漁 業 権 共 有 に つ い て の 一 考 察
(漁 場 紛 争 の 法 律 的 研 究II)
青 塚 繁 志
On the Common Fishery Right
(Legal Studies on the Trouble of the Fishing Ground II)
Shigeshi AOTSUKA
ける近代法思想の主潮をなしていたのである.
多分に部落相互入会的要素を残存する区画漁業権においても,入漁権思想は容れられず,賃貸借関係の 設定によって調整されざるをえなかった。
すなわち,漁業権の第ニグループたる個人主義的市民法権利は,それが部落団体的組合に所有されたと しても,団体員の「各自漁業ヲ為スノ権利」は認められず,むしろ賃貸借や「磯売り」 「床売り」などの 青田売買の対象となったことは周知のとおりである。
この漁場法秩序の二面的性格は,そのまま43年法にひきつがれ,永く日本漁村を支配した.
戦後の漁業制度改革は,その観念的法思想においては新しい権利概念を造出したかのごとくであるが
(法1条),なおその概念構成は熟さず,旧法秩序における漁業法概念の:二面的性格の機械的結合に終っ ている部分が少くない。
それは法規範の領域に関する限り,基本的には市民法概念としての所有権思想と,それと反する総有的 共同所有理論が機械的に結合され,必要に応じそれぞれが主張されていることにある.また新漁業法秩序 理念が描きだすべき非団体所有漁業権がいぜんとして単純な古典的私権理論として構成されていることで
ある.
戦後の漁業法秩序の発展にとって重要なことは,その基礎たる経済的諸条件の整備は勿論であるが,漁 業法が法典としての体系を理論的にも主張するためには,法学理論の完成が不可欠である.そこでは法1 条の指向する法秩序に導かれた新しい権利概念の確立とその有機的手続規定の整備が必要とさ泊る.それ は旧概念の結合ではなく,それらが歴史的条件のなかで融合し,発展せしめられた,統一的法秩序とそれ の構成部分としての漁業権概念の確立である.
漁業権の本質的機能は,漁場紛争の解決とその法的保障たることにある.その限りにおいては,その解 決策たりえない漁業権の態容は,法改正により,また事実たる慣行,契約(ときに法規範の補充としてで ほなくその枠外の社会規範として)によって変更されざるをえない。その基本条件は,漁場の生産力とこ
:れにもとつく生産関係の変動である。
漁業権のもつ以上の歴史的性格と,その理論的矛盾は,漁業権の共同所有についても本質的には同様で ある.否むしろより鋭い形で矛盾が表面化するといえる.
漁業法規範は,漁業権の共同所有に民法共有理論を適用し,準共有として取扱っている(民264条)。そ して漁場所有の性格から若干の特別規定例へぽ分割変更処分における行政官庁の免許(旧法10条1項,法 22条1項),持分処分の要件(旧法15条,法32条)などを規定しているのみである.その他の場合は原則
として民法共有理論が適用され,ただ学説は共有物の分割規定とくに分割請求権の適用を排除している(例へば井出,漁業法p137〜)・
然しながら旧法以来漁業法は,漁業権の共同所有の主要形態として総有理論にもとつく専用漁業権を認 め,それは現行法の共同漁業権に継承され,かつ大部分の区画漁業権もこの法概念に編入され,いわゆる 漁業法にいう適格性心の組合管理漁業権として,市民法的漁業権に相対する地位をあたえられている.
したがって,漁業法に規定する漁業権共有の理論は,総有的漁業権の共有と市民法的漁業権の共有に一 律に適用される結果となっている。
そこに機能する漁業権共同所有の社会経済的性格は,前者は総有制漁場の拡大として,また後者は漁場 における資本集中の一過程として考えられる。これを市民法原理にもとつく同一法理論によって構成する
ことはますます法と現実の乗離を生ぜざるをえない。
さらに新漁業法秩序においては,全く新しい角度にたって,綜合的漁場利用と行使の調整にたって漁業 権免許,共有,行使をめぐる統一的理論構成がなされなければならないに係らず,その方向に欠けるとこ
ろが多い.
本論は,以上の基本的考へ方を発展させるために,漁場紛争の法的確定として機能すべき漁業権共有が
現実にいかなる態容と混乱をひきおこしているか,そのために漁業法の実効性または規範性がどのように
在げられているかを具体的事例にもとづいて検討するものである.
漁業権共有は,共同漁業権の共有に:おいては,総有または合有形態の拡大による紛争の一時的解決とし て一応の合理性を有している.然し同じ組合管理漁業権に属せしめられている大部分の区画漁業権,とく に分量的持分の行使として,場所的区画の確定しうる権利内容のものについては,なお団体所有と個人所 有の相こくがはげしく,法の禁止する賃貸借が実質的に行われ,またはそれが違法でないとの行政指導さ
へあらわれている.一般的に漁業法秩序における共同所有の問題は,定置漁業権における市民法的共有や,現実的経営事情 から由来する組合と個人の共有(または組合有と個人出資をふくめて)すなわち共同経営の違法性の問題 として論ぜられる.然し,かかる漁場集中の市民法的共有以上に,漁場の綜合的漁場利用と資本と労働の 調整をはかる意味の団体所有の拡大としての共有形態は重要な意義をもつている.
本論では共同漁業権共有についての具体的な最近の資料を欠くために,主として組合管理区画漁業権の うち,経済的比重の増大しつつあるのり漁業権について,最近の熊本市地先漁場の紛争資料を手がかりと
ロ むして,団体所有的共有漁業権の実態と理論を検討するものである.
第2節 熊本市地先区画漁業権共有の実態
(D 熊本市地先漁場所有の状況
本論の研究対象とした熊本市地先漁場は・漁場図に みるように長崎県と有明海中央部で接する全県共有共 同漁業権のなかに,さらに沿海各単協の所有する共同 漁業権および区画漁業権によって構成されている.
白川および坪井川の影響江よる漁場変動も著しく,
とくに最近の水害による漁場価値の変化によってとく にのり区画漁業権の所有関係に動揺を来している漁場
り
である.
現在すべての漁業権は第1表にみるように地元,関 係地区である小島下町漁協(以下小島町漁協とする)
と松尾町漁協の共有となっているが,その使用収益は 歴史的条件に基く単独行使となっている.32年以降こ の漁場における松尾,小島両漁協の漁業権紛争は有区 第16号区画漁業権(のりひび建養殖)・の共有と持分の
り
使用をめぐって,共同所有を解体し分割しようとする 争が中心となり,さらに他の全区画漁業権にそれが波 及しているものである.
熊本吊地先漢場図(He33.4現在)
固
沼
田
有共II
響
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:
・・汐113
糠鞠
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灘ll鷲1麟覇i響㍉〜
はそれぞれ異なっている. 熊本帝
これを第1表によってみると7まず旧法実施後,
直心共有の専用漁業権が設定されたが,これは戦後の改革後もひきつづき同一の形態で有共心ll号に継承 されている。然し小島地区とくに大宮新地を中心とした漁部落は,千拓地帯で旧松尾村を母村としている 沿革からみて,同漁場の利用関係は永く松尾村漁民を中心に行われていたとみてよい。
さらに現在問題となっている有区第16号ののりひび建区画漁業権の漁場は,改革前それぞれ両村の単独
所有として貝類採取を対象として発生し,戦後の制度改革において,さらに中央部に第96号を加へて3個
の共有区画漁業権を成立せしめ,31年の一次切替において若干沖出しを延長して有区第16号として1個の
〔第1表〕 熊本市地先漁場所有の変遷
現漁業権番号有品柄11号 有区第13号 有江山14号 有蓋第15号 有墓苑15号 有区第16号 豊玉第50号
戦 前 所有組合
免許期所有組合
免許期
明小 聖3号
9松
15尾
大
z松聖2尾
26
昭15松
16梶昭
陛8小
早島
8制度改革後
免番所
許二
期号合 昭肴小 26島島 艦
1号尾小島・松尾
昭26・9・1
昭29・10・7昭28・10・25有心第28号 有区第95号 有区第68号 小島・松尾 小島・松尾 免番所 有 許 組 期野合
現 在
免許期所有組合 漁業種類
所有組合 番 号
免許下屋創 第68号
・松尾O R︶.−.2 小島・松尾
至重第29号 昭26・9・1 小島・松尾 亜門第96号
昭29・10・7小島・松尾 亜門第30号 昭26・9・1
共同漁業小島・松尾 昭31・9・1 同同の建 上上
W養び殖
上上上同上同上上上二二同
同同同 上上上
同工同上上上
里子騨ぢ雍
共有漁業権に統合したものである.同様に はまぐり養殖を対策とした有区第50号区画 漁業権も,戦前の松尾町単独所有から戦後 一時中止され,31年の切替時に共有漁業権
として再生された。
他の第ユ3号から15号に至る3個ののりひ び建区画漁業権はいずれも,戦後の改革三 新に設定されたものである.
以上の所有関係の変遷における特徴は,
形式的には制度改革を機として,全漁業権 が小島,松尾両漁協の共有とされたが,つ ぎにみるように現実の使用関係は戦前また は戦後の漁場支配関係をそのままに継承ま たは新に造出し,共有の法形式と結合した 使用がなされていないことである。
この制度改革における共有への統一の理 由は詳かでないが,緑川地区の例にならい 調整委員会または県の指導に因ったといわ れている.おそらく戦後のデフレ期に行わ カた制度改革が,より激化する漁場紛争に 備へての措置,すなわち共有への統一の基 礎には農漁家経済の深刻な経営的悪化があ ったと考へるのが妥当である.
(3) 漁場利用関係
戦前の有区16号及び50号を除いてとくに 戦後ほとんど漁業権共有の形式をとる同漁 場も,その利用関係についてみると,それ ぞれの漁業権が現実の両組合の漁場支配の 上に成立していることが明らかとなる。
31年における各区画漁業権の行使は,有区14号小島漁協,有区13号15号および50号は松尾漁協の単独行 使となっている.また問題の16号漁場に継承された旧30号96号は小島漁協,29号は西尾氏(小島町在住,
松尾町漁協元組合長)および松尾漁協によって分量的に分割行使されている.*
この行使関係は各権利発生以来ほとんど変動なく行われてきており,両組合の漁場利用権は固定されて いた.ただ31年に始めて従来の西尾漁場に松尾町漁協組合員が建込をはじめ,32年以来の紛争の契機とな
ったのである.従て共有関係と使用についての特徴は
(イ)区画漁業権共有についての持分関係は,とくに明文化されておらず,暗黙の合意まだは慣行に因 る漁場利用以外に,持分関係を推定しうるものはない。然し個々の漁業権は16号漁場を除いて共有者それ ぞれの単独行使であるから,これを持分とみることは共有物の概念に適応しない。したがって現行法から はその持分は民法250条の準用により同等と推定する以外にはない。
(ロ)共有物の使用が単独所有と異ならない単独使用の実態をしめし,一方の持分権の行使は全然行わ れず,かつ不行使にたいする代償も支払われてはいない.したがって民法249条準用の本体を具備してい
ない.
*前掲漁場図のうち斜線部分が松尾漁協組合員,点線部分が西尾氏の行使漁場である
このような現行法との矛盾は何に由来するものであろうか.持分の明確化がなされず,漁場利用におけ る暗黙の合意があったと見なされるのみであるのは,往々漁場秩序にみられるところであるが,それはそ の漁場の生産力段階に対応する生産関係をしめしている。
本来,市民法的概念における共有の本質は,漁場支配を争う生産関係の一時的妥協であり,このことは,
団体所有としての組合管理漁業権の共有における本質でもある。ただ,後者においては団体的規制=共同 漁場の拡大が最後の解決策となるのにたいして,前者は資本集中として発展する一過程であるにすぎない.
その合意がないことは,生産関係が共有の必要がないに係らず,共有形式が行政指導によって採られたと
も考へられる。然し,市民法的概念を前提とせずに考慮すれば,むしろつぎのごとく立論するのが妥当であろう∴すな わち,本件の場合,全区画漁業権または慣行的には共同漁業権をふくめた全地先漁場の分割使用的観念が 共有物意識を生ぜしめていたと解される。それは低生産力段階における地先漁場に一般的にみられる権利 意識であり,総有漁場の基底をなすものである。かかる統一的法認識が,個別漁場に分割された各漁業権 を共有化せしめる。さらに生産力が発展し,従来の漁場支配関係を動揺せしめるに至れば,団体所有は縮 少して,より小規模の総有漁場に分割されるか,部落毎の漁場集中がいわゆる部落対立としてあらわれる か,またはその危機を免れるために共有を外延的に拡大し,ときに全県的共有方式を採るに至るのである。
その中心を流れるものは,漁業権共有に表現される全漁場的共同所有観念と,その内部の個々の共有漁業 権における個別的漁場支配である。
然しこの意義におけ る共有物概念は,近代民法の予想する共有物とはほど遠いものであり,また古典的 総有概念に適応するものは,共同漁業権に残存するのみで,他の区画漁業権はいずれも既成概念と異なる 実態をしめているものが多い.
このことが旧法以来,法と現実との遊離を大にしていた事由でもあるが,なお法の規範性を維持しえた のは,生産力段階が法の矛盾または法の圧力をはね返しえず,その樫樵が具体化しなかった故である。
以上の漁業権共有の一面の性格をさらに鮮明にしているのは有区16号の所有行使関係である。
第1表にみたように,もともと16号漁場は,大正7年に松尾部落漁業組合の単独所有として,旧1357号
区画漁業権iが免許されていた。その対象は当時貝類(あさりほか)であった。また当時は小島地帯の漁業 世帯も少く,坪井川,白川沖合漁場は,従来のいわゆる「松尾漁場」の俗称にしめすように漁場利用が松 尾部落によってほぼ専用されていたと考へられる.
この漁場にはじめてのり養殖が行われたのは昭和13年であり,小島在住の西尾栄喜氏が松尾部落所有漁 業権(旧1357号)を賃借して着手したものである。
以後改革をへて一次切替後もひきつづき西尾氏の同漁場の賃借関係は変らず,漁場賃料を松尾町漁協に 納付していた事実がある(後出松尾町漁協異議申立書および委員会意見具申書)。 ただ改革後は,小島町 漁協との共有にうつり,かっ漁業権賃貸は禁止されたため小島町に住所を有する西尾氏は、松尾町漁協の 地区外準組合員となり,かつ組合長に選任されて法8条にもとつく行使権によって従来の賃借漁場を経営 するの便宜措置を講じただけであって,その実質は戦前と異ならない.
重要なのはこの賃借関係および戦後の行使関係が一:貫していわゆる西尾氏所有の「天領」的観念をうみ だし,とくに形式的共有が採られて以後は,過去の所有関係をも木明確ならしめる一因となったことであ る.この点は西尾氏の住所問題とならんで,最近の漁場紛争の重点となったのであるが,この検討は後述
にゆずろう.小島部落が16号漁場にはじめて区画漁業権を獲得したのは,昭和18年の第2130号区画漁業権であり,
当初からのり養殖を対象としたものであった。その漁場面積は前者のIO3.O12坪にたいして、やや上廻る
り る
120.400坪である.
そののち,すでにのべたように改革時において,さらに中央部に96号区画漁業権を加へて全漁業権を共 有化したが,一次切替にはさらに三者が16号漁業権に統合され今日に至っている.その利用関係は西尾漁 場を除いて全部小島町漁協の行使漁場であった。
31年において,従来の西尾漁場に同氏の了解のもとに松尾町漁協組合員22名の行使が行われた.この変
70
化は西尾漁場を組合持分視(それが持分の実現である行使であるかどうかはなお検討を要する)していた 松尾町漁協にとっては当然の漁家救済策であったとしても,一方同漁場を天領視していた小島町漁協にと っては,まさに持分権の変更とみられ,同漁場をめぐる深刻な漁場争奪が展開されたのである.
さらにその他の区画漁業権もそれぞれの成立はむしろ単独所有の性格を有していた.有区13号漁業権は 松尾町漁協の至近漁場であり,15号漁場は28年松尾町漁協所属小型底曳整理の転換漁場として免許され,
また50号漁場は前述のごとく元来松尾町漁協の単独所有漁場であった.
最も新らしい14号漁場は小島町漁協の単独行使漁場であるが,これとても16号漁場内の小島町漁協漁場 の生産力が水害により殼損され,また干拓農家の貧困化の対策として設定されたものであった。
かくのごとく,熊本市地先区画漁場における漁業権共有関係も,実質的な個々の権利関係についてみる 限り,それぞれの両組合の単独行使の合法性と経済的要求にもとづいて成立した歴史的性格を有している
ものである.
然しながらこの生産関係を変化せしめる経済条件の発生は,漁場利用における法秩序の合理性を喪失せ しめる要素を徐々に造成せしめていったのである.白川水害による小島町漁協漁場の生産力低下や,農家 経済にたいする構造的重圧とくに小島町干拓農家の貧困との結合がそれである。かつその要件はどくに構 造的圧力の問題は程度の差こそあれ松尾町漁協の農漁家経営にとっても同様であり,漁場支配をめぐる対 立激化の条件が蓄積されていきつつあったといへる.
この変化は,小島町漁協による松尾町漁場の奪取という端的な漁場集中の形をとってきざるをえない.
それは皮肉にもすでに改革時における共同所有方式の採用によって法的可能性をあたえられてはいたが,
なお慣行の規範性は,容易に従来の漁場法秩序の変動を許さず,その発端はさきにのべた西尾漁場の天領 的慣行の崩かいという事態の発生した31年建込まで持ちこされたのである.
コ ロ
共有方式は漁場紛争の一時的休戦形式である。そ加はことに組合管理漁業権においては,市民法原理か ら脱却した新漁業法理念にもとつく運営がなされぬ限り,むしろ従来の慣行的漁場規範を稀薄化し,新た な漁場支配をめぐる争いを誘発せずにはおかない.
第3節 小島,松尾部落の経済的条件
つぎに32年以降の紛争を理解するために,権利発生変動の主要因となる経済的諸条件をみてみよう.
(D漁場生産力
まず漁場価値がひとしいとした場合の:二組合ののり漁場支配関係は,第2表のごとく松尾町漁協が小島
o 一漁協を上廻っている.これにたいして組合員 〔第2表〕 数は前老136名にたいして後者は294名と倍加
陣門小島陣尾
16号 15号 14号 13号
枚120
232
1.500
枚 枚
520
1.481100
計 1.852 1,581
520
歩る数であり,組合員の漁場依存度が同一で あるとすれば,松尾町漁協は小島町漁協に比
して極めて漁場独占の地位を強めているとい わなければならない.然し新法において関係 地元地区を決定し漁場帰属の重要な指標とみ
られる漁場依存度の問題は(法14条2項,7項), 単に1組合員当り養殖面積の多少によ っては決定しえないし,生活依存度という点 からみれば,経営維持の最低坪数を有しない 漁民ほどさらに多くの漁場所有を必要とする であろう.また小島町漁協が地力の低い干拓農家によって構成されていること,松尾町漁協が他種漁業を 兼業するとはいえ,有明海漁業が最近衰退の傾向にあることなどから直ちに養殖面積の多少による生活依 存度の決定は困難である。
つぎに今回の紛争の直接的契機とみられる漁場価値についてみると,熊本県水試の調査*では,30年度
で松尾町漁協が浮ひび一枚当り収獲i5ゆ00枚,小島町分は4,000枚である*また有明海漁調委早筆委員の調 査資料でも調査漁家10戸であるため多少正確度は問題であるが,松尾町の平均1377枚に対し小島漁場では
986枚で,平均収獲は最近の数次の水害で低下しているが,なお両漁場の生産力の差をしめしている.もっとものりの品質は小島町漁場の方がすぐれており,32年度の漁連集荷分でも1枚当り松尾は8,1円で
け
あのにたいし小島は10円である.また前記委員会資料でもそれぞれ8円と8.9円の差をしめしている.然 し若干の価格高も30%に達い生産力差を補うことはできず,小島町漁協が荒廃する漁場を避けてより隠る 回した松尾側漁場に進出せざるをえない漁場条件がみられるのである.
(2)農漁家経済の問題点
ここで内湾地帯漁村の漁場支配の原動力である農漁家経済とくに土地所有を概観してみよう.小島部落 は干拓農:家であるため一戸当り経営耕地は9.7反で,達て男子の年間農業従事日数は321日に及んでいるの にたいし,松尾部落は耕・地に乏しく,!戸当り3.8反,従事日数は196日である.当然漁業依存度も異なり,
小島部落の男子26日にたいして松尾部落は70日に及んでいる.然しその漁業形態ぱ極めて零細経営規模に 限られている. 1
小島部落の耕作農地は96%が二毛田であるが,戦前後を通じての97%におよぶ小作地が,農地改革によ ってようやく10%に減少した沿革を有し,現在なお水利その他の農業経営上の地主制的制約の残存がうか がわれる.加へて耕作田中,上田に属するのはわずかに15%で,中級田を加えてもようやく過半数の52%
に達する程度である.
このために農家経営は困窮し,調査農:家10世帯の年間平均粗収入は92,000円にとどまり,経営支出を差 ひくと2万円余の赤字経営となり,黒字農家でもその額は年間3万円舞にすぎない.
一方松尾部落1世帯の調査例では,戦前の小作地は12%にすぎず,地力も上田が59%,中級田を加へる と95%におよんでいる.そのほか,干拓農地の小島部落にはみられないみかん樹園地184畝を所有し,年
の り間6万円に近いみかん販売収入をえている.そのためわずか3.8反にみたない零細農家ではあるが,農業
ロ
経営面のみで1戸当り所得は約4万円余と9.7反を所有する小島部落農家よりも有利な条件をもっている.
以上農業経営では,小島部落が耕地面積の割合に,水利その他の条件によって地力が低く,極めて困難 な経営危機にあること,一方松尾部落では,上田およびみかん園をかかへながらも,耕作面積の狭少のた
コめに零細農を脱しえない状態であることが理解される.然し二:部落の対比上の優劣も,全体としては脱農 化への途をたどっているともいえる.何故ならばこれに漁業収支を加へ,公租公課,家計費を差引いた年 間余剰では.7小島部落で30〜40万円,松尾部落で約18万円の共に赤字経営となっているからである.
一方漁業経営では,小島部落の漁業兼業が昭和18年に初まったことはすでにのべたが,大部分の農家が
採貝のり養殖漁業に従事し,若干手押し,うなぎしばあるいはえびかき漁業の零細漁業を兼ねる農閑期ロ ほ り り ご コ り
漁業である.これにたいして松尾部落は,農地からおしだされた非農業世帯あるいは二,三男世帯が早く から,打瀬,えび流網の許可漁業に従事し,またのり養殖,採貝に依存するのは小島部落と同様であるが
り
手押し,うなぎしぼなどの共同漁業にはそれほど依存度がないようである.この漁業規模の優劣は,小島
の ロ ロ
部落調査世帯例で年間所得がわずか2万円強であるのにたいして,松尾部落の同例では,17万円余におよ んでいることからもうかがわれる.
後歯における漁業比重は,農閑期漁業ではなく漁業収入70%をしめる一種兼農漁家である.然し農閑期 漁業として出発した小島部落も,農業経営の条件悪化が次第に一種兼農漁家を増大せしめつつあることは 注目されねばならず,今後の漁業調整との不可欠の要件となるであろう.
第4節 漁場紛争の経過とその性格
漁場支配の競合をひき起す漁場生産力および農漁家経営層で態的に例証したところがらも,32年以降の 熊本市地先のり区画漁場の紛争が基本的な生産関係の変動を基底として,過去の漁場支配を固定化せしめ
*熊本県水試「昭和30年度熊本県海苔増殖等の実態調査報告書」
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ている漁業権制度(所有および行使の合一体として)のあり方,とくに天領視されている西尾漁場の帰属 をめぐる小島町漁協と松尾町漁協の漁場集中の争いに発展していく本質を存していたことが理解される。
紛争の経過は多くの枝葉的現象を伴ってはいるが,その本質は容易に融和しがたい生活上の対立であり,
さらにその譲歩が前掲の赤字経営をさらに深刻化せしめるものだけに対立抗争は深く激烈を極め,どりう るすべての手段によって争われているといってよい.多くの政治的経済的対抗手段の結果,現在は熊本地 裁における司法的解決に委ねるに至っている。
この紛争経過は,共有漁業権がいかなるものか,その解体過程が種々な力関係のなかでどのような歴史 的性格をもちながら行われていくか,とくに新法の最:大の特徴とする漁業調整機構としての調委がいかな る役割を演じどのような法秩序を形成せしめようとしたか等興味ある課題が多い.嘗てやや詳細であるが 時間的経過を追って紛争の性格を検討してみよう.
(1)紛争の発端
一すでに31年建込みで松尾町漁協組合員が従来の天領的西尾漁場に進出したことは,小島町漁協を刺戟し,
いわば西尾漁場の帰属をめぐる争いが形成されつつあった.
この争奪が表面化したのは翌32年の建込資金,資材の準備が開始される6月頃であった.問題は6月初
め小島町漁協が熊本県および熊本県有明海漁業調整委員会に「松尾町漁協との漁業権の共有状態は不満で あるから,坪井川を中心に小島町,松尾町各漁協にそれぞれ単独所有となるよう漁場を再配分してもらい たい」という要旨の要望を提出したことにはじまった。
この要望ではたんにユ6号漁場にふくまれる西尾漁場の帰属決定にとどまらず,さらに拡大されて,坪井 川を以て漁場境界とする意図がうかがわれる.新法では漁場帰属は地理的行政区域的観点のみでなく,』む
しろ,関係,地元地区として社会経済的条件によって決定されることになっているが,小島町漁協の要求 は現実の行使関係を無視した地理的条件のみによって決定しようとするものであったことが注目されてよ
い.
伺時に他の重要な点は,問題が西尾漁場の帰属の明確化とくに現実にはその持分の行使としての利用係 関に重点があったのに係らず,さらに他の共有漁業権にも波及されて,一挙に全漁場の共有関係の解体と 所有帰属の決定をはかった点により問題を複雑化したことが指摘される。すなわち所有と行使の問題が混 同されて提起された所に現行法的解決が困難となったのである。
調委は6月25日3名の代表委員によって現地を調査しそれぞれの主張を検討したのであるが,地元組合 の態度を7月3日の熊本県有明海漁業調整委員会112回議事録にみるとつぎのごとくのべている.
小島町漁協丁組合長(農協長,市会議員)は「西尾氏は小島の地先を借りていた.それに松尾の組合員 が喰いこんできた.小島漁協組合員は(西尾漁場をふくむ)防波堤まで建込むと主張しているが,組合と してはのり出荷を小島漁協を通すことによって調整をはかった」と経過要旨をのべ,前述の県えの要望と
リ ロ
同趣旨の境界の確定と単独免許を主張した。
これにたいし,松尾町漁協側は「西尾氏は松尾町漁協から漁場を賃借していた.何故なら漁業権補償:は 松尾町漁協に交付された(要旨)」と主張し,「坪井川を境界とすることは従来の松尾町側のり業者(西尾 ロ
組合長外31名)が漁場を失うことになるので,過去の行使実績を境界にすべきである」とし,基本的な考 え方として「漁場分割は現行漁業権の免許期間が満了する4年後(二次切替)に検討したい」旨を強調し
ている.(2) 調委の漁場分割決定とその意義
熊本県有明海漁業調整委員会(以下単に委員会とする)は,6月25日の現地調査の結果のみに基いて前 項の112回委員会で分割決定の線をうちだした.然しそれは基本的な態度のみで,その実質をなす境界線 は後日に保留された。
これは当目傍聴出席をした小島町漁協側から当日結論を出すことを強要された傾向がみられる(同議事
録).地元側としては建込準備期を控えて早急な解決が必要であったとしても,簡略な調査(例へば地元
地区の検討にしても代表委員が防波堤から漁場を遠望し,小島町漁協の所属を認定したごとき)に基いて,
かつ実質的な解決を内容としない分割の基本点のみ決定したことは,その後の委員会運営を一方的に分割 の余儀ない状態に追いこんだともいえる.然しより重要な問題は,のちに検討するように委員会の法的権 限が漁業権の変更分割に及びうるか,または委員会の役割とは法1条の法理念よりいかに理解されるべき
かの問題である.7月3日の委員会決定ののち,両組合の具体的な漁場境界を中心とした協定について種々の努力がはら
われたと思われる.とくに注目してよいのは,実質的な仲介調停者として玉名横島のT氏(漁協長,土建 業).中島の1氏(漁協長,第1回調委会長,漁連第二飽託郡部会長)の有力者が活動したことである.そ の効果は7月31日開催の委員会において具体的な境界線決定をもたらしたことによってもうかがわれるが,
いわば委員会の調整機能が部外者による実質的成果の上にでなければなしえない形式的なものであったこ とが重要であろう。そこには漁村における近代法以前の紛争解決策がなお有効に働いていることまたは権 利義務観念による市民法的解決の限界が露呈しているといえる.それは単に委員会機能,委員の個人的才 能からは結論しえない,法の外で根強く働く漁村の封建性をしめすものであろう.
一方この有力者の努力にたいしても松尾町漁協はあくまで反対の意思を表明し,従来通りの漁場行使を
県に陳情している.(3) 委員会の実質的分割決定と漁場支配の変動
紛争解決えの接近が一つの山を越えたのは仲介者の努力を基礎として開かれた7月31日の113回委員会 決定であった.
委員会はその他の件として小島,松尾の漁場紛争をとりあげ,l12回委員会の基本的方針にそって,そ の実質的内容たる分割線をつぎのごとく決定した.
「有区第14,15,16号を一括して小島町漁協とし,松尾町漁協が従来建込んでいた352枚は必ず建込ま せるという小島組合長の確答がありましたので,松尾町漁協も納得された訳であります.尚実際の建込の 細部については,引続き仲介人の方々に御世話をして戴き度い」という(一)委員の提案を8名の出席委員の
り ロ リ コ ロ り コ り
賛意によって決定した。この際重要な点は決定が組合長の同意を前提としてなされていることであるが,
松尾町漁協長西尾氏は,その特殊な立場の心境を「私としては組合との関係もあって,意見も一致してい
ロ の ほ ほ じ ロ る ら
ないし,煮えきらぬ処もあり,板ばさみとなって,はっきりした事も出来ず,私としては今日無事解決し
コ ロ る
たことで有難う御座居ました」と述べて決定に同意している(以上発言は同委員会議事録より原文のまま)
この委員会決定の意i義は,熊本市地先区画漁場における従来の漁場支配が根底からくつがえり,小島町
漁場が最大限まで拡大されたことである.すでに16号漁場については西尾漁場は勿論松尾町漁協組合員の建込場所も一括して小島町漁協に免許し,また従来松尾町漁協の単独行使であった15号漁場も小島町漁 協の所有に帰することとなる.
すなわち小島町漁協の主張である坪井川以西漁場の単独所有が完全に実現したことである.勿論,決定 にもしめすように松尾町漁協の従来の建込実績は入漁権設定によって確保されるのであるが,その建込場 所等については,すでにこの決定後の10月の暫定協定の際に問題化したごとく必ずしも両者の一致をみて
いない.然し漁場支配の協定が入漁権設定によって解決しうるとするのは第三者的な考え方であって,所有関係 の転倒はその漁場支配を決定的なものにするのである.紛争解決の経過からみて,本権者たる小島町漁協 が入漁拒否の態度に出ることは一応考へられないが,前述の経済的諸条件の悪化はそのあることを予想し なければならず,また現状の利用関係を半永久的に固定化するのでは小島町漁協または松尾町漁協の単独 所有の実質的意義は失われてしまうことになる.
ましてや従来の西尾漁場は完全に小島町漁協の掌握するところとなり,今後小島町漁協組含員が行使す るにせよ,西尾氏が行使するにもせよ,松尾町漁協は完全に漁場利用権を喪失するのである.
入漁権契約の双務性が,漁業権免許の際の制限条件によりある程度制度的に安定化するとしても,その
制限条件の内容は西尾漁場の利用にまで介入しなければ,松尾町漁協の同意をうることは困難であろう.
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かりにかかる制限条件の附款が可能であるとすれば,法1条の法意からすれば,むしろ西尾漁場の合理的 な分割こそが紛争解決の最善策であったのである.
委員会決定は,入漁権設定による漁場秩序の安定策を考慮:せずして単に実績入漁による妥協に終始し,
また西尾漁場を一挙に小島町漁協に帰属せしめた.この過去の沿:革から飛躍した解決案は当然に松尾町漁 協の全面的な反揆をよび問題はさらに複雑化したのである.
(4)松尾町漁協の反対運動
松尾町漁協側は上述の委員会決定にたいして,積極的な攻勢を強化し,その後の状態はあたかも松尾町 漁協の誘発によって問題が提起されているようにみえる.然し前記委員会決定を正当としまた合法的なも のとする前提にたつ場合は別として,かつ漁場利用の沿革および委員会決定が一方的に松尾町漁協の譲歩 をのみ求めている点からみれば,松尾町漁協の行動をいたずらに紛争を誘発するとの批難は肯定しがたい
ものがある.
7月31日の委員会決定を知って松尾町漁協は,早速に8月2日県に反対陳情を行い,(1)当日の委員会
については,水害のため組合代表の選定結果が困難であるので延期してもらいたい旨電話で申入れをなし たこと②委員会決議が分割その他の所有まで決定したのは行きすぎであることの二点を申入れている.
この陳情によってみても,前述の委員会決定が両組合長の同意を大前提としてなされた以上,その決定 の合理性は喪失しているといわなければならない.むしろ組合長の代理権の行きすぎと考へられる.まし てやその反対陳情に同意をあたへた西尾組合長が同道していることから,委員会及び仲介人による調整工 作の不備さへうかがわれる。いずれにしても,委員会決定が共有権者の一方の同意なしに行われたことは 歴然とした事実である.
その反対陳情後,松尾町漁協は,組合総会を開き(8月5日),委員会決定にたいする反対決議文を作成 して再度県に善処方を要望し,さらに24日臨時総会において,当面の責任者たる役員陣の総辞職を行い:F 新組合長以下を選出し,新たなる事態に備えた.
かかる松尾町漁協の基本態度からみて,組合所有漁業権の処分について組合総会は反対であり,水産業 協同組合法48条,5Q条からみて,委員会決定は何らの実効性を有しないものといわなければならない.委 員会が漁業権の分割変更を決定するの権限についての疑義は措いても・無権限の二合長の同意を前提とし てなされた決議はなんらの調整的効果を有しない結果となったのである.
(5)調整委員会の議決再確認
一方委員会決定により小島町漁協側は,15号漁場に杭うちをはじめ干割の実施にうつり,また松尾町漁
り り協の貝堀り組合員に入漁料支払を要求するなどの行動に出たkめ,8月26日松尾町漁協はその非を県に陳
情し,紛争は実力的段階に入ったかの感があり,ようやく社会の注目を深めはじめたr
事態の悪化を憂えた県は,小島町漁協の場割りを中止させるとともに,早急に委員会の開催と解決策を 要請したのである.この要請によって8月28日開かれたl14回委員会は, l13回委員会の決定を再確認する
とともに,はじめて県知事に意見を具申した(30日).県はこの具申を前提とした両組合の話合を行おうと したが,松尾町漁協はそれを拒否するとともに直ちに委員会の意見具申にたいする異議申立を県に提出し,
小島町漁協の実力行使にそなえて9月27日熊本地裁に漁場使用仮地位附与の仮処分命令を申請した.
この小島町漁協の行為はあきらかに権利侵害であり,委員会決定はなんらの法的確定をもたらすもので もなく,漁業権の分割変更は免許処分によってのみ効力を発生するものである(法22条).従てかかる漁 業調整上批判されるべき漁協をなお適格性ありとして再確認した委員会決議は不当なものといわざるをえ
ない(法14条1項1号,13条1項1号)。以上の経過を通して県の態度は,すべて委員会決定を基本とし円満なる調整を期したもののζとくであ る.然し法103条発動の必要ある場合にその措置をとりえず,徒らに紛争を拡大した疑義があるとみるべ
きであろう。(6) 32年建込以后の経過
この紛争の深刻な発展によって,委員会の意見具申をうけた県も何らの行政措置をとることができず,
32年建込期を迎へてなお漁場行使の安定は期しえない状態であった.よって県の斡せんにょりlO月4日次 の協定が二組合間に結ばれた.
第1条 昭和32年度における免許番号有北緯13号,竜燈第14号,道連第15号及び有意第16号区画漁業権 の,のりひび建込は,両組合それぞれ昭和31年度どおり建込むこととする
一 t e 一
第2条 両組合は,第1条による両組合の組合員の漁業操業を妨害しないよう充分に指導監督をする 第3条 第1条の漁業権に基く使用区分に関しては別に両組合において円満協定する方途をとることと
する
この協定に基いて行われた32年建込も,その「31年度どおり」の語義について紛議をかもし,なお根本 的問題を持越している状態である.
その後,33年1月に到り,松尾町漁協側は,熊本地裁に「漁場の単独使用および分割の承認判決の提訴 を行い,現在なお係争中である.
一方委員会は県の勧告によりさらに基礎的な資料を整備するため,2月1日U7回委員会において,小
島松尾地区専門委員6人を決定し調査を実施している.
第5節 紛争をめぐる二組合の主張
以上,熊本市地先区画漁場における紛争の経済的野条件,共有漁業権の実態と漁場利用の関連,紛争の 現象的経過を概略し,その都度問題となる点を指摘してきたが,以下綜合的に両者の主張を検討してみよ
う.
紛争の主要点については,以上の時間的経過のほかに,委員会¢)県への意見具申書と松尾町漁協の反対 意見書および同漁協の訴状がある.
まず委員会決定の事由について,8月30日県に提出された意見具申書は要約つぎのようにのべている.
『小島下町漁業協同組合及び松尾町漁業協同組合の共有に係る区画漁業権の取扱について「熊本市地先海 面における漁業権は,すべて小島下町,松尾町両漁業協同組合の共有に係るものであるが,区画漁業権に
関して,小島下町漁業協同組合より,その所属の明確化を陳情され,これについて両関係漁業協同組合の協議による自主的決定を求めたが,その決定がでぎないので,本委員会は,事態の紛きゆうを防止する 漁業調整上の見地から,左のとおり議決する(決定は前掲)」
ロ ロ の ロ り ロ
議決の理由としては
rl 免許番号有区第16号漁場は,漁業制度改革以来,小島の漁民によって実質的に漁業権の内容たる
べきのり養殖業が営まれて来た.松尾町漁業協同組合が主張する西尾武彦がのり養殖業を営んでおった漁 場は,免許番号工区等16号漁場内であり,西尾武彦は松尾町漁業協同組合の組合長ではあるが,その漁民 としての根拠地及び生活の本拠は小島町であり,過去及び現在とも小島町漁業協同組合の正組合員である
ロ も こ ゆ ロ の ロ り ほ る コ こ り り リ ビ リ り
ため免許番号有区第16号漁場は,その地元地区を熊本市小島町と認める.
2 免許番号有区第16号漁場内の一部を西尾武彦が使用し……この漁業権行使に当っては松尾町漁業協 同組合の漁業権行使計画に基き,且つ,漁業権行使料は,松尾町漁業協同組合が徴収しておった事実は明
の ロ コ リ ロ ロ リ ロ コ ロ リ コ リ ヒ リ リ る リ コ り り ゆ コ
らかであるが,小島下町漁業協同組合は,この区域は……自然的に西尾武彦が使用する所謂「天領」的な ものであって,漁業権は小島下町漁業協同組合に免許されておっても,これを他から侵:すことはできない
こ リ ロ リ リ む り リ コ コ ロ リ リ の リ ロ リ リ ゆ じ り
ものと考へておった.然るに,最近,この区域の一部に松尾町漁業協同組合の組合員が,のりひだ建込み を始めたので,小島下町漁業協同組合としては,たとえ漁業権は共有であっても,その行使区分は,小島 下町漁業協同組合にあるものとして委員会に訴えて来たのであって,委員会はこの区域を小島下町漁業協 同組合が管理するのが妥当であると認める.
3 (15号漁場および西尾漁場の松尾町漁協による一部使用は認めるが)漁場の区域決定にあたりこれ らの細部の分割は,実質的に困難であり,且つ社会経済的条件及び有明海区の特殊事情により,この区域
リ ロ じ り の ロ の コ
に松尾町の漁民が建込んで来た……計352枚を小島の区域とした漁場内に松尾の漁民に建込ませることを
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両組合長が了承した.
4 井手第二部会長その他の寝せんにより,小島下町,松尾町両組合長の意見が一致したとごろを尊重
して,これを基本として決定した. 』この委員会決定の理由について,県に提出された松尾町漁協の異議申立書はつぎのごとく反論している.
漁業権所有に係る異議申立書
1 熊本県有明海区漁業調整委員会(以下委員会と云う)の議決はその理由の第一として有区第16号は…
…西尾武彦……の生活の本拠は小島町であるという理由のもとに…小島町の所有であるものと認める旨申 しているが,本漁場は往古より松尾の漁場であり(元々小島町下松尾は松尾の漁場であった地区に松尾の 漁民の同意により干拓せられたものでありこれがために下松尾の名称が附せられているのである.)未だか つて本日まで一度も松尾町漁民以外の者がその漁業権を行使した事実は一度もない.
……何故に西尾武彦が……松尾町漁業協同組合の地区外組合員(準組合員)たらざるを得なかったとい う事実は,……松尾町の漁場であったがために松尾町漁業協同組合の組合員となり松尾町漁業協同組合の 行使規定によって松尾町漁業協同組合より漁場の貸与を受けざるを得なかった事情を如実に物語る以外の 何ものでもなく,……西尾武彦は……磁区第16号の漁場の使用料はその漁業の漁業権使用者である松尾町 漁業協同組合に年々納入していたものである.
2 ・・…・有区第16号漁場が共願の形となっている事実は事務処理上委員会事務者の示唆によってなされた ものであって,小島町漁協との共願の形に於てなされた以後においても,……その行使を中断したること はなく,松尾町漁民は……この漁場の所有に対し……完全に松尾町漁民のものであることを確信しておっ
たのである.3 委員会の理由三については有区第15号は全て松尾町漁民が操業をして来た事実を認めながら小島町の 漁場として小島町漁協が管理するが如く決議した委員会の議決は全く無軌道そのものであり,我々はこれ に対して反論する必要すら認めない.
なお小島町漁業協同組合長と松尾町漁業協同組合長と完全なる合意が成立したが如く述べているがこの 点についてもその事実は全くなかったこと並びに松尾町漁協組合員が絶対にこれを承服することが出来な
い…….4 制度改革による第1回免許許可料は(旧29号)小島町松尾町両地先漁場の全部に対して各々弐分の壱
あて折半して,小島松尾両組合から納入せられている事実は共同地先が事実上小島松尾両組合の折半を意 味するものであり,委員会の云う天領云々の言は全く暴言であり……. 』
第6節 漁業調整上の法律問題