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カーラマネーと若き王子の物語

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Academic year: 2021

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カーラマネーと若き王子の物語

マルク・リツバルスキ 編 最 上 英 明 訳

ある街に強大で名声のある王が住んでいた。この街に住む誰よりも,高い名声と多 くの財産を有していた。街の名はペルシアのテヘランだった。長い間,息子に恵まれ なかったので,王は息子が授かるように神に祈った。神は王を憐れんで,願いを聞き 入れ,息子を授けた。王はとても喜び,ペルシアのあらゆる有力者たちに,華やかな 宴を催した。息子は体格の面でも知性の面でも成長し,王はあらゆる知識,知恵,哲 学,教養,礼儀作法など,息子に役立つものは何でも教育した。息子はとても裕福 だった。

しかし,王はしばらくすると街で起こったある出来事のために国を失い,名声も 失ってしまった。彼の財産はすべて失われ,すっかり貧乏人のようになった。そこで 息子は王に言った。

「父上,私の話をお聞きください」

「言いなさい,息子よ。お前の望むようにしよう」と父は答えた。

「父上,この街から別の街へ行きましょう。ここにいても,飢えで死んでしまうか らです。物乞いはできませんし,貧民の仕事をすることもできません」

「息子よ,お前が勧めるようにしよう。我々のことはお前と神に任せよう。我々の リーダーになるのだ」

息子は夜,父と母を誰にも気づかれることなく連れ出し,インドのある街までさす らい,そこに住むことにした。それから若い息子は王宮へ赴き,王の前に歩み出て

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言った。

「国王様,お話ししたいことがあります。私はとても裕福な商人で,素晴らしい奴 隷がいます。国王様にぜひその奴隷を所有していただきたいのです」

「では,ここへ連れてきなさい。私が買い取ろう」と王は命じて言った。

若者は両親に,王に売るつもりであることを伝えた。

「私はあなた方を売り,そのお金で遠い国へ旅立つつもりです。今あるものは,こ こでお使いください」

「お前の考えを早く実行に移そう」と両親は答えた。

両親は息子と一緒に出かけた。息子は両親を王の前に連れて行き,両親が王の前に 立つと,王はじっと見て言った。

「お前たちはこの商人の奴隷か?」

「はい,国王様」と両親は答えた。

「お前はいくら欲しいのだ?」と王は若者に言った。

「男の奴隷の値段として,鞍,馬勒,申し分のない武具を備えた馬をください。女 の奴隷の分としては,上等で素晴らしい服をください」

王は若者が求めたものをすべて与え,さらに リラも餞別として贈った。若者は 王から望んだものをもらうと,すぐに両親に別れを告げ,自分のために神に祈ってく れるように頼んだ。それから,特に目的地も決めずに出発した。

旅の途中である騎士に出会い,挨拶した。二人は互いに歓談し始め,騎士は若者の 話が気に入り,若者に言った。

「同志よ,君への愛が激しく燃え上がった。この手紙を受け取ってくれ。無事に王 のところに着いたら,この手紙を渡しなさい。そうすれば,王から便宜が得られるで しょう。私もこの手紙でたくさんいい思いをしたのです」

若者は喜んでこの手紙を受け取り,「この手紙を渡せば,お礼として父と母に会え るだろう」と考えた。

しかし旅の途中で激しいのどの渇きに襲われ,周囲に飲める水も見つからなかっ た。あまりに激しいのどの渇きで,死にそうだった。それで馬を疾走させ,馬に汗を かかせた。手紙を包んでいたスカーフをかばんから取り出し,馬の体にこすりつけ,

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汗を絞って水の代わりに飲んだ。それからまた前のように手紙をスカーフで包み,先 へ進んだ。しかし,手紙を持参できるうれしさから,その手紙を開けて読んでみた。

すると,この手紙には,次のように書かれていた。

「この手紙の使者が到着したら,すぐに殺しなさい。私のところに来たこの若者を,

私は客人として立派にもてなした。しかし若者は恥知らずにも私の娘に手を出した。

それに気づいたとき,殺そうかと思ったが,殺さなかった。私は君のもとにその若者 を送る。過酷な罰を科し,殺しなさい」

若者はこの手紙の内容を知ると,神に感謝した。幼少期からこれまでに体験した不 幸や不運に対しても,神を称えた。それからまた先へ進み,街へ向かった。

街はずれで若者は老女と出会った。老女に街の状況を尋ねると,老女は次のように 答えた。

「若者よ,この街の王にはとても美しい魅力的な娘がいるのです。しかし娘は自分 の出した謎を解いて,自分に勝った者としか結婚しないと決心し,しかも自分が勝っ たら求婚者の首を刎ねるのです。すでに切り落とされた王子らの首が九十九もありま す。彼女には街に面して建てさせた素晴らしい宮殿があり,そこからあらゆる出来事 を見ています」

若者は老女の口からこの話を聞くと,王女への愛と情熱で心が燃え上がった。寝床 についたが,この日の夜は他のどの夜よりも長く感じられた。朝になると若者は起床 し,すぐに馬に乗り宮殿へ向かい,宮殿の門の前で止まった。衛兵たちに見つかると,

そこにいる理由を尋ねられた。

「私が来たのは,王女に求婚するためです」と若者は答えた。

それを聞くと,衛兵たちは若者に思いとどまらせようとした。

「若者よ,神に思いを馳せなさい! お前の若さが惜しい。こんなことに巻き込ま れてはいけない。ご覧なさい! ここに王女に殺された九十九の若者の首がある。み んな家柄のいい連中で,王子の首もある。お前が百人目になるのが心配だ」

しかし若者は,そこに集まった人々の話や忠告には耳を貸さず,王女の宮殿の門の 前に立ち続けた。それで衛兵たちは若者に王女のもとに行く許しを与えた。若者が宮 殿に近づくと,侍女が出てきて話しかけた。

(4)

「若者よ,大胆にも挑戦するのですか?」

「その通りです」

「では国王のところに行って,自己紹介してきてください。そこで裁判官と廷臣た ちにも挨拶できるでしょう」

若者はその場を離れ,王女の代弁者の侍女に言われた通りのことをして,また戻っ てきた。そして,国王,裁判官,廷臣たちの前で言ったことをすべて彼女に話した。

それから代弁者に伴われて王女のもとに歩み寄り,着席して,王女が廷臣たち全員の 前で出す謎に答えた。謎は代弁者の女性がすべて彼に語った。

.「若者よ,王女がこう申してます。それは墓ですが,住人が住んでいる間は動 くのです」

「それは預言者ヨナを飲み込んだ魚です」

.「手も足も使わずに戦い,口で話もしない戦士とは?」

「それは水牛と雄牛です。角で戦うからです」

.「ただ一度しか太陽を見たことのない地とは?」

「それは紅海の海底です。モーゼが紅海を杖で叩くと海が割れ,その水のない 海底をイスラエルの民が渡っていきました。この地が太陽を見たのはこのときだ けです」

.「生きていたときは水ばかり飲み,死んでからは食べてばかりいたものとは?」

「それは預言者モーゼの杖です。杖がまだ木だったときは,生きていて水を飲 み,木から切り取られて杖は死にました。神は杖をエジプトでモーゼに与えまし た。モーゼが杖で海をたたくと,海が開いて,エジプト人を飲み込みました。モ ーゼがファラオの前に立ったとき,その杖はエジプトの長老や魔術師の杖を飲み 込みました」

.「精霊にも属さず,動物にも属さず,鳥にも属さないものは?」

「それはシラミとアリで,ソロモンが考案しました」

.「神はどんな目的で人間を存在させ,また存在し続けることを許したのか?」

「神が人間を創造したのは,神の行いを啓示するためで,継続を許したのは,

神の力と能力を示すためです」

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.「父と母から生まれなかった人間は?」

「それはアダムです」

.「世界中で二つの名前を持つ者は?」

「我々の父祖ヤコブです。彼の二つ目の名前はイスラエル」

.「初めて鐘を鳴らした者は?」

「ノアです。彼が方舟にいたときに,全世界が鐘の音を聞きました」

代弁者は謎を出すのに疲れたわけではなかったが,若者に言った。

「ここでひとまず帰って,また明日来なさい」

そして王女も代弁者に言った。

「若者に,ひとまず帰って,明日また来るように言いなさい。そうしたら,これま での仲間たちが飲んだ杯を飲ませてあげましょう〔首を刎ねてあげましょう〕

そのあと代弁者は若者に王女の言葉をその通りに伝えた。若者は王女のもとを去 り,眠りに就いた。しかし夜はとても長く感じられ,早く夜が明けることだけを望ん だ。朝になり起床すると,宮殿に赴いた。王女は座るように指示し,若者は席につい た。

.「木があり,それは十二の枝を持ち,どの枝も三十の葉をつけている。どの葉 も半分は白く,半分は黒い。その木とは?」

「その木は一年。枝は十二ヵ月,葉は一ヵ月の三十日。どの葉も昼は白で,夜 は黒です」

.「枝が肉と血を受け入れた木とは?」

「それはモーゼの杖です。木から切り取られて,蛇になりました」

.「モーゼの杖とノアの方舟はどこにあるか?」

「それらは,人里離れた荒野にあります。そして時の終末にナザレびと〔キリス トの別名〕という名の男が取りにくるでしょう」

.「最初に織物を織ったのは誰か?」

「神が天使ガブリエルをイヴのもとに遣わし,『糸を紡いで,貴女とアダムのた めに服を作りなさい。それで体を隠しなさい』と言わせたのです」

.「誰がスズメにその名(Sperrlinge)をつけたのか?」

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「ソロモン王がスズメを一羽,呼びに行かせたのに,スズメが拒んだ(sperren)

とき,その名で呼ぶように命じたのです」

.「固定した二つのものとは? 放浪する二つのものとは? いつも行き合う二 つのものとは? 互いに戦い合う二つのものとは? 互いに憎しみ合う二つのも のとは?」

「固定した二つのものは天と地,放浪する二つのものは太陽と月,いつも行き 合う二つのものは昼と夜,互いに戦い合う二つのものは精神と肉体,互いに憎し み合う二つのものは死と生です」

三日目にもまた謎かけが続き,若者はこれまでのように席についた。

.「お前がすると罪であるもの,お前がしなくても罪であるものとは?」

「それは酒に酔った者の祈りです。酔った者が祈るのは罪であり,祈らなくて も罪だからです」

.「天と地の間の距離はどのくらいか?」

「それは人間が一日で戻れる距離です」

.「アダムとイヴの服は何でできていたか?」

「それは木の実でできていました」

.「神が最初に会った人間は?」

「それはアブラハムです。それも,アブラハムが息子イサクを神への生贄とし て捧げようとしたときです」

.「エジプトから退去したときのイスラエルの子らの数は?」

「それは六万人の武装した男たちです」

.「エルサレムを築いたのは誰か?」

「それは預言者ソロモンです」

.「約束の地のどの部分が天より優れているか?」

「それは神殿の場所です」

それから若者は代弁者の方に向いて言った。

「まだ謎が残っているのかどうか,王女に尋ねてください。一生かけて私に謎を出 しても,神のご加護で私はお答えするでしょう。世界のあらゆる謎が出されても,私

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は解いてみせるでしょう。しかし私も王女に謎を出せるように,若い貴女にお願いし ます。王女が謎を解いたら,これまでの仲間たちが飲んだ杯を私も飲みましょう〔私 も首を刎ねられましょう〕。しかし解けなかったら,今日にでもすぐに婚礼を挙げるつも りです」

このやり取りは居並ぶ廷臣たちの前で繰り広げられた。

「望み通りに謎を出しなさい」と代弁者は答えた。

すると若者は言った。

「代弁者よ,王女に言ってください。かつて,ある男がいた。運にも恵まれ,裕福 だった。しかし貧困と困窮の時代が彼を襲い,街を離れて神に救済を祈った。それか ら彼は死と出会い,死を自分の頭上にのせた。しかし死から逃れ,水を飲んだが,そ の水は空から降った水でも,地上の水でもなかった」

王女はこの謎を聞くと,呆然自失の状態に陥り,若者に答えを告げることができな かった。この謎のために,居並ぶ廷臣たちの前で赤面しなければならず,謎に答える にはどうしたらいいのかも分からなかった。それで王女は代弁者に言った。

「若者に言いなさい,今は帰って,明日また来るようにと」

それで若者は王女の宮殿を去ったが,若者が王女に出した謎に人々は立ちすくんで いた。それから王女は代弁者に言った,「若者は去った。すぐに出かけて,二羽の鳥 を殺してきて,それを料理しなさい」

代弁者はその通りにした。それから王女は侍女たちと代弁者を待機させ,料理と飲 物を用意し,豪華な服を身につけた。夜になると,王女は着ていた服を侍女のものと 取り替え,王子である若者のところに赴いた。王女は彼の部屋に入り,挨拶をして,

横に座った。それから王女は若者に言った。

「素敵な女性がドアの前で待っています。貴方が王女のところに来たとき,貴方に 惚れ込んだ女性です。貴方への愛に彼女の心は奪われたのです。こうして貴方のとこ ろにやって来て,ドアの前に立ち,ここに入りたがっています。彼女が中に入って,

貴方にお仕えするのを許してもらえますか?」

「我々のところに来たい人は,いつでも歓迎します」と若者は答えた。

こうして王女は随行者たちを中に入れ,みんなで若者のそばに座った。王女は用意

(8)

してきた食事を取り出し,みんなで歓談したり,冗談を言ったり,笑ったりした。王 女も若者と冗談を言ったが,若者はこの女性が王女であるとは思わなかった。若者は 王女のそばに座り,みんなで食事したり,飲んだり,巧みな歓談に花を咲かせた。代 弁者は絶え間なく若者に酒を勧めたので,若者はすっかりほろ酔い気分になった。若 者は彼女の服を脱がせようとしたが,抵抗された。それから彼女は,若者が王女に出 した謎について尋ね始めたが,若者は酩酊していたので,何も答えることができな かった。それで彼女は服を脱ぎ,彼のそばのソファーの上で横になった。すると若者 はすっかり有頂天になり,謎の答えを彼女に漏らしてしまった。すると彼女は,全世 界,そして世界中のすべてのものが自分のものになったかのように大喜びした。あま りにも喜び過ぎて,服を忘れて部屋から去って行った。若者は酔い過ぎて,睡魔に襲 われた。目を覚ますと,もう誰もおらず,王女らが忘れていった服だけが見つかった。

深紅の色鮮やかな絹の高価で豪華な服だった。そして料理と飲物も残っていた。その とき,若者は王女がいたこと,そして狡猾な手段を使って,謎の答えを聞き出したこ とに気がついた。

朝になって,若者は王女の宮殿に赴いた。王女が彼を見ると,代弁者に言った。

「この男は何を望むのだろう? 若者を中に入れ,謎を解いてあげましょう」

しかし若者は言った。

「私には言いたいことがあります。昨日,私は帰りました。しかし,晩に魅力的で とても美しい鳩がやって来ました。私はその鳩を敬意をもって暖かく迎え入れまし た。我々,すなわち王女と私は飲んだり食べたりしました。しかし,夜のうちにまた 飛び去ってしまいました。もし王女がそれを否定しようとするのなら,ここで王女の 羽を皆さんにお見せしましょう」

王女の父である国王は,若者が娘に謎解きで勝利を収めたこと,そのあとで娘が若 者のもとを訪れて,若者の謎を解いてもらったことを娘から聞かされ,こう言った。

「やっとお前への掟がくだされた。娘を若者と結婚させるために,僧侶を呼んでく れ。当然,娘は若者のものだ。娘が祝福されて結婚するように」

こうして王女との一連の謎解きをすべて終えた若者は結婚した。寝床の上で王女を 横に座らせた。そして最初の晩に,自分が体験してきたことを,父母を売らなければ

(9)

ならなかったことも含め,すべて話した。王女はこの話を聞くと,両親を取り戻すた めに旅立つように希望した。それで若者は出発し,両親のもとに赴いた。両親を預け た王と再会し,両親を取り戻しに来たことを告げ,王は奴隷が実は若者の両親であっ たことを知ると,寛大な態度をとり,何も受け取らずに両親を連れて行かせた。若者 は王に別れを告げ,父と母を連れて,喜びを味わいながら王女のもとへ戻った。神は 若者に以前よりも多くの富を授けた。両親は祝福された息子がなしとげたこと,王女 の謎を解いたことにとても驚き,一緒に楽しく暮らした。王女の父の国王が亡くなる と,市民や街のリーダーたちは若者に王になるように懇願した。若者は王になり,亡 き王の跡を継いで王座についた。息子たちや娘たちにも恵まれ,敬虔の念を抱きなが ら幸福に暮らした。

【訳者付記】

結婚の条件として求婚者に謎解きを要求し,解けなければ命を奪うという謎かけ姫 の物語は,ゴッツィの寓話劇『トゥーランドット』( )で広く知られるようにな り,それに基づくプッチーニのオペラで世界的に有名になった。このゴッツィの寓話 劇はペティ・ド・ラ・クロワの『千一日物語』の中の「カラフ王子とシナの王女の物 語」( )を典拠としている!。このペティの物語は,長年にわたって中近東で伝承 されてきた謎かけ姫物語を巧みにまとめあげたもので,王女の名前もこの物語で初め てトゥーランドットと名づけられた。それまでに昔から伝わってきたいくつかの類話 については,かつて論じたことがある"

ここで訳出した「カーラマネーと若き王子の物語」(Geschichte der Kahramâneh und

des jungen Prinzen)もそうした類話のひとつで,ドイツのセム語学者マルク・リツバ

ルスキ( )がドイツ語に翻訳して編纂した『ベルリン王立図書館の新アラ ム語写本#』に収録されている。新アラム語が紀元前 世紀から 世紀にかけて使われ

( ) この物語の翻訳は香川大学経済論叢第 号第 巻, 年, 頁。

( )「トゥーランドット物語の起源」香川大学経済論叢第 号第 巻, 年, 頁。

( )

Lidzbarski, Mark

(Hrsg.)

: Die neu-aramäischen Handschriften der Königlichen Bibliothek

zu Berlin, Weimar, , Bd. . S.

.

(10)

ていた言語であることから,ゴルドバーグはかなり古い時代の類話であると推定して 過大評価しているが!,他の類話と比較すると,実際にはそれほど古いものではな く, 世紀から 世紀の間に書かれたものと思われる。

「カーラマネーと若き王子の物語」のカーラマネーはもちろん王女の名前と思われ るが,物語の中では一度もこの名前は出てこないので,いささか取ってつけたような タイトルではある。またこの物語では,求婚者と王女の間に王女の代弁者が登場する が,これは他の類話ではほとんど見られない。なお,ドイツ語では

Dolmetscherin

(女 性通訳)だが,王女だけに通訳がつくのも不自然なので,Dolmetsch(代弁者)と同 義であると解釈して訳出した。

モスコ・カーナは『千一夜物語』の「九十九の晒首の下での問答」がゴッツィの

『トゥーランドット』の原作となった物語であると誤った指摘をしているが",「カーラ マネーと若き王子の物語」はこの「九十九の晒首の下での問答」と内容がかなり類似 している。ちなみに,『千一夜物語』とそのパロディーとして書かれたとも思われる

『千一日物語』とは混同されることが多い。比較的新しいプッチーニ評伝の翻訳でも

「その姫君と結婚できる者は三つの謎をすべて解いた王子に限り,失敗したら求婚者 の首を容赦なく刎ねるという大昔からある寓話は,フランソワ・ペティ・ド・ラ・ク ロアの翻訳によるアラビアの伝説から集めた『千一夜物語

Les mille et un jours』とし

て,ヨーロッパ文学に入って来ていた#」と,『千一日物語

Les mille et un jours』と『千

一夜物語

Les mille et une nuits』が混同され,誤訳されているのが残念である。

その「九十九の晒首の下での問答」は,『千一夜物語』でもマルドリュス版にのみ 含まれている物語で$,マルドリュスが他の物語集から取り入れ,脚色した物語と思わ れ,そのためか,文章もリツバルスキの「カーラマネーと若き王子の物語」よりかな り彫琢されている感じがする。どちらも謎解きに挑戦する王子がちょうど百人目で,

( )

Goldberg, Christine : Turandot’s sisters, A study of the folktale AT , New York &

London, .

( ) モスコ・カーナ『プッチーニ』(下巻)加納泰訳,音楽之友社, 年, 頁。

( ) ジュリアン・バッデン『ジャコモ・プッチーニ−生涯と作品』大平光雄訳,春秋社,

年, 頁。

( )『千一夜物語』(Ⅳ)佐藤正彰訳,筑摩書房, 年, 頁。

(11)

自分(姫)とその周囲の女性たちとが似て

いるもの

偶像と侍く女,太陽と陽光,月と周りの星々

西方の花嫁と東方の王子から一人の子が生 まれ,輝かしい帝王となるとは

西方の湿気で東方の土を腐蝕すれば,全能 の水銀を生む

護符に霊験を与えるもの それを構成する文字

二つの永遠の仇敵 死と生

十二の枝を持ち,各々二つの房をつけ,一 方は三十の白い果実,他方は三十の黒い果 実をつけている木

一年

一度しか太陽を見たことのない地 紅海の海底

銅鑼を発明した者 ノア

なすもなさざるも法に違う行為 酒に酔った者の祈禱 地上で天に一番近い場所 メッカの聖殿カアバ 人の秘めておくべき苦々しき事 貧窮

健康に次いで最も貴いもの 濃やかな友情 矯め直すのに一番難しい木 悪しき品性

「九十九の晒首の下での問答」での問と答

運命が急転したあと両親を売って旅に出る点も共通している。どちらも謎の数が多 く,マルドリュスのものは ,リツバルスキのものは で三日にも及び,聖書を知 らないと分からないような謎も多い。両者に共通する謎もあるので,参考までにマル ドリュスの方の の謎も,ここで比較のために挙げておく。

「死と生」「一年」「紅海の海底」「酒に酔った者の祈禱」などが両者に共通している ことが分かる。なお,謎の数が三つだけになるのは,『千一日物語』の「カラフ王子 とシナの王女の物語」以降だが,「一年」の謎はこのカラフ王子の物語でも流用され,

ゴッツィの寓話劇でもそのまま取り入れられている。

王女が逆に謎を出されたとき,その謎の答えを知るために晩に策を弄するモティー フを含むのがこの物語の類話では一般的だが,マルドリュスはあまり重要とは思わな かったのが,省略している。この物語の後半部分,すなわち求婚者が出した謎に王女 が答えられなかったら結婚するという話だけが独立して,ヨーロッパでは広まってい

(12)

る。グリム童話の「なぞ」(KHM )が有名だが,謎の答えが分からない王女が晩 に変装して求婚者を訪れ,答えを知る点ではどれも共通している。エスピノーサの

『スペイン民話集』の「謎王女!」では,王女は求婚者と一緒にベッドで寝ることさえ する。

物語前半の王子の苦難の体験に基づいて後半の王女への謎が作られるわけだが,

世紀から 世紀にかけての類話ではウリアの手紙,すなわちこの手紙を持参した者 を殺せと書かれた手紙を受け取り,持参する直前に内容を知り危うく難を逃れるとい うモティーフが含まれていることも多い。「カーラマネーと若き王子の物語」にはこ のモティーフも含まれているが, 世紀初頭の『千一日物語』以降の謎かけ姫物語 では,このモティーフはほとんど用いられなくなったようだ。

いずれにせよ,「カーラマネーと若き王子の物語」は謎かけ姫物語の典型例として 興味深い類話のひとつである。

( ) エスピノーサ『スペイン民話集』三原幸久訳,岩波書店, 年, − 頁。

参照

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