という通称は、この条約に関する最初の国際会議がイランの都市ラムサールで開催 されたためである。慶良間諸島周辺沿岸は、2005 年 11 月8日にラムサール条約に登録され た。重要湿地選定基準として、4つの基準を満たしているとされ、認定を受けた。1: 湿原・ 塩性湿地、河川・湖沼、干潟・マングローブ林、藻場、サンゴ礁のうち、生物の生育・生息 地として典型的または相当の規模の面積を有している。2: 希少種、固有種等が生育・生息 している。3:多様な生物相を有している。5: 生物の生活史の中で不可欠な地域(採餌場、 産卵場等)である。慶良間諸島周辺沿岸といっても、具体的には、サンゴ礁、砂浜、浅海域 である。 文献リスト 藤澤宜広 2006 「慶良間諸島海域におけるサンゴ礁保全交渉」『地域研究』2号 pp. 3-17 池俊介 ・ 有賀さつき 1999 「伊豆半島大瀬崎におけるダイビング観光の発展」 『新地理』47

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巻 pp.1-22 海洋観光資源の利活用方策に関する調査ワーキング委員会 2003 『海洋観光資源の利活用方 策に関する調査報告書』国建 圓田浩二 2006 「沖縄への本土移住者たち:『ダイビングの島』の発展と変容」三浦耕吉郎編『構 造的差別のソシオグラフィ』世界思想社 pp.274-299 圓田浩二 2007a 「座間味村におけるスキューバ・ダイビングの歴史とその課題」『沖縄大学 人文学部紀要』9号 pp.33-41 圓田浩二 2007b 「海洋観光資源の保全の試みに対する社会学的考察-座間味村におけるダイ ビング・ポイントの利用と保全を事例として-」『沖縄大学人文学部紀要』10 号 pp.65-76 圓田浩二 2009 「日本におけるスクーバ・ダイビングの変容- 1950 年代から 1990 年代まで -」 『沖縄大学人文学部紀要』第 11 号 pp.1-11 圓田浩二 2011 「排除と共生-座間味村のダイビング・ショップ問題-」『沖縄大学人文学部 紀要』12 号 pp.83-94 宮内久光 2003 「座間味島の観光地化と県外出身者の存在形態」 平岡昭利編『離島研究』海 青社 pp.71-92 高橋勅徳 2007 「座間味村におけるダイビング事業の成立とサンゴ礁保全-ダイビング事業 者による資源管理-」『環境社会学研究』13 号 pp.204-213 渡嘉敷村エコツーリズム推進協議会・座間味村エコツーリズム推進協議会 2012 「慶良間地 域エコツーリズム推進全体構想」  環境省 http://www.env.go.jp/nature/ecotourism/try-ecotour is m/cotourism/certification/kerama/kousou/images/document/kousou.pdf 山 見 信 夫 2010 「 減 圧 症 に な ら な い 潜 り 方 」 "Medical Information Network for Divers

Education and Research“ 論文 42  http://www6.ocn.ne.jp/~minder/page058.html 家中茂 2007 「社会関係のなかの資源-慶良間海域サンゴ礁をめぐって-」『自然の資源化』 

参照

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