研究雑話
症例報告
医学部腎臓・膠原病内科学准教授 中 島 衡
2001年3月一人の患者が入院した。北九州市 立医療センターで1994年から度重なる難治性血 管炎とその後の間質性肺炎の永い経過を持つ59 歳の女性患者であった。間質性肺炎がさらに重 篤化し、免疫抑制療法を行うも右三叉神経領域 の帯状疱疹が発症し、今後のさらなる治療目的 で紹介された。主治医チームは九州大学病院第 一内科研修医・瀧井康先生と指導医・井上久子 先生であった。この二人のフットワークは非常 に軽く、入院後患者の容態はみるみる改善した。
臨床検査部・服部幸子先生から患者の血液試料 の検査結果について連絡が入った。血漿蛋白分 画検査において、α1分画が無いというのであ る。α1‐アンチトリプシン(α1‐
AT)欠損症
が疑われるということで、日曜日に家族に集 まってもらった。患者自身が、自分以外の家族 の遺伝子検査は実施して欲しくないと強く主張 され、本人以外の家族には、血漿蛋白の解析の みが行われた。本人のすぐ上の兄も患者本人と 同様にα1‐AT
欠損症であった。欧米人とは違 い、日本人でのα1‐AT
欠損症は非常に珍しく、新規遺伝子変異の可能性もあり、臨床検査部・
山中基子・服部幸子両先生の病院業務終了後の 精力的な遺伝子解析が始まった。病棟では、滝 井・井上両医師の献身的な努力の甲斐あって、
患者は自宅に戻ることができるまでに回復して いた。この主治医たちはこの患者と素晴らしい 患者医師関係を築いており、いろいろな話を聞 いていた。ある日私は、井上先生から患者が25 年以上前にも家族を集められて、採血をされた
ことがあるという話をしていたことを伝えられ た。25年 以 上 前 に もα1‐
AT
欠 損 症 を 疑 わ れ た!と思った私は、図書館にて研究論文雑誌を 探した。そして、雑誌「生物物理化学」1975年 に、我々が作成した家系図と全く同じ家系図が 記載された報告を見いだした。日本で第一例目 のα1‐AT
欠損症の発見の症例報告であった1。 当時九州大学第三内科・小鶴三男先生が、北九 州市立病院の患者血漿の電気泳動像の異常から 今回の患者の実の兄をα1‐AT
欠損症と診断し、家族内解析を行っていた。兄には軽い肝機能異 常があるだけであった。当時は遺伝子解析の時 代ではないので、電気泳動上の異常ということ で発表されていた。
炎症性の病態において、活性化された白血球 が産生、放出する
Proteinase3(PR3)の主要
な制御因子であるα1‐AT
が欠損することは、身体中の
Protease/Protease inhibitor(Pi)のバラ
ンスが、大きく炎症惹起の方向へ傾くことを意 味する。特に肺胞壁のエラスチンを分解するエ ラスターゼを阻害する機能が消失してしまうた め、肺胞の破壊、閉塞生肺気腫を招くことが知 られている。欧米の白人にはZ
変異:Pi(Z)の遺伝子頻度が高く、それ以外の人種にはこの 変異は殆ど見られないことが知られており、
PR
3‐抗好中球細胞質抗体が出現するウェゲナー 肉芽腫症が白人に多く、日本人に少ない事実の 理由もこの点にあるのではないかと考えられる。7月には、臨床検査部から遺伝子解析の結果 が伝えられた。遺伝子内二カ所に変異があり、
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Siiyama
Mnichinan Mnichinan
α1‐AT Pi(Mnichinan)と Pi(Siiyama)家系の分布 既に日本で報告されている
Pi(Mnichinan)で
あることがわかった。(Mは電気泳動位置で表 された蛋白多型のうちのどれであるかを示す)。 新規変異ではないため、遺伝子解析を行ってく れた先生は残念そうに報告されたが、私は日南 という地名に興味を持った。Pi(Mnichinan)
は、宮崎大学で見いだされたα1‐
AT
欠損症患 者を1980年に中村東樹先生が発表され2、その 遺伝子変異が10年後の1990年に九州大学遺伝情 報センター服巻保幸先生のもとで明らかにされ た経緯があった3。以上のことから、1975年に 小鶴先生が見いだされた日本で第一例目のα1‐
AT
欠損症は、Mnichinanの遺伝子変異である ことが診断から26年後に明らかになった。お互 いの家系に明らかな血縁関係は認められなかっ たことから、宮崎と北九州に独立に同一遺伝子 変異が見つかったことになる。私と主治医の瀧 井 君 は、Pi(Mnichinan)は、日 本 に 特 有 の 変 異ではないかと考え、日本のα1‐AT
欠損症を 統括して報告されている順天堂大学・瀬山邦明 先生に尋ねてみた。その結果、Pi(Mnichinan)は日本特有の変異であること、日本には複数家 系で明らかにされた遺伝子変異は以下の二種類 しかなく、Pi(Mnichinan)が九州のみ で 見 い だされ、今回は血管炎の形で発症しているのに 比 し、Pi(Siiyama)は、本 州、北 海 道 で 見 い だされており、肺気腫を発症しやすいことがわ かった。(図)地域の偏在から、Pi(Mnichinan)
は、弥 生 人 由 来 で、Pi(Siiyama)は、縄 文 人 由来ではないかと二人で話し合った。さらに、
瀬山先生から、Pi(Siiyama)のそれぞれ の 患 者が診断された地域や時期が記載された論文を 頂き4、詳細に読んでみると、中に私が1990年 頃に静岡県に出張している際に診察をしたと思 われる患者が記載されていた。当時その患者は、
喘息の町、富士市に住んでいたため、いわゆる 公害による肺気腫と思われていたが、蛋白分画 解析にてα1‐
AT
欠損症と診断されたという病歴に興味を惹かれた記憶があった。確かに重篤 な肺気腫であった。呼吸器科医でもない私が、
このような稀な疾患の異なった変異を有する患 者を診察していたことに驚いた。
今回の症例に遭遇して、症例報告をされた小 鶴先生、中村先生からα1‐
AT
欠損症例につい てお話をうかがうことが出来たのは、非常に楽 しい経験であった。お二人ともに発見時の興奮 とその解析に没頭された時の様子をよく記憶し ておられた。特に1970年代の電気泳動法の開発、蛋白の一次構造解析法の開発、さらに1980年代 後半からの遺伝子塩基配列解析法の開発とノー ベル賞に裏打ちされた画期的な生化学的・分子 生物学的手法が次々に開発された時期に遺伝子 変異に基づく病態症例に遭遇され、可能な解析 結果を症例報告として残されてきたことにお二 人とも満足感があるように思えた。研修医の瀧 井君は、患者が蛋白の構造異常から重篤な血管 炎を起こしている可能性があること、1つの変
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異を明らかにするといろいろな考察が出来るこ とにいたく興味を持ち、多くの関連論文を読み あさり、症例報告を書き上げて来た。私が研修 医の頃、指導医から、症例報告を書く人は、小 さなことでもとにかく理由を付けて書くし、書 かない人は、とにかく理由を付けて書かないも のだと言われたことがある。今回は、主治医が 書きたくて、書きたくて、書いた症例報告であっ た5。
私はα1‐
AT
の研究をしていません。実際に この症例に関しても、何の解析を行ったわけで もありません。それにも関わらず、このお話を 研究雑話に投稿いたしますのは、α1‐AT
欠損 症例に出会った小鶴先生、中村先生そして研修 医・瀧井君の中に芽生えた興味と同じくらいの 大きい興奮を私は研究テーマとして後輩に与え ることが出来てきたのだろうか?といつも自問 自答していることをご報告したかったからであ ります。このような気持ちで毎日を過ごしてお ります。面白い興奮を探しております。今後と も宜しくお願い申し上げます。(文献)
1.小鶴三男他 生物物理化学 19:240‐241、
1975
2.中村東樹他 日内会誌 69:967‐974、1980 3.Matsunaga et al. Am J Hum Genet 46: 602-612,
1990
4.Seyama K et al. Am J Respir Crit Care Med
152: 2119-2126, 1995
5.Takii Y et al. Intern Med 42: 619-623, 2003
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研究雑話
呼吸器内科学講座へ赴任して
医学部呼吸器内科学准教授 藤 田 昌 樹
2007年10月に福岡大学へ赴任して参りました。
昭和63年に大学卒業してから、呼吸器内科医と して20年近い年月が経過し、大きな節目を迎え たところです。留学から帰国後、大学に戻り、
臨床、研究、教育、医局事務すべて頑張れと無 理難題をふっかけられながら、何とか10年足ら ず堪えてきました。このままの生活を続けて いって良いのかという疑問を感じ、自分が望む 範囲で頑張ることができる環境が必要ではない かと考えていました。丁度、呼吸器内科学講座 が新設されたというタイミングが合致し、異動 してまいりました。
呼吸器内科とは、肺癌の診断、外科療法/放 射線療法が実施できない肺癌の治療、気管支喘 息、肺 気 腫(COPD)、肺 炎、肺 線 維 症(間 質 性肺炎)、肺高血圧症などを診療します。腫瘍、
アレルギー、感染症、免疫、血管系と幅広い疾 患のカバーが必要です。研究としては、感染症 を中心に、間質性肺炎、肺気腫などの疾患を取 り扱ってきました。振り返ってみると、前勤務 先では、研究と臨床を行ったり来たりした生活 を送ってきました。医学部教員には、たくさん のタレント(研究、臨床、教育)が求められま すが、どれも中途半端にしか育たず、情けない 限りです。今後はしっかりと腰を落ち着けて、
自分が進むべき道を中心として、可能な範囲内 での仕事完遂、自分自身の充実を目指していく 所存です。
ここ数年は非結核性抗酸菌の事について、研 究しています。結核菌は、ご存知の方が多いよ
うに伝染性を持つ細菌です。発生患者数、死亡 者数とも減少傾向ですが、まだまだ恐ろしい病 気です。非結核性とは、まさに結核に非ずとい う意味で、伝染性を欠如した抗酸菌群の総称で す(ただしらい菌は除く)。これらは呼吸器感 染を中心とした慢性感染症を引き起こします。
結核は怖い病気ですが、治療法が確立し、治療 成績も98%が完治するなど、良好な経過を取る 疾病になりつつあります。ところが、非結核性 抗酸菌症の中で呼吸器感染症を起こす代表的な 菌、Mycobacterium
avium-complex
は、初 期 治 療成績は良くとも必ず再発し、治療により完治 する率は30%以下です。幸いにも進行が寛徐で すが、約一割の方は急速に進行していきます。治療薬剤はなく、進行していく経過を、ただ手 を拱いて見ておくだけという、呼吸器内科医師 にとって非常に情けない病気です。この状況を 何とかしようというのが、研究の動機です。ま ず、この発症メカニズムを検討することにより、
治療に結びつくのではないかと考えました。以 前より、腫瘍壊死因子(TNF)に興味を持って おり、TNF関連遺伝子改変マウスを保有して いたので、これらを利用して感染マウスモデル を作成してみました。TNFレセプターには2 種類存在することが知られていますが、TNF レセプター!が欠損すると、この菌に対する感 受性が高まることが判明しました。この結果よ り、TNFレセプター!と"のシグナル伝達の 差異は、アポトーシスシグナルを保有している かどうかですので、アポトーシスが関与してい
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ると推測しました。アポトーシスを生じにくい
FasL
欠損マウス、パーフォリン欠損マウスも 感受性を持つようです。実際にアポトーシスを ブロックするcaspase
阻害剤を吸入させると悪 化が見られました。アポトーシスが疾患感受性 決定に関与する因子の一つであることが証明さ れました。では、治療に役立てることは可能で しょうか?アポトーシスを促進させるためにIκ-B
を過剰発現させ、NF-κBをブロックする と、アポトーシスが誘導されたことも認められ ました。感染モデルにIκ-B
を過剰発現させると、M.
avium
感染はやや改善を認めました。これらの結果は、肺非結核性抗酸菌症は肺内の アポトーシス(おそらくマクロファージのアポ トーシス)を促進させると治療に結びつく可能 性を示唆しています。何とか臨床応用にもって いくことができないか、頭をひねっているとこ ろです。いくつかアイデアを思いついて実行し てみましたが、うまく行っていないのが現状で す。
他にもまだまだ解明されていない謎も多い菌 です。HIV患者では全身感染を来たす菌でも あります。真菌と同様に過敏性肺臓炎を生じる のではないかという報告もあります。肺非結核 性抗酸菌症は、環境中の菌を吸入して発症する と言われていますが、患者環境中には同一の菌 は存在しないことも多いようです。経過中に、
新しい
genotype
の菌が再感染するという報告もあります。どこに菌は存在しているのでしょ うか?中高年の女性に好発する(男女比1:
9)という性差にも興味を惹かれます。どうし て女性を中心に発症するのでしょうか?まだ、
研究は開始されたばかりです。いろいろな疑問、
それに対する仮説が頭をよぎります。少しずつ でも、時間をみつけて研究を続けていけば、何 か臨床に役立つ研究ができるのではないかと、
半ば自分を騙しながら、信じ込んでいる状況で す。
また、基礎研究とともに臨床研究を進めてい こうと計画しています。基礎研究ばかりをして いても臨床にフィードバックできないことを踏 まえての反省で、臨床研究を行いながら、臨床 に役立つ情報を一つでも提供できればと思って います。感染症を中心に、前勤務先とも共同し ながら、症例、菌株を集積していく予定です。
関連病院先とも良好な関係を築き上げたいと 思っています。また、薬剤耐性菌については、
中国とのフィールドスタディなどを手始めに、
アジアとの関連を深めていければ良いなあとい う広大な展望を描いています。絵に描いた餅に ならなければ良いのですが。
まだ福岡大学へ赴任してから数週間しか経過 していませんが、患者さんに対する 治そう という熱意を周囲の方からひしひしと感じてい ます。研修医の方々、Co-medicalの方々、学生 の方々も熱心で、私自身が引き気味になってい るのが情けないところです。皆さんの熱意に負 けないように、頑張っていこうとエンジンを温 めている段階です。教育関連の仕事も今後増え ていくと思いますが、態度は態度でしか伝わり ません。嫌だと思って仕事をしている教師から は嫌な思いしか伝わらないと信じています。呼 吸器内科医として充実した生活を送ること自体 が、学生、研修医の教育に繋がると思い、自分 自身を充実させていくことを大きな今後の目標 としたいと考えています。新しい職場ですので、
周囲の方々のご援助が是非とも必要です。逆に お手伝いを必要とすることがあれば、ご遠慮な く声をかけてください。微力ながらお手伝いさ せていただきます。
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研究雑話
国際社会の急務:貧困削減に向けて
経済学部講師 中 村 由 依
福岡大学経済学部に2007年10月に着任して1 ヶ月が経ちました。学生生活を終え研究者とし てスタートをしたばかりであり、研究面・教育 面で試行錯誤中の身ではございますが、大学院 時代から継続して取り組んでいる研究のお話を もって、ご挨拶に代えさせて頂きたいと思いま す。
[国際社会が直面している課題]
2000年9月ニューヨークで開催された国連ミ レニアム・サミットで189カ国の合意を得たミ レニアム開発目標。これは21世紀の国際社会に おける8つの最重要課題をまとめたものであり
(2015年までに達成すべき目標)、その内容は 1.極度の貧困と飢餓の撲滅
2.初等教育の完全普及の達成
3.ジェンダー平等推進と女性の地位向上 4.乳幼児死亡率の削減
5.妊産婦の健康の改善
6.HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病 の蔓延の防止
7.環境の持続可能性確保
8.開発のためのグローバルなパートナー シップの推進
となっています。どの目標も早期解決のために 国際社会が一丸となって取り組まなくてはなら ない問題であり、様々な角度から細かな理論・
実証研究が行われていますが、私が特に関心を 持って取り組んでいる分野は、1番目に掲げら れている貧困削減問題。政策の評価や設計、ま た、貧困削減を促進する主な要因の分析を行っ
ています。
[貧困削減政策の流れ]
貧困削減の方法は大きく2つのタイプに分け られます。間接的な手段と直接的な手段。間接 的なものとしてはトリクルダウン的な政策があ り、経済成長を促すことを通じて、貧困は削減 されていくというものです。すなわち、富める 者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する という発想です。もう1つは、トリクルアップ 的とでもいいましょうか、中央政府や地方自治 体または、民間主体でもいいのですが、貧困救 済を行う機関が貧困者を特定して、ある一定以 上の所得を補償する方法です。
前者の政策は比較的早期に取り入れられたも のでいろいろな研究結果がありますが、効果が 見られないという報告も多くあがっています。
一方、ここ20年くらいの間に良い結果を示して きた後者の政策などが、最近の研究の焦点にな り始め評価されてきています。バングラディ シュのグラミン銀行はその成功例としては有名 で、2006年に創設者のムハマドユヌス氏と共に ノーベル平和賞を受賞したのは記憶に新しいと ころです。
[貧困削減政策と情報の非対称性]
私の関心も後者のタイプの政策にあり、特に、
どのように貧困層を特定していくのかといった メカニズムに焦点を当てています。政策担当者 と国民の間には情報の非対性の問題が存在し、
援助対象となる貧困者を特定することは難しい のです。個人は、自分は「本当に貧困状態にあ
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り、教育を受けることも銀行からの融資を受け ることも不可能であるため高い生産能力を有し ておらず、貧困状態から脱することができない 状態である」と分かっていても、政策担当者か らは個人の能力を観測することができません。
従って、国民の所得を観測しながら貧困者を見 極めていかなくてはならないのですが、所得が 低いからというだけで援助の対象にはできない のです。なぜなら、本来なら自力で高所得を稼 ぐことのできる個人であっても、中央政府や地 方自治体の救済を当てにして働くインセンティ ブを失い、わざと所得を下げて援助を要求する という問題が生じるからです。このスクリーニ ング問題は、国内外や、先進国・発展途上国を 問わず発生する大きな問題であり、社会保障の 分野においても(公的扶助の対象者の選別や、
年金制度改革に際して。)必ず議論される課題 です。もし、本当に援助を必要としている人た ちの特定に失敗したならば、以下のような深刻 な問題が発生するからです。
1.本来援助を必要としている貧困層に対し ての過少救済
2.本来自力で高所得を獲得できる人のイン センティブの引き下げによる経済成長の鈍 化
3.援助資金運用の非効率性と援助の打ち切 り
1に関しては、貧困削減政策の意味自体が問わ れる根本的な問題です。2は、例え貧困層が救 われたとしても、貧困削減政策が国民の勤労意 欲を奪うことによって経済成長を妨げるという 悪影響が出ることを示唆しています。3に関し てですが、貧困削減に要すことのできる財源は 限られています。その限られた財源の中で、途 上国政府は効率的に貧困削減をしていかなくて はなりません。援助供与国の援助疲れの問題か ら、途上国の援助資金の運用に関して非効率で あると判断された場合の援助額の減少や打ち切
りなど、評価性の導入が議論されるようになっ てきました。その評価の方法や意義についての 問題点は色々と挙げられていますが、(援助供 与国側の政治的利用の問題や、援助被供与国側 のハード面に対する供給過多の問題など)非効 率的な援助政策の緊急的な見直しが迫られます。
以上の観点から、貧困層の特定化の方法を分 析することには大きな意義があると考え、研究 を進めてまいりました。
[貧困削減政策を研究テーマに選んだ理由]
世界の貧困の撲滅に関心を持ったのはいつ だったのか?思い返してみますと、小学生の時 に遡ります。その頃、将来何になりたい?とか 何をしたい?とか周りの大人から質問される度 に、 大金持ちになって、水不足の地域に大き なお風呂を造りたい と思っていたものでした。
おそらく、アフリカの深刻な水不足の問題を取 り上げたドキュメンタリーを見たのが発端だと 記憶しているのですが、水不足によって子供が 何キロも先の川や井戸まで水を汲みに行き、そ れが一日の労働の中心になっていることを知り、
また、環境汚染や水質汚染などによって疾病が 蔓延している状況を見て、衛生面を改善すれば 病気も減るのではないかと考えていたものでし た。その後、しばらくは、別の方面に関心を向 けた学生生活を送っておりましたが、大学の学 部時代の卒業旅行で東南アジアに行く機会があ り、主に外国の旅行者が宿泊している高級なホ テルから程ないところで、浸水しかけている家 屋を見かけた時に受けた衝撃が、大学院から継 続している貧困削減政策の研究の源となってい ます。
このように幼い頃から関心を持ってきたテー マに、現在職業として取り組んでいけることに 大きな喜びを感じております。福岡大学の様々 なサポートのもと、国際社会に貢献できるよう 研究に邁進していきたいと思っております。
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