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江戸時代和書(奈良教育大学所蔵)にみる近世文字 文化

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

江戸時代和書(奈良教育大学所蔵)にみる近世文字 文化

著者 梅村 佳代

雑誌名 高円史学

巻 16

ページ 52‑55

発行年 2000‑10‑01

その他のタイトル Culture of Letters in the Kinsei Period as Shown in the Japanese Books of the Edo Period (located in Nara University of Education

Archives)

URL http://hdl.handle.net/10105/8777

(2)

A余 録∀

江戸時代和書︵奈良教育大学所蔵︶ にみる近世の文字文化

梅     村     佳     代

は   じ   め   に

︵こ往来物について

筆者は奈良教育大学所蔵の江戸時代和書を整理して論文

としてまとめ︑科学研究費の助成による本学ホームページ

教育資料館資料の画像全面公開にあたり解説を書く機会を

与えられた︒それらの検討作業に従事して書物に目を通し

たことにより︑近世社会の文字学習やリテレシーのみなら

ず民衆文化や出版文化などについて新たなイメージを与え

られた︒これらの和書について検討したことを中心に特徴

的なことをまとめたい︒ 往来物は旧蔵されてきた四八点と新規に新村家より寄贈 された二五点からなる︒その蒐集の特徴は旧蔵分では実業 類︑地理類︑歴史類︑消息類︑教訓類︑女子用往来︑古往 来︑理学類など八つの分野にわたって広く蒐集され︑とり わけ近世になって爆発的に出版されたとされる実業類だけ で三〇%を占める︒代表的なものをあげれば実業類では ﹁商売往来﹂や﹁百姓往来﹂などがあり︑最も発刊数が多

かったものである︒地理類では﹁江戸往来﹂﹁隅田川往来﹂

などがあり︑頭書として活用頻度の高い﹁龍田詣﹂など人

一52−

(3)

気の高いものであった︒また消息類では﹁消息往来﹂や

﹁風月往来﹂など往復書簡の雛型を手本として編集された

もので︑往来物の源流にあたり日用文の手本としても広く

流布したものである︒教訓頬は﹁童子往来﹂が多種類集め

られた︒その他﹁世界婦女往来﹂や﹁百人一首﹂などの女

子用教材や︑よく知られている古往来である﹁庭訓往来﹂︑

和算教科書である﹁塵劫記﹂もある︒また新規の所蔵本は

単語や用文章など消息型の﹁手本﹂とされる初歩教材にあ

たる内容で︑しかも近世奈良町を題材にしていることで奈

良町の寺子屋で寺子屋師匠により手習いの手本として作ら

れ使われた可能性が高い︒どの分野においても著名な往来

物のみならず︑類似の書物もできる限り集められ︑当時の

出版事情や読者の需要︑出版元についても推測しうるもの

となっている︒また発刊時期も近世以前のもの︑近世初期︑

中期︑幕末︑明治初期といった各時期にわたっている︒

︵旧蔵分四八冊の往来物はすべてホームページで画像公開

さ れ

て い

る ︶

︵ 二

︶ 大 和 地 域 の 往 来 物 ︵ 地 往 来 物

︶ に つ い て

主として郡山市の柳澤文庫本及び石川松太郎監修﹃稀載

往来物集成﹄所収の影印本︑謙堂文庫本などにより検討し

た︒﹁大和国名所 百人一首 三十六歌撰 伊勢物語﹂ の

﹁大和国名所﹂部分︑﹁寺子重宝 名所文絵入 新撰大和往

来 ﹂

︵ ﹁

新 撰

大 和

名 所

往 来

﹂ ︶

﹁ 筆

道 幼

学  

龍 田

諸  

倭 文

章 ﹂

﹁ 奈

良 詣

﹂ ﹁

改 正

絵 入

南 都

名 所

記 ﹂

﹁ 芳

野 往

来 ﹂

  で

あ る

が ︑

大和国全体︑龍田川流域︑奈良︑南都︑吉野の名所旧跡が

名所巡り記として往来物化されたものである︒近世民衆の

娯楽としての旅︑名所めぐりと参詣に重宝な案内記とされ

た 書

物 で

あ る

−53−

︵ 三

︶ 新 規 購 入 の 和 書 群 に つ い て

一九九八年に赤井達郎前学長により購入された和書群に

ついても全冊ホームページで公開されている︒主に往来物︑

(4)

女筆手本類︑文房具︑書画︑和歌︑随筆︑漠詩文︑辞書︑

名所記類などに分類される六一点八八冊余の和書群である︒

特に近世前期のものが九点にわたり蒐集されていること︑

ほ せ が わ み ょ う て い   い そ め つ な

長谷川妙鉢︑居初津奈など近世前期から中期に活躍した女

性書家による女筆手本が二二点集められた︒柳亭種彦﹁用

捨箱﹂や山東京伝﹁骨董集﹂など随筆集や書画詩歌などの

教養書や名所記類など近世の出版書物の人気の高かった書

物が集められた︒

そこで第一に一九八〇年代後半から九〇年代にかけて近

世民衆の読み書き能力︵識字率︶や文字学習︑出版書や俳

詩︑和歌などの芸事・芸能荘ど民衆生活における文化のネッ

トワーク形成の実態が解明されるにつれて︑民衆文化の裾

野の広さや︑近世民衆の読み書き能力がかなり普及してい

ると推測した︒また︑幕末ではなく宝暦期に女性の識字の

高まりの画期があること︑近世初期にも手習いの普及が少

なからずみられることなど︑読み書き計算力の獲得につい

ても従来より時期的に早期にさかのぼってとらえることが でき︑民衆生活のイメージが変化した︒これは近世の社会 経済史的進展による民衆の力量が拡大していくという文化 的側面が深化したとみてよい︒また民衆像についても民衆 一般ではなく︑子ども︑女性︑老人︑家族︑奉公人︑親子 など具体的な存在と生業や生活の実態について文化的側面 において解明がすすんだともいえる︒

第二に民衆に読まれた書物の内容は近世を通じてどのよ

うな変化としてみることができるのか︑また歴史現象の表

層の奥にある深層の心性や意識はどのようなものであるか

などにも関心が及んだ︒女等手本類からみれば近世前期は

女性書家の手になる手本いわゆる女筆手本が多く流布した︒

﹁散らし書き﹂の書法による優雅で個性的な書体をもった

女性書家が現れて︑和歌や古典などの教養的な内容を個性

的な書法で表現する手本を書き読者の需要に応えた︒そし

て後期から幕末になると男筆による用文章系統の手本類へ

と需要が変化していったことが小泉吉永により明らかにさ

れた︒これは天野晴子が﹃女子消息型往来に関する研究−

ー54−

(5)

江戸時代における女子教育史の一環として1﹄において女

子消息型往来が前期では四季おりおりの風雅を題材とした

手紙文であったものから︑後期には日用の消息文へと変化

すると述べているのと合致する︒

第三に往来物の書体はお家流つまり青蓮院流の書体であ

るが︑それ自体の美しさと刷りの見事さ︑色彩の鮮やかさ

など技術的水準の高さ︑出版書にこらされた様々な工夫の

深さなど情報メディアとしてのみならず出版文化として高

い質のものをもっている︒その出版の量的な面も無視でき

ない︒往来物は七〇〇〇種類︑女子用往釆は一五〇〇種類︑

女子用の手本﹁百人一首﹂も一〇〇〇種類にのぼると推定

されている︒これらを支えた読者層の深さと多様さ︑出版

元による大衆の欲求の機敏な把握︑それに答えた職人技の

高さなどの総結集であろう︒

最後にこれらの和書の検討に多大な示唆を与えてくれた

研究書や史料書も多く発刊された︒石川松太郎﹃往来物の

成立と展開﹄︵一九八八年︶︑石川松太郎監修﹃往釆芸 全一〇〇巻︵一九九四年︶とそれに続く石川松太郎監修 ﹃

稀 載 往 来 物 集 成 ﹄ 全 三 二 巻

︵ 一 九 九 六 年

︶ ︑ 江 森 一 郎 監 修

﹃江戸時代女性生活絵図大事典﹄全九巻と別巻一︵一九九

三−九四年︶︑天野晴子﹃女子消息型往来に関する研究−

江戸時代における女子教育史の一環として−﹄︵一九九八

年︶︑小泉吉永編﹃日本書誌学大系八〇 女等手本解題﹄

︵ 一 九 九 八 年

︶ な

ど も

あ げ

て お

き た

い ︒

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