論文内容の要旨
ハイブリッド車/電気自動車の開発と企業間関係
~基幹技術のアウトソーシング・マネジメント~
東谷 仁志
名古屋市立大学大学院経済学研究科学生
指導: 田中 彰 教授
1
論文内容の要旨
1. 課題
1997 年、トヨタ自動車(以下トヨタと略記)は世界初の量産型ハイブリッド車「プリウス」を発売し
た。それ以降、日米欧でハイブリッド車(以下 HV と表記)は大きな成功を収めている。2013 年には、
国内外のほぼすべての自動車メーカーが HV をラインナップしている。
HV は、従来の自動車(以下、従来車と呼ぶ)が化石燃料を使用するエンジンだけで駆動力を得るのに
対して、電池に蓄えられた電力によって駆動するモーターを合わせて使用する。このため、HV の開発に
はこれまでの自動車開発にはない「異質な技術」を基幹技術として調達、獲得する必要がある。
HV に加えて、電気自動車(以下 EV と表記)の開発、実用化も進められている。EV では、HV の開発
プロセスで獲得した電池やモーターなどの自動車メーカーにとっての異質な技術が EV の性能を決定する
主要な技術となる。
自動車メーカーは HV/EV の開発に必要となる「異質な技術」をどのように調達してその開発を進めた
のか。また外部から「異質な技術」を調達する場合に、どのような企業間関係が構築されたのか。本稿で
は、自動車技術の大きな変更に伴う自動車メーカーと部品メーカーとの企業間関係の変化を考察し、それ
を一定の枠組みで整理する。これが本稿の第一の課題である。さらに本稿はトヨタを主要な検討対象とす
る。それにより、HV/EV におけるトヨタの市場戦略を、企業間関係の面を中心に評価する。これが本稿
の第二の課題である。。
2. 論文の構成
本論の構成は以下のとおりである。
序論では、本稿の課題と本稿の課題に関連する先行研究をレビューして、本稿の結論を簡潔にのべる。
第1章では、HV の開発と市場展開の経緯と現状を概観し、HV 開発における企業間関係を考察した。
トヨタ、日産、ホンダ及びフォード、GM のハイブリッド車の開発において、HV 用電池調達において
電池メーカーとの企業間取引関係を構築している。この場合、トヨタ、日産、ホンダの国内メーカーとフ
ォード、GM の米国メーカーでは、電池メーカーとの関係において異なる取り組みが見られる。国内メー
カーはいずれも資本関係のある専業の電池メーカーを設立して自動車メーカー自身が電池技術を吸収す
る取り組みを行っており、HV 用電池開発においても主導的な役割を担っている。これに対して米国メー
カーの電池は外部からの調達に留まっている。
第2章では、2009 年以降の EV 市場について考察する。EV では市場ではとくに韓国電池メーカーの台
頭が進んでおり、日本と韓国の車載用電池メーカーと自動車メーカーとの関係を論じる。この結果、EV
2
用電池では、LG 化学を代表とする韓国メーカーが、電池をモジュラー型製品アーキテクチャと位置づけ
る取り組みを行っており、一方国内の電池メーカーは、自動車メーカーとの強い関係構築の元での取引を
行っていることが明らかとなった。
EV 用電池においても、国内メーカーは、HV 用と同じく自動車メーカーが主体となった電池開発を行
っているが、韓国電池メーカーが複数の自動車メーカー向けにモジュラー型製品アーキテクチャによる製
品展開を行っていることを、EV 及び EV 用電池の製品アーキテクチャの分析枠組みにより考察した。
第3章では、トヨタと新興 EV メーカーテスラモーターズ(以下テスラ)の提携による EV 開発を取り
上げ、この提携による企業間関係が従来のサプライヤー・ネットワークにない企業間関係が成立している
ことを示す。この開発において、トヨタはテスラとはこれまでの長期的な取引関係を前提としないで、テ
スラの電池技術などをブラックボックスとして調達しており、同時にトヨタはテスラに対して車両技術な
どを提供している。
このようなトヨタとテスラ両社の関係は、従来車において、トヨタがサプライヤーとで行っている取引
関係とは異なる。またテスラから調達する電池技術と電気モーター技術は、EV における基幹技術であり、
それを外部から調達している。それをトヨタのトヨタ・モーター・エンジニアリング・アンド・マニュフ
ァクチャリング・ノースアメリカ (TEMA)の担当者へのインタビューをもとに示す。
第4章では、HV/EV 開発における企業間関係を、製品アーキテクチャと知識ベースの企業間関係の分
析枠組みで検討する。また、HV/EV 開発における企業間間関係の理論的解釈を示し、トヨタが行ってい
る2つの EV 開発における電池企業との企業間関係を考察する。
終章では、本稿の結論をまとめ、残された課題を示す。
3. 本論文の結論
従来の製品アーキテクチャの観点から、本稿では、HV/EV はともにインテグラル型製品アーキテクチ
ャと位置づける。しかし、同じインテグラル型アーキテクチャの製品であっても HV と EV では日本型サ
プライヤーシステムとは異なる企業間関係が構築されている。
この違いを理解するために、知識ベースの企業間関係における部品知識と統合知識の観点を採用する。
HV/EV では重要な技術に位置づけられる「電池」や「モーター」を部品知識、それを競争力のある HV/EV
にまとめ上げる技術を統合知識として理解することで、HV/EV における3つのパターンの企業間関係の
違いを解釈することができる。
第一のパターンは日本メーカーによる HV 開発・生産体制である。HV はインテグラル型製品、HV 用電
池は外インテグラル型部品である。国内自動車メーカーは「異質な技術」をもつ電池メーカーと共同開発
3
のための合弁企業を設立し、承認図部品として電池を調達する。自動車メーカーは電池技術を短期的には
外部利用するが、中長期的には自社内に吸収し、統合知識だけでなく部品知識をも獲得しようとする。
第二のパターンは、韓国電池メーカーと欧米自動車メーカーとの EV 開発・生産体制である。EV はイ
ンテグラル型製品、EV 用電池は外モジュラー(クローズド・モジュラー)型部品である。韓国電池メー
カーは自社開発により EV 用電池を市販品として販売する。欧米自動車メーカーはこれをブラックボック
ス部品として調達する。つまり、部品知識をもたないまま統合知識によって EV を開発しようとする。韓
国電池メーカーは特定の自動車メーカー系列に属さず、オープンな取引関係を指向する。
第三のパターンはトヨタとテスラモーターズ(以下テスラ)による EV 開発・生産体制である。両社が
開発している EV はインテグラル型製品、EV 用電池は外モジュラー(クローズド・モジュラー)型部品
である。トヨタとテスラが共同開発している RAV4 EV で使用する EV 用電池はトヨタが示した仕様に基
づいてテスラが単独開発した承認図部品であり、トヨタは部品知識をもたずに統合知識によって EV を開
発・生産している。また、テスラはトヨタとの提携によりトヨタの車両技術を調達して EV 開発を行って
おり、トヨタはテスラとの提携によりトヨタのもつ車両技術を統合技術としてテスラに提供している。こ
のためトヨタとテスラの関係は、相互補完関係にあるとみることができる。
トヨタの EV 開発では、テスラとの共同開発とは別に、パナソニックとの共同開発により、系列下にあ
る電池メーカーからの電池調達による EV モデルとして「eQ」を実用化している。これは、トヨタが、
EV 開発において、HV で行っているような電池技術も含めたインテグラル型製品としての開発と、外モ
ジュラー型アーキテクチャをもつ電池技術に対応した開発の両面からのアプローチをとっていることを
意味し、トヨタは次世代車においてもっとも強固な製品ポートフォリオをもっているとみることができる。
本稿では、国内自動車産業の競争力分析において注目されてきたサプライヤーシステムの変化という視
点からこの課題の分析を行った。すなわち、HV 開発・生産体制では従来の日本型サプライヤーシステム
の拡大深化がみられたが、EV 開発・生産体制でみられる企業間関係は、従来車の場合ではあまり行われ
ていないものである。また、トヨタは従来とは異なる企業関係を構築することで、今後の EV 市場の可能
性に対応できる体制をあらかじめ構築している。このようなトヨタの戦略は、現在想定できる HV/EV 市
場に対する市場戦略としてもっとも有効な取り組みということができる。
産業分野としての自動車産業は、極めて多くの部品を使用し、開発、生産、販売に多くの人が関与する
重要な産業である。このため、自動車産業の産業構造の変化は、それを支える国内外の経済に大きな影響
を与える。自動車産業では、環境問題への対応や、エネルギー危機への対応など、従来車が抱える多くの
課題から、高いレベルのイノベーションが求められており、さまざまな次世代自動車の技術開発が進めら
れている。このうち HV/EV は、次世代自動車としてもっとも実用化が進むタイプの自動車となる。
4
本稿における企業間関係の分析は、あくまで HV/EV に限定したものであり、従来車における企業間関
係との比較に着目したものである。従来の自動車産業においては、国内および国外ともに完成車メーカー
が中核企業となり、部品を供給するサプライヤーが周辺に存在するサプライヤーシステムを構築してきた。
それに対して従来の自動車技術ではあまり使用されていなかった高性能電池や電気モーターなどの異
質な技術の導入では、自動車メーカーが他のメーカーとの間で、従来とは異なる企業間関係を構築してい
る。とくに、本研究では、トヨタとテスラの関係において、両社が対等ともいえる立場で相互補完的に開
発・生産を行っていることを示し、トヨタが今後の次世代自動車時代に向け、2つの異なるアプローチを
とることで今後の市場変化に対応できる戦略をとっていることを明らかにすることができた。(3937 字)
名 古屋 市立大学学位授 与報告 書
甲
報
告
番
号
※
甲第54号
学 位 の 種 類
博 士(経 済学)
氏
名
東
谷
仁
志
学位授与の要件
学位規則第4条 第1項 該 当者
授 与 年 月 日
平成26年3月25日
学 位 論 文 の
ハ イ ブ リ ッ ド車/ 電 気 自動 車 の 開発 と企 業 間 関係
題
名
― 基 幹 技 術 の ア ウ トソ ー シ ン グ ・マ ネ ジ メ ン ト
東谷仁 志 の課程博士論文 は、次世代 自動車(HVお
よびEV)開
発 において基
幹技術 とな る車載用 電池 メー カー との企業 間 関係 に着 目 して国 内外 の さま ざま
な 事 例 を 分 析 し、 トヨ タ 自 動 車 の 市 場 戦 略 を 論 じ よ う とす る も の で あ る。
本論 文は、①HV/EV開
発をめ ぐる世界 の主要 プ ロジェク トを網羅的 に考察 し
て い る こ と 、 ② そ れ ら を 一 定 の 理 論 的 枠 組 み に し た が っ て 整 理 し 、3つ の 系 統
論 文 審 査 の
的 パ タ ー ン に 分 類 して い る こ と 、 ③ そ の う え で トヨ タ の 次 世 代 車 戦 略 に つ い て
一定 の解釈 を試み てい ることな どを高 く評価す る ことができる
。
最 終 試 験 は 平 成26年1月30日(木)午 後1時 よ り1時 間20分 に わ た り、
結 果 の 要 旨
第1会議室 に お い て 公 開 で 実 施 され た 。
最 終試 験担 当者3名
は、本 学位 請求論文 が、東谷仁志 が専攻分野 にお いて研
お よ び そ の
究者 と して 自立 して研 究活 動 を行 うに必要 な研 究能力 と学識 を有す るこ とを証
す るに十分 であ るこ とを認 め、博 士(経 済 学)の 学位 に値 す る との判断 で一致
担 当 者 氏 名
し た 。
論文審査担当者
井
上
泰
夫
主査田中彰副査下野由貴
最終試験担当者
氏
名
井
上 泰
夫
主査
田
中
彰
副査下野由貴
,'
学 位 論 文 審 査
名
称
審 査 委 員 会
機 関 の 名 称
組
織
論 文審査委員3人(主
査1人 、副査2人)
お よ び 組 織
名
称
経済学研究科教授会
判 定 の 方 法
判 定の方 法
研 究科教授会 での無記名投票 による
(名古屋市 立大学大学院経済学研 究科〉
最終試 験 の結果 の要 旨及び担 当者
甲
報
告 番
号
甲第
54号
※
氏
名
東
谷 仁
志
最 終 試 験 担 当 者
主査田中彰
副査
井
上
泰
夫
下 野 由 貴
(論文題 目)
ハ イ ブ リ ッ ド車/電気 自 動 車 の 開 発 と企 業 間 関 係ー 基 幹 技 術 の ア ウ ト ソー シ ン グ ・マ ネ ジ メ ン ト
(最 終 試 験 の 結 果 の 要 旨)
東 谷 仁 志 の 課 程 博 士 学 位 請 求 論 文 に 関 す る 最 終 試 験 は 平 成26年1月30日(木 〉 午 後1時 よ り
1時 間20分 に わ た り、 第1会 議 室 に お い て 公 開 で 実 施 さ れ た 。
ま ず 本 人 が 論 文 の 要 旨 に つ い て 約20分 間 報 告 し、 そ れ を 受 け て 最 終 試 験 担 当 者3名 と の あ い だ
で 質 疑 応 答 を お こ な っ た 。 そ こ で 出 さ れ た 質 問 は 次 の とお りで あ る。
①EVに つ い て の 海 外 の 研 究 動 向 は ど う な っ て い る か 。
② 事 例 研 究 の3パ タ ー ン の う ち、 ト ヨ タ とテ ス ラ の 関 係 は 自動 車 メ ー カ ー ど う しの 提 携 で あ り、 他
の
2パ ター ン(自 動 車 メ ー カ ー と電 池 メ ー カ ー と の 関 係)と は 異 質 で は な い か 。
③ 製 品 ア ー キ テ ク チ ャ を 分 析 枠 組 み と して い る が 、 す べ て の 事 例 が イ ン テ グ ラ ル と位 置 付 け ら れ て
お り分 類 基 準 と して の 役 割 を 果 た して い な い の で は 。
④ ト ヨ タ とPEVEの 関 係 は 、 藤 本 の 言 う 「日本 型 サ プ ラ イ ヤ ー シ ス テ ム 」 と は 異 な る の で は 。
⑤ ト ヨ タ のEV「eQ」 は ど の よ う に位 置 づ け られ る の か。
⑥EVに つ い て 、 第2と 第3の ど ち ら に 優 位 性 が あ る と と ら え て い る の か 。
⑦ 最 終 的 な メ ッセ ー ジ が わ か りに くい 。
これ に 対 して 本 人 か ら次 の よ うな 趣 旨 の 回 答 が あ っ た 。
① 引 用 した も の(ク リス テ ン セ ン)以 外 は 見 つ け られ な か っ た 。
② テ ス ラ を 電 池 パ ッ ク サ プ ラ イ ヤ ー と し て 考 え て い る 。
④ 欧 米 型 と対 比 して、 自動 車 メ ー カ ー に よ る 統 合 を 重 視 し て そ う呼 ん で い る。
⑥ ⑦ 国 内 自動 車 メ ー カ ー が 、 よ り統 合 度 の 低 いEVの 開 発 に 取 り組 む べ き だ と考 え て い る。第3の パ
タ ー ン(ト ヨ タ とテ ス ラ の 提 携)は そ の 先 進 事 例 で あ る と と ら え て い る。
著 者 の 主 張 は 明 快 で あ っ た が 、 質 問 に 対 す る 回 答 に は 一 部明晰 さ を 欠 く部 分 が あ り、 相 応 の 修 正
を 要 求 す る こ と とな っ た 。 後 日 、 も ち ま わ り に よ り修 正 点 を 確 認 した 。
以 上 の 結 果 、 最 終 試 験 担 当 者3名 は、 本 学 位 請 求 論 文 が 、 東 谷 仁 志 が 「専 攻 分 野 に つ い て 研 究 者
と し て 自 立 し て 研 究 活 動 を 行 う に 必 要な 研 究 能 力 と そ の 基 礎 と な る 豊 か な 学 識 を 有 す る こ と」 を 証
す る に 十 分 で あ る こ と を 認 め 、 博 士(経 済 学)の 学 位 に 値 す る と の 判 断 で 一 致 した 。
(平成26年1月30日 実 施 〉
(名古屋市立大学大学院経済学研究科)
受付番号甲第54号
論 文審査 の結果 の要 旨及 び担 当者
報
告番号
甲第
5 4
号
※
氏
名
東
谷
仁志
最 終 試 験 担 当 者
主査田中彰
副査
井
上
泰
夫
下野由貴
論文題名
ハ イ ブ リ ッ ド車/ 電 気 自動 車 の 開 発 と企 業 間 関 係 基 幹 技 術 の ア ウ ト ソー シ ン グ ・マ ネ ジ メ ン ト
(論文審査の結果 の要旨)
東 谷仁 志 の課 程博 士論文は 、従来 のガ ソリン 自動 車で競争力 を もつ 国内 自動車 メー カー が、次世
代 自動車(ハ イブ リッ ド車=HV、
電気 自動車=EV)に
おい ても果た して競争 力 を持続 させ られ る
のか とい う問題 意識 にも とづ き、基幹 技術 とな る車載 用電池 メー カー との企 業 間関係 に着 目 して国
内外 の さま ざまな事例 を分析 し、 トヨタ 自動車 の市場 戦略 を論 じよ うとす るもの である。,
本論 文は次の4つ の章 と序章 ・終章 か ら構成 され てい る。
序章
第1章HV市
場の成 立 と企 業間関係
第2章EV市
場 の成 立 と車載用電池
第3章EV開
発 の課題 と企業 間ネ ッ トワー ク
第4章HV/EV開
発 ・生産 にお ける企 業間関係
終章
序 章 で は 本 論 文 の 課 題 を ①HV/EV開 発 を め ぐ る 企 業 間 関 係 の 実 態 を整 理 す る こ と、 ② そ の な か で
ト ヨ タ の 市 場 戦 略 を 評 価 す る こ と の2点 を 挙 げ 、 イ ノベ ー シ ョ ン 、 サ プ ラ イ ヤ ー シ ス テ ム 、 製品 ア
ー キ テ ク チ ャ
、 知 識 べ 一 ス の 企 業 間 関 係 論 な ど 、 関 連 す る 先 行 研 究 を サ ー ベ イ して い る。 補 論 で は
ネ ッ トワー ク 論 に つ い て も サ ー ベ イ さ れ て い る。
第1章 で はHV開 発 に お け る トヨ タ ・ホ ン ダ の 事 例 が 中 心 的 に 取 り上 げ られ 、 米 国 メ ー カ ー との
対 比 が な され る。 第2章 で はEV開 発 に つ い て 、 日産 ・三 菱 の ア プ ロ ー チ を 概 観 した の ち 、新 機 軸 と
して の 韓 国 電 池 メ ー カ ー ・LG化 学 の 取 り組 み に つ い て 論 じ られ て い る。 第3章 は トヨ タ とテ ス ラ モ
ー タ ー ズ のEV開
発 に お け る提 携 を 取 り上 げ て い る 。以 上 の3つ の 章 は 主 と して 事 実 関係 を整 理 す る
こ と を 課 題 と し て お り、 そ こ で 言 及 さ れ た さ ま ざ ま な プ ロ ジ ェ ク トの 理 論 的 な 位 置 づ け は 第4章 で
与 え られ る 。 終 章 は ま と め と展 望 に あ て ら れ る。
第 一 の 課 題 に つ い て 、 第4章 で の 整 理 に も と つ い て 本 論 文 の 知 見 を 要 約 す る と、 現 存 す るHV/EV
の 技 術 的 性 格 お よ び そ の 開 発 に お け る 電 池 メ ー カ ー と 自動 車 メ ー カ ー と の 企 業 間 関 係 は 次 の よ う な
諸 パ タ ー ン に ま と め られ る 。
第1は 、 トヨ タ のHVの 事 例 に 代 表 され る 、 イ ン テ グ ラ ル 型 の パ タ ー ン で あ る 。 電 池 は 承 認 図 部
(名古屋 市立大学大学院経済学研究科)
No.1
受付番号甲第54号
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
お よ び担 当者
品 で あ り、 統 合 度 の 高 い 、 イ ン テ グ ラ ル 型 のHVが 開 発 され る。 自動 車 メ ー カ ー が 共 同 開 発 を 通 じて
部 品 知 識(電 池 技 術)を 獲 得 し、 そ れ に も とつ い て 統 合 知 識 を 構 成 す る。 自動 車 メ ー カ ー が 電 池 メ ー
カ ー を 自社 専 属 サ プ ラ イ ヤ ー と し て 囲 い 込 む、 統 合 的 な 企 業 間 関 係 が これ を 支 え る。 ト ヨ タ のHVの
ほ か 、 ホ ン ダ ・ 日産 のHV(第1章)、 日産 ・三 菱 ・ ト ヨ タ のEV(eQ)(第2章 〉 も 同 様 の パ タ ー ン
に 属 す る。
第2は 、 韓 国LG化 学 に 代 表 さ れ る 、 電 池 メ ー カ ー が 主 導 権 を に ぎ るパ タ ー ン で あ る 。 電 池 は 市 販
品 と して 設 計 され 、 こ の 電 池 の 使 用 を 前 提 と した、 ク ロ ー ズ ドモ ジ ュ ラ ー 型 な い し相 対 的 に 統 合 度 の
低 い イ ン テ グ ラ ル 型 のEVが 開 発 され る 。 電 池 に 関 す る 部 品 知 識 は 電 池 メ ー カ ー が 握 り、 自動 車 メ ー
カ ー は そ れ を も た な い 。 電 池 メ ー カ ー は 特 定 の 自動 車 メ ー カ ー に 専 属 せ ず 、 オ ー プ ン な 取 引 関 係 を 指
向 す る。LG化 学 にSBリ モ ー テ ィ ブ 社 、SKイ ノ ベー シ ョ ン 社 を 加 え た 韓 国 電 池 メ ー カ ー 計3社 が こ
の 戦 略 を と り、 欧 米 自動 車 メ ー カ ー が こ の 電 池 を 調 達 す る(第2章)。
第3は 、 トヨ タ と米 テ ス ラ モ ー タ ー ズ 社 のEV開 発 ・生 産 を め ぐ る提 携 に み ら れ る パ タ ー ン で あ る。
テ ス ラ は パ ナ ソ ニ ッ ク製 電 池 セ ル を 独 自 技 術 に よ っ て 電 池 パ ッ ク に 加 工 し、こ れ を ト ヨ タ「RAV4EV」
向 け に 供 給 す る。 ト ヨ タ は 車 体 技 術 や 自動 車 製 造 技 術 を テ ス ラ 「モ デ ルS」 向 け に 提 供 す る 。 電 池 パ
ッ ク は 承 認 図 部 品 で あ り、EV「RAV4EV」 お よ び 「モ デ ルS」 は イ ン テ グ ラ ル 型 製 品(統 合 度 は 上
記 第1と 第2の 中 間 程 度)と な る。 電 池 パ ッ ク に 関 す る 部 品 知 識 は テ ス ラ が 握 り 、 トヨ タ は そ れ を も
た な い 。 テ ス ラ の 電 池 パ ッ ク 供 給 は トヨ タ 向 け が 主 だ が 、 外 販 も認 め られ て い る(第3章)。
以 上 の3パ タ ー ン に 加 え て 、 米 国 や 中 国 のEVベ ン チ ャ ー に つ い て も言 及 され て い る 。 そ れ ら は オ
ー プ ン モ ジ ュ ラ ー 型EVの
開 発 を 指 向 し た が 、 統合 度 の低 さは製 品価 値 の低 さにつ な が り、市 場 で 評
価 され な か っ た と結 論 づ け られ て い る 。 著 者 に よ れ ば 、HVで は 日本 型 の 戦 略 が 有 効 だ っ た が 、EV
の 場 合 は 大 容 量 車 載 用 電 池 の コ ス トダ ウ ン の た め に 大 量 生 産 が 不 可 欠 で あ り 、特 定 自動 車 メ ー カ ー に
限 定 し た 取 引 で は 限 界 に 直 面 す る 半 面 、 自 動 車 そ の も の の 製 品 の 完 成 度 の た め に は 相 応 の 部 品 間 の 擦
り合 わ せ が 必 要 で あ る た め 、 両 方 の 「い い と こ ど り」 を した 第3の パ タ ー ン に 将 来 性 が あ る の で は な
い か と展 望 し て い る。
第2の 課 題、 す な わ ち ト ヨ タ の 市 場 戦 略 に つ い て、 第1章 でHVを 、 第2章 でEv「eQ」 を 、 第3
章 でEV「RAV4EV」 の 事 例 を 取 り上 げ 、 概 略 次 の よ うに 述 べ て い る。 トヨ タ はHVで は も っ と も 成
功 した 自動 車 メ ー カ ー で あ り、 そ の 開 発 ・生 産 方 式 は 基 本 的 に 従 来 車 と 同 様 、 系 列 サ プ ラ イ ヤー との
緊 密 な 相 互 作 用 に も とづ く イ ン テ グ ラ ル 型 の も の づ く りで あ る 。EVで は ト ヨ タ は 後 発 で あ り、HV
の 場 合 と 同 様 の ア プ ロー チ に よ っ て「eQ」 を 開 発 し た が 、販 売 実 績 は 少 量 に と ど ま り、成 功 と は 言 い
難 い 。 こ れ に 対 して テ ス ラ と の 共 同 開 発 に よ る「RAV4EV」 は 、電 池 パ ッ ク の 開 発 に お い て テ ス ラ の
自 律 性 を相 当 程 度 認 め る か た ち で 開 発 が な さ れ て い る。 ト ヨ タ の 戦 略 は 、EVの 成 功 モ デ ル が い ま だ
未 確 立 で あ り市 場 が 流 動 的 な も と で 、 開 発 ・生 産 方 式 の 多 様 性 を 内 包 し よ う とす る も の で あ り、 この
結 果 、 自動 車 メ ー カ ー の な か で も っ と も 幅 広 い 製 品 ポ ー トフ ォ リオ を 有 す る こ と に な る と して 高 く評
価 して い る。
な お 、本 論 文 第2章 は 『オ イ コ ノ ミカ 』第49巻 第1号 に 掲 載 の 既 発 表 査 読 付 き 論 文 「韓 国EV(電
気 自動 車)電 池 企 業 の 市 場 戦 略 一 製 品 ア ー キ テ ク チ ャ 論 か らの 考 察 」(2013年3月)を ベ ー ス
(名古屋市立大学大学院経済学研 究科)
No.2
受付番号甲第54号
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
お よび 担 当者
と し て い る 。
本 論 文 の 意 義 は 次 の よ うな 点 に 求 め られ る 。
第 一 に 、HV/EVの 開 発 を め ぐ る 世 界 の 主 要 な プ ロ ジ ェ ク トを網 羅 的 に 考 察 し て い る こ と で あ る。
EVを
中 心 とす る次 世 代 車 は 現 在 ま さ に 世 界 中 で 激 しい 開 発 競 争 が 繰 り広 げ られ て い る た め 、常 に最
新 の 情 報 を 収 集 す る こ と が 求 め られ る 。 こ の 点 に つ い て 、東 谷 は 海 外 で の モー タ ー シ ョー 視 察 や 内 外
企 業 の 単 独 イ ン タ ビ ュ ー を 重 ね て お り、 一 次 情 報 を 数 多 く 採 用 して い る。 な お 、 変 化 が 激 し く、EV
に つ い て は い ま だ ド ミナ ン トデ ザ イ ン が 決 定 して お らず 、次 世 代 車 の 技 術 選 択 に つ い て も 帰 趨 が 不 明
確 で あ る た め 、 こ の 分 野 の 学 術 的 研 究 は 総 じ て 少 な く 、 慎 重 で あ る な か で 、 本 論 文 はEVに よ る破 壊
的 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 可 能 性 に つ い て一 歩 踏 み 込 ん だ 主 張 を して お り、そ の 当 否 に つ い て は 今 後 お お い
に 論 議 さ れ る と と も に 将 来 の 事 実 に よ っ て 検 証 され る こ と に な る で あ ろ う。
第 二 に、 そ れ らの 多 く の 開 発 プ ロ ジ ェ ク トを た だ 羅 列 す る だ け で は な く、 一 定 の 枠 組 み に した が っ
て 整 理 し、3つ の 系 統 的 な パ タ ー ン に 分 類 し て い る こ と で あ る。 た だ し 、第2・ 第3の パ タ ー ン は 製
品 ア ー キ テ ク チ ャ に よ っ て も部 品 知 識 の 帰 属 に よ っ て も 明 晰 に 区 別 され な い こ と と な り 、枠 組 み 設 定
の 効 果 は 半 減 して い る 。 ひ と く ち に 共 同 開 発 と い っ て も そ の 内 実 は 多 様 で あ り、現 実 の製 品 の アー キ
テ ク チ ャ を 判 定 す る こ と が 容 易 で な い こ と を は か らず も物 語 っ て い る と言 え る 。 と も あ れ 、 本 論 文 で
一定
の 判 定 を く だ し て い る こ と は 、 今 後 の 議 論 の 出 発 点 と して 貢 献 す る こ と に な る で あ ろ う。
第 三 に 、 トヨ タ の 次 世 代 車 戦 略 に つ い て 一 定 の 解 釈 を 試 み て い る こ とで あ る。 周 知 の よ うに トヨ タ
はHV開 発 で 先 行 し、 市 場 を リー ド して い る が 、 半 面EV開 発 で は 出 遅 れ た 。 こ の こ と は 次 世 代 車 に
い く つ か の 選 択 的 ロ ー ドマ ッ プ が あ り 、 ど の 技 術 が ド ミナ ン トに な る か は 事 前 に 予 見 で き な い も と
で、 しか し い ず れ か に 経 営 資 源 を 集 中 しな い と競 争 力 の あ る 製 品 を 開 発 で き な い と い う事 情 の 一 端 を
示 し て い る と考 え られ る 。 し か も トヨ タ が 弱 体 で あ るEVに 関 して は 破 壊 的 イ ノベ ー シ ョ ン の 可 能 性
が つ と に 指 摘 され て い る た め 、 無 視 す る わ け に は い か な い 。 ク リス テ ン セ ン(邦 訳2001)は リー ダ
ー 企 業 が 破 壊 的 イ ノ ベ ー シ ョン に よ っ て 凋 落 し な い た め の 処 方 箋 と し て
、準 自律 的 な 組 織 で 新 事 業 に
対 応 す る こ と を 提 唱 して い る。 トヨ タ と テ ス ラ の 提 携 は ま さ に そ れ に 沿 っ た も の で あ る と言 え る 。 本
論 文 は そ の こ と を 明 ら か に して い る 。
以 上 、べ 一 ス と な る論 文 が 査 読 付 き 論 文 と して 掲 載 さ れ て い る 事 実 とあ わ せ て 、本 論 文 は 東 谷 仁 志
が 「専 攻 分 野 に つ い て 研 究 者 と し て 自立 し て 研 究 活 動 を行 うに 必 要 な 高 度 な 研 究 能 力 とそ の 基 礎 と な
る 豊 か な 学 識 を 有 す る こ と」 を 証 す る に 十 分 で あ る と の 判 断 で 最 終 試 験 担 当 者 一 同 は 一 致 した 。
(名古屋市立大学大学院経 済学研究科)
No.3