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南アジア研究 第20号 004宮本 万里「森林放牧と牛の屠殺をめぐる文化の政治」

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森林放牧と牛の屠殺をめぐる

文化の政治

― 現代 ブー タンの国立公 園における環 境政 策 と牧 畜民―

宮本万里

1  は じめ に ブ ー タ ン王 国 は ヒマ ー ラヤ 山脈 の南斜 面 に位置 す る地 形 的特 徴 に よ り、 北部 高 山地帯 か ら南部 丘 陵地帯 に かけ ての高 度差 お よび 国土 に縦横 に切 り 裂 く複雑 な河 川 シス テム に よって多様 な生態 環境 が作 り出 されてお り、 豊 か な動植 物 相 に恵 まれ てい る1。 その な か には絶 滅 危惧 種 に指 定 され る動 植 物 の生 息地 がい くつ も存在 す る こ とか ら、 ブー タ ンを包摂 す る地域 一帯 は現 在 まで に世 界 の生物 多 様性 ホ ッ トス ポ ッ ト2の一つ に指定 され てい る。 この よ うな生態 環境 の も と、 ブ ー タ ン政 府 自身が、 「途 上 国 は一般 に経済 や社 会福 祉 に優 先順 位 をお くもので あ るが 、 ブー タンは賢 明 な 国王 の下 、 持 続不 可能 な資 源利 用 に よって確保 され る開発 ア プ ローチか らは距離 をお いて きた」[NCD 2003]と 語 る よ うに、 特 に90年 代 以 降環 境 保 護 を 国 是 と し、森 林 面積 の6割 維 持 を徹底 して 自然保 護 区 の規模 を国土 の約3割 まで拡大 す る な ど、 過剰 な 開発 を 自己規 制 す る との 政策 方針 と同時平 行的 に様 々な環境 政 策 を積 極 的 に実施 して きた 。 そ う した環 境保 護へ の取 り組 み は、 国連 や欧米 諸 国の援 助機 関 か らの技 術 や 資 金援 助 を通 じて支援 され る と共 に、 国 連 開発 計 画 の 「地 球 大 賞 」3 (2005年)や 世 界 自然保 護 基金 の 「ポ ー ル ・ゲ ツテ イ野 生生 物 保 護 賞 」4 (2006年)等 、多 く環境 関連 賞 の受 賞 を とお して評価 され て きた。 また、 執筆者紹介 み や も と ま り● 日本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員PD地 域 研 究 、 政 治 人 類 学 ・2004、 「現 代 ブ-タ ン に お け る森 林 政 策 の変 遷 と 環 境 保 全 体 制 の 成 立 」、 『ア ジ ア ・ア フ リカ 地 域 研 究 』、4-1、86-110頁 。 ・2007 、 「現 代 ブ ー タ ン に お け る ネ イ シ ョ ン形 成 一 文 化 ・環 境 政 策 か らみ た 自 画 像 の ポ リテ ィク ス ー」、 『人 文 学 報 』、94、77-100頁 。 [email protected]

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日本 をは じめ先進 諸 国の研 究者 や知 識人 の 問で も、 ブー タ ンを生 来の環 境 保護 国 と し、そ の国民 を 「自然 を守 り育 て る文化 を身 に着 けた人 々」 とし て描 き出す ブー タン政府 の 自己表象 は広 く共 有 され てお り、環 境保 護 を普 遍 的 な価 値 とみ なす グ ローバ ル な潮 流 の なかで い わば無批 判 に称揚 され て きた とい っ て よい5.し か し、 そ う した環 境 主 義 国 と しての 自己 表象 は、 市 民 運動 やNGO等 に よ る開発 批判 として 出て きた 「下 か らの環境 主 義 」 とは大 き く異 なる もの だ.ブ ー タ ンの環境 主義 は、 欧米 や他 の 開発 途 上諸 国 にお ける環境 主義 の背 景 にあ る よ うに、 生活 環境破 壊 や公 害 な どを経、験 した 人 々の苦 しみ の中 か ら生 れ た もので は な く、政 府 や王室 に よって導 か れた い わば 「上 か らの 」そ れで あ る。 政府 に よる 「上 か らの環境 主義 」 での語 りにお いて は、 ブー タ ンの人 々 は本 質的 に 自然 を守 り育て る生活 文化 を持 ち、そ れ は全 て の生 き物へ の憐 れみ と尊 重 に代 表 され る大乗 仏教 の 文化伝 統 と自然観 に よっ て担保 されて い る とす る6。 開発 活動 の拡 大 に伴 い国 内 にお け る外 国人 労働 者 や移 民 の 人 口規 模 が 増 大す る なか 、特 に1980年 代 以 来、 国 内で は 「ブ ー タ ン人 」 の属 性 を定 義 し、他者 との境界 を明確化 し よう と様 々 な文化保 護 政策 が実 行 され て いた.政 府 は ゾ ンカ(語)の 国語化 や 国史 の形成 お よび民族 衣装 の国民服 化 を とお して 「ブ ー タ ン人」 の属性 定 義 を試み る と同時 に、 大乗 仏教 の ドゥル ック派 を基 盤 とした文化伝 統 を 「国民 文化 」 として再構築 し、 敬 虔 な仏教徒 であ る こ とを 「ブ ー タ ン人」 の 内面的 な属性 として定義 して きた7。 そ の上 で、90年 代 に入 る と、 グ ローバ ル な環境 保 護 の潮流 と並行 して国 内で の環境 政策 を強化 し、 国土 の7割 以上 を森 林 と して保 存 して き た現状 を 「証拠 」 と して、 ブー タン人 を 「自然 環境 にや さ しい 」独 自の 文 化 ・慣 習 を有 す る人 々 と して描 き出 して きた ので あ る。 こ う して ブー タ ン政府 が 自国の環境 主 義 と森 を守 る文化 の 「古 さ」と 「内 発 性」 を強調 し、それ らを 「国民文化 」 と して表象 す る一 方、 実際 の環 境 保護 の枠 組 み はグ ローバ ルな環境 言 説 や技 術 な ど 「外 発 的」 な要 因 に大 き く規 定 されて きた 。一 つ には 、ブ ー タ ン政 府 の環境 思想 や 政 策が ア ル ネ ・ ネス な どに代 表 され る欧 米の環 境主 義思 想 や地球 環境 サ ミ ッ トの 決議等 に 大 き く影響 を受 け た点 で あ り[宮 本2004:96]、 も う一 つの側 面 と して は、 環境 破壊 や 森林 減少 に関 わ る様 々な原 因論(焼 畑 ・移 動牧 畜 ・人 口増加 な ど)に 基 づ い た環 境保 護 の ための理 念 と技術 、 そ して野生 動物 保 護や 生物 多 様 性の保存 とい った 目的の ため に設 立 された 自然保 護 区や 国立 公 園の管

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森林放牧 と牛の屠殺 をめぐる文化の政治一現代ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民一 理 方法 につ い て、 グ ローバ ル な枠 組み を引 き継 い でい る点 であ る。 ブー タ ン政府 が主 張す る自然環境 保 護 に は、仏教伝 統 に基 づ く自然 保護 思 想 と実践 の保 存 とい う意 味合 いが 内包 され てい る一方 、実 際 の環境 保護 政 策 が集 中的 に実施 され るこ とに なる国立 公 園 な どの 自然保 護 区で は、環 境 保護 は人 々に よる 自然 資源 利用 の方 法 を科学 的 に管理 す る こ とを意 味 し てい る。 そ して、対 象地 域 に暮 らす 人 々に とって 自然環 境保 護 とは、 自分 た ちの伝統 的 な生活 慣習 を脅 かす もの と して 、時 には生 活 を向上 させ る も の と して 、あ るい は信仰 を妨 げ る もの と して 、様 々 な意 味合 い で捉 え られ て い る.政 府 や 援助 機 関 が想 定す る 「環 境 にや さ しいブ ー タ ン人」像 は、 国民 にそ の ま ま受 け入 れ られ てい るわ けで はない 。様 々 な具 体 的 な政策 を とお して 入 り込 む 「環境 保 護」 や 「環 境 にや さ しい」 生活様 式 のモ デ ルは、 人 々に よって 自 らの生活 を よ りよい ものへ とず らし、読 み替 え られ る こ と で引 き受 け られ てい るの だ.本 研 究 で は、 こ う した 「環境保 護 」や 「環境 にや さ しい生 活 」 をめ ぐって立 ち起 こる価 値 の交 渉過 程 と読み 替 え をめ ぐ る文 化 の政治 を、 自然 国立 公 園内 に位 置 す る一つ の牧 畜村 の事例 を も とに して、 「放 牧 」 と 「牛 の屠殺 」 をキ ー ワー ドに考 察 してい きた い.

2  ブータンの環境政策における 「

放牧地」 と 「

放牧」の位置づけ

本 稿 にお いて牧 畜村 の事 例 を考 察す る にあた り、 ここで は まず 、 ブー タ ン政府 の 自然 資 源管理 と環 境 政策 にお け る放 牧地 と放 牧 の扱 い を時系列 的 に整理 したい。 山岳 地域 の標 高差 を利用 した移動 放牧 は、 ブー タ ンの牧 畜 民 に とっ ては最 も身 近 な牧 畜形 態 の一 つで あ る。 しか しなが ら、 こう した 移 動放 牧 は森 林 資源 へ の依 存 度が 高 く広 範 囲 に放 牧 地 を必 要 とす るため 、 近 年特 に環境 保 護 の観点 か ら環境 負荷 の高 い慣 習 として認識 され て いる。 移動 放牧 を行 うブー タ ンの牧畜 民 の多 くに とっ て、 国土の ほ ぼ全 て の土 地 は放 牧地 と して利用 可 能 だ と考 え られ てい る。私有 か 国有 か に関 わ らず 全 て の森林 地帯 は放 牧地 や家 畜 の移動 ル ー トを含 み 、耕作 地 で も収 穫 後 は 刈 跡放 牧が 行 われ、焼 畑 耕作 地 の場 合 は休 閑期 間 を放 牧 地 と して活 用 す る な ど、ブ ー タ ンの 国土 で家畜 の痕 跡 のな い土地 を探 す方 が 困難 だ といえ る。 しか しなが ら、 政府 が土 地所 有制 度 の再構築 と自然 資源 管理 の近代 化 を試 み るなか で 「森 林」 は国有化 され、 それ に伴 い森林 内の 放牧 地 は徐 々に厳 しい管 理 の下 に置 かれ てい った 。以下 で は、政府 に よる 「森林 」 の定 義 の

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変遷 を整理 しつ つ 、放牧 地 と放牧 の習 慣 とが いか に位置 づ け られて きた の か を考 察 す る。

1969年 の森 林 法(The Bhutan Forest Act 1969)以 来 、 ブー タ ンで は 全 て の森林 地帯 が 「保 護林 」8として国有化 され て きた。 その 「森林(Forest) 」 は69年 法 で は 「誰 も使 用 お よ び占拠 に関 して永 久 的 で相 続 可能 で 譲渡 可 能 な権 利 を獲 得 して い ない 、森 林 に 覆 わ れ た あ ら ゆ る土 地 」[MOT 1969:4-e]と して 定義 され てい る。 この政 策 に よ り、牧 畜 民 が慣 習 的 に 利 用 して きた森 林地 帯 に位 置 す る放牧 地 の多 くが 国有林 に包摂 され、 政府 の管理 を受 け る こ ととなっ た。他 方、正 規 に登録 され た放牧 地 を持 つ 者 は、 土 地税 を支払 う こ とで従 来通 りの放 牧 の権利 を保 障 され た。

しか し、1974年 に策定 された 国家森 林政 策(National Forest Policy of Bhutan 1974)で は、政府 が 「森林 地帯 にお いて個 人 に広 大 な土 地 に対 す る永 久 的 な放 牧権 を与 え」て い る状 況 が、 土壌 と植生 の保 全 とい う観 点か らみ て相 応 し くな い との考 えが 提 出 され る[MOA1974:1-3]。 これ は、 正規 に登 録 され た保護 林 の外 の放牧 地 にお いて も、 その規 模 や生態 環境 に 応 じて放 牧権 を剥 奪す る必 要性 を示 唆す る もの であ った 。 そ う した な か、1995年 に は 「森 林 お よ び 自然 保 護 法(Forestand Nature Conservation Act of Bhutan 1995)」 が 森林 局 よ り公 布 され 、新 た な 「森林 」 定 義 が提 出 され た。95年 法 に お いて 「森 林 」 は 「誰 も永 久 的 で譲渡 可能 な利用 権お よび 占有権 を有 しない土 地 で、 その土 地が 植物 に 覆 われ てい るか否 か、森 林境 界 の石碑 の 内側 か否 か に関 らず 、ツ ァム ド(放 牧地)や ソク シ ン(家 畜の寝 藁用 の葉 を集め る ための 共有林)と して個 人 名 で登 録 され て い る土 地 を含 む全 ての土 地 と水 域 」9[MOA1995:3-e] と定 義 され た。 この定 義 に よ り、耕作 地 と宅 地以外 の全 ての土 地が 、実 際 の樹 木 の有 無 にか か わ らず 「森林 」 と して分 類 され10、69年 法 とは異 な り、 正規 に 登録 され た放 牧 地 を含 む全 て の放牧 地 が保護 林 と して森林 局 の管 理 対 象 とされた 。 95年 法 の も と、牧 畜 民 は 自 らの放 牧 地 に対 す る 開墾 や森 林 伐採 の 権利 を失 い、森 林 を切 り開 く牧草 地 の造成 も政 府 の許可 な しには実施 不可 能 と な った。放 牧 の権利 は基 本 的 には保障 されたが 、環 境上 の脆 弱性 か ら鑑 み て政府 や森 林局 が放 牧禁 止 とした地域 につ い ては侵 入が 禁 じられ、不 法侵 入 した場 合 に は 畜 牛 の 没 収 と罰 金 とい う懲 罰 が 課 され る こ と とな っ た [MOA 1995:30-a,b,c]11。 この よ うに、牧 畜 民 に よ る慣 習 的 な放 牧利

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森林放牧 と牛の屠殺をめぐる文化の政治―現代ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民― 用 の 方法 は、 自然保 護 関連法 の なか で徐 々 に規 制 の対象 とな り、人 々 は放 牧地利 用 にお け る 自 らの決定 権 を奪 われ てい った 。 ブー タ ンに おい て 自然 環境 保 護へ の取 り組 みが 急速 に具体 化 した90年 代 後 半以 降、 政府 は グローバ ルに流通 す る環境 破壊 の原 因論 を積 極 的 に取 り入 れ環境 政 策へ と反 映 させ て いた が、森 林放 牧 を 「自然環 境保 護へ の脅 威 」 とす る言説 もそ の一 つ で あ った。2002年 に 出 された 「生 物多 様 性 ア ク シ ョ ン ・プ ラン(Biodiversity Action Plan for Bhutan 2002)」12で は、 牧 畜民 に よる森 林放 牧 は、 土壌浸 食 や生物 多様 性の喪 失 を導 き、植 生の 回 復 を妨 げ る危 険 が あ る と され、 自然 環境 保 護 に対 す る 「脅威(lhreat)」 と して 明確 に定義 された[MOA 2002:65].こ の よ うに、現代 ブー タ ン にお け る牧 畜 民 の生活 は、放 牧 地の管 理 を とお して徐 々 に政 府 の環境 政 策 の影 響下 に置 かれ て きた。

3  ブータン社会における畜牛保有 と家畜飼育形態

2006年 度の農 業省 のセ ンサス に よれ ば、 ブー タン国内で飼 育 されて いる 家畜 の 総数 は712,000頭 で あ り、 うち45%(320,400頭)が 牛 で構 成 され て い る。 農業 省 は交配 を通 して土着 の牛 の 品種 改 良 を図 ってお り、現 在 ま で に畜 牛全 体 の11%が 改良 品種 とな ってい る。農耕 と牧 畜 を複 合 的 に行 う 生業形 態 が一般 的 なブー タン社 会 におい て は、全 世帯 の少 な くとも78%が 牛(牝 牛 、牡 牛、 また は両方)を 所 有 して い る。他 方、標 高 の高 い 寒冷 地 を生 、自域 とす るヤ クは、家畜 総数 の4.9%(35,000頭)を 占め、世帯 総 数の 22%の 世 帯が比 較 的独 占的 に所 有 してい る。国 内で は水 牛 も飼育 され てい るが 、生育 地が亜 熱帯 に限 られて いるた め家畜総 数の0.30%を占め るの みで あ り、 ブー タン南 部の1%に 満た ない世帯 が所有 して い る13[MOA 2006]。 家 畜 の三機 能 は役畜 、用 畜 、糞畜 で あ る とされ るが[篠 田 ・中里2002: 92]、 ブ ー タ ンにお いて 、牛 やヤ クな どの大 家畜 は、雄 が耕 作用 の役 畜 と しての機 能 を担 い、雌 が搾 乳用 の用 畜 としての機 能 を担 う。 ミル クか ら加 工 す るバ ター とチー ズ はス ジ ャ(バ ター茶)や エマ ダ ツ ィ(唐 辛子 の チー ズ煮 込)を 中心 と した ブー タ ンの 人 々の食生 活 にお いて不 可欠 で あ る一 方 、 食 肉用 に牛 を飼 育 してい る と公 言す る者 はい ない.牛 肉 を食す 習慣 が あ る に も関 わ らず 、肉畜 と しての牛 の機 能 は、お そ ら く宗教 上 の理 由か ら、ブー タ ン社 会 にお い て は特 に伏 せ られ て い る。 また 、家 畜 の糞尿 につ い て は、

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水 耕や畑 作 が盛 ん な地域 で は収 穫後 の耕 地 を利用 した刈跡 放牧 に よって直 接土 壌 に還 元 され、 一部 で舎飼 形態 を取 り入 れ てい る地域 で は牛舎 で集 め た糞 尿 を周辺 の森 林 か ら集 め た落葉 と混 ぜ て発酵 させ 堆肥 に して使 われて い る。 しか しなが ら、牧畜 へ の依存 度 が高 く家畜 頭数 の大 きい地域 で は多 くの場合 通年 にわた って移 動放 牧 が行 われ てお り、糞 尿 のほ とん どが放 牧 地 のあ る森林 地帯 の土壌 に還元 され るこ と とな る。 国内 での土 地利 用状 況 をみ る と、水 田、畑 地 、焼畑 地 その他 の全 て の耕 作地 を含 め た農地 の総 面積 が1,158,186エ ー カーで あ るの に対 して、放 牧 の 目的 で使 用 され てい る土地 の総 面積 は428,242エ ー カ ー と報告 されて お り、 国内 の生業 形態 の なか で牧畜 は土 地利 用面 積 か らい って も無 視 で き ない存在 で あ った。放 牧地 はゾ ンカで ッ ァム ド(Tsamdrog)と 呼 ばれ、土 地台 帳 に も同様 の名称 で登 録 され てい る。 ブー タ ン国内 で も標 高 の高 い地 域 の放牧 地 は森林 限界 を超 えてい る ところ も多 く、 ほぼ草 地 か ら構 成 され て お り、主 にヤ ク な どの高 地 に適 した家 畜 の放牧 地 として利用 されて い る。 他方 、 お よそ3000メ ー トル以 下 の地域 は主 に牛 の放 牧 地 として使 わ れて お り、気 候 的 には標高 に応 じて寒帯 か ら亜熱 帯 まで多 様 で、多 くの場合 森 林 か ら構 成 され てい る。 一 般 に ブー タ ンの牧 畜民 は、 南北 の標 高差 を利用 して生 態環境 の異 な る 地域 にそれぞ れ放 牧地 を所有 してお り、季 節 に応 じて垂 直 的 な移動 を繰 り 返す季 節 放牧 の形 態 を とって きた。 大 きな群 れ を所 有 す る世帯 で は、数 名 の成 員が 代表 して牧畜 に専従 し、各 地の放 牧 地 を転 々 と しなが ら群 れ と共 に生 活す る.移 動 型の森 林放 牧 の場合 、各 世帯 間の放牧 地 の境界 は外 部 の 者 か らは見定 め る のが難 しいが 、基 本 的 にその境 界 は 自然物(山 ・小 川 ・ 岩 な ど)を 目印 と してあ る程 度 明確 に 区切 られ てお り、個 々の ツ ァム ドに は土 地の特 徴 に ちな んでそ れぞ れ名前 がつ け られ てい る。 一つ の放牧 地 に お ける放牧 期 間 はツ ァム ドの規模 と環 境 に応 じて調 節 され てお り、 一定期 間の放 牧 を終 え る と次 の放牧 地へ 移動 し、 ロー テー シ ョンでい くつ かの放 牧 地 を巡 回 したの ち、植 生 の回復 を待 って再 び最初 の放 牧 地へ戻 る。 こ う した仕 組 みの もと、森林 内 に広 が る放 牧地 で は住民 自 らの責 任 にお いて持 続 的 な利用 が 図 られて きた 。

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森林放牧と牛の屠殺をめぐる文化の政治―現代 ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民―

4  森林放牧をめぐるボ リティクス

本 節 で は、 トゥムシ ンラ国立 公 園内 の牧畜村 で行 った フ ィール ドワー ク を もとに、森 林放 牧 と牛 の屠殺 をめ ぐって生 起す る文化 の政治 を描 い てい く。調査 対 象村 であ るS村 は、筆 者 が2002年 の最 初 の ブー タ ン訪 問か ら 現在 まで 毎 年継 続 的 な調 査 を行 っ て きた 地 域 で あ り、 特 に2004年 か ら 2005年 末 まで の約1年 間 の ブー タ ン滞 在 中 は、世 帯 調査 を 中心 と した村 落調査 を集 中的 に行 った.自 然 環境保 護 をめ ぐる価 値 の政 治 は、牧 畜村 で あ るS村 におい て は森 林放 牧 と牛 の屠 殺 をめ ぐる政 治へ と読 み替 え られて い る。 ここで は、S村 の村 民 の ほか 、 国立公 園 のス タ ッフ として村 に駐 在 してい る森林 保護 官、村 民 の畜 牛管 理 を担 う畜産 局 の駐在 員 を主要 な ア ク ター と考 え、村 落 住民 と彼 らの問 に生起 す る相 互 交渉 の過程 を、政 府 の各 省庁 の森林 ・牧畜 政策 の動 向、 お よび村 人 の仏教信 仰 に 関連づ け なが ら立 体 的 に描 き出 してい きた い。 4-1  調査 村 の概要 S村 はモ ンガ ル県の サ リ ン郡14に属す る村落 で 、世 帯数21、 人 口278名15、 標 高3100mの 高地 に位 置 す る牧畜 村 で あ る。 モ ンガル県 側 の周 辺村 落 の 住民 の多 くが ツ ァンラ(Tshangla)お よび チ ョチ ャ ガチ ャ カ(Cbo-ca-nga-ca-kha)を 話 す なか 、S村 は北側 の ブム タ ン県 との 県境 に近 く、住 民 はブ ム タ ン地 方 の言語 で ある ブム タ ンカ(Bmtbang-kba)を 話 し、生 活 慣習 や 生業 か らみ て も温 暖 なモ ンガ ル よ りも寒 冷 なブ ム タンのそ れ に近 い16. 村 人 の話 に よれ ば、S村 は ワ ンチ ュ ック王 家 が1907年 に王 制 を打 ち立 て た後、東 部 のモ ンガル県 と中央 部 の ブム タ ン県 をつ な ぐ流 通 路上 の 中継 地が不 在 で あっ た こ とか ら、物 資運搬 上 の便利 の ため に新 設 された村 で あ る。 王室 政府 はブ ム タ ン側 か ら3世 帯 の住民 を入 植 させ た うえ、 人 々 を国 の流 通 を担 う過酷 な荷運 び労働 に従事 させ た.移 住 者 に は労 働 の代償 と し て周辺 の耕作 地が 下賜 され てい たが 、当初 は労 役 の負担 が大 き く、各 世帯 とも農耕 に従事 す る労働 力 を十分 に確 保 で きなか った.し か し、 この労役 も70年 代 に村 の傍 に国 道が 開 通 した こ とに よ り不 要 とな り、 人 々 は牧畜 を生業 とす る生 活へ と移 り変 わ って い った。世 帯数 も他 村 か らの移住 者 や 分 家 した世 帯 を含 め現在 まで に全21世 帯 と拡大 した。 S村 は標 高3780mの 峠 トゥム シ ン ・ラ(Tbrumseng La)か ら続 く尾 根

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沿い に広 が るな だ らか な丘 陵部 に位 置 してお り、家 々は針 葉樹林 の森 の な か に盆地状 に開 けた草 地の 中央 に集 落 を形 成 してい る.村 人 は以前 は小 麦 や ソバ を栽培 し主 食 と していた が、現 在 まで に ほ とん どの 世帯(商 店 を営 む1世 帯 を除 く全20世 帯)が ほ ぼ完全 に牧 畜 に依 存 した生 業 形態 を とっ てお り、 ア クセス の よい 自動 車 道路 沿 いでチ ーズ な どの乳 製 品 を販 売す る こ とで現 金 収入 を得 て主 食 となる米 や生 活 必 需 品 を購 入 して い る。現在 、 村 で飼 育 されて い る畜牛 頭 数 の総 計 は約490頭 で あ り、 そ の飼料 の ほ と ん どを森 林放 牧 に依存 してい る。 共 同体 は現在 まで にS村 周 辺 の542エ ー カーの森 に対 し共 有 の放牧権 を持 ち、夏 の 問の放 牧地 と して利 用 して い る ほ か、モ ンガル側 の低 地 に も800エ ー カー の共有 放牧 地 を持 ち、冬 の放 牧 地 として使用 してい る。 モ ンガ ル側 の放 牧地 の あ る場 所 は リ ン ミタ ンと呼 ばれ る地域 で あ り、S 村 の人 々が放 牧地 と耕 作 地 を所 有 す る地 区 は特 に シ ュ ッテ ィ と呼 ば れ る。 この地 の標 高 は650mと 低 く、常 緑 の広 葉樹 を主 と した森 が広 が る温 暖 な 土 地 であ る。 自動 車 を使 え ば現 在 はS村 か ら約3時 間 の距離 で あ るが 、二 つ の村 の 問 に は実 に2450mの 標 高 差 があ り、村 人が 家畜 と移動 す る際 に は2、3日 の行 程 で あ る。現 在 シュ ッテ ィ村 と呼 ばれ る その 地域 は、 シ ャ ブ ドゥン ・ンガ ワ ン ・ナム ゲルが ブ ー タ ン統一 を果た した17世 紀 後 半 に、 モ ンガル地方 を統 括 す る行 政府 と して シ ョンガル ・ゾ ンを建 設 した場所 で あ り、村 か ら見上 げる丘 の 上 に は現 在 もそ の廃嘘 が 残 る17.S村 の 人 々が シュ ッテ ィに合 法 的 に土 地 を得 た の は1983年 の こ とであ る。 ワ ンチ ュ ッ ク王家 の女性 親族 の 一人 が シ ョンガ ル ・ゾ ンの あ る丘の裾 野 に所 有す る耕 作 地 の うち40エ ー カ ーの 土地 の譲 渡 を提 案 し、S村 の村 人 は合 議 して共 同購 入 す る こ とを決 定 した。 この機 を境 に、 シュ ッテ ィに は小 さな石 造 り の家 が建 て られ始 め 、冬 の村 と呼べ る ような小 さな集落 を形 成 して いっ た. 夏 と冬 で 居 住 村 を変 え る とい う現 在 のS村 民 に よ る季 節 移 動 の 習 慣 は、 ブー タ ンの他 の 地域 とは異 な り、 シュ ッテ ィ村 の形 成 に伴 って過 去数 十年 の間 に新 たに定 着 して きた と考 え られ る。 シュ ッテ ィの 農地 は村 人 間で分 配 され、購 入 後15年 ほ どの 間 は焼畑 地 として使 わ れ るが、1998年 に この 地域 が トゥム シ ンラ国立 公 園 の下 に置 か れ る と焼 畑耕作 に対 す る規 制が厳 しくな り、村 人 は焼畑 地 を常 畑 の カム ジ ン(Camzbing)へ と転 換 した。 カ ム ジ ンで は トウ モ ロ コ シな どが栽 培 され てい た が、2002年 に なる と以 前 の居住 者 が利 用 して いた 灌漑 用水 路

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森林放牧と牛の屠殺をめぐる文化の政治―現代 ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民― の跡 が村 人 に よって発 見 され耕 作地 の約 半分 で水 耕が可 能 とな った こ とか ら、 村 民 は用 途 を さ らに変 更 し水 田 のチ ュ ジ ン(Cbmbing)と して再 登 録 して い る。現 在 、40エ ー カ ーの農 地 は村 の20世 帯 に2エ ー カーず つ 分 配 され、 各世 帯 は1エ ー カ ー をチ ュジ ン、残 りの1エ ー カー をカム ジ ンと して利 用 して い る。 また、1998年 に はモ ンガル僧 院が所 有 して きた リ ンミ タ ン周辺 の森 に 対 す る放 牧権 が一 般 の牧 畜民 に譲 渡 され るこ と とな り、S村 の村 人 は再 び 共 同 で800エ ー カ ーの 放牧 地 に対 す る放 牧 権 の購 入 を決 め た。 これ に よ り、村 民 は温 暖 な低 地 に も十 分 な放 牧 地 を合 法 的 に確 保 す る こ とにな った。 現在 まで にS村 の人 々 は冬 の始 ま りに合 わせ リ ンミタ ンの放牧 地へ 組織 的 に牛 を移 動 させ る よ うにな ってい る。移 動 の際 、村民 は放 牧圧 を分 散 す る た め村 内の畜 牛 を均等 に二 分 す る よう世 帯 を二手 に分 け、異 な るルー トを とお って南 の放牧 地へ と向か う。 こ う してS村 の村民 は、僧 院や 王家 が所 有 して きた 土地 を購 入す るこ と で、 南 の土地 に水 田 と放牧 地 お よび住 居 を得 て移 動農 牧 と季 節 的移 住 を行 うとい う、ブー タ ンの 主流社 会 の人 々が 伝統 的 に享受 して きた 「ゆたか な」 暮 ら しと慣 習 を、 遅れ ばせ なが ら身 につ け る こと となっ た。 しか し、 これ と同時期 に活 発化 した 国立公 園 の環境 保 護活 動 は、S村 の人 々 の生活 様 式 や慣習 を、森林 局 の思 い描 く 「環 境 にや さ しい」 それへ と再 変容 させ る力 として働 きつ つあ った 。 4-2  森 林放 牧 と牛 をめ ぐる状 況 森 林 放牧 をめ ぐるポ リテ ィク ス を考 察す るに あた り、S村 の村民 の生活 に関連 す るア ク ター と して、(1)農業 省森 林 局の トゥム シ ンラ国立 公 園、(2) 農業 省畜 産局 、(3)僧侶 集 団 を取 り上 げ 、そ の政 策 と活 動 を紹介 す る。 4-2-1  アク ター1:農 業省 森林 局 トゥム シンラ 国立公 園 ブー タ ンの国立 公 園で は、政府 が 自然保 護 を開発 に優 先 す る と宣 言 した 90年 代 以 降、 自然 環 境保 護 に向 け た国 家 的 な努力 を国 内外 に ア ピール す るた めの最 も効 果 的 な場 と して積 極 的 な保 護政 策 が導入 されて きた。 トゥ ム シ ンラ 国立 公 園 は、1998年 にChir-Pineの 森 林 を中心 と した 自然 生態 とそ こに生 息す る希 少動 物 の保護 を 目的 として設立 され、世 界 自然保 護 基 金 の直接 的 な援助 資 金 に よって活 動が 開始 された。公 園面 積 は768平 方 キ

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ロ、 そ の境 界 はブ ム タ ン県 、モ ンガル県 、 シェム ガ ン県 、 ル ンツ ィ県 の4 県 を横 断 す る。 公 園 の総合管 理事 務所 はブ ム タン県 の ウ ラ郡 に建 設 され てお り、 そ こか らモ ンガ ル県 サ リン郡 にあ る西地 区公 園監 視 員事務 所 まで は車 で約5時 間 の距 離 だが 、S村 は両事 務所 の 中 間地点 に あ って行 政上 孤立 してお り、 長 い 間 森林 管 理 の た め の法 規 制 が 深 く入 り込 む こ とは な か っ た。 しか し、 2004年 にはS村 に個 別 に準 公 園 監視 員 事 務所(Deputy Warden Office) が建 設 され 、森 林保 護 官(Forest Guard)が1名 派遣 され常 駐 して お り、 彼 が村 落住 民 と森林 局お よび国立 公 園の媒介 者 となっ て、村 民 の 日常 的 な 資 源利 用 と生活 慣習 に対 し直接 的 な規 制 と管理 を行 っ てい る。 公 園事務 所 の大 目的 は園 内の生 態環境 と生物 多様 性の保 存 で あ り、そ れ は人 間活動 を森 林 内か ら可能 な限 り排 除す る政 策へ と向か って い る。国立 公 園 を管轄 す る森林 局 は、森 林へ の畜 牛 の侵入 が 、土壌 の踏 み 固め に よる 土壌浸 食 や森林 内 の土壌 に還 元 され るべ き栄養 の収 奪 を帰結 す る と考 えて お り、公 園 ご との個 別 の政 策 におい て も森 林放 牧 は排 除すべ き脅 威 と して 認識 されて い る18.牧 畜 を生業 とす るS村 の人 々に対 して は、放 牧圧 に よ る森林 へ の負担 を軽 減 す るた め、森林 内で の 日常 的 な放牧 と季 節移 動 の習 慣 の放棄 を促 して きた。 その一 方で 、森林 放 牧 に代 替 す る牧畜 形態 と して は、 定住 と牧 草地 の造 成 に特 徴 づ け られ る定着 ・定住 型 の酪農 牧畜 へ の移 行 を推進 してお り、 その ため の政策 と して 、環境 保護 プロ ジェ ク トの名 の も とで牧 草地 を囲い込 む柵 用 資材(鉄 柱 や鉄 条網)の 提供 を行 い 、 同時 に、 造成 された放 牧地 で飼 育可 能 な数 まで畜 牛頭 数 を削減 す る よ う促 してい る。 4-2-2  ア ク ター2:農 業 省畜 産局 国 内 の全世 帯 の78%が 牛 を所 有 す るブ ー タ ン社 会 にお いて 、畜 産 局 は 国民 全体 の経済 発展 に大 き く寄与 す る重要 なセ ク ター だ と認 識 され てい る。 ブー タン国内 で は牛 は肉畜 として公 に飼育 され る ことは ほ とん どな く、基 本 的 に搾乳 用 お よび 耕作 用 と して飼育 されて い る。そ う した なか、 畜産 局 は牧 畜の効 率化 と酪農業 の振 興 を大 目的 と して きた. S村 に対 して は一時 期 ス イ スの 援助 機 関で あ るヘ ルベ タス(Helvetas) が酪 農 開発 プ ロジ ェク トを導入 し、村 落 周辺 で の牧草 地 の造成 が推 進 され たが 継続 は しなか った.現 在 まで に、村 には畜産 局 の地方 事務 所が 建 て ら れ専 門の職員 一名 が家 族 と共 に駐在 してお り、家 畜 の伝 染 病対 策 や牧草 や

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森林放牧と牛の屠殺 をめぐる文化の政治一現代ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民− 牧 畜形 態 の 「改 善」 の ため に様 々な プロ グ ラム を実施 してい る。畜 産 局が 近 年 開発 計 画 を通 して最 も力 を入 れて きて い るの は、移動 型 の放牧 形態 か ら定 住型 の舎 飼形 態へ の転 換 を図 り、集 約 的 な搾 乳 ・酪農 業 を推進 しよ う とい う 「改善 策」 の導 入 であ る. 定住 型 の酪 農業 を推 進す る にあ た り、現在 の490頭 の牛 の ための 飼料 は S村 周 辺 に 自生 す る草 木 のみ で は不足 で あ るた め、畜 産局 は段 階 的 な牛 の 頭 数削 減 と飼料 用 の牧草 地 の造成 を同時並 行 で行 うこ とが肝 要 であ る と考 えて い る。畜産 局 の駐在 員 は現在 、生 産性 が高 く大 型 の ヨー ロ ッパ種 の牡 牛(ブ ラウ ン ・ス イス)を1頭S村 に導 入 し、村 の代表 者 に飼 育 させ て在 来 牛 との交 配 を試み て いる。駐 在 員 は村 人 に対 して、交 配の 目的 を 「在 来 牛 の生 産性 を高 め る」 こ とだ と説 明す る。現 在 、畜 産局 は二つ の 方向 か ら 村 人の所 有 す る家 畜 の頭数 削減 を試 み てい る。一 つ は搾 乳 可能 な牝 牛 の ほ か 、繁殖 用 と耕作 用 に必要 な数 頭 の牡牛 以外 の牛 は 「不必 要 な牛 」で あ る と し、選 別 し、処 分 させ よ う とす る もので あ る。 そ して もう一 方が 、上 述 した よ うに、外 来 の ブ ラウ ン ・ス イス牛 との交配 に よっ て1頭 当 た りの生 産性 を高 め て、全体 の必要頭 数 を減 らそ う との試 み だ。 4-2-3  アク ター3:仏 教僧 上述 の 二つ の アク ター とは別 に、近 年 ブー タンで は国の僧 院機 関(主 に ドゥル ック派)あ るい は独 立 した私設 の僧 院集 団(主 にニ ンマ派)か ら派 遣 された僧侶 が 遠 隔地 の村 落 を巡礼 しつつ 説法 を行 っ てお り、 この巡礼 僧 がS村 に関 る もう一 つ の アク ター とな って いる。 そ れ らの巡礼 僧 の大 目的 は 「正 しい」仏教 教 義 を広 め る こ とにあ るが、村 人 に対す る最 も分 か りや す い教 え と して 、 しば しば殺生 の罪 深 さが説 か れ るこ とに なる。 その際 に 村 民 に とって最 も身近 な例 と して持 ち 出 される のが ブー タ ンの農村 部 で行 わ れて い る養豚 の習慣 だ. 僧侶 たち は、搾 乳 目的で は な く純 粋 に食 用 の ため に育て て殺 す とい う養 豚 の 習慣 が仏教 的 にみ て大 きな罪 だ とい うこ とを人 々に説 き、 その習 慣 を 放 棄 す る よう促 して きた.ブ ー タンの農 付部 で は古 くか ら土 地 の 自然神 に 向 けた祭祀 の 際 に豚 を供 物 として捧 げ る習 慣 があ り、豚 肉 は共 同体 の平和 と繁栄 を担 保す る もの と考 え られて きた。 しか しなが ら、仏教 僧 た ちは そ れ らの 習 慣 を後 進 的 で 野 蛮 で あ り仏 教 教 義 に反 す る もの とす る こ とで 、 人 々 のなか に殺 生 に対 す る忌避 感 を植 えつ け よ う と試 み て きた.

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チベ ッ ト仏 教 を ブー タ ン国民 の精 神 的 ・文化 的基盤 と して位 置づ け、 国 教 と して制 度化 を図っ て きた政府 お よび 中央僧 院の 試み に加 え、 こう した 仏 教僧 らに よる長年 の試 み に よ り、 ブー タ ンの村 落社 会 で は、 あ らゆ る生 き物 の殺生 を忌 避す るこ とで 「よ き仏教 徒 」 であ ろ う とす る こ とが強 く意 識 され る よ うに なっ てい る.過 去10年 以 内 に養 豚 の習慣 を放 棄 した村 は 多 く、既 に放棄 した村 で も過 去 の養豚 や その他 の動 物 の供犠 を 自分 た ちの 習慣 と して他 人 に語 る ことに大 きな躊 躇 をみせ て い る。た とえその変 化 が 数年 前で あ って も、多 くの村 人 は 「以前 はそ うい うこ と もあ ったが 、ず っ とず っ と前か ら もう止 め てい る」 と語 るの だ。つ ま り、現代 ブー タンにお い て養豚 や供犠 を含 む屠 殺 の習 慣は、そ れが 自分 た ちに とっ て既 に 「過 去」 で あ るこ とを前提 に しか語 りが 発生 しない状 況 となって い る。 4-3  「自然 環境 保護 」 とは牛 を殺 す こ と 上述 の森林 局 と畜 産局 とい うそれ ぞれ異 な るア ク ター によ って導入 され てい る主要 な政 策 を概観 す る と、 究極 的 な 目的 は二 つ の方 向 に収斂 して い く。そ の一 つ は、在 来牛の頭 数削減 であ り、そ のため の 「不 必要 な牛」 の選 別 と処分へ と向か う流 れで ある。 も う一点 は、人々 に移動 型の生活 様式 を放 棄 させ、 人 と家畜 を管理可能 な人 口 として定住化 させ ようとの試 みで ある。 畜 産局 は ブ ラウ ン ・ス イス との交 配 を進 め て生 産性 の向上 を図 る こ とで 漸 進 的 な頭 数 削減 を促 す一 方で 、群 れの 中か ら 「不 必 要 な牛 」 を選 別 して 処分 す る よう村 人 た ちに対 して直接 的 に働 きか けて きた。 そ して、 トゥム シ ンラ国立公 園 もまた過放 牧の危 険 を避 け森林 へ の負担 を軽 減 す るた め に 村 人 に頭 数削 減 を呼 びか けて きた。 しか しなが ら、 この政策 の推 進 は大 きな困難 を伴 って いた 。そ の理 由の 一 つ は、 この地域 で は畜牛 頭 数の大 きさが直 接 的 に世 帯 の経済 力 を示 して お り、 そ れが象 徴 資源 と して の機 能 を果 た して きた こ とにあ る。S村 の よ うに牧 畜へ の依 存 度が高 い村 々にお いて は特 に牛 の頭 数が多 い世 帯 ほ ど豊 かで あ る と考 え る傾 向 は強 く、 長年 に わた って大 きな群 れ を保 持 して きた 世帯 ほ ど容 易 に手 放そ う とは しなか っ た。 ミル ク を加 工 して作 る 自家製 バ ター とチ ーズ の販 売 をほ とん ど唯一 の現 金収 入源 とす る一 方、 群 れ全体 に 占め る乳 牛 の割合 が1割 に満 た ない世 帯 も多 か ったが 、村 人 はそ うした状 況 に対 して何 の疑 問 も持 たず にい た。 そ して 、 もう1点 は、 国立 公 園 や畜 産 局が こぞ って 使 う 「不 必要 な牛 」

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森林放牧 と牛の屠殺をめ ぐる文化の政治―現代ブータンの国立公園における環境政策 と牧畜民― とい う概念 そ の ものが 、村 人 の多 くに とって新 し く異質 な概 念 として認識 され た こ とに よる。従 来 、S村 で牛 の 頭数 調整 が必 要 な場 合 は、 隣村 や季 節 移動 先 の顔見 知 りの 問で の交換 や譲 渡 に よって調 整が 図 られ、 譲渡 先 で の用途 も耕 作用 や搾 乳用 あ るい は繁殖用 であ る こ と、つ ま り食 肉用 では な い こ とが暗 黙 の前提 となっ て きた19。そ う した なか 、畜 産 局 と森 林 局 に よっ て行 われ てい る牛 の絶 対 数の 削減 を 目的 とした不 必要 な牛 の 選別 ・処 分の 推進 は、村 人 に とっては牛 の屠 殺 を意 味す る もの として認 識 されたの であ る。 ブ ー タ ンの 牧畜 民 に とって、牛 は最 も愛 着 のあ る家 畜 の一 つ であ る。S 村 の男性 の1人 は、 国立 公 園の頭 数削 減策 を前 に して 「牛 は私 た ちの母 で あ り、子 供 の よ うな もの であ るの に、一 体 どうや っ た ら殺 せ る とい うのか 」 と困惑 した様 子 で語 り、また別 の女性 は、外来 牛 との交 配計 画 にふ れて 「ブ ラウ ン ・ス イス はい い牛 か も しれ ないが 、 それが 入 って きた ら私 たち の牛 は どうな って しま うのか」 と語 った.森 林保 護官 や畜 産局 の駐在 員 は 、経 済 的 ・環境 的な側 面 か ら不 必要 な牛 を処 分す るよ う啓 蒙 しつつ も、 牛 を村 民 の手 で屠 殺 す る よ うに強 制す るこ とはで きず、処 分 す る とい うこ とが屠 殺 につ なが る とい う事 実 さえ も、直接 的 に言 及 しよう とは しない。 しか し なが ら、村 人 はそ れ らの不 必要 な牛 の処 分 と屠 殺 とが密 接 に結 びつ くこ と を はっ き りと認識 していた といって よい だ ろ う。 森林 保 護官 が 自然保 護 の名 の 下 に導入 す る これ らの政 策 に よ り、S村 の 村 民 に とって 「自然 環境 保 護」 とは、不 必要 な牛 の処分 、 つ ま り 「牛 を殺 す こ と」 と同義 に考 え られ る よ うな状 況 となって い る。 こ う した一連 の状 況の なか 、第3の ア ク ター と して取 り上 げ た仏教 僧 た ちは、殺 生 の罪 深 さ を説 き広 め るこ とで家畜 の屠 殺 に対す るさ らな る忌 避感 を人 々 の中 に醸成 してお り、 不 殺 生 を貫 きた い とす る村 人 に とって、 「自然 環境 の保 護 者 」 となる こ とは 「よ き仏教 徒 」で あ るこ と と二律背 反 す る価 値 と して あ らわ れて いた。 4-4  牡 牛 と出家 僧 畜産 局 と国 立公 園 の協力 の 下、S村 に導 入 され た ブ ラウ ン ・ス イス牛 は 現 在 、村 の代 表 のD氏 に よ って 飼 育 ・管 理 され て い る。 この ブ ラ ウ ン ・ スイス の牡 牛 と在 来牛 の 牝牛 との交配 は、 同 じ柵 内 に入 れ て 自然 な交尾 に よ る交 配 を待 つ 形 で行 わ れ てい るが 、2005年 の調 査 時 、既 に数 ヶ月 間の 試行 期 間 を経 た に も関 わ らず 、牡牛 は一向 に在 来牛 の牝牛 に興 味 を示 さず 、

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交 配 は成 功 してい なか った 。そ う した なか 、S村 の村 人 の 中 には これ を椰 揄 し、 この ブ ラウ ン ・ス イス の牡 牛 に対 し、 異性 との性 交 を禁 じ られ た仏 教 の 出家僧 を意 味 す る 「ゲ ロ ン(Geylong))」 とい う呼 び名 を献 上す る者 が 出 は じめ てい た。 そ して彼 らは、 畜産 局 の駐在 員 のみ な らず 森林 局員 に 対 して も、 「交 配 が成 功 しな いの は牡 牛 の前 世20が ゲ ロ ンで あ るか らに ち が い ない」 と、冗 談半 分 に訴 え は じめ たの だ。 しか しなが ら、村 人が必 ず しも畜 産局 や森 林局 の意 図 に従 って外 来牛 と 在 来牛 との交 配 を望 んで いた わ けで はなか った。 森林 地帯 を横 断 し、急 峻 な山岳 地帯 を縦横 に移 動す る移 動放 牧 は、長 距離 移動 に耐 え られ る小型 で 足 の強 い在 来 の牛 の存在 な しには実現 しな い。ブラ ウ ン ・ス イス との交 配 牛 が欲 しいか とい う私 の質 問 に対 して、直接 の答 え では な く 「ブ ラウ ン ・ ス イス は足 が遅 くて遠 くまで行 けない 」 と語 る村 人 た ちは、 ブ ラウ ン ・ス イス牛 との交 配 に よって牛 が大 型化 し、在 来牛 が持 つ環境 適応 的 で移 動 に 適 した特 性 を失 わせ る可能 性 を十 分 に認 識 してい た。外 来 牛 との 交 配 は、 生 産性 を高 め る一方 で、移 動 に適 さない牛 を増 や して移 動放 牧 を実質 的 に 不 可能 にす る とい う目的 と表 裏一体 の政策 で あっ た.動 け ない牛 を抱 え れ ば、群 れ を山か ら山へ 移 動 させ続 け る こ とは 困難 にな る。そ して、そ れ は その ま ま牧 畜 の舎飼 形態へ の移行 と牧畜 民 の定住 化 を意 味 して いた. 外 来牛 との交 配 の成功 が1頭 当 た りの 生産性 の向上 を導 くと同時 に移動 放 牧 の放 棄 を促す 状 況 にお いて、S村 で は数名 を除 いて 自ら積 極 的 に外 来 牛 の獲 得 に乗 り出 す者 は少 なか った.そ うした なか、村 人 は繁殖 用 の外 来 牛 を出家僧 に例 えて語 る こ とで 、答 え を出すべ き主 体が交 配 を担 う外 来牛 自身 にあ るか の よ うにふ る まい 、村 人 自 らの決 定権 を保 留 しよ うと して い る。 4-5  牛 の屠殺 をめ ぐるポ リテ ィクス この ように、S村 で は もと も と慣 習 的 に牛 を食 肉用 に売 る こ とが忌 避 さ れ る牧畜村 の 文化 的土壌 が あ るなか で、 巡礼僧 たちの 説法 に よっ て殺 生が 仏教 に対 す る背信 行為 だ と考 える風潮 が 高 ま りをみせ て いた。 そ うしたな か、 畜産 局 と森林 局 に よる畜牛 の頭 数削 減政 策 はほ とん ど機能 せず 、牛 の 頭数 調整 の方 法 も近 隣の村 民 との交換 や 譲渡 とい う従 来か らのや り方が 踏 襲 され てお り、譲 渡先 の用 途 も食 肉用 で は ない こ とが 暗黙 の前提 とな って い た。 しか しなが ら、 この よ うな前提 が 覆 され る よ うな出 来事 が2006年

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森林放牧 と牛の屠殺 をめぐる文化の政治一現代ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民− 秋 にS村 の 人 々 と他 村の 人 々 との問 に生起 した。 そ れ は、S村 内 の1世 帯 の住 民Aが 、所 有 す る牛 を 「シ ャル チ ョ ッパ 」 に譲渡 した際 に、 その場 で 肉畜 として解 体処 理 され売 買 された こ とを契機 に起 こ った。上 述 した よ うに、S村 の牧 畜 民 は畜牛 頭 数の 調整 が必 要 な場 合 は、 隣村 や冬 の放 牧地 の周 辺 に居 住 す る農牧民 との交換 あるい は譲 渡 を とお して行 われ て いた。 シャルチ ョ ッパ はブー タ ン国内 で東 ブー タン人一 般 を指 す言 葉 と して使 わ れ るが、 この 際、S村 民が シ ャルチ ョッパ と して 定 義 した人 々 は、彼 らに とって顔見 知 りや 隣人 で はない タシガ ン県 な どの 東端 の県 の 出身者 を指 してい た。 S村 民 の1人 が シ ャルチ ョッパ に牛 を譲 渡 し、 そ の牛 が屠 殺 された事 実 は村 内や郡 内 に即座 に広 ま り、S村 の属 す るモ ンガル県 知事 の 耳 にす る こ と となった 。そ して信 仰心 の篤 い ことで よ く知 られ た この知事 は、宗教 上 の観 点 か らただ ち に県 民 に対 して 「シ ャル チ ョッパ 」へ の牛 の譲渡 を禁 止 す る条例 を出 した。 この条 例 は、地 方行 政 の長 であ る知事 が食 肉 目的 での 牛 の売買 を宗 教心 とモ ラル に反す る行為 と位 置づ け る公式 の通 達 を出 した こ とを意味 してい た。 また、 こ う した経 緯 は 同時 に、S村 とそ の周 辺 の村 民 に、 シ ャルチ ョッパ の牛 買 いが屠 殺業 者 と同義 で あ る とす る思考 回路 を 強 く埋 め込 む こ とにな った。 県 知事 に よる こ うした条例 の交付 は、S村 に もと も とあ った屠 殺 の忌 避 に対 す る合 意 を、村 民 の 問で再確 認 し、 さ らに強化 す る作用 を もた らす こ と とな り、 当の村 人Aは 村 民 間 で の合 意 の 再確 認 に呼応 す る よ うに、 そ の直 後 に牛 を譲渡 した際 の売上 金 を使 って 自 ら村 で屠殺 され た牛 の供養 を 執 り行 うこ とを決 め た。そ う した供 養 を とお して、Aは 自身が牛 を殺 され る こ とを知 りなが ら金銭 目的 で シャルチ ョ ッパの牛 買 い に売 ったの で はな い こ と、 そ して 同時 に 自身 が よ き仏教 徒 で ある こ とを、共 同体 の成 員や 郡 下の住 民 、 ひい ては県知 事 に対 して も証 明 しよう と試 みた ので あ る。 これ と同時期 、別の村 人BがS村 の共 同の寺 に対 してチ ョル テ ン(仏 塔) を寄贈 したい と申 し出てい た。 この村 人 は、牛 の屠 殺 をめ ぐる一 連 の 出来 事 が起 こる以前 に、 自身の所 有 して いた牛 十数頭 を処分 してい た。彼 は こ の時期 、S村 と郡 の 開発委 員会(GYT)の 問 で連絡 係 を担 うツ オクパ(村 代 表)の 役 につ い てい た こ ともあ り、畜産 局が 導入 した繁殖 用 の ブラ ウ ン・ ス イスの牡 牛 の飼育 ・管 理 を引 き受 けて いた.そ して ブ ラウ ン ・ス イス牛 を引 き受 ける際 に、自 らの家畜 の群 れ か ら数頭 の乳牛 の み を残 し全 ての 「不

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必要 な牛 」 を売却 し、季節 移動 の習 慣 も放棄 して定住 的 に居住 す る こ とを 選択 した。 つ ま り、B氏 は、屠 殺 をめ ぐる 出来事 が起 こる まで、頭 数 削減 と定住化 の 方針 におい て畜 産局 と森林 局 に とってS村 で最 も理 解 あ る協 力 者 と して振 舞 って きた とい って よい だろ う。 畜 産 局 と森林 局 が頭 数削 減 を促 す なか、S村 民 は容易 には説 得 され て こ なか ったが 、 ツ ォクパ で あ るB氏 が農 業省 に全 面的 な協 力姿勢 を と り始 め る と、村 内で も 「不 必要 な牛 」 を処 分 して政策 を受 け入 れ る こ とで得 られ る経済 的 な利 益 の有 無が真 剣 に考 え られ る ように なっ てい った。 しか しな が ら、東 ブ ー タ ン人 に譲 渡 され た牛 が屠 殺 ・解体 され る 出来事 が 知 られ、 県 知事 に よる公 式見 解 が 出 され る と、「不 必 要 な牛 」 の処分 をめ ぐって起 こっ てい た村 人 の 間の価値 の揺 れは 「よ き仏教徒 」 で あ ろ うとす る方 向へ と急 速 に収 斂 して い く。そ う した なか、B氏 は 自身 の牛 の譲 渡先 が 隣村 の 酪 農家 であ る(つ ま り屠 殺 業者 で はな い)と 主 張 してい た に も関 わ らす 、 チ ョルテ ン建設 の ため の費用 を負 担す る と申 し出 る こ とを とお して 、 自 ら が よ き仏教徒 であ る こ とを村 人 に再承 認 され たい と願 った ので あ る。 B氏 は一面 におい て政府 の政 策 を受 け入 れ協 力す るこ とを とお して、 政 府 の描 く従 順 で理性 的 な国民 で あ ろ うと努 め て きた。 しか し、村 落 共 同体 の なかで 、森林 局 や畜 産局 の推進 す る牛 の頭数 削減 が牛 を殺 す こ とにつ な が り、そ れが 不殺生 とい う仏 教 の教義 に悖 る こ とが公 的 に認知 され る よ う に なる と、彼 自身 の価値 も また共 同体 で生 成 され た価値 に よって大 き く揺 さぶ られ 、 ゆ り戻 され てい っ た。 他方 、 モ ンガ ル県 知事 に よる一連 の対応 をみ た農業省 の大 臣は、 そ の年 の秋 に行 われ た会合 で全 国 の県知 事 を招 集 し、彼 らに対 して農 業省 が推 進 す る畜 牛 の削 減 を妨 げる条例 を出 さない よう牽制 した。 こ う した対 応 と同 時 に、農業 大 臣 は畜 産 局の 下 に 「育成 セ ンター」 を設 立 させ、 そ の施設 に 村 人 か ら 「不 必要 な牛 」 を回収 して集 め、村 人 に対 して は供 出 した牛数 頭 に対 して乳牛1頭 を供 与す る とい う試 験 プ ロジ ェク トを 開始 した。 この育 成 セ ンター の名 目上 の 目的は牛 の繁 殖 とされ るが 、担 当官 の話 しに よれ ば、 実際 に回収 され た後 の牛 の用途 は決 まって お らず 、恐 ら くそ の多 くは食 肉 用 に まわ され屠 殺 される こ とに なるだ ろ う とい うこ とだ った 。つ ま り、 こ の プ ロ ジ ェ ク トは、育 成 セ ン ター を通 す こ とで不 必要 な牛 の 処分 過 程 を 人 々の 目か ら覆 い隠 して不 可視化 し、牧 畜民 が抵抗 感 や罪 悪感 を抱 くこと な く<快 適 に>頭 数削 減 を行 え る ように考 え られた シス テ ムだ とい える。

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森林放牧と牛の屠殺をめぐる文化の政治一現代 ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民− 人 々の 問に ある畜牛 の売 買 や屠殺 に対 す る強 い抵抗 感 とよ き仏教 徒 で あ ろ う とす る実践 が頭 数削減 計 画の推 進 を困 難 にす るなか 、畜 産局 は村 人が 「知 りなが ら殺 生 に加 担す る」 とい う状 況 を避 け られる よ う、育成 セ ンター とい うブ ラ ック ・ボ ックス を作 る こ とで政 策的 な 目標 の 達成 を試 み よ う と して いる。 この事 例 に現 れ る よ うに、 ブ ー タ ンの環境 保 護政 策 は、そ れ を推 進 す る 担 い手 も、受 け手 の村 民 も決 して一 枚 岩で は な く、複 数の 多元 的 なア ク ター が 参加 す る個 々の価値 の交渉 の ア リーナ として立 ち現 れ る。 そ して、 現代 ブー タ ンにお け る自然環境 保 護 とは、 ブ ー タ ン政府 が言 説化 して きた よう に、仏教 信 仰 と調和 した形 で 自立 的 に存 在 す るの では な く、多 元 的 な価 値 の連 関 と交 渉 の過程 の総体 として立 ち現 れて い る とい える だろ う。

5  おわ りに

大乗 仏教 に基づ く仏教 伝統 と環境 主義 とを国民 文化 と し、 自然 環境 を守 り育 て る正 しい仏教 徒 で ある こ とを 「ブー タ ン人 」の 自画像 と して描 い て きた現代 ブ ー タ ンの政 治 の中で 、環境 と仏 教 とい う二 つの価 値 は相 互補 完 的で あ る と位 置づ け られ て きた[宮 本2007]。 国土 の6割 以上 を森林 とし て維 持 し、約3割 を 自然保 護 区 に指 定 す るブ ー タ ン政府 の積 極 的 な環境 保 護政 策 は国際社 会 におい て も高 く評 価 され て きたが、 そ うした環境 政策 に 実効 性 を持 たせ て きた要 因 は国民 自身が 持つ 高 い環境 意識 で あ る とす る説 も同時 に広 く定着 して きた。 そ して、人 々 の環境 意識 の思 想 的背景 は、 国 教 であ る大乗 仏教 の教 義 や各地 の 自然神 崇拝 に求 め られ て きた。 自然環 境保 護 を仏教 信仰 と結 びつ ける語 りは開発計 画 の理念 的背 景 とし て政 策文 書 に記述 され政府 高官 や 国王 に よって繰 返 し語 られ る こ とで言 説 化 して きた が、 その 開発理 念 や国民像 は政府 内部 の個 々 の部署 や末 端 の公 務員 た ち に必 ず しも共 有 され個 々の政策 決定 におい て配慮 されて い るわけ で は なか った。 自然保 護 区の管 理 を担 う森林 局 の政策 で も同様 で あ り、個 別 の環境 プロ ジェ ク トにお いて仏教 信仰 や 地域 の文化伝 統 ・慣 習へ の 配慮 が 反映 され る こ とは稀 で あ る。反対 に、 自然 保 護 区の管理 に端 的 に反 映 さ れ るの は、 ゾー ニ ングや保 護法 な ど国 際環境NGOや 欧 米諸 国が援 助 を と お して持 ち込 む保 護 区管 理 の理念 と枠組 み 、 ある いは焼畑 や森 林放 牧 を環 境保 護へ の脅威 とす る よ うな環境破 壊 の原 因論 で あ る。

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本稿 で考 察 した事 例 では 、森林 局 と国立 公 園は森 林破壊 と生物 多様 性の 減 少 を防 ぐとい う 目的 の下、 牧畜村 の住民 に畜 牛 の頭数 削減 と森林 放 牧 の 放 棄 を求 めて い る。 同時 に畜 産局 も、在 来 牛か ら外 来牛へ の入 れ 替 え と定 住 型 の酪農 形態へ の移行 を推 進 してい た。森 林 内か ら家 畜 を排 除 し、柵 に 囲わ れた人工 の牧草 地で の集約 的 な酪 農形態 へ の転換 を迫 る森 林 局お よび 畜 産局 の政 策 は、 自然 と人 間活 動 とを分 離 して個 別 に管理 す る ゾー ニ ング の枠 組 み と、集約 的 で効率 的 な経済 活動 と して牧 畜 の再構 成 を求 め る市 場 経 済の思 考 、 自然 か ら人 間活動 を排 除す るこ とで 「手 つ かず の 自然 」 の 回 復 が可 能で あ る と考 え、 それ を保存 す る こ とに価 値 を見 出す西 欧 的 自然 観 とか ら跡 づ け られ る。 他 方 で、環 境保 護 の名 の も とに畜 牛 の頭数 削減 を迫 る政 策 は、畜 牛 の売 却 あ るいは譲 渡 に よる問引 きを求め る もの であ り、対象 の牧畜村 の人 々 に とって は 「母 で あ り子 で ある」牛 を間接 的 に殺 す こ とを意 味 して いた 。折 しも仏 教僧 が布 教 に歩 き、 「シャル チ ョッパ 」 に よる牛 の屠殺 の衝撃 が 群 下 の村 々 に残 る状 況 で、調査対 象 村 の社 会 では不殺 生 の戒 を守 る こ とで正 しい仏教徒 としての信 頼 を勝 ち得 る ことが共 同体 の成 員 として重要 な価値 で ある と認識 され る よ うにな るなか 、村 人 に とって牛 を殺 す こ とは 「よ き 仏 教徒 」 とい うあ るべ き自画像 か らの大 きな乖 離 を意 味 したの で ある. S村 の事例 で は、 生態 環境 保 護 のた め に森 林放 牧 の放 棄 を促 す環境 政 策 は、 森林 局 と畜産 局が足 並 み を揃 える こ とに よ り、集 約的 な酪 農牧 畜形 態 へ の転換 を促 す経 済政 策 の一環 と して作用 してい た。森 林 局 は、移動型の 森林放 牧 を定住 型 の牧 畜形態 へ と移行 させ る ことで、森 林 を放 牧圧 か ら守 る と同時 に村 人の経 済発 展 を可 能 にす る と考 えて お り、定着 牧 畜の 生活様 式 は環 境 負荷 の少 ない 「環境 にや さ しい生 活 」 と して位 置づ け られ た。 し か し、S村 の住 民 の多 くに とっ ては、 先行 きの不 透 明 な経 済 開発 計画 に同 調 す る よ りも、「不必 要 な牛 」の飼 育 を継続 し殺 生 に関与 しない ことに よっ て、 自らの精神 的 な充足 を得 られ る 「よ りよい生 」 を獲 得 した い と願 った ので あ る。 自然 環境 保護 が普 遍 的 な 「正義 」 として グローバ ル に価 値 づ け られ るな か、 それ は 時 に反論 を許 さ ない 強権 と して働 き、 人 々の生 活 を規 制 す る。 しか しなが ら、国立 公 園の事 例 にみ た よ うに、 ブ ー タ ンの村 落社 会 に生 き る人 々は ゾー ニ ングや環境 保 護言 説 な どのマ ク ロな構 造 によっ て一方 的 に 規 定 され る単 なる客体 では ない.政 府 の個 々の ア ク ターが持 ち込 む環 境政

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森林放牧 と牛の屠殺をめ ぐる文化の政治―現代ブータンの国立公園における環境政策と牧畜民― 策 は、常 に共 同体 の側 か らの問 い直 しや再 解釈 の働 きかけ に さ らされて い る。 複 数 の行 為 主体 問で行 われ る価 値 の交渉 過程 は、社 会 内部 に築 か れた静 的 な秩 序構 造 を修正 ・転 換 し、村 人 を能動 的 な主体 へ と転換 す る契機 を含 む もの で あ る.「牛 の屠 殺 」 をめ ぐるポ リテ ィクス は、 村 人が 仏教 信 仰 と い う価 値 を味 方 につ けて環境 保護 とい うグ ローバ ル な価 値 との交 渉 を試 み る過程 で あ る と同時 に、政府 に よって描 かれ た 「環 境 にや さ しい生活 」 あ るい は 「正 しい ブー タ ン人 」像 に対す る、人 々か らの 問い直 し と再構 築 の 過 程 で ある とい える だろ う. 註 1 ブー タン政 府 に よれ ば 現 在5500種 の 植 物 と165種 の 哺 乳 類 と770種 の鳥 類 が い る とされ て い る 。 2 ホ ッ トス ポ ッ トと は、 「地 球 規 模 で の 生 物 多 様 性 が 高 い に も 関 わ らず 、破 壊 の 危 機 に 瀕 して い る地 域 」の こ とで あ り1988年 に イギ リス の 生 物 学 者 ノー マ ン ・マ イヤ ー ズ(Norman Myers)が 優 先 的 に 保 護 ・保 全 す べ き地 域 を 特 定 す るた め の コ ン セ プ トと して 提 唱 した もの 。2000年 に 25ヶ 所 が ホ ッ トス ポ ッ トに 指 定 さ れ 、そ の 後 、現 在 ま で に 合 計34ヶ 所 とな って い る 。http:// www.conservation.or.jp/Strategies/Hotspoto.htm. 3 「地 球 大 賞 」(2005年)は 環 境 を 開 発 計 画 の 中 心 に す えて 、環 境 の 保 護 とそ の 持 続 可 能 な 利 用 を重 視 して きた ブー タ ンの 取 組 を 評 価 す る と して 、国 連 開 発 計 画 よ りジ グ メ ・セ ンゲ ・ワ ンチ ュ ク 国 王 とブ ー タ ン国 民 に 対 して 贈 られ た 。審 査 団 は 、森 林 面 積 と保 護 区 の 面 積 が 突 出 して い る こ と を取 り上 げ 、 「環 境 に お け るす ぐれ た 実 績 」を称 賛 した[IGEF2006:104]。 4 「ポ ー ル ・ゲ ッ テ ィ野 生 生 物 保 護 賞 」(2006年)は 、世 界 自然 保 護i基・金(WWF)が 組 織 す る 環 境 保 護 に 関 す る世 界 で も最 も権 威 あ る賞 の 一 つ で あ り、2006年 に ブー タ ンの ジ グ メ ・セ ンゲ ・ ワ ン チ ュ ック 国 王 に 対 して 贈 られ た 。WWFに よれ ば 、国 王 の 指 導 力 こそ が 、 「ブ ー タン の 環 境 に お け る持 続 可 能 性 を 守 り、環 境 保 全 に実 質 的 ・建 設 的 な 影 響 を及 ぼ す 政 策 と法 律 の 制 定 に つ な が り、世 界 に 対 して も範 を示 した」 との こ とで あ る。賞 に は 、環 境 保 全 に 関 す る 研 究 プ ロ グ ラム を支 援 す る た め の20万 米 ドル の 賞 金 が 含 まれ る[IGEF2007:21]。 5 例 え ば 本 林[2006:74] 、今 枝[2008:128]、 五 木[2007:70,193]等 の 記 述 を 参 照 。 6 Thinley[1994]等 を参 照 。ブー タ ン政 府 の 森 林 政 策 お よび 環 境 政 策 の 変 遷 に つ い て の 分 析 と、 「自然 環 境 保 護 」の 「国 民 文 化 」化 の プ ロ セ ス の 分 析 につ い て は[宮 本2004]を 参 照 の こ と。 7 ブ ー タン政 府 の 政 策 文 書(国 籍 法 や 婚 姻 法 お よ び5ヶ 年 開 発 計 画)の 分 析 か らみ た 「ブ ー タン 人 」像 の 形 成 とそ の 変 遷 につ い て は[宮 本2007]に 詳 しい 。ま た 、国 語 と して の ゾ ンカ 教 育 の 現 状 に 関 して は[宮 本2006]を 参 照 の こ と。

8 Government Reserved Forestの 訳 。イ ン ドの 森 林 法 に お い て は 、政 府 林(Government

Forest)は 、用 益 権 規 制 の 強 い 保 留 林(Reserved Forest)と 、よ り緩 や か な 保 護 林(Protected Forcst)と に分 類 さ れ て い るが[吉 住2002]、 ブ ー タ ンで は こ うし た 分 類 は み られ な い 。

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9 ()内 は引用 者 に よる補 足 。 10 た だ し、第9項 によると、「王室政府は、1979年 土地法のセクション6.8と6.9に一致する場合、 そ のような行 動 が 公 共 の福 祉 と安 全 を守 り、主 要道 路 沿 い の地 滑 りを防 ぎ、重 要 な 分水 嶺 を 維持 し、野 生の動 植 物 を保 存 し、景 勝 地 を守 り、そ の他 の 関係 する 目的 のため に必 要で ある と 考 えられ る場 所 におい て、い か なる私 有 地 も政 府 保 護 林 として 宣 言 する ことが で きる。そ うし た宣 言 に際 して は、全 ての場 合 にお いて、王 室 政 府 は金 銭 的 な保 証 か代 替 地 の土 地 権 を提 供 す る」とされ 、たとえ私 有 地 であ って も、政 府 が 環 境保 全 や 公 共 の福 祉 のた め に必 要 と判 断 した場 合 は、補 償 金 や代 替 地 と引 き換 えに接 収 し、保 護林 とす ることが で きるとした。 11 1995年 法 の 第30項 の 全 文 は以 下であ る。 「農 業 省 は 政 府 保 護 林 内に お ける放 牧 を、以下 の 所 定 の状 況 を条件 として規 制 する規 則 を発 布 す る」[1995:30-a]。 「(森林)局 の長 が 、政 府 保 護 林 内 の土 地が 土壌 浸 食 やそ の他 の環 境 破壊 に よって痛 め られて いる と結 論 した場 所 は、 地 方 政 府 の 関係 当 局 と協 議 した後 に、そ のような土 地 で の放 牧 が 指 定の 期 間 中止 され るか、 または指 定 の状 況 の下での み許 可され るよう命 じる」[1995:30-b]。 「合 法 的 に放牧 禁 止 とし た保 護 林 に不 法 侵 入 した牛 は、造 林 、再 生 お よび取 水 地域 に損 害 を与えてい る とみ なされて 没 収 され 、農 業 省 に よって規 定 された 適切 な罰金 が 課 され る」[1995:30-c]。

12 2003年 にNature Conservation Divisionに よって発 行 され たVision and Strategy for the Nature conservation Division 2003に も同文 が 転 載 されてお り、こうした言 説 は森 林 局 や国 内 の環 境 NGOに とっての 共通 認 識 として再 生 産 され続 け て いる. 13 この ほ か に、豚 も幅 広 く飼 育 され る家 畜 の 一つ で あ り、食 用 目的 で41,400頭(家 畜 総 数 の5.8 %)が 裏 庭 等 で 飼育 されてお り、現 在 も農民 世 帯 の約38%が 自家 消 費用 に養 豚 を行 ってい る。 また、農 民 世帯 の42%が 羊 また は ヤギ を飼 育 してお り、66%の 世帯 が養 鶏 を行 って い るとさ れ る. 14 サ リン郡 の 総 面 積462平 方 キ ロで あ り、全11村 、総 世 帯 数292世 帯 か ら構 成 され る[MD 2002:1]。2005年 の人 口調 査 に よれ ば 群 の総 人 口 は2,110名[OCC2006:74]。 15 人 口は2005年 に筆 者 が全 戸 調 査 を実 施 した際 の数 字 で あ る。戸籍 簿 に は村外 の居 住 者 も多 く含 むため 、聞 き取 り調 査 により実際 の居 住者 の みをカウン トした 。 16 ブータンの言 語 分 類 と分 布 域 について は[Driem1998:1-37]に 詳 しい 。 17 ゾ ンとは 行政 府 と僧 院 とが 一 体 となった城 砦型 の建 築 物 。シャブ ドゥンの 時 代 に 地域 の統 治 と防衛 のため 行 政 府 兼 僧 院 として ブー タン各 地 に建 設 され 、現 在 も同 じ様 式 の建 物 が県 庁 と して使 用 されてい る。シ ョンガル ・ゾ ンには以 前 は この 地域 の行 政 府 が 置 か れてい たが 、そ の 後 、県 の 中心 は東 側 に移 り、新 た にモンガル ・ゾ ンが 建 設 され た。そ れ以 降 、シ ョンガル ・ゾ ン は廃櫨 となっていた が、現 在 は観 光資 源 として再 利 用 する案 が浮 上中 であ る。 18 例 えば、トゥムシンラ国立公 園の観光客 向けのパンフレットにおいても、公園内での森林放牧 が 国 立公 園の 自然 資 源 に対 して 重 大 な悪 影 響 を与 える もの であ るこ とが 明記 され てい る。し か し、ロー ダー に よれ ば、ブー タンで は家 畜 の 糞尿 を通 して森林 が 育成 されて きた可能 性 が あ り、森 林 放 牧 を含 む複 合 的 な生 業 形 態 は、地 味 の小 さい 山岳 地 域 で も化 学 肥 料 を利 用 せ ず に 一定 の収 量 を確 保 す ることを可能 として いる[Roder2002]。 つ まり、ブータン国内 で は家 畜 の森 林 放 牧 を自然 環 境 破 壊 の 要 因 とす る根 拠 は十 分 には証 明 されて い ない。しか し、こうし た見 解が 実 際 の森 林 政 策 や 環境 政 策 に は反 映 され ることはな く、政府 と森 林 局 は現在 までグ ローバル な環境 言 説 に大 きく支 配 されて いる といえる. 19 ブー タン国 内 の他 の 多 くの牧 畜 村 と同様 に、S村 で も牛 肉 は食 す が 、常 食 とい うよりは祭 りや

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森林放牧と牛の屠殺をめ ぐる文化の政治―現代ブータンの国立公園における環境政策 と牧畜民― 法 要 お よび来 客 の 際 など特 別な場 合 に 限 られ る。多 くは老 衰 や事 故 で畜 牛が 死 ん だ際 にそれ らを解 体 し乾 して貯 蔵 してい たもの であ る。 20 ブー タンの人々が 信 仰 するチベ ット仏 教 で は輪 廻 転 生の思 想 が 共有 されてお り、前 世 について 語 ることは一般 的で あって、特 に奇 異 なこ とでは ない。 参 照 文 献

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参照

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