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ワリン・ワリンからみるフィリピン (異文化言い分EVEN)

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Academic year: 2021

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ワリン・ワリンからみるフィリピン (異文化言い分

EVEN)

著者

岡部 正義

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

207

ページ

46-47

発行年

2012-12

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003817

(2)

  ﹁ワリン・ワリン﹂ 。こ れは、 タガログ語で﹁蘭﹂ を 意 味 す る waling を 連 続させた単語で、英語に 直 訳 す れ ば orchid or -chid 、 つまり﹁蘭蘭﹂で ある 。﹁蘭﹂を強調させ たこのひとつの固有名詞 は、バンダ・サンデリア ナ︵ V anda sanderi-ana ︶という正式学名を もつ蘭の一種 ︵写真 1︶ を指している。このワリ ン ・ワリンが近い将来 、 フィリピンの新しい国花に制定される動きが出て いる。   現在のフィリピン国花はサンパギータ ︵ Sam-paguita ︶という花で、 ジャスミンの一種である。 サンパギータは、直径三センチほどで純白の清楚 で可憐な花を咲かせる。マニラの町中を歩いてい ると、この摘み花を両手に垂らした売り子が歩い ているのをみかける。タクシーに乗ればミラーの ふちに、教会に行けば祭壇や入り口にサンパギー タがつつましく飾られている。サンパギータはア メリカ統治下にあった一九三四年に 、フランク ・ マーフィー総督によってフィリピン国花に宣言さ れた。それ以来、八〇年近くのあいだこの国を象 徴してきた。   他方、ワリン・ワリンの美しさは趣が異なって いる。直径が十センチほどあり、ピンク色と茶色 のツートンの派手な色彩で、芳香を放つ派手な花 を咲かせる。その観賞価値の高さから、蘭交配の 親としても珍重され、園芸業界では欠かせない貴 重な原種である。そして、何よりフィリピンでは ワリン ・ワリンをして ﹁フィリピンの花の女王﹂ ︵

Queen of Philippine flowers

︶ と称せられてお り 、文字どおりフィリピンが誇る花なのである 。 また、ルマドと呼ばれるミンダナオ島の先住民族 により、フィリピン神話に出てくる森の妖精とし て崇拝されているともいう。   二〇〇九年、私は大学院でフィリピンの開発経 済学を専攻しており、マニラ首都圏や東ビサヤ地 方の都市・農村貧困地域の予備的調査をする機会 を持った。スラム街や郊外の農村であっても、家 の軒先には蘭が咲いていたのには目を見張った 。 もちろん、私のようにアジアの国々に蘭の花を結 びつけて歩いていなければ、そんなことには気付 かないかもしれない。しかし、景色に溶け込んだ 蘭の花をみたとき、人びとにとって蘭が身近な存 在であることを感じた。しかし、ワリン・ワリン はそう簡単に見られなかった。スラム街滞在の合 間を縫って、ケソン・シティで蘭業を経営する農 園にも訪問した。そこでみつけたワリン・ワリン は現地価格で六〇〇〇∼一万ペソで販売されてい た 。一ペソは大雑把にいうと約二円ほどである 。 失業率も高く、職種によって収入に大きな差のあ るフィリピンにおいて平均収入を語ることはあま り意味がないかもしれないが、都市部の比較的安 定した職種に就いている人びとの月給でさえだい たい日本円で一万円弱から高くて二万円ほどであ る。外国人向けに高値で売っているのかもしれな いことをさっ引いたとしても、いかにワリン・ワ リンが高価で取り引きされているかがお分かりい ただけると思う。   二〇一二年三月、このワリン・ワリンを︵サン パギータに加えて︶新国花に制定すべきという法 案が下院の審議を通過した。なぜ、新国花にワリ ン・ワリンが追加されようとしているのか?   も ちろん、国家のシンボルの決定には、一部のイン テリ層の志向が反映されるに過ぎないという側面 もあろう。しかしそこには、 ワリン ・ ワリンがフィ リピン固有の花であること、そして近年少しずつ 経済復興が進みつつあるフィリピンの発展への志 向とワリン・ワリンの美しさと生態が持つイメー ジが重なることを見いだすこともできよう。   ワリン・ワリンは、フィリピン南部のミンダナ オ島にのみ分布する蘭である︵したがって、ルソ

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アジ研ワールド・トレンド No.207 (2012. 12)

ワリン・ワリンから

みるフィリピン

岡部正義

〔写真1〕 ワリン・ワリンの花(ケソン・シティにて)〈筆者撮影〉 〔写真2〕フィリピン特産の胡蝶蘭原種〈筆者撮影〉

(3)

おかべ・まさよし/アジア経済研究所 研究支援部 2011年4月より現職。開発経済学・計量社会科学を大学院生時代に専攻。フィリピ ンの開発と貧困をテーマに研究する傍ら、この国の蘭の魅力にも魅せられてきた。 ン島の蘭業者ですら、ダバオやサンボアンガなど のディーラーに供給を依存している︶ 。他方 、サ ンパギータはヒマラヤを含むインド亜大陸からイ ンドネシアまで広範に見られる。ワリン・ワリン は、 ﹁女王﹂と讃えられるだけあって、 まさにフィ リピンを象徴する花として認められるだろう。   また、その生態も一般の種子植物とは異なって いる。着生と呼ばれる生態にあり、主にフタバガ キという樹木の頂 に太い根をはりめぐらし、植物 体を支える。そして、森林に差し込む太陽光をめ がけてグングンと成長し、大輪のピンク色の花を 咲かせる。その様子からしばしば寄生植物と誤解 されがちだが、 樹木から養分を受け取っておらず、 自活している。そのような上昇的で自立的な生態 と、成長の暁には美しい花を咲かせる姿は、これ からの国家・経済の発展を期待するフィリピンの 若き世代の人びとの大志を体現しているのかもし れない。   法案の作成にはダバオ市第二区のガルシオ・ア ルバーノ議員、 パンガシナン州第六区のマーリン ・ プリミシャス ・ アガバス議員が関与した。 アルバー ノ氏は、国花制定によってさらなる経済成長の機 会が拓かれることをも期待している。ワリン・ワ リンは一九八二年にイギリス園芸界に紹介され 、 爾来、タイ、シンガポール、マレーシア、ハワイ など世界各所で栽培 ・ 輸出されてきた。鉢花産業 ・ 切り花産業として数十億ドル規模に成長してきて おり 、新国花にワリン ・ワリンが制定されれば 、 フィリピンの経済成長への大きな機会となりうる ⑴ 。   ワリン・ワリンは園芸的価値が高く、マーケッ トでの人気もある。そのため、乱獲も進み、稀少 な植物となってきている。さらに、ミンダナオ島 へも開発の波が押し寄せ、フタバガキ林が伐採さ れて自生地が失われることにも拍車がかかってい る。このようななか、環境省を中心にワリン・ワ リンの保護と増殖に努める必要性も提起されてい る。加えて、ワリン・ワリンを媒 介 項 に、植物公 園や展示会などによって人びとの往来が活発化 し 、文化交流も期待できる 。園芸業のみならず 、 こうした環境保護産業や観光業にも経済効果が伝 播していくことも望まれる。   今後の行方だが、サンパギータもワリン・ワリ ンも、互いに独特の魅力を持っており、一国二国 花として双方とも国花となるかもしれない。例え ば、インドネシアでも国花は三つあり、複数の国 花があることは珍しくない。   国花には、その国の最大公約数的な特徴や国家 のイメージが象徴されている。もしも国花として 新たにワリン・ワリンを加えられたならば、サン パギータのときとは異なり、まさにフィリピン人 によって、フィリピンならではの花を国花に選び あげたことになる。   蘭の花には、他の植物にはない独特の富裕や発 展の象徴性がある。日本でも各種のお祝い事の際 には、蘭の花が好んで贈答用として贈られる。ワ リン・ワリンという﹁蘭の女王﹂が国花に選ばれ れば、フィリピンのイメージもより明るく、華や かになるかもしれない。   フィリピンでは、最近は数が減りつつあるもの の、マニラ近郊の蘭展示会やダバオ市近郊の植物 公園でワリン・ワリンを見ることができる。フィ リピンにはワリン・ワリンを含め、いくつもの固 有種の蘭が自生している ︵例えば写真 2∼ 4︶ フィリピンを訪れた際には、ワリン・ワリンを取 り巻く事情を知ったうえで、これらの蘭をぜひ探 し求め、その花をご覧いただければ、美しさもひ としおだと思う。そして、その背景に貧困や失業 から少しでも抜け出し、発展を願う人びとの願い がみえ隠れしていることも想起されたい。 ︽注︾ (1)http://www .cong ress.gov .ph/press/details. php?pressid=5967 ︵閲覧日 二〇一二年八月 五日︶

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アジ研ワールド・トレンド No.207 (2012. 12) 〔写真4〕ミンダナオ島固有のフィリピンナゴランの原種〈筆者撮影〉 〔写真3〕 フィリピン人園芸家が発見したフィ リピン固有のバンダ原種〈筆者撮影〉

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