特集にあたって -- なぜ軍政は生き残れたのか (特
集 ミャンマー軍政の二〇年 -- 何が変わり、何が
変わらなかったのか)
著者
工藤 年博
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
155
ページ
2-3
発行年
2008-08
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004937
アジ研ワールド・トレンド No.55(2008. 8)― 2
特
集
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政
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工藤年博
ミ ャ ン マ ー 関 連 の 記 事 検 索 を し て み る と 、 多 く の 記 事 で 、 軍 事 政 権 、 民 主 化 運 動 の 弾 圧 、 内 戦 、 経 済 低 迷 、 貧 困 、 自 然 災 害 な ど の 見 出 し が 踊 る 。 こ の 国 が 、 途 上 国 が 抱 え る 多 く の 開 発 問 題 に 直 面 し て い る こ と は 明 ら か で あ る 。 か つ て あ る エ コ ノ ミ ス ト は 、 「 開 発 経 済 を 学 び た い の な ら ば ミ ャ ン マ ー を 勉 強 す べ き で あ る 」 と 言 っ た 。 こ の 発 言 は 二 〇 年 前 も 現 在 も 変 わ ら ず に 、 的 を 得 て い る 。●
軍
政
登
場
の
衝
撃
一 九 八 八 年 、 ミ ャ ン マ ー に 軍 事 政 権 が 登 場 し た 。 現 在 に 至 る ま で 権 力 を 握 り 続 け る こ の 軍 政 の 登 場 は 、 そ の 後 の ミ ャ ン マ ー の 政 治 体 制 、 経 済 体 制 、 少 数 民 族 問 題 、 国 際 関 係 な ど 、 実 に 多 岐 に わ た る 分 野 に 影 響 を 与 え る 大 事 件 で あ っ た 。 軍 政 は す ぐ に 体 制 転 換 ― 対 外 開 放 、 市 場 経 済 化 、( 軍 政 主 導 の ) 民 主 主 義 へ の 移 行 、 反 乱 軍 と の 停 戦 な ど ― を 進 め 、 国 民 和 解 と 経 済 発 展 を 目 指 し た ( い や 、 目 指 し た か に 見 え た )。 軍 政 の 登 場 を 受 け 、 ミ ャ ン マ ー を 取 り 巻 く 国 際 環 境 も 大 き く 変 化 し た 。 欧 米 諸 国 は 民 主 化 の 遅 れ と 人 権 抑 圧 を 理 由 に 、 一 九 九 七 年 以 降 経 済 制 裁 を 発 動 し た 。 日 本 は 民 主 化 ・ 人 権 を 重 視 し つ つ も 、 援 助 供 与 に は 慎 重 な 姿 勢 を と り 続 け た 。 こ れ と は 対 照 的 に 、 中 国 は 積 極 的 に 軍 事 ・ 経 済 援 助 を 供 与 し 、 国 際 社 会 に お い て ミ ャ ン マ ー 軍 政 の 後 ろ 盾 的 存 在 に な っ た 。 中 国 の 影 響 力 増 大 を 懸 念 し た イ ン ド は 、 一 九 九 〇 年 代 前 半 に は そ れ ま で の 厳 し い 外 交 姿 勢 を 転 換 さ せ た 。 東 南 ア ジ ア 諸 国 連 合 ( A S E A N ) は 内 政 不 干 渉 を 前 提 と し た 「 建 設 的 関 与 」 の 姿 勢 を と り 、 一 九 九 七 年 に は ミ ャ ン マ ー を 新 規 加 盟 国 と し て 迎 え 入 れ た 。 し か し 、 軍 事 政 権 の 統 治 が 二 〇 年 目 に 入 っ た 二 〇 〇 七 年 九 月 に 、 ミ ャ ン マ ー で 発 生 し た 僧 侶 を 中 心 と す る 大 規 模 反 政 府 デ モ と そ の 武 力 弾 圧 は 、 軍 政 が 国 民 和 解 や 民 主 化 、 経 済 発 展 な ど の 課 題 を 、 全 く 未 解 決 の ま ま 積 み 残 し て き た こ と を 、 図 ら ず も 内 外 に 示 す 出 来 事 と な っ た 。 ま た 、 二 〇 〇 八 年 五 月 の サ イ ク ロ ン に よ る 大 災 害 の 後 の 、 国 際 社 会 か ら の 支 援 受 入 れ を め ぐ る い ざ こ ざ は 、 軍 政 と 国 際 社 会 の 長 い 確 執 と 複 雑 な 国 際 関 係 を 如 実 に 物 語 る 出 来 事 で あ っ た 。●
な
ぜ
軍
政
は
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な
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か
現 状 だ け み れ ば 、 頑 な な 政 治 姿 勢 、 経 済 運 営 の 失 敗 、 自 然 災 害 か ら 国 民 の 生 命 や 生 活 を 守 る こ と さ え し な い 無 責 任 と 無 作 為 な ど 、 軍 事 政 権 の 悪 い 点 ば か り が 目 立 つ 。 に も か か わ ら ず 、 軍 政 は 権 力 の 座 に あ り 続 け る こ と が で き た 。 民 主 化 運 動 の 指 導 者 で あ る ア ウ ン サ ン ・ ス ー チ ー や 怒 れ る 国 民 が 抗 議 行 動 を 起 こ し て も 、 軍 事 政 権 は 倒 れ る こ と は な か っ た 。 欧 米 諸 国 が 経 済 制 裁 を 強 化 し て も 、 軍 事 政 権 を 倒 す こ と は で き な か っ た 。 そ れ ど こ ろ か 、 サ イ ク ロ ン 災 害 の 時 に は 、 軍 政 は あ た か も 自 国 民 を 人 質 に と る か の よ う な 態 度 で 、 国 際 社 会 か ら 有 利 な 援 助 を 引 き 出 そ う と 、 し た た か な 外 交 戦 術 を 繰 り 広 げ た の で あ る 。 な ぜ 軍 政 は 倒 れ な い の で あ ろ う か 。 本 特 集 で は 、 執 筆 陣 が こ の 問 題 意 識 を 共 有 し つ つ 、 軍 政 が 二 〇 年 の 統 治 期 間 に 、 政 治 、 経 済 、 外 交 、 軍 事 、 民 族 問 題 な ど の 国 家 的 課 題 に い か に 取 り 組 み ( あ る い は 取 り 組 ま ず )、 ど の よ う な 成 果 を 上 げ た の か ( あ る い は 上 げ る こ と に 失 敗 し た の か )、 そ し てミ
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ミャンマー軍政の20年
─何が変わり、何が変わらなかったのか
―アジ研ワールド・トレンド No.55(2008. 8) 結 局 、 何 が 変 わ り 、 何 が 変 わ ら な か っ た の か を 明 ら か に し て い き た い 。 我 々 の 回 答 に つ い て は 各 論 考 を 読 ん で い た だ き た い が 、 こ こ で は 水 先 案 内 と し て 三 点 だ け を 指 摘 し て お こ う 。