販売基準と不完備契約
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(2) キーワ. ー. ド:不完備契約, 所有権,. 第43巻 コ. I.. 第 3号. ミッ トメン ト.. はじめに. 従来. 会計学は収益認識については, 認識の基準を基礎に論じてきた。 その議論の中心. は時点にあったのである。 通常の販売における実現主義建設工事における工事完成基準 や進行基準などいずれも認識時点に関わっている。 会計を記録と測定のシステ ムとしてと らえる限りその研究は不可欠な事であったろう。. しかし大事なことは収益認識の基準がなぜ選択としてあるかであり, その選択によって. 企業内部でどのように コ. ー. ディネ ー トされているかである。 企業は組織であり. 組織の内. 部での物的, 人的資源配分こそが基本である。. 市場システ ムが効率的に機能するのは, 価格が指標となって資源配分を コ. ー. ディネ ー ト. できるからである。 しかし, 市場取引には コ ス トがかかる。 互いに売買の相手を求めるた. めの コ ス ト(情報の コ ス ト). 契約をするのに相手の信用を調査するための コ ス ト(契約の コス ト) など取引のコス トが必要である。 そこで. この取引のコス トを節約するために取. 引を内部化する。 ここに企業が発生する。 内部化するには人や財を集め. 組み合わせるた. めの コ ス ト, 組織化の コ ス トが必要になる。 かくて企業は一つの組織である。 多くの財を 所有し.. tracts). 複雑な人事機構にも拘わらず,. の集合体Illであるからである。. それがくずれないのは.. 企業組織が契約 (con. もとより, 契約は人と人との合意によって成立する。 この契約をもとに. 人々は企業活. 動を営む。 会計はこうした分散する私的情報を集中し. 公的情報を報告するシステ ムであ. る。 そうであれば. 契約はまさに会計現象の根本に位置するであろう。 ことに. 契約の内. 容の如何が財の増加, 現象や利益の大きさに影響するのであれば. 会計方法への作用する. ところが大である。 このように考えてくると. 契約が会計方法に与える作用は小さくない ことがわかるであろう1210. 本稿は以上の観点から. 売り手の会計方法の選択を分析する試みである。 売買契約をめ. ぐる財の数量. 品質など契約の内容が収益認識の基準に関係するであろう。 会計方法の選. 択を売買契約との関わりで分析していくことは. 市場と企業の境界を考えるうえで重要な. (I) Hughes (1984). (2) 不完備契約については, Hart (1995), Milgrom and Roberts (1992), 伊藤• 林田 (1996), 伊藤(1996)を参照した。 とくに, 伊藤• 林田 (1996)は教えられるところ大である。 Schwartz (1992)には契約の展開がある。 会計学への応用は Watts (1992)にある。 - 16 (374)-.
(3) 示唆を与えるであろう。. 販売基準 と不完備契約(毛利). II.. 契約の内容. 会計慣行は財の引渡しを収益認識の基準としている。 これを実現主義あるいは販売基準. という。 これはよく知られた事実であり, 売買とはまさにそのことなのであるといえば納. 得がいくかにみえる。 しかし, 売買の過程を分析すれば幾つかの考慮すべき問題が浮彫に なるのである。 会計上, 引渡しをもって収益は実現するというが. そのことは売り手の売 買契約の履行とどのように関係するのであろうか。. 財の引渡しといっても. 売り手があるだけで売買は成立しない。 当然のことであるが,. 財を受ける人. つまり買い手がいるのである。 それ故に, 財の引渡しをもって収益を認識. するというのは. 売り手の側だけでなく, 買い手の側の状況を考えなくてはなるまい。 売. り手と買い手の合意があってはじめて売買は成り立つのである。 こうした売り手と買い手. を結びつけ, 合意させたものは契約である。 この意味において. 会計制度としての販売基. 準の研究は. 売買そのものの出発点である契約を基礎としなければならない。. そこで, 契約が収益認識にどのように関わっているかを明らかにするために. 売買契約. の内容を売り手の側から分析してみることにしよう。 売買契約において, 売り手と買い手 ではその内容の重みは全く異なるのである。. 会計学上, 長期工事の収益認識など一部を除き契約の位置は低かった。 もともと, 会計. が財の増加. 減少を記録の基礎においたからである。 ましてや, 契約の内容にまで言及す. ることはなかったのである。 会計が記録測定, 報告の研究領域にとどまるのであれば問題. はない。 しかし. 企業組織や市場と企業の境界に研究を広げ. 企業理論の一分野として研. 究をすれば契約にまでさかのぼって収益認識を考えねばならぬであろう。 なぜなら, 企 業 は組織であり, 契約のネクサスであるからである。. 売り手にとって契約の内容は以上の通りである。 これらは契約に記載される内容であ. る。売り手は少なくともこの契約内容を実行すればよい。その限りで売り手に問題はない。 しかし大事なことはこの契約に書かれない問題が生じることである。 契約内容は起こるで. あろうあらゆる事を記載するわけではないからである。契約内容は不完備である。そこで.. 記載されなかった契約内容を浮彫りにして. 会計制度との関係を明らかにする必要があ. る。. わが国の民法によると, 売買は有償契約である131。このことからして, 契約の内容は次の -17(375)-.
(4) ことを含むであろう。. 第43 巻 第 3 号. 第一に売り手にとって売買は, 財を引き渡して代金を回収する行為であるから当然そこ. には売買契約には金額がなくてはならない。 売り手は, この金額はいくらで買い手に販売. するかであり, また債権の額であり, さらに回収する代金でもある。 ともかく, 書面によ. る契約であれ, 口頭であれ. 売買の金額は契約の内容に不可欠のものである。 民法上売買. 契約は財産権の移転を力説する。 それは民法が財産権とその変動を問題とするのであるか ら, 当然のことである。 しかし, 会計は財の増加, 減少を数値で表現する。 その意味にお. いて. いくらで販売するかという契約は極めて重要な内容である。. 次に売買は財産権の移転であるから. 移転の状況を含むはずである。 移転の状況とは日. 時, 移転の場所, および移転の方法である。 しかし. 財産権の移転の状況は会計上は重要. でない。 財産権の移転とは財の引渡しにほかならない。 大事なことは財の引渡しそのもの. である。 これによって, 財が減少するからである。 同時に代金の請求権である債権が確定 する。周知のように通常の販売においては. 会計上この時点で収益を認識するのである。. 実は会計記録には表現しないが. 財の引渡しによって売り手の財産権の移転義務が解消す. るのである。 会計学では債権の確定を重視するが, 債務の解消という事実を全く看過して. いる。 実は, 後述のように財の引渡しによる債権の確定よりも, 債務の解消の方がはるか. に重要である。 ともか<' 財を引き渡す前と後とでは契約の内容に大きな差があるのであ. る。. 第三は代金の支払いであり, 売り手にとっては代金の受領である。代金の受領は, 日時,. 場所, 支払方法を契約の内容に書き込む。 これは, 売り手にとっては代金請求権の消滅に. すぎない。 実際会計処理としても単に債権の回収として処理しているのであって, 収益. 認識には全く関係しない。 ただ後にみるように, 代金の受領は売買のプロセスの終了にあ. たる。 にもかかわらず, なぜそれが収益認識と関わりがないのかあらためて明らかにする. 必要があろう。. 売り手は契約によって財産権の移転義務を負うが財の引渡しによってその義務は完了す. る。 このことは売買契約には書かれていない。 売買契約の後, 売り手は場合によって財を. 製造し, 引渡しをして代金を回収する。 ただし, 会計上の引渡しは現実に財を提供するこ. とであるが, 民法上は, 口頭で引渡しの予定を知らせればよく, 必ずしも現実に財を提供 することを意味しないのである。 (3). 以下は来栖(1974)を参照した。 民法における契約の考え方は. 会計に示唆するところ大であ る。 - 18 (376)-.
(5) 販売基準 と不完備契約(毛利). プロセスをたどっていく。 この一連のプロセスの出発点は契約である。 上記に述べたのは 契約におりこんだ事柄である。 しかし売買プロセスに生じる全てを契約に記すことはでき. ない。 そこで, 契約の内容に含まれる事項と含まれぬ事項を明らかにして, そのことが収. 益認識にどのように関わるかを明らかにしたい。. m.. 実現主義と売買のプロセス. 財の移転. 実現主義は財の引渡しを意味し販売基準ともいう。 そこで問題はなぜ引渡しが収益認識. の基準となるかである。. そこで,財の売買とはどういうことか,時間軸でみてみよう。売買契約の時点をt。とし. よう。 契約に従い, 売り手と買い手の間に, 売り手が財を引渡した時点ti, 買い手の受け. 渡しの時点t2, 買い手の代金支払いの時点ln-1, 売り手の代金受領の時点tn が生じる。 :(. t。. t1. 売買のプロセス t2. ':. ln - I. ln. 図3-1. 売買は売買契約に始まり代金完済に到って終わる。 従って売買とは売買契約の締結から. 代金の完済までの全てのプロセス[to, tn ]であることがわかる。売買にとり決定的な時点は. 財の引渡しであるよりは売買契約の締結であろう。 なぜなら, 売買契約を結ぶことは売買. のいかなる契機よりも出発点となる事象であり, これなしにはそもそも引渡しも起こりえ ないし. 代金の受取もないからである。 また対価もその時に確定する。. 引渡ししの時点が契約t。や代金完済t2の時点と基本的に違うのは,売買のプロセス. の始めtoと終わりt2の途上に位置することなのである。会計上,財の引渡しをもって収. 益を計上することは. 民法から言えば. 売り手から買い手の財の占有権の移転である。 売. 買契約の後売り手が買い手になさねばならぬ最初の義務が財の引渡しである。それ故に.. 財の引渡し, つまり民法上の占有権の移転が. 実現主義を基礎づけている141。他方で. 売り. 手が財を引き渡すことは売り手の債務である。 そして. 当該財を引き渡せれば売り手は債. 務を履行したことになる。 占有権の移転と売り手の債務の履行は同時と考えてよいであろ (4) 谷川(1964), 以下は本書に拠る ところが大きい。 会計処理を考える上で示唆されるこ とが多 い。 - 19 (377)-.
(6) 第 43巻 第 3 号. う。 その意味において, 会計上, 収益認識を財の占有権の移転とともに売り手の債務の完 了の時点においたことはごく自然であったのである。. 売買する財に対する危険負担がいつ売り手から買い手へ移転するかについては. 一般に. は引渡しと考えられる151。なぜならば. 引渡しによって占有権が買い手に移り.売り手は売. 買契約上の債務を履行したことになるからである。 それ故, 引渡し前, また引渡し後に発. 生した損害については, 原則として引渡し前は売り手. その後は買い手が負担することと. なるのである。 会計上は売り手の引渡しがあっても, 受渡の確認はしない。 つまり買い手 が当該財を受け取ったか, さらに買い手が当該財を受領したかどうかの確認は考慮の外に おいている。 財に瑕疵があって返品されることがあれば. 売上を修正するだけである。. 会計学上, 財の引渡しは収益認識に必要な客観的事実を反映するという。 このことは売. 買のプロセスから言えば, 売り手から買い手への占有権の移転を意味するのである。 とこ. ろで, 財の引渡 しをもって収益認識の基準とする考えは. 占有権の移転こそがあれば収益 認識の十分条件であるかにみえる。 占有権の移転はいかにも収益認識基準とするにふさわ. しい客観的状況を示すようにみえるが実は決してそうではない。 占有権の移転は恣意的に. つくり出すことは可能なのである。そうでなくとも,占有権の移転は実際の取引にもある。. 委託販売の場合,委託者から受託者へ商品が移転しただけでは会計上. 収益は実現しない。 これらの状況を売上としないことは, 引渡しという事実を収益認識の基準といいつつも,. 実はそれだけでは十分ではないのである。. 売買のプロセスにあって, 会計上はとくに引渡しを力説する。 そこでは占有権の移転に. のみ注意が向けられ. そのことが収益認識の要件であるようにみえる。 しかし. もしも,. 占有権の移転が収益であれば, 企業は利益操作の手段としていつでも占有権を移転させる. であろう。 そればかりでな<. 委託販売などはまさしく占有権の移転なのであるから. 委. 託者受託者へ商品を送付しただけでただちに収益と認識しなくてはならなくなる。 占有権 の移転は収益認識の必要条件であっても十分条件とはならない。 占有権はいつでも他に移. 転できるのであるから, 財の引渡しそのものはそれほどの客観性はないのである。 所有権の移転. 上記のように会計学は収益認識の基準として専ら引渡しに着目してきた。 もちろん売買. のプロセスの中で引渡しは大事なステップには違いない。 しかし, 民法上, 財の引渡しは (5). 谷川 (1964, 96), なお以下において通説に従い. 占有権は財の一時点的な支配. 所有権は排 他的な支配と定義する。. - 20 (378)-.
(7) 販売基準と不完備契約(毛利). 占有権の移転であるだけでなく売り手の債務の履行でもある。本当に大事なことは引き渡 すことによって売り手と買い手の関係に変化が生じることである。すると, 売り手の債務. の履行は占有権の移転以上に重要なのではあるまいか。売り手の債務の履行とは買い手へ の所有権の移転である。そこで所有権の移転の観点161 から収益認識を考えてみたい。. 所有権は現実に財を所有している必要はない。それが他人に占有されていてもよいので. ある。 前述のhは引渡しの時点であった。 引渡しと所有権の移転の時期には特に関係は. あるのであろうか。所有権は契約時に売り手から買い手へ移転すると仮定してみよう。す ると商品の場合. 交換を目的としているのであるから. 商品の所有権は交換によって移転. するが. その交換とは売買契約による。商品の所有権は売買契約によって買い手に対する 請求権(債権) を生じることによって, 移転するのである叱. 所有権は物を支配する権利, つまり物権である。物に対する支配というところに所有権. の特徴がある。同時にそれは企業活動を把握する上で限界でもあった。なぜなら社会の経. 済活動の主役は物権でなくて, 債権に移っているからである。この推移は. 企業組織を維. 持し, 継続させる法は物権ではなく債権であることを意味する。企業活動の法律上の力点. が物権から債権に移動したとすれば, 所有権の移転は売買契約時にあるとみるべきであろ う。企業の取引の多くが債権, 債務による状況にあって, 売買プロセスにおける所有権の 移転の時期は財の交換ではないとするのである。事実, 会計記録は財の交換だけでなく. 債権. 債務などの契約も基礎にしている。. これに対し. 所有権は契約時でなく財の引渡しによって売り手から買い手に移転すると. 想定してみよう181。 所有権の性質が先ず財であることが明らかにされている。 それを所有. することは人の意思による。従って. 私的性質をもつのである。そして商品が交換される ことによって社会的性質をもつことになる。財の交換は. 売り手と買い手が互いにお互い. の所有する財を求めて行動した結果である。ここにお互いを結びつける契機となるものが. 契約である。大事なことは契約はあくまでも財の引渡しを基礎にしていることである。財. の交換を離れて契約があるわけではない。ゆえに所有権は契約でなく引渡しの時期に移転 すると考えるのである。. 財の引渡しによって所有権は移転すると考える後者の説は. 会計上の収益認識基準であ. る実現主義によく合致している。その点から言えば. 実現主義は所有権の移転を基礎に成 (6) この点は鈴木 (1975, 251) による。 (7) 我妻 (1983, 256) 。 (8) 川島 (1987, 2531) および廣中 (1962) を参照。 - 21 (379)-.
(8) 第43 巻 第3 号. 立しているかにみえる。 しかし. そのように解してよいのであろうか。. 民法上明確であるのは, to 以前には所有権は売り手に, t3 以後は買い手に帰属すること. である。 民法上の問題は. t。から t3 に到る時点における所有権の帰属である。 しかし所. 有権がいつ売り手から買い手に移転するかは. 実は不明なのである。 民法上. 所有権の移. 転は当事者の意思による。 所有権の移転が 当事者の意思によるということは. そもそもあ いまいである。 当事者の意思なのだから, 売買契約の締結から代金の完済までのどの時点. でも可能性としてはありうるのである。 のみならず. それぞれのケ ー スによって. 当事者. の意思表示の違いが生じるので, 所有権移転の時期は特定できないことになる。 つまり, ケ ー スによって異なる。. このことから売買のプロセス中では. 所有権帰属は不確定19)であり. そこでは売り手と. 買い手のいずれが所有権をもつのか断定できないとの見解が導かれる。 to→ t2 の時期を売. 買プロセスとするが. 民法上. 引渡しが所有権の移転であるということはできないという. のである。 所有権の移転が売買のプロセス中のいつかを特定することはできないのであ. る。 実際民法上はそのこと自体を論じてもあまり実りある成果は期待できないのであろ う。 かくみてくると. 引渡しと所有権の移転の時期が収益認識にとくに関係するとはいえ. ないこととなる。 所有権の帰属がそもそも売買プロセスにあってわからないとすれば, 会 計上も所有権の移転を収益の認識の基準と結びつけて論じるのは無意味なことであろう。. 収益認識の基準としての実現主義は. 所有権の移転を反映するものではないし. その移転. の時期とは直接関係ないことがわかる。 売買のプロセスの中で占有権と所有権は売り手S および買い手pにそれぞれ次のように帰属する。. s 令. s sV p. [to, tn-1J. p sVp. tn. pp. 占有権 所有権. 表3-1. そこで財の引渡しがなぜ収益認識の基準となるかをあらためて考えてみよう。 実現主義. はそれ自体. 所有権の移転時期を意識して確立されたものではないであろう。 実現主義は もっと別の考えによって支えられているとみることができる。 にも拘わらず, 収益認識の. 基準が財の引渡しにあることは注意を要する。 ここでは, 所有権の対象である物権が収益. (9) 鈴木 (1975, 251-252)。 鈴木 (1975) によれば所有権の移転時期を論じること自体. 実りある 成果は得られないというのである。. - 22 (380)-.
(9) 販売基準と不完備契約 (毛利). 認識の基礎となっているからであ る。 同時に, 契約によって所有権が移転するとする前者 の説も看過できない。なぜなら. 長期請負工事の場合には工事進行基準を認められ, それ は契約が基礎になるからで ある。. 財の売買は, 本来, 売り手が財を引渡しただけでなく, 買い手が受取り, 最終的に受領. してはじめて売買といえるのである。検証可能な条件というならば, 買い手が受領した時 をもって売上収益を認識すべきであ ったろう。それがまさに客観的な条件で あ り, 対価が. 確定する時であ る。しかし, 会計慣行ではそうしないで, 引渡しを収益認讃の基準とした のは何故で あろうか。. 通常の販売を考えてみるに, 売買の都度. 売買契約を取りかわすことをしない。それは. 省略されていることが常であ る。通常の販売の場合, 売買契約を省略してこそ取引が円 滑. に進められるのであ る。その際の契約内容の不備を補うためには, 売り手と買い手の双方. の間でともかく売買がなされたということを判断するための指標を創出すればよい。それ. はやはり, 売り手にとり手許の財が手放されていくことで あ り. 買い手にとっては手許に. 財が入手されることで あ ろう。しかし, 弓 l 渡しの後で あ っても, 財に瑕疵が あ ることに. よって売買が成り立たないことも あるわけで ある。その場合, 引渡しそのものが無意味と. なる。けれども, そのことは会計上問題にならない。このことは, 財の引渡しをもって収. 益を認識する実現主義が契約の不備を基礎に成立していることの証拠で あ る。. 売買契約の不備は売り手と買い手のいずれにもつきまとうで あ ろう。引渡しの日時, 場. 所, 方法は売り手にとっても買い手にとっても明 白であ る。ところが, 引き渡す財に瑕疵. が あ る場合, 買い手から取替の請求があ ったり, 状況によっては損害賠償の請求がなされ. るであろう。しかし, そのことは売り手にとり予想はつかないのでこの条件をはじめから. 契約できない。売買する財に瑕疵や数量不足があ った場合の条件等については契約書に書. き込めないので ある。それは, 売り手と買い手との互いの信義を傷つけることになり, と りわけ売り手の信頼性を当初から傷つけることになるで あ ろう。よって, 売り手からすれ. ば, 財を引き渡せばそれはもはや売上とせ ざるを得ない。とすれば, 契約の不備は売り手 の側に あると考えねばならない。契約の不備に代わる要件として何が あるかを考えてみる. と, それは財の引渡しではなかろうか。売り手にとって契約を補うのは現実に財を引き渡 したということ以上においてほかにはあ るまい。つまり, 引渡しによる売り手の債務の履. 行で ある。契約の不備を補い, 契約を支えるのが実現主義で あ る。よって. 引渡しが収益. 認識の基準となるので ある呪 契約書の内容はもともと不備なので. 財を引き渡す行為つ (I(» 谷 川 (1964, 66-75) , ま た来栖 (1974, 48-49) を参照。 - 23 (38 1 )-.
(10) 第43巻. 第3号. まり売り手の義務の履行がそれを補完せ ざるを得ない。 これが収益認識の基礎である実現 主義である。 それは契約の不備を補うだけでない。 引渡しの行為によって契約を完備する. のである。. また. 逆に売り手よりも買い手の方に契約の不備がみられる場合も考えられる。 売買契. 約のプロセスにおいて. 買い手の方から契約解除の申し出がある場合が考えられる。 長期. 請負工事がそれである。 このような事態に備えるために. 買い手の側の契約の不備に備え て売り手としては工事進行基準をとることが考えられる。. さらに. 売り手と買い手の双方に契約の不備がある場合もある。 弁護士などの報酬であ. る。 サ ー ビスという給付の提供は, 通常の財のように確定できない。 それは, 売り手にと. どまらず. 買い手にとっても具体的に把握できぬであろう。 この場合. 現金基準が収益認 識の甚準として採用されるであろう。. 売買の多くは現金取引ではなく, 債権. 債務の取引である。 売り手にとって, 財は引き. 渡したが現金は未収であるのが債権である。 会計はこれを取引として記録する。. 現金で財を売り上げた場合には, 取引の記録は財の交換である。 しかし. 現金以外の債. 権による場合には交換ではない。 債権を未来収入としてあくまでも財とみて解釈する考え. もある。しかし,現実の取引が財という物権でな < . 債権として現れることに想い到れば.. もはや会計記録の基礎を交換とは考え得ないのではないであろうか。 つまり. 多くは将来. の代金受領を約束した契約を記録しているのである。 契約の内容を時系列で示せば次の表になる。. 表3-2. 契 約 時 引 渡 し 受 渡 し 代金受領 造. 契約の内容. 不 完 備 不 完 備 完 備 完 備 完 備. この表でわかるように, 財の引渡し前と後とでは契約内容に歴然とした差があるのであ. る。 この差異の故に現金販売であろうが, 債権であろうが. ともかく財の引渡しがあれば. 会計上. 収益として認識したと考える。. もちろん, ここでの所有権の議論は個人ではなく企業である。 しかし. 企業の所有権の. 問願は個人と異なるわけでなく. それが基礎になるのである。 企業の一形態である株式会 - 24 ( 382 )-.
(11) 販売基準と不完備契約(毛利). 社では, 出資者として の 株主といえども, 財産の 所有権は株主にはなく, あく ま で会社の. 所有である。 経営者である取締役は財産の 管理者にすぎないのである。 ま さに, 会社の財. 産が経営者の財産ではないと明 白 に意識される こ とによって, 近代的な株式会社, つ ま り 出資と経営の分離が確立される こ とになる。. IV.. 財の引 渡 し と 契約の内容. 売買契約の成立によって, 売り手は財を引渡す義務を負う。 契約に従い. 売り手か ら 買. い手への 所有権の移転が生じるであろう。 所有権の移転が契約を前提とする限り, そ の 際 収益は認識できるはずである。 にも拘わ ら ず, 会計上, そのように処理しない。 その理由. は既に述べたように契約に不備があるか ら である。 そ こ で売買 のプロセスにおいて契約が. どのような位置を占めるのか, その内容を分析する こ とにしたい。. 契約の 中で重要な条項は 「引渡し」 と 「代金の受領」 である。 先ず引渡しについて次の. ように考える。 引渡しの 時期や場所については契約 の中にはっきりと書き込む こ とができ. る。 もちろん, 特定 の 時期, 場所が契約on に明記されていても争いが生ずる こ とがあるで. あろう。 しかしその こ とは こ こ で問う ま い。 問題は引渡しの方法である。 こ れも売買契約 の条項による。 その際に, 当該財に瑕疵がある場合には引渡しとはいえない。 そればかり. か, そうした行為は売り手の義務の不履行を意味するのである。 売り手が引き渡しても,. 買い手が こ れを拒む こ とがある。 売買契約に買い手がその受取を拒む こ とがありうる こ と. を明記する こ とはできない。 当然, 買い手は こ れを受け取る義務があるわけである。 こ の. ような事態が生じた時. もちろん売上収益は実現しない。 そ こ で財の引渡しの際に収益を 認識しても, 後にその修正をしなくてはな ら ない。 しかし こ こ で の問題はいったん計上し. た収益を修正する点にあるわけではない。 そうではなくて, 売り手が引き渡した財を買主. が受取を拒否する こ とは予想されぬ こ とではないにも拘わ ら ず, あえて引渡しを収益認識. とする会計上の意味が重要である。 こ の 点についても, 契約の 不備が大きな要因になって. いると考える。 買い手が受取りを拒む こ ともある こ とは契約に書き込めない。 それゆえに. 会計上, 財の引渡しによって収益を認識する こ とによって契約の不備を補い契約を支えて. いるのである。. 次に代金受領の期日, 場所, 方法をめ ぐる契約内容についてとりあげてみよう。 通常の. (10 谷川 (1964, 88)。. - 25 (383)-.
(12) 第43巻. 第 3号. 販売の場合, 代金受領の時点は会計上はただ単に債権の回収としてと ら えるにすぎない。. 事実 簿記の記録の上では債権が現金に転換したとして記録する。 その点か ら すれば, 代 金の受領は収益とは無関係とするのも無理か ら ぬことである。 しかし, 本 当に代金の受領. は収益と関係ないであ ろ うか。 売買のプロセスか ら すれば, 売り手にとっては販売に伴う. 債権の回収であり, 買い手にとっては債務の履行である。 代金の受領はまさしくその終了 時であり, 完全に買い手へ所有権が移転する時期である。 とすれば, 代金受領の時期を,. 収益認識の基準として考えても少しも不都合なことはない。 むし ろ , 代金受領の時期こそ は売買プロセスの終了時であるか ら , 収益を確定できる利点がある。 決して, 債権の回収. としてのみ意義をもつのではないのである。 代金の受領を収益計上の基準とするに不都合 な理由はなんであろ うか。. 先ず売り手が代金を受領する時期は, 契約に明記することができる叱 そもそも, 代金の. 受取りや支払について契約に記載がないことは考えにくいことである。 売り手にとって. は, 代金の受取についての準備を特にする必要がない。 しかも, 支払の期日が決め ら れて. いても, それ以前に受け取ってもなん ら 不都合はない。 代金の受取や支払には, 目的物の. 引渡しとは異なる性質をもつのである。 しかし, 買い手が支払い義務を怠り, 売り手の代. 金受領の遅滞が生じる場合がある。. 代金受領の場所は, 契約に特に明記がないとしても問題は生じない。 特定の場所が記さ. れてあればそこが支払場所となるのは言うまでもない。 それ故, 売り手にとって代金受領. の場所につづいては契約上の問題はない。 支払の方法は, 通常, 金銭ないし小切手である か ら 売買契約の不備により問題が生じることはない。 このように, 売り手にとって代金の 受領は, 契約上, はっきりした内容をもつことがわかる。 つまり, 契約の不備は ほとんど. ない。 もしあるとすれば, 買い手における支払の遅滞である。 引渡しの方法 には買い手が 受取を拒否した場合や代金の支払いが遅れた際の条項は含まれない。 それにも拘わ ら ず,. 代金の回収が収益認識との関わりが看過できないのは, 代金回収時点で所有権が売り手か ら 買い手に移転することが確定するか ら であ ろ う。 表4- 1. (I� 以下谷川 ( 1964, 1 72-179) を参照。. 生 生. tn - 1. - 26 (384)-. 滅 生. 代金請求権. 発 発. to. 消 発. 引 渡 しの義務. 売 り 手の義務 と 債権 tn. 消. 滅.
(13) 販売基準と不完備契約(毛利). 前述のように元来, 契約には財の引渡 し および代金受領の期日, 場所, 方法が明記され. ねばならない。 書面によらない契約においては, そう し た記載がな く 不備である。 契約を. かわ し た証拠がそもそもないのである。 このような状況にあっては, 書面による契約に代. えて, 契約そのものを証拠だてる事象は引渡 し のほかないOl。 財の引渡 し を収益認識の基. 準となすことによって, 不完備な契約を補っているのである。. 書面による契約の場合にも, 収益認識の基準は財の引渡 し である。 契約時に収益を認識. し ない理由は所有権の移転時期が契約では明確でない点にあると考える。 所有権の移転が. 財の引渡 し なのか, 受渡 し なのか, 代金支払いにあるのか, 書面に書き込むことはできな. い。 そう し た書面による契約の不備を補うものと し て, 財の引渡 し という収益認識の基準. はあるのである。 受渡 し や代金支払の時点でもよいはずであるが, 財の引渡 し の時点が選 ばれたのは, 契約に書き込めなかった所有権移転の時期を引渡 し の時点によって補完 し ,. 契約そのものを支えているからである。 この事実は, 契約の不備によって, 引渡 し という 行為がその不備を補っていると考えてよいであろう。 つまり, 確定期売買にあって, 契約. の不備によりたとえ目的を達せられぬ時期に引渡 し があれば, その目的物を返すことに. よって対処することができる。 このことは引渡 し があってはじめて可能である。 つまり,. そこで売り手は買い手からの罰を受けるのである。 そのことが契約の不備を補うであろ. う。. 契約の条項. 表4-2. 弓I 渡 し 代 金 受 領. 所有権の移転. 期. 売 り 手の側の契約の条項 日. 確 定 不確定 不確定. 場. 所. 確 定 確 定 不確定. 方. 法. 不確定 確 定 不確定. 契約を考える上で大事なことは, 経済事象は契約のみが契機となっているかといえば決. し てそうではないことである。 契約があるところには, 必ずや所有権が根本にあることで. ある。 契約は所有権の一面にすぎないのである。 契約は売買の基礎となるものであるが,. それに し ても所有権の移転を考えることな し には成立 し ないのである。 契約は, もともと. 有償契約の意味であった。 所有権が契約の基礎であり, 移転を目的と し ていた。 し たがっ. て所有権の存在を抜きに し ては契約を語ることはできないのである。 し か し , 所有権移転 (!� Watts ( 1 992, 260) は, 契約が完備すれば生産基準を用いるだろ う とい う 。 - 27 (385)-.
(14) 第43巻. 第3号. の時期は契約に明記できないものであった。 このことが収益認識の基準として引渡しを導. いたのである。 会計上, 現実の財の引渡しを特に力説するのは, ただ売り手が債務を履行. したからというわけでない。 売買契約の履行の際に生ずる様々の問題 を予想することは難 しい。 起こるであ ろ う事象 を予想して契約におりこむことはできないのである。 以上のことを まとめてみれば次の表になる。 条. 項. 量 数 価 格 品質の瑕疵 数量不足 時価の変動. 表 4-3. 契約の内容. 条項 の状況 完 完. 不 不 不. 備 備. 備 備 備. 売 り 手の責任 取 補 な. 替 充 し. 財の品質の瑕疵や数量不足は契約条項にない。 結局, このことは引渡しの行為があって. 後に売り手がその責任 を負うことによって解決するほかない。 ここに実現主義が収益認識. の基礎となる根本理由がある。. 民法上, 所有権の移転時期ははっきりしない。 売買契約の中に所有権がいっ, どこで買. い手に移転したかをあらかじめ書き込むことはできない。 そこで 自 ずと所有権の移転時期. はわからなくなるのである。 売買契約の大部分はこのようなケ ー スであ ろ う。 そこで, 売. 買契約における所有権の移転があいまいな故に, それを補完するための基準がな く てはな らない。 これが引渡しによる収益の認識である。. 要するに, 財の売買 を め ぐる契約は不完備である。 所有権の移転時期ははっきりしてい. ない。 故に, 売買契約において引渡しが特に重要な時期と考えるべき理由もない。 もち ろ. ん, 引渡しそのものが, 財を手放したという意味で財の増減変動を意識させることは事実 である。 しかしそれとしても, 引渡しの条件として引渡しの時期, 引渡しの場所. 引渡し. の方法を考えていけば, 手放せばよいというものではない。. 会計上, 収益認識を 引渡しの時点としているのは, 売り手の立場からするとそれまで売. 買契約が不完備であり, 引渡しによって契約の不完備が解消するからであることがわか る。 買い手からみれば, 目的物を受領しても, 数量不足などの瑕疵があれば返品しな く て. はならない。 それ故, 引渡しがあったからといって, 買い手にとっては所有権を 得たとい うことにはならないのである。. 会計上, 引渡しを収益認識の基準としているのは, 所有権の移転時期に合致すると断ず - 28 (386 )―.
(15) 販売基準 と不完備契約(毛利). ることはできない。 前述のように, 買い手にとっては引渡しを受けたからといって, 所有. 権の移転にはならない。 買い手にとっては, 受渡しこそが所有権の移転というぺきであろ. う。 そのように考えれば, 売り手にとってさえも, 本当は買い手からの受渡しの通知こそ 真の意味での売上となるのであろう。 またそのように処理する方が確実である。 学説上,. 財の引渡しを収益認識の時点とする理由 として客観的事実であるとか対価の確定といわれ る。 しかし実は引渡しの時点より受渡しの時点の方が客観性ははるかに大きいのである。. これに対し, 金銀鉱山のように契約が完備していれば引渡しの基準でなく, 生産基準を. 導くのである。 金は特定の財であり, 売買契約の内容がはっきりしている。 生産された後. は, 目的物の数量, 質, また引渡しの場所も時期も明らかである。 それ ゆえ不完備の売買 契約は生産の時点までにすぎない。 生産後, 売り手は契約通りに義務を履行すればよい。. 生産が支配権の移転となるであろう。 これは, 会計上, 生産による収益認識の基準となる. のである。 売買契約の不備が解消する時点として生産が収益認識の基準として採択された. ものと考えられる。. また, 工事進行中に占有権の移転はないとしても, 売り手の側の債務の履行は徐々に進. んでいく。 一年経過することによって, 売り手にとって契約の不完備が解消する。 工事進. 行基準が収益認識の基準として認められるのは, 部分的な債務の履行の故であろう。 その. ように考えれば, 工事完成基準は債務の全てを完了した時点であると理解できる。. 売買のプロセスは契約, 生産, 販売, 代金回収をその中に含むのである。 従って販売基. 準のみならず, 生産基準, 工事進行基準や現金基準も売り手が契約を履行する一つの段階 にすぎない。. V.. 利益のイ ン セ ン テ ィ プ. 以上によって, 財の引渡しが所有権の移転をめ ぐる契約の不備を補うことが明らかに. なった。 それならば会計上, 所有権の移転を財の引渡しの時点とすることに特別の理由 が. あるのであろうか。 どの期間で収益を認識するかによって利益は大きく影響する。 このこ. とからすれば, 実現主義は コ ス ト. ・. ベ ニ ィ フ ィッ ト の観点から理解しなければなるまい。. 推察できることは, 引渡しの際に販売費などの取引コス ト が最大になるからである。. 図 1 - 1 の t。からt2 に到る事象を考えてみよう。 財の引渡しは客観的に検証可能で. あると会計上は説明するが, むしろそれ以上に売買契約の方が民法上の裏付けがあるとい. う意味で確定的ではある。 売り手と買い手いずれかが契約を破壊することは, 相互の信頼 - 29 (387 )-.
(16) 第43巻 第 3 号. 性を失うことになるからである。 契約は, この意味において財の引渡 し よりも強く売買を 双方に意識させるのではあるまいか。 財の引渡 し が売買契約より以上に客観的事実を示す. とはいえないのである。. そこで引渡 し の際の取引コス ト を考えてみる。 売り手にとって, 売買契約を履行する時. 点つまり債務を履行する時点が, 売買のプロセスの中でもコス ト 負担が最大になる。 その. 理由は, 第一に財そのものの原価 C1, 第二に引渡 し に要する発送費などの費用 C2, 第三 に不確定であるが販売後に生じる保証修繕費などの費用 C 3 がかかるからである。 引渡. し の際の費用は, 周知のように会計上は売り手が負担 し て原価に算入する。 運賃の費用負. 担について契約がない場合に民法上そうなるのである。 引渡 し の後, 買い手からの苦情の 申 し立てが生じることがある。それが, いっ , どこで, またいくらの額で生じるかわから. ないが, 一定の期間内であれば売り手の負担である。 このように財の引渡 し の時点は, 三. 種の異なるコス ト の負担の時でもあるのである。 所有権の移転時期が法的に確定 し ないと. すれば, 会計上どのような処理が考えられるであろうか。それは ト ラ プ ルが起こった時に,. 交渉を有利に進めるような条件を確保することではなかろうか(I�。 それ故に, 引渡 し の際 にはコス ト. cc げ C2 + C3) を越える収益 S を回収 (S > C げ C2 + C3) せねばなるまい。この. ようなコス ト が最大になる引渡 し の時を収益の認識基準とすることによって, 販売活動の. イ ンセン テ ィ プは高まるであろう。 引渡 し がなぜ収益認識の基準となりうるかについて. は, 売り手の側の状況のみならず買い手の側の事情も考慮されなくてはなるまい。 もちろ ん, 販売は売り手の行為であるから直接に買い手とは関係がない。 し か し , 販売は買い手. の側の商品の受取の意思や受領があってはじめて成立するのである。 一方的に売り手が占 有権を移転すれば済むというわけではない。 このことを考えてくれば, 売り手が占有権を. 移転すること, また引渡 し という債務履行することは, 買い手にとっても売買のプロセス. の中で最もコス ト を要するのである。. かくて, 会計上, 財の引渡 し を収益認識の基準とするのは, この時点に取引コス ト が最. 大となっているからなのである。 そうであればこそ, そこに収益認識の基準を 設定 し , 収. 益によるコス ト の回収をねらいと し たのである。 事実, 民法上の様 々 な規定が財の引渡 し. というこの一点に集中 し ているのは, そこに取引コス ト の最大となる点が存するからであ ろう。. U4l 伊藤. 林田. 湯本 (1992)を参照。 さ ら に Demsetg (1968)参照。 - 30 ( 388 )-.
(17) 販売基準と不完備契約(毛利). VI.. 販売 と 収益認識. 収益は, 認識基準の問題が重要なのではない。 それはむしろ結果にすぎないのである。. もし売買契約が完備しておれば, 収益は売買契約と同時に認識できるであろう。 売買に. 伴って生じるであろう全ての事象を契約に書き込めないが故に, 契約が収益認識とはなり 得ないのである。. 所有権がいつ移転するのかは民法上よ く わからない。 そうであれば会計上は移転の時期. を論ずるよりも当該財に対しコ ミ ッ ト できるかどうかが大事である。 これを支配権としよ う。 通常の販売において引渡しが収益認識の基準となっているのは, 財に対する支配権が. 取引先に移転することによって, 契約の不完備を補い, かつ十分に支えるものとなるから. である。 品質に瑕疵があった際の返品の要求に応えねばならぬし, 代金請求を確かなもの となす。 この意味で引渡しをもって収益認識をなす販売基準は, 契約を確固なものとして いるのである。. 財の引渡し, つまり販売基準がなぜ収益認識の基準となりうるのか。 この問に対する答. えは明らかである。 それは一言で言えば, 財の引渡しによって契約の不完備な個所が解消. するからである。 逆に言えば, 財を引き渡してしまうとその後に残る事項は契約が完備し ていることである。 従って, 財の引渡し以後に生じる問題は契約通りに実行すればよい。. いま, 文書に書かれている契約内容 d があるとしよう。 本来, 書 く べき契約内容(完備. 契約) を D とする。したがって,書かれていない契約内容 K は D - d である。つまり K は 不完備である。 この不完備契約は大きさ r である。 r = k/D. この確率は取引の全体を通じて以下のように分布する。 契約. (契約が不完備). t� r = k/D. 引渡し. 代金回収. ---1". (契約が完備). __-各---- k = 0 図5-1. 財の品質は契約に書かれない。 しかし, 品質についての契約の不備は, 財を引渡す事に. よって解消する。 なぜなら, 引渡しによって買い手は財の品質を確認できるからである。 - 3 1 (389)-.
(18) 第43巻. 第 3号. 契約条項にない品質をめ ぐる問題は, 引渡しによって解決するのである。 販売基準はその. 意味で大きな役割を果たすことができる。 その後は, 代金の支払いが残るにすぎない。 し. かしこのことは契約に書かれてあり, 契約通りに実行すれば済むことである。. 収益認識の基準として財の引渡しそのものが期間損益計算の観点から正しいからではな. い。 そうではなく, 売買のプロセスである契約, 財の引渡し, 受渡し, 代金の受領のなか. から収益認識の基準として会計は財の引渡しを選択したのである。 つまり, 通常の販売に. あって, 財の引渡しを収益認識の基準とするのは会計選択の結果なのである。. 費用に比ぺ収益認識の研究は少ない。 それは, 収益認識が通常, 財の引渡しという事実. と債権の確定とによって, 論ずる余地のない基準とされたからであろう。 しかしこれまで. 看過されてきたこともある。 その一つは, 販売はもともと買い手なしには成立しないにも. 拘わらず, 売り手の側のみを考慮していることである。 売り手と買い手との関係, とくに 売買契約をあらためて見直すことが大事である。 それによって, 収益認識基準としての実. 現主義の理解を深めることができるであろう。. 従来の会計理論では, 引渡しが客観的な事実であるから検証可能であると説明する。 し. かも問題は, なぜ引渡しという客観性を重視するのかにある。 売買は契約に始まり, 引渡 し, 代金の完済, 登記をもって終わる。 その全ての過程を売買というのである。 売買契約. を結ぶこと自体でさえも, 販売の客観的事実といえるからである。 それ故に, 引渡しは客 観的事実だから収益認識基準とするというのでなく, 収益認識が客観性に支えられる理由. が何であるかが大事なことである。 その理由は, 引渡しの時点で対価が確定するからであ. るという。 対価の確定とは必ずしも買い手に対する代金請求権を意味するのでなく, 販売 金額が確定することを言うようである。しかし, この説明は次の点で疑問がある。一つは,. 販売金額は売買契約において確定するからである。 特に引渡しとは関係がない。 販売金額. が明確でない売買契約はそもそもあり得ないのである。 従って, 対価が売買金額の確定を. 言うとすれば, 収益認識の基準は販売時でなく, 売買契約時でなくてはならないのである。. ここでいう対価は単なる金額の確定ではないはずである。 そういう点で, 対価の確定と引. 渡しをとくに結びつけるのは疑問である。 第二に, もし対価の確定という意味を請求権と して取れば, 次の点で問題がある。 売り手が財を引き渡しても, 買主の受渡しの返事がな. ければ債権の発生といえないからである。もし財に瑕疵があれば, 取替の義務が生じるし,. あるいは受取を拒まれるであろう。いずれにせよ, 対価の確定という説明は不十分である。 実は, 財の引渡しと債権の発生とは必ずしも結びつかない。むしろ, 売買契約の時こそ,. 債権の発生とみるべきである。 そうでなければ, 売買契約自体が意味をなさない。 債権の - 32 (390)-.
(19) 販売基準 と 不完備契約 (毛利). 発生と引渡しとは同じではなく, 両者は別のものである。 そうであればこそ, 売り手の代 金請求に対して買い手が代金を支払ったときは, ただ債権の回収にすぎないからである。. 一般に, 引渡しによる債権の確定を売上収益認識と結びつけて説明する。 しかし, 債権は. あくまで販売代金の請求権であって売上そのものとは直接関係がない。 それより大事なこ とは引渡しが売り手の義務の履行であることである。 この点は従来の会計学の観点に欠落 していた点である。. それ故に. 会計上, なぜ収益認識の基準として実現主義を採るかについてなお突き進ん. だ研究を要するのである。 収益認識の基準として実現主義のみならず, 生産基準, 現金基. 準 工事進行基準がある。 その会計処理上の違いの説明はあって も なぜその違いが生じ. るかの明確な説明はない。 こうした点の解明は, これまでいずれかといえば会計基準や慣. 行という観点からの研究に対して. 売り手と買い手の法的立場, 取引コス ト , 市場と組織 など新しい分析の視点を提供するのである。. 珊. 企業内部の取引. 売買活動を市場と企業との関係に表現すれば次のようになる。 1.. 2.. 3.. 企業から市場へ, 通常の販売がこれにあたる。 これまで会計の中でとりあげられて. きた収益認識である。. 企業内部における販売, これは会計上, 本店と支店との売買である。. 企業間の売買であるが, これを企業内部の取引に還元する。 連結損益計算書の作成. がこれにあたる。. 本店と支店も企業組織であり, そこでの取引は企業内部のものである。 しかし, 双方に. おける売買は, 収益認識を考えるうえで童要な示唆を与えてくれる。. 引渡しということを本店から支店へあるいは支社から支社へのように同じ企業組織内部. での財の引渡しの二つの場合を考えてみよう。. 本店, 支店の取引と市場の取引がどう違うか図で示してみよう。企業 F , 市場Mとする。. 本店 F。から支店 F1へ財を引渡す。 これは企業内部における財の移転である。 これに対. し, 企業 F から外部へ財を引渡すことがある。 外部と市場Mである。 いずれも財の引渡し. であることに変わりはない。 会計上, 収益認識は企業 F と市場Mとの関係でしか問題とな. らなかったのである。. - 33 ( 39 1 )-.
(20) 第43 巻 第3号. F •. M M. 図7-1. このような枠内でとらえる限り, 収益認識は企業から市場への財の移転でしかない。 そ. れ以上は何ら新しい, 実りある研究成果は得られないであ ろ う。 そればかりか, これまで. の収益認識をめ ぐる研究は, 企業と市場というとらえ方をせず, 単なる財の販売, 引渡し という観念しかなかったのである。 新しい視点は, 企業対市場との関係で収益認識を分析. するのである。. 本店から支店への売買は, 契約を必要としない。 財が移転していくだけである。 しかし. これもやはり売買には違いない。 会計上, 支店. ***. 支店へ 売上. ***. と処理するのは, 財が移転した事実を示すだけのものでなく, やはり収益が実現するから であ ろ う。. 本店と支店との間の売買は, 財の品質について既知である。 しかし, 大事なことはこの. 場合にあっても, 引渡しが売上となっていることである。 本店と支店との企業内部取引に. 契約は必要ないかにみえる。 契約は双方の合意による有償契約である。 本店から支店への 売買は財の移転するだけのようにみえるからである。. 本支店の売買においては, 本店から支店へ財を移転するのに対する契約はなくとも, 暗. 黙の契約, 双方における了解がある。. 本店から支店へ財を原価で送っている場合 には, 本店の 「支店への売上」 と支店の 「本. 店からの仕入」 を相殺する。 支店は本店から全て仕入れるとする。 支店は仕入れた商品は 全て販売済である。. 本支店合併損益計算書における販売益は本支店のそれぞれの販売益を合計するだけであ. る。 つまり, 企業を一つの単位としてみた販売益を本店と支店でそれぞれ分け合っている ことになる。 逆に言えば, この企業の販売益を実現するのに本店は支店に, 支店は本店に. それぞれ貢献しているのである。. 本店が支店に送った財について, もし原価で送れば本店の支店への販売益はない。 利益. を付加して本店から支店へ財を送った場合には, 本店は支店への販売益を生じる。 支店が. 本店から仕入れた財を全て販売した場合, 最終的に利益は支店で実現したとしても, 本店 - 34 ( 392 )-.
(21) 販売基準と不完備契約 (毛利) 本店損益計算書 ap. 仕 入 販売益. 仕 人 販売益. 支店損益計算書 a p. l. 売 上. e e e. 本店か ら仕入 販売益. 売 上 I 支店への売上. 本支店合併損益計算書. �. e+e. が支店へ財を送ると利益は実現したのであると解釈できるかもしれない。. 本店から支店へ財はどうして移転するのだろうか。 一説に, そ れは贈与であるとの考え. がある呪 そ の理由とは, 本店から支店への財の移転 は無償であるからとする。本店から支. 店への移転は一 方的であるというのである。 しかし, なぜ本店から支店に贈与しなくては ならぬのだろうか。 そ れについて明確な説明はない。 本店の権限で移転を行うとしても, なぜ本店が移転を行うかについて何も説明しない。. 本店から支店への財の移転は, 実は財に対する支配権の移転と考える。 ではなぜ本店が. そ うした行動をするのか。 そ れは, 内部利益という イ ンセ ン テ ィ プによってである。 この. 内部利益はいずれ支店が当該財を市場へ販売すれば実現する。 そ うすると, 結果的に内部 利益は本店の利益として実現するのである。 こうした内部利益への イ ンセ ン テ ィ プが本店. から支店への財の移転を促すのである。 本店. 内部利益. C ( l + p ,). 支店 図7-2. 実. 現. P = C ( l + p,)( l + p2). 市場. 結局 本店と支店の取引は決して贈与のような無償でなく. 有償である。 本店は支配権. を手放すことに対し, PI という報酬を得ているのである。. 本店から支店へ原価で財を送付した場合. 当該財の販売益は全て支店に基因することに. なる。 つまり, 当該財に関する限り, 支店の販売益は同時に企業一単位の販売益でもある (15) 青木 (1978, 21)に言及 さ れている。 ま た Williamson (1985)を参照。 - 35 (393 ) -.
(22) 第 43巻 第 3 号. わけであ る 。. 本店が利益を付加して支店へ財を移転した場合, 本店の損益計算書上では利益 Poは実. 現す る 。さらに支店がこの財に利益 PI を付加して販売す る と, ここでも利益が実現す る 。 合併損益計算書を作成すれば, Po+ P1の販売益が本店, 支店の販売取引によって実現して. い る のであ る 。. 本店から支店へ財の引渡しがあっても. 支店が外部へ未だ販売していない場合には. 収. 益は認識できず利益も実現しない。企業内部の取引であれ, 外部であり, 財の引渡しに よって利益は実現す る 。 そこには収益認識に関し両者に違いはない。 しかし, 本店, 支店. の売買は決して財の一方的な移転はない。 有償であ る 。 企業内部の取引であ る からといっ. て決して無償ではない。. 本店から支店への販売では本店は次のように仕訳す る 。 支店. ***. 支店への売上. ***. この仕訳の借方は支店という勘定であ る から, 無償で本店から支店へ財が移転していく. かにみえ る 。 また支店勘定がなに故に借方に生じ る か理論的な説明はないのであ る 。 とこ. ろが, 本店から支店への財の移転は決して無償ではない。 支店はこれに対し, 本店に代金 を支払うのであ る 。 故に, 以下の仕訳が生じ る 。 現金. ***. 支店. ***. 貸借の支店勘定を相殺す る と, 結局, この取引はまさしく本店から支店への販売であ る 。. それならば, 本店から支店への販売が外部 (市場) との取引と異な る 点はどこにあ る で. あろうか。それは双方が売買契約をしないことであ る 。従って, 不完備契約が存在しない。 いま一つの相違点は, 双方の間に法律上の債権, 債務が生じないことであ る 。それ故に,. 本店は支店に対し厳密な意味での請求権は存在しない。 場合によっては, 支店の資金状況 によって支店が代金の支払いができないこともありう る のであ る 。 この場合にあっても,. 本店は代金に相当す る 額を差し押さえ る ことはしない。 この点は外部への販売と根本的に 異な る ところであ る 。. 以上のように考えてく る と, 本店支店の取引に生じ る 支店, 本店の勘定は, 法的拘束性. のない緩やかな代金の支払義務, 受取の権利を示すものといえよう。 本支店の売買におい て, 本店から支店への財の販売は, 本店が支店にコ ミッ トす る ことであ る と解してよいで あろう。つまり, 本支店の売買はコ ミッ トメン トなのであ る 。. かくて本店と支店の間の売買は有償であ る 。 たとえそこに明示した契約がなくとも, 本. 店, 支店の間の売買は, 市場におけ る 取引と変わりはない。 本店から支店への財の移転は - 36 ( 394 )-.
(23) 販売基準 と 不完備契約 (毛利). 企業にとっての所有権そのものが移転するわけではない。 財に対する支配権が, 本店から 支店へ財が移転する前と後とでは変化するだけである。. 本店と支店間売買も不完備契約である。 し か し , 不完備契約の内容が外部の市場への売. 買におけるものと異なる。 代金の支払条件など外部の市場への売買には不可欠の契約内容 を欠くのである。. vm.. 親会社 と 子会社間の販売. 次に親会社と子会社間の売買における収益認識を取り上げてみよう。 親会社と子会社間. の売買は. 本店, 支店の取引を拡張 し たものと考えることができる。 個別の企業にとって. は, 売買は外部の市場の取引であっても, それを一つの企業内部の取引と し た時. 収益認 識が変わるのである。 つまり, 連結においては個別の企業における販売基準は意味がなく. なるのである。 個別の財務諸表では財の引渡 し によって収益が実現する。 し か し 連結財務. 諸表においてはそれは企業内部の取引にすぎないのであるから, 相互の 「売上」 と 「仕入」 勘定を相殺するのである。 相. 殺. 連結によって, 親会社と子会社の売買は互いに消去されて, かえって企業組織の内部に. おける関係を不明と し て し まう。 つまり, 連結の前と後とでは情報の内容が変化するので ある。 親会社と子会社の売買を連結ではなぜ消去するのであろうか。 民法上の相殺OS は,. A , B があって, それぞれが相手に対 し , A が. e1,. Bが. e2. の債権を持つとすれば, その. 差額だけで決済できるというものである。 図で示せば次のようになる。. B. A. e, e2. 図8-1 決済 d は. e 1 - e2. となる。. 民法上の相殺は相殺の契約である。 債権, 債務に限らず, 物権であっても相殺できる。. nro. 我妻 (1954) な どにあ る。. - 37 (395) ―.
(24) 第43 巻 第3 号 親会社 と 子会社 の売買を相殺 し , 未実現利益 を 消 去す る の は, 会計上通常 は, そ れ が外部 へ の 販売で な い か ら と 説明す る 。 そ れ な ら ば, 企業組織の 内 部 の 取 引 と 外部 の 取 引 を分か つ も の は何で あ ろ う か。 こ こ で外 部 の 取 引 ま た 内 部 の取引 と せ ず に , 企業理論 で い う 市場 と 企業 (組織) と よ ぶ こ と に し よ う 。 と す れ ば, 外部へ の 販売 と い う こ と は市場へ財 を 出 す こ と で あ る 。 内 部 の 取 引 と い う の は企業組織 に お け る 移転で あ る 。 親会社 と 子会社間の売買 を 相殺 消去す る こ と は, 連結範囲 に 含 ま れ る 企業で は収益が 実現 し な か っ た こ と を い う の で あ る 。 そ れ は, 企業組織内 部 に お け る 財 の移転 に す ぎ な い こ と にな る。 連結 に お け る 相殺 は ど う い う こ と で あ ろ う か。 親会社 p と 子会社 s の売買 を 考 え る 。 親 会社が子会社へ ( あ る い は そ の逆で も よ い ) 財 を 販売 (金額 m ) し た と す る 。 そ れ は現金 売買で あ っ て も , 掛 で あ っ て も よ い 。 そ の 時, 親会社 は売上m と 記録 し , 子会社 は 仕人 s と 記録す る 。 連結 に お い て は, 親会社 の売上 m と 子会社の仕人 s は 内部取引 に な る の で, こ れ を消去す る 。 こ れ を 会計 で は相殺 と い う の で あ る 。 こ の こ と は,. p 社 と s 社 と の間で. は, そ れ ぞ れ売上 と 仕入 と い う 私的情報 を も つ こ と に な る が, 公的情報 と し て は 消 去 さ れ る こ と に な る のであ る。 こ れ に 対 し , 持分法を ど の よ う に 理解す べ き で あ ろ う か。 こ の 場合 に は, 企業内部の取 引 で あ る か ら 互 い に相殺す る と い う よ り は, 契約を認め つ つ 互 い の 債権, 債務を相殺 し た と い う に近 い 。 契約 そ の も の は有効 で あ る が, 相互の債権, 債務 を相殺 し 合 え ば ど う な る の か。 そ の こ と を示 す の が持分法で は な い か。 そ れ故, 連結 の場合 に は契約の無効の及ば な い 範囲 と し て少数株主持分が あ る と 考 え る 。 持 ち 分法 の 場合 に は, 企業相互間 で 債権, 債務 の相殺の及 ば な い範囲が生 じ る 。 こ れ が少数者持分 に ほ か な ら な い 。 連結 は企業 と 市場の境界 を 変 え , 企業組織の境界 を 拡 げ た 際 の 会計手続 き で あ る と い う こ と が で き る 。 親会社, 子会社 間 の 売買 に お け る 相殺 も そ の 一 つ で あ る 。 親会社 F , と 子会社 凡 間 の 取 引 を 相殺消去す る の は,. F1 + F2 - F 1 n F2 と い う こ と に ほ か な ら な い。 連結は, 親会社 F。 が子会社 F, . . · Fn を 一会計単位 と す る こ と で あ る 。. F 1 U F2 LJ F3 LJ … U Fn = U 心 , F1. - 38 (396)-.
(25) 販売基準と不完備契約(毛利). 連結しない場合には,. F n F' = </> の場合である。 未実現利益. 親子会社の売買の連結調整の際, 問題点は未実現利益の除去である。親子会社が一つの. 企業単位になるのであれば, 相互の売買は内部の取引であるから利益は実現しない。. 問題は親子会社の売買において, いずれかが販売した商品が外部に販売されず, 内部に. 在庫してある場合である。相手先は売価で仕入れたのであるから, 未だ販売されずにある. 場合にはこのままでは未実現利益を除去する場合, いったい誰が負担するかの問題が生じ. る。さらに, 未実現利益を誰が負担するかの問題とともに, 逆に実現利益とは誰に帰属す るかという問願が生じるのである。. 利益の実現ということを力説する背後には, 株主の残余権があり, それが連結における. 未実現利益の除去に顕在化していると考える。この場合, 親会社から子会社に販売した在. 庫は売価で評価され, 未実現利益を排除する。未実現利益は親会社の棚卸資産で負担する. のである。この会計処理からして棚卸資産の所有権は親会社のものである。. こんどは逆に, 子会社から親会社へ販売した商品が在庫となった場合を考えよう。やは. り売価で販売したのであるから未実現利益が含まれる。 未実現利益は除去するが, 少数持 株の割合に従って, その一部が少数持株によって負担される。このことは アップス ト リ. ー. ムの場合には, 財の所有権は一部が少数株主にあるということなのである。これを表にす. れば次のようになる。. 表8 - 1. 所. 有. 権. 占 有 権 1 代金請求権. ア ッ プス ト リ ー ム. 親会社 一 部少数株主 親会社. ダ ウ ンス ト リ ー ム 親会社 子会社. 周知のように未実現利益を消去する方法として会計上の三つの方法がある。 一つは, 未. 実現利益を全て親会社が負担する方法, 二は親会社と少数株主で持分比率で分ける方法, 三は, 親会社の持分比率に応じた部分を未実現利益として除去する方法である。 - 39 (397)-.
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