日英語の変異性
――英語変種のつづり字表記と日本語カタカナ表記 の比較分析――
杉 本 豊 久
目次
0.はじめに………(83)
1.英語の非標準的つづり字………(87)
1.1.ピジン・クレオール系のつづり字表現 ………(87)
1.1.1.パプア・ニューギニアのトク・ピシン(Tok Pisin)…(87)
1.1.2.ジャマイカン・クレオール(Jamaican Creole) ……(93)
1.2.英語方言系のつづり字 ………(96)
1.2.1.グラスゴーでの日常語 ………(96)
2.日本語の非標準的つづり字(文字)としてのカタカナ表現……(99)
2.1.外国語系(外来語系)カタカナ表記例 ………(99)
2.2.日本語系カタカナ表記例………(100)
2.3.「非標準最新系カタカナ表記」の特性とその効果 ………(101)
3.「日本語非標準最新系カタカナ表記」と「非標準英語変種の
つづり字」の背後にある共通点と相違点 ………(107)
0.はじめに
現代英語の多様性の一側面として、現在世界各地で使われている様々 な英語変種(Varieties)の音韻とつづり字の表記法についての調査をし てきたが、それらの特徴の背後に日本語のカタカナ表現にも共通した側 面があることに気付き、その比較分析を試みた。
これまでの研究の経緯としては、具体的には、世界の英語系ピジン・
クレオールの代表的存在である2つの変種、即ちオセアニア地区の代表 としてパプア・ニューギニアのトク・ピシン(Tok Pisin)(杉本:2008
84
(83)
a, 2008b、2009)および西インド諸島と西アフリカ地区の代表として ジャマイカン・クレオール(Jamaican Creole)(杉本:2008b,2009)の それぞれの音韻とつづり字法を取り上げ、その相違点と共通性を分析し た。さらに、英語の方言系変種の中でその発音とつづり字法において独 自の特徴を持つスコットランド最大の都市グラスゴーでの日常語(杉 本:2007,2008c,2009)の音韻とつづり字法を取り上げ、前述の二つの 英語系接触言語との比較を試み、その相違点及びその共通点を検討し、
異なる英語の変種間に見られる独自性と普遍性の一端を明らかにした。
それらの特徴のひとつに、音素/k/を表すつづり字<k>の多用があ る。この特徴はグラスゴーでの日常語のつづり字法の大きな特徴であり、
その他の英語方言やピジン・クレオールにも見られる特徴でもある。1)
例えば、人名のChrisをKrisと表記することがある。このKrisという つづりは通常のChrisに比べて、この表記を(例えば、落書きとして)
見たり、(読み物として)読んだりする者にとって特異な効果を持つ。
つまり、「通常とは異なる」というシンボリカルな意味を持つことにな る。これは、書き手側の自己主張であり、他のものとは異なるという「独 自性」の主張とも解釈できる。このつづり字法が、さらに「従来のつづ り字法の慣習に対する抵抗(resistance)」という社会的意味をもつこと もある。例えば、Mark Sebba(2007:4)は、スペインのカタロニア 地方の山岳地帯の町リポル(Ripoll)で見かけた落書きに、okupación(<
ocupación=occupation「不法占拠」)という表記があることを報告してい
る。このような<k>の使い方はまさに「伝統的なつづり字法に対する 意図的逸脱」が「伝統的な社会的慣習の現状に対する抵抗」という社会 的意味を持っていることを示している。(杉本:2009)
パプア・ニューギニアのトク・ピシン、グラスゴーの日常語、さらに はジャマイカン・クレオールにも同様の特徴がつづり字にみられる。
もっとも、これらのバラエティーに見られるつづり字<k>の特徴に、
カタロニア地方でのスペイン語に見られるような強い社会的意味がある かどうかはやや疑問ではあるが、「従来の(標準英語の)慣習にとらわ れることなく、あくまで実際の発音に忠実なつづり字を志向する」とい うトク・ピシン全体に共通して見られるつづり字の「合理性」という特 徴の一環として捕らえてよいだろう。
ジャマイカン・クレオールにもこの種のつづり字<k>の用法がない 83 (84)
わけではないが、トク・ピシンやグラスゴー方言に見られるほどの頻度 と限定的な用法は見られない。つまり、<k>も使われるが、<c><ch
><ck>なども同様に高い頻度で使われており、この点で、両者とは 異なる。このような相違点の調査・分析が今後の課題ではある。
さて、日本語に見られるカタカナ表記には、1)カタカナ英語系と、
2)カタカナ日本語系とがある。前者は英語からの借入語をカタカナ表 記したものであり、後者は本来の日本語であり、従来はひらがなや漢字 で表記されていたものをあえてカタカナ表記したものである。2)今回問 題とするカタカナ表記は後者のタイプである。カタカナ日本語系を仮に 普通名詞、固有名詞、擬態語・擬音語などをカタカナで表記する「標準 従来型」と、品詞や単語の境界にとらわれることなくカタカナ表記を柔 軟に取り入れたり、ひらがなや漢字と連結させたり、省略形を複合的に 取り入れたりする「非標準最新型」とに分けて整理分類して、その一部 実例を示すと次のようになる。
1)標準従来系
!)普通名詞
ラーメン、ナマで誕生日、ハレの日の着物、15歳中学生にナニが、
ゴミ捨てを禁止!、クモ男、クロ猫、とくダネ!、肩コリ、開運の ツキ、ニンジン、怒りオヤジ3、洋ラン、ハゲタカ、国語ツボ、エ ビづくし、ゾウの鼻、大ゲンカ、旬のイカ、ぜひモノ、キャベツを 使い切るワザ、等。
")固有名詞
カズの闘志、ウドVS.梨花、アンパンマン、ピーコが涙、ビート たけし、コブクロ、タミフル、ジャニーズ、マリック超魔術!、ミ ミカ、ピングー、等。
#)擬態語・擬音語
スクスク、スッキリ!、朝ズバッ!、キッパリ、大号泣ドッキリ!、
脳林寺でポクポクチン、メッタ斬り!、パシャ!等。
2)非標準最新系
!)品詞分解型
エラいところへ嫁いでしまった、N速ホゥ、絶品かもネ、おネエ、
めちゃ×2イケてる!、あたしンち、ナンだ?、スゴイぞ、ニャン ちゅうワールド放送局、世界の果てイッテQ!、2時っチャオ!ド 82
(85)
へたカラオケ芸能人、ア然音痴、はねるのトびら、笑ってコラえて、
ダメ夫、調べてゴ、等。
!)ひらがなカタカナ連結型
わんパーク、おはスタ、ナンだ?英語でしゃべらナイト、とくダネ、
ごみタワー、ドラえもん、ポチたま、セレブやせ、ぶっコギ、ゆる ナビ、ためしてガッテン、にぎりズシ、等。
")省略型
喰いタン(<食いしん坊探偵)、オビラジR(<帯番組ラジオ)、ダ イバスタ(<お台場スタジオ)、キンスマ(<金曜日スマップ)、ク リケイ(<クリスタルケイ)、オリキュン(<オリエンタルラジオ 胸キュン)、なつメロ、等。
#)外来語日本語連結型
アドレな!バリバリバリュー、モノイズム、億ション、おはスタ、
英語でしゃべらナイト、やじうまプラス、おしゃれイズム、はなま るマーケット、わんパーク、おはスタ、2時っチャオ!、シネ通、
等。
(『朝日新聞』テレビ番組表(2007.3.1〜7)より)
このようなカタカナ表記を観察すると、特に「非標準最新型」におい て、その新鮮さ、簡潔性、音感性、ある種の親しみやすさ、分かりやす さ、エネルギーなど、従来のカタカナ表記とは異なる特性が散見され、
しかもその随所に、前述の英語変種(Varieties)のつづり字表記法に共 通してみられた「従来の(標準英語の)慣習にとらわれることなく柔軟 に、あくまで実際の発音に忠実かつ合理的なつづり字を志向する」とい う特徴に通ずるものがある。
本稿では、そのような視点に立って、いくつかの代表的な英語変種の 音韻とつづり字の表記法と日本語の最近のカタカナ表記とを比較し、そ の特徴を吟味して、その背後にある心理的特徴やその効果の比較検討を 試みる。一見やや乱暴とも見えるこの試みが今後の研究の先駆となれば 幸いである。
81 (86)
1.英語の非標準的つづり字
1.1. ピジン・クレオール系のつづり字表現
1.1.1. パプア・ニューギニアのトク・ピシン(Tok Pisin)
トク・ピシンの音韻の特徴としては、1)最終子音連結の単純化、
2)母音直後の/r/音の欠如、3)各種子音の単純化(より多くの子音 からより少ない子音への集約)、4)母音の数(/i, e, a, o, u/)が少な いための各種母音の単純化、などが挙げられるが、これらの特徴がその ままトク・ピシンのつづり字法に敏感に反映されている。と同時に、そ の単純化が発音に忠実なつづり字法に生かされ、実に合理的である。
標準英語に見られる発音とつづり字法の複雑・かつ不合理な関係をこ とごとく解消し、トク・ピシンの使用者・学習者にとって分かりやすく 使いやすいつづり字法が随所に見られる。それは、つづり字を構成する 文字の数の減少(88頁参照)、逆に文字を増やしてまでも発音重視の視 点に立ったつづり字法(次段落参照)、黙字や語尾の<e>の脱落(「付 録2」実例参照)、トク・ピシン独自の発音を反映したつづり字<k>
や<p>の使用(92頁参照)、などが典型的である。
次の実例は、トク・ピシンの音声に忠実なつづり字法を採用している ことが顕著に現れているものを一部列挙したものである。いずれも、ト ク・ピシンを日常使用している現地の人々の耳に聞こえた音声をもとに、
標準英語の母音・子音体系と比較して相対的に少ない数の母音と子音を 駆使して構成されたつづり字法であると同時に、大多数の学習者にとっ てはむしろ習得しやすい「単純」で「合理的」なつづり字法が自然と定 着していったものと考えられる。また、「単純」といっても必ずしも文 字数の減少を意味するわけではない。たとえば、bihain(<behind)の ように、二重母音/ai/を示すつづり字<ai>は、これに相当する標準英 語のつづり字<i>よりも文字数は増えている。つまり、あえて文字数 を増やしても、発音により忠実なつづり字を志向するという傾向の表れ とみなすことができるのであり、これもトク・ピシンに見られる一種の
「合理性」といえよう。
ensel(<angel), Epril(<April), nais(<nice), bikos(<because), 80
(87)
bihain long(<behind long), Baibel(<Bible), lo(<law), braun
(<brown), bas(<bus), busnaip(<bush knife), bata(<butter), kanu(<canoe), sutkes(<suitcase), klab(<club), taim(<
time), kom(<comb), kamaut(<come out), haitim(<hide=
conceal), kaunsila(<councilor), kasen(<cousin), krai(<cry), kap(<cup), kastam(<customs(n.)), kat/katim(<cut), disaipel
(<disciple), painim(<find), ai(<eye), raun(<round), daun(<
down), draivim(<drive(vb.)), draiva(<driver), drai/draipela(<
dry), draibisket(<dry biscuit), das(<dust), es(<east), edukeitim
(<educate), inap(<enough), fiftifaiv(<fifty−five), faiv/faipela(<
five), plaua(<flour), plaua(<flower), hat/hot/ hotpela(<hot), aua(<hour), hangre(<hungry), hariap(<hurry up), ais(<
ice), ain(<iron), ailan(<island), jek(<jack), jem(<jam), Janueri
(<January), kilomita(<kilometer), kain(<kind), naip(<knife), fotnait(<fortnight), Fraide(<Friday), parairais(<fried rice), praim
(<fry), galen(<gallon), giabokis(<gearbox), Jemeni(<
Germany), gel(<girl), go daun(<go down), gut nait(<good night), gavman(<government), graun(<ground), hidden(<
heathen), hia(<here), hallans/hailens(<highlands), haiwe(<
highway), hani(<honey), etc.
標準英語のつづり字法と比較して、トク・ピシンにおいてはつづり字 の「単純化」が目立つ。具体的には、標準英語で4文字でつづる部分が 3文字で、3文字でつづる部分が2字あるいは時に1字で、また2字で つづられる部分がしばしば1字で、さらに1文字でつづられていた部分 が欠落するなど、総じて文字数が減少しているのが特徴である。
address>adres, cross(=angry)>kros, battery>bateru, bill>bil, boss>bos, bottle>boto, button>baten, cabbage>cabis, carrot>karet, carry>karim ; afternoon>apinun, bamboo>mambu, blood>blut, book>buk, brooch>bros, cook>kuk/kukim, firewood>paiawut, four
−wheel drive>fowil draiv, ; anchor>anka, chopsticks>sopstik, back>
bek, cock(=penis)>kok, enough>inap, gnat>natnat, ; again>gen, August>Ogas, beads>bis, beans>bin, because>bikos, captain>
79 (88)
kapten, biscuit>bisket, blue>blu, boat>bot, bread>bret, break>
brukim, suitcase>sutkes, road>rot, clean>klin, clean(vb.)>klinim, : law>lo, day>de, Easter>Ista, fortnight>fotnait, girl>gel, work>
wokim,butter>bata, kilometer>kilomita, Germany>Jemeni, councilor>kaunsila, ; bright>lait, fortnight>fotnait, eight>et/etpela, good night>gut nait, ; heart>hat, hear>harim, colour>kala, course
>kos, court>kot, courthouse>kothaus, gearbox>giabokis, airport>
epot, before>bipo, more better>mobeta, fare>fe, four>fo, four wheel>fowil, heart>hat, picture>piksa, house picture>haus piksa ; door>dua, interviewer>intaviua, four>foa, dear>dia, beer>bia, floor>plua, here>hia, flower>plaua, ; comb>kom, island>ailan, knife>naip, hour>aua, iron>ain, etc.
各項目を見れば、いずれも発音に忠実なつづり字を当てていることが 明白であるが、特に<2重母音字(異文字)⇒単母音字>、<2重子音 字(異文字)⇒単子音字>及び、<3重複合(母・子)音字⇒単母音字
>の各パタンにおいて、複数の選択肢を設け、それぞれ音声により忠実 な方の母音字を採用していることが顕著に散見され、トク・ピシンのつ づり字法の「単純化」がみられ、その背後に「合理性」が伺える。
《音韻とつづり字の各特長の分類》3)
1)「最終語尾子音連結(Final Consonant Clusters)」の単純化:最 終子音の「無声音化」、「簡略化」及び「脱落」が見られ、それがつ づり字にそのまま反映されている。4)
Ogas(<August), dentis(<dentist), das(<dust), es(<
east), eksosopaip(<exhaust pipe), passim(<fasten), hostes(<
hostess), hapkas(<half−cast); simen(<cement), Haus Palamen
(<House of Parliament), fran(<front), gavman(<govern- ment); distrik(<district); han(<hand), win(<wind), winim
(<wind−im=blow), boipren(<boyfriend), daimen(<diamond), raun(<round), ailan(<island), kain(<kind), pren(<
friend); wel(<wild), welpik(<wild pig), kol(<cold), gol(<
gold), holim(<hold); bamim(<bamp−im=bump), lam(<
78
(89)
lamp), etc.
2)子音/l/が母音化したり脱落し、それがつづり字に反映されてい る。また、ごく僅かではあるが、標準英語の/r/がトク・ピシンで /l/となることがあり、つづり字にその音韻的特徴が反映される。
belo(<bell), orait(<all right), hap(<half), hapkas(<half
−cast), hap pas seven(<half past seven), hapim(<halve), etc.
/r/⇒/l/ :<r>⇒<l>
laplap(<wrap wrap=colth), tulait(<too bright=very bright), lait
(<bright), etc.
3)語頭・語中・語尾の音(節)が脱落することがあり、それがつづ り字に反映される。
!)<語頭の音素・音節>:語頭 の つ づ り 字<a−>、<b−>、<e−
>などが示す音素や音節が脱落する。
pret(<afraid), gen(<again), long(<along), lait(<bright), lektrik(<electric), gohet(<go ahead), etc.
")<語 中 の 音 素・音 節>:語 中 の つ づ り 字<−ter−>、<−ed−>、
<−ing−>、<−ern−>、<−nd−>、<−to−>などが示す音素や音節 が脱落する。
apinum( <afternoon = evening(early)), parairais( <fried rice), praipan(<frying pan), gavman(<government), hakisip
(<handkerchief), hap kaikai bilong asde(<half food belong yesterday), olgeta(<altogether=completely), hapasde(<half yesterday), etc.
#)<語尾の音素・音節>:語尾のつづり字<−li>、<−ll>、<−be
>などが示す音素や音節が脱落する。
bel(<belly), orait(<all right), golo(<globe), etc.
4)子音挿入5)
hama/hamarim(<hammer),6)harim(<hear), haisapim/apim
(<high up/up=hoist, lift up), etc.
77 (90)
5)標準英語の「歯間摩擦音(interdental fricative)」/!/が、トク・
ピシンでは/t/に、また/!/は/d/、/r/、/s/あるいは/t/などになる。
標準英語では/!/及び/!/のつづり字は一貫して<th>でつづられ るが、トク・ピシンでは<t>、<s>及び<r>でつづられる。
/!/⇒/t/:<th>⇒<t>
katolik(<catholic), saut(<South), ting/tingting(<
think), etc.
/!/⇒/d, r, t/:<th>⇒<d, r, s, t>
/d/:hidden(<heathen)
/r/:narapela(<anotherpela), arasait(<other side), etc.
/s/:klos(<clothes)
/t/:ating(<either ), brata(<brother), etc.
6)Post−vocalic /r/の脱落がみられ、それがつづり字に反映されて いる。7)
!)<子音直前:V_C>:様々な子音<m, b, s, g, t, n, w, l, k, d>の
直前でPost−vocalic/r/の脱落が起こるのであり、直後の子音につ
いての制約はなさそうだ。
epot(<airport), ami(<army), baman(<barman), mobeta
(<more better), kabureta(<carburetor), kas(<cards), kago
(<cargo), katen(<carton), sot(<short), tanim(<turn), kon
(<corn), kona(<corner), kos(<course), kot(<court), etc.
")<語尾>:Post−vocalic/r/が脱落したことにより、最終語尾が母
音字<a>となるケースが圧倒的に多く、これはトク・ピシンの単 語構成上の音響的特徴を印象付けるものであり、トク・ピシンの音 韻上の大きな特徴といえ、それがつづり字に反映されている。
akeselareta(<accelerator), plasta(<adhesive plaster), alta(<
altar),anka(<anchor), ba(<bar), bia(<beer), mobeta(<
more better), masta(<master), brata(<brother), bata(<
butter), calenda(<calendar), ka(<car), etc.
7)kの多用: /g/が無声音化して、/k/となり、それがつづり字に反
映され<k>となる。これらの音素はそれぞれ調音点・調音方法が 76
(91)
ともに同じで、有声・無声の違いだけであり、有声音の無声音化現 象といえる。
/g/⇒/k/ : bek(<bag), pik(<pig), welpik(<wild pig), Koan!(<
Go on!), //kirap/sanap(<get up/sun up=get up), etc.
cf. beng(<bank), dring(<drink(n.))
一方、/k/を表すのには一貫して、つづり字<k>が用いられ、原則 として標準英語の場合のような<c>は用いられない。これはトク・ピ シンとしてはきわめて明白なつづり字の特徴であり、掲示、プラカード、
看板などでこのつづり字使われているのを見かけると、標準英語のつづ り字に慣れきった者(我々)にとっては、視覚的に最も目立つ特徴の一 つといえる。
kros(<cross=angry), kapten(<captain), bisket(<biscuit), kabis(<cabbage), kek(<cake), kalenda(<calendar), kamera
(<camera), ken(<can, could), kandel(<candle), kanu(<
canoe), ka/kar(<car), kabureta(<carburetor), kas(<cards), kago(<cargo), etc.
また、標準英語の/k/を示すつづり字<ch>および<ck>が<k>で つづられる。一般に、<ch>⇒<k>は語頭と語中で、<ck>⇒<k>
は語中と語尾に現れる。
<ch>:Kristen(<Christian), krismas(<Christmas), skul(<
school), anka(<anchor), etc.
<ck>:baksait(<backside=rear), bek(<back), bekbun(<
backborne), kilok(<clock), bek(<back), kok(<cock=
penis), aisblok(<iceblock), jek(<jack), etc.
その他に、標準英語では、「語尾子音連結(final consonant cluster)」 /ks/が<x>でつづられるが、トク・ピシンでは<kis>あるいは<ks>
でつづられる。
<x>⇒<kis, ks>:akis(<axe), bokis(<box), piksim(<fix), giabokis(<gearbox), seks(<sex), bokis ais(<box ice
=ice chest, refrigerator), etc.
75 (92)
1.1.2. ジャマイカン・クレオール(Jamaican Creole)
発音に忠実なつづり字法が顕著であり、特に次に紹介するジャマイカ ン・クレオールの各音韻的特徴がそのままつづり字法に忠実に反映され ており、前述のトク・ピシンとの共通点が随所に見られる。具体的には、
語尾子音連結の単純化、子音/l/の母音化及び脱落、語頭・語中・語尾 での音(節)の脱落と挿入、子音/!/・/!/の異音、母音直後の/r/(Post
−vocalic/r/)の脱落、つづり字<k>の多用、などの共通点が顕著であ る。ただし、これらの諸特徴の具現化については両者に違いがあるので、
個々の語彙のつづり字の形態がことごとく一致するというわけではない。
1)語尾子音連結の単純化がつづり字に反映されている。8)
accep(<accept), adap(<adapt), ahgus(<August), an(<
hand), arres(<arrest), baddis(=badis<baddest), bans(<
bands), beas(<beast), behine(<behind), behole(<behold), ben(<bend), bess/bes(<best), bigges/biggis(<biggest), bline
(<blind), boas(<boast), etc. cf. grung(<ground)
なお、最終語尾子音連結の「無声音化」、「簡略化」及び「脱落」など の現象は、ある意味では子音連結を避けようとする普遍的現象でもある。
2)子音/l/、/d/ が母音化したり脱落し、それがつづり字に反映さ れている。
awrite(<all right), azways(<always), bendung(<bend down), foo/fu(<fool), etc.
なお、音素/l/が半母音/r/になることがあり、それがつづり字に反映 される。
direc(<dialect)
3)語頭・語中・語尾の音(節)が脱落することがあり、それがつづ り字に反映される。
!)語頭
Boat/boht/bout(<about), ca/caa/caw/becaa(<because), catch(<scratch), ceitful(<deceitful), dacta(<conductor), coo /cu/ku(<look), coodeh(<look there), cooyah/cuyah(<look 74
(93)
here, look you), craas/crass/craas(<across), cratch(<
scratch), etc.
語頭の音素/h/が脱落することがあり、それがつづり字に反映される。
aaspital(=aspital<hospital), affi(=haffi<have to), ammasi(<have mercy), an(<hand), appie(<happy), ar(<her), arbor(=arbour
<harbor), art(<heart), at(<hat), ’at(<hot), av=(ave<have), awa(=hour), ear(<hear), eavy(<heavy), ello(<hello), etc.
つづり字だけが残留するケースもある。
head, healt, heaby, hear, hears, heat, heavy, heet(<eat), hedge, etc.
ただし、単語の最初が母音で始まるときには音素/h/が付加されるこ とがあり、それがつづり字に反映される。
heat(<eat), hask(<ask), heat(<eat), hegg(<egg), hiez /ears/ies(<ears), hile(<oil), heeven(<even), hears(<
ears), heetch(<itchy), etc.
!)語中
febry(<February)
")語尾
braa/bra/brer(<brother), coulda(<could have), cunny(<
cunning), cyai(<carry it), Dadooi!(<Don’t do it!), diss/dis
(<disrespect), doah/doan(<don’t), getti/getty(<get it), gi(<
give), gooda(<woulda<would have), ha(<have), haffi(<have to), etc.
4)語頭や語中に、/k/, /w/, /y/, /t/, /b/, /n/, /g/などの子音が挿 入されることがあり、つづり字にそれが反映される。
bunks(<bounce), bwaile/bwile(<boil), bwoy/bwai(<boy), cyar/cyaar(<car), cyane(<cane), deestant / destant( < decent), fambilly/fambly(<family), fishnin(<fishing), foolynish
(<foolish), gyaabige(<garbage), gyal/gal(<girl), gyap(<
gap), gyarden(<garden); dung(<down); yai(<eye), etc.
5)<th>⇒<dd, d,>、<th>⇒<t>:「有声・歯間・摩擦音」/!/ 73 (94)
が/d/に、「無声・歯間・摩擦音」/"/が/t/となる傾向があり、そ れがつづり字に反映される。
/!/ : adda/ada(<other), aldoah(<although), altogeder(<
altogether), anada(=annada=anneda<another), fahda(<
father), mada(<mother), badda/bodder(=bada<bother), bredda/bredah(<brother), da/dah/a(<that, the), dan(<
than), dat(<that), de(<the), dem(<them), den(<then), dese(<these), etc.
/"/ : autority(<authority), boat(<both), breat(<breath), chute
(<truth), claat/cloot/claut/clawt/clot/clout(<cloth), det(<
death), eartquake/earthshake(<earthquake), everyting(<
everything), faitfull(<faithful), healt(<health), etc.
cf. anutha(<another)
6)Post−vocalic/r/⇒ !:Non−rhoticである。つまり、cardやwater などのように、母音直後(あるいは子音直前や語尾)で/r/が発音 されず、それがつづり字に反映される。
!)<語尾>:Post−vocalic /r/が脱落したことにより、最終語尾が 母音字<a>となるケースが圧倒的に多く、これはトク・ピシンの 場合と同様に、ジャマイカン・クレオールの単語構成上の音響的特 徴を印象付けるものでもあり、それがつづり字に反映されている。
afta(<after), anda(=unda<under), anywhe(<anywhere), fahda(<father), mada(<mother), badda(=bada<bother), benta
(<venture), betta(<better), bigga(<bigger), cabba(<
cover), cella(<celler), chatta(<chatter), chokey(<choker), rubbas(<rubbers), coodeh(<look there), cooyah(<look here), etc.
cf. betteration(<better)
")<子音直前:V_C>:様々な子音<d, k, n, f. ch, s>の直前でPost
−vocalic/r/の脱落が起こるのであり、直後の子音についての制約は なさそうだ。
aftawud(<afterward), baak(<bark), baan(<burn), bad wud 72
(95)
(<bad word), tun bad(<turn bad), ban(<burn), boad(<
board), bood/bud(<bird), buttafly(<butterfly), caad(<
card), caan(<corn), cawd(<cord), chuch(<church), dutty/
doti(<dirty), etc.
7)kの多用:音素/t/が同じ調音法(閉止音系)の/k/となることが あり、それがつづり字に反映され<t>⇒<k>となる。
bokkle/bokl(<bottle), genkly(<gently), etc.
cf. cangle(<candle), hangle(<handle), etc.
1.2. 英語方言系のつづり字 1.2.1. グラスゴーでの日常語9)
グラスゴーの人々の日常語はゲール語やスコッツ語などの影響があり やや複雑だが、Aitken(1984)が言うように、スコッツ語とスコットラ ンド英語とを両極に配置した「言語連続体(language continuum)」を 設定し、スコットランドで話されている様々な英語系言語変種をこの連 続体のどこかに位置づけるというのが妥当だとすれば、グラスゴーの日 常語もこの中に位置づけられることになる。したがって、その音素の数 や分布及び調音法については、英国における他の非標準英語の場合と同 じように、基本的に標準スコットランド英語のものを基盤として考えて よい。
語尾子音連結、特に、語尾子音連結の単純化、子音/l/の母音化及び 脱落、語頭・語中・語尾での音(節)の脱落と挿入、つづり字<k>の 多用などは前述の変種、トク・ピシン、ジャマイカン・クレオールと共 通の音韻的特徴であり、それがつづり字に反映されているが、子音 /!/・/"/の異音については若干の相違があるし、母音直後の/r/(Post−
vocalic/r/)につい て は「弾 音(tap)」〔 〕や「接 近 音(approximant)」
〔 〕として具現化されるという点で前者とはまったく異なる。
1)語尾子音連結<母音+/nt/>および<母音+/rt/>の単純化、つ まりこの種の子音連結/−nt/, /−rt/の最終子音/t/が声門閉鎖音/ / で代用されたり、脱落したりする。10)
senting /senti!/⇒/sen n/⇒/sen/, wanting/wanti!/⇒/wa: n/⇒
71 (96)
/wa:n/, don’t know /dant no/⇒/da no/⇒/dano/, etc.
この種の特徴は、実は語尾子音連結を回避して、つまり<子音+子音
>の配列をさけ、<子音+母音>の配列を作ろうとする傾向の現われか もしれない。というのも、語尾子音連結<母音+/nt/>および<母音+
/rt/>の結合形においては、語尾の/t/が声門閉鎖音/ /で代用され、
さらにその直前の/n/や/r/が脱落して、二段階の単純化がみられたわ けだが、その結果として語尾子音連結の配列形態が回避されたともいえ るからである。また、このような解釈の妥当性を支持する現象がほかに も見られる。<rl><rm><lm><rn>などの語尾子音連結に見られる
「語中音挿入(epenthesis)」である。これは語尾子音連結の間に母音を 挿入することによって子音連結を回避している現象であり、例えば、girl,
arm, film, torn,などの発音が、それぞれ〔 〕、〔 〕、〔 〕、
〔 〕となり、子音連結が解消されている。
ただし、トク・ピシンやジャマイカン・クレオールに比較的頻繁に見 られた、その他の語尾子音連結の単純化(最終子音の脱落)を反映する つづり字が意外と少なく、これがブラスゴーの日常語のつづり字の大き な特徴と言えなくもない。
2)音素/l/が「軟口蓋化(velarized)」あるいは「母音化(vocalized)」 して、「暗い(dark)/l/:〔 〕」となり、それがつづり字に反映さ れることがある。11)
《語尾》:a’/aa/aw(=all), ara/ a−raw(=at all), ba/baw(=ball), etc.
《子音直前》:ayeways(=always), bawface(=ballface), baw−hair(=
ball−hair), bawheid(=ball head), baws<balls=testicles), haud(=hold), etc.
3)語頭、語中、語尾などにおいて単語の一部(子音・音節)が脱落 することがあり、それがつづり字に反映される。
um(=him), dundy money(=redundancy money); caunle(=
candle), tummle(=tumble), haunbaw(=handball), hauf(=half), haud(=hold); fun(=found), gaun(=going, go on), granda(=
grandfather), granma(=grandmother), grun(=ground), wae(=
wall), getting(=getting), wi(=with), bree(=brother), etc.
70
(97)
4)語中、語尾において単語の一部に子音や音節が挿入されることが あり、それがつづり字に反映される。
Shuggy / Shug(= Hugh), shuge(= huge), Zliz(= Liz : Elizabeth), tumshie(=turnip); twicet(=twice), wanst(=once), etc.
5)歯間摩擦音/!/及び/!/はそれぞれ/h/や/d/で代用されたり、前 後の母音や直後の音への同化現象を起こし、それがつづり字に反映 されることがある。12)
/!/ : brother〔 〕, mother( ), that( ), faither
〔 〕, there〔 〕, etc.
/!/ : hanks(=thanks), hing(=thing), somhin(=something), everyhin
(=everything), nuhin(=nothing), anyhin(=anything), hink(=
think), etc.
6)母音直後の/r/(Post−vocalic/r/)が発音され、特に母音間では
「弾 音(tap)」〔 〕13)や「接 近 音(approximant)」〔 〕14)な ど に な る。15)つづり字<r>はそのまま残留し、標準英語と同じつづり字 が使われることが多い。
《語尾》:after, bar, brammer, motor, yer, for, air, fur, sure, wur(=
our), merr(=come here), etc.
《子音直前》:start, first, mustard, birlin, kerds, arm, arse, parsley, beardie(=a bearded man), etc.
《母音間》: furrit, horror, in one’s baries, barra(=barrow), the berries, morra(=tomorrow), etc.
以上取り上げたつづり字に見られる諸特徴は、3つの英語系変種に共 通して見られるものが中心であるが、その共通する背景として、いずれ も多民族によるたび重なる言語接触というプロセスを経ていること、そ して共通する大きな特徴として、つづり字法が標準英語の伝統にとらわ れることなく、実際の日常語の発音に極めて忠実だということを指摘で きる。さらに、その特徴の背後には、それらの根幹をなす「単純化」と その「合理性」が窺える。
69 (98)
2.日本語の非標準的つづり字(文字)としての カタカナ表現16)
前述のように、カタカナ表現には、外国語からの借入語をカタカナ表 記した「外国語系(外来語系)カタカナ表記」とそれ以外の、元来は日 本語であるのに(したがって通常はひらがなや漢字で表記されるのに)
あえてカタカナ表記される「日本語系カタカナ表記」17)とに大きく分類 できる。前者をさらに主流を占める「英語系(普通名詞、固有名詞、形 容詞、動詞、句表現、等)」とその他の「外国語系」に、そして後者を
「標準従来系(普通名詞、固有名詞、擬態語・擬音語)」と「非標準最新 系(複合型:ひらがなカタカナ連結型、省略型、外来語日本語連結型、
等)」とに分け、それぞれの具体例を収集した。収集した資料は、『朝日 新聞』のテレビ番組欄(2007年3月1日〜7日)からのものである。
2.1. 外国語系(外来語系)カタカナ表記例
2.1.1. 英語系 2.1.1.1. 普通名詞
スポーツ、ニュース、ストレッチ、マジック、アクション、ビジ ネス、タクシー、ドラマ、レストラン、サウンド、コメディー、等。
2.1.1.2. 固有名詞
ニューヨーク、フランス、パリス・ヒルトン、ソフトバンク、ワ イルドワンズ、アルツハイマー、クック諸島、等。
2.1.1.3. 形容詞
ユニーク教材、ホームレス生活、アンビリバボー、土曜ワイド劇 場、ミラクル結婚、グッド、ホットホット美女トーク、等。
2.1.1.4. 動詞
スピーク、セレクト、若い美女をゲット、ハッスル、等。
2.1.1.5. 句表現
クローズアップ現代、ニュースウォッチ9、地球データマップ、
ライフスタイル、ズームインSUPER、リアル タ イ ム、ス ー パ ー ニュース、奇跡ラブストーリー、スーパーモーニング、ドラマチッ クメーク等。
2.1.1.6. 句表現(省略型)
68
(99)
デジカメ新機能、チンパンニュース、モーサテ(=モーニングサ テライト)、スポパラ、Jナビ、プロレス、高級エス テ、ス ポ 魂、
脳トレ超魔術、感動エンタ、チャイナビ、ベリサタ!、スマステ!、
揚水がアポなしで乱入、スタメン、デパ地下、ワンセグ放送、コラ ボ、デジ、等。
2.1.2. 他の外国語系(フランス語・韓国朝鮮語・スペイン語・等)
湖 畔 プ チ 旅、春 グ ル メ、丸 秘 レ シ ピ、松 坂 デ ビ ュ ー、Mル ー ジュ;ハングル、ソウ・スンホン、パク・シネ、ソンジュの旅立 ち;フラメンコ、アラビア、のだめカンタービレ、ヨガ、サファリ、
テノール、春色パスタ、星5つカルボナーラ、等。
2.2. 日本語系カタカナ表記例
2.2.1. 標準従来系 2.2.1.1. 普通名詞
ラーメン、ナマで誕生日、ハレの日の着物、15歳中学生にナニが、
ゴミ捨てを禁止!、クモ男、クロ猫、とくダネ!、肩コリ、開運の ツキ、ニンジン、怒りオヤジ3、洋ラン、ハゲタカ、国語ツボ、エ ビづくし、ゾウの鼻、大ゲンカ、旬のイカ、ぜひモノ、キャベツを 使い切るワザ、等。
2.2.1.2. 固有名詞
カズの闘志、ウドVS.梨花、アンパンマン、ピーコが涙、ビ−ト たけし、コブクロ、タミフル、ジャニーズ、マリック超魔術!、等。
2.2.1.3. 擬態語・擬音語
スクスク、スッキリ!、朝ズバッ!、キッパリ、大号泣ドッキ リ!、脳林寺でポクポクチン、メッタ斬り!、パシャ!、等。
2.2.2. 非標準最新系
エラいところへ嫁いでしまった、N速ホゥ、絶品かもネ、おネエ、
めちゃ×2イケてる!、あたしンち、ナンだ?、スゴイぞ、ニャン ちゅうワールド放送局、世界の果てイッテQ!、2時っチャオ!、
ドへたカラオケ芸能人、ア然音痴、はねるのトびら、笑ってコラえ て、ダメ夫、調べてゴ、等。
67 (100)
2.2.2.1. 複合型
2.2.2.1.1. ひらがな・カタカナ連結型
わんパーク、おはスタ、ナンだ?英語でしゃべらナイト、とくダ ネ、ごみタワー、ドラえもん、ポチたま、セレブやせ、ぶっコギ、
ゆるナビ、ためしてガッテン、にぎりズシ、等。
2.2.2.1.2. 省略型
喰いタン(<食いしん坊探偵)、オビラジR(<帯番組ラジオ)、 ダイバスタ(<お台場スタジオ)、キンスマ(<金曜日スマップ)、 クリケイ(<クリスタルケイ)、オリキュン(<オリエンタルラジ オ胸キュン)、なつメロ、等。
2.2.2.1.3. 外来語・日本語連結型
アドレな!、バリバリバリュー、モノイズム、億ション、おはス タ、英語でしゃべらナイト、やじうまプラス、おしゃれイズム、は なまるマーケット、わんパーク、おはスタ、2時っチャオ!、シネ 通、等。
(『朝日新聞』テレビ番組表(2007.3.1〜7)より)
2.3 「非標準最新系カタカタ表記」の特性とその効果
日本語系カタカナ表記のうち、特に「非標準最新系」に属するカタカ ナ表記例を中心に、学生を対象としたアンケート調査を一部参考にして、
その特性とその効果を分析し次にまとめた。あえて「非標準最新系」を 選んだ理由は、この種のカタカナ表記が、前述の3つの英語系変種のつ づり字の背後にある心理的特性に共通すると見られる特徴をより多く備 えていると思えたからである。
《特性》:《効果》
1)強調性:注目・インパクトを与える効果
ひらがなと漢字だけの表記にカタカナが入ると、それだけでインパク トを与えることになり、そのために強調効果が生ずる。例えば「メッタ 斬り」では、ひらがなを使った「めった斬り」よりもすごく鮮やかな、
あるいは豪快な斬り方をしそうで迫力があるし、「キャベツを使い切る ワザ」では、普通の技ではなく、もっと特別で、今まで聞いたこともな いスゴイ技なのではないかと思わせる効果がある。さらに「エラいとこ 66
(101)
ろに嫁いでしまった」の「エラ」はひらがなで「えっらい」ところとい うような 気持ちが入る 気がして、やはり強調の効果がある(学生 A)。また、この種の表現は、強調によって人目を引きつける効果があ るので、特にそのような機能を必要とする「テレビ番組欄」などには 打って付けといえよう。
【類例】
ドへたカラオケ芸能人、メッタ斬り!、15歳中学生にナニが、ナン だ?、スゴイぞ、ぜひモノ、ア然音痴、開運のツキ、国語ツボ、顔より デカイ仰天フライ、ここがヘン、森三中ヤバすぎ?、我が家のイチ押し 丼、ボロもうけ、等。
2)簡潔性・明晰性・省略型:平易さ・分かり易さの効果、記憶に残 りやすいという効果
例えば、ブラックマヨネーズ、アンジャッシュ、オリエンタルラジオ などは、インパクトのある芸人の名前ではあるが、速いペースの日常会 話で発音するのには長すぎるので、それぞれ「ブラマヨ」、「アンジャ」、
「オリラジ」のように短く簡潔な表現に変えることにより、インパクト や分かりやすさ(記憶に残りやすいこと)を維持しながら、会話での運 用性や歯切れの良さを高めるという効果がある。また、「ハゲタカ」、「洋 ラン」、「大ゲンカ」などのように、仮にこれらを漢字で表記すると、「禿 鷹」、「洋蘭」、「大喧嘩」などのように、複雑すぎて難度が高くなるので、
カタカナ表記を使うことにより簡潔性・明晰性を強調し、平易さ・分か り易さという効果を出すことが出来る(学生B)。
【類例】
クモ男(蜘蛛男)、クロ猫(黒猫)、肩コリ(肩凝り)、開運のツキ(付 き)、ニンジン(人参)、怒りオヤジ3(怒り親父3)、国語ツボ(壺)、 エビづくし(海老/蝦尽くし)、旬のイカ(烏賊)、シネ通(シネマ通)、 ハレの日の着物(晴れの日の着物)、ゴミ捨てを禁止(塵捨てを禁止)、 ゾウの鼻(象の鼻)、キャベツを使い切るワザ(技)、カズの闘志(三浦 和良の闘志)、ウドVS.梨花、ピーコが涙、ビートたけし、コブクロ、
ナ ン だ?(何 だ?)、ア 然 音 痴(唖 然 音 痴)、は ね る の ト び ら(扉)、 笑ってコラえて(笑って堪えて)、ダメ夫(駄目夫)、調べてゴ、にぎり ズシ(握り寿司)、モツ鍋(臓物鍋)、突然のクビ宣言!(突然の首宣
65 (102)
言!)、モテない田舎高校生(持てない田舎高校生)、ラーメン(拉麺/
老麺)、ここがヘン(変)、ぜひモノ(是非物)、危険なアネキ(姉貴)、 旬のぷりぷり松葉ガニ(松葉蟹)、Dのゲキジョー(劇場・激情)、年収 6億で壮絶イジメ(虐め/苛め)、キク!みる!(聞く!見る!)、極上 トロ、女たちの背徳のツボ(壺)、雪の宿で女将と大モメ(揉め)、スケ バン(助番)、かわいいネコ特集(猫特集)、紙とハサミのご用意を(紙 と鋏/剪みのご用意を)、カエルがいなくなる(蛙がいなくなる)、親や 教師にも言えないワケ(訳)、五つ目のチカイ(誓)、祐ちゃんマー君卒 業、核のゴミに揺れる町(核の芥/塵に揺れる町)、巨大人食いサメを 狙え(巨大人食い鮫を狙え)、クマ乱入(熊乱入)、桑名の焼きハマグリ
(蛤)、参院も豪華宿舎のナゼ(何故)、春新作ケータイ特集、チュー ボー(厨房)、トマトとタコ(トマトと蛸)、ワカサギ(公魚)、知的冒 険ハッケン!!(知的冒険発見!!)、無添加食品のワナ(罠)、関根勉に娘 がダメ出し(駄目出し)、モノマネ芸(物真似芸)、金属ドロ(金属泥)、 マグロが消える(鮪が消える)、42歳のナゾ(謎)、家族結ぶイチゴ園(苺 園)、?串刺し不死身オヤジ(親父)、車VS.無謀なオバさん(小母さ ん)、?電線ドロ感電宙づり(?電線泥感電宙吊り)、テキトーTV(適 当TV)、ダメ女(駄目女)、コレイチ、アタマの体操決定版(頭の体操 決定版)、パンダが警告、豪快アワビ無料(豪快鮑/鰒無料)、政治とカ ネ(金)、マジ涙南キャン、ア然(唖然)、真相報道バンキシャ!(真相 報道番記者)、黒バラ(黒薔薇)、ニセ良純出現(偽/贋良純出現)、ガ キの使い(餓鬼の使い)、カラダ(体)、腸内から体をキレイに!(綺麗 に!)、ボロもうけ(襤褸儲け)、華麗なるブタ(豚)、超キレイ好き珍 獣、世界最大サンゴに危機、ガキ大将(餓鬼大将)、華麗なるケチ生活、
激ウマ列島、マジ説教、逆ギレ(逆切れ)、ココが巧、牛肉デカ飯、オ ンチ克服(音痴克服)、家康がホレ込んだ名刀(家康が惚れ込んだ名刀)、 決断のウラ側、スレ違い(擦れ違い)、過激イタズラ初公開だ、怪物ヘ ビ(怪物蛇)、高橋英樹が大ハマりの家事とは、完ペキ収納、ダンナ(旦 那)、今週ヤマ場、寒ブリ直送、肉汁ジュワリ餃子、アナタ、愛されて ますか…!?(貴方、愛されてますか!?)、夫婦像にズレ…、金属ドロボー
(泥棒)、等。
3)新鮮性・現代性、エネルギー・爽快性:ホップな可愛らしさや、
64
(103)
元気な表現ををもたらす効果
カタカナのもつ視覚的イメージ、即ちシャープで新鮮さを感じさせる 効果が、ひらがなと漢字だけの文章の中では際立ち、新しい心理的効果 が生まれる。例えば「N速ホウ」では、一部カタカナを入れることで新 鮮さが増し、とっつき易く、読む者に興味を抱かせるエネルギーを持つ ことになる。また、略字やカタカナそのものが現代風で爽快なイメージ を伝える効果がある(学生C)。テレビ番組表は本来、視聴者(特に若 者)に対し、新鮮さを前面に出すことにより、より流行を意識している のであり、カタカナ表記を多用すること自体が、このような流行や現代 性を先取りしようとの意図が見えてくる。
【類例】
ハレの日の着物、怒りオヤジ、アンパンマン、オリキュン、ぶっコギ、
ポチたま、ゆるナビ、ダイバスタ、クリケイ、アドレな!、モノイズム、
英語でしゃべらナイト、わんパーク、ミミカ、バケルノ、アンジャ、ブ ラマヨ、2時っチャオ!、ここがヘン、危険なアネキ、五つ目のチカイ、
真相報道バンキシャ!、知的冒険ハッケン、チューボー、体をキレイに、
逆ギレ、完ペキ、Dのゲキジョー、参院も豪華宿舎のナゼ、絶品かもネ、
あたしンち、朝ズバッ!、めちゃ×2イケてる!、スゴイぞ、おネエ、
アンタ殺してワタシも死ぬ、夢キラリ、等。
4)音響性・音感性、気軽性・親密性:口語的で会話の雰囲気を出す 効果、とっつき易く肩のこらない雰囲気を出す効果
例えば、「絶品かもネ」の「ネ」だけを、また「あたしンち」の「ン」
だけをカタカナ表記とすることにより、音響性・音感性を連想させ、よ り口語的で会話の雰囲気をかもし出す効果がある。また、「とくダネ!」
や「朝ズバッ!」などは、報道番組の堅苦しいイメージを和らげ、気軽 な肩のこらない雰囲気を出し、芸能・暮らしなどのバラエティー番組感 覚で政治や経済の問題を報道してくれそうなイメージ作りの効果がある
(学生D)。
【類例】
カッコイイ、2時っチャオ!、怒りオヤジ、(擬態語・擬音語系)、ス クスク、スッキリ!、キッパリ、大号泣ドッキリ!、脳林寺でポクポク チン、メッタ斬り!、パシャ!、絶品かもネ、おネエ、めちゃ×2イケ
63 (104)
てる!、ナンだ?、スゴイぞ、ためしてガッテン、危険なアネキ、Dの ゲキジョー、キク!みる!、極上トロ、オススメ、アンタ殺してワタシ も死ぬ、夢キラリ、テキトーTV、コレイチ、アタマの体操、肉汁タッ プリ極上肉まん、ウチくる!?、ココが巧、牛肉デカ飯、オススメッ、
トコトン、アンコ椿春の香り、にぎりズシ圧巻ズラリ、国語ツボ、ぜひ モノ、アンパンマン、テキトーTV、コレイチ、モノコト進化論、ココ が巧、等。
5)欧米性・洋風:欧米文化への憧れ効果
外来語(それも、主として英語)をもじったカタカナ表現の背後には、
外国、それも欧米文化への志向性・根強い憧憬を彷彿させる。
【類例】
おしゃれイズム、モノイズム、シネ通、バリバリバリュー、タミフル、
ジャニーズ、マリック超魔術!、アドレな!、バリバリバリュー、モノ イズム、億ション、おはスタ、英語でしゃべらナイト、やじうまプラス、
おしゃれイズム、はなまるマーケット、わんパーク、2時っチャオ!、
シネ通、等。
6)多義性・ギャグ性:ことばの遊び効果(古文の掛詞の伝統)
例えば、「とく(得)ダネ!」は「得だね!」と「特種」の二つの意 味を、「2時っチャオ!」は「2時に見ちゃおう」と「(2時っ)チャ オ!:イタリア語由来の挨拶で ヤッホー! 」の二つの意味を、また
「わんパーク」は「腕白」と「わんわんパーク」の二つの意味を含意し ているというように、一瞬のうちに複合的なイメージを連想できると同 時に、インパクトもそれだけ強くなる。さらにこの用法は、古文に見ら れる「掛詞(かけことば)」の手法に通じるという点で、日本文化の伝 統を受け継いでいると同時に、現代の若者のギャグ文化と見事にマッチ しているといえよう。
【類例】
英語でしゃべらナイト、笑ってコラえて、世界の果てイッテQ!、ア ンパンマン、脳林寺でポクポクチン、ニャンちゅうワールド放送局(猫 とネズミ)、とくダネ、ドラえもん、Dのゲキジョー(劇場/激情)、等。
62
(105)