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アジ研ワールド・トレンド No.248(2016. 6)
﹁
マ
レ
ー
シ
ア
は
パ
ワ
ー
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
の
素
晴
ら
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い
お
手
本
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歴
史
を
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じ
て
多
数
派
が
他
者
と
権
力
を
分
か
ち
合
っ
て
き
ま
し
た。
い
ま
の
イ
ラ
ク
の
よ
う
な
国
に
と
っ
て、
とりわけ重要な例だと思います。
﹂
これは、二〇〇五年一〇月にマレー
シアを訪問したあるアメリカ政府高官
の発言である。この発言からもみて取
れるように、パワーシェアリングとは
多くの場合、ある国のおもなエスニッ
ク集団がそろって政府に代表を送り政
策決定に携わること︵包括的参加によ
る意思決定︶を指す。
言語や宗教、人種などを異にする集
団の間に強い利害対立がある社会︵分
断社会︶では、パワーシェアリングが
民主政治を安定させるうえで重要な
になると長らく考えられてきた。実際、
アジア・アフリカの旧植民地では、独
立の際に宗主国のイニシアティブでパ
ワーシェアリング政権が意図的に生み
出された例がいくつもある。内戦が増
え
た
一
九
九
〇
年
代
以
降
は、
紛
争
解
決
策
の
一
環
と
し
て
パ
ワ
ー
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
が
試
み
ら
れることが多い。
し
か
し、
現
実
は
厳
し
い。
開
発
途
上
国
に
お
け
る
パ
ワ
ー
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
の
多
く
は、
利
害調整の制度としての機能を十分に果
たすことなく崩壊した。制度が存続し
た
と
し
て
も、
﹁
決
め
ら
れ
な
い
政
治
﹂
に
陥ってしまい、期待された役割を果た
せないこともある。
そのなかでマレーシアは、確かに希
有な事例といえる。
現在のマレーシアの人口は約三〇〇
〇万人、うち六八%をマレー人とその
他の先住民族︵ブミプトラ︶が占める。
対して、おもに一九世紀半ば以降にこ
の地に来た人々の子孫である中国系市
民とインド系市民がそれぞれ二五%と
七%を占める。
主要政党は、例外はあるものの与野
党ともに民族政党の性格が強く、エス
ニック集団間の利害対立が頻繁に政治
の場に持ち込まれる。独立の一〇年あ
■
中村正志
■
中村正志著
東京大学出版会
二〇一五年
﹃パワーシェアリング
︱︱多民族国家マレーシアの経験︱︱﹄
まり前、第二次世界大戦末期から戦後
の混乱期には、マレー人と華人の間で
多数の死者を出す衝突が繰り返し生じ
ていた。
だが一九五七年の独立以降、この国
では法と秩序が保たれてきた。一九六
九年に二〇〇人ほどの死者を出す民族
暴動を経験したのが、ほぼ唯一の例外
である。政治的安定を礎に経済開発が
進み、いまでは一人あたり国民所得が
一万ドルを超える中所得国である。
そのマレーシアを一貫して統治して
きたのが、統一マレー人国民組織︵U
MNO︶と友党によるパワーシェアリ
ング政権である。メディア統制や汚職
などの問題はあるものの、分断社会に
平
和
と
繁
栄
を
も
た
ら
し
た
点
に
お
い
て、
マ
レ
ー
シ
ア
の
パ
ワ
ー
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
は
﹁成功例﹂といえる。
では、先のアメリカ政府高官発言に
あったように、マレーシアは他の分断
社会にとってのモデルになりうるのだ
ろうか。
成功例に学ぶ、というフレーズは日
常的に耳にするが、実際に成功をもた
らした要因は成功例だけをみていては
わからない。数多くの成功例と失敗例
を比較することではじめて、どうすれ
ば成功の確率が高まるのかがわかる。
だがそうだとしても、ひとつの事例
から学べることは何もないとまではい
えない。ある成功事例が既存の理論で
は説明できないとしたら、その事例に
はまだ知られていない成功のための秘
訣が隠されているのかもしれない。
前置きがだいぶ長くなってしまった
が、本書の第一の目的は、マレーシア
という﹁成功例﹂からパワーシェアリ
ングの秘訣を導きだすことにある。こ
の作業を、社会科学の手法を用いて行
う。具体的には、①既存研究のどこに
理論上の穴があったのかを特定し、②
その穴を埋める理論的な仮説を提示し、
③それでマレーシアの経験が説明でき
るかどうかを確かめる、という手続き
をとる。
ここまではマレーシアを、留保付き
ながら﹁成功例﹂とみなしてきた。だ
が、じつは近年、マレーシアのパワー
シェアリングは急速に不安定化してい
る。昨年九月には、UMNOの地方幹
部らが排外主義的な言説を唱える大規
模デモを首都で展開し、数万人のマレ
ー系市民がこれに参加した。
マレーシアのパワーシェアリングが
不安定になったのは、半世紀にわたっ
てそれを支えてきた仕組みがにわかに
崩れたからである。そのような変化は、
なぜ、いかにして生じたのか。それを
説明するのが本書のもうひとつの目的
である。
マレーシアに限らず、広く民族問題
に関心をもつ方々にご高覧いただきた
い。
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な
か
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ま
さ
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ジ
ア
経
済
研
究
所
東南アジア
Ⅰ
研究グループ︶
049_新刊紹介.indd 49 2016/04/27 22:20