• 検索結果がありません。

利益予測情報の公開,監査および

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "利益予測情報の公開,監査および"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

利益予測情報の公開,監査および  

監査主体の問題について−  

森  賓  

Ⅰ ほじめに  

米国でほ,最近,監賓機能の拡張に関する議論が多く行なわれている。たと   えば,利益予測情報,中間報告書,予算,内部統制システム,痙営情報レステム   およびその他の諸領域に対して監査機能の拡張が議論されている。このような   監査機能の拡張の動向は,やがてほ監査概念という本質的な問題に.達するもの  

(1)  

であるが,これほ別の機会に・論じたところである。本稿では,利益予測情報の   問題をとりあげて,その公開が要求される基盤の問題,その公開が有用である   かどうかという問題,公開される利益予測情報の監査が有用であるかどうかと   いう問題および監査人の問題を論じることとした。なお,他に,利益予測情報   の監査可能性の問題および監査人の責任のような重要な問題もあるが,これら   は別の機会紅ゆずることとした。  

ⅠⅠ情報公開の要請の基盤  

米国でほ,最近,利益予測情報の公開の問題がさかんに議論されるようにな   ってきている。それは,一・つに・は,会計理論の発展の動向であり,ニつには,  

利害関係者の情報要求の高度化であり,三つにほ,英国での経験が参考となっ   ている。しかし,そのもっとも主要な根拠ほ,利害関係者に対する情報公開の   公平性である。   

米国でほ,これまで,利益予測情報は,新聞雑誌による発表とか,財務アナ   リストに対する経営者の説明などを通じて伝達されることが多い。しかし,英  

(1)拙稿「監査証明機能の拡張と監査概念に・ついて」『会計汐ヤ・−ナル』第6巻第11号,   

1974年11月。   

(2)

籍47巻 第4・5・6号  

ー一員ヲ∂−   422  

国の会計士は,このような米国における利益予測情報の伝達方法ほ,インプォ  

(2)  

−マルなものであり,そ・して,しかも不公平な実務であると批判している。な   ぜかと1、えほ,たとえば,・−・部の利害関係者が,経営者からインフか−・マルに・  

提供された利益予測情報を利用すること.によって利益をえ,あるいほ損害を免   れることができたとすれぼ,その他の利害関係者ほ,そのような情報を利用す   ることができなかったために,損害をうけたり,あるいほ利益を.え.る機会を失   ったのであるから,このような情報提供の方法ほ,利害関係者紅とって不公平   なものであるということができる。   

同じように,SEC(米国証券取引委員会)も,早くから,企業の内部情報   の規制の問題に関心をもっていたので,利益予測情報の公開の問題を,情報公   開の公平性の観点から考える傾向がみられる。たとえ.ば,SECのグー・レイ議   長は,選ばれた内部者に対して利益予測情報が特権的紅提供されることが多い   のは問題であるとしてノ,利益予測情報の公開を許容するか,あるいぼ.,これを   強制することが,内部者が取引上の利益をえるのを防止するのに役立つという  

(3)  

意見をのべている。すなわち,SECほ,すべての投資家が,公平に人事でき  

(4)  

るよう紅,利益予測情報を公開することがのぞましいと考えている。   

このようにり 情報公開の公平性紅ついて−の関心が高まってきた背景には,現   代の証券市場において機関投資家の比透が増大し,そして,かれらは強大な資   本とスタッフを有し,投資の決定に.必要な,より高度かつ詳細な情報を企業に   対して要求するよう牢・なってきたことがあげられるであろう。しかも,かれら   ほ,自分の力で,企業紅対し,直接紅,必要とする情報の提供を要求すること   ができるのである。   

したがって,このような状況の下では,次第に,機関投資家に.対して提供さ  

(2)D.R.Carmichael, Reporting on Forecastsけ,JournalpfAccountanc.y.Jan  1973,p.34.  

(3)J.P.Bedingfield and MハS.・Lubell, Extension of the Attest Function to   Published Forecasts〃,CPAJournal,Janい1974,p…40 

(4)P.E.Fees and S.J。Martin, Company Forecasts and theIndependent   

Auditor・s hexorable hvoIv占ment ,CPA.]ouYnal,Oct.1973,p.869.   

(3)

423   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について  −Jβ9−   

れる情報と,一・般投資家に対して提供される情報との間紅ほ,非常な格差を生   じる。そこで,一一・般投資家の不利な立場を救うために.は,機関投資家に.提供さ   れる情報ほ,一・般投資家にも,それを入手できるような制度的保障を与えなけ   ればならない。このような過程を経ることに.よって,次第に,−・般的な情報公  

(ら) 開の水準が高められていくのである。   

利益予測情報についての情報公開の公平性の考え.ほ,最近,米国で行なわれ   た実態調査の結果に・おいても明らかにされている。すなわち,利益予測情報   を,特定の関係者,たとえば財務アナリストだけに.提供し,同時に,株主に.ほ   提供しないというこ・とほ.,株主に不利益を与えるかという質問に対し,財務ア   ナリストの71%,会社の財務管理者の86%,公認会計士の84%が,これを肯定  

(6)  

している。   

しかし,このような利益予測情報の公開の公平性が必要であることが認めら   れたとしても,それに.よって,ただちに,利益予測情報の公開について意見の  

−愚かえられるわけでほない。その制度化の実行可能性の問題を除外したとし   ても,利害関係者に対する利益予測情報の公開の有用性が検討されなければな   らない。  

ⅠⅠⅠ利益予測情報の公開の有用性  

投資家は,一・般に.,株式の買付,売却またほ.維持について意思決定を行なわ   なければならない。そして,より的確な意思決定を行なうためには,企業の将   来の見通しの評価のための情報が必要である。もちろん,企業の過去の会計資   料も,基本的紅有用であるにほ違いないが,これを将来に.延長した資料,たと   えば,利益予測情報は,非常に有用な資料になるであろう。このような考え方   は,AAA(米国会計学会)のASOBAT以降の方向において明確に示され,  

予測の公開が行なわれるぺきであるとしている。   

しかし,現在のところ,利益予測情報の公開について,関係者の意見は,必  

(5)拙著『会計士監査論』,45ぺ−ジ。  

(6)R.).Asebrook and D。R…Carmichael, Reporting on Forecasts〃,Journal  

扉■A路飽鳳k肌一γ,August1973,p.43.   

(4)

第47巻 第4・5・6号  

■−ム拍−・   424  

ずしもー・致していない。たとえば,さきの米国の実態調査に.よれば,公開所有   会社は,一腰投資家大衆の立場から考えて,予測祝益計算書を定期的に公開す   べきであるかという質問に射し,財務アナリストは,59%が賛成,11%が中立,  

30%が反対であり,会社の財務管理者ほ,61%が反対,12%が中立,27%が  

(7)  

賛成であり,公認会計士ほ,49%が賛成,14%が中立,37%が反対である。   

このような反対のなかには,種々の理由のものが含まれているであろうが,  

利益予測情報の公開の有用性に.関するもっとも重要な問題は,利益予測情報に.  

対する・一・般投資家の理解可能性であろう。すなわち,この鵬・般投資家の利益予   測情報の三理解可能性についての判断が,その情報公開が有用であるかどうかの   判断に.大きく影響するからである。   

たとえ.は,実態調査では,つぎのような結果が示されている。すなわち,−・  

般的に.いって,平均的投資家ほ,経営者の公開した予測損益計算書を誤解する   であろうかという質問に対して,財務アナリストは,47%が肯定,22%が中   立,31%が反対であり,会社の財務管理者の57%が肯定,22%が中立,21%が  

(8)  

反対であり,公認会計士は,48%が筒定,16%が中立,36%が反対である。こ   のように.,かなり多数のものが,利益予測情報紅対する・一般投資家の理解可能   性に.疑問を抱いていることが示されている。   

また,SECが,これまで,利益予測情報の公開について,あまり,積極的  

(9)  

でなかったのも,同じような理由に.もとづくためであった。すなわち,SEC   が,これまで利益予測情報を届出書類紅含めることを禁止してきたのは,届出   書類に.このような情報を含めた場合には,会社の将来の見込みに.ついて過大な   期待を投資家に与え,したがって,かれらに有害な結果をおよぼすという理由   によっていたのである。   

しかし,他方紅おいて,会社の経営者に.よる賓任ある表明として,利益予測  

′情報が公開されていない場合に.ほ,まったく根拠のないうわさが流れたり,あ  

4433 

p p p  

.α.α.α  

.●● .● ・l●  ︐ク ︐β ■∧︶  

▼・l−−︻ ▼・J   

(5)

425   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について   −−J4ユー   

るいほ一部の利害関係者に.よる不当な情報操作が行なわれて,一腰の投資家大   衆が損害をうけることも考えられる。このような証券市場に.おける情報の混乱  

を事前に防止するためにも,利益予測情報の公開が屯用であろう。   

ところが,ここで注意しなければならないのほ,読者が,利益予測情報の性   蕉と限界を十分に理解して1、なけれほ,利益予測情報を葡効に利用することが   できず,反って,有害な結集をおよばすということである。すなわち,利益予   測情報ほ,予測の前提,予測の作成原則および手続に.依存する。したがって,  

利益予測情報ほ,あくまでも,計画時に,実現が期待できる可能性があるだけで  

あって:,実際とほ必ずしも叫致しないかもしれないという限界をもつものであ  

る。そこで,読者が,利益予測情報の性賓および限界を理解していなければ,  

その意味を誤解し,たとえば,予測の達成可能性について過大な期待をかける   かもしれない。このように.,読者の利益予測情報に対する理解が不十分である   場合に.は,その情報の有用性が失われるおそれがある。   

しかし,このような公開情報紅対する読者の理解可能性の問題ほ,伝統的な   財務諸表の場合にも存在していたものである。たとえば,貸借対照表上の資産   は,原価によって表示されているので,時価を反映するものでほないとか,また,  

損益計算は,現金主義紅よるものでほなく発生主義紅よるものであるというこ   となど,その他の多くの点把・おいて,現在の財務諸表をその意図するとおり軋   理解することば,−・般の投資家軋とって一因難なことであるかもしれない。また,  

よくいわれるように,財務諸表ほ,事実だけで構成されるものではなく,事実   と慣習と判断の総合的産物であり,したがって,絶対的真実性を追求できるも   のではなく,相対的呉実性を追求できるに.すぎないことを理解していなけれ   ば,・その利用を誤るかもしれない。   

このような問題は,米国では,1929年の世界的な大不況後に行なわれた証券  

投資家保護立法に.さいしてもとりあげられた問題である。そこでとられた対策  

の一つは,投資家に.対して会計の性質および限界について啓蒙を行なうことで  

あり,もう一つの対策ほ.,会計の報告書紅おいて,読者の誤解を防ぐような情  

報公開のエ夫を行なうことである。   

(6)

第47巻 第4・5・6号、  

−ヱ42−   426   

利益予測情報の公開の場合にも,まったく同じようなことが考えられる。そ   れに対する投資家の理解可能性を確保するためにほ,・一・方において,利益予測   情報の性質および限界に.ついて−投資家を啓蒙することが必要である。また,他   方払おいてほ,利益予測情報の性質および限界について−,読者の誤解を防ぐよ  

うに.報告書を工夫することである  。この方面の研究も,今後の課題である。   

たとえば,過去の予測と実績とを数年間対比して表示することほ有用であろ   う。すなわち,これに.よって−,予測と実績とは,必ずしも−・致せず,相違する   ことがあることを示し,それによって,読者が,予測の達成可能性把ついて過   大な期待をかけることを防止するのに役立つからである。   

また,予測の作成の基礎である諸前提を公開することも重要である。それ   ほ,予測が前提に依存するものであることを示し,また,前提が相違すれば結   論が異なることが明らかにされるからである。   

さらに,利益予測情報の主観性が,その有用性を阻害するものとしてとりあ   げられることも多い。すなわち,利益予測情報ほ!それを作成する経営者の主   観によって大きく影響される。たとえば,経営者は,故意に,予測利益を過」  

に表示したり,あるいは,逆に過大に表示したりするかもしれない。すなわち,  

予測利益が達成できなかった場合の批判を避けるため紅,容易に達成できるよ   うな過小な予測利益を表示しようと思うかもしれない。あるいは,逆に,経営   者の能力または業績を,よりよく表示してもらいたいと思えば,予測利益を過   大に表示しようとするかもしれない。   

しかしヱ これら二つの方向の意図ほ,どちらへも極端に動くとほ考え・られ   ず,相互に牽制し合ってバランスする傾向にある。したがって,必ずしも利益   予測情報紅対して,経営者の主観が大きく影響して,その有用性が失われると  

ほいえない。   

とほ.いえ,利益予測情報ほ,相当に複雑な性質をもっているので,投資家が,  

これを意思決定に.利用するためにほ,相当の知識および技能を必要とするであ  

ろう。その限りでは,利益予測情報の有用性ほ,相当に制約されたものという  

ことができる。このように有用性が大きく制約された情報でありながらも,そ   

(7)

427   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について   一朗β−   

の一・般的公開が要求される根拠ほ,最初に指摘した情報公開の公平性の理念で   あろう。   

それは,機関投資家あるいほ財務アナリストが入手・する情報ほ,−・般投資家   にも入手できるようにし,かつ利用できるようにするということである。した   がって,公開された情報を有効に利用するための条件は,投資家の側において   も整えるように努力しなければならない。すなわち,投資家は,利益予測情報   の性負および限界を理解し,そ・して−,それを意思決定匿有効に利用するために   必要な知識および技能を身につけるよう紅勢力するか,それとも,その情報の   利用把ついて専門家の助けを借りるようにしなければならない。   

現代の証券市場においては,投資家への会社の情報の流れは,マクツおよびシ   ヤラフの分析に.も示されているように,二階段的であって,財務アナリストを  

(10)  

経る。すなわち,一叫・般の投資家は,会社が公開した生のままの情報を直接的に  利用するのでほなく,専門の財務アナリストが分析した結果を利用して,意思   決定を行なう。利益予測情報の場合にも,このような情報の流れ方を考えた方   が現実的であろう。   

このように考えてくれば,情報公開の公平性の理念から出発した利益予測情   報の公開ほ,その情報に対する−■般投資家の理解可能性の問題を含みながらも,  

有用であるということができる。しかし,このような利益予測情報の利用に・よ   って卜投資に.固有の危険までも排除できるものでほない。投資家ほ,あくまで   も,投資に固有の危険は自分が引きうけなけれほならないことを,明確に理解   していなければならない。  

ⅠⅤ 監査の必要性  

企業の利益予測情報が公開されることによって,利害関係者ほ,これを意思   決定のた吟に利用することができる。しかし,そ・れが意思決定に有効に役立つ   ために.は,情報の信頼性が保証されていなければならない。たとえば,カミン  

(10)Ru K.Mautz and H.A.Sharaf,Philo.sophyqf Auditing,p.191〜192 

(8)

−ヱ44−   第47巻 第4・5・6号   428  

グスは,「予測が,投資家に.最大の価値を発輝するためには,それらが入手可能   なばかりでなく,高度の信頼性をもたなけれほならない。歴史的財務諸表の場   合と同じように.,独立的な検閲と報告が,必要な信頼性を促進するこ.とができ   

(11)  

る」といっている。   

また,利用者の観点からすれほ,利益予測情報に.対する独立監査人の検閲ほ,  

(12)  

その情報の信頼性の保証のため紅のぞましい。   

利益予測情報が,一・郎の関係者への提供から・−・般の利害関係者への公開に展   開する把.伴って,その監査の必要性が増大する。それほ,利益予測情報の一・般   的公開によって,限定された利害関係者ばかりでなく,より広範囲の利害関係   者に・重大な影響を与えるよう紅なるからである。しかも,このような−・般の投   資家ほ.,機関投資家や財務アナ・リストとは違って:,会社とほ.,地理的に,ある   いほ立場に.おいて,遠くほなれた存在であるので,会社が公開した利益予測情   報の信親性を確かめる手段ももたないし,また,それに必要な知識および技能   をもたないのが普通である。したがって,独立の第三者であり,しかも,職業   的専門家である公認会計士が,その信頼性を確保することが有用である。   

もしも,このような監査制度が設けられなければ,利益予測情報が公開され   るように.なっても,利害関係者の意思決定における利用紅混乱を生じるおそれ   がある。たとえば,経営者が,利益予測を故意に過大またほ過小紅表示したり,  

あるいほ,まったく根拠のない利益予測情報を無資任に公開するかもしれな  

い。このような場合把・,大きな損害をうけるのほ.,通常,−・般投資家であろう。   

したがって,監査制度は,利益予測情報の粉飾を防止し,また,不当な情報   操作をチェックし,さらに,合理的な利益予測情報の作成の水準を維持するの   に役立つ。これに関して,英国の場合に.ほ,すでに,利益予測に対する独立の  

(13) 監査人による監査が実施され,そして,良好な結果がえられている。   

しかし,米国では,このような利益予測情報の監査の制度化のまえに,多く  

(11)J.・Pu Bedingfield and M.S.Lubell,Ob.cii.,p.44.  

(12)P.E.Fees and S..J∴Martin,Ob.citい,p..868.  

(13)J.P.Bedingfield and M.S。Lubell,OP…Cii..,p小44り   

(9)

429   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について   一▼劇∂−   

の問題を解決することが必要であるとされている。たとえば,まず,監査主体   の問題として,公認会計士が,このような利益予測情報を有効に監査しうる能   力を備.え.て:いるかどうかという問題があり,また,利益予測情報の堅査におい  

て,監査人が独立性を保持できるかどうかという問題がある。   

っぎに,利益予測情報の監査の実施の問題として,監査人は,どのような範   囲まで監査すべきかという監査範囲の問題があり,また,一版に認められた予   測作成の原則および手続の設窄が必要であり,これと同じように・,一・般紅認め  

られた監査基準および手続の設定も必要であり,そこで,はたして利益予測情   報の監査が可能であるかどうか,換言すれほ,こ.のような監査のために必要な   証拠が収集できるかなどというような基本的問題がある。   

さら把.は,監査報告書の問題として,利益予測情報の監査の性格を明確に示   し,監査人の責任を限定することができる報告書な作成できるかどうかという   問題があり,また,この問題に関連して,監査人の法的責任をどのように・考え   るかという問題がある。   

これらの利益予測情報の監査制革の具体化紅伴う諸問題の検討のまえに,監   査が,利益予測情報に.とって有肝であるかどうかを論じなけれほならない。利   益予測情報の監査が有用であることが判明すれは,つぎに,その具体的制度化   の問題がとりあげられる順序になるからである。   

このような監査の有用性の観点からい.えば,さきに・指摘してきたように,利   益予測情報が,独立監査人の検閲というフィルター・・を通して,信頼性が臆与さ   れた後で,利害関係者に提供されるならば,利害関係者の意思決定は,より的   確に行なわれるであろう。   

しかし,このような利益予測情報の監査によって威与された信頼性に・つい   て,監査報告書の読者が,間違った理解をし,それにもとづいて意思決定を行   なえば,その監査は,むしろ有害な結果をぉよぼすであろう。   

午のように・,利害関係者が,利益予測情報の性質および限界,・そして利益予   測情報紅対する監査の性質および限界について,十分な理解をもたなければ,  

監査の有用性を碇保することはできないであろう。   

(10)

−ヱ46−   第47巻 第4・5・6号   430   

したがって.,よくあげられる利益予測の監査に対する反対の主要な理由の− 

つは,監査が,利害関係者に・,利益予測喝ついて一高度な達成可能性の保証を与   えるものと誤解されるおそれがあるということである。しかし,このような誤   解ほ.,利害関係者の利益予測情報およびその監査の性質および限界に対する理   解不足から生じるものである。   

これ紅対する対策ほ,−・方においては,利害関係者に対して啓蒙を行なうこ   とであり,他方に・おいては,利害関係者の誤解を防ぐよう紅伝達方法をエ夫す   ることである。利益予測情報に.関する問題については,すでに.ふれたところで   あるが,監査の場合にも同じ問題がある。   

そこで,利益予測情報紅対する監査報告書でほ,つぎのようなことを注意し   なければならない。まず,歴史的財務諸表と予測計算書の性質¢相虚を明らか   に・し,これに・対する監査の性質と限界を示さなければならない。たとえば,予   測計算書ほ.,必然的に,多くの主観的判断に.もとづくものであり,また,多く   の不確実性を含むものであるから,完了した取引の最終結果を表示する歴史的   財務諸表と同じ方法で監査することはできないことを明らかに.しなければなら   ない。   

また,予測計算書の達成可能性は,その諸前提の達成可能性に依存するので,  

その監査払おいては,予測の達成可能性に.ついて,確証したり,保証したり,  

あるいは責任をひきうけることができないことを明らか配しなければならな   

(14)  

い。   

このよう紅,監査人が,監査報草書において,利害関係者に・,その性質およ   び限界を明確隠するような記載方法を工夫して,その有用性を確保すれば,そ   の後の利用については,利害関係者が責任を負わなければならない。そのため   紅ほ,さきに・も指摘したように,利害関係者ほ,教育に・よって理解可能性を高   めるか,あるい揉他の専門家を利用することに.よって的確な意思決定を行なう   べきである。  

(14)P.E.Fees and S.J.Martin,Ob.cii..,p.872.   

(11)

431   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題に.ついて   一J47−  

Ⅴ 監査主体  

これまでの歴史的財務諸表の監査主体ほ,会計士であるが,会計士が,利益   予測情報の監査主体としてごも適当であるかどうかという問題がある。その一つ   ほ,利益予測情報の監査主体として.の能力の問題である。これまでの会計士   は,歴史的財務諸表を監査するための学識経験および技術的能力をもっていな   ければならないが,このような金融士が,利益予測情報を監査す−ることができ   る能力をもっているかどうかが検討されなければならない。   

もう一つは.,監査主体の独立性の問題である。独立性ほ,監査の信頼性を保   持するため軋監査人に.要求される基本的属性の一つである。そこで,同一・の会   計士が,利益予測情報の監査と同一・期間の歴史的財務諸表の監査とを担当する   場合に.,必要とされる独立性を保持することができるかどうかが検討されなけ   ればならない。   

米国の公認会封士協会ほ,公認会計士ほ.,自分が能力をもってこいない業務を   ひきうけてほならないとしている。そこで,利益予測情報の監査証明の場合に  も,公認会計士ほ,はたしで,監査人として適当な資格をもって1、るかどうか   が問題に.されなければならない。   

歴史的な財務諸表の監査においてこは,監査人は,専門的知識として,会計学   の諸分野の理論および実務に.精通しているばかりでなく,その他の関連領域に  ついても相当の知識を要求される。そして,会計記録の正否および適否を確か   め,・一般紅認められた会計原則紅したがらて,企業の経営成繚および財政状態   を適正に.表示するように作成しているかどうかを分析し,批判する能力をもた   なけれはならない。   

もちろん,このような監査人紅必要な専門的知識および技能の範囲および水  

準は,必ずしも固定的なものでほなく,時代とともに・,社会,経済および技術  

の発展に応じて変化していかなければならないものである。たとえば,企業に 

おけるコンピュータの導入がすすめば,監査人には,コンピュータに.関する知  

識および技能が必要とされるように・なる。また,企業活動の国際化がすすめば,   

(12)

−J4β−   第47巻 第4・5・6号   432  

国際経済についての知識が要求されるであろう。このように,監査人に必要な   専門的知識および技能は高度化するのが常であるの■■ご,監査人ほ,自己の職務   を有効に遂行することができるように,常紅新しい専門的知識および技能の習   得に努めなければならない。   

ところで,利益予測情報の監査においてほ,つぎのような監査範囲が考え.ら   れる。すなわち,監査人ほ,基本的に,(1)予測の基礎である諸前提が合理的   であること,(2)予測計算書が,基本財務諸表と同じ−・般に認められた会計原   則に.準拠して作成されていること,(3)予測計算書が,基礎的諸前提を十分に  

(15) 公開していることを確かめなければならない。   

このうち,(2)(3)は,これまでの監査が,歴史的な会計数値をとりあつか   うのに.対して,予測数値をとりあつかうという点で相違するに.しても,問題の   性質ほ,これまで監査人がとりあげてきたものと基本的に大差がない。いずれ  

も,数値を分類し,集計して,計算書を作成するプロセスである。なるはど,  

利益予測情報は,予測に.関する資料によって構成されているが,これまでの歴   史的財務諸表においても,たとえば減価償却引当金とか貸倒引当金のように将   来についての予測が含まれている。したがって,これまで,このような問題を  

とりあつかってき・た公認会計士が,利益予測情報の監査を行なう能力をもって   いないとは断定できないであろう。   

たしかに.,さきに.あげた監査範囲のうちの(1)の予測の基礎的諸前提の検閲   になれば,これまでの歴史的財務諸表の監査の場合紅必要とされた会計以外の   関連諸領域の知識を相当程度要求されるようになるであろう。そのため紅,公   認会計士が,このような知識および技能をもっているかどうか軋ついて意見が   分かれる。   

すなわち,−・方において,予測の基礎的諸前提の合理性を評定することので   きる能力をもっている公認会計士ほ.,非常に少ないであろうと主張される。そ   して,たとえ.,このような能力をもっている公認会計士がい牢としても,・その   人ほ,公認会計士として,そのような能力をもっているのでほなくて,自分の  

(15)∫∂よd.,pい870‖   

(13)

433   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について  −ヱ49−  

(18)  

ために習得した能力であるということである。   

これに対して,他方に.ほ,公認会計士ほ,このよ.うな能力をもっているとい   う主張,あるいほ,もしも,公認会計士が,このような能力をもっていない場   合にほ,そのため軋必要なスタッフを会討事務所に1おけはよいという主張があ   る。   

利益予測情報に.おける予測の合理性を評定するために・ほ,会社のこれまでの   業績数字,市場調査報告・書,人口増加,販売促進計画,業界および競争業者の   状態,製品開発などの項目を分析することが必要であり,これを有効に・行なう   ためにほ,統計的サヾ/プリングとか,オぺレー・ション・リサーサの技術を利用  

しなければならないであろう。また,将来の事象に.ついてのモ≠ルを操作して   シュミ.レー・ジョンを行なうために.,コンビュ一夕を利用することが必要であろ  

う。   

たしかに,このような分析技術ほ,これまでの歴史的財務諸表の監査のため   紅ほ要求されなかったものである。そこで,利益予測情報の監査を行なうため   に.,市場調査,経済および金融の動向の分析に・熟練したスタッフが必要であ   る。しかし,これまでに,会計士事務所ほ.,その主要な業務として,監査およ   び税務の他把.マネー・汐メソト・サービスの兼務を行なってきた。そして,この  

ようなマネー・汐メソトサ→ビスほ,会計事務所のスタッフをして,より積極   的に企業の経営活動に.関与させるように.なったので,経常管理についての知識   および技能が養成され,あるいほ,そのための専門のスタッフを備えるように   なってきている。   

したがって,このような観点からすれば,公認会計士が  ,そ・の監査機能を利   益予測情報に.まで拡張することほ,これまでの公認会計士の知識および技能か  

ら困難ではないといえる。もしも,会計士事務所が,このような能力のあるス   タッフをもっていなければ,スタッフを訓練したり,あるいは特別のスタッフ  

(17) を雇えば解決できるであろう。  

(16)J.P。Bedingfibld andM.、S・Lubell,OZ・lCiiい,p一ト40n  

(17)P‖E.Feesand S・J・Martin,OPl−Cit・,p・874・   

(14)

第47巻 欝4・5・6一弓  

−J5クー   434   

このような議論に‥おいては,さきにものべたように,監査人として−の公認会   計士の知識および技能を固定的に.考えることは適当ではない。企業が発展し,  

また企業の環境が変化するのに.応じて,利害関係者の監査人に対する要請も変   化し,かつ高度化するのであるから,監査人としての公認会計士ほ,こ.れに対   応できるように.,絶えず,自己の能力を高めていくように努力しなければなら   ない。   

まして,利益予測情報は,基本的に.,会計情報としての性質をもつものであ   るから,公認会計士が,これに対して監査を行なうことができるように・,知識   および技能を養成することほ困難でほないであろう。しかも,これほ,会計士   監査の発展の動向にしたがうものである。なぜならば,会計情報システムは,  

経営情報シ云テムの発展によって,その総合的システムのサブ・システム化さ   れる傾向があり,したがって,会計と業務が密接に.結合されているので,財務   諸表監査を行なう場合でも,単に.,会計領域だけを孤立化して監査するのでは   なくて,より積極的に.経営の諸業務活動の領域にまで入りこ.んでいかなけれ   ば,十分な監査ができなくなってきているからである。   

したがって,このような会計士監査の発展の動向にした力学って,公認会計士   が,企業の諸業務活動についての知識および技能を身紅つけていくならば,利   益予測情報の監査を行なうに.必要な能力が養成されるであろう。公認会計士の  

(18)  

なか紅は,このような展開ほ容易であるという見解を示すものもいる。  

ⅤⅠ独立性  

つぎに.,利益予測情報の監査主体に.関連する第2の問題として,独立性の問   題があげられる。すなわち,監査人の外観的独立性および実質的独立性ほ,監査   の信頼性にま寸する基本的属性であるが,利益予測情報を監査した同じ公認会計   士が,予測と同一・期間の歴史的財務諸表の監査を行なう場合に・は,監査人の独   立性に悪い影響があるかどうかという問題がある。   

その意味ほ,公認会計士が,利益予測情報を監査した場合に・は,その予測利  

(18)J P.Bedingfield and M・S・Lube11,OZ・いeii・,pl・44.   

(15)

435   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題拓ついて   −J∂ユー   

益の実現に対.して資任を感じ,その予測利益の実績の報告となる歴史的財務諸   表の監査に.おいて,予測利益に実績を近二づけるような圧力をうけるのではない   かということである。あるいは,そのような疑惑をうけるので,監査の信頼  

(19) 性が失われると主張される。したがって−,外観的独立性においても,実質的独  

立性に.おいても問題が生じる。   

これに対して−,このような利益予測情報の監査業務に.よって,監査人の独立   性ほ影響されないという見解もある。それは,一つに・ほ,英国の会計士の経験   に.もとづくものである。英国では,経営者の会計士に対するこのような圧力は,  

それはど大きくなかったといわれる。そのことほ,経営者が,よりよい業績を  

(20)  

達成したいという自然な希望とはとんど変わらないものであるとされる。 

また,もう一つは,監査人の責任関係である。すなわち,予測およぴその前   提に対する基本的責任ほ経営者にある。したがって,もし,公認会計士が,自   分が実質的に.予測を行なったといえるはど,予測作成に.参加したとすれば,そ   の監査の客観性に対して潜在的圧力が存在する。しかし,そ・れは,経営者が,  

(21) 予測の作成紅対する責任をひきうけることに.よって相殺される。   

英国の会計士は,経営者の予測作成に対する責任関係が明らかであると考え   る。すなわち,経営者が,計画を実行することができる立場紅あるから,予測   を作成することができ,そして経営者の努力を通じてのみ,予測を達成するこ   とができるからである。   

とのような予測作成町対する責任関係が,公認会計士と経営者との間で,明   確に.理解されていれば,監査人の実質的独立性に.患い影響をおよぼさないであ   ろう。また,社会の利害関係者のこの責任関係紅対する十分な理解があれば,  

外観的独立性にも問題がないであろう。しかし,このような理解を促進するよ   うに.,社会の利害関係者を啓蒙するために.努力しなければならないであろう。   

また,独立性に対する他の予防方法として,予測の作成に・関係していない会  

(19)J∂∠d.,p.41∩  

(20)D.R。CaImichael,OP.,p。42.  

(21)∫∂∠ d.,p.42.   

(16)

寛47巻 第4・5・6号  

−・J52−   436  

討事務所のスタッフを選んで,歴史的財務諸表の監査を担当させることも商用   であろう。  

ⅤⅠⅠむすび  

利益予測情報の監査は,現代の企業の利害関係者の要請にもとづくものであ   る。このような最近の企業の利害関係者の情報要求の高度化ほ,機関投資家お   よび財務アナ・リストの活動によるところが非常に大きい。このよ.うな動向紅応   じて,情報公開の公平性の理念から,一般投資家の権利として,企業の情報の   一・般的公開の範囲の拡張が主張されるようになる。しかも,このように・して∵拡   張される情報公開の制度の円滑な運営を確保するために.ほ,さらに,独立の監   査人紅よる監査が必要になる。   

ところが,利益予測情報の公開およびその監査の場合にほ,その性質および   限界が十分に理解されていなければ,その有用性を十分に.実現することができ   ず,むしろ,反って有害な結果になるおそれがある。こめため,企業および監  

査人の側において,読者が,  誤解するこ.とのないように.,伝達方法に.合理的な   工夫を行なわなければならない。また,一般投資家の側においても,十分紅理  

解できるように.教育に努力するとか,他の専門家の助けを借りるように,合理   的な注意を行なうことが必要である。情報公開の公平性の理念から一般投資家   に与えられた権利を十分に.生かすためのこのような努力ほ,かれらの義務であ   ろう。   

これまでの会計士監査の発展の動向ほ,利益予測情報の監査紅対する利害関   係者の要請に、応えることができることを示している。それほ,企業の会計レス   牙・ムの発展に.もとづくシステム指向的監査理論軋みられるよう紅,会計士監査   は,企業の情報システムを媒介として,企業の経営活動紅まで事を伸ぼす傾向  

(22)  

にあるからである。そして,これほ,会封士事務所におけるマネーrジメソ1ト・  

サービス業務の発展と軌を−・にするものである。したがって,このような会計  

(22)拙稿「監査理論の動向に・ついて」,『会計丑第104巻第2号,1973年8月。   

(17)

437   利益予測情報の公開,監査および監査主体の問題について   −∫∂3一   

士監査の発展の動向にしたがって,公認会計士が,利益予測情報に対して監査   機能を拡張することができるように,専門的知識および技能の水準を高めてい  

くように努力しなければならない。   

参照

関連したドキュメント

学術関係者だけでなく、ヘリウム供給に関わる企業や 報道関係などの幅広い参加者を交えてヘリウム供給 の現状と今後の方策についての

本制度は、住宅リフォーム事業者の業務の適正な運営の確保及び消費者への情報提供

営業利益 12,421 18,794 △6,372 △33.9 コア営業利益 ※ 12,662 19,384 △6,721 △34.7 税引前四半期利益 40,310 22,941 17,369 75.7 親会社の所有者に帰属する.

区分 項目 内容 公開方法等 公開情報 地内基幹送電線に関する情報

当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に

製品開発者は、 JPCERT/CC から脆弱性関連情報を受け取ったら、ソフトウエア 製品への影響を調査し、脆弱性検証を行い、その結果を

予備調査として、現状の Notification サービスの手法で、 Usability を考慮したサービスと

11,294 10,265 1,906 △900 4,629 2,665 1,332 851 32,046