特集/発展途上国の企業行動─契約論の視点から
現
在
、
開
発
経
済
学
︵
de
ve
lop
m
en
t e
co
-no
m
ics
︶
で
は
、
農
村
や
農
家
の
分
析
が
中
心
に
な
っ
て
い
る
。
し
か
し
発
展
途
上
国
が
成
長
を
続
け
る
に
は
、
農
業
以
外
の
産
業
発
展
も
重
要
な
課
題
に
な
る
。
産
業
の
主
な
担
い
手
で
あ
る
企
業
も
同
時
に
、
分
析
の
対
象
と
す
る
の
が
自
然
で
あ
ろ
う
。
特
に
、
経
済
制
度
が
整
備
さ
れ
て
い
な
い
環
境
の
な
か
で
、
発
展
途
上
国
の
企
業
は
先
進
国
企
業
と
同
じ
よ
う
な
行
動
を
と
る
と
は
限
ら
な
い
。
こ
う
し
た
ト
ピ
ッ
ク
の
分
析
を
可
能
に
す
る
の
は
、
法
と
経
済
学
、
新
し
い
産
業
組
織
論
、
経
営
学
と
呼
ば
れ
る
分
野
で
あ
る
。
途
上
国
企
業
の
中
に
は
、
グ
ロ
ー
バ
ル
競
争
の
な
か
で
先
進
国
企
業
に
対
す
る
競
争
力
を
獲
得
す
る
も
の
も
現
れ
て
い
る
。
韓
国
・
台
湾
と
い
っ
た
﹁
老
舗
﹂
だ
け
で
な
く
、
中
国
や
イ
ン
ド
の
企
業
の
台
頭
も
著
し
い
。
こ
う
し
た
現
象
の
背
景
を
理
解
し
、
政
策
を
呈
示
す
る
こ
と
の
で
き
る
産
業
組
織
論
や
経
営
学
、
金
融
・
法
制
度
な
ど
の
研
究
分
野
を
、
開
発
経
済
学
は
積
極
的
に
活
用
す
べ
き
で
は
な
い
だ
ろ
う
か
。
●
契
約
理
論
の
系
譜
金
融
や
法
な
ど
、
制
度
を
ど
の
よ
う
に
整
備
す
る
か
と
い
う
分
析
は
、
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
を
ど
う
設
計
す
る
べ
き
か
を
考
察
す
る
契
約
理
論
の
成
果
の
上
に
発
展
し
て
き
て
い
る
。
こ
の
分
野
の
理
論
的
発
展
に
貢
献
し
た
の
が
、
有
名
な
分
益
小
作
理
論
な
ど
を
源
流
と
す
る
途
上
国
の
農
村
に
関
す
る
分
析
で
あ
る
。
参
考
文
献
⑤
は
、
農
村
に
お
け
る
契
約
理
論
の
応
用
の
成
果
を
紹
介
し
て
い
る
。
農
村
の
信
用
市
場
に
関
す
る
多
く
の
実
証
研
究
の
発
見
を
ま
ず
整
理
し
、
そ
れ
が
投
資
行
動
、
資
産
蓄
積
と
貧
困
の
罠
な
ど
に
ど
う
影
響
す
る
の
か
、
開
発
に
お
け
る
契
約
の
問
題
と
し
て
、
土
地
、
保
険
な
ど
が
信
用
市
場
と
同
じ
か
た
ち
で
議
論
で
き
る
こ
と
、
こ
う
し
た
分
野
に
比
べ
、
生
産
活
動
、
生
産
物
市
場
の
分
析
の
蓄
積
が
足
り
な
い
こ
と
を
紹
介
し
て
い
る
。
現
在
、
契
約
理
論
は
い
く
つ
か
の
系
譜
が
集
大
成
さ
れ
、﹁
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
設
計
の
理
論
﹂
と
い
う
か
た
ち
で
ま
と
め
ら
れ
つ
つ
あ
る
。
参
考
文
献
①
の
整
理
に
よ
れ
ば
、
①
﹁
隠
れ
た
行
動
﹂
へ
の
対
応
で
あ
る
報
酬
メ
カ
ニ
ズ
ム
を
考
察
す
る
モ
ラ
ル
ハ
ザ
ー
ド
の
モ
デ
ル
、
②
﹁
見
え
な
い
情
報
﹂
へ
の
対
応
を
考
察
す
る
逆
選
択
の
モ
デ
ル
、
そ
し
て
③
契
約
の
不
完
備
性
が
も
た
ら
す
非
効
率
性
を
克
服
す
る
た
め
に
制
度
︵
所
有
権
や
権
限
、
意
思
決
定
権
の
配
分
。
参
考
文
献
①
は
、﹁
取
引
管
理
構
造
﹂
と
呼
ん
で
い
る
︶
を
ど
う
設
計
す
べ
き
か
と
い
う
﹁
不
完
備
契
約
理
論
﹂
な
ど
が
、
そ
れ
ぞ
れ
独
立
に
発
展
し
、
全
体
と
し
て
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
を
設
計
す
る
と
い
う
視
点
を
も
っ
た
経
済
学
を
形
成
し
つ
つ
あ
る
。
本
特
集
は
、
各
執
筆
者
が
、
特
に
③
の
不
完
備
契
約
の
考
え
方
を
、
参
考
文
献
②
を
テ
キ
ス
ト
と
し
て
理
解
す
る
こ
と
か
ら
出
発
し
、
そ
の
後
、
各
自
が
研
究
対
象
と
し
て
い
る
途
上
国
企
業
の
行
動
分
析
を
試
み
た
も
の
で
あ
る
。
●
分
析
の
道
具
立
て
本
特
集
で
と
り
あ
げ
る
ト
ピ
ッ
ク
は
、
い
ず
れ
も
所
有
権
や
意
思
決
定
権
の
配
分
、
契
約
の
履
行
強
制
性
と
い
っ
た
制
度
の
性
質
が
、
企
業
活
動
に
与
え
る
影
響
に
関
連
し
た
も
の
と
な
っ
て
い
る
。
こ
う
し
た
分
析
の
先
駆
け
と
な
っ
た
の
は
、
﹁
ホ
ー
ル
ド
ア
ッ
プ
問
題
﹂
と
呼
ば
れ
る
現
象
に
つ
い
て
の
分
析
で
あ
る
。
メ
ー
カ
ー
と
下
請
け
の
取
引
に
お
い
て
、
下
請
け
が
特
定
メ
ー
カ
ー
と
の
取
引
に
し
か
使
え
な
い
投
資
を
求
め
ら
れ
た
と
す
る
。
こ
の
時
、
メ
ー
カ
ー
が
契
約
を
反
古
に
す
る
可
能
性
が
あ
る
場
合
、
下
請
け
は
こ
の
関
係
特
殊
的
投
資
に
は
応
じ
ず
、
望
ま
し
い
取
引
が
成
立
し
特集/発展途上国の企業行動│契約論の視点から
特集にあたって
̶
発展途上国の企業行動を分析する
特集/発展途上国の企業行動─契約論の視点から
渡
邉
真
理
子
アジ研ワールド・トレンド No.127(2006.4)─2
3─アジ研ワールド・トレンド No.127(2006.4)
特集/発展途上国の企業行動─契約論の視点から
な
く
な
っ
て
し
ま
う
。
参
考
文
献
⑥
な
ど
は
、
こ
の
ホ
ー
ル
ド
ア
ッ
プ
問
題
を
緩
和
す
る
に
は
、
事
前
の
資
産
の
所
有
権
の
割
当
方
法
に
よ
っ
て
解
決
で
き
る
こ
と
を
示
し
た
。
こ
れ
が
、
企
業
の
境
界
の
問
題
に
対
す
る
所
有
権
ア
プ
ロ
ー
チ
と
呼
ば
れ
る
流
れ
を
つ
く
っ
た
。
本
特
集
の
川
上
稿
は
、
パ
ソ
コ
ン
生
産
に
お
け
る
日
本
企
業
と
台
湾
企
業
の
取
引
を
取
り
上
げ
、
ま
さ
に
参
考
文
献
⑥
の
モ
デ
ル
を
応
用
し
て
製
造
下
請
け
業
態
が
拡
大
し
た
メ
カ
ニ
ズ
ム
を
分
析
し
て
い
る
。
所
有
権
ア
プ
ロ
ー
チ
の
応
用
は
、
資
本
構
造
、
企
業
の
破
綻
処
理
と
い
っ
た
分
野
に
広
が
っ
た
。
企
業
の
資
金
調
達
は
、
負
債
と
資
本
と
い
う
二
つ
の
異
な
る
証
券
を
組
み
合
わ
せ
て
行
わ
れ
る
こ
と
が
多
い
。
参
考
文
献
③
は
、
債
務
不
履
行
の
際
、
経
営
権
が
経
営
者
か
ら
債
権
者
に
移
転
す
る
し
く
み
を
作
っ
て
お
け
ば
、
負
債
は
経
営
者
に
適
切
な
債
務
履
行
の
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
を
与
え
る
こ
と
を
示
し
た
。
そ
の
後
、
こ
の
理
論
は
効
率
的
な
企
業
の
破
綻
処
理
プ
ロ
セ
ス
の
分
析
に
応
用
さ
れ
て
い
る
。
本
特
集
の
佐
藤
稿
は
、
債
権
者
へ
の
経
営
権
の
移
転
が
失
敗
し
、
通
貨
危
機
後
の
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
の
破
綻
処
理
プ
ロ
セ
ス
が
非
効
率
な
状
況
を
生
ん
だ
メ
カ
ニ
ズ
ム
を
分
析
し
て
い
る
。
こ
う
し
て
、﹁
決
定
権
の
配
分
﹂
が
経
済
活
動
の
効
率
性
に
も
た
ら
す
影
響
が
明
示
的
に
扱
わ
れ
る
よ
う
に
な
る
。
当
初
の
論
文
は
企
業
内
の
権
限
配
分
を
扱
っ
た
︵
参
考
文
献
④
︶
が
、
企
業
統
治
論
な
ど
他
の
イ
シ
ュ
ー
へ
応
用
さ
れ
、
展
開
さ
れ
て
い
る
︵
参
考
文
献
⑦
︶。
企
業
の
支
配
株
主
と
少
数
株
主
の
間
に
発
生
す
る
モ
ラ
ル
ハ
ザ
ー
ド
は
、
支
配
株
主
が
持
株
比
率
以
上
の
支
配
権
を
確
保
す
る
こ
と
を
許
す
し
く
み
が
あ
る
と
発
生
す
る
と
い
う
。
こ
の
議
論
を
チ
リ
の
状
況
に
当
て
は
め
た
の
が
、
北
野
稿
で
あ
る
。
﹁
決
定
権
の
配
分
﹂
は
、
政
治
経
済
学
的
な
分
析
へ
も
応
用
さ
れ
て
い
る
。
発
展
途
上
国
で
は
、
民
主
化
さ
れ
た
政
府
が
多
数
の
貧
困
層
か
ら
の
政
治
的
支
持
を
狙
っ
た
政
策
決
定
を
行
う
と
、
経
済
的
に
は
不
合
理
な
状
況
が
発
生
す
る
こ
と
が
多
い
。
鈴
木
稿
は
、
フ
ィ
リ
ピ
ン
の
電
力
産
業
民
営
化
の
事
例
で
、
こ
の
問
題
を
扱
っ
て
い
る
。
重
要
な
イ
ン
フ
ラ
で
あ
る
電
力
供
給
の
た
め
、
政
府
は
世
銀
の
勧
告
に
従
っ
て
発
電
部
門
の
民
営
化
を
進
め
た
が
、
多
く
の
貧
困
層
に
も
手
の
届
く
よ
う
に
電
力
価
格
を
低
く
設
定
し
、
民
間
企
業
に
不
必
要
な
補
助
を
与
え
た
た
め
、
財
政
赤
字
が
蓄
積
し
て
ゆ
く
状
況
を
分
析
し
て
い
る
。
﹁
決
定
権
の
配
分
﹂
の
他
、﹁
契
約
の
履
行
強
制
性
﹂
も
効
率
的
な
取
引
が
成
立
す
る
か
ど
う
か
を
左
右
す
る
要
因
で
あ
る
。
履
行
強
制
性
と
い
っ
た
と
き
、
通
常
想
定
さ
れ
て
い
る
の
は
、
民
法
の
規
定
に
基
づ
い
た
司
法
の
裁
定
で
あ
る
。
し
か
し
、
途
上
国
に
お
い
て
は
、
そ
う
し
た
制
度
が
機
能
し
な
い
こ
と
が
多
い
。
牧
野
稿
、
渡
邉
稿
は
、
不
完
全
な
契
約
の
履
行
強
制
性
の
影
響
が
現
れ
や
す
い
企
業
間
信
用
を
共
に
取
り
上
げ
て
い
る
。
牧
野
稿
は
、
パ
キ
ス
タ
ン
の
製
靴
業
者
の
取
引
を
観
察
し
、
流
通
業
者
が
こ
の
履
行
強
制
性
の
不
在
を
徹
底
的
に
利
用
し
て
未
払
い
を
起
こ
し
、
製
靴
業
者
は
代
金
を
回
収
す
る
た
め
に
、
さ
ら
な
る
与
信
を
行
わ
ざ
る
を
得
な
い
状
況
を
報
告
し
て
い
る
。
渡
邉
稿
は
、
法
や
制
度
に
契
約
の
履
行
強
制
能
力
を
期
待
す
る
の
で
は
な
く
、
メ
ー
カ
ー
自
身
の
流
通
チ
ャ
ネ
ル
戦
略
、
商
品
戦
略
と
い
っ
た
戦
略
に
よ
っ
て
、
買
い
手
が
支
払
い
に
応
じ
る
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
を
引
き
出
す
メ
カ
ニ
ズ
ム
を
分
析
し
て
い
る
。
︵
わ
た
な
べ
ま
り
こ
/
ア
ジ
ア
経
済
研
究
所
開
発
研
究
セ
ン
タ
ー
︶
︽
参
考
文
献
︾
①
伊
藤
秀
史
・
小
佐
野
広
﹁
イ
ン
セ
ン
テ
ィ
ブ
設
計
の
経
済
学
﹂
伊
藤
秀
史
・
小
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アジ研ワールド・トレンド No.127(2006.4)─2
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