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オーバーナイト金利と需要供給 : 自然利子率説批判・高橋勉氏への反批判

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オーバーナイト金利と需要供給

―自然利子率説批判・高橋勉氏への反批判―

前 畑 雪 彦

目   次 はじめに 第 1 節 高橋勉氏の拙論に対する批判 第 2 節 拙論に対する反批判  第 1 論点 支払準備需要は金利弾力的である       ―貨幣需要曲線は右下がりである―について  第 2 論点 支払準備供給は金利弾力的である       ―貨幣供給曲線は右上がりである―について  第 3 論点 需要の弾力性と供給の弾力性との関係について   第 4 論点 需要曲線のシフトと供給の金利弾力性について  第 5 論点 金利弾力性の変化、貨幣恐慌発生時の問題について   第 6 論点 中央銀行の役割  第 7 論点 先生の積極説について

はじめに

 私は先に「オーバーナイト金利の成立メカニズム―白川方明理論批判―」(『桜美林エコノミッ クス』第 3 号(通算 59 号)2012 年 3 月)を発表した。これに対して何人かの研究者から丁寧な 感想や批判をいただいた。その中に岐阜経済大学の高橋勉氏のものがある。氏の網羅的で詳細な 批判は自然利子率の観念に立脚するものとして、私の見解に対する最も一般的かつ典型的なもの と思われた。そこでこれに対する反批判を展開することは、各国中央銀行が現実に行っているオー バーナイト金利のコントロールの仕組み―例えば、それを 0.25%刻みで上げたり下げたりあるいは 一定に維持したりするメカニズム―を把握するために、言い換えれば不換制下の中央銀行制度の 認識にとって決定的に重要であるにもかかわらず、従来マルクス経済学の側で取り上げられてこ なかったこの問題注 1)を解明するために、そして私の見解を一層明確にするために必要と思われた。 そこで私の反批判を述べるに当たって氏の手紙の公表を問い合わせたところ、快諾してくださった ―これに対して氏に感謝する―ので、本稿で拙論批判に対する私の見解を氏の論点に即して忌憚 なく展開することとした。そしてこれによって自然利子率説批判を行うこととした。

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第 1 節 高橋勉氏の拙論に対する批判

 氏は次のように拙論を批判する。   前畑雪彦先生  岐阜経済大学の高橋です。先生の御論文を拝読させて頂きました。大変勉強になりました。あ りがとうございます。以下の点につきまして、お返事をさせていただきます。  今後ともご指導頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。 1)需要は金利弾力的かということについて  資金の「取り手」銀行であったとしても、支払い準備以外の金融資産を持っていて、何らかの 大きさの金利で運用しているはずです。コール市場の金利が他の資産の利回りよりも低い場合、 他の資産を売却して支払いに充てるより、コール市場で借りた方が利益が大きくなります。このと き、コール市場の金利が上昇し、一部の金融資産の利回りより高くなれば、コール市場で資金を 借りるより、その金融資産を売却して得た資金で支払いをした方が利益が大きくなります(損失が 小さくなります)。よって、借入の需要は減少します。逆の場合には、逆のことが発生するでしょう。 したがいまして、需要は金利弾力的であり、需要曲線は右下がりであると思われます。 2)供給は金利弾力的かということについて  上の(1)と同様に考えます。資金の「出し手」銀行は、支払い準備以外の金融資産を持っていて、 何らかの大きさの金利で運用しています。コール市場の金利が他の資産の利回りよりも低い場合、 他の資産を売却してコール市場において資金の「出し手」となるメリットはありません。このとき、 コール市場の金利が上昇し、一部の金融資産の利回りより高くなれば、その金融資産を売却し、コー ル市場で資金の「出し手」となった方が利益が大きくなります。よって、資金の供給は増加します。 逆の場合には、逆のことが発生します。したがいまして、供給は金利弾力的であり、供給曲線は 右上がりになると思われます。 3)需要の弾力性と供給の弾力性との関係について  需要曲線が右下がりということは、ある所与の状況において、つまり、ある需要曲線が与えられ たとして、金利の変化と需要量が逆方向に変化する、ということです。これは、需要の金利弾力 性がゼロではないということですが、そのことと供給の弾力性とは無関係です。定義式を書きます と(通常は、その絶対値です)、   需要の金利弾力性=需要の変化率/金利の変化率 この定義式からも、供給は全く無関係であることは明らかです。したがいまして、「需要の金利弾

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力性を支える準備供給サイドの金利弾力性」というわけではないと思われます。 4)需要曲線のシフトと供給の金利弾力性との関係について  「取り手」が調達金利を引き上げるということは、需要曲線が右にシフトするということです。 供給の金利弾力性が関係するのは、こちらの場合です。供給が金利弾力的でなければ供給額は増 加しません。以下の図でお示しした通りです。      ①供給が非弾力的な場合      ②供給が弾力的な場合 5)金利弾力性の変化について  資金の「出し手」や「取り手」は市場全体の需給のバランスについて完全に理解しているわけ ではありません。金利がシグナルです。もし、「取り手」が調達金利を、通常通りではなく、急激 に引き上げるようなことをすれば、「出し手」としては、おや?と思うでしょう。返済されないリス クが高いと判断するのは当然です。供給を増やそうとはしないでしょう。すなわち、金利の供給弾 力性は小さくなっているということです。また、多くの銀行が急激に調達金利の引き上げを行って いるということは、他の資産の売却による資金調達では間に合わない状況にあるということです。 コール市場で資金を調達するしかなく、高い金利であってもコール市場で借入を行います。すな わち、金利の需要弾力性は小さくなっているということです。供給曲線と需要曲線は垂直に近い形 になり、金利は高騰すると思われます。  ただし、このような状況は、通常の需給不均衡の調整過程で発生するのではなく、恐慌発生時 等の特別な場合であると考えられます。(1)や(2)で書きましたように、通常は、供給も需要も 金利弾力性があると思われるからです。 金利 金利 S:増加 S:一定 S S D D D’ D’

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6)中央銀行の役割  上で書きましたように、通常の需給不均衡であれば、通常は、供給も需要も金利弾力的である ため、例えば、超過需要が発生したとしても、「金利は無限大の方向・・・まで上昇する」、「金利 は青天井で上がり続ける」ことはないと思われます。しかし、恐慌時において、供給も需要も金利 弾力性が小さくなると、金利は急激に上昇し、また、その過程での資産売却のため、資産価格も 急落します。これは恐慌を悪化させる要因となります。資本主義の自立的な回復能力を前提にす れば、実体経済の回復に伴って、金融市場においても、いずれ資金需要も落ち着き、金利弾力性 も回復し、金利も低下し始めることになります。しかし、それに任せていたのでは、社会への影響 が大きすぎます。  そこで、中央銀行は資金供給を行います。例えば、買いオペを行うことによって供給曲線は右 にシフトします。あるいは、十分に低い特定の金利で無制限に貸し付けることを約束すれば、その 水準において、供給曲線は水平になります。

金利

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7)先生の積極説について  後積準備預金制度がある場合、政策金利がまず決定され、それを基準にして、需要は金利弾力 的になる、という御意見だと理解いたしました。政策金利がまず決定されるということについて、 私見を述べさせて頂きます。  先生は、45 ページで、政策金利よりコールレートが高くなる場合と低くなる場合について、書 かれています。しかし、前者については、中央銀行が政策金利で無制限に貸付を行うと宣言して いるのですから、政策金利よりコールレートが高くなることはあり得ないと思われます。この場合、 政策金利はコールレートの上限です。よって、後者の場合が問題になると思われます。  政策金利より低いコールレートが成立しているということは、「出し手」側を見ると、中央銀行 以外に、そのような金利で資金を供給している「出し手」がいるということです。また、「取り手」 側を見ると、そのような「出し手」の供給で十分に足りるだけの需要しかない、ということです。 ここでは、中央銀行に関係なく、つまり、政策金利に関係なく、民間の銀行間でコールレートが決 定されています。中央銀行は金融市場をコントロールしているわけではありません。資金の需要と 供給が金利弾力的であるからこそ、コールレートが決定されると思われます。  このとき、中央銀行が無制限貸し出しを約束した政策金利を現在のコールレートより引き下げた とします。政策金利の方が低いのですから、この政策金利での資金需要は増加しますが、政策金 利で無制限の貸付を受けることができるのですから、金利は上昇しません。つまり、コールレート は政策金利に等しくなります。

金利

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コールレート 資金需要 金利 政策金利 政策金利=コールレート S D  したがいまして、先生の御意見にありますように、先に政策金利が決まって、それがコールレー ト変動の基準になるというのは、政策金利が銀行間で決定されるコールレートより低く設定される 場合に限られると思われます。このことを言い換えますと、銀行間で決定されるコールレートを自 然利子率と呼ぶとすれば(そのように呼ぶ必要はありませんが)、政策金利が自然利子率を下回っ た場合に限り、コールレートは政策金利によって決定される、ということになると思われます。  中央銀行が、コールレートを自然利子率より高く引き上げたい場合、この政策では無理です。そ のためには、売りオペを実施する必要があると思われます。売りオペによって、供給曲線が左にシ フトします。すると、供給曲線と需要曲線の交点が左上に上昇し、コールレートが上昇することに なります。図は省略させて頂きます。        2012.5.11 高橋 勉

第 2 節 拙論に対する反批判

 第 1 論点 支払準備需要は金利弾力的である―貨幣需要曲線は右下がりである―について  支払準備調達・運用の最終的調節市場としてのコール市場のオーバーナイト金利の変動につい て、中央銀行当座預金増減要因のうち、国内市場の内在的要因のみを考察する目的から政府の財 政要因を捨象して考えてみよう。この場合それは銀行券要因のみとなる。銀行券流通量が絶対的 に増大し、この結果、全ての日銀当座預金がその必要量に対して絶対的に減少したとしよう。言 い換えれば全ての市中銀行の支払準備が必要量に対して過小になったとしよう。この要因による 必要量充足のための準備需要は、発券力を持つ中央銀行の準備供給以外には満たせない。発券銀

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行以外の誰がいま求められている日銀券あるいはその即時要求払い約束としての日銀当座預金を 供給できるのか?金融資産を売る場合、日銀以外にだれが買うのか?日銀券流通量が絶対的に増 加したことによりコール市場における過剰準備の所有者は誰もいないのだ。つまり準備の調達者は いるのにその運用者はいないのだ。だからこの場合オーバーナイト金利は、その上昇要因である 準備需要自らを滅ぼす返済不可能な高金利が出現するまで青天井で上がり続ける。すなわち支払 準備需要は金利非弾力的だ。それは右下がりではない。  市中銀行の資産の部における支払準備(日銀預け金、これが日銀のバランスシートでは負債の 部の日銀当座預金である)の独自性についての無理解。要求払い預金を前提して考えてみよう。 資産の部の支払い準備は、利子生み資本として運用すべき性格を持つが同時に即時要求払い預金 債務に対する支払準備として、本質的に無利子で所有(非運用)していなければならない貨幣資 本である。それは自己を否定された貸付可能貨幣資本である。この矛盾から市中銀行はこれを準 備機能上の必要最小限にする。そしてこれに不足する部分は、コール市場からの調達によって埋 め合わせなければならないが、他方これを超える過剰部分は利子を生ませるべくこの市場で運用 すべき貨幣資本となる。コール市場におけるオーバーナイト金利は、この必要最小部分に対する 不足銀行と過剰銀行との間で最終的な準備調達と運用との需給関係で成立する市場金利である。 資産においてその機能上の最小限として存在する支払準備貨幣資本は、金利ゼロを甘受する資本 として、非運用の資本として、プラス金利を生みだしている他の資産項目の運用されている貨幣資 本とは質的に区別される。この点を無視しては、資産における支払準備の独自性とこれに対する 需要と供給の独自性は理解できない。高橋氏はこの点を理解できないので、支払い準備と他の金 融資産との間の金利差に基づく資産選択を持ち出すのだ。すなわちオーバーナイト金利が上昇し、 他の運用資産利回りを上回れば、今や相対的に低下した利回りの金融資産を売って回収した貨幣 資本で預金からの現金流失に対応でき、これによってオーバーナイトに対する貨幣資本需要は減 少する。すなわち準備需要曲線は右下がりと考える。しかしこのような選択は成立しない。なぜか? 既に説明したようにこの場合、コール市場には過剰準備の所有者はいないからである。ここには日 銀を除いては金融資産の買い手はいない。またこのような理解ではオーバーナイト金利がイールド カーブの起点となることの意味が理解できないであろう。すなわちこの場合には、準備調達のため に余儀なくより長めの資金調達を迫られ、第 2 線第 3 線準備の意義を持つ運用している金融資産 のドミノ倒し的な売却が強制され、起点のオーバーナイト金利の上昇と同時により長い期間の金利 も上昇し、イールドカーブ全体が上方へシフトし続けると考えられる。つまり放っておけば短期金 融市場は崩壊するとみられる。  不換制の中央銀行だけが市中銀行のこの矛盾した性格を持つ支払準備貨幣資本を持つ必要がな い。それはこれを根拠に、すなわちその無制限発券力によって、この市場の限界的現金準備供給 者ならびに需要者として自由に振舞い、これによってオーバーナイト金利をコントロールする注 2)

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 第 2 論点 支払準備供給は金利弾力的である―貨幣供給曲線は右上がりである―について  いま、上記の理由によりオーバーナイト金利が上昇したとしよう。すなわち銀行券流通量が絶対 的に増加しその結果、支払い準備が絶対的に減少し、これによりインターバンク市場に於ける準 備需要量がその供給量を上回る事態が生じたとしよう。高橋氏の主張では、銀行券流通量が、金 利に弾力的に反応し、金利上昇により、銀行券が商品の流通過程から引き上げられインターバン ク市場に供給されることになるはずである。この結果、準備供給が増加し、この市場の需給が均 衡する。これこそ正統派経済学のミスリーディングだ。銀行券流通量は貨幣流通法則によって規 定され、注 3)利子率によっては規定されない。彼らはベースマネー(日銀当座預金+銀行券流通量 +硬貨流通量)は利子率操作によってコントロールできる―利子率(オーバーナイト金利)はマネ タリーベースに対する需要と供給で決まる―とするが、すなわちベースマネーの供給者である日銀 の操作によってそれをコントロールできるとするが、これを端的に言えば、利子率が銀行券流通量 を規定することに他ならない。そしてこの根底にある考え方は、貨幣はすべて流通手段つまり通 貨であり、通貨量は利子率によって規定されるである。従って彼らは、日銀は利子率の上下操作 あるいは日銀当座預金量の増減操作によって通貨量の増減をコントロールできると主張するのであ る。  白川方明氏はこの誤った考え方を「仮定」として受け入れたうえで、しかし日本全国各地から 東京インターバンク市場への航空便・鉄道・トラック等による銀行券の搬送には時間とコストがか かるので、約定後 1 時間以内に今日貸して明日の遅くも午前 10 時までに返す慣行注 4)のオーバー ナイト取引金利の上昇をこの市場に銀行券を搬入することによって抑えることは不可能であるとし て、マクロ経済学と近代経済学の金融論を批判している。  「中央銀行当座預金に対する需要が供給を上回れば金利は上昇するが、金利が上昇すると、現金 が銀行部門に還流し、銀行は中央銀行に現金を持ち込むことによって、中央銀行当座預金が増加 する。そうした銀行券の還流メカニズムが瞬時に作用することを仮定すると、オーバーナイト金利 はマネタリーベースに対する需要と供給のバランスで金利が決定されると定式化しても構わない。 しかし現金の搬送には大きなコストがかかり、そうしたメカニズムは瞬時には作用しない。マクロ 経済学や金融論の教科書を見ると、しばしば、金融政策をマネタリーベースの調整という形で定 式化しているが、そうした定式化は適切ではない。オーバーナイト金利という、言わば「待ったな し」の資金の金利の決定メカニズムを描写するうえでは、マネタリーベースではなく、中央銀行当 座預金に対する需要と供給のバランスで金利が決定されると定式化することが適切である」(白川 方明前掲書 136-7 ページ)。  高橋氏は、オーバーナイト金利が上昇し、他の金融資産利回りより高くなれば相対的に低くなっ た利回りのこの金融資産を売って資本を回収しこれをコール市場に供給する結果、金利上昇は抑 えられるという。金利上昇により準備供給が増加するのであり、準備供給曲線は右上がりという。 ではこの金融資産の買い手が握る現金はどこから来るか?それは日銀を除けば商品の流通過程か ら引き上げられてくる以外にはない。その場合、白川氏の批判にはどう答えるのか?またこの考え

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方のそもそもの誤りは上に述べたとおりである。  以上ここまでのところでコール市場における支払準備需要量ならびにその供給量は金利非弾力 的なことを説明した注 5)。言い換えれば右下がり貨幣需要曲線と右上がり貨幣供給曲線の交点をな す需給均衡自然利子率はこの貨幣市場に存在しないことを説明した。ここではオーバーナイト金 利は、いずれも垂直方向に、青天井で上昇し、またゼロに向かって下降するのである。このことを この市場の実務経験者は十分知っているのであって、それは次のとおりである。「もし、こうした 資金過不足に対して、日銀が金融調節をいっさい行わずに完全に放置すると何が起きるだろうか。 税揚げ日などの資金不足日には日銀当座預金は大きく減少し、資金ショートを起こす金融機関が 現れ、オーバーナイト金利は無限大に上昇するだろう。一方、日銀券大幅還流等の資金余剰日には、 逆に日銀当座預金は大きく増加しオーバーナイト金利はゼロパーセントに急落するだろう。つまり 日銀の金融調節が存在しなければ短期金利はジェットコースターのように乱高下することになる。 なぜなら民間金融機関が如何に努力しても日銀当座預金全体の資金過不足をならすことはできず、 それができる唯一の存在は日銀に限られるからである。/ 一般的に、日銀の金融調節(いわゆる市 場操作=オペレーション)は金利誘導や量的緩和政策など金融政策ツールとして捉えられている 面が強い。しかし、それ以前に、日銀の金融調節が行われなければ、そもそも短期金融市場は不 安定化し成立しえないという重要な側面が存在する。資金過不足を放置することは、単に金利水 準に不要な動揺を与えるだけでなく、日々の円滑な資金決済にも重大な支障を及ぼし金融システ ム全体を不安定化させてしまう。この点が、株式・債券・外国為替市場等に対する短期金融市場 の根本的な特異性といえよう。」(東短リサーチ編『新・東京マネー・マーケット 2002 年 8 月、44 ペー ジ)。  第 3 論点 需要の弾力性と供給の弾力性との関係について  第 4 論点 需要曲線のシフトと供給の金利弾力性との関係について  ここでは両方の論点を一括して扱うことが適切と考えまとめて批判する。  上記の弾力性の関係を問題にする前に、その前提として、貨幣資本に対する需要と供給の関係 性について考える必要がある。高橋氏は需要の金利弾力性の定義式(需要の金利弾力性=需要の 変化率 / 金利の変化率)なるものから貨幣資本の需要はその供給とは全く無関係であり、私の「需 要の金利弾力性を支える準備供給サイドの金利弾力性」を否定する。  金利以外の他の条件を所与として、例えば住宅ローン金利が 1 パーセント上昇した時、このロー ンに対する需要がどの程度減少するか、あるいは 1 パーセント下落した時どの程度増加するか、 同様に金利の上下動が、利潤率あるいは投資機会を前提した時に、どの程度投資(資本の前貸し) を抑制するか加速するかを考えることはもちろん重要である注 6)。まさに金融政策は再生産過程の 資本と所得の流通状態また両者の関係をにらんで行われる―これらの場合、貨幣市場に対する住 宅ローン需要ならびに資本前貸しに対する需要は金利弾力的である。すなわち貨幣需要曲線は右 下がりである。しかしこのような前向きの購買手段ないしは観念的購買手段注 7)需要と先に述べた

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債務支払いのための後ろ向きの支払手段需要とは本質的に区別されねばならない。恐慌時は後者 の需要により倒産で清算するまで金利は青天井で上がる注 8)。すなわち需要曲線は垂直的である。 この区別ができないことが貨幣資本需要をすべて金利弾力的であり右下がりとする誤謬の一般的 源となる―。しかしこの事例は、貨幣資本の需要サイドとその供給サイドの両側に、金利 1 パー セントの上下動がどのように同時的に作用するかを考えることを不要とすることにはならない。否 それどころか、この点を考えることこそが後積準備予金制度の下でのインターバンク市場を問題と する場合には肝要なのである。私が言いたかったのはこの点である。  後積準備預金制度の下で、いま中央銀行の金融政策が「オーバーナイト金利を 0.5 パーセント前 後で推移するよう促す」とした場合、日々のオーバーナイト金利は、インターバンク市場の日々の 需給関係に規定されて、この近辺で上下動する。例えば 0.5 パーセント+アルファーの金利が成立 すれば、貨幣資本の需要者は、積期間中におけるやや高めの金利と判断し、需要量を減らしにか かり、反対にその供給者は積期間中のチャンスとみて供給量を増やしにかかるであろう。この両面 的作用により、金利は 5 パーセントに向かって下落し始めるであろう。逆に 0.5 パーセント-アル ファーの金利が成立すれば、需要者は積期間中のチャンスとみて需要量を増やしにかかり、反対 に供給者は積期間中のやや低めの金利とみて供給量を減らしにかかるであろう。この両面からの 作用により、金利は 5 パーセントに向かって上昇し始めるであろう。こうして後積準備預金制度の 下では中央銀行のオペレーションなしに、オーバーナイト金利は 0.5 パセントの目標金利にそれを 上下動しつつ安定的に収束する。一個同一の貨幣資本に対する需要と供給の関係性を否定する高 橋氏の考えでは、需給両面から相互に対して逆向きに同時に作動する是正作用による、後積準備 預金制度下の金利の平準化機能を説明できないであろう。  第 5 論点 金利弾力性の変化について、貨幣恐慌発生時の問題  恐慌論研究者である高橋氏は支払手段に含まれる無媒介的矛盾の爆発である貨幣恐慌の可能性 の形態をどう理解しているのか?これについての自分の考えを説明することなく、単に「恐慌発生 時等の特別の場合」というのでは議論にならない。やや詳しく言えば、貨幣恐慌は資本主義の「通 常」状態に備わっている貨幣恐慌の可能性の現実性への内生的転化であり、「特別の場合」として、 近代経済学が把握する偶然的外生的ショックを原因としてのみ生起するわけではないからである。 これについては拙稿「マルクス計算貨幣概念と「ペイメントシステム」の電子化―支払手段に含 まれる無媒介的矛盾の不換制下の独自形態―」(『経済』2007 年 12 月号、No.147)、同「政策金利 の成立メカニズムと今回の世界恐慌の変容形態―不換制下の貨幣恐慌の起動と防御の力学的構造 と過剰生産恐慌―」(『桜美林エコノミックス』創刊号、2010 年 3 月)を批判されたい。    第 6 論点 中央銀行の役割  これについても第 5 の問題についての、すなわち観念的計算貨幣の現金への急変についての理 解と、これに基づく兌換制の中央銀行と不兌換制のそれとの質的違いについての高橋氏の考えが

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説明されなければ議論にならない。すなわち「資本主義の自立的回復能力を前提すれば、実体経 済の回復に伴って、金融市場においても、いずれ資金需要も落ち着き、金利弾力性も回復し、金 利も低下し始めることになります。しかしそれに任せていたのでは、社会への影響が大きすぎます」 とぼんやりしたことを言っても、あるいは兌換・不換の質的区別を規定することなく、これと無関 係に「無制限に貸し付けることを約束すれば」といったところで意味がない。兌換制では中央銀 行は「社会への影響が大きすぎても」「無制限に貸し付けることを約束」することはできない。だ からここでは社会を震憾する急性的な価値破壊が繰り返し起きた。ここでの論点に即して言えば 兌換制下の 19 世紀中葉の貨幣恐慌を伴う古典的な過剰生産恐慌と今回のリーマンショックを頂点 とする金融経済危機とを比べれば、後者では不換制の各国中央銀行の共同的な無制限「流動性供 給」宣言によって貨幣恐慌を伴う急性的価値破壊が阻止された―貨幣資本のプレトラが維持され 更に人工的に嵩上された、利子率の動きで見ればその急騰が阻止され更に人工的に低く維持され ている―点で前者とは質的に異なるのであって、これについても小生の見解は上記であるので批 判されたい。  第 7 論点 先生の積極説について  「政策金利よりコールレートが高くなることはあり得ない」という理解について。  ここに高橋氏が自然利子率の「衒学または妄想」注 9)に拘束されることにより、現実を観察しそ れの分析から理論を組み立てていないことがよく現われている。前に記したように金融市場調節 方針は「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5 パーセント前後で推移するよう促す」(2007 年 12 月 19 日・20 日)あるいは「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0 ~ 0.1 パーセン ト程度で推移するよう促す。」(2012 年 5 月 22・23 日)として発表される。つまり「前後」「程度」 としてある幅を持っているのであって、インターバンク市場参加者は各自この幅を推測して行動す る。従って 2007 年 12 月の方針以後では、これが維持される限り、オーバーナイト金利は 0.5 パー セントを基準に上下変動するのである。また後済み準備預金制度の下で、すでに述べたように金 利平準化機能が作動するのである。  そして日々に与えられる利子率は、それが基準より高くても低くても中央銀行が政策金利で準備 供給するという前提でのみ成立しているのであり、高橋氏が誤解しているように―氏は低い場合 を想定しているのだが―「中央銀行に関係なく」自然利子率として成立しているのでは全然ない。 中央銀行の行動(オペレーション)無しにではあるが、政策金利に基づく中央銀行の準備供給と の関係でのみ成立しているのだ。注 10)  「中央銀行が、コールレートを自然利子率より高く引き上げたい場合、この政策では無理です。 そのためには、売りオペを実施する必要があります。売りオペによって、供給曲線が左にシフトし ます。すると供給曲線と需要曲線の交点が左上に上昇し、コールレートが上昇することになります」 について。  「この政策では無理」というのが何を意味するか不明である。金融政策は基本的に公開市場操作

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で行うので、政策金利を上げたり下げたりまたそれを維持するためにはいずれの場合も買いオペと 売りオペの両方が常に必要である。ここでは次の点を指摘しておきたい。自然利子率云々を度外 視すると、政策金利(コールレート)を上げる場合、準備吸収を意味する売りオペで行うと言って いるのであるが、では、売りオペによる準備吸収をすればすなわち金利上昇であり金融引き締め であると言えるかについて、指摘しておきたい。  日銀券還流量が発行量より大である場合、所要準備量を超える準備量増大が生じる。この結果、 オーバーナイト金利はゼロに向かって垂直に下がり始める。この時、所与の低い政策金利を維持 し金融緩和を継続しようとすれば、この過剰分を吸収するための売りオペが必要となる。この場合 の売りオペは金利上昇をもたらさない。この売りオペは金融引き締めではない―従って翁・岩田論 争で問題となった 1992 年第 1 四半期の「日銀信用」の回収は岩田規久男氏が誤解したように決し て金融引き締めではなく、これを批判した翁氏が正しい注 11)―。このような関係を日銀券流通量の 増減を視野に入れていない高橋氏は、岩田氏と同様に理解していないように思われる。  商品の流通過程における日銀券流通量の増減とインターバンク市場におけるオーバーナイト金 利の上下動との関係性について、前者が独立変数であり、後者が従属変数である。正統派経済学 はこれを真逆に把握する。日銀は、日々の金融調節において、日銀券流通量の増減を「外生要因」 (『日本銀行の機能と業務』有斐閣、2011 年 3 月、107 ページ)と把握することによって、この関係 を事実に基づいて正しく理解している。ここに貨幣数量説の幻想と自然利子率の妄想とに立つ正 統派経済学に対する日銀派(同時に世界の中央銀行派)の優位性がある。そしてこの関係性を前 提してのみ―市場の内在的関係だけを問題とする場合―、不換制の中央銀行は、その独自性格に 立脚して、オーバーナイト金利をコントロールできる。そしてこれによって初めて金融政策を実施 できるのである。  空中に浮かんでいるヘリコプターは一方で万有引力の法則により地球の中心へ絶えず垂直に落 下している。操縦士は、これに対して、プロペラの回転が生み出す揚力をコントロールして、任意 の高度にヘリコプターを上昇・下降させ、また任意の高度でそれを停止できる。この場合、引力 の法則がなければヘリコプターは操縦できない。無制限発券力と完全な公的性格を持つ日銀はヘ リコプターとその操縦士である。万有引力に相当するのは、ここでは、紙幣流通法則によって媒介 的に貫徹する貨幣流通法則である。そして後積準備預金制度は、これが作り出す金利平準化機能 によって、操縦をいっそうたやすくする仕組みである。もとよりプロペラを回転させず放置すれば 墜落する。短期金融市場は崩壊するであろう。またこの市場の支払準備配分機能は麻痺するであ ろう。 注 1) 近代経済学のフレームワークと実務の側でこの問題について最も興味深く学問的光彩を放つ研究は、私がこ れまで見た限りでは、その一部を取り上げて先に批判した白川方明『現代の金融政策 理論と実際』(日本経 済新聞出版社、2008 年 3 月)、翁邦雄『金融政策 中央銀行の視点と選択』(東洋経済新報社、1993 年 11 月)、

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そして実務担当者ならびにその経験者による東短リサーチ編『新・東京マネー・マーケット』「第 2 章 金融 政策と金融市場調節」(この部分の著者は秋山誠一、加藤出、加藤雄一の諸氏である)(有斐閣、2002 年 8 月) である。これらはいずれも、近代経済学的フレームワークに規定されながらも、学説史的には貨幣数量説の 幻想に立つ正統派経済学に対立する事実上の反数量説として不換制下の銀行学派と位置付けられよう。    なおこの問題はマネーサプライ論争に接続するが、これについては次の論文を指摘しておきたい。黒田晃 生「日本銀行の金融調節とハイパワードマネー」(『政経論叢』第 63 巻第 1 号、明治大学、1995 年)。そして これはインフレーションタ―ゲット論争、更に日・米・欧の間で自国国民経済(地域)の個別利益追求による、 相互促進的あるいは悪循環的に展開し強化されている現在の非伝統的金融政策の評価と世界市場における為 替切り下げ競争に帰結する合成の誤謬をどう考えるかの喫緊の問題へとつながる。    数量説の幻想については 注 3)の拙稿参照。 注 2) 兌換制では中央銀行は、全信用制度の軸点としての金準備を一方ではそれが貨幣資本としての性格を持つこ とからその機能上の最小限にするよう迫られると同時に、他方ではこの軸点性質によってこれを死守せねばな らない。これによって中央銀行はインターバンク市場で自由に振舞う事が出来ず、現在のようにそこでの金利 をコントロールできない。これについては前掲拙稿ならびに同「政策金利の成立メカニズムと今回の世界恐 慌の変容形態―不換制下の貨幣恐慌の起動と防御の力学的構造と過剰生産恐慌―」(『桜美林エコノミックス』 創刊号 2010 年 3 月)参照。    なお不換制では中央銀行の無制限発券力が全制度の恒常的軸点である。 注 3) 不換制において、すなわち専一的紙幣流通過程において、紙幣流通法則が貨幣流通法則の貫徹形態である。 言い換えれば貨幣流通法則は紙幣流通法則の媒介によって貫徹する。この媒介された貨幣流通法則によって 不換銀行券の流通は規定される。これについては拙稿「不換制の貨幣理論としての紙幣流通法則」(信用理 論研究学会『信用理論研究』第 23 号、2005 年 6 月)、「現代貨幣論―貨幣数量説・金廃貨論批判とインフレ・ デフレ論―」『経済』(2001 年 10 月号)参照。なおこの媒介プロセスはインフレーションの進行過程をなすが これについては次の拙稿参照。「インフレーションの進行過程―有効需要政策の意義と限界―」『立教経済学 研究』第 43 巻第 1 号、1989 年 7 月。 注 4) 東短リサーチ株式会社編『東京マネー・マーケット 第 7 版』(有斐閣選書、2011 年 7 月)77 ページ参照。 注 5) 翁邦雄氏は前掲注掲載の著書の「第 1 章 日本の短期金融市場と金融調節の実際」の説明を、冒頭、次のよ うな比喩から始めているが極めて適切である。「銀行券や日銀預け金は家計・企業が支払を完了させるうえで 欠くことができないものである。ところで水や食べ物といった必需品の需要はどの程度値段によって需要量 が変わる(価格弾力的)だろうか。/ アレクサンドル・デュマ作「モンテクリスト伯爵」結末近くに次のよう な場面がある。モンテクリスト伯爵の復讐の対象である銀行家ダングラ―ルは 505 万フランの手形を懐にし たままローマ郊外の山中で山賊に捕らわれの身となる。山賊はダングラ―ルに食べ物を与えようとせず、ダン グラ―ルが食べ物を売ってくれというと、立派な銀の皿に入れた料理を運んでくる。ダングラ―ルが 20 フラ ン金貨 1 枚を投げると 1 皿 10 万フランだと言って料理を引っ込めてしまう。ダングラ―ルは少しの時間頑張 るが、飢えには勝てず、懐に残る金が 5 万フランになるまで高価な料理を毎日注文して食べる。そして残り 5 万フランになった日から、残った全財産を握りしめて頑張ろうとする。こうして 3 日過ぎる。何も食べていな いのでダングラ―ルの目はもうろうとしはじめる。4 日目、彼はパンくずをひろって食べ、むしろまで食べ始 める・・・、/ モンテクリスト伯爵が活躍していた 1830 年代のフランスで 20 フランがどの程度の価値を持っ ていたかは筆者にわからない。しかし、仮に 2000 円ぐらいとすると、10 万フランは、1000 万円ということに なる。しかしダングラ―ルに 2 皿の料理を同時に供しても2 皿目には 10 フランも払おうとしないかもしれない。 このように必需品に対しては、値段が高くても安くても短期的に需要する量はあまり変わらない。価格非弾力 的な需要とはこのようなものである。金融機関は決済のための日銀預け金が不足すると、短期的には極めて 高い金利を払うことを辞さない。しかし、利子を生まない余分な日銀預け金は極力保有したくないと考えてい る。このため、一般に銀行準備が決済に不足をきたすような状況が発生すればオーバーナイトの短期金融市 場金利は急騰し、過剰な供給が放置されると急落する。中央銀行が短期金融市場に介入してマクロ的な資金 過不足を調整するための金融調節を行うのはこのためである。また、こうした金融調節によって天文学的な 金額の各種決済を日々円滑に遂行していく過程で金融調節も遂行されていく」(同上書、20-1 ページ)。 注 6) 資本の前貸しの独自の意義あるいはそれと流通手段の前貸しの区別については次の拙稿参照。「流通手段の前 貸しと資本の前貸し―久留間健氏の所説の意義と問題点の検討― 一」「同 二(完)」(『立教経済学研究』

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幣と銀行の理論』第 2 版、八千代出版、1995 年 3 月、第 2 編所収)。    なおここで次の点を指摘したい。本文で記したように資本の前貸しに対する貨幣需要は価格弾力的である が、流通手段の前貸しに対する貨幣需要は、正統派経済学の構想とは逆に、一定限界内で価格非弾力的と考 えられる。何故ならこれに対する需要は、社会的総資本の再生産の観点からは、商品対商品の交換過程に必 要な単なる流通手段に対する需要だからである。すなわち既に前貸しされた流動資本の完全回転を推進力と する社会的物質代謝は利子率の上下動から相対的に独立して進行すると考えられる。ただし、例えばピール 条例により恐慌時の利子率急騰が増幅され、これによって企業利潤が全て飲みこまれる事態になれば、流通 手段の前貸しに対する産業資本側からの需要も消滅し、商品対商品の実物バランスが存在するにもかかわら ず、「資本の流通手段」(『資本論』第 2 部、大月版、91 ページ)の不足が発生し、商品交換は行われず、再 生産過程の攪乱が生じる。だからこの条例が停止され、利子率が低下し企業利潤が復活すればその限りで流 通手段前貸しに対する再生産過程からの需要が蘇生し、交換の実現により恐慌は緩和される。マルクスの次 の文言はこの点を指していると考えられる。「それにしても、生産過程および流通過程の停滞を流通手段の不 足のせいにする世間一般の幻想からは、決して、その逆に、流通手段の現実の不足、たとえば政府の拙劣な「通 貨調節」策によるその不足が、それ自身また停滞を引き起こすことはあり得ない、ということにはならないの である」(『資本論』第 1 部、大月版、159 ページ)。 注 7) 『資本論』第 1 部、大月版、178 ページ参照。 注 8) 「近代産業がその中で運動する回転循環―平静状態、活気増大、繁栄、過剰生産、破局、停滞、平静状態 という循環・・・を考察してみれば、そこに見出されることは、利子の低い状態はたいてい繁栄または特別 利潤の時期に対応し、利子の上昇は繁栄とその転換との分かれ目に対応し、また極度の高利にもなる利子の 最高限は恐慌に対応するということであろう。・・・/ 利子率が極度の高さに達するのは恐慌中のことであっ て、その時には支払をするためにはどんなに高くかかっても借りなければならない」(同上、第 3 部、大月版、 450-1 ページ)。 注 9) 「一国で支配的な利子の平均率―絶えず変動する市場率とは区別されたものとしての―は、どんな法則によっ ても全然規定することのできないものである。この仕方では利子の自然的な率というものは存在しない。つま り、経済学者が自然的利潤率とか労賃の自然的な率とかいうような意味では、存在しない。・・・需要と供給 との一致・・・はここ [ 平均利子率の決定 ] では全然なにも意味してはいない。これ以外のことでこの定式に 逃げ場を求める場合には・・・この定式は、競争に左右されないでむしろ競争を規定する原則(規制する限界、 または限界を画する大きさ)を見出すための定式として役立つのである。ことに、競争の実際や競争の諸現 象やそこから発展する観念やにとらわれている人々にとっては、競争のなかで現われる経済的諸関係の内的 関連の一つの観念・・・に到達するための定式として役立つのである。それは競争に伴う諸変動からこの諸 変動の限界に到達するための一方法である。平均利子率の場合はそうではない。中位の競争関係、すなわち 貸し手と借り手との間の均衡が、なぜ貸し手に彼の資本に対する 3 パーセントとか 4 パーセントとか 5 パーセ ントとかの利子率を、あるいはまた総利潤の 20 パーセントとか 50 パーセントとかいう一定の百分比的分け前 を、与えることになるのか、その理由は全然ないのである。この場合に競争そのものがそれを決定するとすれ ば、この規定はそれ自体として偶然であり純粋に経験的であって、ただ衒学または妄想だけがこの偶然性を 必然的なものとして説明しようとすることができるのである」『資本論』第 3 部、大月版、453-4 ページ、〔 〕 は引用者)。 注 10) 「金融機関は、準備預金の積立てを、積み期間中の平均残高が所要準備額を満たすように行えばよいため、日々 のベースでは積み不足があっても構わない。金融機関は準備預金を保有する機会費用であるオーバーナイト 金利をみながら、日々の準備預金残高の変動を調整する。例えば、金融機関は通常、オーバーナイト金利が、 金融調節方針で定められた誘導目標水準で決まると予想しており、それと比較して、金利が高いと判断すれば、 その日は準備預金をあまり積みたてずにできるだけ余裕資金を市場で運用し、金利が低下したときに準備を 積み立てようとする。*こうして、中央銀行がオペレーションを行わなくても、オーバーナイト金利は誘導目 標近辺の水準で安定しやすくなる。このような準備預金制度の機能を、平準化機能と呼ぶ」(日本銀行金融研 究所編『日本銀行の機能と業務』有斐閣、2011 年 3 月、110-1 ページ)。

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注 11)「  図3 資金需給に対する銀行券要因の推移     確かに92 年第1四半期の日銀信用供与は前期比でみて約 4 兆円減少している。しかし、図 3にも見られるように、 第 1 四半期というのは毎年銀行券が大量に銀行に戻ってくる季節であり、92 年の日銀信用回収も銀行券の還収 (約 6 兆円)に見合うものである。/ なお、銀行券と準備預金の関係についてここで若干付け加えておくと、銀 行券は企業・個人の支払い上の必要により預金から引き出されたり、再預金されたりするので日銀や民間銀行 サイドで月中の動きをコントロールすることはできず、戻ってきた銀行券は日銀に搬入されることにより各銀行 の準備預金として積みあがる。その影響が財政などの他の要因の影響を上回り、準備預金が所要準備を上回る 場合には」、「・・①マクロ的な超過準備を吸収できるのは日銀だけであり、民間銀行部門が準備総額を減らす ことはできないこと、②銀行間市場金利が正である限り、無利子の超過準備を持つよりは銀行間市場で運用す るほうが、各銀行の収益上望ましいこと、の二つの理由から、日銀が超過準備を吸収しない限り、オーバーナ イトの銀行間金利は確実にゼロないしその近傍まで低下してしまう」「理由により日銀信用を回収する必要が生 じる。/ 重要な点は銀行券の戻り(還収)が大きい季節にはその結果として日銀信用が回収される、というこ とであり、日銀信用が回収されるから銀行券が大量に銀行に戻り、ベースマネーが減少するという因果関係に はないことである。/ これらの点からもわかるように、岩田教授の論法でベースマネーの減少を金融引き締め の証拠と捉えるのは見当違いと言わざるを得ない」(翁邦雄「「日銀理論」はまちがっていない」(『週刊東洋経済』 1992 年 10 月 10 日号、107-9 ページ)。   2012 年 9 月 18 日 兆円 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 受入超 支払超 1985 年   86    87    88    89    90    91    92 (注)銀行券の受入(還収)は準備預金の増加要因 (資料)日本銀行「経済統計月報」

参照

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