イタリア国際私法における当事者自治の原則
(2
・完)桑 原 康 行
( 4)
指定の方法当事者 による準拠法指定 は,どのような方法でなされ うるのであろ うか。か か る指定 は明示的であることを要す るのであろ うか。それ とも黙示的であって
もよいのであろうか。
イタ リア国際私法上,当事者の意思 は次のよ うに分類 され ると言 う
。8 2 )
第一 に,明示的意思。第二に,黙示的意思, これは当事者の行動か ら必然的に導 き 出され る意思である。8 3 )
第三 に,推定的意思, これは当事者の行動 さ らに諸般 の事情か ら導 き出され ると思われる意思である。8 4 )
第四に,仮定的意思, これ は,当事者の意思 とは無関係 に,法秩序 自体 によってなされる評価 と関連 して いる意思である。85)86)現行法上,推定的意思さらには仮定的意思が探求されることはない。その理由 は,立法者意思および第
2 5
条第1
項の構造にある。現行法の立法者 は,一・・.一一既82 )UBERTAZZI , I L COMPORTAMENTO DELLE PARTIE LA LEGGE REGORATRI CE DELLE OBBLⅠ GAZI ONICONTRATTUALI , DI1 5( 1 96 1 )
p. 201 ss.; VI TT A,前掲 注11 )p. 255 .
83 )UBERTAZZI 教授 によれば,例えば外国人被告が提起 された訴訟 においてイタ リア裁判所の裁判管轄権の欠鉄を抗弁す ることな く,本案で弁論 した場合 に,イタ リ ア裁判所の管轄権を承認す る黙示的意思が被告 に存在す るとされ る 。 UBERTAZZI , 同上 p. 203 .
84 ) 例えば債務を承認す る自筆証書を返還 した場合に,諸般の事情が存在すれば,債務 を免除す るとい う推定 的意思が債権者 に存在す るとされ る 。UBERTAZZI ,同上 pp. 203 ‑204 .
〔 1 6 1 〕
に検討 したように一一 結局のところ推定的意思なる概念を否定 したのである
。8 7 )
また,現行法第2 5
条第1
項 は,当事者の意思に加えて,他の2
つの連結点を定 めているのであるか ら,解釈者は,推定的意思や仮定的意思を探求する必要は ない。 もし探求す るとす ると,当事者の共通本国法,契約締結地法が適用 され ることは実際上存在 しないことになって しまうであろう。8 8 )
それでは,現行法上,当事者による準拠法指定 は,明示的であることを要す るのであろうか。 この点について,学説 は対立 しそいる。
当事者の意思は明示的であることを要す るとす る論者 もいる。例えば
, BEN‑
TI VOGLI O
教授 は次のように論 じている。8 9 )
当事者の意思は,準拠法約款 に おいて明示 されているか,契約条項 において具体化 されていなければな らな い。その理 由は,第2 5
条第1
項においては,共通本国法,契約締結地法が主た る基準であり,当事者の意思は補充的基準にす ぎないことに存するとされる。9 0 )
85 ) 例えば,当座預金 口座主が受領 した計算書に関 して異議を唱えないときは,ロ座主 は承認 した もの とす ると法律で規定 している場合 に,仮定的意思が問題 とされ る。
UBERTAZZI ,同上 p. 20 4 .
86 ) 日本法の もとでは,仮定的意思なる概念は存在せず,推定的意思の中に含まれるも の と考 え られ る。溜池 ・前掲注 2)347 頁。そ こで両国において同 じく推定的意思な
る語が使用されていて も,その意義は異なると言えよう。また,黙示的意思探求のさ いに考慮 されるべ き事情如何 について も,若干の差異が存在す るようにも思われる。
すなわち, 日本法の もとでは,諸般の事情が考慮 されるべ きものとされている。 これ に対 して,イタ リア法の もとでは,論者 によってニ ュア ンスの差がある 。1 931 年草 案の報告書によれば,考慮 さるべ き事情 とい うのは契約 ( 普)の諸規定に限定 される ようで もある。拙稿 「イタ リア国際私法における当事者 自治の原則( 1 ) 」商学討究第 44 巻第 1・2 合併号 ( 平成 5 年) 268 ‑269 頁参照。次に VI TTA 教授 によれば,当事 者の行動 は含まれ るものの,諸般の事情までは含まれないとされるようである。さら
に DE NOVA 教授 によれば,諸般の事情が考慮 さるべ きもの とされている 。DE NOVA ,前掲注 1 3 ) p. 46 7 . このためイタ リア法上,黙示的意思 と推定的意思 との 区別 は必ず しも容易ではないように思われる。
87 ) この点 については, Ⅱ( 2) 参照。
88 )TREVES ,前掲注 6 1 ) p. 317;AL] 〕ERTODEDONATI S ,前掲注 61 )pp. 17
‑1 8 .
89 )BENTI VOGLI O,ICREDI TIDOCUMENTARINEL DI RI TTO I NTER‑
NAZI ONALE PRI VATO I TALI ANO, Banca, borsaet i t ol idic redi t 0 ,21 ( 1 95 8 ) p. 1 60 .
90 ) この点 については, Ⅲ ( 1 )参照。
イタ リア国際私法 における当事者 自治 の原則 (2 ・完 ) 16 3
しか し,かかる理 由自体に疑問がないわけではない。共通本国法,契約締結地 法の方が補充的基準であるとの説をとる限 り,当事者の意思を明示的なものだ
けに限定すべ き論拠は存 しないであろう。
BALLADOREPALLI ERI
教授 も,当事者の意思 は明示的でなければな らないと主張す る。同教授は,一一一最近の民事法上の学説に依拠 しつつ‑ 意 思 とい うのはつねに明示的であ り,いかなる方法 によって も表示 され うるとし,黙示的意思なるものの存在を否定す る
。9 1 )
しか し,同教授 によれば,立法者は,第25条を起草するにあたり,当時の学 説に従 って,決定的行動か ら導 き出され る黙示的意思をも考慮 していた。それ ゆえ,現行法上当事者 自治の原則をどのように理解すべきかを知 るためには, (っねに明示的である)意思 と契約か ら導 き出され うる客観的事実 とを検討 し なければな らない, とす る。
しか し,実際には,契約当事者の行動か ら黙示的意思を探求することと契約 を特徴づける客観的事実を探求す ることとの問に大差 はないであろう。 いずれ に して も, これまでの学説 は,黙示意思理論を前提 としてきたのであるか ら, 学説の展開を検討するにあたって黙示的意思を考慮 しないでお くことはできな
いように思われ る
。9 2 )
ところで,準拠法決定に関す る黙示的意思は,どのような事情が存在する場 合に,認定 され うるのであろうか。
MONACO
教授は,契約の客観的位置づけを問題 とす るフランスのBa t i f o l l
の説に依拠 しつつ, 自説を展開 している
。9 3 )
MONACO
教授 は,黙示的意思を明 らかに しうる事情 (かか る事情 はイタ リア法上i ndi c ir i v e l a t o r i
と呼ばれる)を一般的事情 と例外的事情 とに分類 し,後者がより重視 さるべきことを主張する。9 1 )BALLADOREPALI J I ERI ,前掲注 25 )DI RI TTO・ ・ ・ . ・ ・ p. 3 0 8 ss.
9 2 )VI TTA ,前掲注 1 1 )p. 2 57 .
9 3 )MONACO, L' EFFI CACI A DELLA LEGGE NELLO SPAZI O ( DI RI T‑
TOI NTERNAZI ONALEPRI VATO)1 9 5 4p. 2 36 ss.
例外的事情は,
2
つの範噂に分類 される。第一に,契約の要素すなわち,当 事者の国籍 ・住所 ・契約の目的物 ・方式 ・契約のその他の内在的要素である。第二に,契約の外在的要素であ り, これには,契約締結後の当事者の行動 ・当 事者によるある法律,慣習への準拠 ・契約を規律するにあたって考慮 され うる 法律等が含まれる。
これ ら
2
つの事情の うちでは,外在的要素が内在的要素に優先すべ きもの と され,さらに内在的要素の中では,以下の4
つが優先 され るべ きであるとす る。
a)
仲裁条項 ・裁判管轄条項 これ らの条項は,選択 された仲裁人または裁判 所の所属国法が指定 されたことを明 らかに している。b)
附合契約 この契約 においては,申込の相手方当事者が契約書を予め作成 した当事者の住所地法に 準拠 したと考えるのが論理的である。C)
ある契約 と他の契約 との関連性 従 たる契約の準拠法 は主 たる契約の準拠法 と一致す ると考えるのが論理的であ る。d)
国家 との公法上の契約 かか る契約においては,当該国法を指定 した ものと考え られ る。これ らの例外的事情が存在 しない場合 には,一般的事情が考慮される。一般 的事情 とは,契約締結地 と契約履行地 とであるが,まず契約履行地,続いて契 約締結地が検討 される。
しか し
,MONACO
教授の説 には次のような批判がなされよう。 イタ リア 法 は,第25条第 1項で明示的に契約準拠法の決定を裁判官ではな く当事者にゆ だねている。 したが って,当事者ではな く裁判官が契約準拠法を決定するとのBat i f ol
lの説9 4 )
は,フランスのように,契約準拠法に関す る立法規定を有 しな い国においては妥当 しうるとして も,イタ リアのように当事者 自身が準拠法を 決定 しうるとの明文規定を有す る国においては妥当 しない, と。また,
Bat i f ol
lの言 う契約を位置づけるための事情 と黙示的意思探求のた めに考慮 される事情 とが同 じものであるとして も,その日的如何によって,す94 )Bat i f f ol , Lesc onf l i t sdel o主 senmat i eredecont rat s( 1 938 ) な お ,Bat i f f ol の説 は,折茂教授 によって詳細 に紹介 ・検討 されている。折茂 ・前掲注 1)56 頁以下
も参照。
イ タ リア国際私法 における当事者 自治の原則 ( 2 ・完) 16 5
なわち,それが
Bat i f ol
lの言 う契約位置づ けのための ものであるのか,それ とも当事者の黙示意思探求のための ものであるのかによって,評価が異なりう ることを否定することはできないであろう。9 5 )
uBERTAZZI
教授96 )
は,契約準拠法の決定 にあた り, まず当事者の行動 か ら必然的に導 き出され る論理的帰結を明 らかに しなければな らないとする。この段階では,当事者が (その ことを認識 していたか否かに拘 らず)契約締結 時に,特定の行動を とったという事実のみか ら,当事者 による準拠法選択が明
らかにされ る。
次 に,準拠法選択 は,諸般の事情
( i ndi cis i nt omat i ci
)か ら導 き出され る。これ らも当事者の行動に関するもので,具体的には以下の ものが該当す る。第
‑に,契約で使用 された言語,第二 に,債務履行地,第三に,支払通貨,第四 に,裁判管轄条項,第五に,特定国の法律規定‑の準拠,第六に,契約間の関 連性,である。 これ らの事情の うちいずれかが存在するだけでは準拠法選択の 黙示的意思を示す ものとは言えない。 しか し,特定国法が準拠法であることを 示す複数の事情が存在する場合には,黙示的意思の存在が認定 されやすい。 こ こでは
,quaes i ngul anonprosunt ,uni t aj uvant
との法格言が妥当す るの である。i ndi cis i nt omat i ci
に関す るUBERTAZZI
教授 による立論 は,その後の 多 くの学説 において も,基本的には支持 されていると言えよう。9 7 )
次に,契約準拠法の決定にあたって,当事者の黙示的意思が探求 された判例 を検討 してみよう
。9 8)
9 5 )UBERTAZZI ,前掲注 8 2 )p.209 注 27 ).
9 6 ) 同上 ,p. 207 ss.
9 7 )CARBONE ,前掲注 3 2 )pp. 23 ‑2 4;DE NOVA ,前掲注 1 3 ) p. 46 7;BAト LARI N O,前掲注 23 ) p. 86 9 . c f . VI TTA ,前掲注 11 )p. 25 9 .
9 8 ) ところで,航行法典第1 0 条は,運送契約等の準拠法に関 し次の規定を設 けている。
「 船舶賃貸借 ・傭船契約および運送契約は,船舶または航空機の旗国法によって規律
され る。但 し,当事者の異なる意思を妨げない。」本条は,現行法第 25 条の特則にあ
たるが,当事者 自治の原則を基本原則 としている。そこで以下では,航行法典第 1 0 条
に関す る判例 も検討の対象 とす ることとす る。
この点 に関す る破穀院判例 は少ない
。 1 948
年12
月27
日判決第1937
番9 9 )
では, 傭船契約 について仲裁条項が問題 とされた。当事者が仲裁条項に基づ き紛争の 解決を外国仲裁によ らしめた という事実か ら,当事者が仲裁地国法を契約準拠 法 とす るつ もりであったことを推論す ることはで きない, と判示 された。破穀院
1 984
年1 0
月9
日判決第5028
番1 0 0 )
も,売買契約上の仲裁条項に関 して, 反対 に解すべ き理由なき限 り,外国会社が外国の都市を契約締結地 と定める仲 裁条項 は,現行法第25
条の意味における契約準拠法を指定す る意思表示 として の意味を有す るものではない と判示す る。下級審判例 にはさまざまな事情を考慮 した ものが兄い出され る。次の
2
件の 判例においては,当事者 による指定が,抵触法的指定ではな く,実質法的指定 であると判示 された。Genova
地方裁判所1 951
年2
月24
日判決1 0 1
)は,運送契約 に関す る事案であ る。本件海上運送契約 はイギ リスの1924
年海上物 品運送法の規定 に服す る条 項が船荷証券中に存在 していた。かか るイギ リス法の援用は航行法典第10
条の 意味における当事者が指定 した法に契約を服せ しめる合意 とはな らない, と判 示 された。Genova
高等裁判所1 965
年7
月2
日判決1 0 2 )
も,運送契約 に関す る事案であ るが,当事者が早出料 ・滞船料 につ きイタ リア航行法典による規律ではな く, 英米法系の規律 を合意 した。裁判所の判示によれば,当事者 は,単 に航行法典 による規律 とは異 なる規律を定めることがで きるとい う権限 (航行法典第444
条参照)を行使 したにす ぎない とされた。Genova
地方裁判所1 966
年5
月10
日判決1 0 3 )
で は, ロン ドンで締結 され,船 荷証券で援用 されていた傭船契約が検討 された。海運国で使用 され る大多数の 契約書 は英語で作成 されることか ら,英語の使用 とい うことだけで は当該言語99 )Cas s . 27di c embre1 9 4 8, n.1 9 37, Gi ur. i t . ,1 9 50I1,p. 1 30 .
1 00 )Cas s .s e∑. un.,9ot t obr e1 9 8 4 , n. 50 2 8 , RDI PP1 9 85 ,p. 6 25 .
1 01 )γri b.Ge nova, 2 4f e bbrai o1 9 51 , Di r.mari t t . 1 9 5 2 ,p. 40 2 .
1 0 2 )App.Ge nov a,21 ugl i o1 9 65 , Di rmari t t . 1 9 6 5 ,p. 1 61
.1 03 )γri b. Ge nov a, 1 0maggi o1 9 6 6 , RDI Pf '1 9 6 7 ,p. 8 27 .
イタ リア国際私法 における当事者 自治の原則 ( 2 ・完 ) 167
所属国法を契約準拠法 とす る当事者の意思を表示 した もの とは考え られないと 判示 された。
Mi l ano
地方裁判所1 981
年1
月1 2
日判決1 0 4 )
は,銀行 間の為替契約 に関す る 事案である。当事者が取引通貨の価値を決定す るために特定市場の相場 に準拠しているとい う事実は,為替契約を当事者の共通本国法 ・契約締結地法以外の 法に服せ しめる意思を明示的にも黙示的にも表示 した ことを示す ものではない
と判示 された。
また,
Mi l ano
高等裁判所1 986
年1 0
月17
日判決1 0 5 )
も銀行 間の為替契約 に関 す る事案である。本件 において も,外国市場の相場‑の準拠 は為替契約を当該 外国法 に服せ しめる当事者の黙示的意思表示 とはな らないと判示 されている。Roma
高等裁判所1961
年6
月5
日判決 106)は,外国法 を援用 したので はな く,当事者が契約条項を契約履行地法 に適合せ しめた とい う事案である。かか る事情 は,一一一契約 目的の達成が履行地の禁止法規によって妨げ られ ることが ないよ う当事者が注意 したにす ぎず‑ 履行地法を契約準拠法 とす る意思を表 示 した もの とは考え られない と判示 された。chi avari
地方裁判所1 968
年1
1月26
日判決1 0
7)で は,売買契約 に関 し,当事 者の意思 は支払通貨か ら推論す ることはで きないと判示 された。複数の一致す る事情が存在す る場合 には,準拠法指定に関す る当事者の黙示 的意思の存在が認定 されやすい傾向にある。
Genova
地方裁判所1 964
年5
月13
日判決1 0 8 )
は,運送契約 に関す る事案であ る。裁判所 は, フランス法を契約準拠法 とす る当事者の黙示的意思を以下の諸 事情か ら演鐸 した。 1. フラ ンス (パ リ)での契約締結,2.
フラ ンス機関の 契約書の採用,3.
フランスフランでの運賃支払,4.
フランス仲裁機関への 紛争の付託。1 0 4 )Tri b.Mi l ano, 1 2ge nnai o1 9 81 , For °pad. 1 9 81 ,Ip・ 3 7 6 . 1 0 5 )App.Mi l ano, 1 7ot t obre1 9 8 6 , RDI PP1 9 8 8 ,p. 1 0 3 . 1 0 6 )App.Rom 乱 ,5gi ugno1 961 , RDI1 9 6 1 ,p. 6 81
.1 07 )Tri わ.Chi av ar i , 2 6nov embr e1 9 6 8 , Di rmar i t t . 1 9 69,p. 1 26 .
1 0 8 )Tri わ. Ge nova, 1 3maggi o1 9 6 4 ,Di rmari t t . 1 9 6 5,p. 4 7 3 .
Mi l ano
地方裁判所1 97 4
年2
月28
日判決1 0 9 )
は雇用契約 に関す る事案である。本判決では,
1.
当事者間の交渉が フランスで行われたこと,2.
契約書が フ ランス語で作成 された こと,3.
報酬がフラ ンスフランで支払われ るべ きこと が規定 されていたことか ら, フランス法を準拠法 として指定す る当事者の意思 が証明されると判示 した。本件の控訴審である
Mi l ano
高等裁判所197 5
年' 5
月20
日判決1 1 0 )
においては, さらに, フランス法の特定の規定の適用を排除す るために特別な用語を使用 し たことも付加 されている。ローマ法務官裁判所
1 988
年8
月1
1日判決1 1 1 )
は,雇用契約 に関 し,1.
報酬 を国内労働協約で定め られている金額の2
倍 とした こと,2.労働者が現地の empl oyerrecei pt
に署名 した ことか ら,外国法指定の当事者の意思を認定 し ている。ミラノ法務官裁判所
1 987
年8
月1 2
日判決1 1 2 )
も,雇用契約 に関す る事案であ るが,雇用契約を外国法 (米国法)によ らしめる黙示的意思 は,1.
労働保護 に関す る米国法の主要規定を含む手引書の引き渡 し,2.労使関係存続中にか
かる規定が明 らかに適用 されていたこと,か ら演鐸 されると判示 した。ところが,以下の
2
つの判決 においては,複数の事情が存在 していたにも拘 らず,異 な る結論 に至 っている。第一の判決 は,運送契約 に関す るGenova
地方裁判所1971
年7
月1 9
日判決1 1 3 )
であ るが, 1.契約書で英語が使用 されて いたこと,2.
契約締結地がニ ューヨ‑クであること,3.
仲裁条項でニ ュー ヨークが仲裁地 とされていた こと, とい う事情が存在 していたに も拘 らず, ニ ュー ヨーク州法を準拠法 として指定す る黙示的意思の存在を認定す ることは で きない とす る。1 09 )γr i b.Mi l ano, 2 8f ebbr ai o197 4 , RDI PP1 9 7 6,p. 34
1.11 0 )App.Mi l ano, 20maggi o1 97 5 , RDI PP1 9 7 6,p. 36 7 .
1 11 )Fr e t .Rom
乱,llagos t o1 9 88( ordi nanza) ,For °i t . 1 9 89 ,Ip. 7 87 . 1 1 2 )Pre t .Mi l ano, 1 2agost o19 87 , Gi urc i v . 1 9 8 7 ,Ip. 29 7 4 .
1 1 3 )Tr i b.Ge nov a, 1 91 ugl i o1 9 71 , RDI PP1 97 2,p. 3 29 .
イ タ リア国際私法 にお ける当事者 自治 の原則 ( 2 ・完 ) 16 9
ところが
Genova
高等裁判所1 973
年3
月3
日判決 114)では, 1.米国ブロー カーの仲介 によるニ ューヨークでの契約締結,2.米国で広 く使用されている
英文契約書の採用,3.
米国 ドルによる傭船料支払,4.
ニューヨークでの仲 裁付託,5.
早出料 に関 しては英米の慣習に従 うとの当事者の意思か ら,当事 者は当該契約を米国法によ らしめるつ もりであったと判示 している。( 5 )
意思表示の準拠法契約 自体の準拠法 は,現行法第25条によって,当事者の指定 した法である。
したが って例えば,かかる契約の有効性如何は,当事者が指定 した法によって 判断 されることになる。 ところで,契約の準拠法の問題 と区別すべきものとし て,
1 1 5 )
意思表示 自体の準拠法 とい う問題がある。具体的には例えば,契約準拠 法に関する意思表示の有効性は,いかなる法によって判断されるのであろうか。かかる問題 に関 しては現行法上明文規定が存在 していないこともあって,学 説 は対立 している。大別 して二説あると言えよう。第‑説 は法廷地法説であ り, 第二説は契約準拠法説である
。1 1 6)
これ らの説の うち,イタ リアでは伝統的に第一説の法廷地法説
1 1 7 )
が通説で あるといって誤 りではあるまい。1 1 8 )
この説の論拠 は次の点にある。1 1 9 )
現行法 も イタ リアの国内法である以上,その規定 は,他の国内法の規定 と同 じ基準で解1 1 4 )App.Ge nova, 3marz o1 97 3, Di rmari t t .1 9 7 3,p. 27
1.1 1 5 )MENGOZZ I ,前掲注 3 8 ) p. 1 5 3 .
1 1 6 ) この他,法廷地法説 と契約準拠法 との累積的適用を主張す る説 もある。かか る読 について は, MI GLI AZZA, LA RI LEVANZA DELL' ACCORDO PRI VA‑
TOSULRI CHI AMOA NORMEE PROCEDI MENTIESTRANEI ( 1 9 6 2 ) p. 4 8 ss.
1 1 7 )BALLADORE PALLI ERI ,前掲注 2 5 ) Di r i t t 0 ‑ ‑ ・ p. 3 2 2S.;MENGOZZI , 前 掲注 3 8 )p.1 5 3;DE NOVA , 前掲注 1 3 )p. 46 7 . もっとも ,DE NOVA 教授 は, 国際条約 の場合 には,条 約 自体 にその解答 を求 め るべ き もの とす る 。 p. 46 8;
VI TTA ,前掲注 1 1 ) p. 23 9S.p. 25 0 . 但 し, VI TTA 教授は,立法論 としては, 契約準拠法説を支持 している 。 p. 251S. ;なお ,VI TTA ,前掲注 44 ) p. 1 7 4S.
も参照。
1 1 8 ) このことは契約準拠法説をとる論者 も争わないところである 。 CARBONE , 前掲注 3 2 )
p. 1 8;ORLANDO, I L PROBLEMA I NTERNAZI ONALPRI VATI STI CO
NELL' ORDI NAMENTOCOMUNI TARI OEUROPEO LE OBBLI GAZI ONI
CONTRATTUALI( 1 9 8 1 )pp. 2 8 , 2 9;Cf r. VI TTA ,前掲注 1 1 )pp. 2 4 0 , 2 5 0 .
釈 されなければな らない。特 に,現行法規定に含まれ る専門的 ・法律的用語 は, イタ リア法の一般原則および他の規定にて らして解釈 されるべ きである
。1 2 0 )
これを契約債務のケースにあてはめると,以下のようになるO 現行法第
2 5
条 で言 う 《当事者の意思》 という用語は,法廷地法たるイタ リア (の実質)法に 基づいて解釈 されねばな らない。そ して, ここで言 う当事者の意思 とは,イタ リアの実質法に基づいて有効に表示 された意思のことであると考えるべ きであ る, と。次に,契約準拠法説
1
21
)の論拠は次のように要約 されよう。まず,当事者の意思 という連結点にその性質 と本質的に両立 しうる機能を果た させることが望ましいことである
。1 2 2 )
かかる機能 というのは,一つは契約準拠法 を指定する機能であり, もう一つは,意思表示の準拠法を指定する機能である。第二に,意思表示の準拠法を契約準拠法 と一致 させることによって,契約債 務関係の国際私法上の規律を単純化することができることである
。1 2 3 )
第三に,国際私法統一条約においても,諸外国の国際私法判例においても,契 約準拠法説が有力であることである
。1 2 4 )
かかる条約の代表的なものとして,EC
の契約債務の準拠法に関す る条約 (1980年 第 3条第 4項)および有体動産の 国際的売買の準拠法に関する条約( 1955
年 第2
条第3
項)が挙げられる。1 2 5 )
通説 とも言いうる法廷地法説は,契約準拠法説を循環論に陥いるものとして 批判 している
。1 26)
すなわち,当事者の意思 (表示)が有効な場合 には じめて知1 1 9 )
注1 1 7 )
に掲げた文献および次の文献参照。GI ARDI NA,LA CONVEN‑
ZI ONE COMUNI TARI A SULLA LEGGE APPLI CABI LE ALLE OB‑
BLI GAZI ONICONTRATTUALIE I L DI RI TTO I NTERNAZI ONALE PRI VATOI TALI ANO, RDI1 98 1 ,p. 7 9 8 .
1 2 0 )
この点につき詳 しくは,VI TTA, DI RI TTOI NTERNAZI ONALE PRI VA‑
TO i( 1 9 7 2 )p. 3 21 ss.
1 21 )CARBONE
,前掲注3 2 ) p. 1 9S .;ORLANDO
,前掲注1 1 8 ) p. 29S.
なお, 既に指摘 したように,VI TTA
教授は立法論としてはこの説をとる。VI TTA
,前 掲注1 1 ) p. 251S .;I d
,前掲注4 4 ) p. 1 7 4S.
1 2 2 )ORLANDO
,同上p. 29;VI TTA
,同上DI RI TTO・ ‑ ‑p. 2 51
.1 2 3 )ORLANI )
0,同上p. 29S., 〜VI TTA
,同上p. 25 1
.1 2 4 )CARBONE
,前掲注32 )p. 1 9 S.
イ タ リア国 際私 法 にお け る当事者 自治 の原則 ( 2・完) 1 7 1
りうる契約準拠法によって,その有効性を判断 しようとす ることは論理的に不 可能であるとの批判である。 この批判に対 し,準拠法説 は次のように反論 して いる
。1 27)
なるほど,意思表示が効力を生ず るためには,立法者によって指定 さ れ,意思表示以前 に存在 している法を基準 として有効性の要件を検討 しなけれ ばな らない。かかる法を当事者が設定できるとす ることは不合理であ り循環論 に陥 ることになろう。 しか し,当事者がなすべ きことは,意思表示の有効性を 検討する法を創造す ることではな く,その有効性を判断す る基準を提供する既 存の法を指定す ることにす ぎない。 この ことはもとより可能である。法廷地法説は,契約準拠法説をさらに次のように批判す ることもできよう。 すなわち,準拠法説 は,結局のところ,経済的強者を有利な立場にお くことに なって しまう
。
というのは,かか る当事者が 自己に有利な法の選択を相手方に 強制 しうるか らである, と。1 28)
これに対 して,最近有力に主張されるに至 った契約準拠法説 は,法廷地法説 を次のごとく批判す ることが可能であろう。 すなわち,法廷地法説を とれば, 意思表示の準拠法が法廷地の如何 によって異なることになる (このことは国際 私法の機能その ものに反す ることになる)だけでな く,契約の一方当事者すな わち
r orum shoppi ng
を行 った当事者を優遇することになって しまう, と。1 2 9)
いずれに しても, このようにして決定された意思表示の準拠法が,意思表示が 有効であるか換言すれる澗 庇が存在 していないか,能力者によってなされたか,逮 当な方式でなされたか,という問題に対 して適用されることになるのである。1 3 0 )
1 2 5 )EC の契約債務 の準拠法 に関す る条約 の第 3 条第 4 項 について は, Ⅳ( 2 ) 参照。有 体動産 の国際的売買 の準拠法 に関す る条約の第 2 条第 3 項 は,次のよ うに規定 して い る。「 適用 され るべ き もの と宣言 され た法律 に関す る当事者 の合意 に関す る条件 は,その法律 によ って決定 され る。 」 この訳 は,川上太郎編 『 国際私法条約集』 ( 昭 和 41 年) 1 41 頁 によっている
。1 2 6 )VI TTA ,前掲注 1 1 ) p. 251;I d ,前掲注 4 4 ) p. 1 7 4 . 1 27 )VI TTA ,同上 p. 2 51S.;I d ,同上 p. 1 7 4 .
1 2 8 )Cf r.GI ARDI NA ,前掲注 1 1 9 ) p. 7 9 9not a( 1 0 ) , 具体例 について も同頁参照。
1 2 9 )CARBONE ,前掲注 3 2 )p. 20 .
1 3 0 )DE NOVA , 前掲注 1 3 )p. 4 67;MENGOZZI ,前掲注 38 ) p. 1 5 3;ORLANDO ,
前掲注 11 8 )p. 2 9;CARBONE ,前掲注 3 2 )p. 1 9;VI TTA ,前掲注 11 )p. 2 4
1.Ⅳ イタ リアにおける国際私法改正論議
イタ リアにおいて,国際私法改正論議 は以前か らなされていたが,かかる論 議が特 に活発化 したのは
,1980
年代後半 に入 ってか らの ことであるといえよ う。1 3 1 )1989
年 には,国際私法改正検討委員会が法務大臣によって設置 され,1 989
年1 0
月には,同委員会は法務大臣に対 し国際私法改正試案を提出 した。1 3 2 ) 1 993
年4
月には,イタ リア政府が全74
ヵ条か ら成 る 《イタ リア国際私法改正》に関する法案第
1192
番を上院に提出す るに至 っている。1 3 3 )
この法案には,契約 準拠法に関する現行法第2 5
条を改正す る諸規定 も含まれているといわれる。そもそ も国際私法改正検討委員会が設置されたのは, 「イタ リアの憲法上 ・ 立法上の新たな要請および国際私法規範 に影響を及ぼす国際条約を成立させた 国際的な,特 にヨーロッパの新たな現実に,イタ リア国際私法を
」1 3 4 )
適合 させることが必要であると考え られたためであった。
換言すれば,第一に,国際私法を共和国憲法に適合 させること,第二に,国 際私法を実質法に適合 させること,第三 に,国際私法をイタ リアが締結国であ る国際私法条約に適合 させること,の
3
点に,改正検討委員会設置の理由が存したのである。
イタ リアの学説 においては, これ らの他に もう一つの理由を加えた ものが, 国際私法改正論議の理由として一般的に主張 されている
。1 3 5 )
すなわち,諸外国における国際私法の改正 ・制定の動 きである。
以下では, これ らの理由の うち,第
2 5
条に関係するものを( 2 )
で検討すること1 31 )特 に注 4 4 ) に掲 げた文献参照。
1 3 2 ) この試案 につ いては ,PROGETTO DIRI FORMA DEL SI STEMA I TAL‑
I ANODIDI RI TTOI NTERNAZI ONALE PRI VATO SCHEMA DIARI TI ‑ COLATO, RDI PP1 9 8 9p. 9 3 2 ss. その報告書については ,REI J AZI ONEALL
nGATA ALLOSCHEMA DIARTI COLATO, RDI PP1 9 8 9p. 9 47 ss. 参照。
1 33 ) LUI GI FUMAGALLI , LA RI FORMA DEL DI RI TTO I NTER‑
NAZI ONALE PRI VATO NEL DI SEGNO DILEGGE GOVERNATL VO, RDI PP1 99 3p. 49 4 ss.
1 3 4 )Rel az i one ‑‑前掲注 1 3 2 )p. 9 47 .
イタ リア国際私法 にお ける当事者 自治の原則 ( 2 ・完) 17 3
とし,それ以外の
3
つの理由を(1)でまず概観 してお くこととしたい。(1) 改正論議の理由 その
1
まず第一に,諸外国における国際私法改正 ・国際私法制定の動 きである
。1 3 6 ) 1960
年代以降の ものに限定 して も,その数 はかな りにのぼる。地域的にま ず ヨーロッパ諸国,次に社会主義諸国,最後 にその他の諸国 という順序で具体 例を挙 げてみよ う。
まず ヨーロ ッパでは,ギ リシア民法典( 1940)
と民事婚 規律 に関す る法改正( 1982)
,ポル トガル民法典( 1966)
と両配偶者平等,棉 出子 ・私生子平等の実現を目的 とす る法改正( 1 977)
,スペイ ン民法典序章 (1974)
,オース トリアの国際私法に関す る連邦法( 1 978 )
, トルコの国際私法及 び国際民事訴訟に関す る法律( 1 982)
, ドイツの国際私法の新規律のための法 律( 1986)
,スイスの国際私法に関す る連邦法( 1 989 )
0次に社会主義諸国については,旧チェコスロバキアの国際私法および国際民 事訴訟 に関す る法律
( 1963)
,アルバニアの外国人 による民事上の権利の享有 および外国法の適用に関す る法律( 1964)
,ポーラン ドの国際私法( 1 965 )
, 旧東 ドイツの法の適用に関す る法律( 1975)
,‑ ンガ リーの国際私法に関す る 人民共和国国民議会幹部会法規命令( 1979)
,旧ユーゴスラビアの一定関係の 範囲における外国規定 との法律抵触の解決に関する法律( 1 982)
。最後 にその他の諸国については,ガボンの民法典第一部の採択に関す る法律
( 1 972)
,アル ジェリアの民法典( 1975 )
, ブル ンディの民法典( 1 982 )
, トーゴ 演( 1 982)
等。これ らの国際私法立法の理由は,国によって異なるが,特定 グループの諸国
1 3 5 )GI AR工) I NA,CRI TERII SPI RATORIE TECHNI CHE DiUNA EVEN‑
TUALE RI FORMA I N I TALI A DEL DI RI TTO I NTERNAZI ONALE PR L VATO, RDI PP1 9 85p.6ss .;VI TTA, I nt emadir i f ormade ldi ri t t oi n‑
t er naz i onal e prl V at O , I L FORO I TALI ANO 1 9 86Ⅰ .p.3S.;ALBERTO DE DONATI S ,前掲注 6 1 ) p.4 9s s .;VI TTA, CORSO DIDI RI TTO I NTE
R‑NAZI ONALEPRI VATOEPROCESSUALE 4αed.1 9 91p. 41s s .
1 36 )GI ARI ) I NA ,同上 p.6s s.;VI TTA ,同上 I nt ema ‑ ‑p.6 ;ALBER‑
TO DE DONATI S ,同上 p. 5 4s s.;VI TTA ,同上 CORS
0‑‑・ p. 41S. な
お,かかる国際私法立法の具体的内容 については,笠原 ・前掲注 2
) も参照。については,共通す る理 由が兄い出され る
。1 3 7 )
例えば,フランスの旧植民地諸国 の場合 には,主 たる立法理 由は次の点 にあるとされ る。すなわち, フランスか らの独立時に適用 されていた国際私法 とい うのは基本的には慣習で判例 に基礎 をお くものであ ったので,独立後 は旧宗主国の判例 との結 び付 きを維持す ることがで きな くな り,独 自の国際私法を制定せざるをえな くなった ことである。
社会主義諸国の場合 には,その理 由は,社会主義諸国の政治的 ・経済的概念 と調和 し,かつ外国 (資本主義諸国 も含 めて) との貿易を も促進す るよ うな国 際私法立法の存在 に利益 を有す ることにある。
諸外国におけるこのよ うな広範 な立法化の動 きが,イタ リアにおける改正論 議がなされ るに至 った理 由の一つ と して指摘 されているのである。
第二 に,イタ リア国際私法をイタ リア共和国憲法に適合 させ る必要性が存在 してい ることで あ る
。1 9 48
年1
月1
日か ら施行 された憲法 は,第3
条第1
項 で市民平等を,第29条第2項で配偶者平等を うた っている。すなわち,第 3条 第1
項 によれば, 「すべて市民 は,社会的威厳 を もち,法の前 に平等であ り, 性別 ・人種 ・言語 ・宗教 ・政治的意見な らびに個人的および社会的条件 によっ て差別 され ることが ない」1 3 8 )
とされ る。 また第29条条第 2項 によれば,「婚姻 の制度 は,家族 の統一 を保障す るために法律で定 め る制限の下 に,配偶者相互1 3 7 )GI ARDI NA
,同上p. 9 S.
1 3 8 )
イタリア共和国憲法の訳は,ボルゲ‑ゼ著『イタリア憲法入門』(昭和44
年)によっ ている。1 3 9 )
現行法第1 8
条 ・第19条 ・第2 0
条は,それぞれ次のように規定 している。第18条 (配偶者間の身分関係を規律する法律)異なる国籍の配偶者間の身分関係は 婚姻中配偶者に共通であった最後の本国法により,またはその無い場合には,婚姻 挙式の時における夫の本国法によって規律される。
第19条 (配偶者間の財産関係を規律する法律)配偶者間の財産関係は婚姻挙式の時 における夫の本国法によって規律される。
配偶者の国籍の変更はその財産関係に影響を及ぼさない。但 し新 しい共通の本国 法に基づ く配偶者間の合意を妨げない。
第
2 0
条(親と子の間の関係を規律する法律)親と子の間の関係は父の本国法により,あ るいは母たることだけが認められている場合または母だけが子を認知 している場合 には,母の本国法によって規律される。養親および養子間の関係は養子縁組の時における養親の本国法によって規律される。
この訳は,注
2
1)の文献 (4
真)によっている。イタ リア国際私法 におけ る当事者 自治 の原則 ( 2・完) 77 5 ■
の道義的および法律的平等にもとづいて定める」 とされる。
他方,現行法は,その第
1 8
条で配偶者間の身分的関係の準拠法につ き,第19 条で配偶者間の財産的関係の準拠法につき,それぞれ夫の本国法の優先的適用 を定め,第20
条で親子間の関係の準拠法につ き,父の本国法の優先的適用を定 めている。1 3 9 )
そこで,学説 ・判例上問題 となったのが現行法第1 8・1 9・20
条が 憲法第3
条第2
項および第29
条第2
項に違反 しているのではないか, ということであった。
学説 は,当初違反 しないとの見解 (合憲説)が有力であった。合憲説 は,そ の理由についておおよそ次のように主張 している
。1 4 0 )
すなわち,憲法上の平等 原則は実質法 レベルでのみ問題 とされる。 というのは,実質法 レベルでのみ有 利不利 という比較が可能だか らである。 国際私法規範 は準拠実質法を指定す る 間接規範にす ぎないので,かかる規範について平等原則の尊重 という問題 は生じえないのである, と。
これに対 して,学説 において も最近では,現行法第18
・1 9・20
条 は憲法第3
条第1
項および第29
条第2
項に違反す るとの見解 (違憲説)が有力になってき ている。その理 由は次の 2点に要約 されよう。1 4 1
)まず第一に,合憲説 に対す る 批判である。すなわち,合憲説 によれば,憲法上の平等原則 は,イタ リア法が 準拠法である場合にのみ尊重 されるべ きことになり,外国法が準拠法である場 合には,国際的公序則が適用 されるさいに間接的に考慮されるにす ぎないことになる。 これでは,上位法たる憲法 (上の原則)の適用範囲を下位法たる国際 私法によって決定す ることになって しまうが,かかる結論は到底是認できるも のではない, と。
第
2
に,国際私法規範は必ず しも 《価値中立的な》 ものではない。例えば, 夫の本国法の優先的適用は,イタ リア民法典の基礎にある立法政策1 4 2 )
すなわ1 40 ) GI ARDI NA , 前掲注 1 35 )p. 1 4S.;VI TTA ,前掲注 1 3 5 )I nt em乱 ‑ ‑ ・ p.4;
ALBERTODEDONATI S ,前掲注 6 6 )p. 5 0 .
1 41 )GI ARDI NA
,同上p. 1 5S .;ALBERTO] ⊃EDONATI S
,同上p. 5 0S.
1 4 2 )1 86 5 年民法典の立法政策 については,次の文献参照。松浦千誉 「イタ リア民法典
における女性の地位」八戸大学紀要創刊号 ( 昭和 5 6 年) 5 3 頁以下。
ち夫権 ・父権優位の家族統一体思想を国際私法上表明 したにす ぎない。それゆ え,国際私法上 もすでに違憲性が問題 とされ うるのである。
さらに,夫の本国法の優先的適用 は,それ 自体‑‑準拠法の内容 はともか く 一十 妻を不利な立場におか しめることになる。夫 にとってはつねに自己の本国 法が適用 され るのに,妻 にとってはつねに夫の本国法が適用 され るとい う点 に 不利益が存す るといえ るか らである。
憲法裁判所 も,一連の判決 において,現行法第
1 8
条および20
条に関 して,一 部違憲判断を示すに至 っている。1 4 3 )
憲法裁判所 は,
1983
年2
月8
日判決第30
番1 4 4 )
において,第20
条の合憲性の 問題を取 り上 げた。 しか し,同裁判所 は,t hem adeci dendum
の不確定性を 理 由として,結局 この問題 について判断を下す ことは しなか った。憲法裁判所 は
, 1 987
年2
月26
日判決第71
番1 4 5 )
では じめて,第18
条 を一部違 憲 と した。同裁判所 は,第18
条 の,夫の本国法の優先的適用を規定 した部分を, 憲法第3
条第 1項および第29
条第2
項 に違反す ると判示 したのである。同裁判所 は, さ らに
,1 987
年1 2
月1 0
日判決第477
番1 4 6 )
において,第20
条の一 部違憲を も表明す るに至 った。本件では,第20
条の,父の本国法の優先的適用 を規定す る部分が,憲法第3
条第1
項および第29
条第2
項に違反す ると判示 さ れたのである。これ らの判決 は,違憲判断によって生 じた法の欠鉄をどのように補充す るか については判示 していな
い 。1 4 7 )
また, これ らの判決 は現行法第19
条の違憲性を も合意す るものである。したが って,これ らの問題 は,最終的には法改正 によ っ1 43 ) 憲法裁判所の判決 については次の文献 も参照。山内惟介 「 国際私法における両性 平等 について ‑イタ リアにおける展開 ‑」法学新報第 97 巻第 6 号 ( 平成 3 年) 67 7 頁以下。
1 44 )Cort eCos t i t uz .,8f ebbrai o1 9 8 3 ,n. 3 0 , RDI PP1 9 83 ,p. 6 01s s. なお,本判 決 については ,GI ARDI NA ,前掲注 1 35 )p・ 1 6ss . も参照。
1 45 )Cort eCos t i t uz, 2 6f e bbrai o1 9 8 7 ,n. 7 1 , RDI PP1 9 87 ,p. 2 97s s . 1 46 )Cort eCos t i t uz, 1 0di cembr e1 9 87 ,∩. 477 , RDI PP1 9 8 8 ,p. 67s s.
1 47 ) 両判決 につ いては, さ しあた り MENGOZZI ,前掲注 3 8 )Appe ndi c e p. 1 9 7
ss . 参照。
イ タ リア国際私法 にお ける当事者 自治 の原則 ( 2 ・完) 177
て解決 されなければな らないと言えよう。 国際私法改正が急務 とされるゆえん である。
第三の理 由は,国際私法を最近改正 された実質法に適合 させる必要性が生 じ ていることである。かか る法改正のなかで ここで特に重要なものは以下の
3
つ である。第一に, 1 970
年のいわゆる離婚法,第二に, 1 975
年の家族法大改正, 第三に,1983
年の養子縁組特別法である。1 48 )
イタリアにおいては
,1 970
年1 2
月1
日法律第898
号 (婚姻解消の場合の規律)1 49 )
によって,離婚制度が法認 された。 しか し本法 は国際私法規定を含んでいな か ったため,離婚の準拠法如何につき問題が生 じた。 この問題について学説 は
3
つに分かれていた。1 5
0)第1
説 は,配偶者間の身分的関係を規律する第1 8
条適 用説であり,第2
説 は,家族関係一般を規律す る第17
条適用説であり,第3
説 は夫婦の一方がイタ リア人である場合にはイタ リア離婚法が適用されるべ きで あるとの説である。 1987
年 には,現行法第18条の一部違憲判決が 出され, さ らに離婚法の一部改正 もなされている。 このような状況1 5 1
)においては,立法 上離婚の準拠法に関す る規定を設 けることが不可欠 とされよう。次に,
1975
年5
月19
日法律第1 51
号 は,特 に両配偶者の権利義務の平等 (特 に第24
条参照)を実現 した。1 5 2 )
これは憲法上の平等原則を民法上 ようや く具体 化 したものといえよう。
これに対 して,現行法 (特に第1 8・19・20
条)は,1 942
1 4 8 )GI ARDI NA ,前掲注 1 35 )p. 1 8 ss.;VI TT A,前掲注 1 35 )I nt ema・ ‑‑・ p. 5 S.
;ALBERTO DE DONATI S ,前掲注 66 ) p.51S .;VI TTA ,前掲注 1 3 5 ) CORS0 ‑ ‑p. 4 2 S.
1 4 9 ) イタ リアの離婚法 については,さ しあた り以下の文献参照。小池隆一 ・松浦千誉
「イタ リア新離婚法」法学研究第 4 4 巻第 6 号 ( 昭和 46 年) 7 3 頁以下,松浦千誉 「イ タ リア離婚法の改正 ‑1 987 年法律第 7 4 号及 び 1 97 8 年法律第 43 6 号の翻訳 ‑」拓殖大 学論集第 1 7 4 号 ( 昭和 6 3 年 ) 21 7 貢以下, 松浦千誉 「イタ リア離婚法の改正 について」
家庭裁判所月報第 41 巻第 6 号 ( 平成元年) 1 頁以下。
1 5 0 )GI ARDI NA ,前掲注 1 3 5 )p. 1 9 .
1 51 )最近の問題状況につ き ,VI TTA ,前掲注 1 3 5 )CORS0 ‑ ‑p. 21 5s s. 参照。
1 5 2 ) イタ リア家族法の改正 について は,さしあた り以下の文献参照。松浦千誉 「イタ
リア家族法の改正」ケース研究第 1 56 号 ( 昭和 51 年) 2 頁以下,風間鶴寿 「イタ リ
ア民法 における非嫡 出子の相続法上の地位 ‑一九七五年の家族法の改正を中心 とし
て‑」民商法雑誌第 7 8 巻臨時増刊号 ( 2 ) ( 昭和 5 3 年) 1 39 頁以下。
年民法典さらには
1 865
年民法典の立法政策に基礎をおいている。そこで,197 5
年以降イタ リアにおいては,実質法たる民法典 と国際私法 との間に不一致が生 ず るに至 っている。かかる不一致を解消するためにも,国際私法の改正 は避け て とおることはで きないであろう。
第三に
, 1 983
年5
月4
日法律第184
号である。未成年者の養子縁組及 び養育 委託 に関す る規定か ら成 る本法1 5 3 )
は,国際養子縁組について も規定を設 けて いる。国際養子縁組 には,イタ リア人夫婦が外国人の未成年者 と養子縁組をす る場合 と,外国人夫婦 もしくは外国に居住するイタ リア人夫婦がイタ リア人の 未成年者 と養子縁組する場合が含まれるが,本法が定める手続 は国籍原則 さらには現行法上の養子縁組の準拠法に関す る規律 とは矛盾するとの指摘がなされ ているところである
。1 5 4 )
( 2 )
改正論議の理由 その2
国際私法改正論議の理由のなかで,本稿のテーマである当事者 自治の原則さ らに一般的に契約準拠法を規律する現行法第
2 5
条 に関連 して重要なのは,国際 私法をイタ リアが締約国である国際私法条約に適合 させ る必要性が存す るとの 理由である。1 5 5 )
かかる国際条約のなかで きわめて重要なものが,
EC
の契約債務の準拠法に 関す る条約1 5 6 ) ( 1 9 8 0
年,以下EC
条約 と略称)である。1 5 7 )
EC
条約は,適用範囲に関す る第1
条において,国際契約のみに適用 される ことを規定 している。国内契約の当事者が外国法を準拠法 として指定 したか ら といって,国内契約が国際契約になるわけではない。1 5 8 )
これに対 して,イタ リア法においては,既に検討 したように,契約 (債務)
1 5 3 ) 本法については以下の文献参照。松浦千誉 「イタ リアの新 しい養子制度 一一九八 三年の法律第一八四号の紹介 ‑」判例 タイムズ第 65 0 号 ( 平成元年) 9 6 貢以下,松 浦千誉「イタリアの新 しい養子制度」 拓殖大学論集第 1 6 4 号( 昭和 6 2 年) 3 49 亘以下。
1 5 4 )ALBERTODEI ) ONATI S ,前掲注 6 1 )p. 5 2 .
1 5 5 )GI ARDI NA ,前掲注 1 3 5 )p. 1 2ss .;VI TTA ,前掲注 1 35 )I nt ema ‑ ‑p.
6;ALBERTO DE DONATI S ,同上 p. 5 2s s .;VI TTA , 前掲注 1 35 ) CORS0
‑‑
・ p. 4 3 .
イ タ リア国際私法 における当事者 自治 の原則 ( 2 ・完 ) 17 9
の渉外性に関 し学説 は対立 している。通説 は,渉外性の要件を不要 とし,当事 者 は国内契約の場合にも準拠法を指定す ることができるとす る。 この説をとれ ば,
EC
条約 とイタ リア法 とは相違することになる。 1 59 )
しか し,渉外性を要件 とし,国際契約の場合にのみ準拠法を指定す ることができるとの有力説によれ ば,EC
条約 とイタ リア法 とはこの点において違いはないことになる。EC
条約 は,第3
条第1
項で契約債務の準拠法 に関 し基本原則を定めてい る。すなわち 「契約は当事者によって選択 された法に服する」 ものとされてお り,いわゆる当事者 自治の原則が採用されている。イタ リア法 (現行法第25条) も,既に指摘 したように,マ ンチ一二が提唱 し たとも言われる当事者 自治の原則を基本原則 として採用 している。
したが って,
EC
条約 もイタ リア法 も契約債務の準拠法に関 し当事者 自治の 原則を基本原則 として承認 している点においては相違 はない。1 6 0 )
しか し
, EC
条約 は,同条項で さらに次のよ うに規定 している。「法選択 は, 明示的であるか,または十分な確実性を もって契約条項 もしくは事案の事情か ら明 らかになるものでなければな らない。」 この規定か らわか ることは,問題1 5 6 ) 本条約 につ いて は以下 の文献 参照 。Nor t h ( ed. )Cont rac tc onf l i c t s:The EEC Conv e nt i onont heLaw Appl i cabl et oCont rac t ualObl i gat i ons:A c omparat i v e s t udy ( 1 9 8 2 );LA CONVENZI ONE DI ROMA SULLA LEGGE APPLI CABI I J E ALLE OBBLI GAZI ONI CONTRATUALLI ( 1 9 8 3 );TREVES ( a cura di )VERSO UNA DI SCI PLI NA COMUNL TARI A DELLA LEGGE APPLI CABI LE AI CONTRATTI( 1 9 8 3 );
Pl e nde r, THE EUROPEAN CONTRACTS CONVENTI ON ( 1 9 9 1) ; Kaye,THE NEW PRI VATE I NTERNATI ONALLAW OF CONTRACT OF THE EUROPEAN COMUNI TY ( 1 9 9 3 ) ;Kas s i s,Lenouv eaudr oi t e urope 昌 e ndesc ont rat si nt e r nat i onaux ( 1 99 3 ) .
1 57 ) イタ リア法 との異同については以下の文献参照 。GI ARDI NA ,前掲注 1 1 9 ) p.79 5s s.;VI LLANI , L' AZI ONE COMUNI TARI A I N TEMA DI DI RI TTO I NTERNAZI ONALE PRI VATO, Ri vai r. eur.1 9 81 p. 37 3s s .
;VI TTA, LA CONVENZI ONE CEE SULLE O】 〕BLI GAZI ONI CON‑
TRATTUALIE L' ORDI NAMENTO I TALI ANO, RDI PP1 9 81p. 8 37s s .
;ALBERTODEDONATI S ,前掲注 6 1 )p. 2 5s s.
1 58 )VI LLAN I ,同上 p. 39 3 , もっとも、第 3 条第 3 項、参照。
1 59 )VI LLAN I ,同上。
1 60 )VI LLAN I ,同上 p. 39 3;VI TTA ,前掲注 1 57 ) p. 83 8
.とされる当事者の意思は,明示的意思および黙示的意思に限定 され,推定的意 思および仮定的意思を含 まないことである。161)
イタ リア法の もとで も,問題 とされ る当事者の意思 は明示的意思および黙示 的意思であるとされ,推定的意思および仮定的意思は探求 されないことは,既 に述べたとお りである。そ して,黙示的意思探求のさいに考慮 され うる事情如 何 について も,イタ リア法上限定 され るとの立場を とらない限 り,
EC
条約 とイタ リア法 との間に差異 は存在 しないように思われる
。1 6 2 )
つづいて,
EC
条約第3
条第1
項 は,
「当事者 は契約の全部 または一部のみ について法選択を行 うことがで きる」とし,いわゆるデブサージュ(de pe Ga ge)
を認めている。 これに対 し,イタ リア法 においては
EC
条約が認め るよ うな デブサージュには否定的である。1 6 3 )
したが って, この点 にもEC
条約 とイタ リ ア法 との相違を求めることができよう。1 6 4 )
EC
条約 は,第3条第 2項で準拠法指定時期について規定を設けている。 当 事者は契約締結時だけでな く契約締結後 も準拠法を指定することがで きる。ま た,当事者はすでに指定 した準拠法を変更す ることもできる。但 し,契約の方 式の有効性および第三者の権利 は,契約締結後の準拠法指定の変更によっては 影響 されない, とされる。これに対 してイタ リア法においては, この間題につ き学説 は三説に分れてい るが,判例は,当事者 は契約締結時にのみ準拠法を指定できるとし, したが っ て締結時以降の準拠法変更を許容 しない。このように,準拠法指定時期如何 も,
EC
条約 とイタ リア法の相違点 と言えよう。1 6 5 )
EC
条約第3
条第4
項 は,当事者の意思表示の準拠法 は契約準拠法 と一致す1 61 )ALBERTODEDONATI S ,前掲注 6 1 ) p. 2 6 S. ; VI TTA ,同上 p. 8 39 . 1 6 2 ) Cf r. VI TTA ,同上 p. 8 40 .
1 6 3 ) イタ リア法上のデブサージュに関す る議論 については, さ しあた り DE NOVA , 前掲注 1 3 ) p. 4 71 ss. 参照。
1 6 4 )GI ARDI NA , 前掲注 1 1 9 )p. 8 0 9;VI LLAN I ,前掲注 1 57 ) p. 39 4;VI TTA , 前掲注 1 57 )p. 8 41S.
1 65 )GI ARDI NA , 同上 p.8 07S.;VI LLAN I , 同上 p.3 9 4S.;VI TTA , 同上
p. 8 41;ALBERTODEI ) ONATI S ,前掲注 6 1 )p. 27 .
イ タ リア国際私法 における当事者 自治の原則 ( 2 ・完) 1 81
ると規定す る。 しか し
EC
条約は第8
条第2
項 に次の特別規定を置 く。すなわ ち,契約準拠法に従 って当事者の行為の効力を決定することが相当でないこと が諸般の事情か ら明 らかであるときは,その当事者は,契約に同意 しなか った ことを立証するために,その常居所地国法を援用す ることができる,のである。これに対 して,イタ リア法においては,既に述べたように,当事者の意思表 示の準拠法について学説の対立がみ られる。現在において も通説であると考え られる法廷地法説をとると, この点において も,
EC
条約 とイタ リア法 は差異 を示 していることになる。1 6 6 )
もっとも,最近の有力説である契約準拠法説を と れば,選ぶ ところはないと一応言 うことができよう。EC
条約 は,当事者 自治の原則を直接的には制限 していない。 したが って, 当事者 はいかなる国の法を も準拠法 として指定す ることができると思われる。イタ リア法の もとで も,多数説 ・判例は,選択可能な法を限定 していない。 こ の限 りで
EC
条約 とイタ リア法 との問に違いはないとも言えよ う。1 6 7 )
しか し,EC
条約は以下の特別規定を設けているので,当事者 自治の原則が結果的に制 限されることになることは否定で きないであろう。まず,第
3
条第3
項によれば,準拠法指定時における重要な事実がある国 と のみ関連 しているときは,他の国の準拠法指定は,一一一」也の国の裁判所の合意 如何に拘 らず‑ その国の強行法規の適用を妨げることはできない, とされる.さらに,第
7
条第1
項によれば,事案 と 《密接な関係》を有する第三国の強 行法規に,裁判官 は 《効力を付与することがで きる》 とされる。その判断にあ たって,裁判官は,当該法規の性質 ・目的 ・適用の結果を考慮 しなければな ら ないもの とされている。この規定は強行法規の特別連結理論を立法化 したものと理解されるが,イタ リ ア法の もとでは存在 しない広範な裁量権を裁判官に付与することになろう