†障害児教育専修 障害児教育専攻 指導教員:白石惠理子
原 著 論 文
2 歳前後の見立ての成立過程に関する研究
酒
井
ふ
き
†A Study of Developmental Process of Symbolic
System around 2 years old
Fuki SAKAI
キーワード:見立て,描画,2 歳 Ⅰ.問題と目的 子どもの描く絵には不思議な魅力がある。私 たち大人が一般に写実的に対象を表現したもの を「絵」とみなすのに対し,子どもたちが描画 を始めた初期の「絵」はそれとは大きく異なる。 筆者は,いつごろから子どもが自分の描いたも のに意味を与え,意味のあるものを描こうとす るのかということに関心を持った。 岡本 (1991) によると,そこに「不在のも の」を「それとは別の他のもの」でもって表現 する働きを象徴機能とよぶ。子どもは表現しよ うとしたものを頭の中に思い浮かべることがで き (この作用を表象作用という),それを外に 表現する機能 (媒体は言語,動作なども含まれ る) が象徴機能である。子どもが頭の中に思い 描いたイメージ (例:電車) をある行為 (例: 鉛筆を動かす) で見立てるようになることの背 景には,このような象徴機能の成立が影響して いると考えられる。岡本 (1991) は,この象徴 機能に基づいた行動を象徴的行動と命名してい るが,本研究では「見立て」という用語を使用 する。本研究で取り上げるのは,象徴機能が実 際の活動に適用される場面であり,つまり活動 を「見立て」た場面の分析である。本研究では 対象や行為を直接「見立て」と命名することで, 象徴機能の働きをより活動的にとらえることと する。 ところで,見立てはどのように成立していく のであろうか。岡本 (1991) は,1 歳半ごろま での感覚運動的に外界と直接かかわるなかで展 開される「感覚運動段階」から,1 歳半ごろか ら 2 歳ごろにかけてその直接的な物体への関与 が次第に子どものなかに内面化していく現象が おこり,それが「表象的段階」であると指摘し ている。つまり,1 歳後半〜2 歳台前半の子ど もの遊びにおいて,直接的に対象に働きかける 段階から,イメージを介して遊ぶようになる段 階の間に質的な変化を見出すことができると考 えられる。 そこで本研究では,描画において,単になぐ り描きだった描線が,ある時を境に意味が付与 されるようになり,子どもは描きながら頭のな かでイメージやストーリーを展開させていく,その質的な変化を解明したいと考えた。さらに, そうした見立ての発達によってそのほかの遊び はどのように変化していくのかということにも 関心を持った。たとえば,子どもが普段の生活 で毎日経験している道具 (スプーンやコップな ど) や用具を扱う見立て遊びの際に,見立てに よる質的な変化はどのように変化をもたらすの だろうか。逆に,積木のような抽象的でかつ, 扱い方を自分で生み出さなければならない素材 では,どのように見立てに至るのか。そのよう な,それぞれの活動がもつ固有の特徴にたいし て,象徴機能をもとにした働きはどのように反 映されるのだろうか。複数の質の異なる活動を 取り上げることで,見立てによる遊びの質的変 化がどのようにあらわれるのか,その違いや固 有の特徴と同時に,共通性も明らかにできるで あろう。そうした相違点と共通点を見いだすこ とで見立ての成立過程をより深く多面的に明ら かにすることができると考えた。 山形 (2000) は,Luquet などが提唱してき た描画発達理論におけるなぐり描き段階を再吟 味している。これまで欧米での研究では,なぐ り描き期は無意味なものと認識されてきたが, 必ずしもなぐり描きは無意味なものではなくむ しろ対象表現成立に至る準備段階であると山形 は主張する。その上で,子どもの対象表現に至 る過程について,子どもの成熟と他者との相互 作用による 6 つの描画の発達過程を明らかにし ている。この順序は,対人文脈が描画発達に影 響を与えていることを示しており,これまで子 どもの自力描画場面を中心にされてきた欧米の 描画発達研究に,対人場面からの検討の必要性 を主張している。しかしながら,山形の研究で は大人からの働きかけと子どもの反応が厳密に は区別されていないことや,親子関係における 分析が中心であったことから,子どもの描画の 内容が恣意的にとらえられる危険性があり,反 応的な行為のとらえ方を客観的に判断すること が困難になると考えた。 遊びについては小椋 (1988) が,事物操作活 動のカテゴリーわけの中で,象徴機能の発達と 関連した段階が存在することを指摘している。 そこでは,模倣的な見立て遊びの段階から,見 立てるものと見立てられるものが完全に分離し た見立て遊びの成立,さらにそれらを質的・量 的に組み合わせたごっこ遊びの段階が存在する と考えられている。しかし,小椋 (1988) の研 究では,養育者または観察者との自由遊びが分 析されているが,その直接的なやり取りの場面 については言及されておらず,見立て遊びで観 察されたそれぞれの振る舞いが,子どもの内発 的な行動によるものか,対人文脈に基づいて生 産されたのかが厳密に記されていない。 このような観点から,本研究では象徴機能の 成立によって描線や活動に意味を付与する「見 立て」が起こるということを前提にしたうえで, それが他者との相互交渉の中でどのような成立 の過程をたどるかということに注目する。描画 と遊びに加え積木構成課題を追加した 3 課題を とりあげ,外発的見立てと内発的な見立てに区 別することで,子どもが自力で見立てるように なるまでの過程に他者とのどのような関係性が 基盤にあるのかを明らかにすること,さらに, 描画・積木・遊びの 3 つの課題における見立て の成立過程を比較検討することで,どのような 相違点と共通点があるのかを明らかにすること を研究目的とする。 Ⅱ.方 法 1.対象児 M 児 (1:9〜2:4),H 児 (1:10〜2:5) のいずれも女児 2 名である。観察期間は 2011 年 4 月〜11 月の約半年間であった。 2.材料 描画課題) 描画用紙 (B4 サイズ),筆記具 (黒・赤鉛筆 2B 各 2 本),積木課題) 積木 (K 式発達検査の赤積木) 10 個,ウサギの人形 2 体,遊び課題) ままごとセット,観察者用まま ごとセット,人形 1 体,布巾,おはじき,クリ スタルブロックなど,記録機材) ビデオカメラ, 三脚 3.その他 (他課題実施と結果の分析にあ たって) 本研究では 2 回目以降両児ともに筆者の提示 した課題に退屈して課題を終わらせようとする
場面が確認されたため,2 回目以降粘土遊びと 折り紙遊びを数回補助課題として設定した。こ れらのいずれかを主に遊び課題の直前に子ども の意向を聞いたうえで取り入れ,子どもが毎回 の課題に飽きないように工夫した。結果の分析 にあたっては,観察の実施場面では子どものよ り自発的な見立てを引き出すために緩やかな場 面統制を行った。そのため分析の際は場面ごと の反応の分析ではなく,全体の文脈の中でどの ような行動がみられたかがわかるように分析す ることに重点を置いた。 4.手続き (観察場面) (3)-1 描画課題 ① 自由描画場面 「じーじしようか」と鉛筆 を呈示し,子どもが自ら描く姿を観察す る。子どもが描いたら観察者は指でなぞ るように,「上手に描けたね」「おもしろ そうだね」などと反応して子どもの行為 を受け止める。子どもが自発的に描かな い場合は条件②にうつる。 ② 線・円錯場面 観察者が実際に「おねえ さん (観察者) もグルグルしようかな」 と,子どもの描くのとは別に線を描いた り円錯のモデルを示したりする。何かに 見立てることはせず,ただ単に図形を描 き,形のみから子どもが見立てるかどう かを観察する。 ③ 言語見立て場面 子どもに「ママ描いて」 と要求して子どもが言葉のみで自力で見 立てをするかどうかを観察する。教示は 「ママ描いて」をしてから,そのほかに子 どもが関心を持ちそうなもの (好きなも のや近くにあるもの) を描くように 2,3 回要求する。 ④ 見立て場面 観察者から「お母さんかこ うかな」などと円錯または円をお母さん に見立てて描く。それに対する子どもの 反応を観察する。 (3)-2 積木課題 ① 自由構成 積み木 10 個を対象児の前に呈 示し,どのように遊ぶかをしばらく観察 する。 ② トラック模倣 子どもに提示した積木の うち観察者用に積み木 4 個を取り寄せ, 子どもの目の前で一列に並べて一つを取 り残った積木の先頭にのせる。観察者か らの見立てはせずに,形から対象児が何 かを想像して見立てるかどうかを観察す る。 ③ 言語見立て場面 「人形のおうち作って」 と言葉のみで子どもが自力で見立てをす るかどうかを観察する。 ④ 人形呈示 子どもにも人形をわたし,「人 形のおうち作って」と要求して実際に作 るかどうかを観察する。 (3)-3 ごっこ遊び課題 ① 自由操作場面 描画・積木課題終了後ま まごとセット,ハンカチ,おはじきを呈 示し,子どもが主体的に展開する遊びの 様子を観察する。観察者は応答的に対応 するが,積極的な介入は行わない。 ② 人形呈示場面 人形を呈示し,「このお人 形さん〇〇ちゃん遊ぼうっていってるよ」 と子どもに誘いかける。子どもの遊びが 他者に関与するような遊び方に変化する かどうかを観察する。 ③ 言語見立て 言葉のみで「○○ちょうだ い」と要求して子どもが周囲にあるもの で見立てて応じるかを確認する。 ④ 観察者関与場面 観察者が自分の道具 (お玉と器) を用意して,子どもの遊ぶ傍 らでおはじきをすくって「お味噌汁飲も うかな」とおはじきを味噌汁に見立てて みせる。他者による見立てをどのように 受け止めるか,その後子どもの遊び方の 変化を観察する。 Ⅲ.結果 1.描画 〈M 児〉 ① 1 : 9 発声しながら,観察者にアピール をしてやり取りを楽しみながら描くことが主な 様子であった。観察者が共感して褒めると次第 に筆圧が強まり,描く範囲も広がった。② 1 : 10 横線を 1 本描いては観察者を見返し,褒め るとまた描く,を繰り返す。その後も,観察者
に合わせて,自分でも円や直線を描く。見立て を要求しても無視して描きつづけ,観察者が命 名を求めると拒否。③ 1 : 11 非常に細かい描 きこみをした。観察者が児の描出に対して反応 すると,児の方から“カサ”と見立てる。続け て描きながらさらに“オタキ”に見立てたが観 察者に伝わらず,そこで気持ちが途切れる。④ 2 : 0 観察者が思案してみせると,児の方から “ボール”を描くと宣言,描いてからオバケに 変 更 す る。⑤ 2 : 1 見 返 し が 減 り,紙 に 向 かって描く時間が長くなった。観察者の共感に “オオキイヨ”と報告し,その後描線を鉛筆で 押さえて確認する。母親を描くよう要求すると, “ママ,ママ”とつぶやきながら集中して描き, “イッパイママ”と見立てた。⑥ 2 : 2 「おか あさん描いて」の要求に応じて円を描き命名す る。その後は次姉,本人と児から描いて次々に 見立てる。児に要求すると拒否し,逆に観察者 に描くように提案する。観察者が大きさの異な る 2 つのオバケを描くと,それぞれ本人と母に 見立てる。⑦ 2 : 3 観察者を見返しながら自 ら円を描いて,“シイタケ”という。観察者が 褒めると,別の円を描いてその中に鼻と目を描 きこみ,足をばたつかせながら観察者をみる。 直後に激しくなぐり描きをして最初の描線を塗 りつぶす。⑧ 2 : 4 宣言して円を一つ描いて オバケに見立てる。直後に紙を押し返す。自分 から“サンカクシッテル?”と聞いてきて円を 1 つ描く。“サンカク”と言いながら角のある 描線を 2 つ描いてそれらを曲線でつなぎ,“ウ サギサン”と笑顔で見立て足をばたつかせる。 観察者が反応するとテンションが上がってそれ を覆い隠すように激しく塗りつぶす。 〈H 児〉 ① 1 : 10 観察者に対し緊張感を持つ。観察 者が反応すると,次第に描く範囲が広がる。描 き進めると児の方から“サカナ”と描線を見立 てる。観察者が褒めると,次々に描いては“サ カナ”“ウカータ (おかあさん)”にも見立てる。 「おかあさん描いて」の要求は拒否する。観察 者が大小の円を描きながらゾウとアリに見立て, それらを接着させて「お友だち」に見立てると 興味を示し,たくさん描くように要求する。② 1 : 11 自分で使おうと思った色鉛筆 (児のも の) がいつもの場所になく,そこから機嫌を崩 して泣き出す。③ 2 : 0 観察者との 1 対 1 は 拒否,姉と 3 人でする。家族を描くように要求 するが拒否するが観察者が描いた円を姉や本人 に見立てるとうれしそうにわらう。観察者が花 を描き見立てると,本人も指さして命名。以降 しばらく観察者の見立てを基盤にそれへの描き こみや,児による見立てが確認された。④ 2 : 1 ティッシュに鉛筆で描きこみ,観察者が褒 め,「何描いてるの?」と尋ねると N と答えた り,笑いながらティッシュが破れたことなどを 自分から伝える。紙に母親を描くように要求と 同時に自ら円を描き“ママ”と命名した。褒め るとさらに姉,観察者などをかき分ける。観察 者の見立てには興味なく,自分で円を描いて命 名。⑤ 2 : 2 観察の開始時から人形を離さず, 観察者に近づいてこずに観察者のことを無視す る。観察者が児の姉と遊びだすと近づいてくる が,観察者と視線が合うとすぐに離れて行って しまう。しばらく粘土で遊んだあと,母親に促 されて描画をやる気になる。母親に「ママ描い てよ」と要求されると,円錯の中につぶやきな がら対に“メ”“オクチ”を描いた後,“ママ” と命名する。⑥ 2 : 3 前半は気持ちがのらず, 母親と一緒にやりたいと要求。観察者が児の描 いた円の中に顔を描くと “アイス”“リンゴ” に見立てる。観察者が描くものを思案すると, 児から“ウサギ”と提案。誘うが拒否する。応 じて描くと次々に要求してくる。要求して描い てもらった大小のアンパンマンとバイキンマン をそれぞれ赤ちゃんと母親に見立てる。⑦ 2 : 4 紙全体を円錯で埋め尽くす。観察者がそば で描きはじめると急にうつむいて描くのをやめ る。児の好きなアイロンビーズの型取りをして 見せると気に入り,自分から場所や形を指定し て無言で視線を向ける。お化けを要求すると, 紙の中央部分から上下に直線を描き分けて 1 本 の直線を描き“ニョロニョロ”に見立てる。描 く際に,こぶしが紙にこすれる音を観察者がお ならに見立てると気に入る。わざと音を出した り,逆に音が出ないように鉛筆の持ち方を変化 させながら,長い時間をかけて観察者と遊ぶ。 ⑧ 2 : 5 鉛筆と紙による描画を拒否し,お絵 かきボードや色ペンで試し描きをしたがる。
2.積木 〈M 児〉 ① 1 : 9 積木をひとつ手にとり机にこすり つけ,残りの積木を両手でぐしゃっと崩す。 「人形のおうち作って」には,人形と観察者を 見比べて動きを止める。「お人形のおうち作ろ う」と観察者が要求すると,2 回,人形を積木 の塊の上に乗せようとするが,いずれも失敗し 観察者を見返す。② 1 : 10 観察者のトラック の上に積んでくる。1 つ積むごとに両手を挙げ て観察者に喜びを伝える。「M ちゃんのおうち 作って」と要求するとうなずき,両手に力を込 めて 2 つ積木をくっつけようとするが失敗し, 離席する。「人形のおうち」の要求の要求には 積木 1 つを人形に押し付けるが見立てない。③ 1 : 11 積木を出した直後に“タカイ”と言っ て積み上げようとするが,2 個目を積もうとし たときに急に押し返す。構成はないが,少し見 立てようとする様子が確認された。④ 2 : 0 始めから人形を強く要求する。積み上げの提案 には同意して 6 個積んでみせ喜ぶが,最後まで 積まずに途中で崩す。「うさぎさんのおうち」 を要求すると横一列に並べ,“オウチ”と命名 する。その後 “M チャンノ (オウチ)”と始 めの見立てを変更する。⑤ 2 : 1 積木を手に すると,自分から 2 つ積んで何かに見立て観察 者に伝えようとするがうまく伝わらず,3 つ目 を積もうとするがそれにも失敗してやる気を失 う。⑥ 2 : 2 積木をフライパンの中にいれて 遊び始めようとする。観察者の「後でしよう」 の提案に抵抗する。続行断念。⑦ 2 : 3 人形 を強く要求し,積木だけでは構成しない。観察 者がトラックを構成し人形をのせたものを「く るま」に見立てると,児が人形と残りの積木を すべて乗せきり,“デンシャ”と新たに見立て る。⑧ 2 : 4 1 回目失敗した塔を再度作ること を提案すると,児の方から“シカクツクロウ” と提案し,構成をし始めるが途中で嫌になり離 席する。観察者が見立てずにトラックを作り左 右に動かして見せると“バス?”と興味を示す。 観察者が人形を出して「人形のおうち作ろう」 と誘うと,積木の塊の間の隙間を“オウチ”と 見立て,そこに人形を押し込んで“ネンネコ” と見立てる。観察者の構成を家に見立てると, 児の方から再度“バスツクロウ”と提案する。 先のトラックを構成し,拍手して“デキター” と叫ぶ。人形を上に乗せて“ブーン”と言いな がら走らせる。 〈H 児〉 ① 1 : 10 積木 3 個〜5 個積み上げては崩す ことを繰り返す。その後,袋の中の人形を指さ して出すように要求。観察者「人形さんのおう ち」を要求するが,首を振りもじもじする。観 察者が強調すると積木の塊の上に人形を乗せる。 観察者が喜んでほめると,もう 1 体も隣に乗せ, “オーチ”と指さしながら命名する。② 1 : 11 観察者がもう 1 体を持ち,動かして児を遊びに 誘うと,児からも近寄せる。観察者が人形を塊 の上に乗せてその上を移動させると,動作模倣 して少し観察者を意識する。③ 2 : 0 観察者 がトラックを作ってみせると,その上に積み上 げはじめる (8 個)。「H ちゃんのおうちつくっ て」の要求にうなずき,積み上げに挑戦するが うまくいかずに嫌になり母親にもたれかかる。 別の人形 (K 式発達検査の犬) を見つけ積木 の塊の上に直接乗せ,初めに使っていた人形も 別の積木に乗せる。見立てはないが,母親の 「これはおうち?いす?」の確認にすべてうな ずく。④ 2 : 1 始めは人形を要求するが,観 察者の「あとで来る」の説明に納得する。「う さちゃんのオウチ作って」と要求すると 2 体同 時に積木の塊に息を止めて慎重に乗せ (失敗し て落ちるが再度乗せ切る),満足げに観察者を 見返す。尋ねると“オウチ”と答える。その後 も人形が落ちると再度乗せようとする。⑤ 2 : 2 観察開始時から観察者とのかかわりを持た ずに,人形で一人遊びをしていたため,実施を 断念。⑥ 2 : 3 積木を両手で微調整しながら 10 個積みきる。観察者がトラックの上に積木 を積みこみ “オフネ”に見立てる。観察者が 左右に揺らすが反応なく,自分で新たに凸 (3×3 の 上 に 1 つ の せ る) を 構 成 し て,“H チャンノオウチ”に見立てる。「おしまいにし よう」に首を振って終わりたくないという態度 を示す。⑦ 2 : 4 積木を出すとすぐに平面的 に田の字を作り,自分から“オウチ”と見立て る。観察者が田の字を作ってみせるとそれには 関心を示さずに自分で 3×2 の 2 段に積み上げ,
“カイダン”に見立てる。観察者がトラックを 作ってみせると,今度は“オフネツクッテ (ツ クル)”と宣言して,観察者のトラックを崩し て自分で 3 個積木を階段状に構成して“オフ ネ”に見立てる。⑧ 2 : 5 積木を非常に慎重 に積む。少しでもずれると初めからやり直すが, 積んでいる途中で急に崩したりもする。観察者 のトラックに全て積み込み凸 (3×3 の上に 1 つのせる) にする。人形を出して積木で家を作 るように後で要求するが,拒否して人形と積木 を交互に並べるのみ。 3.遊び 〈M 児〉 ① 1 : 9 移し替える遊びや自分へのふり遊 びなど,M 児ひとりの中で遊びが展開される ことが多い。観察者の要求には,その時持って いた積木や器を無言で渡し,観察者が喜んでみ せると本人も動作模倣をして笑顔で観察者を見 返し,2 人で動作を共有。見立てはなし。② 1 : 10 移し替える遊びに夢中になりながらも,と きおり観察者を見たり何か渡したり観察者を意 識している。観察者が皿をぬいぐるみの傘に見 立てるとそれを理解するが,袋を同様に傘に見 立てるとそれは認めず,皿を使えと差し出す (皿をかぶせて“カサ”と言う)。③ 1 : 11 お はじきを鍋に入れてふたをしてゆすり,その後 ふたを開けて観察者に完成したことを伝え,別 の容器に移し替えるという動作を組み合わせた 移し替えに変化する。人形を出すと,おはじき の入った器を口元に持っていったり,お玉で飲 ませるふりをするなど,人形への見立て遊びが みられた。ネットをタオルに見立て入浴場面を 再現し,観察者が腕,顏,頭を洗って見せなが ら M 児に誘いかけると,腕を伸ばす。笑いな がら嬉しそうな声をあげる。M 児の方からも “ミズ”と見立てを提案してしばらく入浴場面 を共有して楽しむ。④ 2 : 0 器におはじきを 入れて観察者に渡し,“チーズ”に見立てる。 手元のおはじきがなくなると観察者に渡したも のもとりあげる。人形の布団を要求すると,布 巾を見つけて観察者にアピールしてそれをかぶ せて上からトントンとたたく。観察者が味噌汁 を作ると宣言すると,“ケーキ”と M 児も思い ついたものをいう。⑤ 2 : 1 お風呂の要求に は応じずにおはじきで人形の頭をたたく。布団 を要求すると布巾を上からかぶせてトントンし た後,自分から布巾を取り去って観察者を見返 す。積木とウサギの人形を要求して取り出し, 積木の隣に横たわらせ“ネンネコ”と見立てる。 ⑥ 2 : 2 観察者におはじきを入れた器を渡し て“オミソシル”,“コンニャク”などとみたて る。観察者が「(人形が) 眠たい」と言うと, 床に敷いた布巾を指さして“ココデネイ”と提 案し,布団を要求するとおはじきの袋を布団に 見立てる。⑦ 2 : 3 おはじきの袋を人形にか ぶせて上からトントンとたたき,“ネンネコシ タハル”と見立てる。おはじきを鍋に入れてか らふたをして上下にゆすり,ふたを開けて“デ キテル”と完成を観察者にアピールし,“カ レー”に見立てる。鍋とコップを並べ,その上 から布巾をかぶせて“ミンナコレ (布巾を指さ す) ナ,ネタハル”と見立て,布巾を取り去り “デキテル”と見立てる。人形を観察者に手渡 して,人形を扱って遊ぶように M 児から要求 する。人形のトイレを要求するとコップを差し 出して便器に見立てる。M 児から“オモチツ クッテ”と要求し,自分では“オニギリ”と言 いながら,両手でおはじきを握る動作をする。 ⑧ 2 : 4 おはじきが入った鍋にふたをする→ 上下にゆする→ふたを取って器からフライパン に移し替え,お玉で少しかき混ぜて床に敷いた 布巾の上に置き “ゴハン”と見立てる。黙々 と移し替えをして,観察者が「(人形) 起きよ うかな」と言うと,応じて人形を起こし布巾を たたむ。フライパンをお風呂に,布巾をタオル に見立てる。「(人形) 眠たい」と言うと布巾を 広げて人形にかぶせ,子守歌を歌い“コレアカ チャン”と観察者に伝える。自ら“ネルジカ ン”と言って人形を布巾の下に入らせ,トント ンしながら人形に何かを話しかける。途中何度 か人形をトントンして気にかけるそぶりを見せ, 人形になったつもりで“ガーゴーガーゴー”と いびきの真似や,“アーツカレター (と言って 人形が起きる)”と言って観察者を見返し,布 巾を取り去る様子も確認された。 〈H 児〉 ① 1 : 10 おはじきやクリスタルブロックを
観察者に袋が空になるまで一つずつ渡す。人形 の足を持って振り回したり床に投げつけたりす る。人形がご飯を要求すると,おはじきを人形 の口にあて次々におはじきをあてる。お風呂の 要求に,洋服をひっぱって脱がせようとする。 ② 1 : 11 おはじきを入れ替えたり,手で混ぜ たりする。観察者が H 児の真似をすると,首 を振ってカップを H 児の背後に隠す。人形に ご飯を要求されるが応じずに,お玉で袋からお はじきをだし,カップに移し替える動作を繰り 返す。人形は使わず動作の模倣を中心に互いに 遊びが続けられる。③ 2 : 0 器からお玉で皿 と別の器に移し替える。鍋におはじきを入れ, ふたをしてゆすり,ふたを取って器に移し替え る,という動作をしばらく反復させる。人形を 出すとうれしそうな顔をして手に取る。抱っこ した後に人形を逆さに向けて靴を履いているこ とを観察者にアピール (“クク”といって観察 者を見る)。人形に食べものを要求すると人形 の口に満杯のコップを当てる。④ 2 : 1 おは じきや透明のブロックを母親がゼリーに見立て て食べるふりをして,母親が H 児にブロック を手渡すと,H 児も母親のひざに寝そべった まま食べるふりをする。色や味への関心で,観 察者や母親が「何味かな」「これすっぱい」な どと味見をしてみせると,H 児は嬉しそうに 笑い,色つきのブロックを観察者に渡して“コ レハ (何味)?”と反応を求める様子も確認さ れた。⑤ 2 : 2 観察自体を拒否したため,粘 土,描画のみ実施した。遊びは実施しなかった。 ⑥ 2 : 3 母親が H 児に何をしているのかを問 うと,“オニギリ”と活動を見立てる。それか らはあまり周りに注意を払わずじっくり時間を かけて移し替えをする。人形が眠たいと主張し て布団を要求すると母親を見返して首をふる。 母親が折り紙を見せて「これは (これを使った ら)」と提案すると,少し笑い,人形の上にか ぶせる。⑦ 2 : 4 フライパンのなかにあらか じめ折り紙が入っていて,その上におはじきを 再度入れ替える。フライパンから器に移しかえ る時は“エビ”,その逆を“オチャ”に見立て る。人形を出すと自ら“ニンギョウサンアゲ ル”と人形の口におはじきをあて,“エビ”に みたてる。「人形さんお布団欲しいって」と要 求すると,折り紙を上からかぶせ,観察者が 「お布団してくれたの」と確認するとうなずく。 さらにトイレを要求すると,本当のトイレに連 れて行って用を足しに行く。「カレー」を要求 されると,器をお玉でかき混ぜ皿に入れてス プーンを添えて観察者に差し出す。“オネエ チャンニアゲル”とおはじきを皿に入れて観察 者に渡し,“エビ”にみたてる。⑧ 2 : 5 観察 に入る前にアンパンマンのおもちゃを触ってい て,観察者が示す課題に興味を示さないため, 遊びの課題を実施せず。 Ⅳ.総 合 考 察 上記の児別の見立ての成立過程をまとめたも のが図 1・2 である。 1.M 児 課題間比較 (描画) 大きく 3 つの特徴的な時期に分けら れる。第 1 期① 1 : 9〜② 1:10 見立て出現以 前期,第 2 期③ 1:11〜⑥ 2 : 2 外発的見立て 期〜内発的見立て誘発期,第 3 期⑦ 2 : 3〜⑧ 2 : 4 内発的見立て期である。 (積木) 積木課題でも 3 つの時期に分けられ, 図 1 課題間見立て成立表 (M 児)
第 1 期① 1 : 9〜② 1 : 10 の見立て以前期,第 2 期③ 1 : 11〜⑦ 2 : 3 外発的見立て〜不安定期, 第 3 期⑧ 2 : 4 内発的見立て期である。 (遊び) 遊びでは,大きく 4 つの時期区分に 分けられた。第 1 期は① 1 : 9 の見立て以前期, 第 2 期は② 1 : 10〜③ 1 : 11 の外発的見立ての 出現期,第 3 期は④ 2 : 0〜⑥ 2 : 2 内発的見立 ての出現期,第 4 期は⑦ 2 : 3〜⑧ 2 : 4 内発的 見立て拡大期である。 3 つの課題を比較してみると,3 課題の中で 最も内発的見立ての出現が早いのは遊びで,M 児の場合④ 2:0 で確認された。これは,遊び 課題の特性として,①細かな手操作が見立ての 成立に影響されにくいこと,②日常生活動作の 再現の中で見立てられることが多く,普段から なじみのある活動であることが要因だと考える。 描画では,完全な内発的見立てが出現したのは ⑦ 2:3 であったが,④ 2:0 ごろから外発的見 立てに誘発されて内発的見立てが出現する,と いう場面が少しずつ確認されるようになってき ていた (表の点線部分)。このことから,④ 2: 0 ごろから,内発的見立てと外発的見立てが混 在する段階を経て内発的見立てが出現するよう になると考えられる。3 課題の中で最も内発的 見立ての出現が遅かったのが積木課題の⑧ 2: 4 であった。積木課題は手操作の巧緻性が見立 ての成立にもっとも影響をおよぼす課題である という意味で,遊び課題とは対照的である。こ れは,見立てと構成が相互に関連しあうまでに 時間がかかったためと考えられる。外発的見立 て期は,内発的見立てに至るまでの過渡期であ り,構成と見立てを統合させることに時間を要 したことや,それによって活動そのものへの意 欲が影響を受けやすい不安定さを持った時期で あると考えられる。 遊び課題は他の 2 課題に比べて外発的見立て, 内発的見立ての出現ともに早く,⑦ 2:3 から は内発的見立ての増大 (動作の連結の拡大) が みられた。M 児の場合は,遊びにおいて活動 への関心も高く,見立てが広がりやすかった。 普段の生活で姉たちと一緒に遊ぶ中で,姉たち がするままごと遊びの経験が活動への意欲につ ながり,見立ても出現しやすかったのではない かと考える。 2.H 児 課題間比較 (描画) H 児の場合は,M 児に比べて見立て の成立プロセスに特徴的な変化を見出すことが 困難であったが,その中でも,見立てが成立し ていく過程を大きく 3 つの時期に分けてとらえ られると考えた。それは,第 1 期① 1 : 10〜③ 2 : 0,第 2 期④ 2 : 1〜⑤ 2 : 2,第 3 期⑥ 2 : 3〜 ⑧ 2 : 5 の 3 つである。 (積木) H 児における見立ての成立プロセス は 3 つの時期に分けられる。第 1 期① 1 : 10〜 ⑤ 2 : 2 外発的見立て〜不安定期,第 2 期⑥ 2 : 3〜⑦ 2 : 4 内発的見立ての出現期,第 3 期⑧ 2 : 5 構成優位期である。 (遊び) H 児は手操作の器用さから,粘土や 折り紙など素材を直接扱う遊びに集中すること が多く,そのあとの遊びの課題 (たいてい最後 に実施していた) になるとやや疲れてしまい, 遊びに使用する時間がそれほど多くはなかった。 そのため子どもの多様な遊びの種類を確認する ことが十分にできず,質的な変化を取り出すこ とが M 児に比べて困難であったが,第 1 期① 図 2 課題間見立て成立表 (H 児)
1:10〜② 1:11 の見立て以前期,第 2 期は③ 2:0〜④ 2:1 の外発的見立て期,第 3 期が⑥ 2:3〜⑦ 2:4 の内発的見立て期をとりだすこ とができた。 3.H 児の遊びにおける外発的・内発的見立 ての比較 次に,ⅰ) 外発的見立ての出現,ⅱ) 内発的 見立ての出現と,特に遊びにおける内発的見立 てについて,他の課題と比較しながら考察を加 える。 ⅰ) 外発的見立てについて H 児の場合は,見立て以前の感覚運動的行 動がみられたのは遊びのみにとどまり,ほかの 2 課題は,観察開始時から外発的関与による見 立てが確認された。H 児の場合は,手指操作 や言葉の認識において比較的発達が早く,1 歳 後半から構成や描線とみたてとの関連性を理解 し,関心を持っていたのではないかと考える。 これによって,感覚運動的行動ではなく,自分 の知っているものや好きなもの (母親やサカ ナ) を,描線や積木などの媒体で表現すること の楽しさを感じ取っていたのではないかと考え る。積木では,M 児と同様に① 1:10〜⑤ 2: 2 まで長い間,外発的見立て期〜不安定期が続 き,その間は構成と見立てがそれぞれ独立して いて,構成と見立てが関連しあう場面が確認さ れなかった。積木における外発的見立て期〜不 安定期は子どもにとって構成と見立てを結びつ けることが困難な時期であり,また人形という 外的要因によって活動への意欲そのものが影響 を受けやすい時期であったのではないかと考え る。 ⅱ) 内発的見立てについて 内発的見立ての出現が最も早かったのが描画 の④ 2:1 で,積木と遊びでは⑥ 2:3 に確認さ れた。描画では④ 2:1 のときに円が出現して いることから,内発的見立ての出現には手先の 巧緻性の高まりと命名の両方が重要な要素であ ると考えられる。遊びについては,H 児の場 合,内発的見立てが確認されたのが M 児ほど 早くはなかった。これは,H 児の特徴である 集中力の高さが影響しているのではないかと考 える。H 児はいったん活動を開始すると,周 囲の状況に左右されずに操作的な活動に没頭し やすい傾向があり,特に遊びの場面で顕著で あった。そのため,活動場面では移し替えに没 頭して観察者の関与にあまり関心を示さない場 面が,内発的な見立てが初出した⑥ 2:3 ごろ まで確認された。遊びの場面は,単位ごとの動 作の組み合わせで組み合わせの幅は広がるが, 単一の動作それ自体の自由度はそれほど高くな い (例えば,移し替えの動作そのものにおいて は使用する道具はほぼ一定であるが,移し替え と配分と人形へのふり,のように動作の組み合 わせは無限である)。H 児の場合,動作が組み 合わされることによる見立ての展開は多くなく, どちらかというと単一の動作を繰り返すことが 多かった。一方,積み木や描画は素材自体がシ ンプルであり,一つの動作から生み出される活 動の幅が手先の巧緻性に伴って拡大する課題で ある。そのため,手操作の向上にともなって自 在に素材を操ることができ,さまざまに表現す ることができる描画と積木の課題の方が,H 児にとっては関心の中心になりやすかったので はないかと考える。 4.各課題の特徴と見立て 最後に,M 児・H 児別の考察をもとに,そ れぞれの課題が持つ固有性について総合的な考 察を行う。3 つの課題の中で,最も早く内発的 見立てがみられたのは M 児の④ 2:0 であった。 これは,遊びが子どもにとってなじみのある課 題であると同時に,活動の主導権を子どもの主 体性に任せた部分が他の課題に比べ大きかった ことから,より自由な遊びを引き出す結果につ ながったためと考える。一方で,H 児の場合 は一つの行動に集中しやすく,必ずしも遊びに 自由度の高まりを見出せずにいたことが,内発 的見立ての出現をやや遅らせたのではないかと 考える。遊びでは,より概念的で抽象的なイ メージが広がった結果複数の活動が組み合わさ れてその全体を見立てるように変化していった ことが特徴的であった。たとえば,鍋をかきま ぜて「カレー」を作る動作をしながら,それを 今度は机の下に置いて「焼く」場面に見立てた りするように,見立てが連続して行われるよう になっていった。遊びで使う道具はある程度使
用目的が限られていて,それに対して複数の意 味を付与するよりは,活動を組み合わせること で見立ての幅が広がっていくのが遊びの特徴と 言える。 描画もまた活動自体の自由度は比較的に高い 課題であると考える。見立てがない段階の感覚 運動的に手を動かしたときの偶然の変化を楽し むレベルから,目的を持って自分で描いたもの を見立てることの楽しみ方まで,それぞれの段 階に応じた楽しみ方が存在することが描画活動 の特徴である。その自由度の高さの中で子ども がいかに見立てを成立させていくのかというこ とを解明することが本研究の目的でもあった。 両児とも,2:0 ごろに円を描けるようになっ ていて,円に対して見立てを付与することが自 力で可能になっていくのが,M 児で⑦ 2:3 (④ 2:0 時から外発的と内発的見立てが連続し てみられていた),H 児で③ 2:0 であった。 一方で,描いたものの上からそれを消すように 紙全体を塗りつぶす行為や,観察者に描画を依 頼する場面が出現し,見立てるようになること が,必ずしも活動の積極的な側面だけをあらわ すとはいえない姿がみえてきた。これは,前者 は描いたものを見立てられるようになる,新し いことができ始めたときにそれを観察者にどう 評価されるかに敏感になり,結局塗りつぶすこ とでその評価を回避しようとする子どもの不安 定な心境の表れではないかと考える。後者は毎 日の生活の中で,絵と実物の類似性に注目する ことができるようになってきていて,それを実 現できないことへのもどかしさのようなものを 感じるようになってきたのではないかと考える。 そして,自分ではできない分を他者の力を借り て実現しようとする行動が,他者への依頼に含 まれているのではないかと考える。 最後に積木課題であるが,この課題の特徴は, 両児ともに外発的見立て期〜不安定期が他の課 題に比べて長く続いたことである。この時期は, 先述したように人形への強い関心を示し課題の 最初からそれを要求することも多く,それがな いと活動自体を拒否するようなマイナス的な要 因になった一方で,積木だけではどうしたらい いのかわからなかったものが,「人形さんのお うちを作る」ための積木であるという,要求の 意図理解を助けるプラスの役割もあった。この ことから,外的な要因が活動への取り組み方を 大きく左右する時期であったことが推測される。 ところで積木課題で人形を出す際の両児の要 求のしかたと観察者の反応について,見立ての 理解の観点から少し分析を加えておく。両者に とって人形が強いインパクトを与える時期が あった。積木を出す前から人形を要求したのが M 児で④ 2:0,⑦ 2:3,⑧ 2:4,H 児の場合 は④ 2:1 でみられた。いずれも,両児は観察 者のかばんを指さしたり,実際にかばんのそば まで行って“ピョンピョン”“ウタギタン (ウ サギサン)”などと言いながら出すように要求 したが,観察者は言い訳をしてすぐには人形を 出さなかった。その際,例えば観察者が「うさ ぎさんないよ」と人形の有無をそのまま言わず に「うさぎさんご飯食べてはるから後で来る よ」「今寝てはるしちょっと待っといて」など と見立てを含めた言い方に少し変化をつけた。 こうした見立てを伴った説得に対し,M 児で は⑧ 2:4 の時点で,H 児では④ 2:1 の時点 で納得した様子をみせた (M 児の場合はうん うん,とうなずいていったんは積木のみで遊ぶ がしばらくすると再度人形を要求した)。この ことから,両児とも少なくとも 2 歳前半には人 形が「ご飯食べる」「眠たい」などの主体を 持っているということが理解できる段階にあり, より広い範囲まで想像力が広がってきている証 ではないかと考える。 技術的な面では,「おうち作る」の意味は分 かってなんとかしようとするが構成が伴わな かったり,構成を見立てようとするがうまく積 み上げられずに気持ちがくじけてしまったり, 見立てと手先の器用さがそれぞれ出現しかけて はいるが両者が拮抗しあってうまく連携するこ とができなかった時期でもあった。このことか ら,積木課題における外発的見立て期〜不安定 期は手先の巧緻性の成熟と見立ての関係が最も 密接に影響しあう課題であり,また人形という インパクトのある要因によって子どもにとって 活動そのものを方向付けた時期であるといえる。 そのような複数の要因が複雑に影響しあう時期 を経て,2:3〜2:4 くらいの時期から技術的 な矛盾も解消され構成することを楽しむことが
できるようになってくることで,見立てること も安定してできるようになってくると考える。 このように,技術的な不安定さによる矛盾があ りながらも,見立てという想像的な行為によっ て,他者の意図と折り合いをつけることが可能 になるなど,他者との関係での柔軟性をもつこ ろができるようになると考える。 一方で積木課題では,操作性が発達するとと もに,操作そのものに子どもが手ごたえや楽し さを感じ,イメージとのつながりをあまり必要 としなくなる時期もある。そのときに他者が無 理に意味づけを求めたり要求したりすると,活 動そのものへの意欲が減衰してしまう危険性も あることが考えられる。子どもがどのレベルで 構成や見立てをしようとしているのかを,かか わるものは見極める必要がある。 5.本研究の意義 以上の結果・考察から本研究の意義を 3 点に まとめる。まず 1 点目は,本研究において見立 てを外発的見立てと内発的見立てに区別するこ とで,子どもの見立ての成立過程をより明確に できたことである。先行研究では,大人と子ど ものどのような関係性の変化が見立てに影響を 及ぼすのかがあきらかではなかった。その点で, 本研究で大人と子どもの関係性に着目して各遊 びを分析したことは,子どもの見立て成立にお ける質的な変化を取り出す一つの指標となりえ るのではないかと考える。 2 点目は,描画・積木・見立て遊びの 3 つの 質の異なる遊びを比較することによって,見立 ての成立が一律ではなく,それぞれの遊びがも つ固有の特性によって出現時期やあらわれ方が 異なるということがわかった。そのことによっ て,かかわる側が多様に遊びを呈示することや 子ども自身の遊びが多様であることが重要なこ とであると考える。 3 点目は,子どもの主体性を大人がどうとら えるかが,見立ての成立にかかわるということ であった。時期によっては,情動的に子どもの 活動を受け止めることが見立てを促進すること もあれば,あまり影響がなかった時期もあった。 常に同じように子どもの活動を共感的に受け止 めたり褒めたりするのではなく,目の前の子ど もがそのときに何に手ごたえを感じているのか を常に意識しながら共感することが重要である と考える。 引 用 文 献 小椋たみこ (1988) 初期言語発達と事物操作の関係 についての縦断的研究 教育心理学研究 36 19-28 岡本夏木 (1991) 児童心理 岩波書店 星三和子・栗山容子・蓮見元子・日笠摩子 (1988) ものを使う遊びにおける象徴機能の発達的水 準 教育心理学研究 36 345-351 新見俊昌 (2010) 子どもの発達と描く活動―障害児 教育現場へのメッセージ かもがわ出版 Ph.ワロン,A.カンビエ,D.エンゲラール著 加藤義信・日下正一訳 (1995) 子どもの絵の 心理学 名古屋大学出版会 菅沼嘉弘 (1988) 絵とことば ―描画の発達過程に おける両者の相関関係― 鳥取大学教育学部 研究報告 教育科学 30(2) 243-251 鳥居照美 (1984) 乳幼児の発達と美的能力 青木書 店 山形恭子 (2000) 初期描画発達における表象活動の 研究 風間書房 山形恭子 (2002) 描画と表象 梅本堯夫 (編) 認知 発達心理学―表象と知識の起源と発達 培風 館