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算数科における「幼小接続」する学びの構築に関する研究-「時こくと時間」に関する学習指導を事例として-

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1.研究の目的と方法 幼児教育から小学校教科教育への学習指導の接続(以 下,「幼小接続」)については,学習内容の関連性だけで はなく,その接続の仕方,教育目標の設定の背景に及ぶ 関連のさせ方など,様々に研究の余地が残されている(例 えば,土井,2018;森ほか,2020)。また,その際「幼 児期の教育と児童期の教育は,それぞれ発達の段階を踏 まえて教育を充実させることが重要であり,一方が他方 にあわせるものではないことに留意する必要がある」(文 部科学省,2010)と言われてきたように,十分に子ど もたちの様子を観察し,発達の様子を慎重に捉えながら 議論されなくてはならない(文部科学省,2018a)。特に, 小学校算数科の授業に関して言えば,子どもたちは生活 の中の具体的事象を念頭におきながら数学的な見方・考 え方の必要感を体得し,その中に埋め込まれた数量や図 形に意識を向けていくが,その際,就学前に幼稚園など で体験したことや学んだことがどのように生かされるの かは明らかではない。 算数・数学科においては,これまでも「幼小接続」に ついて様々な視点から研究されてきた。数学分野におい て代表的な視点は,数・数量的視点や形の視点(例えば, 松尾,2010;松尾,2015;増田,2015),さらには, 比例関係や三段論法,前提条件などに基づく推論の視点 (例えば,杉村,1994;菅ほか,1995)などが挙げら れる。これらの研究では,数学的な表現・思考発達に関 わって幼児たちの発達の経過や状態を調査したり考察し たりするための視点が開発されている。 しかし,就学前に幼児たちが体験してきた数学的活動 を捉え,それを小学校算数科の授業の中で生かすための 方法論に関しては,研究の余地が残されている。本研究 では,幼児たちの数学的活動を特徴づけ,それらが小学 校算数科の授業や教材開発にどのように貢献するかを論 考し,「幼小接続」を意図した小学校算数科での指導方 法論を探究したい。そこで,本研究の研究課題は,学習 の内容と方法にそれぞれ着目して「幼小接続」を意図し た小学校算数科の学びを構築するために,次の 2 点と する。 (Ⅰ)小学校算数科の教育内容の視点から幼児期の教 育場面をどのように捉えることができるか (Ⅱ)小学校算数科の指導方法において,幼児期の教 育場面からどのような示唆が得られるか。 特に本稿では,上記の 2 つの課題について「時こく と時間」の学習指導に焦点を当てる。「時こくと時間」 という学習内容に着目した理由は,その内容が幼児期か ら既に子どもたちの生活の中でも欠かせないことにあ る。つまり,小学校算数科で「時こくと時間」について 学習する以前に,幼児たちは「時間を把握する活動」「時 間を意識した活動・行動」さらに「時刻や時間を表す表 現」に頻繁にかかわりを持っている。これを踏まえて, 本稿の研究課題は先の(Ⅰ)と(Ⅱ)に準じて次の通り とする: ① 小学校算数科「時こくと時間」の学習内容と指導系 列の概要を捉えて,学習指導の観点並びに課題を明 確にすること ② ①で得た観点並びに課題に照らして,実際の幼児教 育場面での「時こくと時間」に関わる取り組みを分 析すること ③ ②の幼児教育場面の分析によって得られる算数科の 学習指導への示唆を明らかにすること 上記の①は(Ⅰ),②と③は(Ⅱ)に関して,それぞ れ「時こくと時間」に関わって特定された研究課題であ る。 2.小学校算数科における「時こくと時間」の学習内容 と指導系列 本節では,小学校算数科「時こくと時間」の学習内容 と指導系列の概要を捉えて,学習指導の観点並びに課題 を明確にしたい。 (1)「時こくと時間」の学習内容とその配列 小学校算数科の学習内容は,4 つの領域(A. 数と計算,

算数科における「幼小接続」する学びの構築に関する研究

−「時こくと時間」に関する学習指導を事例として−

Examining for the Connection of Learning between Kindergartens and Elementary

School in Terms of Mathematics Learning-Teaching:

The Case of Time and Duration

渡邊 慶子

Keiko WATANABE

滋賀大学教育学部

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B. 図形,C. 測定[1 ~ 3 年生]/変化と関係[4 ~ 6 年生], D. デ ー タ の 活 用 ) で 構 成 さ れ て い る( 文 部 科 学 省, 2018b)。その中で「時こくと時間」は,「C. 測定」に 位置づいており,小学 1 年生から 3 年生にかけて学習 されている。時間を連続量とみて,1 秒間や 1 分間,1 時間,1 日などを 1 単位時間と考えることにより,連続 量を 1 単位時間の個数で数値化するところに,「時こく と時間」が「測定」領域に位置付けられる所以がある。 さらに,「時こくと時間」の学習系列(カリキュラム) は,表 1 の通りである。「時こくと時間」の学習では,「時 間の単位とその関係」と「日常生活での実感」を通して 時間の概念を形成することがねらわれている。この点に ついて,H29 年度改訂学習指導要領解説(算数編)には, 次のように記述されている:   〈時間については,日常生活との関連を大切にしな がら指導することが大切である。第 1 学年では, 日常生活の中で時刻を読むことができるようにす る。第 2 学年では,時間の単位(日,時,分)と それらの関係について理解できるようにする。第 3 学年では,時間の単位(秒)と,時刻や時間の計算 について指導する。その際,長針や短針の動きを観 察するなどの活動を設定し,時間の概念を実感を もって理解できるようにすることが大切である。〉 (文部科学省,2018b,p.60) 表1 小学校算数科の「時刻と時間」の学習内容一覧 (文部科学省,2018b,p.13 より抜粋)



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(2)時間の概念形成 算数科において「時こくと時間」の学びは文字盤,長 針,短針などから成るアナログ時計の観察と日常生活の 中での実体験を通して時間の概念を形成することをねら いとしている。アナログタイプの時計の観察は,長針と 短針の動きを数学的に特徴づけることによって,時間を 測る単位としての 1 日,1 時間,1 分,1 秒を意識させ, 見えない時間をある種の量と「みなす」ことに通じる。 本稿では,子どもたちが日常生活の中で時刻を意識し たり時が刻まれたりすることを実感・体感し,そのよう な時間や時計に関わる実体験を算数学習の文脈で語り直 すことが時間の概念形成に必要不可欠であると考えてい る。特に,「時こくや時間」の実感・体感という点で, 幼児期の教育の中には,小学校算数科において「算数的 な経験」として語り直されるに足る活動や対話が多くあ るのではないだろうか。 (3)「時こくと時間」の指導系列 ①小学 1 年生の学習指導 時間の概念形成は,小学 1 年生の「時刻の読み」か ら始まる。そこでは「短針と長針の位置を基に,それぞ れの針が示す数と時刻を表す数との対応を理解し,時計 観察や操作を通して時刻を読むこと」(文部科学省, 2018b,pp.93-94)がねらわれ,学校生活を含む日常生 活の場面を時刻に関連付けて現在の状況を把握したり, 未来の活動のための準備を促したりする。この際,子ど もたちは生活場面を振り返りながら時刻を読んだり,時 刻の読みにあわせてアナログ時計の長針を時計の絵図に 書き込んだりする。 時刻は,日常生活の場面に沿って意識されていく。時 刻や時間は,生活の中で意識される代表的な数表現で, 特に時刻は日常生活で流れる時間の中の「気にとめるべ き」あるいは「厳守すべき」節目で,時の流れの中のポ イント(点)として強調される。算数科では,日常生活 を振り返って過去の活動を整理したり,反対に未来の活 動を定めるような「約束事や何かを始める(何かが始ま る)節目」に着目したり,更には「今,このとき」を表 したりして時刻を数で表現することを児童に意識させ る。 ②小学 2 年生の学習指導 小学 2 年生では,小学 1 年生で学習した時刻を表す 長針の動き方に着目して,時間の概念を形成する。この とき「時こくと時間」の学習は連続量の測定としての性 格が一層強調される。「量の測定」については,長さや 重さ,かさ,広さといった外延量の測定概念を小学 2 年生から並行して学習させる。算数科における測定とは, 数えられない連続量を数えられるようにする仕組みを意 味し,測定のためには,共通単位(任意単位または標準 単位)を設定する必要がある。例えば,1 本の鉛筆の長 さを 13cm と表せるというのは,「1cm」という共通し て広く知られている単位を 13 個分並べた量を表してい る。 「時間の単位」について,算数科では「1 日」「1 時間」 「1 分間」「1 秒間」が主要な単位として扱われる。この際, アナログ時計の長針と短針の動きの観察を通して時間が 子どもたちに把握されている。例えば,長針が一回りす る時間を 1 時間といい,1 時間は「分」という単位量の 60 個分にあたることや,1 時間が 24 個分で 1 日と考 えることなどが学習される。一方で,短針の動きに関し ては,具体的な学習内容が明確には教科書に記載されて いない。基本的には,長針が 60 目盛り進む間に短針は 5 目盛り進むので,長針が 12 目盛り進む間に短針は 1 目盛り進む。 また,「時刻」と「時間」という言葉は,日常生活で は混同して使用しがちであるが,小学 2 年生の指導で 滋賀大学教育実践研究論集 第 3 巻 2021

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はその使用を明確に区別する。例えば,数直線上の点を 「時刻」,点から点までの間の大きさを「時間」と表現す るよう指導する。そして,数直線を導入することによっ て「時間」を連続量と捉えやすくし,さらには単位の必 要性も子どもたちに意識させやすくなるとされている。 時間を捉える単位については,それらの単位間の関係づ け・単位変換も指導し,単位を用いて時間の概念形成を 図っていく。 ③小学 3 年生の学習指導 小学 3 年生では「1 秒」という時間の単位を導入する ことによって,時間の単位どうしの関係やその仕組みを さらに指導する。時間は,長さ,広さ,かさのように直 接比較などによってその量を視覚的に確認することがで きない量であるが,「1 秒」は時計の秒針や,♩= 60 に 設定したメトロノームに合わせて数を数えるなど体感し やすい単位をもつ。私たちは,小学 3 年生の学習を通 して,時計の針の動きだけではなく,「1 秒」に基づく 活動・運動を通して生活時間を捉えている。 さらに,小学 3 年生では,時間を足したり引いたり して計算する。「11 時 50 分から 15 分間たった時刻」 を求める際などは,「11 時 00 分から 60 分間経過とと もに時刻が 12 時 00 分となる」という「正時をまたぐ」 という現象を捉える必要がでてくる。これは時間の足し 算(例えば,20 分間と 30 分間をあわせると 50 分間な どの計算)だけではとどまらない,時計の仕組みの学習 となる。 小学 3 年生の「時こくと時間に関する計算」になると, それまでの関連する学び以上に難色を示す児童も少なく ない。佐々木(2015)によれば,時間の計算には「数 を単位としてみる視点」と「単位変換の視点」が必要と なり,日本の戦後教育改革期では整数や小数の四則計算 の「まとめ」として時計の計算が位置付けられていたと いう。 このように,小学校算数科における時間の概念は,「数 表現と日常生活とのかかわりへの着目」,「単位を用いた 量としての時間の概念形成」,そして「時計の仕組みに 基づく計算」の 3 つを経て形成されるように,小学 1 ~ 3 年生にわたって段階的に学習内容が設定されてい る。これらの学習指導においては,特に,(ⅰ)日常生 活の中での時計の使用,(ⅱ)時計にまつわる表現活動, そして(ⅲ)「時こくと時間の計算」の素地としての量 概念の芽生えが,子どもたちに時間を量として意識させ る。 次に本稿では,幼児教育の関連場面を設定して,幼児 たちと教師のやり取りを,先述の(ⅰ)から(ⅲ)に着 目して分析する。 3.「時こくと時間」に関わる幼児教育の取り組みとそ の場面分析 (1)実施目的とその方法 幼児の「遊び」の中で「時こくと時間」に関する認識 の様子を観察するために,滋賀大学教育学部附属幼稚園 の 5 歳児 22 名と同幼稚園の教師 T による対話場面を記 録し分析した。 筆者は,教師 T に,時刻や時間に対する幼児の認識 を探りたい旨を伝え,時刻や時間に関連して,日常的な 幼児教育・保育場面を意図的に作っていただいた。それ を受けて教師 T は「遊びを始める前のお約束」として「遊 びの片づけを開始する時刻」を幼児たちと合意する場面 を設定した。日常生活の中の時刻の決定が「活動の始ま りや終わりの約束」を具体的に表す数表現であるという 点は,先述した小学 1 年生における「時こく」の意識 化と同じ文脈である。 幼稚園での「待ち合わせの約束場面」は全編で約 1 分 20 秒という短い時間であったが,その時間の中で, 幼児たちは,時間の量的特徴を意味することばや幼児た ちの時計や時間に対する感覚的な捉えを様々に表現して いた。 本稿では,この場面の文脈に基づいて教師と幼児 たちの相互作用場面を 4 つのシーン(時こくの読み/ 時 刻と時刻の相互関係/時間の等速性の認識/長針の位置と 動きの認識)に分けて捉えた。 この取り組みの模様は,1 台の定点カメラで教室全体 を撮影し,その動画から得た音声データからプロトコル を作成して,発話分析された。発話分析の際,幼児教育 場面での幼児たちと教師の相互作用が,小学算数科の学 習内容「時こくと時間」に関してどのように意味づけら れるのかを探る。 (2)取り組みの概要と発話の分析 教師 T と幼児たちは,「これからはじまる外遊び」の ために一つの教室に集まった(午前 9 時 35 分ごろ)。 この教室の床に座る幼児たちの前方にはホワイトボード が,後方の壁にはアナログタイプの壁時計がかかってい る。 ①第 1 シーン「時刻の読み」 第 1 シーン「時刻の読み」では,教師 T が外遊びの 後に別の活動が予定されていることを幼児たちに伝えて 「これから遊びたいが,外遊びの後に予定もあるので待 ち合わせをしよう」と持ち掛け,壁時計に子どもたちの 目をむけさせた。 次に,現在の時刻について子どもたちに問うた。 (00 : 07 : 35)T : あとでみんなと待ち合わせしたいなと 思うんです。それで,(教室後方を T が指さして, Cs がつられて後ろを振り向く)この後ろにある, 時計ってわかる? (00 : 15 : 50)Cs : わかるー!今,9 時で…。 (00 : 20 : 98)T :(教室の後方に移動する)今,時計のな がーい針が,どこ? (00 : 25 : 96)Cs : ななー(7) (00 : 31 : 58)T : うん,ななだね 幼児たちは,「時こく」を尋ねられたら,まずは短針 算数科における「幼小接続」する学びの構築に関する研究

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の位置に着目して「時間(9 時 35 分ならば「9 時」の 部分)」から答える必要があることを既に心得ているよ うであったが,「分」の読み方には不安があるようである。 つまり,幼児たちは「時間」の読みは時計の文字盤に基 づくが,「分」の読みはそうではないことも知っている。 実際に,幼児たちは 9 と 10 の間に位置づく短針をみて 「9 時(台)」と判断できた一方で,長い針の読みは数「7」 を読み取るにとどまり,「35 分」とは表現し直していな い。このシーンからは,幼児たちが短針の読みを日常生 活の中で体得している様子が見て取れているが,現在の 時刻が 9 時から 35 分間経過した時点であるとは子ども たちが認識していない可能性があると推察できる。 ②第 2 シーン「時刻と時刻の相互関係」 次に第 2 シーン「時刻と時刻の相互関係」では,教 師 T が手元に小さなアナログタイプの時計をもって, 針を 9 時 35 分にあわせて子どもたちに見せたところ, 一人の幼児 C1 が「もうちょっとで 12 時や」といった。 その見解に賛同する幼児が 3 人程度みられたことから, 幼児たちの中には,ある時刻と他の時刻の「時間」を, アナログタイプの時計における位置の近さ・遠さに着目 して(「9」は「12」に近い)捉えようとする子どもが 一定数いると推測できる。 ③第 3 シーン「時間の等速性の認識」 さらに第 3 シーン「時間の等速性の認識」で,教師 T は「外遊びを終えて教室に待ち合わせする時刻」を子 どもたちに示すためにアナログ形式の時計の長針を回し 始めた。 (00 : 45 : 41)T :(手元のアナログ時計の長針を進めなが ら)今,7 だね。これが,(長針を進めはじめる) クルクルクルクルーって(手動なので,一定の速度 ではない)。回っていって,(10 : 00 少し手前で長 針 の 動 き が 一 瞬 止 ま り, 少 し 勢 い を つ け て 早 く 10 : 00 を超える動かし方になる) (00 : 52 : 09)C2 : あっ,はやい,はやいやん このシーンで,C2 の着眼点は教師 T による長針の進 め方にあった。C2 は教師 T による手動の長針の動かし 方が一定の速さでなかったことに気を留め,特に,勢い をつけて長針が動かされて時間が進められた際に大声で 「はやい」と反応している。この点で,C2 にとって長針 は「一定の速度」を保って動くもの認識されていると推 測できる。これらから子どもは時間が「単位時間の積み 重ね」であることを幼児期から「等速の長針の動き」に よって感じ取っていると考える。 ④第 4 シーン「長針の位置と動きの認識」 最後に第 4 シーン 「長針の位置と動きの認識」は, 教師 T が長針を 7 から 4 まで動かして子どもたちに「4 になったら(外遊び)の片づけをして,(そのあと教室で) 待ち合わせをしよう」と話す場面であった(つまり,9 時 35 分から 10 時 20 分までが「外遊び」の時間となる)。 (00 : 55 : 28)T : 長い針が,4(よん) (00 : 55 : 61)C3 : ふん(分)くんや,ふんくん! (00 : 57 : 27)C4 : ふんくん,ながい! (00 : 58 : 64)T : 今見えた?(長針を 7 に戻して,9 : 35 を示す) (00 : 59 : 66)C5 : これフンくん,これ細かいやつやん。 (01 : 00 : 30)T : 今,7 のところからクルクルーって回っ て,4 になったら(長針を進めて,10 : 20 を示す) みんな遊んでるのをかたづけてくれる? (01 : 11 : 88)C6 : 先生,4 になったら,待ち合わせ? (01 : 12 : 89)T :(教室の前方に移動しながら)うん,そう。 4 になって,お片付けしたら,このお部屋で待ち合 わせしよう。 (01 : 16 : 83)Cs : はーい このシーンでは,子どもたちの長針への関心が一斉に 高められ,彼らは口々に「フンくんや,フンくん!」と 大きな声で言い始めた。幼児たちは長針を「フンくん」, 短針を「じーさん」と擬人化して表現していたようであっ た。特に「フンくん(時計の長針)」の動きについては「細 かい(動きをする)」といったような特徴をことばと腕 の動き(ジェスチャー)で表現した。 4.考察 (1)日常生活の中での時計の使用 「時こくと時間」の学習指導が日常生活で頻繁に用い る知識・技能および表現を伴うからこそ,幼児教育と小 学校教育との連携・接続が重要であると考える。本稿の 事例で教師 T が設定したように,幼児教育では「約束 の時刻」を示すのに「時こく」を長針が指す数の変化(例 えば,長針が 7 から 4 の場所になる)によって把握する。 長針の位置を数(かず)で表現する幼児がいる一方で, 短針が 2 つの数の間にある際の針の位置に関しては言 及する幼児はいなかった。 この点で,長針の動きに比べて短針の動き(12 分で 1 目盛り進む)に関しては,小学校算数科では一層の注 意を要すると示唆される。つまり,小学 1 年生の児童 がアナログタイプの時計の針の位置を見て「今の時刻は, 9 時 35 分」のように時刻を読めていたとしても,「今が 9 時台かどうか」という点では,児童に不安が残ってい たり「生活の中でなんとなく読めている」という状態で あったりすることが推測できる。それにもかかわらず短 針の動きに関しては,小学校低学年の算数科で,長針の 動きほど学習内容として意識されていない。それは短針 の動きが長針の動きと連動していて,その連動の仕方に は比例的な考えを用いることも背景となっている。つま り「短針 5 目盛進むのに長針は 60 目盛進む」「5:60=1:12 (短針 1 目盛進むのに長針は 12 目盛進む)」など,小学 校高学年の学習に含まれる比例的な捉え方が必要になる ため,小学校算数科の低学年での導入は簡単なことでは

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ない。短針と長針の連動,特に短針の動き方の考察につ いては,その学習の導入時期の適切性を始めとして様々 に議論の余地はあろうが,幼児たちの短針の読みの様子 をみると,子どもたちには小学校高学年の算数科授業で それまでの学びを振り返りながら明らかにしておきたい 内容である。 特に,幼児期から日常的に子どもが用いてきた数表現 に関しては,その表現を子どもたちが使いこなしている 様子から,我々は表現された事象・事柄の理解も伴って いるだろうと思いがちである。しかし,そういった子ど もたちの表現の背景は曖昧なままであることが多い。日 常生活での使用頻度が高い表現ほど,小学校教諭は教科 指導の文脈で子どもの理解に慎重に迫らなくてはならな い。 (2)時計にまつわる表現活動 幼児にとって「時間」は生活の中の出来事として認識 されているが,年長児からは時計それ自体の観察に基づ く発話がみられた。特に,「分くん(フンくん)」と時計 の長針を擬人化してその動きを楽しむ様子からは,「1 分間を 60 回刻んで 1 時間」といった時間の単位への学 びの芽生えが息づく様子を見て取れた。 また,時計の長針を「フンくん」と表現した子どもた ちの様子にみられたように,学びの対象を「擬人化」す ることは子どもたちに対象の動きや特徴を鮮明に言語表 現させる。「フンくんは細かくうごく,じーさん(短針) はゆっくりと動く」というような表現は,長針の動きを 「1 分」,短針の動きを「1 時間」という単位の積み重ね として捉える素地となる感覚の表出といえる。 この点で,小学校算数科の小学 1 年生で時計の針の 動き方に関心をもったり主体的に観察したりすることを 鼓舞する活動の重要性が示唆される。量としての時間の 概念は,小学校算数科で「数直線」の利用などを通して 行われるが,その仕組みを理解する前提として,時計の 針の動き方に着目する必要がある。そのために,例えば 針を擬人化したり,針の動きをジェスチャーで表現した りして「針の動き」に子どもの関心を向ける工夫が必要 である。 (3)「時こくと時間の計算」の素地としての量概念の芽 生え 「時刻と時間」の計算の素地として,「1 分に 2 分を加 えると 3 分になる」「1 時間 20 分に 50 分加えることは 80 分に 50 分加えるのと同じ」などの加法・単位変換 が成り立つなどの様々な前提を認める必要がある。その ような前提の一つとして単位時間の概念がある。この際, 1 分間はどんなときも,どこでも,誰が測定しても「同 じ 1 分間」であると認める必要がある。例えば,時計 の針を手動でゆっくり進めたり早く進めたりしたときに 違和感を抱かせるような場面が小学 1 年生で設定され たり,小学 6 年生「速さ」の授業を通して「時間の単位」 について再確認されたりする場面が必要だろう。 本稿の取り組みでは,教師 T が手元で時計の針を動 かした時,その動きがほんの少し速くなった際に子ども たちが即座にかつ一斉に「あー,速い」と大きな声を発 した反応に彼らが「等速性」を重んじて時間を捉えよう としている姿が見て取れた。時間の流れは,幼児期に既 に一定の進み方をすると捉えられており,幼児たちは時 を刻む針が急に速く進んだり,反対に急に遅くなったり してはならないという意識が強くあると推察された。こ れらから時間の概念において,幼児たちは「等速性」を 感覚的に捉えていると考えられる。それは,小学校算数 科 1 年から 3 年の間には強調されず,小学 6 年生「速さ」 で「単位時間あたりに進む距離」によって強調される事 柄に関わる。 「時間が等しく刻まれるか否か」という点は,時間を 量とみなして捉えるか,あるいは,感覚として捉えるか によっても異なる。例えば,同じ活動を 1 人でする場 合と複数人でする場合とで,同じ 1 時間分の時間の流 れ方・時間の感じ方は異なる(例:1 人より複数の友達 と話しながら活動した方が 1 時間を短く感じる)。算数 科では,日常生活の中で「時刻と時間」を結びつけるこ とを学習指導の肝とするが,実際は算数科での「時間」 を「等速で流れる」とみなす見方は,人の日常生活にお ける「時間」の感じ方とは異なっている。 このようにみれば,「時間」の概念形成は小学校低学 年期における「時こくと時間」の学習を通してだけでな く,「単位当たりの量」「速さ」などの小学校高学年の学 習内容でも形成され続けているのである。 5.結論 本稿の目的は,次の①から③であった: ① 小学校算数科「時こくと時間」の学習内容と指導系 列の概要を捉えて,学習指導の観点並びに課題を明 確にすること ② ①で得た観点に照らして,実際の幼児期教育場面で の「時こくと時間」に関わる取り組みを分析するこ と ③ ②の幼児教育場面の分析によって得られる算数科の 学習指導への示唆を明らかにすること まず上記①について,小学校算数科「時こくと時間」 の学習内容と指導系列は,「数表現と日常生活とのかか わりへの着目」,「単位を用いた量としての時間の概念形 成」,そして「時計の仕組みに基づく計算」を段階的に 設定している。 さらにこれらの学習指導においては,特 に,(ⅰ)日常生活の中での時計の使用,(ⅱ)時計にま つわる表現活動,そして(ⅲ) 「時こくと時間の計算」 の素地としての量概念の芽生えが,子どもたちに時間を 量として意識させることを述べた。 次 に 上 記 ② に つ い て, 実 際 の 幼 児 教 育 場 面 を 先 の (ⅰ)~(ⅲ)に基づいて考察した。本稿では,「お片付 けの約束」場面の文脈に基づき,教師と幼児たちの相互 作用場面を 4 つのシーン(時こくの読み / 時刻と時刻 の相互関係 / 時間の等速性への認識 / 長針の位置と動き 算数科における「幼小接続」する学びの構築に関する研究

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の認識)に分けた。そこでは次の事柄が明らかになった: ・ 日常生活の中での時計の使用においては,長針に比べ て短針が指す文字盤の位置に子どもの注意が早く注が れているにもかかわらず,短針の動き方については子 どもの話題にならなかった。 ・ 長針は「フンくん」と名付けられて擬人化されたこと を介して,「細かく動く」などの動き方の特徴に子ど もたちが言及した ・ 「時こくと時間」の計算の素地として,子どもたちは 時間の「等速性」を感覚的に捉えていた。アナログタ イプの時計が「1 分が規則正しく積みあがっていく」 ように時間を表していることを「長針は急に速く動か ない」という点で認めていた。 最後に,上述の 3 点から次のことが示唆された: ・ 「短針と長針の連動」は小学校算数科の 6 年間の学び を通して子どもたちに考えさせる ・ 小学校算数科の小学 1 年生で時計の針の動き方に関 心をもったり主体的に観察したりすることを鼓舞する 表現活動(例えば,観察対象の擬人化やジェスチャー 表現)を重視する ・ 小学 1 年生から 6 年生の学習指導を通して,徐々に 針の「等速性」を意識化させる 本稿でみてきたように,幼児教育場面にはほんの数分 間の幼児たちと教師との相互作用の中で,学校教育の教 科指導に関わる多くの出来事が生じ,幼児たちによって 豊かに表現されている。そういった子どもたちの体験を 大切にして,教科の視点でその体験を幾重にも語り直す という機会を小学校算数科で意図的に設定する必要性が 本稿の取り組みによって示唆された。幼児期の遊びや会 話・相互作用に支えられた学びの成果が,子どもたちに とって教科の学びとして少しずつ焦点化されて,教科の 学びの中でも価値がある経験になるように「幼小接続」 のための具体策は一層明確にされるべきであろう。そし て,そのためには,「幼小接続」を図る教師どうしの協 働的な取り組みとその取り組みの構築を助ける理論的枠 組みがかかせないだろう。 本研究では,実践的研究を参照して「幼小接続」する 学びを構築する理論的枠組みについて今後も研究を進め てきたいと考える。 謝辞  本稿を執筆するにあたり,滋賀大学教育学部附属幼 稚園の幼児の皆さんと先生方には多大なるご協力をい ただきました。特に,高井謙先生をはじめ幼稚園の先 生方には幼児教育の実際を捉える資料やご意見を頂戴 しました。また,この研究を遂行するにあたり,滋賀 大学教育学部教授菅眞佐子先生には幼児教育の研究動 向や研究方法等に関して,資料をご提供いただいたり ご助言をいただいたりしました。そして同学部准教授 山本一成先生には本稿を執筆する貴重な機会を頂戴し ご助言いただきました。心より御礼申し上げます。  さらに本稿の執筆にあたり,滋賀大学教育学部 4 回生(2020 年 11 月現在)村上翔氏には,「時こくと 時間」の学習指導の工夫が算数科の「幼小接続」の観 点からいかに重要であるかという点で議論,情報交換・ 意見交換を通して示唆を頂きました。心より御礼申し 上げます。 引用・参考文献 土井明子(2018)保育内容「環境」と小学校教育課程 につながる保育者養成授業プログラムの検討(1) ―子どもの数量・図形,文字等への関心・感覚―. 共栄大学教育学部紀要,2.95-108. 増田有紀(2015)幼小接続期における子どもの数詞の 理解に関する経年的変化―三年間にわたる実態調査 を手がかりに―.日本数学教育学会誌数学教育学論 究(臨時増刊),97,185-192. 松尾七重(2010)小学校第 1 学年における形構成・形 置き換えの活動の効果―図形の disembedding に 視点をあてて―.日本数学教育学会論文発表会論文 集,43.591-596. 松尾七重(2015)就学前算数教育プログラムの具体化 ―広さ比べの活動について―.日本数学教育学会秋 期論文発表会論文集,48.31-34. 文部科学省(2010)幼児教育と小学校教育の円滑な接 続の在り方について(報告).平成 22 年 11 月 11 日(https://www.mext.go.jp/component/b_menu/ s h i n g i / t o u s h i n / _ _ i c s F i l e s / a f i e l d f i le/2011/11/22/1298955_1_1.pdf)(最終閲覧:2020 年 11 月 26 日) 文部科学省(2018a)幼稚園教育要領(平成 29 年告示), 東山書房. 文部科学省(2018b)小学校学習指導要領(平成 29 年 告示)解説算数編.日本文教出版. 森美智代・倉盛美穂子・太田直樹(2020)小学校入門 期の授業における教師と子どもの相互作用の実態― 国語科と算数科授業で重視される目標の違いに着目 して―.初等教育カリキュラム研究,8.49-60. 佐々木章太(2015)戦後教育改革期の算数数学教育に おける「単位の考え」に関する一考察―「算数」と 「中学生の数学」における時間の計算に着目して―. 日本数学教育学会誌数学教育学論究(臨時増刊), 97,81-82. 菅眞佐子・徳賀郁子(1995)概念の階層レベルが幼児 の推論に及ぼす効果.滋賀大学教育学部紀要(人文 科学・社会科学・教育科学),45,143-154. 杉村智子(1994)物語推論における概念的知識の利用. 心理学研究,65,1-8.

参照

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