国際商品協定 の政治経済学
森 田 憲
は じめに
本稿 は,国際商品協定 を国際政治経済学 の視点か らとらえてみよ うとす る試 みであ る
。筆者 は,先 に
,[10]において国際商品協定 を経済学 の立場か ら分析 し,[
11]において社会学 ( 経済社会学) および人類学 ( 経済人類学) を援用 して位置づ けるよ う試 みた。本稿 は,したが って,それ らの続編 と言 うべ き性格 の もので ある
。本稿 で も,また
[10]および [
11]で も設定 されている問題 は,国 際商 品協 定 の存在理由 はいったい何か とい うこと,および国際商品協定 の運営方式 の分 析を通 じて,国際商品協定 を効果的に機能 させ る方策 は存在す るのか ど うか, 存在す るとすればそれ はどのような方策 なのか,とい うことである
。そ う した 二つの問題 を視野 にいれて,[
11]では,経済学,社会学 および人類学 の枠組 み の対応関係を検討 し効果的な運営方式 を模索 した。本稿 はそ うした対応関係 を 国際政治経済学 の領域 に拡大す る試みにはかな らない。
実 の ところ,国際商品協定 は
,1970年代初頭か ら
80年代初頭 にか けて活発 に 模索 された試みだが,その後,南側発展途上諸国の累積債務問題 の深 刻化 とと もに後退 してい った感がある。 しか し,南側諸国の経済問題 に南北間の協定 を 通 じて対処 していこうとす る国際商品協定が,南北問題 の重要 な位置を 占め る
という事情 は依然 として変わ っていない。
他方,本稿で分析用具 として とり上 げる国際政治経済学 は
,1970年 代後半 以 降,国際 レジ‑ム論 を中心 に急速 に関心 が高 ま り発展 した分野である。 その大 きな理 由のひとつ は,国際 レジーム論が
,1960年代後半か ら覇権 国 ア メ リカ合
〔23〕
衆国の相対的国力が低下 し,それにもかかわ らず国際的秩序 は崩壊す る ことな く保たれている,その理 由を説明す る分析用具だか らである
。す なわ ち,国 際 レジーム論 は国際秩序 の存在理 由を説明す る枠組みの模索 にはかな らない。
そ して言 うまで もな く,国際商品協定 はひ とつの国際 レジームであ る。 国際 商品協定 の存在理 由を問 う問題 に国際 レジーム論を適用 し検討 してみ ることは 有意義 な試みであるよ うに思われ る
。以下,本稿 は第 Ⅰ節で,国際 レジーム論 について簡単 に述 べ,整理 ,分類 を 試み る
。次 いで第 Ⅱ節で,社会学 および人類学 の類型 との対応関係をみ る こと に し,第 Ⅱ節で,国際商品協定 の諸方式 との対応関係 を検討す る
。そ して最 後 に第Ⅳ節 で,そ うした検討 を踏 まえて国際商品協定 の諸問題 を政治経済 学 的分 析 を中心 に考えてみ る。
Ⅰ. 国際 レジーム論
Ⅰ‑ 1.
国際 レジームの整理
改めてい うまで もな く,現在国際政治経済学 の領域 由 まさまざまな考 えが混 在 してお り,広 く共通す るフレームワークを提出 してみ ることは困難 で あ る
1)。 政治 と経済 に対す る比重 の置 き方,国内要因 と国際要因 の重視 の仕方等 によ る 変異が存在す る
。本稿で はさまざまな国際政治経済研究 の枠組 みの うち,「国際 レジー ム論」
と呼ばれ る考 え方 に焦点 をあて ることにす る
。それは,本稿 の分析 目的 か らみ て 「中心国一周辺国
」とい うフ レームワークで国際 システ ムに接近 す る,
A.G.
フランク
(A.G.Frank)や Ⅰ .ウォー ラーステ イン ( Ⅰ
.Wallerstein)等 の 「 従属論」 の系譜 に属す る見方で は,国際間のシステムに比重 がおかれす ぎ
1 )たとえば,高坂正轟は,「 国際政治経済現象の理解は,やや高級な常識と思 ってもら えればよい。‑・ 柔軟で健全な常識を働かせれば大概のことは分かる。それを蓄積 し ていけば,自分なりの国際政治経済観ができるのである」と述べている ( 高坂 ・公 公文
[6]はしがき) 。なお,国際政治経済という領域の分類およびその位置づ桝 こ
?いては,末内啓子
[22]が有益である ( ちなみに,末内は
[22]で国際政治経済
学という呼び方をしていない) 0
国際商品協定の政治経済学
25て不都合 だか らである。 また,S. ス トレンジ
(S.Strange)や
R.K.ア シュレ‑
(氏.K.As hley)のいわゆる 「ポ リテ ィカル ・エ コノ ミー」 の系譜 に属 す る見方で は,( 少 な くとも現在 の ところ)視点が広範 にな りす ぎて国家 と国 際 システムとの関係が十分 にと らえきれない とい う難点が存在す ると思われ る か らである。
とはい って も 「国際 レジーム
」とい う概念 の定義 もまたさまざまである。
た とえば , 「諸国家 によって受容 されている,相互期待,ルール,規制,計画, 組織的および金融的依存関係 のセ ッ ト」2 )で あ るとか , 「国際関係 の あ る領域
に,行為主体 の期待 が収赦 してい くよ うな,暗黙 あ るい は明示 的 な,原則,規 範,ルールおよび ( 意思決定形成)手続 きのセ ッ ト」3 )で あ る,とい った具 合 である
。コへイ ンによると , 「国際 レジームの概念 が複雑 なの は,四 つの相 異 な る構成要素すなわち原則,規範 ,ルールおよび ( 意思決定形成)手続 きによっ て定義 され るか らであ る
」 4)とい うことになる
。しか し,本稿で分析対象 としているのは,国際 レジームの定義 それ 自体 で は ない。 したが って,当面,国際 レジームとは,原則 ,規範,ル ール,( 意思 決定 形成)手続 きのセ ッ トが存在 し,行為主体 の期待 ・行動 に或 る収数が認 め られ
るような枠組み,とい うふ うに定義 してお くことに しよ う
。本稿 の分析 目的か らみて,本節 で検討すべ き主要 な問題 は,国際 レジームに はどのよ うな類型 が存在するか とい うことであ る。 そ して第Ⅳ節 の参考 のため に国際 レジームはどのよ うに変容す ると考 え られているか,をみてお くことで あ る
。国際 レジームの類型を見つ けるには,レジームの性質 を分類す る基準 とな る 軸が必要である。
現在の国際 レジーム論 に拠 って立っ とす ると,そ うした軸 のひとつ は レジー ム形成 に導 く利益 の性質 であ り,軸の もうひとつ は レジーム形成 に導 く必要性
2)Ruggie[17].
3)Krasner[7].
4)Keohane[5].
の性質であるよ うに思 われ る。
国際 レジーム形成 に導 く利益 の性質 に関す る議論 とは次 のようなものである
。現実主義 の見方 によると,国家 は自律 した存在であ り,個別利益
(selfinterest)にもとづ いて行動す る
。そ して国家がそれぞれ独立 に持つ個別利益 にもとづい て国際 レジームが形成 され る,とい うことにな る
5)。それ に対 して,制度主義 の見方 によると,国家間の相互依存関係 か ら ( 何 らかの理由にもとづ いて) っ くり出 され る制度的枠組 みおよびその供給す る共通利益
(sharedinterest)が 重視 され,共通利益 に もとづ いて国際 レジームが秩序 を供給す るとい うことに なる
。しか し,制度主義 の見解 で は,レジームが維持 ・存続 され る理 由 は説 明 で きて も,なぜ レジームが形成 され るのか,そのメカニズムは何 なのか必 ず し
も十分 に説明で きない。 また現実主義 の見解で は,レジームが形成 され る理 由 は説明で きて も,なぜ レジームが ( 長期間にわた って国際政治経済 に秩序 が存 在 していた とい う意味で)維持 ・存続 され るのか,どのようなメカニズムに も
とづいて個別利益がそ うした機能 を はた してい くのか必ず しも十分 に説明で き ない。 そ こで,機能主義 の見方 は,国際 レジームの形成 に際 して は現 実主義 の 見方 を採用 し,国際 レジームの維持 ・存続 に際 しては制度主義 の見方 を採用 し て両者 を統合す るとい うものである
6)0図‑
1:囚人のディレンマのケース
行為主体
B行為主体
A5)
た とえば
Stein [21 ]参照。
6)Keohane[5
] とくに
chap.5および
6参照。
国際商品協定 の政治経済学
27本稿 は,そ うした性質 の議論 に深 く立入 らない。国際 レジームの形成 お よび 維持 ・存続 には個別利益 と共通利益 とが,それぞれの見方 に従 ってそれぞれ異 な った程度で重視 され るとい うことを確認すればよい。本稿 の分析 目的か ら見 て重要 なのは,国際 レジーム形成 に導 く利益 の性質 は個別利益 と共通利益 だ と いうことである
。これが国際 レジームの類型 を見っ けるための分類基準 となる 軸 のひ とっである。
レジーム形成 に導 く必要性 の性質 に関す る議論 とは次 の よ うな もので あ る。
「囚人 のディレンマ」型 の仕組みは図
‑1のよ うな ものであ る。 有名 な囚人 の デ ィレンマのス トー リーを ここで述べ ることは しないが,そのエ ッセ ンスは要 す るに,行為主体
Aにとって は
Bの行為 が
Blの ときには
4> 3とな って
A2が 選好 され,
B2のときに も
2> 1とな って
A2が選好 され る
。行為主 体
Bに と っ て は
Aの行為が
Alの ときには
4> 3とな って
B2が選好 され
,A2の ときに も
2> 1
とな って
B2が選好 され る
。すなわ ち,行 為主体
Aは個別利 益 に もとづ い て行動すればつねに
A2を選好 し
,行為主 体
Bは個別利益 に もとづ いて行動 す ればつね に
B2を選好す る。 したが って個別 利益 に もとづ いて行動 す れば,つ ね に
(A2,
B2)が均衡 とな り,その際の利益 は
(2,
2)である
。しか し社会 全体 と して もまた行為主体 にとって も明 らか に,(3 ,3) とな る
(Al ,
Bl)の方が利益が大 きい。 このよ うな状況で,囚人 のデ ィレンマの均衡
(A2,
B2)か ら脱 け出すために,あるいは陥 らないために,明 らか に利益 の大 きい
(Al,
図
‑2:共同回避のケース
行為主体
B行為主体 A
Bl)
に到達す るために,国際 レジームが必要 になるとい うことであ る
.そ うで はな く 「 共同回避」型 の仕組 みは図
‑2のような ものであ る
。ここで もェ ッセ ンスのみを述べ るに とどめる7 ) 。行為主体
Aにとって は
Bの行為が
Blの ときには
4> 2とな って
A2が選好 され
,Bの行為 が
B2の ときには
3> 1と な って
Al が選好 され る
。すなわち
,Blの ときには
A2であ り
,B2の ときには
Alである
。行為主体
Bに とっては
Aの行為が
Alのときには
4> 2とな って
B2が 選好 され,
Aの行為が
A2の ときには
3> 1とな って
Bl が選好 され る
。す なわ ち,
Alの ときには
B2であ り,
A2の ときには
Bl である
。行為主体
A,
Bが個 別 利益 に もとづ いて行動す る結果
,(Al,
B2)あるいは
(A2,
Bl)の どち らかが 実現す る
。したが って この とき
,(Al,
B2)と
(A2,
Bl)とが兄の確率で起 こ
るような レジームを導入すれば,
A,
Bとも%の期待利益 を得 ることができる。
そ うした期待利益 を獲得す るために,
Aと
Bは協力 して レジ‑ムを導入 す る と い うケースであ る。
囚人 のデ ィレンマ型 の仕組 み と共同回避型 の仕組みの主要 な相違 は,前者 が
「 非協力 2人 ゲーム」 と呼ばれ,後者 が 「 協力 2人 ゲーム」 と呼 ばれ て い る通 り,自発的協力が存在 しうるか どうか とい う点である。 それは言 うまで もなく, 前者 のケースで は,個別主体が個別利益 を追究すればパ レー ト最適でな い一意
の均衡点 に到達す るか らであ り,後者 のケースでは,一意 の均衡点が存在せず, 協力を通 じてあ る■ レジームを導入すれば期待利益を大 きくす ることがで きると 考 え られ るか らで ある。 したが って,囚人 のデ ィレンマ型 は個別利益 を追究 す
れば明 らかに共通利益 と帝離す るケースであるのに対 して,共 同回避型 は個 別 利益 の追究 と共通利益 の実現 とが帝離 しないケ‑スであると言 え る。
この ことは,共 同回避 に該当す るケースの方がルールの設定 にな じみやす く, 囚人 のデ ィレンマに該当す るケースの方 が統一 したルールに到達す るのが難 し い ことを意味す る
。本稿で は,そのよ うな共同回避型 のケースをルール整合的
7)Stein [2
1
]pp.125‑127参照。 なお
,[21 ] には共同回避 の うち ここで述べ る
"divergentinterests"
ケースのはかに,
"commonindifference"ケースが述べ
られている。ただし,ここでは前者のみで十分である。
国際商品協定 の政治経済学
29と呼び,囚人 のデ ィレンマ型 のケースをルール対立的 と呼ぶ ことに しよう
.た だ し,ルール対立的 とは決 して行為主体がルールを敵視す ると言 うことで はな く,統一 したルールに到達す ることが相対的 に難 しいとい うことを意味 して い る
。本稿 はここで も,そ うした 「ゲーム」 の ( 行為が繰 り返 し行われる場合等の) 性質 の検討 には立入 らない。本稿 の分析 目的か らみて重要 なのは,国際 レジー
ム形成 に導 く必要性 の性質 には,大別 してルール整合的なケースとルール対立 的なケースが認 め られ るとい うことである,これが国際 レジームの類型 を見 つ けるための分類基準 とな るもうひとっの軸である
。ところで,国際 レジーム形成 に伴 う利益 は もう少 し焦点を絞 り特定化 した い くつかの性質 を摘 出す ることがで きる
。ここでその点 につ いて簡単 にふれてお こう。本稿で摘 出 しておきたい,また現在 の国際 レジーム論 か らみて標準 的 な ( 特定化 した)利益 の性質 は次 の四つである。
第 1の性質 の利益 は,不確実性を軽減す る効果である
。国際政治経済学 の議 論 は しば しば後 でふれ る取引費用低下効果や情報収集費用低下効果 とこの効果 とを峻別 しないが ( そ して分析 目的 によって はそれ で十分 だが),本 稿 で は峻 別 し,不確実性軽減効果 の性質 をはっきりさせてお く必要があるだ ろう
。国際 レジームに伴 う不確実性軽減効果 の性質 をみるには,その典型的なケース 「保 険 レジーム
」 8)についてみ るのが便利であるO保険 レジームの事例 はた とえ ば ロメ協定 の備 えている
STABEXスキーム ( 輸 出所得安定化 スキーム)であ る。すなわち,何 らかの予 め予測で きない事情で発生す る,輸 出所得 が大 幅 に 低下す るような危険 に備えて,資金 を拠 出 しあ って プールす る仕組 みを組 み込 んでお くことである。外生的諸要因 による予測困難 な衝撃 を緩和す る機構 を通 じて共通利益 を供給 し,個別主体 の期待利益 を増大 させ る効果が,不 確実性軽 減効果である。
第
2の性質 の利益 は,情報収集費用 を低下す る効果である
。レジームが情報
8)Keohane[4]pp.167‑170
および
[5]p.193参照。
収集費用を低下 させ利益 を もた らすのは主 として次 の二つの経路 を通 じてであ る
。ひ とつ は,レジームのなか に情報収集 ・分析 ・提供を行 な う組織が備 え ら れ,それによっで情報 にかかわ る機能 が向上 してい くとい う経路である
。もう ひとつ は,レジーム形成 によ っで情報 の非対称性が除去 され,それ によ って国 家間の交渉や取 引が頻繁 にかつ円滑 に行 なわれ るようにな って,協定や取 引の 締結 を促進 させ るとい う経路 である9 ) 0
第
3の性質 の利益 は,安定性 を導入す る効果であ る。すで にみた よ うに, レ ジームの標準的な定義 は原則 ,規範,ルール,( 意志決定形成)手続 きのセ ッ ト が存在 し,行為主体 の期待 ・行動 に収数が認 め られ る枠組みだか ら, レジー ム は原則やルール等 を備 えているはずである
。利益 の第
3の性質 の安定性 は,こ の期待や行動 を収敦 に導 く機構 に関連 している
。すなわち,レジームの原 則 や ルール等 に対す る違反 や破壊 が他国の報復 をまねいた り,当該国の国際的信 用 を低下 させた りす ることによ って,当該国 に損失を もた らす と期待 され るため に,原則 ,規範 あ るいはルールに向か って期待 や行動 が収赦 してい くのである
。こうした期待 や行動 を収数 に導 く機構 が レジームの安定性獲得効果 にはかな ら
な い。
第
4の性質 の利益 は,取引費用を低下す る効果であ る
。レジームが取 引費用 を低下 させ る利益 を もた らすのは,概 ね次 の二つの効果 による
。ひ とつ は,先 にまたす ぐ上でのべたように,レジームは,原則,規範 ,ルール,( 意 志決定形 成)手続 きのセ ッ トを共有す る枠組 みだか ら,ある特定 の問題領域 につ いて国 家間で交渉が行 なわれ る際,レジームの存在 は原則やルール等 について交渉 す る手間を省 くことを意味す る
.言 いかえ ると,固定費用の部分が レジームによっ て吸収 されているか ら,当諸諸国 は交渉や取 引に要す る限界費用をその分小 さ くす ることがで きるのである
。これが第
1の効果である。第
2の効果は,レジー ムが原則 ・規範等 を供給 しているため,異 なる問題領域 に属する複数のイシュー を リンケージさせ ることが可能 にな るとい うことである。すなわち,もしレジー
9)
周知の通 り,この議論は
Akerlof[1]によって提起された議論に等 しい。
国際商品協定 の政治経済学
31ムが存在 しなければ,当該諸国 の当事者 たちが一つ一つのイ シューを切 り離 し, それぞれ原則 ,ルール等 の交渉か ら開始 しなければな らない. また別 々 に交渉 されたイシューの相互効果を勘案 し,再交渉 を行 な う必要が発生す るか も しれ ない。 そのよ うな手間や無駄 を レジームが吸収す ることによって,当該諸 国 の 交渉や取引に要す る限界費用 を小 さ くす ることがで きる,とい うわけであ る
。これが取引費用低下効果であ る
。先 はど述べた通 り,第Ⅳ節 の参考 のために,国際 レジームはどの よ うに変容 す ると考え られているのか,その標準的な見解 を ここでみてお くことにしよう。
国際 レジームの変容 を説明す る考 え方 は,現在 の ところ三つであると言 って
よ い
10)。第 1は現実主義である。言 うまで もな く現実主義 は個別利益を強調す る見方 である
。したが って現実主義 の見方 に立っ と,個別利益が国力 に結 びつ いて レ
ジームのなかの力の分布 を構成 し,そ して力 の分布が変化す るとレジームが変 容す るとみ るのであ る
。第
2は機能主義である
。レジームの維持 ・存続 したが って変容 に関 して は, 機能主義 は共通利益 に焦点 を合わせている。 したが って機能主義 の見方 に立っ
と,レジームの供給す る共通利益 の性質 と行為諸主体 の選好 によ って,採 用 さ れ る レジームが決 ま りかつ変容 してい くとみ るのである
。第
3は認識論 である
。この見方 によれば,レジームはイデオ ロギーや知 識 に よって形成 され,したが って価値意識 や認識 の変化が レジ‑ムの変容 を導 き出 す とみ るのである
。なお,本稿 で は国際 レジーム変容 の理論 に深 く立入 って検討す ることは しな い。第Ⅳ節でみ る通 り,国際商品協定 の動向を解釈す るのに適用 してみ る とい うにとどまる
。10)
以下のレジームの変容の考え方については,山崎晃義
[24]に負っている。
Ⅰ‑2.
国際 レジームの分類
Ⅰ‑ 1.
で整理 した レジームに関す る性質を準備作業 として,レジー ムの類 型 を見っ けるのが
Ⅰ‑ 2.の目的であ る
。そ して,本節 の検討 はまた第 Ⅱ節, 第 Ⅱ節 の検討 とともに第Ⅳ節 の検討 の準備作業 とな る。
Ⅰ‑ 1.
で検討 した通 り,レジームを分類す る二つの軸 とは,ひ とつ は (レ ジーム形成 に導 く利益 としての)個別利益 と共通利益 の軸であ り,もうひ とっ は (レジーム形成 に導 く必要性 としての) ルール整合性 とルール対立性 の軸で ある
。二つの軸 によって四つの領域がで きあが る
。図
‑3である。 そ して,同 じく
Ⅰ‑ 1.で検討 した レジーム形成 に伴 う四つの利益 の性質 が,四つ の領域 に対応す るので ある
。 Ⅰ‑2.の目的 は,四つの利益 の性質 と四つ の領域 の対 応関係 を見つけることにはかな らない。
図 ‑
3:四つの領域 ルール整合性
共通利益 個別利益
ルール対立性
領域 Ⅰは,個別利益 とルール整合性 に優位 をお く領 域 で あ る。
Ⅰ‑ 1.で み
た四つの利益 のなかで レジームの不確実性軽減効果 は,先 にみた保険 レジー ム
の事例 のように,発生す る可能性 のある危険 に対処す る仕組みを供給 し,それ
によって期待値 で測 られ る個別利益を増大 させ る機能 を持っ ものである。個別
利益 の比重が大 き く, ■ また個別利益 と共通利益が帝離 しない性質すなわちルー
国際商品協定の政治経済学
33ル整合性 を持っ領域 によ くあてはまると言 うことがで きる
。したが って,
不確実性軽減効果 は領域 Ⅰの機能であ る
。領域 I Iは,共通利益 とルール整合性 に優位 をお く領域である
。個別利 益 を追 究す る行動 のみで は費用負担等供給が難 しいケースであ り,かっルール の設定 が個別利益 にもとづ く合理性 と帝離 しないとい う性質をよ り多 く持つ領域であ る。 四つの利益 のなかで この領域 にあて はまるのは情報収集費用低下効果であ ると思われ る
。すなわち,情報 を広 く供給す ることを通 じて レジームのメンバー に共通利益 を もた らす こと,および情報 の非対称性 を取 り除 き交流や取 引を活 発 にさせ ることといった働 きは,ルールの設定 にな じみやす く,かつ個 別利益
と帝離 しない性質 をよ り多 く持つ ものと思われ る
。したが って, 情報収集費用低下効果 は領域 Ⅱの機能である。
領域 Ⅱは,共通利益 とルール対立性 に優位をお く領域である
。個別利 益 を追 究す る行動 のみで は費用負担等供給が難 しく,かつ個別利益 のみで はパ レー ト 最適 でない一意 の均衡点 に到達 して しま うとい う性質 を持つ領域であ る
。した が って共通利益 の供給 は他 に比べて相対的 に困難 な領域 である
。四つの利益 の なかで この領域 にあてはまるのは,レジームの拘束力 による安定性だ と考 え ら れ る。すなわち,個別主体 の個別利益 によって起 こりうる破壊や混乱 に対 して 個別主体が 自発的 に調整 してい くことが難 しく,レジームの形成 を通 じて国際 的信用の低下等損失が発生す る仕組 みを備 えつ け,秩序や安定性 を獲得 して い
くのである
。したが って,
安定性獲得効果 は領域 Ⅱの機能である。
領域Ⅳ は,個別利益 とルール対立性 に優位 をお く領域である。個別利益 に比
較的優位がおかれ るが,しか し個別利益 のみで はパ レー ト最適でない均 衡点 に
到達 して しまい,レジームの形成 を通 じてそ こか ら脱 け出す必要が認 め られ る
領域である
。四つの利益 のなかで この領域 にあて はまるのは,取引費用低下効
果であると思われ る
。すなわち,交渉や財 ・サー ビスの取 引に際 して, レジー
ムを通 じてそのよ うな場が予 め設定 されていた り,イシュー間の関連や財 ・サー
ビスの取引の関連が レジームによって緊密 にで きていた りすれば,個別主体 の
個別利益 をはっきりと大 きくす ることがで きるだろ う
。また二国間で互 いに最 適関税 を狙 って関税障壁 を高めあ うよ うな危険か ら,自由貿易 とい うレジーム を通 じて脱 出す ることがで き取引費用を低 くす ることがで きるよ うな場合が こ のケースにあてはまるので ある。 したが って
取 引費用低下効果 は領域Ⅳの機能であ る。
以上 みたように,個別利益 と共通利益 とい う利益 の軸およびルール整合性 と ルール対立性 とい う協力 ・非協力の軸 によって四つの領域が成 り立 ち, レジー ム形成 に伴 う四つの利益 はそれぞれの優位性 に もとづいて,それ ら四つ の領域 に対応す ることがわか る
。国際 レジームの四つの類型が明 らか にな ったのであ る
。Ⅱ.
他の類型 との対応関係
本節の目的 は,国際 レジームの四つの類型 と,経済学か らみた四つ の不確実 性軽減方策 ,社会学 か らみた四つの機能的緊急事態 ,そ して人類学 か らみ た四 つの交換類型 との対応関係 を検討 してみ ることである
O(ただ し,それ ら一 つ 一つを ここで詳 しく述べ る余裕 はない.詳 しくは
[10]お よび
[11],な らび
にそ こでの参考文献参照)0
Ⅱ‑ 1.
四つの不確実性軽減方策 との対応関係
消費者 および生産者 の行動 において,予想 と現実 とはさまざまな理 由 によ っ て帝離す る。 そ うした帝離 を除去す るのが極 めて難 しいのは,消費者 の噂好 や 生産者 の技術 とい った与件が変化す るか らである
。そのような予想 や計画 と現 実 との不一致 か ら生ず る危険を軽減す る手段が先物市場 である。すなわ ち,先 物市場 とは異時点 に市場 を設定 し,市場での交換 を通 じて環境 に適応
(adap‑tation)
し,直物市場 に発生す るであろう不均衡 を緩和す る方策であ る。 つ ま り,先物市場 は市場 を通 じて不確実性 を軽減す る方策 なのである
。市場 を通 じて不確実性 を軽減す る方策 とは,いいかえると,個別 主体 の個別
利益 を重視 し,先物市場 とい うレジームの共通利益供給機能を通 じて期待値で
国際商品協定 の政治経済学
35みた個別利益を増大 させ るルール整合的な仕組 み,にはかな らない。 したが っ て,前節 の領域 Ⅰにつ いては次 の ことが言 えよう
。領域 Ⅰは先物市場 の機能 に対応す る
。ところで,先物市場 の活用 には,証拠金等費用が必要 となる
。不確 実性 が大 きく危険が大 きい場合 にはとりわけそ うであ る
。そ うした費用負担 を排除す る 方法 と して概ね二つの仕組みが導入 され るもの と思 われ る
。ひとつ は,レジームの供給す る共通利益 に もとづ く方法である。 す なわ ち, 環境 の変化 にかかわ りな く (したが って不確実性にかかわりな く)長期にわたっ
あい たい
て売手 と買手 とが相対 で取引条件 を決 め,レジームを形成す ることによ って, 不確実性 に対処 しよ うとい うものである。 このような仕組み は,売手 と買手 が それぞれの個別利益 の均衡 ( 相互性
,reciprocity)に もとづ いて長 期契約 を 締結 しその共通利益 によって不確実性 に対処 し,それぞれの個別利益 か ら発生 す る恐れのある緊張要因を管理
(tensionmanagement)しなが ら契 約 を履 行
してい こうとす るものである。
このよ うな長期契約 によって不確実性 を軽減す る方法 とは,レジームの供 給 す る共通利益 を重視 し,その もとで共通利益 と雫離 しない個別利益 を増大 させ ようとす るルール整合的な仕組 み,にはかな らない。 したが って,前 節 の領域
Ⅱについて は次 の ことが言え る
。領域 Ⅱは長期契約 の機能 に対応す る
。もうひ とつの仕組 み は,個別利益 を重視す る方法である
。すなわ ち,仮 に長 期契約 を結んで も売手 ・買手 の間 の均 衡
(reciprocity)を保 っ必要 か ら,交 渉 が勝者状態 におちい った り契約が何度 も繰 り返 された り,市場価格 が変動 す るために契約 の存続が脅か され る恐れがある
11)。長期契約 とい うレジームの共 通利益が有効 に働かな くなる場合である。 このよ うなケースで はむ しろ,不確 実性を軽減 し,かつ費用負担 を排除す る仕組 み として,ルール対立 的 だが しか し個別利益 の働 きに委ね る方法 の方が効果的か もしれない。売手 と買手 が,忠
ll)Scherer[18]p.248
参照。
らくはどち らかの働 きかけを きっか け と して,統 合
(integration)され,そ れに伴 って諸種 の資源が再分配
(redistribution)され る ことによ って,不確 実性が軽減 され全体 の利益が大 き くな ることがあ りうる。垂直統合が行 われ る 場合がそれである
。したが って,前節 の領域Ⅳにつ いては次 の ことが言えよう。
領域Ⅳ は垂直統合 の機能 に対応す る。
ここまでの仕組 み は,ルール整合的であ った り,個別利益 の働 きに委 ね た り して レジームが形成 され るといった ものだ った
。しか しそ うではな く,個別主体 の合理的行動 に委ねていたのでは十分 に解決 で きないケースが存在す る。問題 の性質がかな りルール対立的であ り,当局 の 介入 によってそのよ うな事態か ら脱 け出 し共通利益 を獲得す る ( 社会的 目槙を 達成 しようとす る
,goalattainment)必要があるケースである
。当局 が資源 の動員
(mobilization)をはか り不確実性 の軽減 をはか る仕組 み とは,先物市 場,長期契約,垂直統合 に対応 して言 えば,国際商品協定 にはか な らな い。 し
たが って,共通利益が優勢であ りルール対立的な領域 Ⅲにつ いて は次 の ことが
言 え よ う 。
領域 Ⅱは国際商品協定 の機能 に対応す る
。Ⅱ‑ 2.
四つの機能的緊急事態 との対応関係
次 に四つの機能的緊急事態 との対応 につ いて考えてみよ う
。先 に述べた通 り, ここで詳 しくふれ る余裕 はないが,社会 とい う相互依存関係か らな る体系 が崩 壊す ることな く,比較的恒常性 を保 ちつつ存続 してい くための機能 とはい った い何か,とい う問 いに対す る社会学的解答が
AGILと呼ばれ る四つの機 能 的 緊急事態
(functionalexigencies)にはかな らない。機能的緊急事態を最 も巨 視的に表現す ると ,A を受 け持つ下位体系が経済 ,G を受 け持っ下位 体系 が政 治,Ⅰを受 け持っ下位体系が社会的統合,
Lを受 け持つ下位体系 が文 化 で あ る
とい うことになる
。本稿 で焦点 を合わせ るのは経済的機能だか ら,経済的機能 自体を体系 とす る
下位体系 に照準 を合わせ,そのなかの四つの機能的緊急事態 に絞 って考 え るの
国際商品協定 の政治経済学 37 が適当 と思 われ る
。それ らを
AA,
AG,
AI,
ALと呼ぶ ことに しよう
。AA
は,経済 の経常的な生産 の要求 に適応す る機能 で あ り多言 を要 しまい。
言葉 を換 えて言 えば,不確実性 に伸縮的 に適応 しなが ら,効率的 に利潤機会 を 極大化 してい くよ う 「 要請」す る機能 にはかな らない。 したが って,この機 能 の もとで は個別主体 はルールに対 して整合的であり,それに適応することによっ て個別利益 を極大化 してい くよ うな行動 を行 ってい くことになる
。領域 Ⅰは
A機能 に対応 している
。AL
は,体系全体が相互作用 してい くのに不可欠 な,動機 づ けのパ ター ンを 提供 し,維持 し,かつ更新 してい く機能である。 このなか の下位部 門 には,長 期生産力 にたいす る委託 と呼ばれ る,長期的な需要 の変動,市場 構造 の変動等 といった事態 に対 して適応す る機能,個別主体間相互 のつなが りの統合 ・維 持 に髄酷を きたす ことな く運営が行 われ るよう動機づ けや熟練 を供給す る機能等 が含 まれ る
。したが って,この機能の もとで は個別主体 はルールに対 して整合 的であ り,かつ体系 ( すなわち レジーム) の供給す る共通利益 を重視 した行 動 を とってい くことになる
。すなわち,
領域 Ⅱは L 機能 に対応 している
。AG
は,目標達成 を分担す る機能である
。す なわ ち,何 らか の 目標 に もとづ いた政策 を決定 し,( 経済でいえば生産) 目標 を操作 す る機能 を受 け持 って い る
。た とえば価格水準維持 のための生産量規制 とい う目標 をたて,その操作 の ために生産調整を行 ってい くよ うな機能等が含 まれ る
。したが って この機能 の もとで は,個別主体 はルール対立的な状況 で当局が供給す る共通利益 を重視 す るような行動 を とることになる
。すなわち,
領域 Ⅲは G 機能 に対応 している
。AI
の場合, Ⅰは社会的統合 の機能 を受 け持 って お り,その下位体系 と して の
AIは企業家職能 を受 け持つ もの と考 え られ る。 す なわ ち,この機能 のなか には,企業が市場需要 を変 えることによ って生産要素 の使用を再分配 した り, 生産要素 の使用 と需要 とを結合 させ ることによ って結合 の新 しい形態 を導入す
る ( 言 うまで もな くこれ は垂直統合 と呼ばれ る事態 にはかな らない) こと等 が
含 まれ る
。したが って,この機能 の もとでは,個別主体 はルール対立 的で あ っ て も社会的統合 の要請 に従 い,その もとで個別利益を重視 して行動す る ことに な る
。すなわち,
領域 Ⅳ は Ⅰ機能 に対応 している
。Ⅱ‑
3.四つの交換類型 との対応関係
それで は四つの交換類型 との対応 はどうだ ろうか。 ここで交換叛型 と呼ぶの は,A. ボ ランニー
(K.Polanyi )が 「 諸経済を,それ ぞれ の場合 に支配 的 な 統合形態 にそ って分類 」1 2 )した類型 を基 礎 と し,さ らに N.スメルサ ー ( N.
Smelser) [19]が彫琢 を加 えた分析 に もとづ くものである。
その よ うな理 論 の系譜 にそ って言えば,交換類型 の ( 正)機能 は当該社会の構造 に恒常性 を付 与 していると解釈で き,したが ってその類型 の交換が安定的 に行われて い くた めに拠 って立っ要因を見れば,その社会構造,したが って本稿 の表現 に したが えば レジームについての手がか りが得 られ る,とい う考 えによるものであ る
。以下,スメルサーに従 って交換類型 を見 ることに し,対応関係 を検討 して み よ
う 。
第
1の交換関係 は,市場を通 じて交換
(exchange)す る体系である。 この体系 については多 くの説 明 は不要であろ う。当該社会 の構造的安定性 は,市場 の 備 え る調整機能 によって付与 され ることにな る
。そ してい うまで もな く,市場 による交換が円滑 に行 われ る事態 とは,ルール整合的であ り各個別主体 の個 別 利益が重視 され るケースにはかな らない。すなわち,
領域 Ⅰでは市場交換 が支配的 な交換類型 である
。第
2の交換類型 は,互酬
(reciprocity)体系である。互酬体系の もとで は, 交換 は財 ・サー ビスの授受が取 引主体間で 「 釣 り合 う」べ きものであるとい う 漠然 と した原理 に もとづ いて行 われ る。 そ して逆 の表現をす るともし仮に こう した交換が崩壊す るとすれば,それは短期的に起 こるので はな く,個別主体双
12)Polanyi[14
]邦訳
88ペ ー ジ。
国際商品協定 の政治経済学
39方 の価値体系 の共通部分が喪失 されてい くとい うふ うなゆるやかな変動 を伴 う
はずである
。すなわち,価値体系を共有す るとい うふ うな漠然 と した互 酬 の原 理 の存在が,情報収集費用を吸収す る共通利益 を供給 し,ルール整 合 的 な行動
に合致 してい くもの と考え られ る。すなわち, 領域 Ⅱで は互酬が支配的な交換類型で ある
。第
3の交換類型 は,動員
(mobilization)体系である。 この体系 の もとでは, 個別利益 に委 ねていたので はつ くり出せない公共的 目標 が設定 され,そ う した
目標 の遂行 のために当局が資源の動員 をはか るのである
。国民経済 の工業化 に 向けて資源 を動員 し,経済の発展や成長 を はか るといったケースが この交 換 の 例である。 したが って,公共的 目標遂行 とい う共通利益が重視 され,それ は個 別利益 によって は生 み出せないという意味でルール対立 的である
。すなわも,
領域 Ⅱで は動員が支配的な交換類型である
。第
4の交換類型 は,再分配
(redistribution)体系 で あ る
。この体系 は社会 的報酬 の分配方法の制度化 にはかな らない。慈善 とか援助 による財 ・サー ビス の移動 が,制度化 された価値観 ( た とえば
,「 持っ もの」 は 「持 た ざ る もの 」 に分 け与 え るべ きである‑ その ことが社会 を安定的に し
,「持 っ もの」 に とっ ての個別利益 に合致す る‑) を伴 って行われ るのが この体系 にはかな らない。
そ して この類型 の交換 によ って社会 は安定性 を確保で き,さもなければ生 じた か もしれない社会的逸脱 を回避で きることになる
。互酬 の体系 と比較すれば明 瞭なよ うに,この体系で は 「釣 り合 い 」 が原理 と して組 み込 まれているわ けで はな く,そ して個別主体 はルール整合的で はない。 したが って社会 (あ るい は レジーム) の安定性 が個別利益 ( 少 な くともその期待値) の増大 に結 びつ くこ とが必要である。 その意味で,この体系 はルール対立的であ り個別利益 を重視 す るものであるといえる
。すなわち,
領域Ⅳで は再分配 が支配的な交換類型である
。以上本節で は,前節 の領域
Ⅰ〜Ⅳ と,四つの不確実性軽 減方策 ,四つ の機能
的緊急事態,四つの交換類型 との対応関係 を検討 した。 ここで整理 しておこう。
領域 Ⅰ ( ルール整合的で個別利益重視の領域) は,レジ‑ムの不確実性軽減効 果の機能 に対応 し,先物市場 の機能 に対応す る
。そ して A ( 適応)機能 に対応 してお り,交換類型で は市場交換が支配的である
。領域 Ⅱ ( ルール整合的で共 通利益重視の領域) は,レジームの情報収集費用低下効果の機能 に対応 し,良 期契約 の機能 に対応する
。そ して ,L ( 潜在的なパ ター ンの維持および緊張 の 処理)機能 に対応 してお り,交換類型では互酬が支配的である
。領域 Ⅲ (ルー ル対立的で共通利益重視の領域) は,レジームの安定性獲得効果 の機能 に対応 し,国際商品協定 の機能に対応す る
。そ して,
G(目標達成)機能 に対応 して お り,交換類型では,動員が支配的である
。領域Ⅳ ( ルール対立 的で個別利益 重視 の領域) は,レジームの取引費用低下効果の機能 に対応 し,垂 直統合 の機 能 に対応す る
。そ して , Ⅰ ( 統合)機能 に対応 してお り,交換類型 で は,再分 配が支配的である
。Ⅱ. 国際商品協定の諸方式 との対応関係
第 Ⅰ節および第 Ⅱ節で,国際 レジームをその利益 の性質か ら四つ に分類 し, 四つの領域 に分 けた。そ して四つの不確実性軽減方策,四つの機能的緊急事態, 四つの交換類型 との対応関係 を検討 した。
本節 の目的 は,そ うした対応関係 を国際商品協定 の諸方式 との対応 に拡大 し てみ ることである
。まず国際商品協定 の諸方式 についてみてお こう。標準的には三つの方式が用 い られ る。すなわち,(1) 多国間契約方式,(2) 輸 出規制方式,(3) 緩衝在庫 方式,である。 どの方式 もまず上限価格 と下限価格か らなる安定価格帯 を設 け る
。そ して市場で成立す る価格を見守 り,市場価格水準 と安定価格帯の水準 と の間 に帝離が生 じた とき,それぞれの方式が働 き出す。
その価格の帝離を,当局が保有 ・管理す る在庫 の売買 による操作 を通 じて取 り除 き,価格を安定価格帯の水準 におさめようとす るのが緩衝在庫方式である。
この方式 は,直接 の取引に際 して政府が介入す る必要 もまた義務 もないこと,
非加盟国 ( アウ トサイダー) の問題が大 きな障害 にな らないこと等他の方式 に
国際商品協定 の政治経済学
41比べて利点が認 め られ る
。しか し実際には緩衝在庫 の規模 ・ファイナ ンスおよ
び在庫操作 の技術的諸問題 の解決が難 しく , 「 最 も多 く議論 されて最 も少 な く 実現 された方式
」13 )といえる
。緩衝在庫方式 は,これまで,すず協 定,ココア 協定,天然 ゴム協定で採用 されてい るが,すず協定,当初 の ココア協定 で は輸 出規制 と併用 されて使 われて きている
。また価格安定化 の傾向が認め られ国際 商品協定 の成功例 と評価 されていたすず協定 ( ただ し
1985年 の 「すず危機」 に よって崩壊の危機 にさらされた) の場合 に も,実際 には米国の戦略物資放 出行 動 の効果 によるもの と考え られ る1
4)。すなわち,優 れたメカニズムを備 えて い ると評価 され る一方 ,実際に この方式 に拠 って運営 してい くのは必 ず しも容易 でない と思われ る
。さて,市場価格 と安定価格帯 の水準 とが帝離 した とき,輸 出量 (あ るい は生 産量) を規制 して帝離 を取 り除 き価格防衛 をはか ろ うとい うのが輸 出規制方式 であ る
15)。砂糖協定,コー ヒー協定,すず協定 ,ココア協定 等,最 も 「多用 さ れた数量規制方式」1 6 )である
。ただ し,市場価格が価格帯 を上回 った場合 には, 数量規制 の停止 が ほとん ど唯一 の手段であ り,価格 の上限防衛 と下限防衛 は著
しく非対称 と言わざるをえない。 さ らにまた,市場機構 を歪 める とい う こと, 非加盟国の利益 にどう対処す るか とい うこと等諸問題が存在す る。 しか し大 ま かに言 って,これまで国際商品協定 は,事莱上 ,輸 出規制方式 によ って運 営 さ れて きた と考 え られ る
。多国間契約方式 とは,総取引数量 の一部分 を保証数量 と定め,その数量に限 っ て,価格差 を輸 出入国 いずれかが負担 しよ うとす るものである
。市場価格 が上 限を上回れば,その価格差 は輸 出国の負担 とな り,下限を下回れば その価 格差 は輸入国の負担 とな る
。なお,保証数量 に含 まれない部分 は自由な取 引 に委 ね られ る
。この方式 は,1
949年協定か ら
56年協定 まで,および1
959年 協定 か ら
67 13)千葉泰雄
[3]219ページ。 なお国際商品協定 の経緯 お よび現状 につ いて は同書 に
負 ってい る。
14)SmithandSchink [20
]参照。
15)
無論 ,コー ヒー協定 のよ うに原則 と して価格帯 を設 けないケース も存在す る
016)
千葉泰雄
[3]214ページ。
年協定 までの小麦協定 でのみ用 い られた ものである ( 1 971 年以降の小麦協定 は, 価格規定,加盟国の権利 ・義務規定 を備 えていない) 0
千葉泰雄
[3]は,多国間契約方式 は 「 小麦 にか ぎらず将来商品協定 で採 用 され ることはないと考え られ る」1 7 )と述 べている
。この方式 は市場機構 を最 も よ く活か していると言 って よいが,しか しさまざまな技術的条件 ,また市場 を め ぐる経済 的条件が必要 となるか らである
。それだけで はな く,筆者 は
[10]において,国際小麦協定 の経緯 を分析 し,小麦協定 において事実上多国 間契約 方式 が機能 した とみ るのは困難であ り,む しろかな りの期間輸出規制方式 と し ての機能が働 いていた とみるのが妥当で あることを主張 した。
いずれに して も,国際商品協定 における三つの方式 とは以上 のような メカ ニ ズムであ り,上で述べた通 り,実際 には国際商品協定 はその多 くが輸 出規制方 式 によって運営 されていた と理解す るのが適 当であるよ うに思 われる0
それで はそれ ら三つの方式 はどのような基準 に もとづ いて採用 され るのだろ うか。
大 ざ っばに言 って次 の通 りであ ると考 え られ る。
多国間契約方式 は,た った今述べた通 り,市場価格が上限を上 回 るとその事 離分 は輸 出国の負担 とな り,下限を下回 ると輸入国の負担 とな って安定 価格 が 守 られ るとい うものである
。この ことは,価格帯 を外れた水準 の取引に はペナ ルテ ィが課 され る (しか し無論取 引は行 われ る) とい うルールが持 ち込 まれた 状態 にひと しい。 したが ってペナルテ ィが課せ られて も取引が行われるか否か, が多国間契約方式が採 り入 れ られ るか否かの基準 と考え られ る。 そ して この場 令,価格帯 を大 きく外 れた水準 の取引には重 いペナルテ ィを課す必要が あ るだ ろう
。ペナルテ ィが余 りに重 ければ取引 は行 われな くな り,多国間契約方式 の 機能 は働かな くな る
。すなわち,ペナルテ ィが どの程度 になるのか,い いか え ると,市場価格がど の程度安定 しているのか,が多国間契約方式 を採 用 す るか 否かの基準 になるだろ う
。したが って,
17)
千葉泰雄
[3]213ページ。
国際商品協定 の政治経済学 4 3 多国間契約方式を採用 しうるのは当該財 の市場価格 が相対的 に安定 している 場合 にか ざる。
言 いかえ ると,市場価格が相対的に安定 してお り個別主体 がルール整合 的で あ りうる場合 と言 うことがで きる。 また,加盟各国が価格帯 を定 め,輸 出国負 担 と輸入国負担 とが互酬的
(reciprocal ) にな るよ うな, したが って取 引主 体 双方 に緊張が発生 しないような水準 に価格 を安定化 させ ることによ って共通利 益 を獲得す る方策 であ る,と理解すべ きものである
。すなわち,
多国間契約方式 は領域 Ⅱに対応す る。
事実か ら判断す ると,ペナルテ ィが重す ぎて取引が成立せず,多国 間契約 方 式 の機能が働かない国際商品協定が多 い。 したが ってその場合 には,市場価 格 と価格帯 の間の帝離を輸 出入国が ( 価格帯 の水準か らみて超過需要 を輸 出国負 担で,超過供給を輸入国負担で)取引を通 じて解消 してい く機構 は働 いて いな
い。
それで は価格差 ( 不均衡) はどのよ うに解消 され るとみ ることがで きるだろ うか。
大別す ると
,(1)市 場 を使 うか,それ とも(2) 市 場 を使わないか,のいず れ かであ り
,(1)を用 いるとすれば緩衝在庫方式 を採用す る場合であ り
,(2)杏 用 いるとすれば輸 出規制方式 を採用す る場合であるとい うことにな る
。で は,
どのよ うな場合 に市場を使 うことがで き,どのよ うな場合 に市場 を使 うことが で きないのだろ うか。 この場合分 けの基準が,緩衝在庫方式 と輸 出規制方式 と を切 り離す基準 にはかな らない。 ただ し,緩衝在庫方式 の場合 ,在庫 管理 に要 す る費用 を,主 と して消費国が負担す るのか,それ とも主 として生産 国が負担 す るのか,は市場 の状態 に依存す る
。主 として消費国が負担す るケースは次 のよ うな場合 である
。直面 している事 態 は,超過供給 を価格 の働 きによ らないで調整す るとい うことにはかな らない。
す なわち,この事態 を理論 的に表現すれば,価格一定 の もとでオ ール ・オ ア ・
ナ ッシング需要曲線 に直面す る消費者 の状態 にひと しいと考 え られ る
。別 の言
い方 をすれば,オール ・オア ・ナ ッシング需要 曲線が存在 しえない場合 には,
このケースは成立 しえない。 したが って,
消費国負担 の割合 の大 きな緩衝在庫方式 を採用 しうるのは,当該市場 に生産 国の十分大 きな市場支配力が存在 し,超過供給量がその下限価格 に対 して提 示 され る需要量 を上回 らない ときにか ざる。
主 と して,生産国が負担す るケースは次 のよ うな場合である
。価格一定 の も とで超過供給 を調整す る際,その調整費用 (この場合 の在庫管理費用) を主 と して生産国が負担す るとすれば,下限価格 の実質水準 は低下 し生産国の収益 は 縮小す る
。しか し,オール ・オア ・ナ ッシング需要曲線 が存在すれば,通常 の 需要曲線 を上回 る或 る部分 は消費国か ら生産国への トランスファーとな り生産 国の収益 を増大 させ る
。この とき価格 と超過供給 を一定 とす ると,増大 の部 分 と縮小 の部分 とを比べて ネ ッ トの価額 を判断す る要因 は,もっぱ ら実質下 限価 格 であ り,それは在庫管理費用 にはかな らない。 したが って,
生産国負担 の割合の大 きな緩衝在庫方式 を採用 しうるのは,在庫 に要 す る単 位 あた り費用が相対的 に小 さい場合 にか ざる
。このよ うに,緩衝在庫方式 は在庫管理費用 の規模 および負担 の分配 に大 き く 依存 してお り,個別主体 にとってルール対立的な場合であると言 え る
。また, そ もそ も緩衝在庫 のメカニズムは,運営 が上首尾 に行 われ,価格 を安定化 す る 効果が認 め られれば,それ は在庫操作 に伴 って利益が発生 した̀ ことにはか な ら ない。反対 に,在庫操作がむ しろ価格 を不安定化 したとすれば,在庫操作に伴 っ て損失が発生 し新 たな費用負担 をつ くり出 した ことにはかな らない。言 いかえ
ると,緩衝在庫 のメカニズムは個別利益 に極 めて大 きな比重 をお く機能 で あ る と言 え る。すなわち,
緩衝在庫方式 は領域Ⅳ に対応す る。
再 び事実か ら判断す ると,先 に引用 した通 り,緩衝在庫方式 は 「最 も多 く議 論 されて,最 も少な く実現 された方式」 にはかな らない。 その主 た る理 由 は, 在庫管理費用 の問題を うま く調整 で きないか らである
。国際商品協定対象商品の価格変動が激 し
ぐ,かつ在庫管理費用の規模 が大 き
い場合 には,市場 を使わず当局 の管理 を通 じて価格 を安定化 させ ることにな る
国際商品協定の政治経済学 45 だろ う 1 8 ). 輸 出規制方式である
。この方式が これまで国際商品協定で最 も多用
されて きたのは,上でみた多国間契約方式,緩衝在庫方式 の基準 を満 足 す る こ とが難 しく,結局 ,国家間で輸 出数量規制 を行 うという手段 に頼 る ことにな る か らであ る
。この ことが輸出規制方式 が採用 され る基準 にはかな らな
い 。したが って,輸 出規制方式 は,輸出国 の数量規制を通 して価格 の安 定化 を は か るとい う共通利益 を重視す る方式 にはかな らない。 そ して,数量規制 を各 加 盟輸 出国 にどのように割 当て るか,非加盟国を どのよ うに恐 らくは非 自発 的 に 規制す るか,価格 の上限防衛が難 しいため輸入国側 に不満が大 きくな るが そ の 点 をど う処理す るか等,明瞭 にルール対立的な性質が認 め られ る。すなわち,
輸 出規制方式 は領域 皿に対応す る。
以上本節で は,第 Ⅰ節 の各領域 と国際商品協定 の諸方式 との対応関係 を検討 した。すなわち,多国間契約方式 は領域 Ⅱに対応 し,輸 出規制方 式 は領域 Ⅱ に 対応す る
。そ して緩衝在庫方式 は領域Ⅳ に対応す る。
Ⅳ. 国際商品協定の政治経済学
冒頭で述べたよ うに,本稿 の目的 は,まず,国際商品協定 の諸方式 を中心 に, 政治学か らみた国際 レジームの類型 ,経済学か らみた不確実性軽減方 策,社 会 学 か らみた機能的緊急事態,人類学か らみた交換類型 との間の対応関係 を明 ら か にす ることである
。そ してそ うした対応関係 を提 出す る理 由は,対応 関係 に よって問題 をみ る展望が拓 けるとい うことである。 いわば問題 を と らえ る枠組 みの提 出 とい う役割 にはかな らない。 そ して,そ うした準備作業を踏 まえて本 稿 で検討す る主 たる問題 は,国際商品協定 の存在理 由を明瞭 にす る こと,お よ び国際商品協定 の動 向を解釈す ること,そ して国際商品協定 の展望 を行 うこと である
。 .国際商品協定 の動 向 とは,本稿 のタームで言 えば,国際商品協定 の事実上 の 運営方式 はなぜ領域 Ⅱだ ったのか。領域 Ⅲか ら領域 Ⅱへの変容 はなぜ起 こった
18)