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社会福祉理論の再検討 一孝橋理論の克服のための一試論一

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1

社会福祉理論の再検討

一孝橋理論の克服のための一試論一

山   手    茂

はじめに      もかかわらず,現実には薄手の概論書や啓蒙書,

あるいはジャーナリスティックな評論などが氾濫 現代日本の社会福祉理論は・現実の社会問題 @ していると判断する著者の不満と焦立ちが表現さ 社会福祉の発展に照らしてみると・停滞し混迷し  れている。このような社会福祉理論の現状に対す て・・る・本稿においては・この状況を再翻した る総括的.全面的な批判}こ止まらず,さらに具体 上で,その重要な原因のひとつになっている孝橋 的で内在的な理論的批判についてもみておくこと 理論を批判的に検討し・それを克月艮して・今後の が腰である。    

社会福祉研究を創造的に発展させるための方法論   戦後1社会事業理論をマルクス主義社会科学の 的諸課題を検討する。      立場に立って構成してきた代表的な理論家である

1 現代日本における社会福祉理論    孝橋正一は,現代日本の社会事業学界の状況を次 の混迷      のように批判している。

現代日本においては,社会福祉理論は,現実の    「戦後日本の社会事業学界は相変わらず停滞 社会福祉問題の発展およびそれに対応する社会福   と混乱を繰り返し,むしろその拡大再生産を行 祉施策の進展に比べ,著るしくたちおくれ,混迷   なっているとも見られよう。……現代日本の社 している。このような社会福祉理論の状況は,す   会事業研究の低水準性と混迷の原因は,なぜ,

でに多くの研究者によって指摘されているが,こ   どこに,存在するのであろうか・いうまでもな こではそれらのうち代表的なものをとりあげ,最   く,そこには分析的に解明されるぺきさまざま 近の状況への認識を明確にしておこう。      の要因が働いていると言えようが,たとえば科

副田義也は,その編著『社会福祉の社会学』の   学の名において科学以前の論理体系が通用させ

「はしがき」において,社会福祉研究の現状を次   られたり・実践の名において真実の実践,つま のように批判している。       り,いまの場合,社会的実践が忘却されたり,

「私たちの社会における社会福祉の諸研究は   その指針であるはずの理論が軽視ないし無視せ 概論過剰,制度解説過剰,ジャーナリスティッ   られたり,逆にあらぬ理論がその実践性を言葉

クな問題意識過剰によって特徴づけられていま   の綾として主張することが通用させられたりす す。……概論をよんで概論をかくといった不毛   ることと決して無関係ではない。関連的にま な概論再生産の盛況,あるべき社会福祉めいた   た,主体性を強調する姿勢をとりながら・いや 諸制度の非現実的な解説の氾濫社会福祉の現   それゆえにこそ理論の客観性(客観的な真理)の 実のトータリティの撰轍轡て・もはやス 認識を怠ったり・とんでもない方向で社婿業 eロ・タイプとなった告発……」        の主体性を主張したりしていることが多い。」

この批判には,社会科学的(実証的・体系的)   孝橋は,以上のように社会事業理論=社会福祉

な社会福祉研究が着実に進められるべきであるに  理論の現状を総括的に批判した後,「基本的な問

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題点」として,(1)「社会福祉」概念の混乱,(2)社  た孝橋正一氏と,社会科学的政策論と福祉の内在

会事業における理論と実践,(3)社会事業理論にお  的主体論との統一を試みた竹中勝男の三つの傾向      (4)ける客観性と主体性,という三つの問題をあげ,  がある」と,戦後の社会事業理論・社会福祉理論

その「批判的克服」を試みている。例えば,(1)に  を代表する3人の研究者(三つの立場)のひとり ついては,「危機に立つ資本主義制度の矛盾とそ  として,孝橋正一をあげている。また,孝橋理論 の所産としての社会問題に対処するための政策体  の特徴について,吉田は次のようにのべている。

系の一形態が社会事業政策であり,それを日本で    「孝橋社会事業理論が戦後社会事業理論に大 は 社会福祉 と政治的に呼び変え(同時に学究   きな位置を持ったのは,その理論に対する批判

がこの用語を恣意的にか理屈づけをして)使用し   の集中度からしても明瞭である。しかし,論争  (3)ている」と批判している。しかし・「社会事業から   の多様性に比し,孝橋理論は戦後四半世紀の中      (5、社会福祉へ」という発展は,日本に限らずいずれ   で余り変化してはいない。」

の先進諸国においても進んでおり,しかもそれは    「孝橋社会事業理論は日本社会事業論理の整i 単なる「政治的呼び変え」ではなく政策・制度を   序に貢献したことは疑いない。しかし,その理 はじめとする実体の変化として進展している。こ   論の提起した質的内容的深まりは,1960年代以 のことひとつにもとついて考えても・孝橋理論は・  降の次の世代に属する研究者から提起された社 混迷・停滞している現代日本め社会福祉理論を,   会事業理論によってである(2」

1批判的克服」するものではなく,むしろその主   以上のような吉田久一の孝橋理論の位置づけと 観的意図とは反対に・客観的には混迷・停滞を生  特徴の説明は,ほぼ妥当であると考えられるが,

じさせる役割を果たしているといえよう。     筆者はこれにつけ加えて,第一に孝橋が「マルク 以上のべたような社会福祉理論の状況認識にも  ス主義社会科学」の立場に立ったことによってマ とついて・戦後日本の社会福祉理論のひとつの代  ルクス主義社会諸科学や科学的社会主義理論に魅 表,しかもその停滞と混迷の重要な原因として・  かれた多数の学生や若い研究者・ソーシャルワー 孝橋理論を批判的に検討し,それを克服すること  ヵ一の意識に大きな影響を及ぼしたこと,第二に を通じて社会福祉理論を創造的に発展させるため  それによって若い世代の研究者の理論やソーシャ の課題と方法を探ることを試みよう。      ルワーカーの実践にもさまざまな形で影響を及ぼ

       していること,を指摘しておく必要があると考え皿 孝橋理論の批判的検討

る。

1・孝橋理論の位置       孝橋理論の批判的検討を行なうに先だって,主 孝橋理論は,戦後日本の社会事業理論。社会福  要な研究業績をみると,次のような著書がある。

祉理論のなかで,マルクス主義社会科学の立場に   1950『社会事業の基礎理論』 51新版 立つ理論の代表的なものであり,学生や後進研究   1954『社会事業の基本問題』 62全訂

者,さらに現場ソーシャルワーカーに大きな影響   1956『社会事業入門』  60『社会事業概論』と を及ぼし,社会事業・社会福祉をめぐる論争のな      改題

かでは,一方の立場を代表するものとして登場す   1969『社会科学と社会事業』

ることが多かった。       1973『続・社会事業の基本問題』

吉田久一は,「現代社会事業理論の系譜」にお   1977『現代資本主義と社会事業』

いて,「純粋な戦後社会事業理論は,社会福祉固   1977『新・社会事業棚i論』

有の視点を求めながら,内在的に社会福祉を追求   学説史的研究を行なうのであれば,これらの著

し,社会福祉の技術論を展開した岡村重夫氏と,  書および多数発表されている論文,さらに論争に

経済学的なマルクス主義的立場で政策論を展開し  関係する多くの研究者の論文や著書などを丹念に

(3)

、    ・

山 手:社会福祉理論の再検討      3

(9)

検討し,孝橋理論の発展過程をあとづけなければ  においては,第2章として詳細に説明されている ならな、覧ここでは主として,1977年1こ刊行さ が,基本的な考えかたは,・・うまでもなく同一で れた『新・社会事業概論』と『現代資本主義と社  ある。『新・社会事業概論』は,教科書であり,

会事業』を対象としてとりあげ,現段階の孝橋理  多数の学生に読まれており,しかも孝橋理論の要 論の基本的な問題点についての検討を行なうの  点を簡潔にまとめているので,以上の引用文を素 で,この点をあらかじめおことわりしておきた  材に,孝橋理論を批判的に検討しよう。

い。      第1に指摘すべきは,孝橋が経済学を中心にし て,社会科学をとらえていることである。経済学 2.社会科学的方法とはなにか        は,「基礎・中核」であり,「基底的重要性」を 孝橋理論の根底にあるのは,「社会科学」の方  もつものとされている。法学・政治学もあげられ 法論,より厳密にいえば「マルクス主義社会科学」  ているが,その位置づけはなされず,「歴史学゜

の方法論である。社会事業・社会福祉の研究のた  社会学等」については・「そのような方法論」(文 めには,「社会科学」特に「マルクス主義社会科  脈からすれば経済学の方法論・または経済学゜法 学」の方法論が有効であり,基本的方法論として  学・政治学の方法論としか読めない)に「立つ」

とり入れられなければならないことに同意する研  ものしか認められていない。社会学についてみれ 究者にとっても,「社会科学とはなにか」「マル  ば,「経済学・法学・政治学」の「方法論に立つ」

クス主義社会科学とはなにか」については孝橋の  社会学ということになるが,そのような「社会学」

理論に疑問を感じるものや賛成できないものは少  は存在理由をもたないといわなければならない。

なくないであろう。孝橋は,『新。社会事業概論』   『現代資本主義と社会事業』においては・「社会 において,「社会科学」を次のように説明してい  学への批判とその創造的発展」が論じられ・社会 る。       学への「期待」について「社会科学としての社会

「ここに社会科学と呼ぶものは,経済学を基  学は,資本主義的生産関係の土台そのものを科学 礎.中核とし,それに法学,政治学ならびにそ  的に解明することを任務とする経済学や,その上 のような方法論に立つ歴史学,社会学等の学問  部構造をなす法律・政治現象の本質を探究する法 的体系を意味する。しかしその際, 市民社会  学,政治学などと密接に関連しながら・歴史的視 の解剖学 (マルクス)としての経済学が基底  点にたつ方法論をもって,市民社会における社会 的重要性を持つことを忘却してはならない。な  体系,社会構造と機能,ならびにその諸要素(個 ぜなら,そうでない場合には資本主義の社会現  人,家族,地域社会,階級,民族その他一切の社 象は歴史的・社会的現実から遊離し,人間関係  会集団と人間関係,文化と社会的価値)とその相 一般の現象に還元されて,観念的・非実践的な  互関連・相互作用の因果関係を解明し,そこにも ものに転落してしまうからである。各学問領域  歴史法則(社会=経済法則)が貫徹してい詮o勇と を同一平面上に並ぺてそれらの総計を 社会福  を発見・樹立するよう期待がかけられている」と 祉 の学問体系だと思ったり,心理学や精神医  のべられているが,これは一般的な社会研究にお 学,あるいは社会学だけが 社会福祉 学を基  ける社会学の課題にすぎず,社会事業・社会福祉 礎づける単一科学であると考えたりする立場か  研究における社会学の独自な課題については,ほ

らは,たとえ社会事業の現象や機能は一応,説  とんど明らかにされていない。

明がついても,その本質を取り逃してしまうこ   社会事業・社会福祉研究の推進のためには,社 ニに終るであろう.(8 n      会諸科学(繍学・法学・政治学・社会学・歴史

以上,要約的にのべられている「社会事業の社  学・教育学・社会心理学・社会医学・社会精神医

会科学的方法」が,『現代資本主義と社会事業』  学など)が,それぞれの独自の方法を発展させる

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とともに,相互に協力しあい,方法を相互に尊重  と,次のように書いている。

しあい摂取しあって,緊密な共同研究を行なうこ    「ここにいう社会科学的体系の立場とは,社 とが必要であろう。このような方向で諸科学の共   会事業という一つの歴史的・社会的存在の本質 同研究を推進する前提としては,諸科学が対等の   を明らかにするために,ある特定の社会制度(社 立場に立ち,それぞれの対象に応じた研究方法を   会体制一資本主義制度)の構造的必然の所産と 開発しながら,「民主的」な協力を行なうことが   して社会的問題を捉え,その緩和・解決のた 認められなければならない。       めの社会的方策施設の体系であることを,歴史 孝橋の社会科学論の問題点として第2に指摘す  的。論理的に究明し,政策論的1ラ禽析と解明と ぺきは,経済学以外の諸科学,特に心理学・精神   を進めていこうとする立場である。」

医学・社会学などに対する不信と軽視である。孝   社会現象の「本質を明らかにする」ことは,社 橋は, 「各学問領域を同一平面上に並べてそれら  会哲学あるいは社会科学の基礎理論の課題ではあ の総計を 社会福裡 の学問体系だと思ったり,  っても,社会科学的研究の主要な課題ではない・

心理学や精神医学,あるいは社会学だけが・ 社会  例えば,国家の本質を明らかにすることは,政治 福祉 学を基礎づける単一科学であると考えたり  原論の課題ではあっても・実証的な政治学的研究 する立場からは,たとえ社会事業の現象や機能は  の主要な課題ではない・「国家の本質は階級支配 一応,説明がついても,その本質を取り逃してし  の機関である」という理論が正しいとしても,こ まうことに終るであろう」とのべているが,社会  の理論を教条として適用し,現代国家の動態や政 福祉研究にとりくんでいる諸科学の研究者には,  治現象を解釈するだけでは・現実の政治のダイナ

「各学問領域を同一平面上に並べてそれらの総計  ミックスを解明し,政治変革や政策転換のための を 社会福祉 の学問体系だと思ったり」する幼  実践的理論を創造することはできない。

稚なものはほとんどいないであろうし,また自分   また,孝橋は・社会事業の「本質論」と「政策 が専攻している学問「だけ」が「 社会福独ピ 学  論」との相違を明確にせず,「本質を明らかにす を基礎づける単一科学であると考えたりする」独  る」ことが,そのまま「政策を批判する」あるい 善的なものもほとんどいないであろう。      は「政策の限界を明らかにする」ことであるかの 孝橋は,経済学中心主義に陥っており,「経済  ような理論を展開している・しかし,本来の社会 学だけが・牡会福裡・学を基礎づける単一科学で  科学的な政策論は,具体的な政策の形成過麟政 ある」と考え,自らのセクショナリズムと同様な  策の内容・効果などの実証的研究を行ない,さら セクショナリズムに他の諸科学の研究者も陥って  に創造的な政策を提示することを使命とするもの いると無意識のうちに判断しているために,上記  である。にもかかわらず,孝橋は現代日本の社会 のような他の諸科学に対する攻撃を行なっている  事業政策・社会福祉政策の実証的研究も,創造的

ものと推察される。マルクス主義社会科学の立場  な政策の提案も行なっていない。

に立つ代表的な社会事業理論であると自他ともに   以上,孝橋の「社会科学的方法」の問題点を批 認める孝橋理論が,このようなセクショナリズム  判的に検討したが,全体としてみると,孝橋のい

(おそらくその根源はスターリン主義にある)に  う「社会科学的方法」は,昭和20年代までのマル

(11)

とらえられているのは,悲しむべきことである。  クス主義社会科学の方法論,すなわちスターリン 孝橋の「社会科学的体系の立場」の問題点とし  主義的・教条主義的理論に止まっており,観念的 て,第3に指摘すぺきことは,社会事業・社会福  ・硬直的であり,現実の社会福祉の発展を実証的 祉の「本質理解」に終始していることである。孝  に研究することを通じて,実践的に有効な社会福 橋は「社会事業の本質理解のために残されたただ  祉理論を創造しようとするものではない。

一つの立場は.社会科学的体系の立場であろう」

(5)

山 手:社会福祉理論の再検討      5

3. 社会体制と社会事業・社会福祉       実践的にも貧困問題が解消されたり,消滅した

(13)

孝橋理論は,社会事業・社会福祉の分野におけ   りするはずがないのである。」

る社会科学理論として時代おくれの不完全な理論   引用が長くなったが,以上のように孝橋は福祉 であるばかりではなく,社会体制・国家の分野に  国家について,主として「福祉国家イデオロギー」

おける社会科学理論としても時代おくれの不完全  を対象として,イデオロギー的な批判を行なう,

な理論であるといえる。孝橋理論においては,資  という方法で,観念的な批判を行なっている。い 本主義体制内部の民主主義的改革の試みは過小評  くつかの事実がとりあげられているが,それらは 価され,社会主義体制は過大評価されている。孝  断片的・恣意的にとり出されたものである。福祉 橋は,福祉国家について,次のようにのぺている。  国家を構成する諸政策・諸制度を全体的。構造的

「福祉国家という用語は,ある種の政治的立  に分析するという社会科学的な研究は行なわれて 場(主として保守的および民主社会主義的立場)  いない。福祉国家の形成を推進するさまざまな運 の理念であったり,政治的な宣伝と誇示がつき  動やそれに対応する政策の発展についても社会科 まとっていることを見逃すわけにはいかない。  学的な研究は行なわれていない。

なぜかというと,(1)そこに打出される豊富な社   現実の福祉国家についての社会科学的な研究を 会的施策は,その宣言的・形式的表現ほどには  丹念に行なった研究者は,孝橋のような皮相的。

実体的・内容的裏づけが行き届いたものではな  一面的な評価を下すことはできなくなっている。

(14)

いこと,つまり形式と内容との間に埋合せがた  例えば,小谷義次は,1966年の『福祉国家論』か

●   ●       ●   ●      (15)

いずれがあること,そのずれは資本主義の社会  ら,1977年の『現代福祉国家論』へと,福祉国家

=経済法則と社会的諸施策の限界性から理論的  の実証的研究を通じて,福祉国家論を大きく前進

・実践的に必然的に生じて来るものだからであ  させている。すなわち,1966年の『福祉国家論』

る。(2)また福祉国家論者や未来学者は,福祉国  においては,イギリスとアメリカを対象とし,所 家のもとにおける国民生活の向上や豊富な施策  得の分配と再分配における「所得平等化」の問題

を拠所として,国民生活をバラ色に染上げ,楽  を中心に研究し,福祉国家批判を行なったが,19 園の地上実現が近いかのように描きだし,した  77年の『現代福祉国家論』においては,スウェー がって特殊の少数者を除いて,もはや従来のよ  デンと日本も対象に加え,社会保障制度の展開を うな貧困問題は存在しないとか,消滅しつつあ  重視して研究し,次のような結論を導き出してい るかのように楽天的に見ているが,社会的諸施  る。

策,とりわけいまの場合,いわゆる・牡会福祉     「福祉国家は,現代資本主義,とりわけ国家 政策には身近な限界があり,また労働運動の要   独占資本主義の粉飾形態・えせ民主主義形態で 求と圧力によって獲得された社会的譲歩(社会   ある。それは,資本主義的生産力の一定の発展 的施策の水準向上と内容の充実)も,なんらかの   段階に照応し,労働者階級の攻勢にたいする支 他の場面や他の方法で取戻されるというのが事   配階級たる資本家階級,とりわけ独占資本家の 実である。要するに,福祉国家と政治的に誇ら   譲歩の形態として生ずる。そして,それは一般 れているものの実体は,学問的には現代資本主   的に民主的装いをまとって,われわれの前に現 義ないし国家独占資本主義と呼ばれるぺきもの   われている。しかし,その本質は・国家独占資 である。……福祉国家の実施する 社会福祉    本の,搾取と収奪の,もっとも巧妙な機構を形 政策に心掛けの良さや情け深さ,そこからほと   成するものにほかならない。

ばしり出る無限の発展への可能性を期待するご   本書のこれまでの分析も,この旧版における とは一つの幻想や錯覚にすぎないし,それ以上   規定を変更する必要をみない。……

に,それによって当面の課題として理論的にも   最後に福祉国家の本質と関連して一言すぺき

(6)

点がある。それは現代福祉国家が労働者階級を  決され,社会保障・社会福祉が実現するわけでは

●  ●  ■  ■

の譲歩として生ずるかぎりにおいて,この民主  おいては,革命直後は非行少年をはじめ要保護児 勢力の攻勢がいっそう積極的に,いっそう執拗  童問題が大きな問題になったし,革命後半世紀を

●  ●  o  ●  ●  ●  ●  ■

に展開され,たんなる譲歩から体制の主体とし  経た最近の時点でも,青少年問題・離婚問題・住

       ●  ●  ●  ●  ●  o  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●

ての独占資本の支配と搾取と収奪にたいする規  宅問題など多くの社会的問題が存在しており,重 絢た転手るとぎ,その転化の度合におうじて,  要な政策課題としてとりあげられていぎ1)

支配と搾取と収奪を粉飾する,国家独占資本主   ところが孝橋は,社会主義社会には制度的欠陥 義たる本質を隠蔽する必要は低下し,減少し,  が初めから存在せず,社会的問題は発生しないか ついには消滅に向うであろう。そして,おそら  ら,社会事業は存在する必要はないと,次のよう

くは,その度合におうじて,粉飾,隠蔽のため  にのべている。

のえせ民主主義形態としての,いわゆる福祉国    「資本主義社会のもとでは,各個人がそれぞ 家の性格=本質の修正は,不可避となる。そし   れの生活の自己責任を原則としながら,社会制

・  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ■  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ■  ■ て,人民大衆の上に立つ,真の民主主義を志向   度の構造的欠陥にもとついて,労働者=国民大●  ●   o  ・  ●  ●  ■  ●  ■  ●  ●  ●  ●  ●  ●  o  ●  ●  ・  ●

する・言葉の真の意味での福祉国家への展望が   衆は種々の社会的障害状態に陥るので,それに

●  ・  .  o  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ●  ■

漸次拓けはじめるであろう。それはかならずし   対処するために社会的保護施策の一つとしての も,資本主義体制の完全な転換を必要としな   社会事業が要請される。ところが社会主義社会 い。先進資本主義諸国における革命のための民   にはこのような制度的欠陥が初めから存在せ 主芸辞的変革過程を通じて実現をみるであろ   ず,したがってそのような意味での対策もまた,

う。」       存在する理由があり得ないからである。……こ 孝橋の福祉国家の本質についての理論は,小谷   こでは構造的欠陥のない社会制度がその存立の の旧版のそれとほぼ一致しているが,引用の後段   基礎に横たわっているので,自然的または偶発 の,新版につけ加えられた理論に比べると時代お   的事故に対する生活の共同防衛や,より健全な くれの理論であるといえる。小谷の理論も,前段   生理的発達と,より豊かな文化的向上のための

と後段との関係が必ずしも明確に説明されていな   救済・福祉的社会施設が存在するだけである。       一

いが・過去から現在までの実態は「国家独占資本   ……社会的施策一般を単純に現象的に捉えて,

の搾取と収奪のもっとも巧妙な機構」であるが,   社会主義社会にも資本主義社会と同様に,保育 現在から未来にかけて民主勢力の攻勢が発展する   所,療養所,レクリェーション施設などが存在 ならば「言葉の真の意味での福祉国家」に転化さ   するという理由で,社会事業が存在するのだと

せる可能性がある,と解してよいであろう・     いうような理解の仕方は,誤っているものと見このような小谷騰は,最近の先進国革命の理 な}ナればならな細」

論の発展を学び,それを福祉国家論にとり入れた   このような孝橋の理論は,社会主義の原理と現 ものとみることができる。最近の先進国革命の理  実とを混同しているものといわなければならな 論においては,民主勢力の成長とそれにもとつく  い。社会主義の原理は,社会主義革命が起こり政 民主主義的変革を通じての社会主義への移行の可  治革命が実現された後は,直ちに社会生活のあら 能性が説かれている。       ゆる分野において実現されるというのは,社会主 この反面,社会主義国の実態についての調査研  義社会の現実を無視した観念的理論である。この 究が進められ,社会主義革命が行なわれ,共産党  ことは,中ソ論争の経過や,文化大革命をめぐる

・労働者階級が政治権力を掌握する政治革命が実  中国の最近の変動を見ても,明らかなことであろ

現しても,それによって直ちに社会的諸問題が解  う。

(7)

山 手:社会福祉理論の再検討      7

また,孝橋は,保育所などの社会施設のもつ社  の疑問に答えて,孝橋は次のように書いている。

会制度的意義が,資本主義社会と社会主義社会と    「社会主義者としてのソーシァル・ワーカー       (19)

では,「本質的・根本的に異なっている」と主張   の正しい実践的な方針と態度は・資本主義の温 しているが,このような基底体制還元主義的発想   存策としての社会事業を媒介として・被保護者 は,社会科学的でもなく,生産的でもない。例   や労働者賢国民大衆の利益を図りつつ・それを えば,核兵器廃絶をめざした,原水爆禁止運動が   社会的目的のためにいかに活用していくかとい 分裂した原因は,「帝国主義国の所有する核兵器   うことにかけられている。そして社会事業自身 は侵略のためのものであり,社会主義国の所有す   には・自らその発展には身近な限界があるが・

る核兵器は防衛のためのものである。同じ核兵器   その限界まで社会運動が社会事業を突き上げて でも,所有する国によって,その本質が異る」と   いく必要があり,それから先の仕事,つまり資 いう理論にあった。核兵器に対する評価は,「核   本主義から社会主義への体制変革は,もっぱら 兵器と体制」という理論ではなく,「核兵器と人   社会主義的政治運動の努力に委ねられているも 類」という理論にもとついて行なわれなければ,   のと言えよう。」

実践的に正しい結論を導き出すことはできない。   ここで孝橋がとりあげている実践は・(1)社会事 同じように,社会問題・生活問題やそれに対する  業従事者としての現場実践,(2)「社会事業を突き 対策としての社会福祉は,「人間と社会」という  上げていく」社会運動・(3)社会主義的政治運動・

理論にもとついて発展させられなければならな  の三つである。このうち,(1)は最も軽視されてお い12°眞体的には,保育所。療養所などの社会施設  り,「社会事業を媒介として」 「それを社会的目 については,資本主義社会の施設と,社会主義社  的のためにいかに活用していくか」という形でと 会の施設とを比較し,どちらが真に人間の福祉を  らえられている。しかし,社会事業の現場実践は,

増進しているかを実証的に研究すること,もしも  本来対象者の福祉を目的として行なわれるべきも 社会主義社会の施設が優れているならばその優  のであり,他の「社会的目的」盆杏めに,手段と れた点をどのようにして資本主義社会の施設にと  して活用されるべきものではない。(2)「社会事業

り入れるかを研究すること,などが社会科学的な  を突き上げていく」社会運動は,社会事業従事者 社会福祉研究の課題とされるべきであろう。    ばかりではなく,労働者・市民・障害者・難病患

者。老人などによっても担われており,社会事業 4.理論と実践       従事者がどのようにこれらの運動にかかわって行 孝橋理論の特徴は,一方で「社会事業の本質は,  くべきかについては,ソーシャル・アクション論 資本主義制度の維持存続を前提とする,そのため  や社会運動論などにもとついて検討されなければ の社会的問題への対策である」と社会事業の限界  ならないが,孝橋はソーシャル・アクションにつ を強調し,他方で「社会主義社会では,社会制度  いては,「主として改良主義的運動の技術的側面

(社会体制)そのものが初めから生活の保障と福  を強調するものであって・ここにいう社会運動の 祉ある状態に溶け込む」と社会主義を讃美してい  概念と同質ではない」とし,社会福祉運動につい

ることである。このような理論を学んだものが,  ても「それが単に体制内的・改良主義的運動だけ

「社会事業は結局のところ資本蟻の温創こ役立 に限定されている慰・その発殿々こも自ら限界

つという性質を持っているが,私はむしろ社会主  がある」としており,(3)の社会主義的政治運動を

義を理想としながら社会事業に従事している。自  最も重要視している。しかし,社会主義的政治運

分の理想と趣旨に反対のことをやっている結果に  動は,国民が主体的に自らの政治的判断によって

なっているが,私は社会事業を捨てるべきである  余暇に参加するものであって,これに参加するこ

か。」という疑問を抱き悩むのは当然である。こ  とが社会事業従事者の最も重要な職業的実践であ

(8)

るということはできない。孝橋理論は過度に政治    の積極的展開一そのための諸科学の協同お 主義的理論であり,現場の社会事業従事者のソー    よびそれをまとめる構造的視点・体系的問題 シャルワーク実践の理論としては有効性をもって    意識にもとつく調査研究

いないと考えられる。       (3)政策主体である国家財政の構造的分析 社会主義的政治運動や社会運動の理論は,創造   (4)政策対象と政策主体との両者の関係の具体的 的に発展しており,現実の運動も多様化し,各分    展開である立法・制度の展開,その運用過程 野の運動は相対的に独自な運動を展開している。    の調査研究

社会福祉運動の理論は,現実の福祉運動の経験と   (5)政策が現場に到達するまでの「権力構造およ ともに平和運動,原爆被爆者運動,反公害運動,    び官僚制機構を通じての屈折過程」の行政的 患者運動,消費者運動,住民運動,教育運動など    ・財政的調査研究,「社会事業施設あるいは の経験と理論を学び,独自の実践的理論を発展さ    機関」の構造的研究

せなければならない。       (6)ソーシャル・アクションの研究一ソーシャ また,ソーシャルワーク実践の理論も,諸外国    ル・アクションと市民運動,または各種の労 の最近の先進的理論を学ぶとともに,わが国の    働運動あるいは国民運動,さらには階級斗争 現場ソーシャルワーカーの先進的実践の経験を学    との関連の研究

ぶことによって,具体的な方法論・技術論として   (7)以上のべた諸局面の構造的関連に対する運動 豊かにされなければならない。そのためには,研    論的志向にもとつく研究

究者と現場ソーシャルワーカーの共同研究を通じ   (8)以上の分析をふまえた上での生活権を起点に ての実践的研究が推進されることが不可欠であろ    すえた実践論・運動論を組みいれた社会福祉

う。      学の総合的体系化  その重要な一分野とし 以上とりあげた問題点は,いままでの孝橋理論    ての現代日本社会福祉発達史の確立

をめぐる論争においてとりあげられてこなかった   (9)社会福祉発達史の世界史的・比較史的研究一 孝橋理論の最も基本的な問題点だけである。さら    一この対象には社会主義諸国・低開発諸国を に具体的な問題点をとりあげて批判的に検討する   含む

必要があるが,本稿では紙数の制約から,以上の   (10)社会福祉論史・社会福祉研究史・社会福祉思 問題点の検討に止め,以下においては,今後の社    想史の構築

会福祉研究の課題の検討に移ることにしたい。    以上あげられた研究課題は,いずれも社会福祉

      研究にとって重要な大きな研究課題であり,経済皿 社会福祉研究の課題      学・法学・政治学。社会学・歴史学などをはじめ

今後の社会福祉研究の課題は多数あるが,それ  とする社会諸科学が,それぞれの分野において本 らのうち特に重要な課題について検討したい。こ  格的にとりくむこととともに,諸科学が緊密な協 のために最も参考になるのは,一番ケ瀬康子が,  力による共同研究を行なうこと,さらに社会福祉

「とくに現在,日本で必要と思われる課題」とし  学研究者と福祉行政担当者・現場ソーシャルワー

(23)

てあげている,次のような課題である。      カー・福祉運動参加者が実践的共同研究を行なう

(1)社会福祉学の起点となる政策対象者あるいは  ことによって,はじめて達成されるものである。

社会福祉の需要者の把握一「現代的貧困」  一番ケ瀬がこの提案を行なってから8年の間に,

問題のより具体的な把握       この提案の方向にそって,具体的な課題にとりく

(2)公的扶助,児童福祉,医療社会事業,老人福  んだ研究活動は徐々に進展しているし,その成果

祉,精神薄弱者福祉,身体障害者福祉,家庭  も次第に発表されている。しかし,最近の段階で

福祉,地域福祉,余暇対策などの各論的研究  も,全体としてみると,すでに本稿の冒頭におい

(9)

山 手:社会福祉理論の再検討      9

てのべたように,社会福祉論の混迷と停滞という  主要な社会福祉理論についての全面的・根底的な 状況は依然として続いている。         批判的研究を続けたいと者えている。

この原因としては,第・に社会福祉研究・鞘  (・)主要な概蒲・教科書の批判的検討は・畠旺田 機関が整備されておらず,社会福祉研究者の層が が指摘しているようにそれら力書過剰なほど増加し 薄く,しかも研究者の多くは比較的研究条件が悪 ており・しかも学生に大きな影響を与えているこ 磯関に所属して確濁を行なってV・ると・・う と酵えると謡視することはできない・概説書 客観的条件があげられる.躰学術会議は,1974 ・教科書の騨・出版は,研究・糖者にも・出 年,「社会鮒の研究敏育体制等の改善に関する 版社にも,安易に揃者!ことっては業績のため・

勧翻を繭に提出しているが,この勧告に従っ 儲にとっては営利のためをこ役立つものと考えら た施策は障害鷺育条件の整備を除くとまだ1まと れているようであるが・その贈}ま学術的 専門 んど実施されて、・ない。       的論文屠書の羅よりもはるかに大きいことが

しかし,社舗祉研究のたちおくれの原因を, 少なくないのである・したがって識謡゜教科 客観的条件の不備だけに求めることは,社会福祉 書の批判鰍討は・社会福祉研究の重要な課題の 研究者あるいは社会科学者としては許されないこ  ひとつとしてあげられなければならないが,この

とである。われわれ社会福祉研究者・社会科学者  課題への取りくみは・個々の研究者によってより としては,社会福祉論の混迷と停滞の原因を,研  も,むしろ学会によって組織的に行なわれるのが 究者の主体的意欲や研究方法にも求めなければな  適当であると考えられる。

らない。この観点から,一番ケ瀬があげた社会福   (3撮近の社会福祉研究の動向をみると・社会福 祉研究の課題につけ加えて,次のような研究課題 祉学会服の研究者鰍会福祉系大学゜研究鞭

をあげたい。       所属の研究者など自他ともに社会福祉学研究者と

(1)影響力が大きく,しかも批判すべき問題の多  認めているもの以外の,経済学・社会学 法学゜

い理論に対する徹底的な研究とそれ樋じて 政治学な欄係社会諸科学の研究者儲力》から注 の批判的克服      目すべき業績が続々と発表されている・これらの

(2)主要な概説書・教科書の批判的検討      業績は,当然社会福祉学の研究業績とみなされる

(3)社会福祉学研究者と関係社会諸科学研究者と  ぺきであるにもかかわらず・視野が狭く・セクシ の相互交流・共同研究の推進        ヨナリズムにとらえられている社会福祉学 社会 ω社会福祉学・社会事業学においては,散発的な  事業学研究者には無視されている。このような状 論争や特殊的問題についての論争は行なわれてい  態では,社会諸科学を総合した社会福祉学はいつ

るが,持続的・徹底的な論争や理論体系全体につ  までも発展しないであろう・

いての論争にまでは発展していない。また,批判   筆者自身は,社会学研究者としての経歴が長く・

加えられても殿判しな噺賭ぜ 批判を加 社会福祉学の研究歴は短か・㌔また,学会所属も

える際に名指しで批判するのを遠慮してあいまい  日本社会学会の方が長く,日本社会福祉学会の方

な形で批判し,相手に反批判する意欲を起こさせ  がはるかに短かいが,研究課題としては社会問題

ないようにする研究者も少なくない。しかし,理  と社会福祉に関する課題に一貫して取りくんでい

論は論争を通じて発展するのである。持続的・全  る。研究成果は,まだ不十分であるが,原爆被爆

面的・徹底的な論争を行なうことによってはじめ  者問題・家族問題・婦人問題・児童問題曳誘者間

て,社会福祉理論体系をより正しい方向に発展さ  題などに関する著書・論文を発表している。とこ

せることができるのである。筆者が,浅学の身を  うが,これらは社会福祉学研究者からはほとんど

かえりみず,本稿において孝橋理論の批判を試み  無視されているようであり,いくつかの例外を除

た意図も,ここにある。筆者としては,今後も,  いて,社会福祉学関係の専門的著書・論文におい

(10)

ては引用もされていない。また,東京都医療社会    要性について,吉田久一は,「専攻学生や現場従 事業協会理事や日本医療社会事業協会資格制度委    事者がたえず 社会事業とは何か という問いを 員などの役についており現場ソーシャルワーカー    発しているのは・いまだに過去の研究蓄積の理論 と討論する機会は少なくないが,時々「あなたは    的整理を試みた体系的著述もなく,泥沼に釘を打

      ちこむように,くりかえし第1頁から始めねばな社会学研究者としては認めるが,ソーシャルワー

      らなかったことに大きな理由がある。」(前掲『社クの分野では専門家としては認めない」などとい

      会事業理論の歴史』1ページ)とのぺている。たう批判を受けることがある。このような経験をす      しかに理論史の研究は必要であるが,それととも

るのは,筆者の研究が不十分であるためでもある      に,現段階の代表的理論を対象とする徹底的な批

が,それと同時に社会福祉学研究者と現場ソーシ    判とそれを通じてより充実した理論を創造する試 ヤルワーカーにセクショナリズムが強く,関連す    みも必要であろう。

る社会諸科学から学ぼうとする意欲が乏しいため   (8)孝橋正一『新・社会事業概論』ミネルヴァ書房,

でもあると思われる。研究者や現場ソーシャルワ    1977,37ページ。

一カーが,視野が狭く,セクショナリズムや教条   (9)孝橋正一『現代資本主義と社会事業』ミネルヴァ 主義にとらわれているかぎり,社会福祉学の発展    書房,1977,43〜88ページ・なお,この「社会事

も,社会福祉実践の発展も,期待できないと考え     業の社会科学的方法」の章は,次のような内容で

られ詳       轍されている.

1.社会科学への道 おわりに      2.自然法則と社会法則

3.社会科学の立場と内容 本稿においては・不十分ではあったが・孝橋理     4.科学的認識方法_弁証法 論を中心として・現代日本における社会福祉理論     5.社会の構成と変動 を批判的に検討し,今後の社会福祉研究の課題を     6.資本主義と社会的諸問題

のべた。他の研究者を批判する以上,反批判を受     7.現代資本主義一国家独占資本主義

けることは当然であるから,反批判を期待してい     1〜5は史的唯物論とマルクス主義社会科学の る。また,ここにあげた今後の社会福祉研究の課    解説であり,6において資本主義社会における社 題に対しては,いうまでもなく自分自身の課題と    会的諸問題とそれに対する「社会的施策体系」と

して取りくんで行きたいが,多くの社会福祉研究゜ @  して社会政策と社会事業の理論が展開されてい 者と共同研究することができれば幸いだと考えて    る。

(11}社会福祉研究にとりくむ諸科学はセクショナリズ 注(1)副田義也編著『社会福祉の社会学』一粒社,1976    ムを克服することを課題とすぺきことを,筆者は

2ページ。      15年前に次のように書いた。

(2}孝橋正一「現代社会事業理論の基本的課題」吉田      「社会学出身者が 社会学特有の科学方法論 久一編著『戦後社会福祉の展開』ドメス出版,19    に固執し,心理学出身者が 心理学特有の科学方 76,13ページ。      法論 に固執する,というふうにそれぞれの出身

(3)前掲書,17〜18ページ。      の隣接諸科学の専門領域から出ず,バラバラに社 ω吉田久一「現代社会事業理論の系譜」『社会福祉     会福祉研究を行なっていたのでは,いつまでたっ

学』第15号,1974,15ページ。      ても総合的・統一的な 社会福祉学 や 社会福

(5)吉田久一『社会事i業理論の歴史』一粒社,1974,     祉科学 は成立しないだろう。……現実の社会問 340ページ。      題や社会福祉活動のなかには,経済的側面・心理

(6)前掲書,346ページ。      的側面・法的側面・社会的側面などの諸側面が含ま

(7〕社会事業理論・社会福祉理論の歴史を研究する必     れ,分ちがたく絡みあっている。したがって,個

(11)

山 手:社会福祉理論の再検討       11

別科学の領域や方法に固執するのではなく,経済     典古代的,封建的および近代ブルジョア的生産様 学的方法・心理学的方法・法学的方法。社会学的     式 (この アジア的 という言葉はさしあたり 方法などを必要に応じてとり入れ,総合的・統一      原始共同体的 と理解しておく)というように 的に研究することが必要であり,それを可能にす    生産関係の相違によって規定された 社会 の理 るための統一的理論・統一的方法論を創造するこ     解にいたるだけでなく, 共同体 市民社会 とが必要である。」(山手茂「社会福祉学方法論      人間的社会 という社会関係の形態の相違によ の再検討」『広島女子短期大学研究紀要』第15集     って規定された 社会 の理解にもいたるのであ 1964,17ページ)       る。」(河村望「マルクス主義の社会理論」33ぺ

(12》前掲『新・社会事業概論』36ページ。         _ジ)

(13)前掲『新・社会事業概論』184〜186ページ。     伽)一番ケ瀬康子は「革命が目的であり,改良要求が

(14)小谷義次『福祉国家論』筑摩書房,1966。       手段であるという表現があるとすれば,それは革

㈲小谷義次『現代福祉国家論』筑摩書房,1977。      命への戦略次元での表現,さもなければ人間不在 個前掲『現代福祉国家論』207〜209ページ。       の革命論であるかのいつれかであろう。基本的に

⑳ソ連における社会的諸問題は,スターリン主義批     大事なことは,あれかこれかではなく,また一方 判以後,社会学的調査研究によって明らかにされ     がひとつの手段というのではなく,それが人間の ている。例えば,ア・ハルチェフ『ソ連邦におけ     まさに実体そのものである日常生活の現実からみ る結婚と家族』寺谷弘壬訳,創元新社,1967,ア    て,戦略次元は異なるが,いずれも手段であると

・ハルチェフ他『結婚・家庭。職業』佐藤節子訳,    いうことである。」と主張している(『現代社会 啓隆閣,1971,などを参照されたい。また,石川    福祉論』時潮社,1971,73ページ)。

晃弘『くらしのなかの社会主義』青木書店,1977,   幽前掲『新・社会事業概論』180ページ。

福島正夫編『家族。政策と法・5・社会主義国・   ㈱前掲『現代社会福祉論』74〜78ページ。

新興国』東大出版会,1976,なども社会主義社会   ㈱この勧告は,次のような内容である。

における社会的問題=生活問題とそれに対応する      「我が国では欧米諸国にくらぺて社会福祉体制 社会的政策=福祉政策の実態がのべられている。     の整備はその学術研究・教育体制を含めて極めて 鯛前掲『新・社会事業概論』176〜179ページ。      不十分である。しかし,今日,高度経済成長と国

⑯前掲『新・社会事業概論』179ページ。         民生活の変貌する中では,特に低所得者,児童,

(20)このような理論は,最近は創造的なマルクス主義     障害児・者,老人をはじめ広範な国民が人たるに 者によって展開されている。例えば芝田進午編    値する生活を営みうるよう,ゆたかで充実した社

『マルクス主義研究年報Nα2』合同出版,1978,     会福祉活動を必要としており,社会福祉は国の重 には,次のような主張がなされている。        要な課題となっている。このような国民的な生存

「人類絶滅装置体系の出現は,マルクス主義の     権的要求に答えるためには,国及び地方自治体の いくつかの命題の再検討ないし言丁正の必要という     財政支出の拡大とともに,社会福祉活動に従事す 問題を提起しているが,人類絶滅装置体系の廃絶     る人々が質量ともに十分に確保されることがその 斗争からくる諸課題もまた,マルクス主義のこれ     労働条件の改善とともに必要である。よって,本 までのいくつかの諸命題の訂正ないしは発展をも    会議は,社会福祉に関する多くの問題のうち,

とめている。」(芝田進午「核兵器廃絶とマルク     今回は特に研究・教育問題のみをとりあげ,政府 ス主義」12ページ。)       が次の諸点について早急に必要な施策を講ぜられ

●  ●  ■

「 社会 は,たんに経済的社会構成体として,     るよう勧告する。

特定の歴史的に規定された生産関係の総体,特定     1 社会福祉の研究・教育体制の充実について の歴史的生産様式の全体を抽象的に表現するもの      1.大学及び大学院における社会福祉の研究教

として 経済構造からみた社会 としてのみとら      育体制の充実をはかること。特に国公立大学

       ●  ●

ヲられるのではないのである。歴史貫通的な 社      における社会福祉の研究,教育組織の新増並

会 概念によって,われわれは, アジア的,古       びに既存の大学特に私立大学のこの種組織の

(12)

@      ら

@  充実のため国として必要な財政的負担を講ず     壮『被爆の思想と行動』(新評論,1975)などを ること。なお大学前教育における社会福祉に     あげておきたい。

ついてもその充実をはかること。        ㈲例えば,『原水爆被害白書』(共著,日本評論新 2. 社会福祉に関する総合的な研究を促進する     社,1961),「社会科学者は原爆被害問題にどう

ため科学研究費等の活用につき特段の配慮を     とりくんできたか」(広島・長崎の証言の会編『広 講ずること。       島・長崎30年の証言(下)』未来社,1976),『現 皿 児童福祉職員並びに障害児・者の教育・福祉     代日本の家族問題』(亜紀書房,1972), 『現代 にあたる教職員の養成制度の改善について(内     日本の婦人問題』(亜紀書房,1970),「児童問 容略)      題と児童福祉」(『日本子どもの歴史』第7巻,

皿 障害児・者の教育権保障について(内容略)」     第一法規,1977),『難病患者とともに』(共著,

㈲例えば,杉本一義「社会福祉論の批判的研究その     亜紀書房,1975),『難病患者・家族への医療福 1」(『社会福祉学』第17号,1976)においては,     祉援助』(共著,難病患者福祉研究会,1977),

真田是・高島進がマルクス主義の立場に立つ社会     「MSW協会の請願運動をめぐる理論的諸問題」

福祉の理論を代表する研究者としてあげられ,「真     『医療と福祉』恥34・1978)などがある。

の社会福祉,つまり社会主義体制の下での社会福   囲 『社会福祉研究』(第22号,1978)の座談会「社 祉を理論展開し,資本主義の社会福祉をどのよう     会福祉研究の課題(1}社会福祉における理論と実 に推進すれば,社会主義へ継承されるのか,革命     践一大学と現場一」(中村健二・河田正勝・仲村 との関係構造を論理的に明確化するぺきではなか     優一・秋山智久)では,「現場と大学の断絶」「現 ろうか」(31ページ)と鋭く批判されているが,     場の大学離れ」「大学の理論は役に立たない」と 筆者が管見する限りでは両氏ともこの根底的な批     いわれている状況のなかで,どのように社会福祉 判にこたえていない。このような重要な問題をめ     研究・教育を進めるかが討論されているが示唆に ぐる論争は,この批判論文が掲載された日本社会     富む発言が少なくない。全体としては,現場ソー 福祉学会の機関誌である『社会福祉学』の場にお     シャルワーカーによる実践的研究の重要性が強調 いて,活濃に行なわれるべきではないだろうか。     されている。現場での実践的研究の推進が重要で

㈱多くの業績があるが,ここではそのうちの特に重     あることはいうまでもないが,大学・研究機関の 要な業績として,前掲の小谷義次『現代福祉国家     研究者には社会福祉理論の体系化や現場ソーシャ 論』のほか,向井喜典・池上惇・成瀬龍夫編『現     ルワーカーには困難な分野の調査研究を担当する 代福祉経済論』(青木書店,1977),丸尾直美『福     独自の役割がある。

祉国家は破産するか』(日経新書,1978),伊東       (1979年1月)

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