特性類と可微分多様体の構造について
On characteristic classes and the structure of defferentiable manifolds
数学専攻 井上 雅美子
Inoue Mamiko
0 はじめに
この論文の主題は,特性類を用いて可微分多様体の構造を調べることである.特性類とは,ベクトル束の不変 量である.特に可微分多様体に対して,その接束の特性類のことをその多様体の特性類という.特性類により基 本ホモロジーで値をとったものをその多様体の特性数といい,特性数を計算することでその多様体の特徴を調べ ることが出来る.本論文では,まず特性類の一般的な定義を与え,各特性類の特徴を述べる.そして,その中で も向き付けられた可微分多様体が,境界を持つ向き付けられたある可微分多様体の境界となり得るかを見極める ことに用いられる
Pontrjagin
類とPontrjagin
数に焦点を当て,Whitney
の埋め込み定理とThom
の横断性定理 を用いてわかる有向同境群の構造を紹介する.1 特性類
定義
1.1 (
特性類).
任意のベクトル束ξ = (E, π, B)
に対して,可換群A
を係数とする底空間B
のコホモロ ジー類α(ξ) ∈ H
k(B; A)
が定義され,次の束写像に対する自然性が成り立つとき,
α(ξ)
をξ
のA
係数のk
次特性類という.
自然性:
任意の二つのベクトル束
ξ
i= (E
i, π
i, B
i)(i = 1, 2)
の間の束写像E
1−−−−→
f˜E
2π1
y
y
π2B
1−−−−→
fB
2 に対して,α(ξ
1) = f
∗(α(ξ
2))
が成り立つ.同じ底空間
B
上の二つのベクトル束ξ
とη
が同型のとき,上のf
∗は恒等写像になり,α(ξ) = α(η)
となる.よっ て,この自然性を使って定義をすることで,特性類はベクトル束の不変量となる.定義
1.2 (
特性数).
M
を,実n
次元のコンパクト可微分多様体とする.このとき,n
の分割I = (i
1, ..., i
r)
に対して,w
I[M ] = w
i1· · · w
ir[M ] := hw
i1(τ
M) · · · w
ir(τ
M), µ
Mi
1
を,
I
次Stifel-Whitney
数という.これはZ/2
に値をもつ.ここで,w
ij(τ
M)
はM
の接束τ
M のi
j次Stiefel-
Whitney
類,µ
M はM
の基本ホモロジー類を表す.
K
nを,複素次元n
のコンパクト複素多様体とする.このとき,n
の分割I = (i
1, . . . , i
r)
に対して,c
I[K
n] = c
i1· · · c
ir[K
n] := hc
i1(τ
n) · · · c
ir(τ
n), µ
2ni
を
I
次Chern
数という.これはZ
に値をもつ.ここで,c
ij(τ
n)
はK
nの接束τ
nのi
j次Chern
類,µ
2nはM n
の複素構造による向きから決まる基本ホモロジー類を表す.
M
4nを,実4n
次元のコンパクトで向きづけられた可微分多様体とする.このとき,n
の分割I = (i
1, ..., i
r)
に対 して,p
I[M
4n] = p
i1· · · p
ir[M
4n] := hp
i1(τ
4n) · · · p
ir(τ
4n), µ
4ni
を,
I
次Pontrjagin
数という.これはZ
に値をもつ.ここで,p
ij(τ
4n)
はM
4nの接束τ
4nのi
j次Pontrjagin
類,µ
4nはM
4nの基本ホモロジー類を表す.補題
1.3.
実(4n + 1)
次元のコンパクトで境界をもつ可微分多様体の境界M
4nに対し,全てのPontrjagin
数 は零である.
Chern
数とPontrjagin
数のある有用な一次結合を定義しておく.この重要性は,命題1.6
と例1.7
が示している.
定義
1.4.
I = (i
1, . . . , i
r)
を非負整数k
の分割とし,n ≥ k
を,不定元t
1, . . . , t
nの基本対称式σ
1, . . . , σ
kが代 数的に独立となるように選ぶ.このとき,k
変数多項式s
I(X
1, . . . , X
k)
を,s
I(σ
1, . . . , σ
k) = X
t
i11· · · t
irrを満たす多項式として一意的に定まるものとする.ここで右辺は,
t
1, . . . , t
nに関する単項式でt
i11· · · t
irr に対してt
1, . . . , t
nの入れ替えによって変換されるものすべての和を表す.定義
1.5.
複素次元n
のコンパクト複素多様体K
nとn
の分割I = (i
1, . . . i
r)
に対して,記号s
I(c)[K
n]
で,hs
I(c(τ
n)), µ
2ni = hs
I(c
1(τ
n) · · · c
r(τ
n)), µ
2ni ∈ Z
を表すとする.コンパクトで向きづけられた
4n
次元可微分多様体M
4nとn
の分割I
に対しても,記号s
I(p)[M
4n]
を同様に定義する.命題
1.6.
K
mとL
nを,それぞれ複素次元m,n
の複素多様体とする.このとき,s
m+n(c)[K
m× L
n] = 0
で ある.例
1.7.
複素射影空間P
n(C)
に対して,s
k(c)[P
n(C)] = n + 1 6= 0
である.ゆえに,P
n(C)
はいかなる複素多 様体の直積として表すことはできない.2
2 有向同境群
定義
2.1.
二つのコンパクトで向きづけられたn
次元可微分多様体M
とM
0に対して,あるコンパクトで向き づけられた境界をもつ可微分多様体X
が存在して,誘導された向きをもつX
の境界∂X
が,M + (−M
0)
に向き を保って微分同相になるとき,M
とM
0は有向同境であるという.ただし.記号−
は逆の向きの多様体を表し,記号
+
は非交和を表す.有向同境という関係は,同値関係である.
定義
2.2.
n
次元有向同境類全体からなる集合は,加法演算+
(非交和)により可換群をなす.これをΩ
nと書 き,有向同境群とよぶ.有向同境群の列
Ω
∗:= (Ω
0, Ω
1, Ω
2, . . .)
は直積演算
×
により次数つき可換環の構造をもつ.これを有向同境環とよぶ.有向同境群
Ω
nにおける零元とは,空集合∅
の同境類のことである.ある可微分多様体が,それ自身あるコンパ クトで向きづけられた境界をもつ可微分多様体の境界となるときは,∅
と有向同境となるので,零元となる.補 題1.3
より,Pontrjagin
数は有向同境類の不変量である.3 普遍 Thom 空間と有向同境群の関係
有向同境群の構造を知るため,まず
Pontrjagin
類を考えることでわかることからアプローチをしていく.定理
3.1.
M
4, . . . , M
4nを,各k = 1, . . . , n
に対してs
k(p)[M
4k] 6= 0
である向き付けられた多様体とすると,p(n) × p(n)
行列[p
i1· · · p
ir[M
j1× · · · × M
js]]
は,正則である.ただし,
(i
1, . . . , i
r)
と(j
1, . . . , j
s)
はk
のすべての分割をわたる.ここで,p(n)
はn
の分割の個 数を表す.
この定理の中の適当な多様体
M
4kとして,複素射影空間P
2k(C)
を選ぶことができる.この事実と補題1.3
よ り,次がわかる.系
3.2.
(i
1, . . . , i
r)
がk
のすべての分割をわたるとき,同境群Ω
4kにおけるP
2i1(C) × · · · × P
2ir(C)
が代表す る元は,一次独立である.ゆえに,rank(Ω
4k) ≥ p(k)
である.ここで,p(k)
はk
の分割の個数を表す.実際,
Ω
4kのrank
がちょうどp(k)
と等しいことがわかる.よって,P
2i1(C) × · · · × P
2ir(C)
を代表する元は 生成元となる.そのことを示すために,Thom
空間を定義しておく.3
定義
3.3.
ユークリッド計量をもつR
n束ξ
に対して,A ⊂ E(ξ)
を,全空間における|v| ≥ 1
となるベクトルv
全体からなる部分集合としたとき,A
を1
点につぶした商空間E(ξ)/A
を
Thom
空間よび,T (ξ)
,あるいは単にT
とかく.T (ξ)
の選ばれた基点t
0は,A
をつぶした点である.次の重要な定理が,埋め込み定理と横断性定理により示される.
定理
3.4 (Thom).
k > n + 2
のとき,普遍Thom
空間のホモトピー群π
n+k(T (˜ γ
k), t
0)
は,有向同境群Ω
nに 標準的に同型である.
この定理の部分的な主張を用いることで,
Ω
4nの構造を知ることができる.定理
3.5 (Thom).
有向同境群Ω
nは,・
n 6≡ 0 (mod 4)
のとき,有限群・
n = 4r (r ∈ Z
≥0)
のとき,階数p(r)
の有限生成群 である.ここで,p(r)
はr
の分割の個数を表す.実際にいくつかの
Ω
nの構造を挙げると,次のようになる.
・
Ω
0∼ = Z
コンパクトで向きづけられた0
次元多様体は,符号づけられた点の有限集合である.よって,符号 の和が同境不変量である.・
Ω
1= 0
閉1
次元多様体は円板の境界となる.・
Ω
2= 0
任意の向きづけられた閉2
次元多様体M
は,球面か種数g
の閉曲面であるから,明らかに境界とな る.・
Ω
3= 0
向きづけられた閉3
次元多様体は,3
次元球面S
3内の絡み目の係数±1
によるDehn
手術により得 られる([W.B.R.Lickorish] [4])
.これは,4
次元球体D
4にいくつかの2-
ハンドルを付けたものの境 界となる.・