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特集にあたって (特集 途上国とコイン)

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Academic year: 2021

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特集にあたって (特集 途上国とコイン)

著者

佐藤 創

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

215

ページ

2-3

発行年

2013-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003640

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  海外、とりわけ開発途上国を旅 した折に、お金そのものやお金の 取り扱い方に多少の異文化を経験 したことのある読者も少なくない のではないだろうか。たとえば、 紙幣に書き込みがあってこれは使 えるのかと戸惑ったり、お釣りの 小銭がなくて待たされたりするな ど、思い当たることがあるかもし れない。   本特集は、お金のあり方や扱わ れ方を通じて垣間見ることのでき る開発途上国の諸相があるのでは ないかというアイデアに基づいて 企画された。金属であるコインに 光を当て、それぞれの国の社会科 学 や 人 文 学 を 専 門 と す る 研 究 者 に、実際にその国に暮らし、ある いは何度も赴いた経験のなかで、 コインがどのような存在であった かに思いを馳せ、あるいはコイン にまつわる興味深い話を掘り出し てもらうなど、コインからみえる 開発途上国のお国事情について執 筆してもらっている。

 カイバル峠のアフガン

紙幣より

  貨幣論を専門とするわけでもな く、 コ イ ン 収 集 家 で も な い 筆 者 が、このような特集を編んでみよ うという蛮勇と呼ぶほかない想念 を持つにいたった端緒は、二〇〇 一年の春に遡る。その昔アレキサ ンダー大王がはるばるギリシアか ら攻め込んだことでも名高いカイ バル峠を、パキスタン側から旅し てアフガニスタンとの国境近くの 見晴らし台にたどり着いたときの こと。地元の子供たちが近寄って きて、アフガニスタンの紙幣セッ トを売りたいという。いくらだと 聞 い て み た と こ ろ 一 〇 〇 ル ピ ー ( パ キ ス タ ン 通 貨 ) と の 話 で、 為 替レートもわからず、またお世辞 にも紙質が良いとはいえず、これ では記念品としても買う人がいる のだろうか、などと思いながら、 コインはないのかと何の気なしに 聞いてみたところ、ないという。 そのときはさして深く考えもせず に、コインは持ってこなかったの だろうと思ってそのまま忘れてし まった。当地は、同年に起こった 9. 11 ロ 後 に 風 雲 急 を つ げ て、 カイバル峠ツアーも実施不可能に なったようで、たまたま目にした ニュース番組で、ツアーの目玉で あ る S L 列 車 の 車 掌 が「 商 売 あ がったりだ」と嘆いていた。   その後、開発途上国を訪問する 経験を重ねるうちに、お金が日本 で生活してきた筆者の感覚と随分 と違う扱われ方をしているケース にたびたび遭遇した。たとえば、 筆者がニューデリーに駐在してい たときには、小額通貨を持ってい ないと落ち着かなかったものだ。 なにか買い物をしようとすると、 最新のモールに入っているお店に お い て さ え、 細 か い お 金 は な い か、と、毎度のように聞かれるか らである。自然に、財布にはいつ も小額紙幣がそれなりに入ってい るように心がけるようになった。   ただ、紙幣がどことなく香辛料 の香りがして、財布自体もしだい に移り香が薫るようになる。コイ ンもあるものの、紙幣に比べると 手にする機会が少ないうえに、イ ンフレ率が高いせいか、路上の大 八車の売り子から野菜を買う際に も五ルピー(およそ一〇円)未満 の小額コインの出番は減っている 実感があった。実際インフレは深 刻な問題で、インド大蔵省で主席 経済顧問を務めていたカウシク・ バスー(現在は世銀チーフエコノ ミスト)が、インフレを抑えるに は小売業への外資の参入を認めて 流通を簡素化する改革を進めれば よいという論陣を張るなど、毎日 のようにインフレ問題が有力紙の 紙面を賑わせていた。   そうした記事のなかに、二五パ イサ以下(約〇・五円)のコイン

特 集

途上国とコイン

 

2

アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

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はもはや役に立たず、違法につぶ して金属として転売する業者が受 け取るだけなので、政府はこれを 廃止することに決めたことを報じ ながら、さらに五〇パイサ・コイ ンや一ルピー・コインもいつ廃止 になることやらと、政府のインフ レ対策の無策ぶりを揶揄しながら 論じている記事があった。なるほ どインフレ率が高いとコインの運 命は貨幣としては風前の灯となり 金 属 と し て 扱 わ れ る の か と 思 う と、ふと記憶がよみがえり、カイ バル峠で出会ったあの少年は、コ インを持ってないと言いたかった のではなく、コインそのものがア フ ガ ニ ス タ ン に は な い と 言 い た か っ た の か も し れ な い、 と 思 い 至った。   調べてみるとアフガニスタンに はやはりコインはないようで、他 にもコインがない国や、あっても コインの生産を外国に委託してい る国もあるではないか。経済学者 の端くれとして自らの無知蒙昧ぶ りに反省しきりでいる折から、昨 年暮れにはバングラデシュが自国 で 使 う コ イ ン の 鋳 造 を 入 札 に か け、日本の財務省・造幣局が受注 に成功したことが話題になってい た。

●コインからみるお国事情

  おおむねこのようなところが本 特集を筆者が提案するに及んだ背 景である。もちろん各国のコイン がどのようなものかウェブで検索 することは難しくなく、また東西 古今のコインが写真掲載されてい るコレクター向けの詳しい本もあ る(たとえば参考文献①) 。   大英博物館コイン部門の職員の 手になる一般読者向けの参考文献 ②は、古代から現代にいたるまで どのような貨幣が用いられてきた か、金属の支配と帝国の興 こう 亡 ぼう など 歴史的な逸話を豊富に盛り込みつ つ描いている。また、学術的な著 作である参考文献③には、たとえ ば、日本からの輸入銅でコインを 製造していた一七世紀のインド・ グジャラート州で日本からの輸入 が減ったために鉄 てっ 貨 か を用い始めた 例や、一八世紀にオーストリアで 流通していたマリア・テレジア銀 貨が、本国ではとうに使われなく なっていた二〇世紀前半に北アフ リカから西アジア地域で流通して いた例など、興味深い実例が、実 証的かつ理論的に分析されつつ満 載されている。参考文献④は、二 〇一一年のノーベル経済学賞受賞 者が、欧州諸国において一九世紀 末にいたるまで存在した小額通貨 不足の問題を、通貨当局が依拠し ていた経済理論が不十分であった のか、コイン生産の技術が未熟で あったのかという関心から、経済 学の手法を用いるなどして検討し た著作である。   コインを扱うものとして本特集 はささやかなものであるが、ひと つ際立った特徴があると思う。そ れは、執筆陣がそれぞれの国に暮 らし、あるいは長く関わった経験 があるため、それぞれの国の人々 とその生活へのいわば暖かいまな ざしが底に流れているということ である。一〇カ国ほどの国々につ いて、それぞれコインから垣間見 える開発途上国事情について紹介 した本特集を読むと、たとえば、 デザインはどのような社会的背景 を反映しているか、鋳造にはどの ような困難があるか、インフレと コ イ ン が ど の よ う な 関 係 が あ る か、コインは日々どのように扱わ れているかなど、実感をもって伝 わってくるのではないだろうか。 もちろんすべての国々をカバーで きているわけではないが、取り上 げた事例を通じて、読者が開発途 上国に生きる人々の生活に思いを めぐらす契機となれば望外の幸せ である。 ( さ と う   は じ め / ア ジ ア 経 済 研 究 所   南アジア研究グループ) 《参考文献》 ①  平石国雄・二橋瑛夫編著[二〇 〇 二 ]『 世 界 の コ イ ン 図 鑑、 カ ラー版』日本専門図書出版。 ②  ウィリアムズ・J[一九九八] (湯浅赳男訳) 『図説お金の歴史 全書』東洋書林。 ③  黒 田 明 ఙ [ 二 〇 〇 三 ]『 貨 幣 シ ス テ ム の 世 界 史: 〈 非 対 称 性 〉 を ࡼ む』岩波書店。 ④ S a rg e n t, T . J. , a n d F . R . V eld e 2 0 0 3 . T h e B ig P ro b-le m o f S m al l C h an ge , N ew  Jersey: Princeton University  Press.

特集にあたって

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アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

参照

関連したドキュメント

グローバル化における仲裁法制改革とアジア諸国 ( 特集 グローバルなルール形成と開発途上国).

︽参考文献︾ ①  Ellis ,  S tephen  2 0 0 9 .  W est  A

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出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

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