<論説>上訴放棄及び取下の諸問題
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(2) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 鑑 み て,制 度 に 内在 す る 問題 点 を抽 出 し,上 訴 手 続 が よ りよ く運 用 され る よ う検 討 を加 え る もので あ る。 そ の際 に は,こ の 上 訴 放 棄 及 び取 下 の 問 題 点 につ いて 古 くか ら議 論 が 積 み重 ね られ て き た ドイ ツ の動 向(2)を参 照 し, 我 が 国 の 議 論 へ の 示 唆 を得 る こ と を 目標 とす る。. 二. 刑事手続 における上訴放棄及び取下の意義. 上 訴 放 棄 は,そ の 実 数 が 統 計 と して 表 れ て い な い が,上 訴 取 下 は,平 成 17年 度 司法 統 計 年 報 に よ る と,控 訴 審 に お け る終 局 処 理 人 員 総 数9,264件 中1,941件,上. 告 審 にお け る終 局 処 理 人 員 総 数2,828件 中637件 を 占め,刑 事. 手続 に お い て この機 会 が 用 い られ る割合 は高 い。 民 事 手 続 で も,上 訴 放 棄 及 び取 下 は法 定 され て い る が(民 訴 法284条,292条),刑 と りわ け被 告 人 に よ る上 訴 放 棄 及 び取 下 は,彼. 事 手 続 にお け る,. らが そ こ に お か れ た地 位 を. 考 え る と,特 別 の考 察 が必 要 で あ る。 す な わ ち,刑 事 手 続 の一 方 当事 者 で あ る被 告 人 は,確 か に,民 事 手 続 の 当事 者 と 同様,上 訴 を不 要 で あ る,又 は い った ん提 起 した上 訴 を早 期 に終 了 させ た い と考 え た場 合,そ れ に よ っ て生 じる 自身 の命 運 を い わ ば処 分 す る と い う観 点 か ら一 定 の権 限 を与 え ら れ るべ き者 で あ る。 しか し,主 に財 産 的 得喪 に限 定 され る民 事 手 続 の 場 合 と は異 な り,刑 事 手 続 の 終 結 に よ って 国 家 の 刑 罰 権 に服 す る こ と にな る被 告 人 は身 体 の 自 由 さ ら に は生 命 まで 奪 わ れ る とい う切 実 な 効 果 に鑑 み て,. (1)「. 大 阪 教 育 大 学 附 属 池 田 小 学 校 事 件 」(大 阪 地 判 平 成15年8月28日. 192頁),「 公 刊),「 (2)最. 奈 良 女 児 誘 拐 殺 人 事 件 」(奈. 良 地 判 平 成18年9月26日. 近 の も の と して,KlausKleinbauer,RechtsmittelverzichtundRechts-. mittelzurttcknahmedesBeschuldigtenimStrafprozeB,Diss2006.本 稿 も,同. 判 時1909号. 群 馬 パ チ ン コ 店 員 連 続 強 殺 事 件 」(さ い た ま 地 判 平 成16年3月26日. 書 に お け る議 論 に依 拠 す る とこ ろ が大 き い。 一48一. 未 公 刊)な. 未 ど。.
(3) 上訴放棄及 び取下の諸問題 民 事 手 続 の 当事 者 と は異 な る もの と して 特 殊 の 考 察 を要 す る。 さ らに,刑 事 手 続 に お い て も,上 訴 放 棄 と取 下 と は,後 述 の とお り,多 くの 点 で共 通 す る も の の,重 要 な 点 で 異 な る 考 察 が 要 請 され る。 す な わ ち,上 訴 取 下 は,一 定 程 度 上 訴 手 続 の進 行 を待 って行 使 さ れ る もの で あ り, ま た時 間 的 に も余 裕 を持 って な され る もの で あ るが,上 訴 放 棄 は,判 決 後 の 間 もな い時 期 に行 わ れ る と い う性 質 上,被 告 人 の 軽 率 な 処 分 につ い て 後 見 的 立 場 か ら一 定 の 保 護 を 図 る必 要 性 が 大 きい。 この よ うな 考 慮 は,次 の よ うな 立 法 状 況 に も表 れ て い る。 す な わ ち,第 一一 に,第 二 次 世 界大 戦 後, 現 行 刑 訴 法 制 定 時 にお いて,旧 法 には 存在 した上 訴 放 棄 の規 定 が い った ん 削 除 され た。 そ の 後,昭 和28年 に,上 訴 放 棄 制 度 は復 活 した が,そ の 際 に も,死 刑 又 は 無 期 懲 役 ・禁 鋼 の刑 を 科 す判 決 に対 す る上 訴 に つ い て は,放 棄 が 禁止 され て い る(刑 訴 法360条 の2)。 第 二 に,手 続 と して,上 訴 放 棄 及 び取 下 い ず れ も,書 面 で行 う こ と とな って い る(刑 訴 法360条 の3,刑 訴 規 則224条 本 文)が,公. 判 廷 で の上 訴 取 下 は 口頭 で行 う こ と も許 さ れ て い. る(そ の場 合,当 該 申立 は調 書 に記 載 さ れ る。 刑 訴 規 則224条 但 書)。 上 訴 放 棄 に つ い て,こ の よ うな例 外 的 に 口頭 で行 うこ とを認 め る規 定 が存 在 し な い こ とは,上 訴 放 棄 が た い て い公 判 廷 外 で行 われ る こ とが 多 い こ とを考 え る と当然 の こ とで あ る か と も思 われ るが,し か し,上 訴 放 棄 は原 裁 判 所 に行 う こ と とさ れ(刑 訴 規 則223条),例 す る告 知 の 場 面(刑 訴 規 則220条)で. え ば,有 罪 判 決 宣 告 後,上 訴 に関. 被告 人が上訴放棄 を表明 す るとい っ. た こ とが あ り うる こと を考 え る と,本 規 定 は,被 告 人 に よ る判 決 宣 告 直 後 の放 棄 を認 め な い と い う機 能 も持 ち う る こ と に,注 意 が 必 要 で あ る。 以 下 で は,特 に被 告 人 保 護 の 観 点 か ら,上 訴 放 棄 及 び取 下 の 諸 問 題 を 検 討 す る。. 一49一.
(4) 近畿 大学法学. 三. 1.放. 第55巻第1号. 上訴放棄及び取下の諸問題. 棄 及 び取 下 主 体 ご と の 問題 点. (1)被 告 人 被 告 人 は,自 身 の刑 事 手 続 に お い て,原 判 決 に納 得 した場 合,上 訴 を放 棄 し,ま た い った ん 上 訴 を 提 起 した 後 も,こ れ を取 り下 げ る こ とが で き る。 こ の よ う に して,被 告 人 は,早 期 に手 続 を終 結 させ,無 用 の 手 続 負 担 を免 れ る こ とが で き る。 従 っ て,上 訴 放 棄 及 び取 下 は,刑 事 手 続 の 主 体 で あ る 被 告 人 に お い て,原 判 決 に対 す る不 服 申立 を な しう る こ と と 同 じ く,不 服 申立 権 を処 分 す る権 限 を も与 え る機 能 を 持 つ 。 (→ 訴 訟 行 為 能 力 被 告 人 に よ る上 訴 放 棄 及 び取 下 は,こ の よ うに して,訴 訟 手 続 を構 成 し, 手 続 の 早 期 終 結 と い う効 果 を もた らす 意思 表 示,す な わ ち訴 訟 行 為 で あ る た め,当 該 訴 訟 行 為 が 有 効 で あ るた め には,被 告 人 にお いて 訴 訟 行 為 能 力 が 備 わ って いな けれ ば な らな い。 一般 に,訴 訟 行 為 の 有 効性 を 判 断 す る際 には,私 法 上 の 法 律 行 為 の 場 合 とは 異 な る訴 訟 法 独 自の 観 点 か ら考 察 す べ きで あ り,そ の 際 には,訴 訟 手 続 が訴 訟 関係 者 の訴 訟 行 為 の連 鎖 に よ って 進 行 ・発 展 す る もの で あ る こ と(そ れ ゆ え,手 続 の安 定 性 に 大 き な影 響 を 与 え う る こ と)を 考 慮 しつ つ,他 方 で,訴 訟 主 体(特. に被 告 人)の 権 利 保. 護 を も考 慮 す る必 要 で あ る こ と に注 意 が 必 要 で あ る と され て い る③。 例 え ば,被 告 人 が 「意 思 能 力 を有 しな い と き」(刑 訴 法28条),「 心 神 喪 失 の状 態 に あ る とき」(刑 訴 法314条)に. は訴 訟 行 為 能 力 が欠 け る もの と して,そ. (3)平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法 』33頁(1958年,有 中 ・補 訂 版 』15頁(2005年,成. 文 堂)。 一50一. 斐 閣),光. 藤 景 咬 『口述 刑 事 訴 訟 法.
(5) 上訴放 棄及び取下 の諸 問題 の 間 に 行 わ れ た 訴 訟 行 為 は 無 効 に な るが,そ の 際 に は,具 体 的訴 訟 行 為 に つ い て,「 そ の行 為 の意 義 を理 解 し,自 己の 権 利 を 守 る能 力 」(最 決 昭和29 年7月30日. 刑 集8巻7号1231頁)が. 備 わ って い る か が判 断 さ れ な け れ ば な. らな い。 例 え ば,右 最 決 昭和29年 は,被 告 人 に よ る控 訴 取 下 の有 効 性 が 問 題 とな った事 例 で あ る が,そ. こで は,被 告 人 は 「控 訴 取 下 げ の効 果 を十 分. 理 解 した上 で」 行 為 した もの で あ る と の原 審 判 断 を前 提 に,上 述 の定 義 に 照 ら して 当該 訴 訟 行 為 の有 効 性 を認 め て い る。 こ れ に対 し,最 決 平 成7年6月28日. 刑 集49巻6号785頁. の控 訴 取 下 の有 効 性 が 問題 と な っ た事 例 で あ るが,前. は,同 じ く被 告 人 出最 決 昭 和29年 と は. 異 な り,死 刑 事 件 で あ る こ と の特 殊 性 に鑑 み て,当 該 訴 訟 行 為 の 有 効 性 に 関 して詳 細 な検 討 要 素 を設 定 し,結 論 と して 控 訴 取 下 を 無 効 と した 。 す な わ ち,本 件 は,原 審 で の精 神 鑑 定 の 結 果 か ら,被 告 人 の 精 神 障 害 の 状 態 が 心 身 喪 失 の 状 態 に ま で達 して いな い場 合 で あ って も,「 死 刑 判 決 に対 す る 上 訴 取 下 げ は,上 訴 に よ る不 服 申立 て の 道 を 自 ら閉 ざ して 死 刑 判 決 を 確 定 させ る と い う重 大 な 法 律 効 果 を 伴 う もの で あ るか ら,死 刑 判 決 の 言 渡 しを 受 けた 被 告 人 が,そ の 判 決 に不 服 が あ るの に,死 刑 判 決 宣 告 の 衝 撃 及 び 公 判 審 理 の 重 圧 に伴 う精 神 的 苦 痛 に よ って拘 禁 反応 等 の精 神 障害 を生 じ,そ の 影 響 下 にお い て,そ の 苦 痛 か ら逃 れ る こ とを 目的 と して 上訴 を取 り下 げ た 場 合 には,そ の 上 訴 取 下 げ は 無 効 と解 す るの が相 当 で あ る。 け だ し,被 告 人 の 上 訴 取 下 げ が 有 効 で あ るた め に は,被 告 人 に お い て上 訴 取 下 げ の意 義 を理 解 し,自 己 の 権 利 を守 る能 力 を有 す る こ とが必 要 で あ る と解 す べ き と こ ろ(引 用 判 例 省 略),右. の よ うな 状 況 の下 で 上 訴 を取 り下 げ た場 合,. 被告 人 は,自 己 の権 利 を守 る能 力 を著 し く制 限 さ れ て い た もの とい うべ き だ か らで あ る。」 と判 示 の 上,「 これ を本 件 につ い て み る に,前 記 の経 過 に 照 らせ ば,申 立 人 は,一 審 の死 刑 判 決 に不 服 が あ り,無 罪 とな る こ と を希 望 して い た に もか か わ らず,右 判 決 の衝 撃 及 び公 判 審 理 の重 圧 に伴 う精 神 一51一.
(6) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 的 苦痛 に よ り,拘 禁反 応 と して の 『世 界 で一 番 強 い人 』 か ら魔 法 を か け ら れ 苦 しめ られ て い る とい う妄 想 様 観 念 を生 じ,そ の影 響 下 に お い て,い わ ば八 方 ふ さが りの状 態 で,助 か る見 込 みが な い と思 い詰 め,そ の精 神 的 苦 痛 か ら逃 れ る こ とを 目的 と して,本 件 控 訴 取 下 げ に至 っ た もの と認 め られ る の で あ って,申 立 人 は,本 件 控 訴 取 下 げ時 に お い て,自 己の 権 利 を守 る 能 力 を著 し く制 限 さ れ て い た もの と い うべ きで あ るか ら,本 件 控 訴 取 下 げ は無 効 と認 め る の が 相 当で あ る。」 と結 論 付 け た の で あ る。 本 決 定 は,最 高 裁 調 査 官 解 説 ㈲ に よ る と,「公 判 手 続 続 行 能 力 」 と 「訴 訟 行 為 能 力 」 との 判 断 基 準 が異 な り うる こ と を前 提 に,① 自 己の 権 利 を 守 る能 力 が 欠 如 して い る場 合 だ け で な く,著 し く制 限 され て い る場 合 に も上 訴 取 下 を 無 効 と し た点,② 被 告 人 の精 神 障 害 に加 え て,判 決 宣 告 の 衝 撃 や 公 判 審 理 の 重 圧 の よ う に訴 訟 手 続 に必 然 的 に伴 う精 神 的 苦 痛 を も考 慮 した 点 に意 義 が 認 め ら れ る。 こ の よ う に して,特 に死 刑事 件 で は,「死 刑 判 決 宣 告 の 衝 撃 及 びそ の 前 後 の公 判 審 理 の 重 圧 が他 の 事 件 と は比 べ もの に な らな い ほ ど強 烈 で あ る こ と」か ら,「この よ う な精 神 的 苦 痛 に圧 しつ ぶ され て 拘 禁 反 応 等 の 精 神 障 害 を生 じ,そ の 影 響 下 に お いて,そ の 苦 痛 か ら逃 れ る こ とを 目的 と して 上 訴 を取 り下 げた 場 合 」に は,「上 訴 権 は被 告 人 に 保 障 され た 刑 訴 法 上 の 権 利 で あ って,そ の 行 使 が 前 記 の よ うな 訴訟 手続 に必 然 的 に 伴 う精 神 的 苦痛 に よ り左 右 され る こ と は決 して 望 ま し くは な い」 こ とを考 え る と,「 『自己 の権 利 を 守 る能 力 』 を 欠 くか 又 は著 し く制 限 され た者 に よ る上訴 取 下 げ と して 無 効 」 とす る こ とが で き よ う⑤。 も っ と も,近 時,最 決 平 成16年6月14日. 判 タ1167号134頁 は,最 決平 成7. (4)中 谷 雄 二 郎 「判 例 解 説」 平 成7年 最 判解 刑 事 篇260,274頁(1998年)。 (5)中. 谷(前 掲 注(4))「判 例 解説 」279頁 。 一52一.
(7) 上訴 放棄及 び取下 の諸 問題 年 と同 じ く死 刑 事 件 につ い て 被告 人 が控 訴 を取 り下 げ た こ との有 効 性 が 問 題 とな った 事 例 で あ るが,そ の原 々決定 及 び原 決 定 で は被 告 人 の訴 訟 行 為 能 力 も争 点 とな った(最 高 裁 で は,こ の 問 題 は判 断 され な か った)。 この判 例 は,別 稿 で 判 例 研 究 と して 検 討 して お り⑥,詳 細 は そ ち ら にゆ だ ね るが, 最 決平 成7年. で 示 され た,特 に② の観 点 につ い て検 討 が不 十 分 で は な いか. との疑 問 が 向 け られ よ う。 (⇒ 刑 訴 法360条 の2類 推 適 用 死 刑 事 件 で は,そ. もそ も上 訴 放 棄 が制 限 され て お り,訴 訟 行 為 能 力 の 有. 無 に か か わ らず,死 刑 判 決 につ いて の 上 訴 放 棄 は無 効 で あ る(刑 訴 法360条 の2)。 最 判 昭 和39年9月25日. 集 刑152号927頁 は,本 規 定 の 上 訴 取 下 へ の. 類 准適 用 が 問題 とな った事 例 で あ るが,最 高 裁 は,上 訴 放 棄 と上 訴 取 下 と で特 に 区別 を設 け るべ き合 理 的 根 拠 が な い とす る弁 護 人 の 主 張 を 退 け,本 規 定 の上 訴 取 下 へ の類 推 適 用 を否 定 し,上 訴 取 下 の 有 効 性 はあ くまで 当 該 訴 訟 行 為 の時 点 に お け る被 告 人 の 訴 訟 行 為 能 力(本 件 で は 「意 思 能 力 」 と 表 記 され て い る)の 有 無 に よ って 判 断 され るべ きで あ る と判 示 して い る。 確 か に,被 告 人 が 軽 率 に 上 訴 の 利 益 を放 棄 す る こ と か ら保 護 す べ き要 請 は,弁 護 人 が 主 張 す る よ う に,上 訴 放 棄 と取 下 とで さ ほ ど差 異 は な い。 し か し,死 刑 判 決 につ いて も上 訴 を 必 要 的 とせ ず,そ. もそ も上 訴 す るか 否 か. を 被 告 人 の 意 思 に ゆだ ね て い る現 在 の 法 制 度 を 前 提 とす る限 り,被 告 人 が 自身 の 手 続 的 権 利 及 び当 該 訴 訟 行 為 の 効 果 を 十 分 に 理 解 し,そ れ に 対 応 す る機 会 が 与 え られ て い る こ と,す な わ ち,前 述 の 意 味 で の 訴 訟 行 為 能 力 が 備 わ って い る限 り,当 該 訴 訟 行 為 を 一 般 的 に 無 効 とす べ きで は な い よ うに 思 わ れ る。 この 限 りで,刑 訴 法360条 の2は,あ. くま で 判 決 宣 告 直 後 の 時期. にお け る被 告 人 の 精 神 的 動 揺 に 配 慮 した特 別 の保 護 規 定 で あ る と理 解 す べ. (6)辻. 本 典 央 「判 例 研 究 」 近 法55巻1号(本 一53一. 号)。.
(8) ,・ …. ソ..づ. ・'・. 近畿大学法学. 第55巻第1号. きで あ り,上 訴 取 下 に一般 的 に類 推 適 用 す る こ とは,そ の基 礎 を欠 く もの とい え よ う。 む し ろ,死 刑 事 件 に お い て被 告 人 が刑 事 手 続 に お い て お か れ た 状 況 の 特 殊 性 は,訴 訟 行 為 能 力 の 判 断 に お い て実 質 的 に 考 慮 す る こ と で,十 分 で あ る と思 わ れ る。 ⇔. 弁 護 人 依 頼 権 との 関係. 死 刑 事 件 に つ い て,前 出最 決 平 成16年 は,「[憲 法37条3]項. が,被 告 人. に対 し,公 訴 提 起 の 当初 か ら判 決 確 定 に至 る まで の間,間 断 な く弁 護 人 が 付 され る こ とま で保 障 した もの で は な く,被 告 人 が 控 訴 を取 り下 げ る際 に 弁 護 人 が付 さ れ て い な く と も同項 に違 反 す る もの で な い」 と判 示 し,控 訴 取 下 の場 面 で国 選 弁 護 人 が 付 され て いな くと も,憲 法37条3項. の保障す る. 国選 弁 護 人 依 頼 権 に反 す る もので はな い,そ れ ゆえ 右 違 反 に よ り控 訴 取 下 が 無 効 と な る もの で は な い と判 断 して い る。 この 点 につ いて も,詳 細 は別 稿 に ゆ だね るが,弁 護 人 依 頼 権 の 実 質 的 保 障 と い う観 点 か らは疑 問 が 残 る 判 断 で あ っ た よ う に思 わ れ る。 (2)弁 護 人 (→ 上 訴 審 弁 護 人 弁 護 人 は,上 訴 提 起 の 場 合 と は異 な り,制 定 法 上,上 訴 放 棄 及 び 取 下 に つ いて の 権 限 を 定 め られ て い な い 。 も っ と も,上 訴 審 弁 護 人 に関 して,学 説 上,被 告 人 の 代 理 人 と して の地 位 に基 づ い て,上 訴 取 下 を 行 う こ と が で き る もの と理 解 され て い る(7)。 判 例 上 も,最 大 決 昭和63年2月17日. (7)団. 藤 責 任 編 集[岩. 年,有 斐 閣),平. 刑 集42巻2号299頁(弁. 護 人 に よ る上 訴 提. 田 誠]『 法 律 実 務 講 座 刑 事 編 第10巻 上 訴(1)』2187頁(1956. 野(前. 掲 注(3))『刑 事 訴 訟 法 』301頁 。 こ れ に対 し,野 間 禮 二. 『刑事 訴 訟 に お け る現 代 的 課 題 』397頁(1994年,判. 例 タ イ ム ズ社 。 初 出 ・大 阪. 実 務 研 究 会 「刑 事 控 訴 審 の 研 究 」 判 タ346号(1977年))は,明 とを理 由 に 否定 す る。 一54一. 文規定 がないこ.
(9) 上訴放棄及 び取下の諸問題 起 の適 法 性 が 問題 と な っ た事 例)に. よ る と,原 判 決 後 に選 任 され た弁 護 人. は,上 訴 審 弁 護 人 と して の 地 位 が 認 め られ,そ の包 括 的代 理 権 に基 づ い て, 被 告 人 が な しう る訴 訟 行 為 を行 う こ とが で き る と理 解 され て い る。 この 見 解 に よ る な らば,右 学 説 と 同様,弁 護 人 に よ る上 訴 取 下 も認 め られ る こ と に な るで あ ろ う。 但 し,法 定 代 理 人 等 との 均 衡 上(刑 訴 法360条),弁. 護人. 選 任 に基 づ く一 般 的 授 権 で は足 りず,書 面 に よ る被 告 人 の 同 意 を 要 す る と 解 す べ きで あ ろ う⑧(ち な み に,ド イ ツStPO302条2項. で は,弁 護 人 の 上. 訴 取 下 につ いて 「明示 の授 権(ausdrucklichenErm註chtigung)を. 要 す る」. と定 め られ て い る)。 また,上 訴 放 棄 に関 して も,原 判 決 後 に選 任 され た 弁 護 人 は,右 最 大 決 昭 和63年 の 理 解 に よ る限 り,上 訴 審 弁 護 人 と して の 地 位 に基 づ い て,放 棄 権 限 を も有 す る と い うべ きで あ る。 この場 合 も,上 訴 取 下 の 場 合 と同 様, 被 告 人 の 明 示 の 同 意 を 要 件 とす るべ きで あ る。 (⇒ 原 審 弁 護 人 原 審 弁 護 人 は,原 則 と して,上 訴 提 起 に よ る審級 離 脱 ・移 審 の 効 力 が生 じた 時 点以 降,弁 護 人 と して の地 位 を 失 う。 も っ と も,弁 護 人 自身 が上 訴 を提 起 した場 合,上 訴 提起 と上 訴 趣 意 書 の提 出 とは不 可分 の 関係 に あ る と 判 示 した最 高 裁大 法 廷 判 決(最 大 判 昭 和29年7月7日. 刑 集8巻7号1052頁). の理 解 を前 提 とす る限 り,例 外 的 に上 訴 趣 意 書 が提 出 され るま で は弁 護 人 選 任 の 効 力 は消 滅 しな い(福 岡 高 決 平 成13年9月10日. 高 刑 集54巻2号123. 頁)。 これ に よ る と,ま ず,上 訴 が 提 起(又 は上 訴 期 間 が 途 過)さ れ る まで は, 依 然 と して原 審 弁 護 人選 任 効 力 は 消滅 して い な い。 そ れ ゆ え,原 審 弁 護 人 は,そ の地 位 に基 づ く代 理 権 に基 づ い て,上 訴 放 棄 の権 限 を有 す る とい う. (8)平. 野(前. 掲 注(3))『 刑 事 訴 訟 法 』301頁 一55一. 。.
(10) 近畿大学法学. 第55巻第1号. べ きで あ ろ う。 ま た,上 訴 取 下 に 関 して も,原 審 弁 護 人 自身 が上 訴 を提 起 し,上 訴 趣 意 書 を提 出 す るま で の 間 に つ い て は,や は り原 審 弁 護 人 と して の地 位 に基 づ い て,上 訴 取 下 の権 限 を有 す る とい うべ き で あ ろ う(9)。 これ に対 し,学 説 上,明 文 規 定 が な い こ とか ら,原 審 弁 護 人 に よ る上 訴 放 棄 及 び取 下 を否 定 す る見 解 が 支 配 的 で あ る⑩。 ま た,最 高 裁 も,上 訴 取 下 に 関 して,原 審 弁 護 人 の上 訴 取 下 を無 効 で あ る と して い る(最 決 昭 和25 年7月13日. 刑 集4巻8号1356頁)。. しか し,こ れ らの 見解 は,上 訴 審 弁 護 人. につ い て上 訴 放 棄 及 び取 下 の根 拠 と して 包 括 代 理 権 を 指 摘 す る こ と と一 貫 しな い。 他 方,上 訴 提 起 後,又. は弁 護 人 自身 の 上 訴 趣 意 書 提 出以 後 は,も はや 原. 審 弁 護 人 と して の 地 位 は消 滅 す る。 この 場 合,な お も,当 該 弁 護 士 は,被 告 人 を 代 理 して 上 訴 取 下 を な しう るで あ ろ うか 。 この 点 は,い わ ゆ る任 意 代 理 に よ る訴 訟 行 為 の 可 否,と い う問 題 に 関 連 す る。 学 説 上,一 般 に 任 意 代 理 を 認 め る見 解qDと,こ. れ を 原 則 と して 否 定 しよ う とす る見 解 ⑫ とが 対. 立 す る。 も っ と も,後 者 か ら も,本 来 訴 訟 行 為 の 代 理 を 職 業 とす る地 位 を もつ 弁 護 士 に限 って は,任 意 代 理 に よ る訴 訟 行 為 を 認 め る見 解 が 支 配 的 で あ る⑬。 少 な く と も,一 般 私 人 の 場 合 と は異 な り,原 審 弁 護 人 を任 意 代 理 人 と して 訴 訟 行 為 を 行 わ せ る こ と につ い て,お よ そ 弊 害 は考 え 難 いao。そ. (9)ド. イ ツ で は,BGH刑. StPO302条2項 棄)も ⑩. 事 第二 部1952年7月5日. 判 決BGHSt3,46に. よ る と,. 類 推 適 用 に よ り,弁 護 人 に よ る上 訴 放 棄(当 該 事 例 で は一 部 放. 有 効 で あ る とさ れ て い る。. 団 藤 重 光 『新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 ・7訂 版 』508頁(1967年,創 掲 注(3))『刑 事 訴 訟 法 』300頁,高. 文 社),平. 年,青 林 書 院)。 QD団 ⑫. 藤(前 掲 注 ⑩)『 新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 』172頁 。 平 野(前 掲 注(3))『刑 事 訴 訟 法 』34頁 。. a3)平 野(前 掲 注(3))『刑 事 訴 訟 法 』34頁 。 a4辻. 野(前. 田 卓 爾 『刑 事 訴 訟 法 ・2訂 版 』501頁(1984. 本 典 央 「刑 事 手 続 に お け る抗 告 適 格 」 近 法54巻1号43,67頁(2006年)。 一56一.
(11) 上訴放棄及 び取下 の諸問題 れ ゆ え,や は り被 告 人 の 明 示 の 同意 を条 件 と して,原 審 弁 護 人 が任 意 代 理 の形 で上 訴 取 下 を 行 う こ と も,許 され る もの とい うべ き で あ ろ う。 (3)法 定 代 理 人 等 被 告 人 の法 定 代 理 人 等 も,被 告 人 の た め上 訴 を提 起 す る こ と がで き(刑 訴 法353条,354条),ま. た,書 面 に よ る被 告 人 の 同意 を 得 て,上 訴 の 放 棄. 又 は取 下 を す る こ とが で き る(刑 訴 法360条)。 (4)検 察 官 最 後 に,検 察 官 も,上 訴 を放 棄 し又 は取 下 をす る こ とが で き る(刑 訴 法 359条)。 検 察 官 に よ る この上 訴 権 行 使 に 関 しそ,特 に,被 告 人 に有 利 な 方 向 で上 訴 を 提 起 した 場 合 ㈲,か か る上 訴 を 信 頼 した 被 告 人 の保 護 とい う観 点 か ら,相 手 方,す. な わ ち被 告 人 の 同意 を 要 す るか が 問 題 とな る。. こ の問 題 は,当 該 検 察 官 上 訴 に お いて 追 求 され るべ き利 益 と は何 か,と い う点 と関 連 す る もので あ る。 確 か に,検 察 官 は,「 公 益 の代 表 者 」(検 察 庁 法4条)で. あ り,訴 訟 の 一 方 当事 者 と して も っぱ ら公 益 の み を 追 求 す べ. き者 で あ る とす る な らば,検 察 官 上 訴 にお い て 被 告 人 の 利 益 擁 護 とい う要 素 は含 まれ な い こ と とな る。 しか し,検 察 官 は,国 家 の 刑 事 訴 追 機 関 と し て 真 実 を 解 明 し,適 切 な 処 罰 の 確 保 だ けで な く,無 享 の 不 処 罰 に 向 けて も 活 動 す べ き地 位 にお か れ て い る と い うべ きで あ る(そ れ ゆ え,無 罪 の弁 論 や,不 必 要 ・不 相 当 な 起 訴 の取 消 を 行 う権 限 も有 す る)。 か か る地 位 に お か れ た 検 察 官 の 訴 訟 行 為 につ いて,一 方 当事 者 で あ る被 告 人 も一 定 の信 頼 を 置 くこ と は,決. して 不 合 理 な こ とで は な く,か か る信頼 は一 定 の保 護 が. 図 られ る必 要 が あ る。 そ れ ゆ え,検 察 官 が い った ん提 起 した上 訴 を取 り下. ⑮. 検 察 官 は,公 益 の 代 表 者 と して,客 観 的 に誤 っ た判 決 の是 正 を求 め る こ と に 上 訴 の 利益 を 有 す る(鈴 木 茂 嗣 「刑事 訴 訟 法 ・改訂 版 』249頁(1990年,青 院))。 一57一. 林書.
(12) 近畿大学法 学. 第55巻第1号. げ る際 に は,被 告 人 の 同意 を 要 す る とい うべ き で あ ろ う。. 2.放. 棄 及 び取 下 の 時 期 的 限界. 上 訴 放 棄 及 び取 下 の 時期 的 限界 に つ い て,検 討 す る。 ま ず,終 期 に つ い て,上 訴 放 棄 の場 合,上 訴 期 間 が経 過 す る前 ま で に し な け れ ば な らな い(こ の期 間 が経 過 す る と,原 裁 判 が確 定 す る た め,上 訴 「放棄 」 は もはや な しえ な い)。 上 訴 取 下 の場 合,明 文 の 規定 はな い が,上 訴 審 裁 判 が下 され る まで は,何 時 で も行 う ことが で き る と解 す べ き であ ろ う⑯。 他 方,始 期 につ い て,上 訴 取 下 の場 合,こ れ は上 訴 提 起 を前 提 とす る も の で あ る か ら,上 訴 提 起 の時 点 が 始 期 と な る。 これ に対 し,上 訴 放 棄 の場 合,裁 判 告 知 の時 点,す. な わ ち上 訴 期 間 の 始 期 と一 致 す べ きで あ るか,又. は それ よ り前 か ら放 棄 で き るか が 問 題 とな る。 この 問 題 につ いて,ド で は,RG刑. 事 第 二 部1880年6月1日. 条(現 行302条)に. 決 定RGSt2,78に. イツ. お い て,StPO344. お け る上 訴 放 棄 の終 期 を示 す 「上 訴 期 間 の満 了前 で も」. との 文 言 は上 訴 期 間 が 開 始 して い る こ とを 前 提 とす る との 解 釈 か ら,上 訴 期 間 開 始 前 の 上 訴 放 棄 を無 効 で あ る と判 示 され て い る よ う に,か つ て は, 上 訴 期 間 の 開 始 前 の 放 棄 を 否 定 す る見 解 が 有 力 で あ った 。 しか し,現 在 は,BGH刑. 事 第 五 部1973年10月9日. 決 定BGHSt25,234に. お いて,被 告 人. が 在 廷 せ ず に判 決 が 下 され る場 合(こ の場 合,上 訴 期 間 は判 決書 が送 達 さ れ た 時 点 か ら進 行 す る(StPO314条2項)),被. 告 人 は,当 該 判 決 の 内 容 に. つ い て 知 り う る状 況 にあ った と きは,送 達 前,す. な わ ち上訴 期 間 が進 行 す. る前 で あ って も上 訴 を 放 棄 で き る と判示 され て い るよ うに,上 訴 放棄 の始 期 と上 訴 期 間 の 始 期 とは必 ず し も一 致 す る もの で は な い とす る見解 が 有 力. ⑯. 藤 永他 編[原. 田 國 男]『 大 コ ンメ ンタ ー ル刑 事 訴 訟 法 第6巻 』44頁(1996年,. 青 林 書 院)。 一58一.
(13) 上 訴放棄 及び取下の諸 問題 で あ る。 も っ と も,KarlPetersがan,右1979年. 決 定 に反 対 して,被 告 人保. 護 の 観 点 か らは,不 確 実 な 情報 で は な く,判 決送 達 に よ る完 全 な情 報(判 決 主 文 及 び理 由 に つ い て の)に 基 づ い て の み 自己 答責 的 に上 訴 権 の処 分 を な しう る とい うべ き で あ る と述 べ て い る よ うに,上 訴 放 棄 を な し うる始 期 は,上 訴 提起 期 間 の 始期 と一 致 させ る べ き で あ ろ う。 近 時,ド イ ツ で も, BGH刑. 事 第 四 部1997年8月28日BGHSt43,195に. お い て,「 被 告 人 は,早. くて も,判 決 宣 告 後 で な け れ ば上 訴 を放 棄 で き な い」 と判 示 さ れ て い る よ うに,判 決 宣 告 前 の上 訴 放 棄 は否 定 さ れ な け れ ば な らな い(こ の 問題 は, 後 述5で 検 討 す る 問題 と密 接 に 関連 す る)。 さ らに,判 決 宣 告 後 で あ って も,裁 判 所 は,そ の配 慮 義 務 に基 づ い て, 死 刑 判 決 等 に よ る被 告 人 の精 神 的衝 撃 等 を考 慮 し,判 決 宣 告 直 後 の上 訴 放 棄 が表 明 さ れ た と して も,一 定 の熟 慮 期 間 を 指 示 す る な ど の方 策 が 求 め ら れ る もの と解 さ れ る。. 3.意. 思表示上の蝦疵. 被 告 人 が 上 訴 放 棄 又 は取 下 の 訴 訟 行 為 を 行 った 際,一 定 の 意 思 表 示 上 の 蝦 疵 が 存 在 して い た場 合,そ の こ と は当 該 訴 訟 行 為 の 有 効 性 に如 何 な る影 響 を 与 え るで あ ろ うか 。 この 問 題 につ い て,我 が 国 の 民 訴 法 判 例 及 び 学 説 上,錯 誤 等 の 民 法 上 の 意 思 表 示 規 定 は 適 用 され ず,そ れ ゆ え 表 示 者 は 当 該 訴 訟 行 為 の 無 効 を主 張 す る こ とが で きな い,と す る の が 通 説 的 見 解 で あ る。 そ の 論 拠 と して,① 手 続 の 安 定 性,② 再 審 事 由 と して 考 慮 され れ ば 足 りる,と い った 点 が 挙 げ られ て い る⑱。. ⑰KarlPeters,Anm.BGHSt25,234,JR1974,250. ⑱. 伊藤眞 年6月25日. 『民 事 訴 訟 法 ・第3版 民 集25巻4号640頁. 再 訂 版 』295頁(2006年,有 。 一59一. 斐 閣),最. 判 昭 和46.
(14) 近畿大学法学. 第55巻第1号. これ に 対 し,刑 訴 法 学説 上,錯 誤 が本 人 の責 に帰 す る こ とが で き な い と き,当 該 錯 誤 に基 づ く訴 訟 行 為 を有 効 とす る こ とは 正 義 に 反 し無 効 で あ る,と す る見 解 が有 力 で あ る⑲。 ま た,刑 事 判 例 で も,例 え ば,最 決 昭 和 44年5月31日. 刑集23巻6号931頁. は,詐 欺被 告事 件 の 被 告 人 が,一 部 の被 害. 者 と しか示 談 交 渉 が で きな い と判 断 し上 告 を取 り下 げ た と ころ,他 の被 害 者 と も交 渉 で きそ うな の で上 告 審 を続 け て欲 しい と して上 告 取 下 の撤 回 を 求 め た事 例 に つ い て,「仮 に所論 の よ うな錯 誤 が あ った と して も,そ の錯 誤 が被 告 人 の責 に帰 す る こ との で き な い事 由 に基 づ く もの とは認 め られ な い か ら,右 取 下 を無 効 とい う こ とは で き な い」 と判 示 し,具 体 的事 案 の結 論 と して は上 訴 取 下 を有 効 と しつ つ も,当 該 意 思 表 示 の鍛 疵 が被 告 人 の責 に よ らな い もの で あ る場 合 に は これ を無 効 とす る余 地 を認 め て い る⑳。 ドイ ツ で は,RG刑. 事 第 四 部1922年10月20日. 決 定RGSt57,83に. お い て,. 「刑 事 手 続 の 適 切 な 運 営 に 向 けた 公 的 利 益 の 観 点」か ら,錯 誤 に基 づ く上 訴 放 棄 は無 効 で あ る とす る 被 告 人 の 主 張 が退 け られ て い る よ うに,か つ て は,訴 訟 行 為 に際 して の意 思 的 蝦 疵 は 当該 訴 訟 行 為 の 有 効 性 を害 さな い, とす る見 解 が一 般 的 で あ った。 も っと も,現 在 で は,例 え ば,BGH刑 二 部1961年12月6日. 判 決BGHSt17,14に. 事第. お い て,強 迫 に基 づ く上 訴 放 棄. 及 び取 下 は無 効 な もの と な り うる と判 示 され て い る よ う に,意 思 的 蝦 疵 が 訴 訟 行 為 の有 効 性 に影 響 を与 え る こ とが 承 認 され て い る。 そ して,こ の 問 題 は,当 該 個 別 事 例 に お け る法 的 安 定 性 と正 義 との 衡 量 か ら検 討 され るべ き もので あ る と理 解 され て い る。 ドイ ツ の学 説 上 も,現 在 は,意 思 的 蝦 疵 が 訴 訟 行 為 の 有 効 性 に影 響 を 与. ⑲. 団 藤(前 掲 注ao))『新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 』187頁,平 法 』34頁,高. 野(前 掲 注(3))『刑 事 訴 訟. 田(前 掲 注 ⑩)『 刑 事 訴 訟 法 』123頁(1984年,青. 林 書 院),鈴. (前掲 注 ⑮)『 刑 事 訴 訟 法 』145頁 。 ⑳. 坂 本 武 志 「判 例 解 説 」 昭 和44年 最 判 解 刑 事 篇207,211頁(1970年)。 一60一. 木.
(15) 上訴放棄及び取下の諸問題 え うる こ とが 承 認 され て い る⑳。 も っ と も,意 思 的 蝦 疵 が全 て訴 訟 行 為 を 無 効 と させ る もの と理 解 す る見 解 は見 られ ず,そ れ ゆ え,如 何 な る基 準 に よ って,意 思 的蝦 疵 が 訴 訟 行 為 を 無 効 と させ る場 合 を導 くか が 問 題 とな る。 例 え ば,FriedrichDenckerenは,意. 思 の 欠 敏 が 認 め られ るか 否 か とい. う点 に基 準 を 求 め る。 これ に対 し,学 説 上 支 配 的 見 解 で あ るの は,当 該 意 思 的 蝦 疵 が 被 告 人 本 人 に帰 責 され るべ き もの で あ るか,又 は他 の訴 訟 関係 者 よ り惹 起 され た もの で あ るか とい う点 に 区 別 を 求 め る見 解 で あ る。 例 え ば,KlausKleinbauer㈱. の 近 時 の 研 究 で も,個 別 事 例 ご との法 的安 定 性 と. 正 義 との 利 益 衡 量 に よ る手 法 で は な く,一 般 的基 準 が求 め られ る べ き で あ る との 観 点 か ら,意 思 的蝦 疵 が裁 判 所 や検 察 官 等 の 司法 機 関 に よ る 「配 慮 義 務 違 反 」(Fttrsorgepflichtverletzung)に. 基 づ くもの で あ るか 否 か と い. う点 に,被 告 人 の上 訴 放 棄 及 び取 下 の有 効 性 如 何 とい う基 準 が求 め られ て い る。Kleinbauerに. よ る と,司 法 機 関 の配 慮 義 務 は,フ ェア トラ イ ア ル の. 観 点 に お け る法 治 国家 原 理 に加 え て,弱 者 保 護 と い う社 会 国家 的原 理 を も 基 礎 と し,前 者 の観 点 か らの,被 告 人 の防 御 へ の妨 害 禁 止 と い う消 極 的 保 護 だ け で な く,後 者 の観 点 か らの,よ. り実 効 的 な手 続 的 権 利 の行 使 を保 護. す る こ と を も要 請 す る。 これ に よ る と,裁 判 所 は,例 え ば,被 告 人 に対 し て 欺 岡 や 威 迫 に よ り意 思 的 蝦 疵 を 生 じ さ せ て は な ら な い だ け で な く (Kleinbauerは,意. 図 的 な欺 岡 だ け で な く,結 果 と して 誤 った 情 報 を 善 意. で与 え て しま っ た場 合 に も配 慮 義 務 違 反 を 肯 定 す る),被 告 人 の意 思 的 職. ⑳WernerBeulke,Strafprozessrecht8Auf。,S.172f.,2005;ClausRoxin, Strafverfahrensrecht25Auf.,S.426f。,1998. ⑳FriedrichDencker,WillensfehlerbeiRechtsmittelverzichtund RechtsmittelzurucknahmeimStrafprozess,S.57ff.,1972;Roxin(前 注 ⑫D)427頁. は,Denckerの. と し て 支 持 し て い る。 ㈱Kleinbauer(前. 掲 注(2))193頁. 掲. 見 解 に よ る と 法 的 安 定 性 が 損 な わ れ る こ と が な い. 以 下 。. 一61一.
(16) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 疵 が 少 な くと も外 部 的 に認 識 可 能 で あ る よ うな場 合 に は,そ れ を是 正 す べ き方 向 にお いて 配 慮 す べ き義 務 を も負 う⑳。 これ らの 議 論 か ら,確 か に,被 告 人 の訴 訟 行 為 も,手 続 を構 成 す る重 要 な 要 素 で あ り,手 続 の 連 続性 を 考 慮 す る と,私 法 上 の法 律 行 為 の よ うに単 に意 思 的 蝦 疵 が 存 在 す る とい うだ けで無 効 とす る こ とは で きな い が,刑 事 手 続 法 の 諸 利 益 の 考 慮 か ら,一 定 の場 合,無 効 とす る こ とを認 め る必 要 が あ る よ う に思 わ れ る。 そ の 際 には,被 告 人 の意 思 的蝦 疵 が どの よ うに して 惹 起 され た の か,特. に,裁 判 所 等 の 司法 機 関 が そ れ に どの よ うに して影 響. を 与 え た の か とい う観 点 か らの考 察 が必 要 で あ るが,そ の理 論 的根 拠 と し て,上 述 の よ うな 司 法 機 関 の 「配 慮 義 務 違 反 」 とい う構 成 が結 論 を導 く上 で 説 得 的 で あ る よ う に思 わ れ る。. 4.放. 棄及び取下の撤回. 上 訴 放棄 及 び取 下 は,そ れ に よ って 裁判 の確 定 を もた らす訴 訟 行 為 で あ る。 も っ と も,被 告 人 は,「 自己 又 は代 人 の責 に帰 す る こ とが で き な い事 由 に よ って 上 訴 提 起 期 間 内 に上訴 を す る こ とが で き な か った と き」(前述3に 該 当 す る場 合 が 想 定 され る)に は,原 裁判 所 に上 訴 権 回 復 の請 求 を行 う こ とが で き る(刑 訴 法362条)。 で は,右 上 訴 権 回復 請 求 以 外 に,い. った ん 表. 明 した 上訴 放棄 又 は 取 下 を撤 回 す る こ とに よ り,改 め て上 訴 権 を行 使 す る こ とが で き るで あ ろ うか。 訴 訟 行 為 一 般 につ い て,明 文 が あ る場 合(上 訴 取 下 も,「 正 確 に い え ば 訴 訟 行 為 の撤 回」 で あ る㈱)以 外 で も,い わ ゆ る実 体 形 成 行 為(例. えば 自. 白)を 除 き,広 く撤 回 を 認 め て よい とす るの が通 説 的 見 解 で あ る⑳。 も っ と. ⑳Kleinbauer(前 ㈱. 鈴 木(前. 掲 注(2))232頁 掲 注 ⑮)『. 以下。. 刑 事 訴 訟 法 』145頁 一62一. 。.
(17) 上訴放棄及び取下の諸問題 も,通 説 的 見 解 は,さ. らに,前 出 最 決 昭 和44年 が 「本 件 上 告 は,右 取 下 に. よ って す で に終 了 して い るの で あ るか ら,も は や 取 下 の 撤 回 は 認 め られ な い」 と判 示 す る よ う に,上 訴 放 棄 及 び取 下 の撤 回 は認 め られ な い とす る⑳。 例 え ば,大 阪 高 判 昭和63年6月22日. 判 時1312号145頁 は,被 告 人 が 拘 置所 職. 員 にい った ん 提 起 した 上 訴 を 取 り下 げ る 旨の 書 面 を 提 出 し,そ の 後 間 もな' く(約26分 後)こ れ を 撤 回 す る 旨の 書 面 を提 出 した とい う事 例 に つ い て, 「担 当看 守 が在 監 者 か ら控 訴 取 下 書 を受 取 り,指 印 証 明 を し,受 付 簿 に記 載 を 終 え,控 訴 取 下 書 を 差 し出 した こ とが客 観 的 に証 明 され た とき」 に上 訴 取 下 の 効 果 は 発生 し,こ の 時 点以 後,被 告 人 の上 訴 権 は 消滅 した と して, 撤 回 を 否 定 して い る。 他 方,東 京 地 決 昭 和45年6月19日 は,控 訴 取 下 書提 出 の2時 間後,ま. 判 時599号143頁. だ右 控 訴 取 下 書 が監 獄 の長 の代 理 者 の. 手 も とに あ る 間 に,右 控 訴 取 下 の意 思 の撤 回 とみ られ る上 訴 権 回復 請 求 書 及 び再 度 の控 訴 申立 書 が控 訴 期 間 内 に右 監 獄 の長 の代 理 者 に提 出 さ れ,右 控 訴 取 下 書,上 訴 権 回復 請 求 書 等 が 同時 に裁 判 所 に到 達 した と い う事 例 に つ い て,「刑訴 法367条,366条. が勾 留 さ れ て い る被 告 人 の利 益 保 護 乃 至 は そ. の 防禦 の万 全 を期 さ せ る こ と を主 眼 とす る規 定 で あ[り,本. 件 の]よ. うな. 場 合 に ま で,上 訴 権 が消 滅 す る と い う よ う な事 態 は 同条 の予 想 して い な い と こ ろ と考 え る余 地 が あ る」 と判 示 し,実 質 的 に上 訴 取 下 の撤 回 を認 め て い る。 こ の 問題 に つ い て,大 決 昭 和12年10月11日 大 刑 集16巻1347頁 が,上 訴 取 下 の 効 力 は 裁 判 所 が これ を受 理 した 時 点 で発 生 す る と判 示 して い る よ う に,上 訴 放 棄 及 び取 下 の意 思 表 示 が 受 領 者(刑 訴 規 則223条,223条. ㈱. 団 藤(前 法 』36頁,高. 掲 注 ⑩)『 新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 』191頁,平. (前掲 注 ⑮)『 刑 事 訴 訟 法 』145頁 。 ⑳. 野(前. 田(前 掲 注 ⑩)『 刑 事 訴 訟 法 』126頁(1984年,青. 原 田(前 掲 注 ⑯)『 大 コ ン メ刑 事 訴 訟 法 』46頁 。 一63一. の2に. 掲 注(3))『刑 事 訴 訟 林 書 院),鈴. 木.
(18) 近畿大学 法学. 第55巻第1号. よ り,放 棄 は 原 審 裁 判所,取 下 は上 訴 審 裁 判 所 。 但 し,刑 訴 法367条,366 条 の場 合 は,刑 事 施 設 の長 又 は そ の代 理 者 。)に到 達 して い る か否 か で結 論 が異 な る とい うべ き で あ る。 ドイ ツ の議 論 に 目 を 向 け る と,上 訴 放 棄 及 び 取 下 は,相 手 方 の受 領 を要 す る意 思 表 示 で あ り,管 轄 受 領 機 関 に到 達 す る ま で は これ を 撤 回 で き る とす るの が,一 般 的 見 解 で あ る㈱。 さ ら に,被 告 人 の よ うな 法 律 に素 人 の 者 が 行 っ た訴 訟 行 為 に 関 して,例 え ば,KarlPetersegが,「 素 人 の場 合,そ の 発 言 の 全 体 的 趣 旨 を考 慮 しな け れ ば な らな い。」 と主 張 し,例 え ば,被 告 人 は,判 決 宣 告 直 後 に裁 判 所 に対 し上 訴 放 棄 を表 明 したが,裁 判 所 が 退 廷 す る前 に意 を 翻 し,改 め て 上 訴 を 提 起 す る 旨 の発 言 を 行 っ た場 合,そ の 「全 体 的 意 思 表 示 」(Gesamterklarung)か らは,被 告 人 の上 訴 放 棄 は無 効 で あ る と結 論 付 けて い る よ う に,実 質 的 に 広 く撤 回 を認 め る見 解 も主 張 され て い る。 これ に対 し,上 訴 放 棄 及 び取 下 が 受 領 権者 に 到達 後 は もは や撤 回 で きな い と い う のが,ド. イ ツ で も支 配 的 見解 で あ る。 そ の 理 由 と して,前. 出RG. 刑 事 第 四 部1922年 決 定 で 判 示 され た よ うに,訴 訟 行 為 の 「公法 的性 質 」 が 挙 げ られ て い る。 また,上 訴放 棄 及 び取 下 の規 定 文言 に お い て,「 有 効 に」 (wirksam)行. う こ とが で き る と の文 言 が 選 択 さ れ て い る こ と,及 び,上. 訴 放棄 及 び取 下 の 規 定 が 制定 され る際,立 法 過 程 に お い て 当初 は撤 回 の規 定 が 含 ま れ て い た が,最 終 的 に これ が 削 除 され る こ とに な った とい う立 法 史 も,そ の根 拠 と して補 完 的 に挙 げ られ て い るBΦ 。 これ らの議 論 か ら,上 訴 放 棄 及 び取 下 に よ って裁 判 が確 定 す る とい うそ の効 果 を考 え る と,容 易 に そ の撤 回 を認 め る こ とに よ る法 的不 安 定 性 の リ. Kleinbauer(前. 掲 注(2))165頁. 以 下 。. (29)KarlPeters,StrafprozeB4Auf.,S.267f.,1985. BO)Kleinbauer(前. 掲 注(2))170頁. 以 下 。. ∼64一.
(19) 上訴放棄及 び取下の諸問題 ス ク は過 大 で あ り,少 な くと も当該 意 思 表 示 が 到 達 した後 は,そ の撤 回 を 否 定 す べ き で あ る。 原 状 回復 請 求 に関 す る規 定 は,こ の よ う な法 的 安 定 性 を害 して で も被 告 人 を保 護 す べ き場 面 に お いて,実 体 判 決 に対 す る再 審 請 求 と並 ん で,実 体 的正 義 を追 求 す べ き もの と して 存 在 し,被 告 人 の 保 護 は こ れ らの制 度 に よ るべ き で あ り,か つ そ れ で 十 分 で あ る と解 され る。. 5.合. 意(Absprache)に. 基 づ く上 訴 放 棄. 最 後 に,被 告 人 が,原 審 公 判 にお いて 裁 判 所 及 び検 察 官 との 間 で,い わ ば 司 法 取 引 的 に,一 定 の 減 刑 と 引替 に上 訴 を 放 棄 す る こ と の 合 意(Absprache)を. 結 ぶ こ とが考 え られ る。 この よ うな 司法 取 引 的合 意 の問 題 は,. 我 が 国 で は,ま だ 顕 在 化 して いな いが,ド イ ツで は,被 告 人 の 主 体 的地 位 に基 づ く手 続 処 分 権 限 との 関 連 にお い て,近 時,学 説 及 び裁 判実 務 に お い て 盛 ん に議 論 され て い る。 合意 自体 の一 般 的 問題 点 に つ いて は,重 要 な 問 題 で は あ る が,本 稿 で 検 討 す る余 裕 は な い⑳。 こ こで は,上 訴 放 棄 との 関 係 に お け る 合 意 実 務 につ い て,近 時,BGH大 例(BGH大. 刑 事 部2005年3月3日. ⑳BVerfG第. 二 部1987年1月27日. 刑 事 部 よ り示 され た重 要 判. 決 定BGHSt50,40)を. 決 定NJW1987,2662は,刑. 中心 とす る判 例. 事 手続 におけ. る 合意 は 憲 法 上 の 公 正 手 続 原 則 に反 しな い と判 示 して い る。 こ の 問題 を我 が 国 に紹 介 す る もの と して,山 名 京 子 「刑 事 訴 訟 にお け る"事 前 の合 意"」 関法41巻 1号74頁(1991年),同. 「ドイ ツ刑 事 訴 訟 に お け る事 前 の合 意 」 奈 良 産13巻3・. 4号139頁(2001年),ト. ー マ ス ・ヴ ァイ ゲ ン ト(井 上 正 仁 訳)「 ドイ ツ に お け る. 取 引刑 事 司 法 」 法 協109巻9号1頁(1992年),松 訟 関係 人 の非 公式 協 議 一. 尾 浩 也 「刑 事 手 続 に お け る訴. ドイ ツ刑 事 訴 訟 法 に お け る第 二 のBericht-」. 『刑. 事 法 学 の 現 代 的 状 況 ・内 藤 謙 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 』563頁(1994年,有 斐 閣), ハ ン ス 。 リー リエ(日 高 義 博 訳)「 答 弁 の取 引 一 ドイ ツ 刑 事 訴 訟 に お い て は 『合 意 』 か?一. 」 専 法69号51頁(1997年),ヨ. ア ヒム ・ヘ ル マ ン(加 藤 克 佳 訳). 「ドイ ツ刑 事 手 続 に お け る合 意 」愛 大156号1頁(2001年),田. 口守 一 「ドイ ツ刑. 事 訴 訟 に お け る合 意 手 続 の法 的構 成 」 『光 藤 景 咬 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 上 巻 』355 頁(2001年,成. 文 堂)。 一65一.
(20) 近畿大学法学. 第55巻第1号. の動 向 を概 観 す る に とど め る。 BGH判. 例 にお い て合 意 の 問 題 が 検 討 さ れ る よ う に な って 久 しい が,合. 意 の 中で 上 訴 放 棄 が 約 束 され る こ との 許 容 性 につ い て,初 め て 基 本 的 な 判 断 を示 した の が,BGH刑. 事 第 四 部1997年8月28日. 判 決BGHSt43,195で. あ る。 本 件 は,被 告 人 が 合 意 にお いて 約 束 され た 量 刑 を 不 当 で あ る と主 張 して 上 告 を 提 起 した 事 件 で あ り,上 訴 放 棄 約 束 の 許 容 性 が 直 接 の 争 点 と な った わ けで はな い。 しか し,第 四 部 は,① 刑 事 手 続 上 の 合 意 は,全 て の 手 続 関 係 者 が 関 与 の 下 で,公 開 の 公 判 の 場 で 行 わ れ るべ き こ と. 公判外. で 折 衝 され た 場 合 に は,そ の 内容 が 公判 で検 討 され るべ き こ と一(公. 開. 性 の 観 点),② 合 意 に お いて 量 刑 に関 す る合 意 内 容 は,具 体 的 な もの で あ っ て はな らず,あ 一StGB46条. くまで 刑 の 範 囲 又 は 上 限 に つ い て の み 許 容 され るべ き こ と 所 定 の 一 般 的 量 刑 事 由 を 十 分 考 慮 す べ き こ と(責. 任相. 応 性 の 観 点),③ 合 意 に際 し合 意 の 内 容 に取 り込 む こ とが で き るの は,あ く まで 法 律 効 果(量 刑)に 関 す る もの に 限 られ,犯 罪事 実 の 存 否 に 関 す る 合 意 は否 定 され る べ き こ と(法 治 国 家 的 観 点),④StPO136a条[尋. 問 に際. して の 禁 止 事 項]の 趣 旨か ら,合 意 に 際 し被 告 人 の意 思 決定 の 自由 が害 さ れ て は な らな い こ と(ネ モ テ ネ チ ュア 原 則 の観 点)を 示 した上 で,合 意 に お け る上 訴 放 棄 約 束 の 許 容性 に つ い て,以 下 の とお り判 示 の上,こ. れを否. 定 した。 す な わ ち,「裁 判所 は,被 告 人 に,減 刑 と引換 に上 訴 放 棄 を約 束 さ せ る こ とを 許 され な い。 第 一 に,… …上 訴 権 に対 す る如 何 な る作 用 も許 さ れ な い。 第 二 に,被 告 人 は,早. くて も,判 決 宣 告 後 で な け れ ば上 訴 を放 棄. で きな い。 そ れ ゆ え,裁 判所 は,被 告 人 に対 し,公 判 終 了前,つ. ま り裁 判. 結 果 を 知 る前 に そ の 是 正 機 会 を 処 分 す る こ とを求 め て は な らな い」。 BGH刑. 事 第 四部 は,右1997年. 判 決 で,合 意 に お け る上 訴 放 棄 約 束 を不. 許 容 で あ る と判 断 した が,そ の効 果,す な わ ち,不 許 容 で あ る に もか か わ らず 上訴 放 棄 が 約 束 され,こ れ に 基 づ い て被 告 人 が上 訴 を放 棄 した場 合, 一66一.
(21) 上訴放 棄及び取下 の諸 問題 右 放 棄 は有 効 で あ るか とい う問 題 につ い て は 一 ため. 事 件 の 争 点 で は な か った. 判 断 を 示 して い な か った 。 も っ と も,第 四 部 は,そ の2年. 1999年10月19日 決 定BGHSt45,227で. 後,. この 問 題 に取 り組 み,不 許 容 で あ る. 上 訴 放 棄 約 束 に基 づ く上 訴 放 棄 を 無 効 で あ る と判 断 した。 第 四部 は,こ の 結 論 につ い て,「[上 訴 放 棄 自体 も]無 効 で あ る との結 論 を と らな い場 合, 裁 判 所 が 上 訴 放 棄 約 束 禁 止 に違 反 して も,そ れ は制 裁 な き もの とな って し ま う。 ま た,被 告 人 は,合 意 に 基 づ く 自白 を求 め られ る こ とに よ りそ の 防 御 機 会 を 限 定 され る こ とに な る こ とか ら,裁 判 所 は,被 告 人 に対 し公 判 の 途 中 で 裁 判結 果 を 知 る前 に 彼 に与 え られ た是 正 機 会 を処 分 す る こ とを求 め て は な らな い 一. 判 決 宣 告前 に上 訴 放 棄 を約 束 さ せ る とい う方 法 に よ って. 。」 と判 示 して い る。 但 し,第 四 部 は,こ の 問題 に つ い てBGH刑 二 部1997年6月20日. 決 定NStZ1997,611が. 事第. 「合 意 が不 許 容 で あ る こ とは,. 合意 に 基 づ き 表 明 され た上 訴 放 棄 を無 効 とす る もの で は な い。 上 訴 放 棄 が 無 効 とな るの は,一 般 的 に,又 は個 別 の事 情 に お い て合 意 を不 許 容 と させ る理 由 が,同 時 に,約 束 に基 づ く上 訴 放 棄 を法 的 に否 認 す べ き こ と を も導 く場 合 だ け で あ る。」 と判 示 して い た こ とか ら(BGH刑 月21日 判 決BGHSt45,51も. 事 第 五 部1999年4. 同 旨),当 該 事 件 に お い て も,合 意 が 無 効 で あ. る こ とに加 え て,事 案 の特 殊 性 を も考 慮 した上 で,上 訴 放 棄 が 無 効 で あ る こ とを基 礎 付 け て い る(こ の事 件 で は,公 判 外 で合 意 さ れ た 内容 が 公 判 で 検 討 の姐 上 に乗 せ られ な か った た め,合 意 当事 者 間 で誤 解 が あ っ た。 す な わ ち,検 察 官 が被 告 人 の余 罪 につ い て訴 追 を見 合 わせ る と した約 束 につ い て,検 察 官 及 び裁 判 所 は,右 約 束 の対 象 は 当時 判 明 して い る事 件 に限 られ る と理 解 して い た の に対 し,被 告 人 側 は,ま だ捜 査 の対 象 と もな って い な い もの を含 め て そ れ ま で に実 行 さ れ た全 て の 犯 罪 につ い て も訴 追 が 見 送 ら れ た もの と理 解 して い た)。 この よ う に して,BGH判. 例 に お いて,合 意 に お け る上 訴 放 棄 の約 束 は 一67一.
(22) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 不 許 容 で あ る こ と,そ の よ うな 約 束 に基 づ く上 訴 放 棄 の 表 明 は無 効 とな り う る こ と につ いて は,見 解 の 一 致 を 見 た。 も っ と も,前 者 は と もか く,後 者 の 点 につ いて は,合 意 にお いて 上 訴 放棄 が 約 束 され て い た とい う こ とだ けで 無 効 とな るの か,或. い は,そ れ 以 外 の 「上 訴 放 棄 を 法 的 に 否認 す べ き. こ とを も導 く」 事 情 が 付 け加 わ った場 合 に初 め て無 効 とな るの か,と い う 問 題 が 残 さ れ た 。 そ の よ うな 中 で,BGH刑. 事 第 三 部 は,2件. の 上 告 を機. 縁 と して,こ の 問 題 に取 り組 む こ と とな った。 第 一 のJ事 件 は,被 告 人 が 裁 判 所 及 び検 察 官 との 間 で一 定 の 減刑 に対 して 自白及 び上 訴 放 棄 を約 束 し た とい う事 例 で あ り,第 二 のH事 件 は,J事. 件 とは異 な り,合 意 の 内容 は. 自 白 に 対 す る刑 の 上 限 が 約 束 され た だ けで あ り,そ の 際,裁 判 所 が 単 に 「上 訴 放 棄 を 期 待 す る」 と述 べ た に と ど ま る と い う事 例 で あ った 。 第 三 部 は,裁 判 所 が上 訴 放 棄 に つ い て被 告 人 と約 束 す る か,働 き か け を行 うか で 本質 的違 い は な い と し,J事. 件 だ け で な く,H事. 件 につ い て も,実 際 に表. 明 され た上 訴 放 棄 を無 効 とす る被 告 人 の主 張 を認 め る判 断 を示 す こ とを決 断 した。 も っ と も,J事. 件 及 びH事 件 につ い て,裁 判 所 に よ る上 訴 放 棄 約. 束 又 は働 き か け とい う事 情 以 外 に,付 加 的 に考 慮 され るべ き事 情 が 発 見 さ れ な か った こ とか ら,第 三 部 は,直 ち に右 裁 判 を 下 す こ と は,上 述 の,他 の部 の 裁 判 例 に 矛 盾 す る と判 断 した。 そ こで,第 三 部 は,BGHの. 他の刑. 事 部 に対 し,自 身 の判 断 と対 立 す る右 裁 判 例 を 維 持 す るか と い う点 につ い て,質 問 を 発 す る決 定 を 下 した(2003年7月24日 一. 決 定NJW2003,3426. 以 下 「質 問 決 定 」 とす る)。 第 三 部 は,そ こで,上 訴 に よ る是 正 の 重 要. 性,及. び,上 訴 放 棄 約 束 に お け る被 告 人 の 意 思 形 成 へ の 介 入 の 一 般 的 影 響. 性 を強 調 して い る。 刑 事 第 三 部 か らの質 問 決 定 を 受 け て,BGHの 回 答 を寄 せ た。 まず,第 五 部 は,2003年10月29日. 各 刑 事 部 は,次 の よ うに 決 定NJW2004,1335に. よ. り,自 身 の,合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 は,右 合 意 が 不 許 容 で あ る と して も, 一68一.
(23) 上訴放棄及び取下の諸問題 基 本 的 に 有 効 で あ る と して い た 判 例(2001年9月5日. 決 定StraFo2004,. 21)を 破 棄 し,質 問決 定 が提 案 す る右 法 的 見 解 を支 持 す る こ と を明 言 した。 もっ と も,第 五 部 は,合 意 に際 し上 訴 放棄 が約 束 され た が,裁 判 所 が 判 決 後 の 上 訴 教 示 に 際 し,上 訴 を 提 起 す る こ とは合 意 に拘 束 され る こ とな く自 由 で あ る との 「加 重 的 教 示 」 を も行 った が,そ れ で もな お被 告 人 が上 訴 放 棄 を 表 明 した 場 合 に は,放 棄 を 有 効 と して よ い との 見解 を 付 して い る。 第 四 部(2003年11月25日. 決 定 未 公 刊)も,自. 身 の前 出裁 判 例 は そ もそ も第 三. 部 の 見 解 に 矛 盾 す る もの で は な く,第 三 部 の見 解 を支 持 す る と回答 した。 これ に 対 し,第 一 部(2003年11月26日. 決 定NStZ2004,164)は,第. の 見 解 に反 対 し,こ れ と対 立 す る 自身 の 判 例(2000年3月8日 2000,386;2001年12月5日. 決 定NStZ-RR2002,114)を. 三部 決 定NStZ. 維 持 す る こ と を判. 示 した。 第 一 部 は,そ の理 由 と して,第 三 部 の見 解 は法 的根 拠 に基 づ く も の で は な い こ と,任 意 の約 束 で あ る 限 りそ の効 果 を否 定 され るべ き意 思 決 定 へ の侵 害 は認 め られ な い こ と,第 三 部 の見 解 は上 訴 放 棄 を約 束 し,又 は そ の よ うな 約 束 を 働 きか け た 裁 判 所 へ の 一 種 の 制 裁 を 求 め る もの で あ る が,そ れ は上 告 裁 判 所 の任 務 で は な い こ と,そ. して 上 訴 放 棄 を 容 易 に無 効. とす る こ と か らの法 的安 定 性 が 著 し く害 され る こ と を指 摘 す る。 また,第 二 部(2004年1月28日. 決 定NJW2004,1336)も,第. 一 部 と 同様,第 三 部. の見 解 に 反 対 し,や は り対 立 す る 自身 の判 例(1997年6月20日 1997,611;2001年6月11日. 決 定StV2001,557)を. 決 定NStZ. 維 持 す る こ と を判 示 し. た。 第 二 部 は,従 来 か ら主 張 して きた,訴 訟 行 為 の 撤 回 乃 至 取 消 不 可 とい う原 則 に例 外 が 認 め られ るの は重 大 な 意 思 侵 害 に限 る との 観 点 に加 え て, 多 くの 法 律 効 果 を伴 う確 定 力 の 重 要 性,上 訴 放 棄 の 合 意 に向 けた 被 告 人 の 動 機 の 考 慮 と い っ た観 点 を 指 摘 して い る。 な お,回 答 を 寄 せ た 中 で,第 四 部,第 一 部,第 二 部 は,こ の 問 題 の 重 要 性ゆ え に,大 刑 事 部 へ の 回 付 を 提 案 して い る。 一69一.
(24) 1:e・h. 近 畿大学法学. 第55巻第1号. 以 上 の よ う に,第 三 部 か らの 質 問 決 定 に 対 し,BGH刑. 事部 において見. 解 が真 っ二 つ に分 か れ る こ と とな った。 そ こで,第 三 部 は,こ の よ うな状 況 及 び他 の 部 か らの 提 案 も考 慮 して,GVG132条2項 て,BGH大. 及 び4項. に基 づ い. 刑 事 部 に事 件 を 回 付 す る こ とを 決 定 した(2004年6月15日. 定NJW2004,2536以. 決. 下 「回付 決 定 」 とす る)。 そ の 際,第 三 部 は,次. の三 点 につ い て の法 律 判 断 を求 め て い る。 す な わ ち,① 合 意 に お いて 上 訴 放 棄 を約 束 す る こ とは許 容 され るか,② 裁 判 所 が 合 意 に際 して 上 訴 放 棄 を 働 き か け る こ と(明 示 の約 束 又 は推 奨 す る と い う形 で)は 許 容 され るか, ③ ① ② が不 許 容 で あ る と して,そ の よ うな 不 許 容 の 約 束 又 は働 きか けが 行 わ れ て い た場 合,当 該 合 意 に基 づ いて 表 明 され た 被 告 人 の 上 訴 放 棄 は 有 効 で あ るか 。 な お,第 三 部 は,回 付 決 定 の 中 で,第 一 部 及 び第 二 部 の 批 判 に 答 え る形 で,合 意 に関 す るル ー ル は いわ ば 法 律 を 解 釈 適 用 した 結 果 で あ る とこ ろの 判 例 ル ール と して 法 的 根 拠 に基 づ くもの で あ る こ と,不 許 容 の 合 意 に対 す る是 正 と い う形 で 下 級 審 裁 判 所 の 措 置 に コ ン トロー ル を 及 ぼ す こ と は ま さ に上 告 裁 判 所 の 任 務 で あ る こ と,を 強 調 して い る。 右 回付 決 定 に基 づ い て,BGH大 3月3日 BGH判. 決 定BGHSt50,40は,次. 刑 事 部 が招 集 され た。 大 刑 事 部2005年 の よ う に 判 示 し,こ の 問 題 に 対 す る. 例 と して の 決 着 をつ け た。 す な わ ち,「 大 刑 事 部 は,裁 判 所 が 上 訴. 放 棄 を 対 象 とす る合 意 へ 関 与 す る こ とは 不 許 容 で あ る とい う こ とを実 効 的 な もの とす るた め に,そ の よ うな 不 許 容 の 合意 に 基 づ く上 訴 放棄 は無 効 で あ る との 効 果 を 認 め る こ とが 必 要 で あ る と判 断 した。 … … 合意 が 行 わ れ た 場 合,常. に,対 象 者 は,法 定 の 上 訴 教 示以 外 に,な お も上 訴権 が 備 わ って. い る こ とに つ い て の 加 重 的 教 示 を 与 え られ な け れ ば な らな い。 … … 大刑 事 部 は,そ の よ うな 加 重 的 教 示 を,判 決 合意 に 基 づ い て上 訴 放 棄 が 表 明 さ れ る場 合 に 想 定 さ れ る意 思 侵 害 に 対 す る必 要 か つ 十 分 な保 護 で あ る と考 え る。 加 重 的 教 示 を 受 け た 対 象者 に よ る上 訴 放 棄 の 表 明 は,有 効 で あ り,撤 一70一.
(25) 上訴放棄及 び取下 の諸 問題 回不 可能 で あ る,な ぜ な ら,そ れ は,放 棄 の意 義 及 び射 程 につ い て完 全 な 認 識 に基 づ い て に行 わ れ た もの で あ る か ら」。 つ ま り,大 刑 事 部 決 定 は,基 本 的 に,第 三 部 の見 解 を支 持 しつ つ,合 意 と上 訴 放 棄 表 明 とは 「異 な る訴 訟 行 為 」 で あ る との理 解 を前 提 に,前 者 の影 響 が 「加 重 的教 示 」 に よ って 遮 断 さ れ た と認 め られ る場 合 に は,後 者 の訴 訟 行 為 を有 効 とす る と し,こ れ に よ って常 に上 訴 放 棄 を無 効 とす る こ と に よ る法 的 不 安 定 性 の 回 避 を図 り,実 務 へ の手 続 指 針 を示 した の で あ る。 以 上 の よ うに して,合 意 に お け る上 訴 放 棄 約 束 の 許 容 性,及. び その よ う. な合 意 に基 づ い て実 際 に上 訴 放 棄 が 表 明 され た場 合 の その 有 効 性 につ いて 明確 な結 論 が 示 さ れ た。 そ こで は,訴 訟 行 為 はそ れ が 行 わ れ る際 に重 大 な 意 思 表 示 上 の蝦 疵 が な い限 り撤 回 及 び否 認 で きな い との 伝 統 的 な 訴 訟 行 為 論 を基 礎 に し,ま た刑 事 手 続 に お け る資 源 の 有 効 な 活 用 と い う観 点 か らの 手 続 関 係 者 間 に お け る合 意 に基 づ く手 続 処 理,す な わ ち合 意 の 必 要 性 が 是 認 され つ つ,訴 訟 関 係 者,特 力 か らの 保 護,及 (特 にBGH等. に被 告 人 が そ の よ うな 合 意 にお い て 受 け る圧. び裁 判 所 等 の不 当 な手 続 措 置 を 是 正 す る た め の 上 訴 審. の上 告 審)の 役 割 が 重 視 され て い る。 ち な み に,合 意 に お け. る上 訴 放 棄 約 束 の 問 題 につ い て,ド イ ツで は,立 法 化 に 向 けて,合 意 に お いて 上 訴 放 棄 を そ の 要 素 とす る こ とを 禁 止 し,そ の よ うな 不 許 容 の 合 意 に 基 づ い て 被 告 人 が 上 訴 を 放 棄 した 場 合 に は 無 効 で あ る とす る規 定 の 導 入 が 検 討 され て い る(2006年12月. 現 在)。BGH大. 刑事部決定後の実務の動向 と. 共 に,立 法 の 動 向 に も注 目が 必 要 で あ る。. 四. お わ りに. 以 上,本 稿 で は,上 訴 放 棄 及 び 取 下 の 問題 に つ い て,問 題 点 を 指摘 し, 若 干 の 検 討 を 加 え て き た。 そ こで は,新 た な主 張 も提 示 した が,上 訴 審手 一71一.
(26) 鼠も・・:A_,t.A.r、. 5. 近畿 大学法 学. 第55巻第1号. 続 は 第一 審手 続 に 比 べ て ま だ ま だ 未解 明 の部 分 も多 く,今 後,議 論 の発 展 を 待 た ね ば な らな い。 筆 者 は,す で に前 稿 で,上 訴(抗 告)に. 関 す る主 体. 面 か らの検 討 を行 って い る が,本 稿 は,い わ ば そ の続 編 と して,議 論 の さ らな る ス テ ップ へ の礎 とな れ ば幸 い で あ る。 な お,今 後 の課 題 と して,上 訴 審 の構 造,審 判 対 象 如 何 と い った従 来 か らの 問題 に加 え て,本 稿 で も言 及 さ れ た,取 引 に よ る手 続 終 結 と い う問題 に も関心 が 向 け られ る。 特 に最 後 の 問題 は,我 が 国 の刑 事 手 続 に今 後 如 何 な る影 響 を与 え る か と い う観 点 か ら,実 践 的 に も重 要 な もの と して,外 国 の立 法 及 び判 例 ・学 説 の動 向が 注 目 され な けれ ば な らな い。 さ らに は,本 稿 で検 討 さ れ た諸 問 題 の検 討 を よ り深 め る た め に は,い わ ゆ る訴 訟 行 為 論 に関 す る基 礎 的 な研 究 も欠 か す こ とが で きな い。 訴 訟 行 為 論 は,刑 事 訴 訟 の主 対 面 か ら考 察 す る基 礎 理 論 の 一 つ と して か つ て 盛 隆 を誇 っ た問 題 で あ るが ㈱,こ の よ うな 基 礎 理 論 の研 究 は,目 ま ぐる しい立 法 動 向 へ の 対 応 に 追 わ れ,近 時 は十 分 に行 わ れ て い る と は いえ な い。 も っ と も,刑 事 訴 訟 も 社 会 の 変 化 へ の 対 応 が 要 求 され る以 上,現 代 的 な 基 礎 理 論 の 展 開 が 喫 緊 の 課 題 で あ る と思 わ れ る。 これ らの 研 究 は,本 稿 で 得 られ た 知 見 を よ り発 展 させ る もの と して,筆 者 の 次 稿 で の 課 題 と して お きた い。 (2007年1月. 働. 団 藤 重 光 『訴 訟 状 態 と訴 訟 行 為』(1949年,弘 との 交 錯 』(1950年,弘 本 評 論 社),光. 文 堂),同. 脱 稿). 「刑 法 と刑 事 訴 訟 法. 文 堂),平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法 の 基 礎 理 論 』(1964年,日. 藤 景 鮫 『刑 事 訴 訟 行 為 論 』(1974年,有 一72一. 斐 閣)。.
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