• 検索結果がありません。

中国会社法からみた社会主義市場経済

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国会社法からみた社会主義市場経済"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.はじめに(社会主義公有制と社会主義市場経済) 社会主義は、国民の平等を重んじて、生産手段の 公有制と計画経済を特色とすると言われてきた。す なわち、「それを所有しているか否かにより貧富の格 差がつきやすい生産手段」の公有制と、「計画的な生 産と分配の平等性を目指す計画経済」を、その特色 とするわけである。中華人民共和国(以後、中国と いう)も建国以来ながく社会主義計画経済を実施し てきた。 しかし、ソ連が経済運営に行きづまり崩壊すると いう事件が1991年に勃発した。その影響を危惧する 中国共産党(以後、党という)に危機感がひろがっ ていったが、 小平は、社会主義中国の経済発展の ためには市場経済に移行せざるを得ないと判断した。 翌92年の春節に、彼は南巡講話を行い改革開放を加 速せよと大号令を発し、「市場が資本主義で計画が社 会主義だというのはおかしい。資本主義に計画があ るように社会主義に市場があってもおかしくない」 との主張を行った。この 小平の指示に従い、同年 10月の第14回党大会で社会主義市場経済体制の確立 を目指すことが決定された。彼の強力なリーダーシ ップにより、党は社会主義計画経済から社会主義市 場経済に大きく舵をきることになったわけである。 すなわち、経済発展を志向することにより、ソ連共 産党のような崩壊の事態を避け、党の単独政権を維 持しようとしたのである。このような党の方針にし たがって、93年3月の全国人民代表大会にて憲法改 正がおこなわれた。1) その後、中国は市場経済化を推進し経済の高度成 長に成功している。その過程で、市場の主体である 会社を規制する会社法、市場のルールを定める契約 法、担保法、保険法など市場経済に必要な法制度の 整備を進め現在に至っている。併せて、市場経済に 対する政府のマクロ・コントロールの重要性を唱い、 経済法の分野においても法整備を進展させている。2) しかし、前述したように、社会主義は国民の平等を 尊ぶのに対し、市場経済は自由競争を尊びその結果 としての貧富の格差を容認する立場に立つ。このよ うに、社会主義と市場経済は、根本的なところで相

中国会社法からみた社会主義市場経済

森 一憲

吉備国際大学 政策マネジメント学部研究紀要 第4号,99−109,2008 吉備国際大学 政策マネジメント学部 知的財産マネジメント学科 〒716−8508 岡山県高梁市伊賀町8

Department of Intellectual Property Management, School of Policy Management, Kibi International University 8, Igamachi, Takahashi, Okayama, 716-8508, Japan

キーワード:社会主義市場経済、社会主義公有制、会社法、証券法、コーポレートガバナンス、

資本市場育成、国家株放出

Kazunori Mori

Development of market economy gave big influence to socialism public ownership.

Company law was revised towards liberalism market economy.

(2)

容れ難いように思われ、現に、中国は市場経済化の 推進で経済は成長しているものの貧富の格差が増大 し国民間の不平等が顕著となり、(社会主義国でなく とも)もはや放置できない水準にまで達していると 考えられており、胡錦涛政権は調和のとれた発展を 重視せざるを得ない状況になっている。このように、 党の単独支配を維持するためにやむを得ずに採用し た社会主義市場経済であるが、その進展にしたがっ て矛盾に満ちた状況をもたらしているといえ、中国 はもはや社会主義の国とは呼べない領域に立ち入っ て来ている。 ところで、社会主義市場経済は社会主義公有制に 基づく市場経済と定義されているが、この点に問題 が生じていると思われる。社会主義市場経済は、生 産手段すなわち土地と資本財については公有制とし ながらも、市場経済を採るものである。しかしなが ら、市場経済の発展により、資本財である製造設備 については、合法・非合法の手段を通じて、私有制 への移転が進み、現在では私営企業(当然、製造設 備を有する)が認められるに至っている。このよう に、製造設備については、現在では私的所有が認め られているが、法制上のたてまえとしては、社会主 義公有制の基礎の上に成り立っていることになって いる。 この研究レポートでは、資本財の主たる所有者で ある会社に焦点を絞り、社会主義市場経済の発展が、 会社を規制する会社法にどのような影響を与えてき たのかという点について検証し、これからの展望に ついても検討を加えてみたいと思う。3) とりわけ、 公有制を代表する支配株主としての国家と、私有制 を代表する少数株主である一般株主の権利(なかで も一般株主が支配株主に対抗できる基礎を形づくる 「株主の知る権利」)に着目して検討を進める。なお、 この研究レポートは、「吉備国際大学政策マネジメン ト学部研究紀要第2号」(平成18年3月31日発行)に 掲載した「中国ビジネスと法的リスクの回避」のな かの「3.社会主義市場経済に基づくリスク」にて 述べた部分について、その後の研究の進捗状況を報 告するものである。 2.会社法(制定時)のコンセプト (1)会社法 社会主義市場経済導入の決定に先立つ92年7月に、 「全民所有制工業企業経営メカニズム転換条例」が制 定され、国営企業に経営権を付与して自主的な経営 を認める方向が確認されている。さらに93年11月に 開催された党第14期中央委員会第三回全体会議にて 「現代企業制度」の確立が決定され、翌12月に、会社 法が制定された。このような党の方針により、国有 の大企業は「現代企業制度」の下で株式制を採用す ることになり、94年から現代企業に向けて改組され ていくことになった。しかしながら、社会主義市場 経済と銘打っているように、社会主義公有制は維持 される必要があった。すなわち、国有企業を会社形 態に衣替えしても、会社の支配権は、あくまでも国 が維持するという前提で会社法が構成されたのであ る。そのために、株主総会中心主義が採られること になり、株主総会に権限を集中し、支配株主(国) が、株主総会によって会社を支配する枠組みが構築 されたのである。このような考えの下で会社法が制 定されることになったので、特異な会社法4)となら ざるを得なかった。たとえば、次に示すように、会 社の基本的構成からみてもおかしいと思われるよう な規定が定められることになった。 会社法(改正前)第4条 ①会社の株主は、出資者としての会社に対する資 本額に基づき、所有者としての資産からの収益、重 大な意思決定及び管理者の選任などの権利を有する。 ②会社は、株主の出資により形成された法人財産

(3)

権を有し、法に基づき、民事権利を有し民事責任を 負う。 ③会社の国有資産の所有権は国に属する。 一般的には、会社の出資者は、持分(株式)を得 るが、出資分は会社の財産となり、それに基づき会 社は事業を行うという二重の所有制5)が会社の基本 的構成として認められる。会社法第4条3項(下線 部分)は、この二重の所有制からみておかしい規定 であった。しかし、貧富の差をもたらしやすい資本 財は公有とする社会主義公有制の原則からすれば、 当然の規定でもあった。なお、この規定については、 中国国内でも論争があったが、2005年10月の改正で 削除されている。 このように、支配株主が会社を支配するというコ ンセプトの下では、支配株主としての国家のことだ けを考えればよく、株主一般の権利を認める必要は なかった。このようなコンセプトの下では、支配株 主が会社を支配する装置としての株主総会の権限は 大きくなるが、株主の権利としては多くは必要なく、 会社法は、 110条(株主の閲覧、建議・質問権)、 111条(差止請求権)、156 条 (上場会社の情報公開)、 176条(上場会社の財務会計報告)、の4箇条を定め るだけであった。 (2)会社登記管理条例 会社法の制定に続き、翌年の94年6月に会社登記 管理条例 6)が制定され、7月から会社法と同時に施 行された。この条例の主目的は、会社の設立から変 更・抹消登記までの監督権限を会社登記機関(工商 行政管理局)に与え、営業許可制度 7)と一体になっ て、会社を監督・管理することにある。設立登記が 許されると営業許可証が交付され、これによっては じめて会社の営業が可能になる。設立登記時に登記 した事項に変更を生ずれば、 変更登記を行うことが 義務付けられ、変更内容が営業許可証の記載事項に 及べば、営業許可証の差し替えを要求される。営業 許可証がなければ、勿論、違法営業となるし、営業 内容が営業許可証と異なっていても違法営業となり、 厳しい取り締まりを受けることになる。すなわち、 会社登記制度と営業許可制度を中心に、厳しい監督 管理が会社に対してなされることになる。 このような制度の下では、会社登記機関である工 商行政管理局の権限が強くなる。たとえば、会社登 記管理条例は、工商行政管理局の年度検査について 定めている。これは、毎年1月から4月の間に年度 検査を行い、経営継続の資格を確認するという内容 になっている。会社登記管理条例の第9章「年度検 査」に関する規定を次に掲げる。 会社登記管理条例 第9章「年度検査」 第49条 毎年1月1日から4月30日までに、会社登記機関は会 社に対して年度検査を行う。 第50条 ①会社は会社登記機関の要求に基づいて、定めら れた期間内に年度検査を受けるとともに、年度検査 報告書、貸借対照表、損益計算書、企業法人営業許 可証の副本を提出しなければならない。 ②支店を設置した会社は、提出する年度検査の資 料の中に、支店関係の状況を明確に反映させるとと もに、支店営業許可証の副本を提出しなければなら ない。 第51条 会社登記機関は会社が提出した年度検査資料に基 づき、会社登記事項に関係ある状況に対し審査を行 い、経営を継続する資格を確認しなければならない。

(4)

であった。すなわち、会社登記機関である工商行政 管理局は、日本の登記所(法務局)のような存在で はなく、 企業の事業を監督する機能を持った機関で あり、このような官庁においては、登記による公示 の実効性は期待し難いものであると考えられる。ま た、会社の監督管理を中心にしているので、必ずし も情報公開になじみやすいとは考えられず、また公 示されたとしても、商業登記としては、不完全な内 容といわざるを得ないと思われる。以上のことを総 合的に考えると、会社法、会社登記管理条例が制定 された当時としては、一般株主の権利については、 あまり注意が払われていなかったといえる。 3.市場経済の進展にともなう公有制の多元化と 証券法制定 (1)証券法 中国では、本来、証券法は会社法と一体をなすも のとして起草が進められていたが、資本主義の根幹 とも言える証券市場の評価について党内で論争があ り、会社法に比べ立法が大幅に遅れることになった。 しかしながら、この間にも証券市場が成長していく ことになり、それに伴って不祥事も頻発していくこ とになった。このような状況に対して、会社法に定 める証券取引法的な規定だけで対処するのは困難で あり、「株券の発行及び取引に関する暫定条例」を制 定して対応することになったが、不十分なものであ った。したがって、証券法の早期制定が望まれてい たが、前述のように証券市場の評価に関して党内で 意見が分かれており、制定が延び延びになっていた。 このようなときに、97年のアジア通貨危機が発生し、 この経験に基づき、党内にも証券法の早期成立が必 要との認識が高まり、翌98年に証券法が制定される ことになった。 なお、93年に社会主義市場経済に転換した後、そ 第52条 会社は会社登記機関に年度検査手数料を納めなく てはならない。年度検査手数料は50元とする。 このように、会社登記機関(工商行政管理局)は、 会社に対して毎年検査を実施し、経営継続の資格を 確認するという非常に権限の強い機関とされている。 会社法は会社設立にあたり準則主義をとるが、会社 登記管理条例はこれを実質的には許可主義の色彩が 濃厚なものにするだけでなく、毎年の検査の結果に よっては、許可の撤回が用意されている非常に強力 な権限を、会社登記機関(工商行政管理局)に付与 するものである(外商投資企業については、別の法 体系が準備されており、そこでは許可主義が採用さ れている)。このような制度が採用されたのは、会社 制度の運営によっては社会主義公有制を崩しかねな いと懸念されたからだと考えられる。したがって、 会社登記機関である工商行政管理局は、 企業の事業 を監督する機能を持った強力な機関という位置づけ になる。 このように会社登記管理条例における登記は、会 社の監督管理が目的で、公示としての機能は二の次 に置かれている。したがって、会社の監督管理につ いての規定が充実しているのに比べ、公示に関する ものとしては、47条(登記簿の閲覧)1箇条のみし か規定がない。 第47条 会社登記機関は審査、認可して登記した会社の登 記事項を会社登記簿に記載し、社会大衆の調査、閲 覧、複製に供しなければならない。会社の登記内容 を調査、閲覧、複製する場合、定められた調査、閲 覧、複製手数料を納付しなければならない。 公示を義務付ける規定のみ、しかも、手数料納付 に一定のウエイトを置いているようにもみえる内容

(5)

れまでの束縛が解き放たれて、市場経済が急速に発 展し、その結果、経済が高度成長するに至った。し かしながら、この経済成長に貢献したのは、主とし て外資系企業と私営企業であり、国有企業は相変わ らず不振の域を脱却できないでいた。これは、市場 経済の急速な進展に国有企業が十分に対応しきれな いことを示していた。このような状況の中で、証券 法の制定に先立ち、97年の第15回党大会で「公有制 の多元化」が打ち出され、このなかで、「一部の重要 産業を除いて、国有にこだわらない」という方針が 確認されることになった。この方針の下で証券法が 起草されたので、一般株主の権利を認める方向に動 くことになった。その結果、証券法は、「株主の知る 権利」としても、「第3章証券取引」の「第3節情報 公開の継続」に9箇条の規定を置き、かなり充実し た内容となることになった。 (2)コーポレート・ガバナンス原則 ここにおいて、会社法、会社登記管理条例に加え て証券法が制定され、上場会社がさらに増加してい くことになった。しかしながら、証券法制定にもか かわらず、不祥事も増加の一途をたどることになっ た。これは、会社法のコンセプトとして、支配株主 が会社を文字通り支配できる枠組みであったので、 支配株主を中心として不祥事が多発することになっ たためである。不祥事の中には、粉飾決算のように 通常ありうるものから、資本市場で調達した資金を 支配株主が流用するという一般的には考えにくいケ ースまで、実に様々なものが発生した。8)ここにお いて、特に上場会社のコーポレート・ガバナンスが 論じられることになった。このような状況を招いた 最も大きな原因は、上場会社の大部分を占める国有 企業が、形の上では所有と経営の分離をうたってい るものの、 所有(支配株主)による経営コントロー ルがあまりにも強いことにあった。しかも、所有者 が国家という存在であり「所有者の不在」といわれ る現象を招いてしまい、国家から授権を受けている 支配株主(国の機関や国有持株会社など)や経営者 が会社を利用して私利を図ったり、意図的に会社制 度の悪用を図り、その結果、国有企業から国有資産 がこれらの者へ流失するケースが多発することにな った。 これらの不祥事に対処するために、2002年に証券 監督管理委員会によって、上場会社コーポレート・ ガバナンス原則が制定されることになった。この原 則では、董事長・経理の業務執行に対する監視に重 点が置かれ、我が国の社外取締役制度にあたる独立 董事制度の新設や監査制度の充実に力点が置かれて いる。これは、本来は、国有資産管理体制の問題と も考えられるが、コーポレート・ガバナンスと国有 資産管理の視点が融合しているのが、中国における コーポレート・ガバナンスの特徴といえる。 4.会社法改正 21世紀に入っても、市場経済はさらに発展し、経 済の高度成長が継続した。しかしながら、証券市場 は発展せず、経済は高度成長するが証券市場は停滞 するといういびつな現象が発生した。これは、国が 支配株主となり会社を支配するというコンセプトに 基づき、国(および国が影響力を及ぼせる法人)が 過半の株式を握り、少数の株式のみが市場に流通す るという証券市場の構造に起因するものであった。 その為に、前述のように支配株主に起因するコーポ レートガバナンスの欠如により証券市場の信頼性が 損なわれるとともに、「一部の重要産業を除いて、国 有にこだわらない」という党の方針の下での非流通 株の市場放出懸念による市場圧迫の為に、証券市場 が停滞することになったのである。証券市場の停滞 は、経済のグローバル化の下で競争の場に立つ中国 企業にとって資金調達面で大きな問題になった。こ

(6)

のような事態を打開するため、国務院が2004年1月 に、「資本市場の改革開放と安定的発展の促進に関す る若干の意見」を公表し、証券市場の発展に向けて、 投資家の権益保護やコーポレート・ガバナンス等を 重視する考えを表明した。その後、2005年4月に、 証券監督管理委員会が「非流通株の放出に関する規 則」を公表し、一般株主の権利も尊重しつつ非流通 株を市場に放出する体制が整えられることになった。 国(党)として、中国企業の国際的な競争力を育成 する観点から、証券市場をゆがめている非流通株の 問題を解決し証券市場の育成とコーポレート・ガバ ナンスの構築が急務と考えるようになったわけであ る。2005年10月に、会社法と証券法は、この方針に 沿って改正されることになった。 非流通株の市場放出が開始された流れの中で、 2005年10月に会社法が改正された。改正の趣旨は、 起業促進、国際競争力の強化をめざし、最低資本金 の低額化、現物出資の緩和など規制緩和を進めると ともに、資本市場の育成整備を念頭に置いて、コー ポレート・ガバナンスの強化を図り上場会社の質を 高める、というものである。この中で、株主の知る 権利としては、第6条(登記事項の閲覧)、 第98条 (株主の閲覧、提案、質問権)、第117条(報酬の開示)、 第124条(董事会秘書ー情報開示)、第146条(上場会 社の情報開示)、 第151条(董事等の回答義務)、 第 166条(財務会計報告義務)の7箇条が定められ、改 正前の3箇条からみると大きく前進することとなっ た。これは、非流通株の市場放出により増加が予定 される一般株主の知る権利を考慮したものと思われ る。 その後の05年12月に会社法・証券法改正後の国務 院方針が公表されている。その内容は、四つの柱に より成り立っているが、その概略は次の通りである。 1.会社法と証券法改正の重要性を十分に認識し 実行に移す。 会社制度の発展を図り、会社、株主、会社債   権者、従業員などの権益を保護するとともに、 上場会社の質を高め資本市場の発展を促す。 2.教育宣伝活動を展開するとともに業務研修を 推進する。 会社法と証券法を大きく改正しているので、 教育宣伝活動を展開するとともに、関係者の 業務研修を推進する。 3.今後は関連する業務についての取組を推進する。 会社登記制度の調整、証券発行の厳格な管理、 証券取引の管理強化を推進する。 4.行政法規・規章の整備を進める。 ①国有資産監督管理委員会等は、国有独資   会社と国有持株会社のコーポレート・ガ バナンスを改善するとともに、国有企業 株式制改革を積極的に推進する。 ②上場会社監督管理、証券会社監督管理、 証券会社リスク管理、金融持株会社監督 管理等の行政法規の起草作業を進める。 ③改正された会社法、証券法に抵触する行 政法規と規章9)を改正する。 ④工商行政管理局は、会社登記管理条例を 改正するとともに、関係する規章を全面 的に見直す。 ⑤財務部は、企業財務制度と国家統一会計 制度を見直す。 ⑥地方政府は、関係する政府規章を整備す る。 この内容を見ると、証券市場の発展を促すのが第 一の目的であり、その為に、会社法と証券法を改正 したことがわかる。共産党が単独政権を握る社会主 義市場経済の国で、証券市場の発展促進が重視され るという奇妙な図式が表されていることになるが、 このことは党はもはや社会主義政党ではなく、単独 政権維持のために社会主義という名称を単に利用し

(7)

ているにすぎないものと考えられる。 5.今後の展望 06年3月の全人代における政府工作報告にて、温 家宝総理 は「今年の主要任務」で次のように述べて いる。 1.会社法を貫徹して、国有大型企業株式制改革を  加速する。その改革の中で、知的財産権、コー ポレート・ガバナンス等を整備して、国際競争 力を備えた大会社大企業集団を形成する 2.証券法を貫徹し、資本市場を発展させる。その ためにも、コーポレート・ガバナンスなどを改 善し上場会社の質を高めていく。 3.これらの条件が整えば、中国企業が世界に進出 していくのを支持する。 非流通株を市場に放出する株式構造改革を進める とともに、上場会社の質的向上を図り、その結果と して、資本市場を育成し、中国企業の国際競争力を 高め、中国企業が世界に進出していくことを図ると いう国家戦略に沿って、会社法と証券法が改正され、 この中にあって、「株主の知る権利」も充実が図られ たということになる。「株主の知る権利」は、規定的 には、一応の整備をみたように思えるが、中国の法 制度に特有の「実効性が伴うかという問題」10)が残 されている。実効性を図る意味でも、国務院は関係 機関に対して、行政法規、部門規章、地方政府規章 等の整備を義務付けているものと考えられる。 さらに、2006年12月に国務院弁公庁が、国有資産 監督管理委員会が起草した「国有資本の調整と国有 企業改組を推進することに関する指導意見」を貫徹 執行するように、全行政機関に通達している。この 国有資産監督管理委員会指導意見の概略は、次のと おりである。 1.国有資本は重要な事業分野に集中させ、その他 の事業分野については、株式を法にもとづき譲 渡し、国有資産の流出を防止する。国有資本を 集中する部門は、国際競争力を有する国有大型 株式会社とし育成し、コーポレート・ガバナン スを構築し、企業としての質を高める。 2.国有中小企業は、国家の手を離れ活性化を図る。 その中で、やむをえない場合は、破産処理をお こなう。 3.その結果、2010年時点において、国有資産監督 管理委員会が所管する企業は80∼100社程度とす る。 この方針の下で、上場している国有大型企業の非 流通株式は市場に放出され、現在進行しつつある中 小企業の民営化はその勢いを増し、実質的な私営化 が推進されていくものと推測される。このような中 にあって、法制面では、コーポレート・ガバナンス が重視され、「株主の知る権利」が尊重される方向に 向いており、2007年1月には、証券監督管理委員会 から「上場会社の情報開示管理弁法」が公布施行さ れている。この弁法は、第1章 総則、第2章 目 論見書と上場公告書、第3章 定期報告、第4章 臨時報告、第5章 情報開示事務管理、第6章 監 督管理と法律責任、第7章 付則、の72箇条からな り、改正された会社法と証券法の内容を再確認し、 より具体化する内容になっている。特に、第5章 (情報開示事務管理)では上場会社に情報開示事務管 理制度の制定を求め、第6章(監督管理と法律責任) にて法令違反に対する行政措置を定めることにより、 法の実効性を追求している。 このように、国家株の放出に備えた基盤整備が着 実に進められており、中国の会社法はその特異性を 薄めてきている。ところで、国家株の放出は一般的 には公有制から私有制への移行と考えられるが、党 は、国が支配株主の地位を離れ、多くの国民が株主

(8)

になることも社会主義公有制の一環と説明している。 しかし、それならば、たとえばアメリカや我が国等 も社会主義公有制の国となることになるが、それは おかしいと考えられる。また、もう一方の土地の公 有制も崩れる方向に動いており、生産手段の公有制 が崩れ、市場経済ということになれば資本主義(自 由主義)市場経済と変わらなくなり、党が単独政権 を維持する名分が立たなくなると思われる。これま での市場経済の発展が中国社会を大きく変化させて きており、もはや社会主義の国とは言えない状況に ある。そのような中で、党はなお社会主義の名の下 で単独政権を維持しているが、今後は、何らかの変 化が出てくるものと推測される。しかし、党は、軍 と公安という物理的な力をしっかりと掌握しており、 党外部からの力で変革をもたらすのは困難だと考え られ、1978年に始まった改革開放いらい党は漸進的 ではあるが大きく変化してきていることを考えれば、 今後とも党内部から変化が出てくるものと予想され る。現に、国有企業の経営にあたる党幹部がMBO (マネジメント・バイ・アウトの略。経営陣が自らが 経営する企業を買収して独立すること。)により、国 有企業の経営権を握り、資本家に衣替えするケース が多数発生しており、このことが、中国の将来を示 唆しているように思われる。一般に、法制度の変化 は社会の変化に後追いで生じてくるが、改正後は社 会の変化を更に大きくするという効果を持つことが あることを考えれば、会社法と証券法の改正が更に 社会・経済体制の変化に結びついてくることも考え られるので、中国の会社制度・証券制度の行方を注 意して見守っていく必要がある。 1)中国では、憲法制定権力として中国共産党が憲 法の上位に存在している。このことは、憲法改正 に先立って共産党大会で改正が実質的に決定され た後に全国人民代表大会で憲法改正が追認されて いる事実をみても明らかと思われる。また、憲法 改正の中でも、憲法を新たに制定したともいえる 大改正を、建国いらい三度経験しているが、これ は党の最高指導者が替わるたびに行われている。 1975年の改正は文化大革命により実権を掌握した 四人組により行われたので文革憲法ともよべるも のであった。1978年の改正は 四人組を退けた華 国鋒によりなされ、その後に権力を掌握した 小 平が改革開放を進めるために定めたのが現行の82 年憲法である。(これらの憲法改正は、改正の手続 きを践んではいるが、新しい憲法を制定したと言 えるほど内容は異なるものである。なお、現行の 82年憲法も、88年、93年、99年、2004年と4度の 改正を経ているが、これらの改正は改革開放の進 展、特に市場経済化の進展に伴うものである。)こ のように、党の最高指導者が替わるたびに憲法が 大きく変わってきた事実からも、党が憲法制定権 力を掌握していることは明らかだと考えられる。 すなわち、各国の憲法において議論される憲法制 定権力(最高法規たる憲法を作る力)が、中国に おいては明瞭に認識されることになる。したがっ て、中国でいわれる「依法治国」(憲法5条に規定) という概念は、我々が考えるような「法の支配」 とは異なり、党が法体系の更に上位に位置し「法 を道具として」統治することを意味しているとい える。 2)政府による市場経済のマクロ・コントロールと いうことも、強力な中国の行政権の市場関与を招 きやすく、外国企業が中国にて事業展開するとき のリスクの一つに数えられる。なお、07年に、独 占禁止法が制定され、経済法の分野についても一 応の整備を見ている。 3)社会主義のもとで公有制が求められるもう一方 の土地については一応公有制が維持されており、 都市部の土地は国家所有、農村部の土地は農民の

(9)

集団所有とされている(憲法10条)。したがって、 土地所有権の代わりに土地使用権が認められてい るわけである。この土地使用権は、当初は、譲渡 が許されないものであったが、1988年に憲法を 改正し、譲渡が認められるようになっている。そ の後に導入された市場経済の急速な発展にしたが って、この土地使用権は物権化傾向を強めていて、 2007年3月に成立した物権法でも用益物権として の取り扱いになっている。このような経緯からみ ると、土地所有権についても公有制を離れ、実質 的に私有制に向かって動きつつあるものと思われ る。 ところで、土地使用権には、国家から国有企業 等に無償で割り当てられるものと、有償にて払い 下げられるものとがある。外国企業が取得できる のは、有償払い下げの土地使用権のほうであるが、 これは都市不動産管理法と「都市部の国有土地使 用権払い下げと譲渡に関する暫定条例」(以下、払 下げ条例という)に基づき、払い下げ金を国家に 納めることにより、国家が所有権を持つ土地を一 定期間使用できる権利で、日本法でいえば定期借 地権に当たるような性格を持ったものである。し たがって、一定の期限があることに注意すべきで ある。払い下げ条例によると、最高年限が、工業 用地で50年、商業用地で40年と法定されている (払い下げ条例12条)。土地使用権は、企業会計上、 無形資産とされ毎年均等償却され期限経過後は価 額がゼロとなるものである。したがって、期限経 過により、再度払い下げ手続きが必要になり、払 い下げ金を再び納付しなければならないこととな る。もし再度の払い下げが認められなければ、そ の土地の上にある建築物等を含め土地使用権は無 償にて国家に回収されることになるので、注意が 必要である(払い下げ条例40条)。 4)中国会社法の特異性については、末永敏和「中 国会社法の特色とその特異性」法律時報(第73巻 10号)を参照されたい。 5)二重の所有制については、岩井克人「会社はこ れからどうなるのか」平凡社(2003年)を参照さ れたい。 6)会社登記管理条例は、中国の法制上、行政法規 にあたる。中国の国法体系は、憲法を頂点に法 律・行政法規(内閣にあたる国務院が制定する。 その意味では、一応、政令といえるが、政令より も強い効力を有する)・地方性法規(憲法・法 律・行政法規に抵触しない範囲で、原則として、 省級の人民代表大会・同常務委員会が制定し、形 式 的 に は 一 応 、 我 が 国 の 条 例 に あ た る と い え る)・規章(国務院部門規章と地方政府規章があ るが、国務院部門規章は我が国の省令にあたり地 方政府規章は我が国の地方自治法が認める「長が 制定する規則」にあたると一応いえる。ただし、 中国では地方政府の「長」等は、事実上、中央政 府が決定・派遣しており官治行政の色彩が濃厚で 本来の意味での地方自治ではない。)の順に法の段 階を構成している。即ち、現在においても中国伝 統の律令格式の法体系を踏んでいるようにも思え る。律→法律、令→行政法規、式→規章、にあた るとも考えられるわけである。 7)営業の許可は、日本では、衛生・風俗・防犯な どに影響があるとして(警察障害)、法令により禁 止された営業について、その禁止を解除する行政 行為をいうが、中国では(警察障害がなくても) 営業は一般的に禁止されており、営業を行うには 工商行政管理局(国家レベルから各地方レベルま である)の許可を必要とする。 8)国有企業は、従来、工場部門とともに病院・学

(10)

校・福利厚生施設などを含む大きな組織であった が、90年代に始まった株式会社化にあたっては、 その中の優良部門だけを切り離して株式会社とし た経緯がある。すなわち、上場会社の背後には非 効率な国有企業が存在するわけで、上場会社が資 金調達の隠れ蓑となっていることがあり、資本市 場で調達した資金を支配株主が流用するというケ ースが生じることになる。 9)国務院部門規章は我国の省令にあたると一応い える。なお、法の段階について、6)を参照された い。 10)中国の法制度に特有の「実効性が伴うかという 問題」は根深い問題であり、①共産党の一元的指 導、②中央と地方の関係、③徳治(人治)と法治 の関係、④人々の遵法精神の問題、から複合的に もたらされると考えられる。 ①共産党の一元的指導 中国は国全体として党の一元的指導の下に置かれ、 党が実質的に政治方針を決定し、国務院を使って 直接に(国民の代表としての建前にある全人代の 関与を許すことなく)政策を執行することになる。 したがって、党の政策は、国務院が制定する行政 法規やその下の各省庁が制定する規章(注6、注 9参照)によって実施される場合が多いというこ とになる。これらは「立法法」、「行政法規制定手 続条例」、「規章制定手続条例」等によって制定手 続きが定められているが、必ずしも厳格な手続き が求められているものではなく、法律に比べると 簡単に制定・改廃され得るものである。もとより、 これらは「立法法」により「法律上位の原則」が 定められ、法律に抵触できないことになっている が、中国の法律は大枠を定めるだけで、その内容 は行政法規や規章で定められることが多く、さら に、これらの行政法規や規章の中には上位の法律 に修正を加えていると考えられるものもあり、法 的安定性を脅かすものとなっている。(このことが、 外資系企業に「中国の法制は朝令暮改だ」と嘆か せる原因になっている。) ②中央と地方の関係。 中国は広く、各地方は歴史的にも独自性を持って 発達してきたので、自立性が強く、各王朝も多く は地方の自立性を尊重し緩やかな統治を行ってき た経緯がある。さらに、現在の共産党政権の下で は、地方政府は地方行政機関であるだけではなく、 地方の党であり、地方経済単位(国有企業は中央 政府に属するものと地方政府に属するものとに分 かれる)でもあり、中央との関係は複雑になって いる(毛里和子「現代中国政治」名古屋大学出版 会、127頁)。したがって、中央の政策・指示に対 して、地方の利益を優先させる傾向も認められる ことになり、中央の法律や行政法規が、地方の行 政にあたり軽視されたり、地方性法規により実質 的に修正されたりする場合がある。 ③徳治(人治)の問題。 中国では儒教的素養を修め科挙(試験科目の多く は儒教の教典に関係する)に合格した官僚により、 長く統治されてきたので、支配者層の間には、法 治よりも徳治を重視する傾向がある。この考えに よると、法治であれば法の目の届かない所では 人々は違法行為を行うが、徳治を行えば人々は草 木が風になびくが如く従う、というのである。し かしながら、為政者が必ずしも徳を備えていると は限らず、また権力を集中した下での徳治は容易 に人治に変わりやすいことは、中国の歴史が証明 しているが、同じことが現在にも起こっている。 むしろ、共産党の政治体制が各分野において権力 を集中させるシステム(民主集中制)をとってい

(11)

るので、更に人治に陥りやすい構造になっている といえる。(共産党単独政権を維持するためには、 国家権力を集中させ、そこを党が押さえるという 民主集中制のシステムをとらざるをえず、「権力は 腐敗する」原理に従って、党は腐敗の度を深めて きている。党内では腐敗防止のため厳罰を伴う強 力な対策が講じられているが、政治システムが権 力を集中させるという腐敗を避けがたい構造にな っているので、解決は困難であると言わざるを得 ない。) ④人々の遵法精神の問題。 中国法(律令格式)は王朝の統治のための道具と して、一般予防の考えに基づく厳しい刑罰を伴っ て発達してきた。しかし、支配階級の間には自ら 定めた法でありながらこれを軽視し必ずしも遵守 しないという傾向もあった。その結果、統治され る人々の間には、できれば法の適用を逃れたいと する意識が育まれていくことになり、「法は守るも の」ではなく「何とか逃げるもの」という存在に なってしまった。現在の共産党の統治も、法の上 に位置し法を道具として統治するという歴代王朝 の姿勢と基本的に変わらないので、人々の間には 相変わらず法の適用を回避しようとする意識は根 強く、遵法精神に乏しい状況を作り出している。 以上の四つの原因が複合的に絡み合い、俗に「上 に政策があれば、下に対策がある」と言われるよう な法社会を作り出しており、中国の法制度は実効性 に疑問符を付けざるを得ない状況にある。 Abstract In China,

socialism public ownership has collapsed by development of the market economy. This affected company law to regulate a company which is the owner of capital goods. Big change seems to come out on legislation in the future. China shifts from socialism market economy to liberalism market economy.

Keywords :socialism market economy, socialism public ownership, company law, securities law, corporate governance, development of the capital market, Release to the market of the national stock

参照

関連したドキュメント

The market was usually the center for gathering, sharing information among the community, and conducting local traditions (such as bargaining) in the local language. Visiting

The aim of this paper is to present modified neural network algorithms to predict whether it is best to buy, hold, or sell shares trading signals of stock market indices.. Most

In the complete model, there are locally stable steady states, coexisting regular or irregular motions either above or below Y 1 100, and complex dynamics fluctuating across bull

In the present paper, the methods of independent component analysis ICA and principal component analysis PCA are integrated into BP neural network for forecasting financial time

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

modular proof of soundness using U-simulations.. & RIMS, Kyoto U.). Equivalence

While conducting an experiment regarding fetal move- ments as a result of Pulsed Wave Doppler (PWD) ultrasound, [8] we encountered the severe artifacts in the acquired image2.

Based on two-sided heat kernel estimates for a class of symmetric jump processes on metric measure spaces, the laws of the iterated logarithm (LILs) for sample paths, local times