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黒鉛への窒素およびアルゴンの吸着(第3報)

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(1)

NDC 431.86

黒鉛への窒素およびアルゴンの吸着(第3報)

一単分子層における吸着サイトー

三浦 和久*

Adsorption of Nitrogen and Argon on Graphite. 3

一Adsorption Site within Monomolecular Layer一

Kazuhisa MIURA

  For the system of N2 or Ar adsorbed on graphite samples, a few adsorption anomalies were found and briefly discussed in previous papers. This paper discusses the causes of the anomalous agreement between the calculated values of N2 and Ar monolayer volumes Vm. Accordmg to tbe facts that the molecular size of nitrogen is different from that of argon, and that physisorption of gases on solids is generally considered to take place with a close−

packed first layer, it 8eem8囎u8ual that both Vロvalue800incide, Thおunexpected phenomenon can be explained in terms of the geometry of the adsorbate molecules and the adaorbent graphite, and the e1ectrostatic attraction between the adsorbed molecule and the graphite.

1 序 論

 著者は、先報において天然黒鉛上に吸着した窒素ある いはアルゴンの系に種々の吸着異常が現れる事を報告し た1・2)。これらの内の幾つかは天然黒鉛以外の炭素材料、

例えばグラフォンなどにおいて既に発見されていたもの であるが3−5)、その原因ははっきりしないまま今に至っ ている。そこで、本報では、その内から両気体の単分子 吸着量の一致という事実だけを取り上げ、黒鉛上での両 気体の吸着サイトに関して考察する。

2 実 験

 試料の黒鉛粉末は日本黒鉛商事株式会社(滋賀県大津 市唐橋町16−3)から販売されているGraphite ACPで、

スリランカ産出の原鉱を選別、粉砕、分級したものであ る。純度99.5%、灰分0.5%(これは殆ど石英であると 言われている6))、粒度1〜30μmである。チオフェンを 除去した精製ベンゼンによって、この黒鉛を6日間ソッ

クスレー抽出した後,25【℃】で5時間、1.3xlO s【Pa】で真 空引きしたものをG25と名付けた。

 G25を充分に脱ガスしてから、液体窒素温度における 窒素あるいはアルゴンの吸着測定を行った。吸着量は容

量法によって測定し た。同法の直接測定 量である圧力はバラ

トロン・キャパシタ ンス・マノメーター で測定した。吸着平 衡は同マノメーター に接続したレコーダ ーからの出力データ を基に確認した。ア ルゴンの場合、液体 窒素温度での飽和圧が 測定時の外気圧によっ て少し変動するので、

Fig.1 Scaming electron micrograph   of G25.

その都度、飽和圧を実測し、相対圧を計算した。本報に 示した等温線測定時のアルゴンの飽和圧は27.48【kPa】で あった。約9時間にわたる吸着測定の間、液体窒素浴中 での液体窒素のメニスカスを定位置に維持するために日 本ベル株式会社製の液体窒素自動供給システムを用いた。

窒素ガスは液体窒素からの蒸発によって、また高純度ア ルゴンガスは播磨酸素株式会社製のガスボンベから得た。

また、走査電子顕微鏡による黒鉛の観察にはJEOL JSM−35型電子顕微鏡を用いた。

* 一般科目

平成11年8月17日受理 3 結果 と 考 察

一131一

(2)

津山高専紀要第41号 (1999)

Fig.1およびFig.2にG25の代表的なSEMイメージ

を示す。天然黒鉛の産地としては、スリランカと並んで、

メキシコおよびマ ダガスカルが有名 であるが、マダガ スカル産のものは 不純物が多く、ま たメキシコ産のも のは結晶性にやや 劣ると言われてい る7)。Fig.1より明 らかな様に、べ一 サル面、即ち(0001)

面、がよく発達し ているが、べ一サ ル面の末端だけで 構成されるプリズム 面、即ち(1010)面あ るいは(1120)面、も 認められる。

Fig.2 Scanning electro駐皿icrograph

  ofG26.

      このプリズム面に在る炭素原子は酸素など の他元素の原子と結合して表面官能基をつくっている。

著者等の測定によれば、G25の表面官能基は酸性酸化物 である8》。塩基解離定数pKbの異なる4種の塩基を用い る選択的中和法9)から、G25上にはカルボキシル基、ラ クトン基、フェノール基、カルボニル基が比較的多く存 在している8・ 1 o)事が判っている。この写真から見る限

りでは、べ一サル面に欠陥は認められない。しかし、Fig.2 からは、同じ黒鉛試料でありながら、べ一サル面が曲が って、一見するとカーボンブラックに特徴的な乱層構造 に近いと思える様な表面を持つ粒子をも含んでいる事が

判る。

 Fig.3に窒素とアルゴンの吸着等温線を相対圧x=o.4 まで示す。顕著なkneeを持つ両等温線は典型的なBD DT分類11)のn型である。等温線の再現性は極めて良 好なので、これらの吸着は物理吸着である。一般的には、

結晶性固体への気体の物理吸着は、吸着サイトの内でま ず最も活性なサイト即ちエッジやステップなどの格子欠 陥から進行して行く。本町の吸着媒は黒鉛なので、X=0 辺りの急激な吸着量の立ち上がりは、プリズム面に在る 表面官能基の周囲などのエネルギー的に活性且つ不均一 なサイトへの吸着に帰せられるが、後述する様に分極し たべ一サル面上への吸着にもよると考えられる。活性の

     お    ムマ       も霧蛋\︾.彗ε邸℃︒ρ・8翌

高いサイトから順次占有されて行くと、等温線はknee を経てX=O.02辺りで勾配が緩やかになる。その後、吸 着量は相対圧に対して直線的に単調に増加して行くが、

X=0.2の辺りから急増し始める。即ち等温線の形は圧力 軸に対してconvexになって上昇し始める。上の様な等 温線の形状は、Kjems等がGrafoil(Ba8al・plane・oriented Graphite)への窒素吸着等温線に見出した形状に非常に良

く似ている12)。従って、著者はこの辺りの相対圧におけ るG25上への窒素の吸着がべ一サル面上に生じているも のと考えている。また、窒素等温線とアルゴン等温線の 形状がX<O.3の領域で極めて良く似ているので、上に

0 0

︷島ω︾篭u

菅.5

a

6 08

b

a

煤D1 an os o o.1 a2 a3 0u

         lte{ative pressure. X

Fig.3 Adsorption isotherm of nitrogen (a) and argon (b) on G25    at 77K

 o   o al a2 03 o o.1 o.2 a3 oA

       Relative pressure , X

Fi&4 BE71  plotS oftheロitrogen adsorption isotherm(a)狐1   the argon one fo).

述べた類推をアルゴンに対しても拡張し得ると考えてい

る。

 Fig.4はこれらの吸着等温線をBET式に当てはめた結 果を示す。いわゆるBET plotである。窒素吸着の実測 点からはX=O,20を境にして低圧側と高圧側とで別の直 線が得られる1・2)。この原因については稿を改めて論じ るつもりである。ここでは、後述のB点吸着量1 3}との 比較から、低圧側の直線を取り上げる。一方、アルゴン 吸着の実測点はX=O.3を越える辺りで直線から下にずれ 始める。それぞれの直線部分のデータからBET法に従 って、単分子吸着量Vmを算出すると、窒素で3.11【㏄1g】、

アルゴンで3.04【㏄1g】であり、またC値は窒素で322、ア ルゴンでは299であった。一方、それぞれの吸着等温線 から、B点法ユ3》で求めた単分子吸着量VBは、窒素で

3.10[㏄ノg】、アルゴンで3.12【㏄ノg1であり、これらの値を 与える相対圧は共にX=O.08であった。驚いた事に、窒 素とアルゴンの間でVm値(勿論VB値も)の違いは殆ど 無く、2.6%以内に収まっている。両者は気体種に依らず 良く一致していると言える。

 さて、ここで取り上げるのはべ一サル面への吸着であ る。著者は、窒素分子とアルゴン分子とはべ一サル面上 の同一サイトに吸着すると考えている。その根拠として 次の2点を挙げる。即ち、①黒鉛べ一サル面は炭素原子 から構成される六角形の芳香環(以下hexagonと記す)

のほぼ無限の繰り返しである。この上に起こる吸着は下 地のhexagonに無関係に最密充填構造を形成する様に吸 着して行くとは考え難い。窒素とアルゴンでは分子径が 異なり、窒素の方が大きい。両分子がhexagonに無関係 に最密充填構造を取るとするならば、Vm値は異なって 然るべきである。アルゴンの方が当然大きくなるはずで あるが、事実はそうなっていない。また、②C値は吸着

一 132 一

(3)

黒鉛への窒素およびアルゴンの吸着(第3報)一単分子層における吸着サイトー 三 浦

第一層と下地との相互作用の大きさを表しているが、こ れが両気体で殆ど同じ程度である。

 著者のデータからは、上述の二つのものが挙げられる だけであるが、著者の判断を支持する文献としてwalker とZettlemoyerの研究14)を紹介したい。彼等によれば、

結晶性表面の特別なサイトに複数種の気体が物理吸着す る場合には、それらの気体のVm値比は簡単な整数比に なる。著者の系では、上で述べた様に、窒素とアルゴン のVmの比は1:1である。以上の事から、窒素および アルゴンは下地のhexagonの配列と密接な関係を持って 吸着していると考えられる。

      

   1.42A       e

  →卜 ←4・26A→

  ね 2A6A

%勇〜iブ

     一一一一一:W一 一. 一一一一一一W一 一・一一一一一(1120)

Fig.5 Arrangement of adsorbed molecules on basal plane of    graphite.

 黒鉛べ一サル面を構成している単位のhexagonの面積

はFig.5に示す様に5.23【A 2】(1【A】=O.1【nm】)であり、

窒素の分子断面積は16.2【A2】であるので、べ一サル面に 吸着した窒素分子は一つのhexagonを完全に覆ってしま い、且つ隣接するhexagonの中に少しはみ出る。理由は 後述するが、ここではKjems ¥の

論文12)にあるのと同様に、一個 の窒素分子は三つのhexagonを覆

うと考える。そうすると5.23[A2】

x3=15.7[A2】≒16.2[A2】なので、

液体窒素中で球形と仮定した窒素 分子が最密充填構造を取る際に割 り当てられた分子断面積の値15)

にほぼ等しくなる。尤も、本報の 目的とするところは分子断面積の 絶対値を決める事ではなく、窒素

とアルゴンの両分子が同一のサイ トに吸着する事を示すことに在る ので、とりあえず窒素分子が三つ のhexagonを占有していると考え る事の正否はここでは大きな意義 を持たない。

 さて、16.2[A2】という窒素分子 の分子断面積からEmmettとBru・

nauerの方法15)で逆算した同分子 の半径は2.16【A】である。hexagon の一辺を形成しているC−C結合 距離が1.42[A】なので、hexagon

(a)

o.ooe

上の窒素分子は(2.16・L42)IA]=・O.74【A]だけ隣の hexagonの中に入り込む。この値は1.42[A】の半分より も4,2%程大きい。窒素分子がFig.5に示す様に配列する ためには、同分子は少し縮小化していなくてはならない だろう。KoreshとSo」晩rによれば16)電場中に在る吸 着分子のサイズは少し小さくなる。窒素はこのとき、す ぐ後で述べる様にhexagonの強い電場内に在るので、幾 分か縮小していると考えて良いだろう。ところで、窒素 分子は永久的に核四重極を持ち17)、分極率が1.76【A31

(窒素分子はellip80id型なので、この値:は平均値であ る)18)と比較的大きい。そのためhexagon中のπ電子 と引力的相互作用をするので、窒素分子はhexagonの真 上の位置に吸着する。黒鉛のいわばプUトタイプとも言 えるベンゼンは永久双極子モーメントを持っていないが 核四重極モーメントを持ち、これがカチオンーπ相互作 用の主要な原因であるという報告もある19)。そして、

Fig,5に示す様に吸着窒素分子が占有しているhexagon の周囲のhexagon上に同様の配置で他の窒素分子が吸着 する。その結果、べ一サル面上にはf3構造が形成され

ると考えられる。

 一方、アルゴン分子は、上と同様の方法15}で計算し た分子半径が2.00〔A】なので、幾何学的には吸着アルゴ ン分子が三つのhexagonを占めると考えて差し支えない。

しかし、アルゴンの分極率は1.63【A 3】iS)であり、窒素

のそれ程には大きくない。従ってhexagonとの相互作 用は窒素程強いものとも思われないが、著者は次の2点 から、アルゴン分子もhexagonの中央に吸着しており、

窒素の場合と同様、吸着アルゴン分子もべ一サル面に対 してf3構造を取って配列すると考えている。まず、① AvgU1等の報告2。)によれば、吸着アルゴン分子は hexagonの中心に在るときが、他の場所に在るときより

も2.7[kJ/mol]だけ安定化する。②プリズム面に在る表面 官能基は黒鉛の様な巨大な二次元芳香環縮合体中のπ電 子密度の変化を引き起こす。著者が、ヒュッケル分子軌 道法を用いて計算したベンゼン21)とカテコール22)、ナ フタレン21)と2,3。ナフタレンジオール22)のπ電子の

:[:,O:( ::1::,O

    o.ooo

o.ooo

e.ooo

Fig.6

  〈c>

一〇.OOI 一〇.DOI   +o.ooi

  +O.OOI

−0.eOl     噸0.001

一〇.028

一〇.028

o.ooo

o.ooe

 (b)

一e.041

一〇.041

一〇.ooe

一e.oeg

一〇.009

一〇.ooe

+O.009

+O.009

(d)

+O.060

+O.060

一・

n.OS3

一〇.Qll

一e.oll

一〇.053

+O.02fi

+O.026

+O.057

+O.057

Formal charge calculated by using n 一electren denBity. Open circle: oxygen atO叫  fi皿ed one:ca貢)on atom.

(a)benzene, fo)catecbol, (c)naphthalene, (d)2,3−naphthalenediol.

一 133 一

(4)

津山高専紀要第41号 (1999)

局在によって生じる形式荷電はFig.6に示す様になって いる。著者の計算精度は良くないが、hexagonの隣り合 う炭素原子にヒドロキシル基が存在すると大幅に表面電 場が変化する事がわかる。黒鉛では末端に種々の官能基

を持った二次元巨大分子即ちhexagon縮合体がvan der WaalS力によって。軸方向に幾重にも重なっている。そ れぞれの二次元巨大分子内で生じたこの種の電場は相互 に影響しあって強め合い、黒鉛べ一サル面の電場を形成 するであろう。上の計算例は、表面官能基の結合形式の 一例に過ぎないし、またhexagonの個数も極めて少ない が、これらの事から上述の様に判断できる。

 BET比表面積は単位質量当たりの単分子吸着量に、吸 着温度における、その吸着分子の分子断面積を乗じて決 められる。分子断面積は、通常その気体の凝縮状態にお いて、その分子が球形で且つ最密充填していると仮定し て算出されるが、この際に吸着層は下地の吸着媒表面の 原子配列に全く影響を受けずに最密構造をとっていると いう暗黙の了解がある。ところが、いま、窒素分子とア ルゴン分子(前者の方が分子径は大きいと考えられてい る)が同じサイトを占めるとあれば、アルゴンを用いて BET比表面積を測定する場合には、アルゴン分子に窒素 分子と同じ分子断面積を割り当てておかねばならない。

この種の議論は長年なされて来ている。例えば、18mail が、黒鉛化されていないカーボンブラックもしくは賦活 されたカーボン上のアルゴンに割り当てた15.7[A2】23)

は窒素分子の分子断面積16.2【A2]に極めて近い。また、

KoreshとSoffer24}が分子フルイのカーボンへの窒素と アルゴンの吸着速度の測定から、この吸着媒の上で両者 はほぼ同じ断面積をとる事を示している。そして、興味 ある事に、これらの炭素材料は一般に黒鉛よりも高い表 面官能基濃度を持っているのである。

4 結  論

 天然黒鉛上の窒素とアルゴンの液体窒素温度における 物理吸着において、単分子層が完成するあたりの吸着サ イトは同一であると結論される。異なる物性定数を持っ ている2種の気体にその様な吸着を可能とさせるのは主 として黒鉛プリズム面に存在している表面官能基である。

官能基の電子供与性あるいは電子吸引性がべ一サル上中 のπ電子密度を変化させ、吸着分子の持つ永久的な核四 重極や誘導分極などによって、黒鉛と窒素あるいはアル ゴンが引力的相互作用を行うものと考えられる。

のPrivate communications:W.M.( roldberger, DirectOr  of Research & Development in the Superior Graph−

 ite Co., gave to the author the letter where the fol−

 lowing paper was enclosed; that is  Compaction of  Natural Graphite  written by S.M.K{,mbering and  RLWallcer, Jr.; the fact cited here was shown there−

 in.

8)T,Morimoto, K.Miura; Langmuir, 1, 658(1985).

9)H.P, Boehm, E,Diehl, W.Heck, RSappok; Angew.

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10)KMiura, T.Morimoto; Langmuir, 7, 374(1991).

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15)P.H.Emmett, S.Brunauer;J.Am. Chem.Soe., 59, 1553  (193 .

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文  献

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2)三浦和久;津山工業高等専門学校紀要,第38号,11(1996),

3)L.G.Joyner, RH.Emmett; 」.Am. Chem.Soc.,70, 2353  (1948).

4)C.Pierce, B.Ewng J.Am. Chem.Soc., 84, 4070(1962),

5)C.Pierce, B.Ewing; 」.Phys. Chem., 68, 2562(1964).

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 335.

一 134 一

参照

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