電子ジャーナルの長期保存 : アクセスの問題を中心に
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(2) また,日本でも国立大学図書館協議会の電子ジャーナルタスクフォースが「大学におけ る電子ジャーナルの利用の現状と将来に関する調査‐結果報告書‐」を 2003 年 12 月に作 成している。本稿執筆時点で一般への公開がまだされていないので,ここで直接の引用は しない。だがElsevier社の「Library Connect」誌がその内容を紹介している。それによれ ば,上記調査は 1600 人以上の国立大学の教員および大学院生の回答から次のような結果 を得ている 4。 ・常態的に電子ジャーナルを利用する研究者や学生の割合は,2001 年の 31%から 2003 年の 52%へと,著しく増加している。 ・回答者のおよそ 70%が,将来の研究活動のために電子ジャーナルが必要不可欠になる と答えている。 ・回答者の 47%が,30 年分かそれ以上のバックファイルが必要だと感じている。 3.アプローチと論点 電子ジャーナルの長期保存については二つのアプローチがしばしば想定される。ひとつ は中央集約型のモデルであり,保存を担う受託機関(以下ではこれをアーカイブと呼ぶ) を想定し,その機能や出版社ならびに購読者との関係を模索する,というものである(図 1 参照)。後に見る「デジタル学術雑誌リポジトリの最低基準」や Andrew W. Mellon 財団の 電子ジャーナルアーカイブプロジェクトの多くが前提とした構図と同様である。 利 出. 版. 社. 1. 用. 者. (大学図書館 など). 2. 3 アーカイヴ. 矢印①はライセンス契約の関係。 保存のためにはアーカイヴの機能,および矢印②③で 示される関係が模索されねばならない。 図1. 電子ジャーナルをめぐる三者とそれぞれの関係. もうひとつは分散型のモデルである。資料のコピーを複数用意し,それらの所蔵を複数 の館に分散させることによって資料の保存性を高めるという,従来の図書館のあり方が備 えていた特性に倣ったものである。例えばスタンフォード大学の開発したツールである LOCKSS(名称は‘Lots of Copies Keep Stuff Safe’の頭文字に由来する)が目指す保存 体制がそれに当たる 5。 この二つのどちらが優れているかについて,人類は現時点では最終的な知見を得ていな. -2-.
(3) い。だが,以下では前者について検討を行いたい。そのように議論を限定する理由は二つ である。ひとつは,単純に枚数の制約のためである。もうひとつは,考察の順番としては 集約型モデルの方がまず対象になるべきだと思われるためである。というのも,図書館の あり方という前述の例からうかがえるように,分散型のモデルについては,それを集約型 モデルの持つ脆弱製(ひとつの組織で保存を担うことの脆弱性),あるいはコスト面での非 効率性(LOCKSSのウェブサイトにはこの点を指摘する発言を散見できる 6)を克服しよ うとする側面を持つものとして捉えることが可能であるからである。つまり,分散型のモ デルをよく理解するためにも,先に集約型のそれを踏まえておくことが得策であると判断 するのである。 集約型のモデルを考察する際に論点となるべき事柄をハーバード大学図書館の D.Flecker氏が列挙している 7。手短にまとめれば以下のとおりである。 ・どのような場合に,アーカイブのコンテンツへのアクセスが認められるか。 ・だれに対して,アーカイブのコンテンツへのアクセスが認められるか。 ・保存するコンテンツの取捨選択をどうするか。例えば,編集委員の名前や広告といっ た,雑誌記事以外のコンテンツをアーカイブに含めるか。 ・コンテンツを正規化するべきかどうか。受入れたオブジェクトを正規化してフォーマ ットの数を制限すれば,アーカイブは運営の繁雑さやコストを減らすことができる。 一方,正規化には情報損失の恐れが常に伴う。 ・受入れるフォーマットの標準を開発するべきかどうか。出版社とアーカイブが複数対 複数でやりとりをする場合,フォーマットの標準を開発すれば,両者は運営の繁雑さ やコストを減らすことができる。一方,その開発および保守のためのコストが生じる。 ・利用可能な状態のオブジェクトを保存するのか,単にビットを保存するのか。統計デ ータやビデオ,オーディオファイルなど,電子ジャーナルは多様なフォーマットを含 むことがある。それらをすべて利用可能な状態で保存することは現実的か。 ・アーカイブの費用をだれが負担するのか。 4.アーカイブへのアクセス 以上のすべてを本稿で論じ尽くすことはできない。よって論点を,利用者にとって最も 身近な問題であると思われる,はじめの二つのものに差し当たり絞る。どのような場合に, だれに対して,アーカイブのコンテンツへのアクセスを認めるべきか。後に見るように, 実はこの問題は保存する内容の取捨選択という政策的課題,あるいはだれがアーカイブの 費用を負担するのかという経済的課題と密接な関連を持つ。だがしばらくは上の問いに焦 点を当てて議論を進めることにする 8。 前提としてよい事柄が二つあると思われる。第一に,全く利用されることのないアーカ イブは想定しがたい。コストをかけてそのようなものを維持する理由が説明できないから である。しかし第二に,アーカイブへのアクセスは一切の制限なしに認められるべきだ, とも言えない。電子ジャーナルのバックファイルは出版社の収入源であるため,それと同 じものがアーカイブから無制限に利用可能であれば出版社の利益が損なわれるからであり, また,そうなれば出版社側の協力を得られず,結果アーカイブの存続が困難になるからで. -3-.
(4) ある。 それゆえアクセスの問題については,上のようないわば両極端を避け,適切な中間点を 見出すことが肝要であると言えるだろう。具体的には,アーカイブのシステムが正しく機 能しているかを調べるための監査などにアクセスをはじめは限定し,「トリガーイベント」 (trigger event)あるいは「トリガリングイベント」(triggering event)と呼ばれる,ア クセスを認めるきっかけとなる出来事を境にしてアーカイブをより広く公開する,という 方針で議論がなされることが多い 9。 そうした議論の中でまず参考とすべきものが,2001 年から 2002 年にかけて行われた, Andrew W. Mellon 財団によるプロジェクトである。電子ジャーナルのアーカイブについ て論じる際,はじめての大がかりな研究として,抜きには語れない位置にある。以下で経 緯と概要を確認した後,アクセスに関する議論を中心に,その報告書の内容を再構成する。 5. Andrew W. Mellon 財団の電子ジャーナルアーカイブプロジェクト 5.1 経緯と概要 5.1.1 前史―「デジタル学術雑誌リポジトリの最低基準」― 1999 年から 2000 年にかけて,米国の図書館・情報資源協議会(CLIR, Council on Library and Information Resources ), 電 子 図 書 館 連 盟 ( DLF, Digital Library Federation),およびネットワーク情報連合(CNI, Coalition for Networked Information) は電子ジャーナルを保存する際の責任の所在を議論する会議を開き,その結果「デジタル学 術雑誌リポジトリの最低基準」 10を発表するに至った。以下がその概略である。 ①出版社と図書館の両者が合意した要件を満たす受託機関であること。 ②学術出版社や研究図書館の要求を顧慮して自らの役割を定めること。また,どの学術 出版物をだれのために保存するのかを明白にすること。 ③学術出版社からの適切な寄託について協定を結んだうえで受入れをすること。 ④寄託された情報の長期保存を保障するため,情報の十分な管理権を有すること。 ⑤文書化された方針や手続きを有し,不測の事態に対して情報の保存を保障すること。 ⑥出版社との協定の範囲内で,保存した情報を図書館の利用に供すること。 ⑦ネットワークの一部として機能すること。 5.1.2 Andrew W. Mellon 財団のプロジェクトへ 上の「最低基準」を受けて,Andrew W. Mellon財団がその内容をさらに具体化する,電 子ジャーナルのアーカイブについての 1 年間の研究プロジェクトを提案した。結果,コー ネル大学,ハーバード大学,マサチューセッツ工科大学,ペンシルバニア大学,スタンフ ォード大学,エール大学,の各図書館,およびニューヨーク公共図書館,以上 7 つの機関 が財団からの助成金を得て,2001 年から 2002 年にかけてプロジェクトを行うことになっ た 11。それらは 4 つに大別できる。. -4-.
(5) ①分野別の研究(コーネル大学,ニューヨーク公共図書館)。それぞれが以下の分野に 取り組んだ。 ・コーネル大学:農学。 ・ニューヨーク公共図書館:舞台芸術。 ②出版社との共同研究(ハーバード大学,ペンシルバニア大学,エール大学)。組み合 わせは以下のとおり。 ・ハーバード大学:Blackwell 社,シカゴ大学出版局,John Wiley&Sons 社。 ・ペンシルバニア大学:オックスフォード大学出版局,ケンブリッジ大学出版局。 ・エール大学:Elsevier Science 社。 ③音声や映像などの動的な要素を含む電子ジャーナルの保存の研究(マサチューセッツ 工科大学)。 ④電子ジャーナルのコンテンツをローカルにキャッシュするソフトウェア(LOCKSS) の開発(スタンフォード大学)。 5.2 議論の要点 検討されたトリガーイベントごとに,各報告書中のアクセスに関する議論を整理する。 特に示唆的なのが「ムービングウォール」,「フェイルセーフ」,「アーカイブ特有の利用」 の三種である。 5.2.1 ムービングウォール 事前に定めた一定の期間が経過した後,アーカイブが利用可能になるとするものである 12 。元はJSTORの用語である。 JSTOR は 1995 年に設立された非営利団体であり,紙媒体の学術雑誌の所蔵スペースが 不足しているという問題に対処し,かつそれらへのアクセスの利便性を高めるため,バッ クナンバーを電子化して保存するという活動を行っている。利用機関は保存された雑誌に アクセスできる(ひとつの号をすべてダウンロードすることはできないなど,いくつかの 制限はある)。利用機関数は 2004 年 10 月の時点で米国を中心に世界で 2000 以上に上り, 利用可能な記事数は 200 万を越える。 JSTOR においてムービングウォールとは,ある雑誌の JSTOR で利用できる最新の号と, その雑誌の最新号の時間差である。長さは出版社と JSTOR との協定によって決定され, 通常 3 年から 5 年である。ムービングウォールを設けることにより,JSTOR は購読者数 の減少など,出版社の利益を損なう事態を避けようとしている。 この概念を電子ジャーナルのアーカイブへのアクセスにも適用することが議論された。 図書館側は,利用者の範囲は過去の購読者に限定せず,アクセスをすべての人に認めると いう方針を採ろうとした。主な理由は次のとおりである 13。 ・万人が,安価もしくは無料で,いつでも学術情報にアクセス可能になるという研究者 たちの願いが部分的にせよ実現されるため。 ・電子版「図書館間貸借」が可能となり,研究者は所属機関が購入していない雑誌のバ ックナンバーを入手することができるようになるため。. -5-.
(6) ・コスト面の利点のため。アーカイブやその利用が大規模化した場合,どの利用者がど のオブジェクトに対してアクセスする権限があるかを把握し続けるよりも,上のやり 方がアーカイブにとって経済的に優れている。 ・コンテンツが正しく保存されているかが多くの利用者によって確認されることになり, アーカイブの信頼性が向上するため。この点は,マイグレーションなど情報損失の危 険を伴う処理が行われる際,特に重要になる。 一方,出版社はムービングウォールに対してそれぞれスタンスが分かれた。 非営利的な出版社(SPARCに参加している出版社など)は肯定的な態度を示し,期間も 3 年から 5 年という比較的短いものを想定した 14。また,舞台芸術の電子ジャーナルを担 当したニューヨーク公共図書館の非公式調査によると,12 の出版社のうち 11 がアーカイ ブへの自由なアクセスに賛成しており,出版後に一定期間アクセスを制限する必要はない, とさえ答えている 15。これは舞台芸術の分野の出版社には小規模なものが多く,記憶空 間の不足のためにバックファイルの保存の責任を他へ委譲したがっている場合が多いため と考えられる。 しかし大規模な商業出版社は積極的ではなく,ムービングウォールの期間を百年単位に 設定しようと考えた出版社すらあった 16。アーカイブへの自由なアクセスが自社の電子 ジャーナルの購読者を減少させることを心配したためでもあり,小規模出版社と異なり, 大手出版社はバックファイルも自ら保存することによって収入源にできるためでもある。 結局,図書館と出版者の間でこのトリガーイベントについて最終的な合意は得られなか った。ムービングウォールの期間を経てアーカイブへのアクセスが自由になることと出版 社の利益に影響が生じることの連関を論証するには,プロジェクトの時点では判断材料が 少なすぎたようだ。ペンシルバニア大学による報告書の以下の記述が事態を要約している と思われる。 非購読者にアクセス権を与えるトリガーイベントと有料購読の関連を明らかにするた めに,電子ジャーナルアーカイブがより詳細な実験を行うことを勧告する 17。 5.2.2 フェイルセーフ 出版社がジャーナルを提供することを止めた場合に,アーカイブが代わりにそのコンテ ンツを提供する,とするものである 18。特に文言を詳細に検討したのがハーバード大学 のプロジェクトチームである。そこでは「タイトルのひとつの巻もしくは一定期間の内容 が,出版社や他の情報源から,独立したタイトルとしてはオンラインでの利用が不能にな った場合」と規定された。 「タイトルのひとつの巻もしくは一定期間の内容」と定められたのは,例えばあるタイ トルのバックナンバーの一部だけが利用不能になったような場合が考慮されたためである。 また単に「出版社」でなく「出版社や他の情報源」と規定することで,例えば出版社が他 の組織へコンテンツを譲渡した場合はまずそこで管理が行われ,新しい情報源からもコン テンツが利用できなくなった場合にこのトリガーイベントが発生することを明確にしてい る。さらに, 「独立したタイトルとして」と明記することによって,コンテンツがタイトル. -6-.
(7) によって区別されずにデータベースに埋もれてしまったような場合についても,アクセス が不能になったと判断できるようになった。 読んで字のごとく,学術情報への永続的なアクセスが保障されるように,アーカイブに フェイルセーフとしての機能を持たせることがこのトリガーイベントの目的である。利用 者は過去の購読者などに限定しない。エール大学は,このトリガーイベントが唯一,エー ル大学とElsevier Science社の共同研究において参加者の意見が一致したものであると述 べている 19。 5.2.3 アーカイブ特有の利用 電子ジャーナルの通常の利用とは異なる目的でアーカイブのコンテンツが利用される場 合にアクセスを認める,とするものである。出版社とアーカイブが競合してしまうことを 避け,かつアーカイブを速やかに利用に供するために,エール大学が提案した。詳細は以 下のとおりである 20。 エール大学図書館と Elsevier Science 社の共同研究は次の点を前提にしていた。 ・アーカイブは出版社と競合しない。 ・アーカイブは即座に利用に供されることが望ましい。 論理的に考えて,上の二つを両立させるやり方は,アーカイブの利用に出版社の製品の 利用とは別の性質を持たせることである。利用の目的や内容が異なるものであれば,両者 は競合することはない。競合しなければ,アクセスを早い段階から可能にすることに支障 はなくなるはずである。事実,エルゼビア社はそのような利用であればアーカイブの公開 を検討する可能性があると発言している。 そこで提示されたのがアーカイブ特有の利用(Archival Use)の場合のアクセスである。 共同研究のプロジェクトチームが念頭に置いたのは,コンテンツが歴史学や社会学,ある いは学術コミュニケーション研究の対象になるような場合である。例えば次のような問い を探求するための利用が考えられた。 ・読者はどのようなツールを用いて電子ジャーナルを利用していたのか。 ・著者はどのような人物だったのか。 ・だれが投稿された論文の掲載の可否に影響力を持っていたのか。 ・他にどのような記事が論文の掲載号に載っていたか。 それらをさらに詳しく規定しようとして,プロジェクトチームは科学史家の団体に予備 調査を持ちかけている。しかし研究報告書の発表までに十分な解答が得られなかったこと もあり,このトリガーイベントは実践的段階まで進まず,理論的概念にとどまった。 5.2.4 その他のトリガーイベント 上記の他に提案された主なトリガーイベントを列挙しておきたい。 エール大学のプロジェクトでは次のものが検討されたが,どれも参加者全員の同意を得. -7-.
(8) るには至らなかった. 21. 。. ・長期にわたって原資料が物理的な損傷を被っている場合。 原資料に破壊的な変化が生じた場合,出版社が資料をアーカイブから複製するという 事態を想定している。 ・アーカイブを直接訪れた利用者にアクセスを認める場合。 ・出版社からライセンスを得ている機関がアーカイブを利用する場合。 ・過去に出版社からライセンスを得ていた機関がアーカイブを利用する場合。 ・保存活動の過程で生じたメタデータを利用する場合。 また,ペンシルバニア大学は資料にマイグレーションを行う際にアーカイブを公開する ことを提案している 22。マイグレーションによって情報の損失が起こった場合の補償と するためである。 6.むすびに代えて―プロジェクトの与える示唆と電子ジャーナルアーカイブの現在― 以上の議論は,われわれにとってどれほどの意義を持つものであろうか。また,どのよ うな示唆を与えるであろうか。それらを検討し,かつ Mellon 財団のプロジェクト以降の 世界の情勢に簡単に言及することによって,ひとまずの締めくくりとしたい。 6.1 プロジェクト再考―意義・示唆― 5.2 から分かるように,Mellon 財団の研究プロジェクトの中で,トリガーイベントの詳 細について図書館と出版社が合意に達した事柄は極めて少ない。だがわれわれはプロジェ クトの意義を,電子ジャーナルアーカイブ研究の嚆矢として,論点を列挙し,問題解決の 難しさを示した点それ自体に認めることがまずはできる。 また,プロジェクトは個々の問題が根の部分でつながっていく様についても示唆を与え ている。アーカイブへのアクセスについて考察を進めると,どうしても他の論点について 言及せずに済ますことができなくなるのである。例えば「アーカイブ特有の利用」(5.2.3 参照)である。当初,エール大学のプロジェクトでは電子ジャーナルのコンテンツ以外の 機能性(グラフィックデザインや検索機能など)は保存の対象外とされていた。しかし, ある種の歴史学や社会学のための利用(例えば「読者はどのようなツールを用いて電子ジ ャーナルを利用していたのか」を調査するためのアーカイブへのアクセス)を念頭に置く なら,機能性も保存の対象とすることを考慮しなければならなくなる 23。つまり, 「どの ような場合にアクセスが認められるか」と「保存するコンテンツの取捨選択をどうするか」 という二つの論点が,からみ合ってくる 24。 今後,電子ジャーナルの保存に関する種々の論点を有機的に捉えなおそうとする際も, プロジェクトの各報告書はなお必読の文献であり続けるだろう 25。 6.2 プロジェクト以後 ムービングウォールとフェイルセーフの二つの観点から現状を確認する。. -8-.
(9) 6.2.1 ムービングウォールの現状 JSTOR が Mellon 財 団 の 資 金 提 供 26 を 受 け な が ら 「 電 子 ア ー カ イ ブ ィ ン グ 構 想 (Electronic-Archiving Initiative)」に着手し,事業内容を電子ジャーナルにまで拡大し つつある 27。出版社や図書館と共同でシステムデザインやビジネスモデルの確立に取り 組んでいる。ムービングウォールを電子ジャーナルにも設定できるか,できたとしてどの 程度の期間になるか,今後の展開が注目される。 6.2.2 フェイルセーフの現状 実 際 に フ ェ イ ル セ ー フ の 機 能 を 担 っ て い る 例 と し て , オ ラ ン ダ 国 立 図 書 館 ( KB, Koninklijke Bibliotheek)を挙げることができる 28。2005 年 1 月現在,KBはBioMed Central社,Blackwell社,Elsevier Science社,Kluwer Academic社,Springer 社, Taylor &Francis社,オックスフォード大学出版局,以上七つの出版社の公的アーカイブとなる協 定を結んでいる。細部は出版社ごとに異なるが,協定の内容は概ね以下のとおりである。 ・出版社は無償で電子ジャーナルを KB に提供する。アーカイブにかかる費用はオラン ダ政府が拠出する。 ・災害等により出版社が電子ジャーナルを読者の利用に供することができなくなった場 合,アクセスを KB が代わりに提供する。 協定は締結されたものの,実際に KB が出版社の代役を果たすという状況が生じたこと はこれまでなく,また,KB が出版社の全サービス内容を引き継ぐことまでは想定してい ないため,将来の「実戦」のためには協定の細部をさらに検討する余地も残っている。 最善のフェイルセーフシステムの確立に向けても,われわれはなお議論の積み重ねが必 要であると言えよう。 謝辞 6.2.2 の執筆に当たって,KB の電子情報保存担当官 Hilde van Wijngaarden 氏から私 信を通じて非常に有益な情報を頂いた。この場をお借りして感謝の意を表します。 以上の論点に関するより広い展望は下記を参照。 後藤敏行「電子資料の長期保存に向けて」『現代の図書館』42(3), 2004. 2 この点は,スタンフォード大学の開発した LOCKSS というシステムが変革を試みてい る。注 5 参照。 3 Kevin Guthrie, “What Do Faculty Think of Electronic Resources,” ALA Annual Conference Participants' Meeting. 2001. 6 <http://www.jstor.org/about/faculty.survey.ppt>. [参照日:2005-01-09] なお,JSTOR の提携団体である Ithaka がさらに大規模な追跡調査を行っており,その 結果は近日中に公開される予定である。 See: Ithaka, Completed Projects <http://www.ithaka.org./research/completed.htm>.[参 照日:2005-01-09] 1. -9-.
(10) See also: JSTOR, JSTOR Participants' Meeting Summary <http://www.jstor.org/about/pm_summary_ALA.html>.[参照日:2005-01-09] 4 “Japanese Taskforce Looks at Use of E-Journals,” Library Connect. 2, Jun. 2004, p. 3 <http://www.elsevier.com/framework_products/promis_misc/672915lcnewsletter6_emai l.pdf>. [参照日:2005-01-09] 5 LOCKSS による保存体制ついて簡単に説明すれば,それは以下のようなシステムであ る。 図書館は LOCKSS を用いて購読コンテンツをキャッシュに保存する。その後,LOCKSS に参加する図書館同士が,それぞれが保存した同じコンテンツを比較し合い,損傷がある コンテンツを発見した場合はそれを修復する。 LOCKSS は,発想としては,蔵書構成が少しずつ重なる複数の図書館が各地に分散して いることによって,なんらかの事故のためにある館の資料が欠けても,それがその資料の 不可逆的な損失にまでは至らない(他館も同一の資料を所有しているため)という,従来 の図書館システムと同様のものである。また,ひとつの館が全ての資料の保存を引き受け るのではなく,各館がそれぞれの購読分を担うという分担型の構造も,今までの図書館の あり方と同一である。 より詳しくは以下のウェブサイトを参照。 LOCKSS Program Home <http://lockss.stanford.edu/>.[参照日:2005-01-09] See also: Vicky Reich and David S. H. Rosenthal, “LOCKSS: A Permanent Web Publishing and Access System,” D-Lib Magazine. 7, Jun. 2001 <http://www.dlib.org/dlib/june01/reich/06reich.html>.[参照日:2005-01-09] 6 e.g.「出版社が第三者機関であるアーカイブにソースデータベースをデポジットするモ デル [中略] は,出版社にとってもアーカイブにとっても,ずっと高くつく。」(About LOCKSS: Background.<http://lockss.stanford.edu/about/about.htm>.[参照日: 2005-01-09]) 7 Dale Flecker, “Preserving Scholarly E-Journals,” D-Lib Magazine. 7, Sep. 2001 <http://www.dlib.org/dlib/september01/flecker/09flecker.html>.[参照日:2005-01-09] 8 ところで, 「アーカイブへのアクセス」という表現から連想されるのは, 「オープンアク セス」 (学術論文への無料アクセス。多くの場合,論文執筆者が掲載料を支払い,それを出 版費用に充てることによって読者は購読料を払う必要がなくなる,というモデルを採用す る)と「セルフアーカイブ」 (学術情報の作成者が,機関リポジトリ等の手段を通じて,自 らの研究成果を保存,公開すること)という,図書館界でもホットなトピックである。 しかし本稿は,読者が支払う購読料から利益を得ている商業出版社の電子ジャーナルを 保存し(3.で述べたとおり本稿でアーカイブとはその保存を担う受託機関を指す),そこへ のアクセスを認めても出版社の利益が損なわれないのはどのような場合か,といった問題 を論じる。それゆえ,差し当たりは,本稿は上のトピックを守備範囲としない。 上の二つの話題については下記で一端に触れたので参照のこと。 後藤敏行「機関リポジトリの発展に向けて―現状と課題―」『現代の図書館』43(2), 2005. 9 なお,電子ジャーナルのアーカイブの文脈でトリガーイベントと言う場合,コンテンツ へのアクセスが認められる出来事だけでなく,出版社がコンテンツをアーカイブに転送す るきっかけとなる出来事をも意味することがある(See: YEA: The Yale Electronic. - 10 -.
(11) Archive One Year Progress. New Haven, funded by the Andrew W. Mellon Foundation, 2002, p.23 <http://www.library.yale.edu/~okerson/yea/yea.pdf>.[参照日:2005-01-09])。 本稿では,前者に議論を絞る。 10 Dan Greenstein and Deanna Marcum, Minimum criteria for an archival repository of digital scholarly journals. Version 1.2. Washington, D.C. , Digital Library Federation, 2000 <http://www.diglib.org/preserve/criteria.htm>. [参照日:2005-01-09] 11 各報告書が次のウェブページで入手可能である。The Digital Library Federation, Archiving Electronic Journals. Washington, DC. 2003<http://www.diglib.org/preserve/ejp.htm>. [参照日:2005-01-09] 12 Harvard University Library Mellon Project Steering Committee. et al, “3.1.2 Trigger Events,” Report on the Planning Year Grant for the Design of an E-journal Archive. 2002 <http://www.diglib.org/preserve/harvardfinal.pdf >.[参照日:2005-01-09] See also: John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities,” Report on a Mellon-Funded Planning Project for Archiving Scholarly Journals. University of Pennsylvania Library, 2002 <http://www.diglib.org/preserve/upennfinal.pdf >.[参照日:2005-01-09] See also: 前掲 8, p. 24. 13 前掲 11, John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities”. 14 Patsy Baudoin and MacKenzie Smith, “Conclusions,” DEJA: A Year in Review Report on the Planning Year Grant For the Design of a Dynamic E-journal Archive. 2002 <http://www.diglib.org/preserve/mitfinal.pdf>. [参照日:2005-01-09] 15 “Publisher’s roles in an archive,” The New York Public Library Archiving Performing Arts Electronic Resources: A Planning Project. 2002 <http://www.diglib.org/preserve/nyplfinal.pdf>. [参照日:2005-01-09] 16 Sarah E. Thomas and Carl A. Kroch, “Work with Publishers,” Project Harvest: A Report of the Planning Grant For the Design of a Subject-Based Electronic Journal Repository. 2002 <http://www.diglib.org/preserve/cornellfinal.pdf>. [参照日:2005-01-09] 17 前掲 11, John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities”. 18 前掲 11, Harvard University Library Mellon Project Steering Committee. et al, “3.1.2 Trigger Events”. See also: 前掲 11, John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities”. See also: 前掲 8, p. 24, 33. 19 前掲 8, p. 33. 20 Ibid. p. 11-12, 24, 35-39. 21 Ibid. p. 22-24. 22 前掲 11, John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities”.. - 11 -.
(12) 結局,1 年間の共同研究の段階ではコンテンツのみを保存するという前提は変更せず, 機能性の保存はアーカイブの実装段階で再度検討する,ということになった(See: 前掲 8, p. 36.)。 24 同じことが,アクセスと「だれがアーカイブの費用を負担するのか」という経済的課 題の,二つの問題についても言える。単純に考えて,仮にアクセスを積極的に認める方針 でアーカイブを運営したければ,図書館が財源を調達して出版社の影響力を極力抑制すべ きであろう。ペンシルバニア大学の報告書が述べるように, 「主に出版社から財源を得てい るアーカイブは「暗い[アクセスを制限する]」ものになりがちであろうし,他方,図書館 からの財源や自主財源を主とするアーカイブはアクセスがより開かれたものになる」 (前掲 11, John M. Ockerbloom, “Archival rights and responsibilities”.)。 ここでも二つの論点が結びついている様が見て取れる。 25 各プロジェクトの議論を表にまとめておく。なお,ある報告書が明示的に「ムービン グウォール」などの用語を用いていなくとも,内容が同じであれば表ではその用語によっ て記述する。 23. プロジェクト. コーネル大学 農学. テーマ/共同 研究の相手 ムービングウ ォール 主に議論した トリガーイベ ント. 結論. 出版社と会議 を開いたが合 意に達せず。 ムービングウ ォールを数百 年単位で考え る出版社もあ った。. 表1. ハーバード大 学 Blackwell 社、 シカゴ大学出 版 局 、 John Wiley & Sons 社 ムービングウ ォール、 フェイルセー フ. マサチューセ ッツ工科大学 動的な要素を 含む電子ジャ ーナル. 関係者間のよ り詳細な議論 が必要。. 非商業的出版 社とのワーク ショップで は、出版社は 3-5 年程度 の 期間を支持し た。. ムービングウ ォール. ペンシルバニ ア大学 オックスフォ ード大学出版 局、ケンブリ ッジ大学出版 局 ムービングウ ォール、 フェイルセー フ、 マイグレーシ ョン時. 非購読者にア クセス権を与 えるトリガー イベントと有 料購読の関連 を明らかにす るための詳細 な実験が必 要。. エール大学 Elsevier Science 社. ムービングウ ォール、 フェイルセー フ、 アーカイヴ特 有の利用、 その他(5.2.4 参照) 参加者全が同 意したのはフ ェイルセーフ のみ。. ニューヨーク 公共図書館 舞台芸術. (舞台芸術の 出版社はアク セスに肯定的 だったため、 トリガーイベ ントは問題と ならなかった 感がある) 非公式調査に 対し、ほとん どの出版がア ーカイヴへの 自由なアクセ スに賛成し、 出版後に一定 期間アクセス を制限する必 要はない、と さえ答えた。. 各プロジェクトで議論されたトリガーイベント. 財団は LOCKSS にも資金提供を続けている。集約型と分散型のどちらかのモデルを重 視するのではなく,両者それぞれに可能性を認めるスタンスを取っているわけである。 See: Cantara, L. , ed. “Recent Developments,” Archiving Electronic Journals. The Digital Library Federation. and Council on Library and Information Resources. Washington, DC. 2003 <http://www.diglib.org/preserve/introduction.pdf>. [参照日:2005-01-09]. 26. - 12 -.
(13) JSTOR, The Challenge of Digital Preservation and JSTOR’S Electronic-Archiving Initiative <http://www.jstor.org/about/earchive.html>. [参照日:2005-01-09] 28 以下のウェブサイト,雑誌記事も参照。 Koninklijke Bibliotheek, Publishers and the e-Depot <http://www.kb.nl/hrd/dd/dd_links_en_publicaties/publicaties_uitgevers-en.html> [参照日:2005-01-09]. 齋藤健太郎「オランダ国立図書館のアーカイビング事業」『カレントアウェアネス』 275, 2003. 3 <http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no275/doc0008.htm#02> [参照日:2005-01-09]. 27. - 13 -.
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