著者 加賀山 茂
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 34
ページ 129‑132
発行年 2018‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/00003439
不当利得法革命
名古屋大学名誉教授・明治学院大学名誉教授 加賀山㻌 茂
2017/6/28 Art.707 1
目次
不当利得に関する学説の対立
(公平説 vs. 類型論)
不当利得法の共通理解
民法703条・704条位置づけ:一般不 当利得
不当利得の要件:
「法律上の原因を欠く」こと
民法707条の法的性質
民法707条1項は,非債弁済の規定 か?
民法707条2項は,法律上の原因を 欠いているか?
法律上の原因のある不当利得の例
侵害不当利得
民法191条(不法行為なのに不当利得)
民法248条(法律上の原因があるのに703条)
多数当事者間不当利得
即時取得における真の所有者と非処分権利 者との間の不当利得(不動産取引との対比)
債権の準占有者に対する弁済における債権 者と債権の準占有者間の不当利得(法の不 備)
結論(共通理解の破壊:不当利得法革 命)
箱庭理論の位置づけ:新公平法
公平に基づく不当利得法の体系
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不当利得に関する学説の対立
公平説
不当利得法は,形式的・一般的には 正当視される財産的価値の移動が,
実質的・相対的には正当視されない 場合に,公平の理念に従ってその矛 盾の調整を試みる制度であるとする 説(我妻,松坂,谷口ほか)。
類型論
不当利得一般というものは存在せず,
現実の法現象としての不当利得は,
常に個々の法律関係の場で生じる。
具体的には,「契約の場で生じる」不当利得返還請 求権(給付不当利得)と,「所有権の場(所有・非所 有の対抗関係の場)で生じる」不当利得返還請求権
(他人の財貨からの不当利得)とをその中心に考察 すべきであるとする説(川村ほか,広中,鈴木,好美,
四宮,沢井,土田,内田,藤原など)。
箱庭理論(法体系投影説)
「法律上の原因」を,財貨移転・帰属を基礎づける法 律関係(全実定法体系)と捉え,その陰にある「法律 上の原因を欠く」場合の法律関係について,全実定 法を考慮しつつ,財貨移転・帰属の矯正するのが不 当利得の制度であると解する設(加藤雅信)。
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不当利得法における共通理解
第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務に よって利益を受け,そのために他人に損失 を及ぼした者(以下この章において「受益 者」という。)は,その利益の存する限度に おいて,これを返還する義務を負う。
第704条(悪意の受益者の返還義務 等)
悪意の受益者は,その受けた利益に利息 を付して返還しなければならない。この場 合において,なお損害があるときは,その 賠償の責任を負う。
民法703条,704条の位置 づけ
民法703条・704条は,不当利 得法において,一般不当利 得法としての地位を占める。
「法律上の原因なく」の位置 づけ
「法律上の原因なく」という要 件は,不当利得法における 返還請求権の必要不可欠の 要件である。
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一般 不当 利得
民法703条,704条 盲点となっている民法707条
-フランス法期限であることもあって,研究が進んでいない-
不当利得法革命
加賀山 茂
①Aが錯誤によりBへ弁済
②善意のBが 証書を毀滅等 したため,債 権の行使が できない。
③給付不当利得の否定
(民法707条1項) 債権者B 第三者A
(損失)
債務者C
(利得)
第707条(他人の債務の弁済)
•①債務者でない者が錯誤によって債 務の弁済をした場合において,債権 者が善意で証書を滅失させ若しくは 損傷し,担保を放棄し,又は時効に よってその債権を失ったときは,その 弁済をした者は,返還の請求をする ことができない。
•②前項の規定は,弁済をした者から 債務者に対する求償権の行使を妨 げない。
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民法707条の立法理由(1/2)
(理由)
本条は,既成法典財産編第365条第2項及び第3項に 聊か修正を加へ,不当弁済取戻の例外を規定せり。
蓋し,債権者は,債務者以外の者より弁済を受くるこ とを得るは固より法律の認むる所なれば,債務者に非 ざる者が錯誤に因りて債務の弁済を為し,之れが為 めに債権者に損害を及ぼすことを得ざるは当然の事 たるべし。
而して,既成法典は単に債権者が善意にて証書を毀 滅したる場合に於てのみ弁済の取戻を許さずと規定 すと雖も,頗る狭きに失して債権者の保護に欠くる所 ありと云はざるべからず。
旧民法 財産編 第365条
①弁済を受けたる者が債権者なるも,
債務者に非ざる者より之を受けたると きは,弁済者が錯誤にて弁済を為し たるときに非ざれば,其取戻を許さず。
②債権者が弁済を受けたる為めに,
善意にて債権証書を毀滅せしときも 亦,其取戻を許さず。
③右二箇の場合に於て,弁済者が事 務管理の訴権に依り又は代位弁済 の規則に依り,真の債務者に対して 有する求償権を妨げず。
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民法707条の立法理由(2/2)
(理由)
何となれば債権者が弁済を受けたるか為め以後其債権を行使せずして時 効に係らしめたる場合の如き,或は,担保の不必要を認めて之を放棄した る場合の如きは,債権者の利害に取り,証明の方法たる証書を毀滅したる 場合と其間に差別を立つべき理なければなり。
故に本案は,既成法典第365条第2項に右二個の場合を増補して,本条第1 項の規定を設け,債権者の保護を全からしめたり。
其他,本条第2項は既成法典同条第3項と同一にして,既成法典の如く求償 権行使の方法を明示するは其必要なきに因り,之を刪除したるに過ぎず。
2017/6/28 Art.707 9
民法707条の源流(フランス民法典1377条)
第1302-1条(旧 1376条)
支払うべきでない 物を錯誤により又 はそれを承知の 上で受領した者 は,不当に受領し た物を義務を負 わずに支払った 者に返還する義 務を負う。
第1302-2条(旧1377条)
①錯誤又は強迫によって他人の債務を弁済し た者は,債権者に対して返還請求をする権利 を有する。ただし,債権者が支払いを受けた後 に,その証書を廃棄したとき,または,その債 権を担保する担保を放棄したときは,この権利 は消滅する。
②第1項ただし書きの錯誤によって債務者が 債務を免れた場合には,弁済者は,その債務 者に対して返還を請求することができる。
2017/6/28 Art.707 10
フランスにおける一般不当利得法の制定
フランス民法典第1303条
〔事務管理・非債弁済以外の正当化されない利 得(一般不当利得)〕
事務管理及び非債弁済以外において,他人の損 失において正当化されない利得(enrichissement injustifié)を得た者は,利得と損失のうちの少ない 方に等しい価値の補償を損失者に対してしなけれ ばならない。
2017/6/28 Art.707 11
民法191条の侵害不当利得
第191条(占有者による損害賠 償)
占有物が占有者の責めに帰すべき 事由によって滅失し,又は損傷した ときは,その回復者に対し,悪意の 占有者はその損害の全部の賠償を する義務を負い,善意の占有者はそ の滅失又は損傷によって現に利益 を受けている限度において賠償をす る義務を負う。
ただし,所有の意思のない占有者は,
善意であるときであっても,全部の 賠償をしなければならない。
民法191条1項の善意占有者
不法行為の要件を満たしている。
本来なら善意占有者は,損害全額 について,賠償責任を負うべき。
しかし,法は,善意の占有者を保護 するため,侵害不当利得として,民 法703条の適用にとどめている。
民法191条1項の悪意の占有者
不法行為の要件を満たしている。
しかし,善意占有者の保護との対比 で,民法704条を適用したのと同じ結 果を生じさせている。
2017/6/28 Art.707 12
民法248条の侵害不当利得
第248条(付合,混和又 は加工に伴う償金の請 求)
第242条から前条まで
〔添付〕の規定の適用に よって損失を受けた者は,
第703条及び第704条〔一 般不当利得〕の規定に従 い,その償金を請求する ことができる。
法律上の原因がある不当利得
民法248条における「損失者」は,
民法242条~247条という法律上の 原因によって損失を受けている。
民法242条~247条は,添付による 所有権の取得者を過剰に保護して いるという意味で,不備のある法 律である。
そこで,立法者は,法の不備を認 め,法律上の原因があるにもかか わらず,不当利得を認めている。
2017/6/28 Art.707 13
代 金 支 払 い
②売主の 担保責任
(民法561 条以下)
①所有権に基づく 目的物の返還・追奪
他人物の 所有者A 買主B
他人物の 売主C
同意のない他人物(不動産)売買の法律関係
2017/6/28 Art.707 14
代 金 支 払 い
②売主の 担保責任
(民法561 条以下)
×
①所有権に基づく 物の返還・追奪×
他人物の 買主B
(即時取得)
所有者A
(損失)
他人物の 売主C
(利得)
同意のない他人物売買(即時取得)と不当利得
2017/6/28 Art.707 15
弁 済
②給付 不当利 得に基 づく返還
請求
①債権 債務者
B 債権者
A
弁済受領者 C
債権の準占有者以外の者に対する弁済
2017/6/28 Art.707 16
弁 済
②給付 不当利 得の請 求×
①債権×
弁済による消滅
債務者 B 債権者
A(損失)
弁済受領者 C(受益)
債権の準占有者に対する弁済
2017/6/28 Art.707 17
衡平等の法原理を含めた全法規範
¬(全実定法体系)=箱庭
(境界が不明確)
全実定法体系
(境界が明確)
「箱庭説=法体系投影理論」の位置づけ 衡平・法原理との境界があいまい(論理分析)
《陰》
《陽》
2017/6/28 Art.707 18
一般不当利得法の制定の提言
民法702条の2(一般不当利得)
(法律上の原因を含む)正当の原因なく して,他人の損失よって利得をした者(利 得者)は,その利得をその他人(損失者)
に返還しなければならない。
2017/6/28 Art.707 19
不 当 利 得
一般 不当利得
民法703条の背景にある公平の原則 正当の原因なく,他人の損失によって利得した者 は,利得をその他人に返還しなければならない。
特別 不当利得
給付 不当利得
肯定 民法703条,704条,
121条ただし書き 否定 民法705条,706条,
707条1項,708条 侵害
不当利得
民法189~191条,
民法248条 支出
不当利得 民法196条,707条2項
2017/6/28 Art.707 20