本稿の目的は、外国人が日本で新規に運転免許を取得 する場合に起こりうる問題や日本の免許への切り替え 時に発生する問題、また近年の外国人ドライバーに対す る交通安全教育の変化(特に免許制度の変化)が日本で 免許取得を目指す外国人に与えた影響について、福井県 の事例研究を通して明らかにすることである。Ⅱ節で は、外国人に対する交通安全教育の重要性をデータにも とづいて主張する。Ⅲ節では、外国人に対する交通安全 教育の実態を確認する。現在、地域ごとに非運転者を含 む幅広い層に対する交通安全教育が実施されている。Ⅳ 節では、外国人ドライバーと運転免許の関係について述 べる。特に、外国人ドライバーに対する交通安全教育の 機会の少なさと、その重要性を主張する。Ⅴ節では、福 井県越前市の事例を紹介する。Ⅵ節では、以上の議論を まとめ、外国人ドライバーと日本社会のより良い共生の あり方を探るための考察および政策提言を行う。
1.はじめに
交通安全に関する教育を、一般的に交通安全教育と呼 ぶ。青山は、交通安全教育を大きく以下の 2 つ、①「免 許制度の一環として実施されている運転者教育」②「運 転者以外の、歩行者、自転車利用者等に対するものを含 む交通安全教育」(青山 2001, 47p.)に分けている。本 稿の関心は外国人ドライバーにあるため、この語を、以 証を取得した外国人への教育、②日本の運転免許証を取 得した外国人への教育、③非運転者の外国人に対する教 育、とより狭い意味合いで用いたい。以下に、青山の議 論を参照しながら、本稿の背景を説明する。 青山は次のように述べている。 国際化が進むにつれて、日本の交通社会に参加する 外国人の数は年々増えており、これらの外国人に対 して、日本の交通ルールやマナーの習得を主な目的 とする交通安全教育を推進する必要性はますます 高まっている。外国人運転者については、主に運転 免許の取得時などの機会を使って知識の普及を目 指している。また、外国人研修生を受け入れている 企業や工場が多い県では、雇用主と警察署等の協力 により、交通安全講習会が活発に開催されている (青山 2008, p.45) しかし、「日本で生まれ育ち日本語を十分に解する外 国人は別として、通常の場合、外国人は、成長に応じて 段階を追った体系的な交通安全教育の過程に途中から 参入する。仮に自国において同程度以上の交通安全教育 を受けていた場合であっても、日本の交通ルールやマ ナーの習得という点では、やはり基本を欠いているおそ れがある」(青山 2001, p.46)のである。とはいえ、国 際化の進む日本では、外国人ドライバーの数が年々増加 1.はじめに 2.データから見る交通安全教育の重要性 3.交通安全教育の実態 4.外国人ドライバーと運転免許 5.福井県越前市の事例 6.考察および政策提言日本における外国人ドライバーに対する
交通安全教育と免許制度の現状と課題
─福井県を事例として─
Qutaiba ALSAMARRAI
外国人が日本で運転免許を取得する方法はいくつかあ るが、日本人ドライバーがそうであるように、一度免許 を取得すれば講習会にでも参加しない限り、安全運転に ついての知識を深める機会はほとんどない。逆に言えば、 日本に滞在する外国人が免許を取得するために自動車学 校や免許試験場を訪ねるとき、あるいは外国免許から日 本の免許へ切り替えるときが、将来日本で運転するであ ろう外国人が日本の交通ルールや安全マナーを学ぶほぼ 唯一のチャンスである。しかし、その機会を与えること も容易ではない。 本稿では、外国人が日本で新規に運転免許を取得する 場合に起こりうる問題や日本の免許への切り替え時に発 生する問題、また近年の外国人ドライバーに対する交通 安全教育の変化(特に免許制度の変化)が日本で免許取 得を目指す外国人に与えた影響について、福井県の事例 研究を通して明らかにすることを目的としている。現地 調査を福井県で行う理由は、公共の交通機関は存在する ものの、未発達な地域が多いため、在住外国人のなかで も、自動車等を使う必要がある者が多いと考えられるた めである。また、福井における外国人数が少ないにもか かわらず上記で述べた制度を早く導入した経緯を調べる のにも最適だと考えるからである。 なお、外国人ドライバーを取り上げた研究は非常に少 ないため、本稿では、警察によって発表された記事や論 文と新聞のデータベースに頼る文献調査を行い、その上 で、日本における外国人ドライバーに対する交通安全教 育の現状を福井県を事例として調査した。以上から、今 後必要となる対策案に向かって研究を進めることが可能 になることが期待される。
2.データから見る交通安全教育の重要性
本節では、外国人の運転免許および交通事故、違反に 関するデータを概観する。外国人登録者数は平成 20 年 をピークに減少傾向にあるが、外国人の運転免許保有者 数は一貫して増加傾向にあり、23 年末においては 72 万 9,981 人を数えた。全運転免許保有者に占める外国人の 割合は 0.9%である。外国人が第一当事者である交通事 故の発生件数は近年減少が続いており、平成 23 年には 7,919 件となっている(成富 2012, p.33-34)。 とはいえ、外国人が交通事故に巻き込まれることは少 なくなく、また国籍によっても、その巻き込まれ方が異 なる。平成 23 年の日本における交通事故による外国人 の状態別死傷者数は次の通りである。中国人の場合は、 自転車乗車中が 48.0 パーセントを占めている(日本人 16.6%、外国人合計 28.6%)。また、ベトナム人の場合は、 原動機付自転車乗車中が 18.5 パーセント(日本人 7.2%、 外国人合計 8.2%)、自動二輪車乗車中が 10.6 パーセン ト(日本人 5.4%、外国人合計 4.5%)であった。両国と も自動車乗車中は低く、中国人の場合は 32.0 パーセン ト、 ベ ト ナ ム 人 の 場 合 は 34.4 パ ー セ ン ト( 日 本 人 62.9%、外国人合計 52.2%)であった。一方、ブラジル人、 ペルー人の場合は自動車乗車中の割合が高く、それぞれ 66.2 パーセント、65.0 パーセントで、韓国・朝鮮人、フィ リピン人も 60 パーセントを上回っていた(成富 2012, p.36)。 このような、交通事故を減らすためのひとつの鍵が交 通安全教育なのである。次節では、運転免許を持たない ものを中心とした交通安全教育の実態を確認する。 図1 外国人登録者数及び外国人運転免許保有者数の推移(各年末) 出典 石居 高廣「我が国における外国人の交通安全」『人と車−全日本交通安全協会』 48(5), 2012, p.193.交通安全教育の実態
平成 10 年 9 月 22 日に、道路交通法第 108 条の 28 第 1 項の規定に基づき作成された「交通安全教育指針」(平 成 10 年国家公安委員会告示第 15 号)が公表された(青 山 2001, p.45)。この指針は、「交通安全教育の対象を幼児、 児童から高齢者まで六つの年齢層に分け、それぞれの通 行の態様に応じて、教育の内容および方法を定めたもの (外国人に対しては定めていない)」(青山 2001, p.45) である。この指針においては、日本の運転免許証を新規 として取得した外国人は、「日本人と同程度の運転知識 および技能を身に付けていると思われる」(青山 2001, p.48)と想定されており、最も優先的な対象者として、「就 学・就労等により長期滞在予定であるものの、日本語に も日本の生活習慣にもいまだ通じていないため本人の不 安も大きいとみられる来日直後の者」(青山 2001, p.49) が想定されている。 それでは、どのような交通安全教育が実施されてきた のだろうか。情報の公開も進められてきている。たとえ ば、「(財)全日本交通安全協会の協力を得て、歩行者、 自転車の交通ルールや交通事故に遭った場合の措置等に ついて解説したパンフレット『歩行者と自転車のための 日本における交通安全ガイド』を英語・ポルトガル語・ 中国語・韓国語の四か国語で作成し、各都道府県警察に 配布するとともに警察庁ホームページに掲載」(石居 2012, p.21)している。 外国人向け交通安全講習会などでは、警察本部や警察 署が独自に作成した外国人向けの交通安全パンフレット を活用することが多い(青山 2001, p.51)。静岡や岐阜 においては、在日ブラジル人を外国人交通安全教育指導 員として配置し、ブラジル人学校等における交通安全教 育やポルトガル語による交通安全教育のための教材の作 成等を行ったこともあるように(成富 2012, p.37)、各 都道府県警察においては、それぞれの地域実態等に応じ た外国人に対する交通安全教育を実施している。 以下に、具体的な交通安全教育の例を青山 [2001] を 参照しながら述べる。 例えば、滋賀県では、県内企業に雇用されたブラジル、 ペルー、ボリビアほか中南米を中心にさまざまな国籍の 外国人の研修生を対象として、平成 12 年秋には、いく つかの警察署で、それぞれの管内に置かれている国際交 具体的には、「警察署の交通課員らが事故発生の実態、 道路交通法規、交通安全のポイント等を説明し、シート ベルト着用体験車による時速 5km での交通事故衝撃体 験、コンテスト型の安全運転訓練が行われた。平成 12 年春には、ある警察署と市の外国人問題対策協議会が交 通安全体験教室を共催し、外国人約 30 名および市内の 企業の外国人雇用担当者約 20 名に対し実践的な歩行者・ 自転車利用者教育が実施された。参加外国人に対しヒヤ リハット体験アンケート調査も実施された。当日不参加 の外国人約 80 名にも別途アンケート用紙を配布し、回 答を提出させるなどして、外国人全般の交通安全意識の 高揚を図った」(青山 2001, p.50)。 愛知県豊田市の例を紹介する。「ブラジル人が集中し て居住しているある団地では、生活習慣の違い等からさ まざまな治安上の問題が発生しているため、各分野で対 策がとられている。交通警察の分野では、違法駐車の日 本人との友好・共生を図る観点から、交通安全教育も活 発に行っている。例えば、地区の交番の働き掛けで、こ の団地を含む地区に居住する住民の祭典の日に合わせ、 「交番・地域ふれあいフェスタ」を開催し、会場である 中学校の校庭において、交通・防犯パネル展、子ども免 許の作成、シートベルト着用による衝撃体験、交通機動 隊員によるトライアル演技その他防犯関係の展示や実演 など、参加者の安全意識を高めながら、団地に居住する ブラジル人と日本人との交流を図る催しが行われた」(青 山 2001, p.51)。 以上の報告からもわかるように、「外国人に対して交 通安全教育を行うということは、住民として共生するた めの礎も構築されることにもなる」(青山 2001, p.53) ことが期待されているのである。4.外国人ドライバーと運転免許
日本国内における、国籍別外国人登録者及び外国人運 転免許保有者の状況は以下の通りである。「登録者数で は、中国、韓国・朝鮮、ブラジルの順で多いが、運転免 許保有者数では、韓国・朝鮮、中国、ブラジルの順で多 くなっている。韓国・朝鮮人の運転免許保有者数が最も 多いのは、外国人登録をしている韓国・朝鮮人の多くが いわゆる定着居住者(永住者、永住者の配偶者及び特別 永住者)であり、日本の運転免許を取得する必要が高いで、外国人運転免許保有者の 77.0 パーセントを占めて いる」(成富 2012, p.33)。 次に、外国人が日本で運転するためにどのような方法 があるのかを確認しておきたい。日本で外国人が運転す る場合を大きく分けると主として短期滞在者が利用する と考えられる国際運転免許証及び外国運転免許証により 運転する場合と、日本の運転免許を取得して運転する場 合とに分けることができる(増田 2008, p.48)。 まず、前者について述べる。日本で外国人が第一種中 型免許1)を日本人と同じ試験または、「教育」を受けて、 免許を取るのが難しいため、多くの外国人が国外で取得 した免許を日本で切り替えることで運転してきた。それ は、「外国等の運転免許を有する者は、学科試験及び技 能試験が一部免除また国の免許によって2)免除され、 運転免許試験より簡易な確認を受けることでいわゆる外 免切り替えができる」というものである。 「道路交通法第 97 条の 2 第 2 項および同法施行令第 34 条の 4 の規定に基づく取得方法:外国で免許を取得 した後に通算 3 か月以上その外国に滞在していた者は、 適性試験に合格し、運転に支障がないことの公安委員会 による確認を受けた上で学科試験および技能試験を免除 され、当該外国の運転免許に基づいて日本の第一種運転 免許を取得することができる。これは、従前の運転免許 試験の一部免除による日本の免許の取得制度を利用して 免許を受ける者の中には、日本での安全運転に必要な技 能および知識を有していない者が見受けられたことか ら、これらの者を的確に排除するために平成 5 年の道路 交通法一部改正により新設された制度である」(青山 2001, p.48)。 しかし、「これによって日本の運転免許を取得した者 に対して日本の交通ルールやマナーについて十分な教育 を行う時間が確保されておらず、いかに交通安全教育を 行うかが課題となっている」(増田 2008, p.49)。そして、 「彼らによる交通事故を抑止し、国民の安全を確保する ために、警察庁では平成 19 年に外国人運転者対策官を 設置し、諸外国の免許データベースを構築し、外免切り 替えにおける運転知識確認問題の見直しを行ってきた」 (増田 2008, p.51) だが、このような外免切り替えをめぐっては、次のよ うな問題も生じていた。2001 年の朝日新聞には、以下 のような記事が掲載されている。 (外国人住民を支える活動をする NPO 法人)愛伝舎 によれば、日系ブラジル人の場合母国で取った免許 を切り替えるケースがほとんどで、新規で取得する 場合は数ヶ月間母国に帰国して取ることが多かっ た。そういった従来の制度では免許取得のために母 国に帰国するのは金銭的負担が大きく、また親が 数ヶ月間も帰国することで子どもの生活や学習に支 障が出ていた(朝日新聞 2012.4.25) また、このようにして免許を得たからといって、日本 における適当な運転が可能になるわけではない。しかし、 次のような限られた機会に教育が試みられている。 日本の運転免許制度、自動車等を運転する上での留 意点や交通事故発生時の措置について解説した外国 語のパンフレットを作成し、新規免許証交付字等に 配布するなど、外国人運転者に対する情報提供を実 施した(宮城、栃木、群馬、滋賀等)(成富 2012, p.37) たとえば静岡県警察ではブラジル人向けの交通ルー ル等に関するリーフレットをポルトガル語で作成 し、免許交付時に講習、配布(増田 2008, p.50) 山口県警察等では運転免許証の交付待ち時間に空き 教室を利用して外国語による日本の交通ルールに関 するビデオ上映(増田 2008, p.50) また、軽微違反行為をした者に対しては、「道路交通 法第 107 条の 4 の 2 の規定により、同法第 108 条の 2 第 1 項第 13 号で定める講習の受講が義務付けられている。 講習に加えて、更新時講習、停止処分者講習等の法定講 習についても、外国人に対する教育効果を高めるため、 日本の交通ルール等を外国語で分かりやすく説明した教 材を作成し、活用しながら講習を実施している県もある」 (青山 2001, p.48)。 しかし、最も有効なのは、日本における交通ルール等 を、しっかりと理解したものに免許を与えることである。 それでは、国内で運転免許を取る場合についてはどう であろうか。英語での学科試験は全国ほとんどの都道府 県で受験することができる。しかし、それだけでは、不 十分である。以下のような記事がある。
ポルトガル語の試験は 2011 年 4 月以降に導入を始 めたばかりである。これまでブラジル人は英語か日 本語で受験しており、2011 年の合格率は 30%台で あった。日本人を含めた全体の合格率は 74%で、 その差は大きく、母国語で受験ができるよう改善が 求められていた(読売新聞 2012.3.20) このような動きは、日本各地で進んでいる。また、島 根県益田市の M ランド益田校のように多言語を話せる 社員を雇用することで、外国人の教習生を受け入れる準 備 を 進 め て い る 自 動 車 学 校 も あ る [ 朝 日 新 聞 2010 3/13]。
5.福井県越前市の事例
本節では、筆者の現地調査で得られた、免許取得をめ ぐるエピソードを紹介する。 筆者は 2012 年 8 月 13 日に越前市を訪れた。越前市で は、「新しい公共の場づくり」のスローガンのもと、「や さしい日本語」の推進事業が行われている。災害時や非 常時にどう行動すればいいか、ブラジル移民の多い越前 市ではポルトガル語での説明も行っているが、実際に病 気になったときに外国人は症状の説明がうまくできず、 よく困っているのを見かける。それをうけて、市では防 災教育の新しい形として、「やさしい日本語」を広め、 早く正確に情報を伝えたある外国人と地域住民がコミュ ニケーションをとれる場づくりの手助けを行っている。 外国人にとって理解しにくい日本語を調査し、さらに フィードバックとして理解度調査を重ねて行うことで、 外国人と地域住民の双方がやさしい日本語で情報伝達で きることを目標に、事業が進められているという。 越前市には、越前市国際交流協会という組織がある。 同協会は、「人種や国籍に関わらず、その人の持つ文化 の多様性を認め合い、市民が平和に共存するために必要 なことを考え、市民活動のチカラ」を元に、①異なる文 化や価値観を知り、認め合うための「交流事業」、②文 化的背景の異なる人たちと共生するために必要なことを 学ぶ「情報事業」、③在住外国人が抱える様々な社会的 不都合を解消するための「多文化共生サポート事業」を 行っている。同協会は、具体的に、各種市民交流事業・ 多文化共生促進事業の実施、機関紙発行、語学教室(常 ン講座など)を開催している。 筆者の訪問時は、越前市サマーフェスティバル ふる さと踊りという催しが行われている時期であり、そのパ レードに参加するチームの一つに、越前市在住外国人(主 に日系人)のチームがあったため、日本の免許を所有す る外国人にインタビューをしたい旨を伝え、祭りの支度 中に取材許可をいただいた。しかし、大雨により祭りは 中止になり、結果として彼らの免許取得の方法など、よ り詳しいインタビューをすることができた。 まず、日本語で運転免許試験を受験した、モハマディ ニア・マスメ氏(イラン人)のエピソードを紹介する。 マスメ氏は福井県内のケーブルテレビで県民に対して日 本語で取材を行うほどの能力も持つ、顔の広い女性であ る。彼女は、22 年前、イラン人のご主人と 3 歳の娘と ともに、38 歳のときに初来日した。翌年自動車学校に 通うようになり、免許取得の際には日本語の学科試験を 免許センターで受けたという。彼女は、「たくさんの本 を読み、自動車学校の先生や友人に助けてもらい、学科 試験用の教科書等にふりがなをつける手伝いもしても らって、学科講習にも普通の人の二倍時間参加した」と いう。そして、その経験を、「私にとって大きな勝負だっ た。小学校 1 年生に大学のテストを受けろと言っている ようなものね」と語った。また、彼女は、「踏切という 言葉がわからなかった私が、この試験に合格できたこと で人生が大きく変わった。自動車学校の先生も一緒に泣 いてくれた」とも語っていた。彼女にとって、日本語で の受験というのは、日本語の学習という機会になっただ けでなく、知人や友人が増えるきっかけにもなっていた。 つまり、受験という機会は、彼女が日本社会に、その一 員として参画するのを後押しした。しかし、日本語で受 験し合格するのは容易なことではない。そのため、免許 の切り替えという手段を選択する人もいる。 シバオカ・カチヤ・サユリ・グシケン氏(ブラジル人) は、10 年前に福井県の春江試験センターで、ブラジル の免許を切り替える形で 22 歳のときに日本の免許を取 得した。簡単な知識確認をクリアし、技能試験を 5,6 回受験して免許の切り替えに成功したという。 トウマ・マルガレッテ・マユミ・オジマ氏(ブラジル 人)は、1990 年に初来日し、そこから 5 年間を神奈川 で過ごした。その後 2000 年に再来日し、現在にいたっ ている。彼女によると、「神奈川にいた時は運転免許の隅々まで運行してはいないことに加えて、家族も増えて 子どもたちを学校に送ったり、食品を積み込んだりする ことのために、免許が必要となった」とのことである。 彼女は前述のシバオカ氏のように、母国の免許を日本免 許に切り替える方法をとった。技能試験は 5 回ほど受験 した後に合格したとのことだが、マニュアル免許を取得 したことをとても誇りにしていた。 シバオカ氏、トウマ氏ともに、技能試験の合格までに は時間がかかっている。その理由として考えられるのは、 日本独特の交通ルールや、運転方法を知らず、学ぶ機会 もないためである。この問題を自覚し、積極的な学習を 目指す人もいる。 タカセ・グスタヴォ氏(ブラジル人)は、越前市の丹 南運転者教育センターで、1 年ほど前に試験に合格し免 許を取得した。当時福井県ではポルトガル語の学科試験 を導入していなかったために、英語で受験したとのこと である。もともとブラジルで運転免許を取得していたが、 有効期限が切れていたために日本の運転免許に切り替え る方法はとらなかったそうである。筆者がなぜ一時帰国 して母国免許の期限を延ばし日本免許に切り替えるとい う簡単な方法を選ばなかったのかをたずねたところ、「そ れにはお金がかかり、また日本の交通ルールをしっかり 学んだ上で免許を取得したいという気持ちから、自動車 学校に通った」との返答が得られた。
6.考察および政策提言
日本に滞在する外国人の中で、ジュネーヴ条約3)に もとづいて国際運転免許で運転をする人については、日 本の交通安全について学ぶ機会があまりにも少ない。今 後も増え続けると考えられる外国人ドライバーを日本の 交通社会の一員として迎え入れ、共生していくためには そういった学びの機会をもっと増やす必要があるのでは ないか(例えば留学生ビザや就労ビザなどで 6 ヶ月以上 の長期滞在ビザを取得した人で国際免許を持っているド ライバーが車を買いたい場合には名義変更規制を作り講 習を受けさせる、危険予測や練習場での技能練習を義務 付ける、切り替えではない新規の免許取得を勧める、な ど)。 外国運転免許を日本の免許に切り替える場合について は、インタビューの結果、やはり技能試験の場で日本独 特の交通ルールや運転方法にとまどう人たちが多く見ら れたし、何度も何度も試験を受ける時間的・肉体的苦痛 が免許切り替えの壁となっているようであった。そして そのことが無免許運転やあいまいな基準で与えられる国 際免許での運転へとつながっているように見える。 本来、試験というものはそのために勉強し、訓練を繰 り返してから受けるものであるはずであるのに、現状は 落とすための試験となっているように思われる4)。それ を解決するために、交通安全協会が運営している運転免 許試験場の敷地内にある練習場で現在任意で行われてい る技能試験の練習をもっと有意義に活用するべきではな いだろうか。交通ルールが日本と同じではない外国から 来た人々にとって、何も教わらないまま試験を受けるよ りも、技能試験の練習を数回強制(例えば技能講習(2 時間)、危険予測講習(2 時間)の 4 時間程度)するな ど任意ではない形で訓練のチャンスを与えることの方が ずっとためになるし、それは外国人ドライバーの交通事 故を減らす政策となるはずである。 教習所に通って日本の運転免許を新規で取得しようと する外国人については、インタビューの結果やはり学科 試験の言語の問題、つまり難しい日本語の言い回しが最 大の壁となっているようであった。近年ではその対策と して受験できる外国語を増やそうという動きが見られる が、この対策はまだ始まったばかりであるため、どの程 度効果があるのかはもう少し時間が経って分析してみな いと明らかにはならないだろう。 本稿でも触れたが、母国語で学科試験を受けることが できる制度は魅力的で、これまで存在していた壁をなく す方法の一つであるが、対応できる外国語にはどうして も限りがあるし、最大公約数的な対応をせざるをえない。 究極的には言語マイノリティが不便を受けることになっ てしまう。それならばもう一つの案として、福井県越前 市で進められているような「やさしい日本語」を活用す るのはどうだろうか。日本に住み、日本で生活していく 外国人にとって、免許取得後もことばの問題はつきまと う。学科試験をやさしい日本語を使って行うことにより、 上記の問題が解決されるうえに、その後の日本での生活 を円滑に楽しく過ごすきっかけ作りができるのではない だろうか。越前市でインタビューに協力していただいた イラン人女性マスメ氏はすっかり日本の社会にとけこん でいた。運転免許取得がきっかけとなり外国人が日本人 と共生できる社会づくりの一歩となれば幸いである。注 1)第一種中型免許(旧法普通免許)に相当する。旅客自動車 (営業ナンバーの乗用車)人を乗せて報酬を得る業務(営業 運転)は第二種運転免許が必要である。 2)東京都の江東運転免許試験場は、下記の 23 か国・1 地域(知 識確認、技能確認を免除する国等)の運転免許証を所持する 者のみ手続き可能。知識確認、技能確認を免除する国等(23 か国・1 地域) アイスランド、アイルランド、イギリス、イ タリア、オーストリア、オーストラリア、オランダ、カナダ、 韓国、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、チェコ、 デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、フィ ンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブル ク、台湾。 3)1949 年にジュネーヴで作成された道路交通に関する条約 であり、日本ではジュネーヴ条約締結国が発行する国際運転 免許証しか効力を発しない。なお「1 年以上引き続き領域内 にとどまっている者に利益を及ぼすことを求められない」と の規定にもとづき、日本では国際運転免許証の有効期限は一 年間であるとされている。 4)太田は、「日本人は、試験というと落とすためのテストと いう観念になれてしまっているのではないだろうか?」(太 田 2000, p.21)と投げかけている。「フィンランドでは新たな テストとして、フィードバック機能を付与した試験が開発さ れている。受験者がコンピュータの前に座るといくつかの交 通場面とイエス・ノー式の選択問題(この場合、まっすぐに 進むことはできますか?など)が与えられ、それに解答する。 試験ののち、間違えた問題に対して正しい答えと解説が与え られるシステムである。このようにすることで、受験者は自 分の間違いに自分で気づき、以後の交通場面にその経験を生 かすことができる。これは現在の日本の詰め込み式免許試験 よりも実用的ではないだろうか」(太田 2000 p.21) 参考文献 青山 彩子 「外国人に対する交通安全教育」『国際交通安全学 会誌』 27(1), 45-53, 2001, pp.45-53 石居 高廣「我が国における外国人の交通安全」『人と車 - 全日 本交通安全協会 』 48(5), 2012, pp.18-21 井原 健雄・正岡 利朗「交通安全教育の意義と役割」『香川県交 通安全教育推進会議の活動を踏まえて』勁草書房 2011 太田 博雄 「フィンランドでのドライバー教育の理論と実践」『交 通安全教育』35(1) 2000, pp.16-21 成富 則宏 「平成 23 年の我が国における外国人の交通安全につ いて」『月刊交通』43(5) 2012, pp.32-37 増田 岳樹・真野 善治「外国人が日本で運転するために必要な 運転免許について」『交通工学』 43, 2008, pp.62-69 増田 岳樹「外国人運転者対策の現状と課題について」『月刊交 通』 46, 2008-10, pp.46-51 朝日新聞 2010 3/13, 4/25 毎日新聞 1997 5/20 読売新聞 2007 6/28, 2012 3/20 福井県 H.P http://www.pref.fukui.jp/ 福井県警察本部 H.P http://www.pref.fukui.jp/kenkei/