暮らしと空間秩序 -- 治安と住まいをめぐるメキシ
コ的日常 (特集 世界の住まい・今)
著者
米村 明夫
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
191
ページ
36-37
発行年
2011-08
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004184
解放的で明るいメキシコ社会と いうのは、そこに合わせて四年間 住んだことのある私にとっての実 感であるが、他方、いざ彼らの住 まいと暮らしを文章にしようとす ると、それが多くの緊張を含んだ ものであることに気づかされる。
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都市の治安とこども
都 市 に お い て は 治 安 の 悪 さ が 目 立 つ 。 治 安 は 、 麻 薬 マ フ ィ ア 同 士 の 抗 争 や 活 動 、 そ れ を 取 り 締 ま ろ う と す る 政 府 と マ フ ィ ア と の 「 戦 争 」 に よ っ て こ の 数 年 に 劇 的 に 悪 化 し た が 、 以 前 か ら 指 摘 さ れ て き た 問 題 で あ る 。 こ ど も の 誘 拐 も 多 発 し て い る 。 メ キ シ コ の 友 人 か ら の メ ール で 開 い た 瞬 間 胸 が 痛 む の は 、 こど も の 肖 像 写 真 が 目 に 飛 び 込 ん で く る 時 で あ る 。 消 息 不 明 で 、 見 か け た ら 知 ら せ て く れ と い う 内 容 を 友 人 間で 伝 え て い る 。 誘 拐 さ れ る の は 金 持 ち の こ ど も に 限 ら れ な い 。 多 く の 場 合 、 身 代 金 を 要 求 す る の で は な く 臓 器 売 買 が 目 的 で あ り 、 何 の 連 絡 も 来 な い 。 小 さ い こ ど も が 外 に 一 人 で い る よ う な こ と が ほ ん の 一 瞬 で も な い よ う 、 誰 も が 気 を つ け な け れ ば な ら な い の が メ キ シ コ の 都 市 で の 暮 ら し で あ る 。 こうした状況への対処方法は社 会階層によって異なる。メキシコ シティでは、中・上流階級の多く は、 門番 (警備員) のいるゲーティ ド ・ コミュニティ内に住んでいる。 ある高級住宅地域では、公道に踏 み切りのようなものを設置、警備 員を配置し、夜間など一定の時間 帯の交通を制限、チェックして問 題となった。公的空間まで自らの 安全のために私的な (ゲーティド) ものにしてしまうわけだ。 一〇年ほど前に、家族とメキシ コシティに赴任した。最初、友人 が所有している国立メキシコ自治 大学通りにあるマンションに住ん だ。 政 府 が 公 務 員 の た め に 建 設、 資金補助をして売り出したもので あ り、 高 層 の 集 合 住 宅 が 何 棟 も 建っていた。着いて翌日くらいか ら、家の子供たちが駐車場でサッ カーボールで遊びだすと、たちま ち、 他の子供たちも一緒になって、 試合のようなものが始まった。残 念ながら、ボールが車を傷つける と 車 の 所 有 者 た ち か ら 苦 情 が 来 て、二、三日後にはできなくなっ た。 しかし、 今度はストップウォッ チを持って、 かけっこが始まった。 手 を 高 く 挙 げ て、 よ ー い ど ん と、 審判の係を一人がやっている。こ どもが多く、きっかけがあれば集 団での遊びが誘発された。門番や 駄菓子を売る行商のおばさんがお り、また通りを隔てて大きなスー パーがあるので、歩いて買い物に いく住人が常にいるという衆人監 視の環境があり、内部は一応安全 であった。ゲーティド・コミュニ ティというほど閉鎖的ではない比 較的自由な雰囲気があった。 つぎに、一戸建てや準一戸建て マンションの数百戸によって構成 さ れ る 典 型 的 な ゲ ー テ ィ ド・ コ ミュニティに引っ越した。交通の 便 が と て も よ い と こ ろ で あ っ た が、 住 人 の 移 動 は 基 本 的 に マ イ カーによるものであった。なかに 芝生の公園があり、こどもが遊ぶ のに最適であったが、週末も含め 姿はほとんどなく、大人が散歩す るのも見られない。安全は確保さ れているはずだが、そこのこども たちはゲートのなかのさらに家の なかで遊ぶようしつけられ管理さ れているように見えた。二〇〇四 年のアメリカ映画﹃マイ・ボディ ガード﹄は、メキシコの金持ちの こどものボディガードが、誘拐犯 との身代金のやりとりに失敗する 話だ。社会的上層の人々ほど「安 全」志向が高まるのであろう。●
都
市
に
お
け
る
不
動
産
の
所
有
権確立の問題
他 方 、 一 応 自 分 の 家 と 敷 地 の な か は 安 全 と い え る が 、 そ れ ら を 入米
村
明
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暮ら
し
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空間秩序
︱治安
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ま
い
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め
ぐ
る
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キ
シ
コ
的
日常
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アジ研ワールド・トレンドNo.191 (2011. 8)手 す る こ と ( 所 有 権 を 確 立 す る こ と ) に つ い て 多 く の 住 民 が 問 題 を 抱 え て い る 。 今 か ら 二 五 年 ほ ど 前 、 メ キ シ コ シ テ ィ で は 法 的 に 正 規 化 さ れ て い な い 民 衆 居 住 区 に 住 む 人 々 が 人 口 の 半 分 近 く を 占 め 、 そ の 正 規 化 ( 地 権 の 公 認 ) が 進 め ら れ て き た が 、 他の 都 市 も 含 め 、 未 だ に こ の 問 題 は 継 続 し て い る 。 都 市 化 が 続 い て い る た め に 、 居 住 が 法 的 に認 め られ て い な い 非 市 街 化 区 域 や 公 有 地 が 、 売 買 や 実 力 占 拠 の 対 象 と な る こ と も 続 い て い る の で あ る 。 こ う し た 売 買 、 占 拠 は 、 非 合 法 で あ り 、 時 に は 住 民 の 追 い 出 し が な さ れ る が 、 多 く の 場 合 、 徐 々 に 水 道 、 下 水 道 、 電 気 、 道 路 舗 装 等 の 公 共 サー ビ ス が 供 給 さ れ て ゆ き 、 一 〇 年 も す る と 土 地 所 有 の 正 規 化 が 行 わ れ る こ と が 多 い 。 正 規 化 は 行 政 的 手 続 であ る が 、 そ の 過 程 は 本 質 的 に は 政 治 的 なも の で あ り 、 政 治 家 に と っ て そ れ は 問 題 解 決 ( 正 規 化 ) 過 程 へ の 介 入 の 機 会 で あ り 、 介 入 を 通 じ て 住 民 か ら の 政 治 的 支 持 を 得 よ う と す る 。 こ の 意 味 で は 、非 合 法 売 買 、占 拠 は 、 土地 所 有 確 立過 程 の 出 発 点 と し て 半 ば 制 度 化 さ れ た も の と も い え る 。 こう し た 土 地 に 住 む の は 低 所 得 者 層 が 中 心 で ある が 、 今 日 で は 中 産 階 級 に よ る 居 住 も 見 ら れ る 。 半ば制度化されているなかでの 「 不 法 」 状 態 は、 政 治 家 に よ っ て 利用されているだけでなく、しば し ば 売 り 主 側( 地 主 や 開 発 業 者 ) による様々な不正取引に利用され る。実際には契約が行われ、支払 いが行われていても、所有権移転 に関する正式な手続が行えないた め、例えば一カ所の土地を複数の 者に売ったり、事後に売買取引は 成 立 し て い な い と 主 張 し た り す る、といったことがなされるので ある。おそらく、売買の時点では そうした不正を意図していなかっ た地主も少なくないだろう。しか し年月が経ち様々な公共サービス も備えるようになり土地の価格も 上昇し、さらに政治家が絡んでく れば、事情が変わってしまうので ある。買い手の側は、当面低いコ ストでその土地使用ができるとい う利点はあるが、このようなリス クを背負わされることになる。 二〇〇九年に現地調査に行った 際、メキシコシティの大学教員の 別の友人から、買ったマンション の所有権をめぐって争っていると い う 話 を 聞 か さ れ た( 一 二 月 二 日 )。 彼 に よ る と、 分 譲 マ ン シ ョ ン購入契約をし、分割支払いを続 けてきたが、売り主の死後、相続 者である孫が価格が安すぎる、契 約はなかったと言い出し、裁判の 場でもその主張が認められたとい う。売り主はそのビル全体の所有 者だったので、彼から購入した他 の 住 人 達 全 員 が 同 じ 状 況 に あ る。 その孫はこうした問題を扱う弁護 士と親しくしており、また、裁判 官も買収できるという。所有権移 転の手続を完璧にしておかなけれ ば、すなわち売り手の側が利用し 得 る よ う な 隙 が 少 し で も あ れ ば、 それは利用されるということだ。