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水晶を染めた模造宝石 利用統計を見る

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水晶を染めた模造宝石

(昭和58年8月31日受理)

滝貞男 山下久雄 尾崎行雄

Imitation Gems of Dyed "Crackled" Quartz

SadaoTAKI HisaoYAMASHITA YukioOZAKI

      Abstract  Physical properties of gemstones called“quartz emerald”,“quartz ruby”and“quartz sapphire”were examined. The properties were identical with those of quartz and it was concluded that they were dyed“crackled”quartz crystals. Measurements of transmission curves of gemstones and absorption spectra of dyes extracted from them were carried out. As the result, they showed remarkable differences in comparison with natural stones. 1. まえがき  宝石にはそれぞれ固有の魅力があり,とくにその色 の美しさは格別であるが,良質の天然石がまれなた め,古くから低品質の天然石の処理,主として色の改 善が行われてきた。その方法として 1. 2. 3. 4 加熱処理による着色,脱色 放射線照射による着色 染色,含浸処理 塗料,コーティング等による表面処理 などがある。  加熱処理による色は安定しているので,その多くは 天然石として取引されている。放射線による着色は不 安定な場合もあるが,それを除けばとくに問題にはな らない。そして,これらの変化は自然界においても起 こっているものと推察される。  染色,含浸処理,表面処理によるものは一般に価値 が低く,鑑別上もとくに問題になることはない。しか し,染料による着色は容易であり,しかも染料を適当 に選ぶことにより目的とする色調を出すことができる ので,時に天然石を染めた巧妙な処理石が市場に出る ので注意を要する。エメラルドを油溶性染料で染め, *無機合成研究施設,The Institute of Inorganic Syn−  thesis ** R梨県立研磨工業指導所,The Yamanashi Prefecture  Lapidary Research Institute かつ傷を隠すことは古くより知られており,ジェダイ トをよい色調の緑に染めたり1),無色ベリルの亀裂に 染料を浸透させてエメラルドに似せる2)などその例は 多い。これらの場合,屈折率その他の特性値は各宝石 と一致するが分光特性に差異を見出すことができる。 一方,別の鉱物を染めて作る模造宝石の例もかなり多 い。石英を用いた例として,台湾製のクォーツァイト を染めた模造ジェダイト3)および模造エメラルド4)は 非常によいでき栄えと報告されている。また,結晶性 クォーツを染めたコーリアンエメラルドは天然石に似 た魅力のあるものと言われている5)。しかし,いかに うまく作られていてもこれらの本体は石英であるので 鑑別上他の石と誤ることはないはずであるが,現実に は流通段階で天然石と紛らわしく,取扱いに慎重を期 さなければならない6)。  我々は水晶を染めた模造宝石を入手することがで き,観察,調査を行ったので報告する。この種の研究 は少なく,鑑別上,流通段階での取扱上,あるいは染 色技術の他への利用上意義あるものと考える。 2. 試 料  試料は韓国から輸入された3種類のルース(裸石) で,クォーツエメラルド,クォーツルピー,クォーツ サファイア(以下それぞれQエメラルド,Qルピー, Qサファイアと記す)と名付けられエメラルド,ルビ ー,サファイアの代用として用いられている。

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 Qエメラルドはエメラルドカットに研磨されてお り,3.5mm角∼7×9mmの各サイズのものを入手し

た。QルビーおよびQサファイアは4mm角のエメラ

ルドカットおよび4×6∼7×9mmのオーバル・ブリ リアントカットに仕上げられたものである。 3. 実験および結果  3.1試料の同定  粉末X線回折の結果,試料はいずれも石英であるこ とが明らかとなった。また,比重2.65,屈折率1.54 ∼1.55,硬度7で,一応透明石とみなすことができ, 試料が水晶であることを裏付けている。  3.2 外観  Qエメラルド,Qルビーはそれぞれ最高級の良質の 図一1 クォーツエメラルドの亀裂(暗視野,×7) (a) (b) 図一2 テーブル面より見た亀裂の模様(×5) エメラルド,ルビーを思わせる素晴しい色調を呈して おり,Qサファイアはオーストラリア産サファイアに 似た濃青色をしている。一見,石全体に色がついてい るように見え,透明感もかなり良い。  しかし,ルーペで観察すれば石自身は無色透明であ るが,着色物で満たされた無数の亀裂からなっている ことがわかる。図一1は暗視野でこの亀裂を撮影したも のである。時に空気層が残っていて,光を白く全反射 する大きな亀裂を含むものもある。着色した亀裂のな す模様は複雑で,図一2に示す網目模様(a)や流線模 様(b),あるいはその中間のさまざまな形をなしてい る。以上の状況は注意すれば肉眼でも認められ,石を 水などの液に浸してみれば観察は一層容易である。亀 裂の模様は石の結晶学的方位と関連があると思われ (a) (b) 図一3網目模様の亀裂(×20) 図一4 テーブル面に直角な薄片の着色状況(×10)

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る。偏光にょる検査では石の方位はまちまちであっ た。全般的に,着色された亀裂は人為的に作られたも のと結論づけることができる。網目模様の試料の薄片 の顕微鏡写真を図一3に示す。また,テーブル面に直角 に切断して観察すると,周辺は色がついていなくて色 の濃い部分は中央のみであることがわかる。その様子 を図一4に示す。パビリオン側から見るとガードル部分 の色が抜けているのが観察される。テーブル面から見 た場合(a)は網目模様を,(b)は流線模様を示し ており,見る方向により網目模様になったり流線模様 になることがよく分かる。  3.3 顕徴鏡によるファセット表面の観察  微分干渉顕微鏡により各ファセット表面に現れてい る亀裂を観察した。結果の一部を図一5に示す。亀裂は きわめて細く,複雑な形をなしてつながっており,写 真に見られるようにテーブル面ではパビリナンより亀 裂が大変少ない傾向が認められた。走査電子顕微鏡に よる亀裂の写真を図一6に示す。亀裂をはさむ両側は角 が鋭く,よく対応しており,亀裂のある原石を研磨し たのではなく,研磨仕上げした後に亀裂を入れたもの であることが明らかである。このことは微分干渉顕微 鏡観察からも認められる。  図一6の亀裂の中に板状物質が認められるが,染色後 図一6走査電子顕微鏡による亀裂の写真 何らかの処理がなされていることを物語っている。 図一4から分かる着色が石の中央部のみであることは, いったん染色した後外周部の染料を除去したものとみ られるし,また表面処理はそれとあわせて染料の溶出 防止につながるものであろう。  3.4 ルースの透過率の測定  分光光度計により試料ルースの透過率を測定した。 比較のため天然のエメラルド,ルビーおよびサファイ アについても測定した。結果を図一7∼12に示す。  Qエメラルドは緑色光をよく透過するが,青から 紫,黄から赤にかけて吸収が大きくなり,673nmに 明らかな吸収ピークがある。また赤色部はまったく透 (a) クォーツエメラルドのテーブル面

(c) クォーツエメラルドのパビリオン (b) クォーツルビーのテーブル面         (d) クォーツサファイアのパビリオン       図一5 微分干渉顕微鏡による亀裂の観察写真

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§ ξ § § § 塁 § § § 塁 § § 300        400        500       600        700        Wavelength(nm)   図一7 クォーツエメラルドの透過率曲線 300        400        500        600        700        Wavelength(nm)    図一8天然エメラルドの透過率曲線 300        400        500        600        700         Wavelength(nm)    図一9 クォーツルビーの透過率曲線 § 塁 墓 ξ § 塁 § ξ § ξ § ξ       500    600     Wavelength(nm) 図一10 天然ルビーの透過率曲線 300        400        500        600        700         Wavelength(nm)   図一11 クォーツサファイアの透過率曲線 300        400        500        600        700         Wavelength(nm)    図一12天然サファイアの透過率曲線 過しない。これに反し,エメラルドの透過率曲線には 430および600nmを中心とする吸収があり,緑の他 に紫外および赤の一部を透過している。また,クロム による典型的な吸収ピークが680nm付近および472, 637nmに見られるのもエメラルドの特長である。  天然ルビーには紫および緑から黄にかけての吸収帯 があり,青および赤の光を透過するのに対し,Qルビ ーは紫のいくらかと赤以外はほとんど吸収している。 また,図一10の468,477,659,668,694nmの吸収 ラインはルビー特有のラインである。  Qサファイアは紫から緑にわたり透明で,570,675 nmに吸収が見られる。天然サファイアでは紫から青 にわたり透明で,サファイアの特長の鉄による387, 450・nmの吸収が認められる。  3.5染料の溶出およびその吸収スペクトル  粉砕した試料に溶剤を加え,染料の溶解性を調べた。 その結果を表一1に示す。溶解性についてはそれぞれ異 なっているが,N, N’・dimethylformamid(DMF)お

よびTetrahydrofuran(THF)により3者ともその

染料が溶出された。THFによる抽出液の吸収スペク トルを図一13∼15に示す。Qエメラルドの場合は604, 672nmに吸収ピークを持ち,緑色光を透過する染料 である。Qルビーでは537 nmにピークを持つややブ ロードな吸収で600nm以上を透過し,また紫を幾ら

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表一1 溶剤による染料の溶出

溶剤Q−・ラルドIQ・レビー IQサ・・イア

  水 メタノール アセ トン エーテル ヘキサン ベソゼ’ソ 四塩化炭素

 DMF

 THF

× × × × × × × ○ ○ × ○ ○ × × ○ × ○ ○ × ? ○ × × ○ ○ ○ ○ § 毛 』 < ○:可溶  ×:不溶 か透す。Qサファイアは560,605,673 nmに吸収を 持つ染料で紫,青を透過している。これら染料の可視 部の吸収特性はルースの透過率測定結果とよく一致し ている。紫外部における吸収曲線はいずれも277,284 nmにベンゼン核による顕著な吸収ピークを示してい た。  3.6加熱による色の変化  、f  染料を用いた場合,とくに大事なのは光による退色 な菖の染料堅牢度である。加熱による色の変化を調べ た結果次のとおりであった。  Qエメラルドの場合230°C以下では変化なく,250° C,9時間で深緑色になり,270°C,10時間あるいは 300°C,短時間で黒味がかった緑に変化し,300°C,6 時間で黒色となった。Qルビーは180℃以下では変化 がなかったが,190CC,1時間で赤色が薄くなり始め, 6時間で黄色に変化し,200°Cでは3時間で黄色に変 化した。Qサファイアは230℃以下では変化なく, 250°C,3時間で色が薄くなったのが認められ,9時間 でかなり黒味を帯びていた。すなわち,Qエメラルド およびQサファイアの染料は230°C以下では変化な く,それ以上で分解して黒色となり,Qルビーの場合 は180℃以下では変化ないが190°C以上で分解,黄 色に変化する。 4. ま と め  輸入のエメラルド,ルビーおよびサファイアの模造 石を調べたところ,水晶に亀裂を入れ,染料で染めた ものであることが分かった。亀裂に特長があり,石の 特性値からも鑑別上問題点はない。染料で着色された ものであるから吸収スペクトルによっても模造石であ ることが容易に判別できる。また染料の有機溶剤によ る溶出,加熱による分解を調べた。  なお,光による退色性について長期間の実験を継続 中であるが,Qサファイアがもっとも変化し易く,比      400     500     600     700     800          Wavelength(nm) 図一13 クォーッエラメルド染料の吸収スペクトル(THF) § 喜 』 <     400     500     600     700     800          Wavelength(nm) 図一14 クォーツルビー染料の吸収スペクトル(THF) § ξ 』 <      400     500     600     700     800          Wavelength(nm) 図一15 クォーツサファイア染料の吸収スペクトル(THF) 較的短期間の直射日光により明らかに紫色を帯び,青 色も幾分薄くなった。この際Qエメラルドはわずか に黒ずんだ感じの緑色に変わった。  終わりに,有機溶剤による染料の溶出およびその吸 収スペクトルの測定についてお世話になった本学教育 学部化学教室広瀬裕子教官に感謝する。 1) 2) 3) 4) 5) 6)

参考文献

並木:宝石学会誌,3,p.77(1976),4, p.176(1977) 並木:宝石学会誌,4,p.178−180(1977) 並木:宝石学会誌,1,p.90(1974) 並木:宝石学会誌,4,p.85(1977) 並木1宝石学会誌,6,p.44(1979) 並木:宝石学会誌,1,p.91(1974)

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