コスタリカの金融政策と為替レート制度 (特集 新
自由主義時代のコスタリカ)
著者
三尾 寿幸
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
218
ページ
27-28
発行年
2013-11
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003590
コスタリカにおける二〇〇〇年 代のインフレーション率は、他の 多くのラテンアメリカ諸国に比べ 高く、二〇〇三〜〇八年に平均一 一・六%であった。しかし、二〇 〇九〜一一年には平均六・一%に 低下した。他方、コスタリカの為 替レート制度は二〇〇六年一〇月 に為替レートが小刻みに変更され る ク ロ ー リ ン グ・ ペ ッ グ 制 度 か ら、中央レートを持たず、基本的 にはバンド幅が拡大される種類の クローリング・バンド制度に変化 した。同制度では、二〇一一年ま でには、基本的には、上限値は小 刻みに減価し下限値が一定に保た れた結果バンド幅は拡大した(両 為替レート制度について詳しくは 参 考 文 献 ① を 参 照 さ れ た い )。 本 稿は、二〇〇二〜一一年における 金融政策と為替レート制度の機能 を分析し、金融政策に関連する一 般政府の財政支出について、総支 出に占める高い社会支出の割合を 指摘する。 本稿の分析対象期間における二 〇〇二〜〇六年一〇月一六日の為 替 レ ー ト 制 度 は ク ロ ー リ ン グ・ ペッグ制度であった。クローリン グ・ペッグ制度下で、コスタリカ 中 央 銀 行 は、 対 米 ド ル 名 目 為 替 レートを自国と最大の貿易相手国 である米国のインフレーション率 の差に応じ小刻みに減価させたと 考えられる。このため、対米ドル 実 質 為 替 レ ー ト と 実 質 実 効 為 替 レ ー ト は 安 定 的 に 推 移 し た。 ク ローリング・ペッグ制度下では、 実質実効為替レートの安定化を通 じ、対外競争力は潜在的に安定化 された。 金融政策の目的は一般物価と短 期的な生産水準の安定化である。 他方、資本移動が自由化された環 境では、金融政策と為替レート制 度の選択は独立ではない。特定の 為替レートを達成するためには、 通貨当局は外国為替市場における 不均衡に応じ、外国為替市場に介 入し外貨を売買しなければならな い。通貨当局の外貨準備の変化は 現金通貨と銀行の中央銀行預け金 の和であるマネタリー・ベースの 変 化 を も た ら す。 マ ネ タ リ ー・ ベ ー ス は 中 央 銀 行 が イ ン フ レ ー ション率をコントロールするため の重要な政策手段である。このた め、特定の為替レートが達成され る必要のある為替レート制度の採 用は、金融政策に制約を課す。ク ローリング・ペッグ制度とクロー リング・バンド制度はともに、金 融政策に制約を課す為替レート制 度である。 クローリング・ペッグ制度と二 〇〇六年一〇月一七日以降の為替 レート制度であるクローリング・ バンド制度の下で、二〇〇六〜〇 七年の大量の資本流入により、コ スタリカ中央銀行は、両為替レー ト制度を維持するために外国為替 市場において外貨買い介入を行わ なければならなかった。外貨準備 の増加は、マネタリー・ベースの 増加とインフレーション率の上昇 をもたらすため、中央銀行は、主 にBEMと呼ばれる中央銀行債の 売却により、外貨準備増加のもた らすマネタリー・ベース増加を打 消す不胎化を行った。しかし、中 央銀行債の利払いは、中央銀行の 損失の要因となった ⑴ 。 二〇〇三〜〇八年には、平均二 六・ 三 % で あ っ た マ ネ タ リ ー・ ベースの伸び率は、二〇〇九〜一 一年には、平均九・三%に低下し た。このマネタリー・ベースの伸 び率の低下が、二〇〇三〜〇八年 に平均一一・六%であったインフ レーション率の二〇〇九〜一一年 における平均六・一%への低下に つながった。 金融市場においては、預金と信 用 の 外 国 通 貨 建 化( 金 融 的 ド ル 化 ) が 広 範 に 進 展 し て い た。 ク ローリング・バンド制度下では為 替 レ ー ト の 変 動 許 容 幅 が 拡 大 し
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新自由主義時代のコスタリカ特集
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アジ研ワールド・トレンド No.218 (2013. 11)た。外貨建で借入を行う企業の自 国通貨建の正味資産は為替レート に よ り 変 動 す る( 参 考 文 献 ④ )。 投資家が借入企業の収益を完全に は把握できず、把握には費用がか かると仮定すれば、借入企業の正 味資産の減少は、外部資金の借入 利子率の上昇を通じ投資量を減少 さ せ う る( 参 考 文 献 ③ )。 金 融 的 ド ル 化 が 進 展 し た 経 済 に お い て は、為替レート減価は、外貨建の 借入を行う企業の自国通貨建の正 味資産の減少を通じ投資を減少さ せる可能性があり、金融政策運営 においてはこの点に注意が払われ る必要がある。 利払いをともなう政府債務は、 中央銀行の資産として保有されれ ば、マネタリー・ベースを増加さ せるため、金融政策は財政収支と 関連する。コスタリカの一般政府 の教育、社会保護、保健からなる 社会支出の総支出に占める割合を I M Fの Government Finance Statistics C D ― R O M( 二 〇 一二年九月)により検討した。一 般政府の機能別支出統計は利用可 能でないため、利用可能な、中央 政 府( 予 算 ベ ー ス )、 予 算 外 単 位 /主体、社会保障基金(コスタリ カ社会保険公庫)についての各社 会支出の和を各政府部門による支 出の和で除した。二〇〇九年の一 般政府による教育、社会保護、保 健支出の総支出に占める割合の推 定値はそれぞれ、二五・五%、二 一・二%、二〇・四%であった。 それらの合計の総支出に占める割 合の推定値は六七・〇%であり、 これは、コスタリカを含まない、 国際比較可能な参考文献⑤の表W 六を参考にすると、三七カ国(内 一八カ国は先進国)中第八位に位 置 づ け ら れ る。 一 般 政 府 の 支 出 は、社会支出が総支出に占める割 合の高い構造を持っていた。 コスタリカにおける金融市場で は金融的ドル化が広範に進展して おり、一般政府の財政支出は社会 支出の割合の高い構造を持つ。ク ローリング・バンド制度は、上限 値と下限値で特定の為替レートの 値の達成を必要とするため、金融 政策に制約を課す。これらの環境 と 金 融 政 策 に 課 さ れ た 制 約 の 下 で、どのように一般物価と短期的 生産水準の安定化を図るかが、コ スタリカにおける金融政策の課題 である。 ( み つ お ひ さ ゆ き / ア ジ ア 経 済 研 究所 海外調査員(サンホセ) ) 《注》 ⑴ コスタリカ中央銀行の保有する 資産から得られる利子収入を中 央銀行債等の負債の利子負担が 上 回 っ た こ と を 主 な 理 由 と し て、 中 央 銀 行 は 損 失 を 計 上 し た。不胎化のための中央銀行債 発行の増加は、損失を拡大させ た。累積した損失の結果、二〇 一一年末に中央銀行は対GDP 比マイナス七・一%(参考文献 ②)の債務超過にあった。中央 銀行の債務超過は、中央銀行の 通貨発行機能により、金融機関 の債務超過とは、性質を異にす る。とはいえ、金融政策運営を 向上させるため、かつて行われ た資本再注入により、債務超過 の対GDP比を低下させること が望ましい。中央銀行の損失に ついて詳しくは参考文献⑥を参 照されたい。 《参考文献》 ① 三 尾 寿 幸[ 二 〇 一 二 ]「 コ ス タ リカの為替レート制度と実質為 替レート」山岡加奈子編『コス タ リ カ 総 合 研 究 序 説 』 第 七 章 調査研究報告書 アジア経済研 究所。 ② B a n c o C e n tr a l d e C o st a R ic a 2 0 1 2 . M em o ria A n u al, San José: Banco Central de Costa Rica ( h ttp :// w w w .b cc r.f i.c r/ p u b li-caciones/memoriaanual/ 二 〇 一 三 年 一 月 一 五 日 ア ク セ ス) ③ B er n a n ke , B en a n d M a rk , G e rt le r 1 9 8 9 . “A g e n c y Costs, Net W orth, and Busi -n es s F lu ct u a tio n s.” A m er i-c a n E c o n o m ic R e vi e w 7 9 (1): 14-31. ④ Goldstein, Morris and Philip T u rn e r 2 0 0 4 . C o n tr o lli n g C u rr e n c y M is m a tc h e s in E m er gin g M ar ke ts , W as h in g-ton D .C.: Institute for Inter -national Economics. ⑤ IM F 2 0 1 0 . G o ve rn m en t F i-n a n ce S ta tis tic s Y ea rb o o k. W a sh in gt o n D .C .: In te rn a
-tional Monetary Fund.
⑥ V a e z -Z a d e h , R e z a 1 9 9 1 . “Im p lic at io n s an d R em ed ie s o f C en tr al B an k L o ss es .” in T h e E vo lv in g R o le o f C en -tr a l B a n k s , e d . P a tr ic D o w n es a n d R ez a V ae z-Z a-d eh . W a sh in gt o n D .C .: In
-ternational Monetary Fund.