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音楽学習経験の差異とリズム受容の関係

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(1)

音楽学習経験の差異とリズム受容の関係

‑ゆらぎと同調と引き込み現象からの考察一 西

TheRelationbetweenMusicExperienceandRhythmR∝Ognition

SatokoNAKANISHI

はじめに

音楽という時間芸術においては、リズムは音楽構成上の必須要素である。定量リズム、拍節 リズム、自由リズムのように、拍節の関連において分類されるリズムは、旋律や和声とともに 各種目や各流派によって音楽の特徴を表現する重要な位置にあり、音楽理解や音楽の感動に大

きな力をもつ、という特性がある。

本来、音楽は大橋力がいう「音楽は言葉や合図のように、"音''を媒体としたコミュニケー ションの一種である(1)」と同時に、音楽と他の音による情報伝達の区別として音楽は「受信 している人間において、そして多くの場合、発進している人間においても、興趣、感動など何 らかの正の情動反応がひきおこされている(2)」のである。筆者は大橋や武者利光が1/fゆ らぎの理論でいう『心地よい音楽』を聴くということはどのようなことをいうのであろうか、

という疑問をもっていた。心地よい音楽には太鼓のようにリズムで構築された音楽も含まれて いることは疑う余地はないであろう。リズムの無い音楽はありえないとすれば、音楽に人が拍 をとる時間的継起において音禁の流れの中でリズムを感知することから心地よい音楽を探るこ とができるのではないだろうか。

リズムのグルーピングは感覚的な認知であり、感性によるところが大きいと考えられるが、

音楽学習経験の差異は音楽のジャンルによって拍をとる時間的継起の計測にどのような̀違い'、

即ち、̀ずれ,が認められるであろうか。ずれは邦楽の発想用語でいう<ノリ>と関係があるの ではないだろうか。

本研究では、西洋音楽と邦楽のリズムのグルーピングを、時間的にミクロな非定量的音楽現 象として捉え・ゆらぎ,の視点から捉えるとともに、人がリズムを受容する時間的経緯を分析

して、音楽学習経験の差異とリズムへの同調や引き込み現象について考察を試みる。

現在の学校教育では音楽の理論は西洋音楽を中心に指導されており、義務教育の9年間に音 楽の基礎的な内容が教育されることとなっている。このような音楽学習の基盤上で、学校外で 特別に音楽を学習した人の場合とそうでない人とは、リズムの受容に差異が認められると考え

‑135‑

(2)

られる0しかし、特別に学習した音楽の影響はその昔楽ジャンルとの関係で優位であるとして も、学習した音楽経験の蓄積が他の音楽ジャンルとの関係でリズム受容にどのような影響を示 すか、という点を明らかにしたい。

音楽素材としては、学習経験の差異を効果的にみるために、西洋音楽でポピュラーなピアノ 曲とダンシングミュージック、そして、日本の伝統的なリズム楽器としてポピュラーな和太鼓 の音楽を用いる。初めて聴いた音楽からテンポが誘導されやすく、テンポにノリよいと思われ る音楽素材を選曲した。

音楽のゆらぎについては、音楽の時間的計測の単位であり音楽の拍子を生み出す拍を起点に おいて、音楽のもっパワースペクトルを解析分析し、心地よい音楽のゆらぎのパターン(1/

f)を調べる。そして、音楽の流れ(音楽刺激)の中で、人が時間的間隔を手で上下運動する 時に計られる拍から、音楽刺激とリズムの同調や引き込み現象となって現われる状態を明らか にする。

2名の被験者を1グループ(被験者AとB、GとH)として、2名が同時に音楽刺激を受け て拍打ちをする。被験者の拍打ちはMDデッキに2チャンネルで録音し、音声解析ソフトの

「サウンドマスター」(カノープス株式会社製作)に取り込む。そして、1/100秒で拍のタイ ミングを分析したデータをファイルする○同様に、音楽刺激もサウンドマスターに取り込んで 拍のタイミングを分析する。

なお、被験者が音楽刺激にノリ、拍打ちに慣れるまでのノリ以外の要因を除去するために、

拍数として20拍を取り除き、さらに曲の終演部では、フェードアウトやりタルランドなどか らの不安定な要因を避けるために、最後の数拍を除く0その結果、音楽刺激①と②は440拍、

③は380拍で解析分析した。

音楽刺激

①「若松」作曲者不明‥津久遠太鼓演奏(以下、久遠太鼓と表記)

ピアノソナタK・570第3楽章 WolfgangAmadeusMozart:内田光子演奏(以下、

モーツアルトと表記)

BennyAndersson&Bj6rnUIvaeus作詞作曲 DOESYOURMOTHERKNOW‥

A日BA演奏(以下、アバと表記)

被験者

A ピアノ専攻大学院生(女性) B 工学部学生(男性)

G 和太鼓経験歴15年(男性) H 和太鼓経験歴2年半(男性)

結果と考察

本実験では生演奏ではなく録音された3種の音楽刺激を使用した、3種類の音楽刺激がもっ リズムの1/fゆらぎの特徴が明らかになり、被験者の音菜学習経験からと考えられる同調や

‑136‑

(3)

引き込みの現われ方の違いが見いだされた。

Ⅰ音楽演奏時に見られるリズムの1/fゆらぎ

西洋音楽でポピュラーな古典派の作曲家として挙げられるモーツアルトの音楽(ピアノ曲) とポップスの古典的なダンシングミュージックのサウンドを響かせたアバの音楽、そして、邦 楽の中では最も大衆的と思われる和太鼓の音楽を3つの音楽刺激として、拍を起点とした時間

的間隔の脈動から、ゆらぎの解析分析をした。その結果、図1の如くに、久遠太鼓とモーツア ルトのパワースペクトルは強いゆらぎと弱いゆらぎの1/rを示し、アバのパワースペクトル はⅤ字形を示した。

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図1‑①久遠太鼓

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図1‑②モーツアルト

図1音楽刺激のパワースペクトル >

図1‑③アパ

図1のパワースペクトルのグラフでは、①久遠太鼓と②モーツアルトにおいて周期の長いゆ らぎが低い位置に1/fの傾向を示し、周期の短いゆらぎが一段高い位置で1/fの傾向をはっ きり示している。久遠太鼓に見られる周期の短いゆらぎにおいて、Ⅹ=55をゆらぎの1周期の 長さとして換算すれば約8拍程度であり、モーツアルトの場合ではⅩ=30をゆらぎの1周期の 長さに換算すると、約16拍程度になる。

モーツアルトのピアノソナタK.570の第3楽章の楽譜は4/4拍子でAllegrettowの指定に なっており、演奏者が4小節(小楽節)を一つのフレーズとして演奏していることが、リズム のゆらぎに反映していると考えられる。譜面上(楽譜1)からも、4小節ごとにパターンが繰

り返されていることが判る。

久遠太鼓については、モーツアルトのような楽譜は使用されておらず、演奏者(11人)が特 に楽節的な意識をして演奏しているということはないと思われる。曲を習得していく過程では 音符で打っことより『ことば』で打っという伝承形態が一般的であることから、フレーズが呼 吸と密接に関係している。その結果、現実的には定量記譜法の小楽節よりは短いフレーズが中 心となり、まとまった感じで、あたかも完結したようなフレーズが続くことになる。口唱伝承 では音符という定量音現象としての捉え方は難しい。ことばで覚えた音楽の場合には、そのこ

とばのリズムのフレーズがパワースペクトルに周期の短いゆらぎとして現われるのであろう。

このような分析から、同じ1/fの傾向を示していても、モーツアルトでは音楽の流れの中で

‑137‑

(4)

楽譜1ピアノソナタK・570第3楽章 Wo.fgang Amadeus Mozart

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芸墓室垂書 ≡≡≡

あるまとまりをもっ楽曲構造上の単位としての小楽節が浮かび上がったように、楽節の音楽時 間的特質の構築が演奏に現われたといえよう。それは、演奏者自身の音楽の創造過程にあるも のであり、意識的なゆらぎの領域と推察される。

久遠太鼓とモーツアルトの周期の長いフレーズに関しては、独りの場合でも集団の場合でも、

演奏者がもっ音楽の楽想的な感覚のゆらぎと、演奏時の体の感覚からのゆらぎが表出したとい えるのではないだろうか。これは無意識的なゆらぎの領域と推察する。フォン・ホルンボステ ルが「太鼓のリズム型は第1に、運動条件に依存している(3)」というように、筆者は太鼓演 奏時の振りが太鼓を打っ角度と距離に影響してリズム構成に現われる、と考えている。

周期の長いゆらぎと周期の短いゆらぎの1/fが同時に示された久遠太鼓とモーツアルトの 音楽刺激に比べて、アバの音楽刺激には一桁低い、非常に弱い1/fゆらぎが現われた。音楽 演奏時に無意識的なゆらぎと意識的なゆらぎが鮮明に現われた音楽と無意識的なゆらぎが若干 見られる音楽であっても、それは、ダンシングミュージックという音楽の特性故にフレーズご とにテンポを変化させることば少なくしているのであろう。即ち、リズムの1/fゆらぎは意 識的におさえていたと考える。演奏スタイルの個性が現われたといえよう。

音楽刺激と被験者の拍打ちにみるパワースペクトル

音楽学習経験に差異のある被験者が音楽刺激(オリジナル)を聴きながら拍打ちをした場合、

オリジナルとの拍のずれをパワースペクトルでみると、全ての音楽刺激において1/fを示した (図2)。この結果からはずれの本質は単なる誤差とは考えられず、被験者は音楽を聴いたきっ かけとして、高い予測性を音楽の流れの中から感じ取り、自分なりの音楽のノリを作って拍を 打ったと推察できる。人がリズムを受容する際には1/fゆらぎを感じようとする傾向があり、

1/fゆらぎの現象においては、音楽の学習経験は関連があるとはいえないと考えられる。

‑138‑

(5)

園2‑①久遠太鼓

被験者A

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図2‑②モーツアルト

被験者A

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園2‑③アバ

被験者A・

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被験者B

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図2 被験者と音楽刺激のパワースペクトル

ー139‑

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(6)

音楽刺激(オリジナル)のパワースペクトルでは久遠太鼓やモーツアルトに2つの領域のゆ らぎが現われ、アバにはゆらぎが少なかった(図1)が、図2の如くに、音楽を聴く全ての被 験者から1/fゆらぎが現われた。

音楽の流れの中でリズムを認知する時には、知識としての音楽理解ということではなく、人 としての本能的な感覚で無意識のうちに音楽にノリ、音楽の心地よさを受容しようとしている と考えられる。図2のパワースペクトルが示すように、被験者の知識的、経験的な音楽経験の 差異があるにもかかわらず、リズムに感応する全員に1/fのゆらぎ現象がみられた。このこ とから、大橋力のいう「正の情動反応」は生理的な現象に近い感受の形といえるのではないか と推察する。そして、リズム受容を測定したミクロな非定量的音楽現象の1/fゆらぎは、音 楽を聴くことによって心の動きを伴い感動などを生む土壌となりうる、と推考する。

ツアルトやアバのようなポリフォニー音楽は拍節的な計量のもとで、リズム、旋律、和 声の3要素で表現しており、久遠太鼓のようなポリリズム音楽は音の強さ、音色、拍子の3つ の性質で表現している。そのため、久遠太鼓では音の表現可能な性質が少ないが、ポリリズム 的な韻律とアクセントの複合した集合では、長さでアクセントと音色の配分において、さらに

は長と短の配置において、無限の可能性を持っ音楽を奏でる(4)。一方、モーツアルトやアバ は久遠太鼓と比較すればリズム的自由は小さいが、旋律や和声という調性感の自由度が音楽の 表現を豊かにしている。

本実験からは被験者間にゆらぎの違いがあるとはいえなかった。しかし、音楽構成の知識の 高度に知識的な意味と学習経験が音楽を聴く時の生理的な領域へどのよ■ぅに関連しているかに ついては、さらなる複数の音楽刺激や聴取者の総数を充分にして解明する必要があると考える。

被験者同士にみる拍打ちのパワースペクトル

同時に2名がテンポを誘導する音楽刺激を受けながら拍打ちをした結果、図3の如くに1/

fが現われた。このことから、音楽の流れに添って拍を打ったずれが単なる誤差ではなく、相 互に影響し合って次第にリズムの位相が一致した結果であろうと推察できる。そして、音楽の 学習経験や噂好に関係なく音楽刺激に対して1/fゆらぎを示すことが明らかになった。

アバの音楽刺激のように弱いゆらぎのリズムに対しても1/fが現われたということは、音 楽の流れに添って一人ひとりが音楽刺激に合わせようと拍のタイミングを予測し次のタイミン

グへと誘導されるのと同時に、自発的な意識の作用で被験者同士が引き込みを起こしていると 考えられる。図4のように、拍を打った時の2名のタイミングをサウンドマスターで見れば、

2名が同時に打っている場合とずれて打っている場合がある。しかし、音楽刺激を聴取する被 験者には音楽への情動反応がリズムの拍打ちを通して現われ、2名の間には音楽刺激を共有す ることで相互作用が自然に1/fを発生したと思われる。

ー140‑

(7)

囲3一廿久遠太去寅 被験者AとB

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園3‑②モーツアルト 被験者AとB

図3一③7パ 被験者AとB

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図3

被験者GとH

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被験者GとH

被験者同士にみる青菜刺激のパワースペクトル

囲4 サウンド・マスターによる拍を打ったタイミングの測定画面

音楽学習経験からみる青葉刺激への同調と引き込み

被験者は音楽の流れに大小のずれを示している。しかし、このずれの意味を考える時、どの位 ずれているかという分布以̲l二に音楽刺激に近付いている現象を図5からみることができる。これ が同調で近付いたのか偶然で近付いたのか、ということを95%の信頼度で判定し、その箇所が5

%を大きく越えている場合に引き込み現象があると考えられる。引き込み現象を部分的な同調と いう視点から推考すれば、青葉の学習経験はその昔染ジャンルによって差異があるといえよう。

一141一

(8)

囲5‑1被験者個人と被験者同士のa.引き込んだデータと分散したデータの分布 及び、b.1拍のずれの分布(久遠太鼓の測定)

図5‑1久遠太鼓の測定

被験者A

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ずれの平均:0.0308秒速 標準偏差:26.52

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ずれの平均:0.00145秒速 標準偏差:32.12

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ずれの平均:0.029秒速 標準偏差:23.81

(9)

被験者G

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ずれの平均:0.00743秒速 標準偏差:33.14

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ずれの平均:0.02902秒速 標準偏差:29.40

(10)

図ト1の如く久遠太鼓の音楽刺激に対しては、AとGは音楽刺激に対して全体的に音楽刺激 より速めに打っており、BとHは音楽刺激のテンポに平均的に合っている。AとGのずれの平均 が速めであることばリズムの先読みがおこなわれているのではないかと思われる。即ち、リズ ムを受容することば、ばらばらの音(長短の比の単なる連続以上のもの)を構造化されたパター

ンにグルーピングすることであり(5)、AとGには久遠太鼓の邦楽リズムを音楽の流れからゆ らぎを伴った(図2参照)リズムのグルーピングで受容しているといえよう。しかし、標準偏 差でみればAはずれのばらつきが他の3名に比べれて全体的に小さいので、Aが最も音楽刺激

に同調していると推測できる。即ち、引き込みの傾向が有るといえる。Aにはピアノ学習を通 して獲たリズム感の成果が現われたのであろう。

Gもずれの平均が速めであるが、Aよりは音楽刺激に合わせにくいようである。Gの太鼓音 楽の学習経験からは、久遠太鼓の音楽のテンポはGの太鼓グループの音楽とテンポの取り方に 違いがあるのではないだろうか0即ち、Gの太鼓グループでは太鼓演奏時に振りや体の移動を 伴った演奏形態を個性的に取り入れており、この運動条件の要因がテンポの取り方の違いとなっ て現われたと考える。

BとHEまAとGに比べてずれが小さい。Bは久遠太鼓所属のHとずれの差が0.006秒差で音楽 刺激にずれているということば、久遠太鼓の音楽自体が一般的に誰にでも合わせやすいテンポ といえるのではないだろうか。実際、Hの太鼓経験歴は2年半であり、Bは特にリズム教育の 機会が与えられていなかった。

以上、図5‑1の資料から推論できることとして、久遠太鼓で音楽学習経験が特別に無い人 の聴取時にずれが少ないのは、音楽の流れの中から音現象としてリズムの受容が容易である、

と考えられる。このことから、久遠太鼓は音楽そのものを経験した人と初めて聴いた人との間 にはリズムの基本単位としての拍の理解に差異が無く、邦楽としての久遠太鼓であっても、定 量記譜法の認識による音楽学習(太鼓の練習)が進められていると思われる。引き込み現象と

しての観点から̀引き込む'と̀ずれる,とは、リズムの引き込みにはリズム感の訓練が必要な のではないだろうか。さらに、Hのように馴染みが深い曲でもリズム感の訓練が少なければ標 準偏差値は大きくなり、引き込み現象はみられなくなるということと、音楽刺激とのずれが大

きくてもリズム感の訓練によって引き込みは現われるということである。

図5‑2のデータが示すように、モーツアルトの音楽刺激に対してはAが0.00327秒の遅れ のずれの平均であり、他の3名よりずれの遅れが小さい。モーツアルトの音楽刺激は演奏者が 独りということもあって、小節の中でのアゴーギクが自由になされ、4小節単位のフレーズ理 解が演奏者の妙味という色合いが濃い音楽である。Aがこの曲を演奏した経験はなくても、作 曲家と演奏家の個性は知的に理解が進んでおり、他の3名とは音楽学習経験としては明らかに 差異があると考える。被験者全員に音楽の流れの中で遅れぎみに拍を打っということから、こ の音楽刺激はテンポについていきにくい素材であるといえる。このことが、標準偏差値でみる 同調の程度に現われているのであろう。しかし、Aと他の3名とは、音楽ジャンルにおける学 習経験の差異が数値で示されたと考えることができる。久遠太鼓が音楽刺激の時のGに示され た標準偏差値30.11とモーツアルトの場合のAに示された標準偏差値30.76の関係から、音 楽刺激の音楽ジャンル内で示す同調のばらつきが、どのような音楽学習の経験であっても、音 楽経験の積み重ねがあると標準偏差値が近いことが判った。

‑144‑

(11)

国5‑2 被験者個人と被験者同士のa.引き込んだデータと分散したデータの分布 及び、b.1拍のずれの分布(モーツアルトの測定)

図5‑2 モーツアルトの測定 被験者A

a.

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a.

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0 100 200 300 400

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被験者AとB

a.

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0 100 200 300 400

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0 100 200 300 400

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ずれの平均:0.02868秒遅 標準偏差:39.43

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0 100 200 300 .400

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ずれの平均:0.02541秒遅 標準偏差:27.61

(12)

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(13)

ま と め

西洋音楽では定量的記譜法に基づいており、リズムの1つの音符は定量的音現象として解釈 されるが、邦楽では"あしらい,,のようにデュナーミクや音色や拍子が定量的記譜法の概念で はまとまり切らないという特徴を持っ。しかし、現在の邦楽では定量的記譜法によって表現さ れることがあるように、リズムの基本単位としての拍の理解は西洋音楽と共通した認識がなさ れていることが、本実験のデータにおいても推察できた。

そして、定量的記譜法に基づく西洋音楽を演奏者にした場合には、リズムに非定量的音現象 としての"ゆらぎ"が内包されていることが明らかになった。武者のいう1/fゆらぎのJL、地よ さとは、一般的に使用する「音楽にノル」や「音楽にノっている」と表現されている内容と重 なるのではないか、と考える。人が音楽を聴く時間の流れの中でリズムに反応する時、音価や 音の間が演奏者(独り、或いはグループ)とのミクロな時間的変容に対応できることが引き込 み現象として現われるが、本実験結果からはミクロな時間的変容に対応できるということは、

聴く人のリズム感に因るようであることが判った。実験結果のように、演奏に慣れている曲の 場合でもリズム感の訓練が少なければリズムの引き込みがあるとはいえないが、「音楽にノル」

感覚は音楽学習経験(リズム感の訓練)とは関係なくゆらぎとして現われるのではないだろう か。

太鼓音楽では音符から音を出す(太鼓を打っ)ことより、『ことば』から音を出すという音 楽の伝承形態が一般的であることから、音はことばの強弱・長短と関連して微妙に強弱が操作 され、微妙な操作が音楽に表情を与え、音楽のフレーズが呼吸と密接に関係する。その結果、

本実験のパワースペクトルのデータに現われた如く、現実的には定量記譜法の小楽節よりは短 いフレーズが中心となり、まとまった感じであたかも完結したようなフレーズが続く音楽にな

る。

音楽ジャンルによるリズムの構築的違いは視野に入れるが、もとの音楽がどう違うか、の問 題提議ではなく、音楽を聴取する時、人はどのようにリズムを受容しているかについて考えて

きた。そして、人は音楽を受容する時にゆらぎの非常に弱い音楽の場合でも1/fゆらぎを感 じるように、人は本来、自発的に音楽に乗ろうとする傾向があるのではないか、と思われる。

人の.「音楽にノル」リズムの感覚は、1/fゆらぎのJL、地よい音楽へは自然にむかう感覚であ り、ゆらぎがあるということと意味内容は同じかそれに近いであろうと推考した。

本稿は、少数の被験者を対象にしているので結論を導く段階のものではないが、音楽の流れ にのって拍打ちをする場合、1/fゆらぎの現象をもっているということは注目したい。1/f ゆらぎとリズムの関係についての萌芽的な実験と考えている。

この分析考察に当たっては、名古屋大学人間情報学研究科の吉田友敬氏に無理なお願いをし て解析分析作業を進めることができた。吉田氏の専門は情報数理解析論であり、引き込みとゆ らぎの研究をしている。吉田氏と被験者になってくださったかた達に深く感謝します。

ー147‑

(14)

本研究は、日本音楽学会第46回大会で私と吉田友敬氏の共同発表をした「太鼓のリズムとゆらぎ」の資 料を使用し、私が音楽学習経験の差異の視野からリズム受容についてまとめた内容である。

引用文献・参考文献

1大橋力「音楽と音の非定常性」『ゆらぎの科学』武者利光編森北出版株式会社1992年126p.

2 同上129p.

3クルト・ザックス「リズムとテンポ」監訳者岸辺成男 音楽の友社1979年88p.

4 同上 87p.

5 G・W・クーパー/L・B・メイヤー「音楽のリズム構造」徳丸吉彦訳 音楽の友社1975年 6 標準音楽辞典 音楽の友社1991年

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参照

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