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3-6 (B) 生体分子のコンピュータモデリング

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Academic year: 2021

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3-6 (A) 生体分子のコンピュータモデリング

1.目的 生命科学というと話題がどうしても遺伝子 DNA、RNA、タンパク質に集約されがち であり、一見コンピュータとは縁の無い分野のように思われる。しかし、現実は全く反 対である。生命科学の研究者は日常茶飯事的に遺伝子やタンパク質のデータバンクにア クセスしたり、既存のデータを利用したりしている。考えてみたまえ、タンパク質の構 造を理解するのにコンピュータグラフィックスがいかに役に立っているかを。 生命科学におけるコンピュータの利用は、このような初歩的段階に留まらない。多く の優秀な化学者や物理学者によって発展させられた計算化学の手法は、物質科学や材料 科学の分野に大きな反乱を起こしたが、この波は今や生命科学の分野にも怒涛のように 押し寄せてきた。生命現象を少し掘り下げて考えてみよう。たとえば、酵素はどのよう にして触媒機能を発現するのか、タンパク質はどのような過程を経て折りたたまれるの か、あるいはイオンやある種の化合物はどのようにして生体膜を透過するのか、などな ど。このような現象を理解するためには、一つ一つの原子や分子の動きを高い空間・時 間分解能で追跡できるコンピュータシミュレーションが大いに役に立つ。 生命科学の関心は多岐にわたっている。問題によっては分子の電子状態を厳密に知る ことが必要であり、別の問題では分子そのものの記述には多少厳密さを欠いても、でき るだけ長い時間に渡って運動を追跡したい、というようにである。上で述べた酵素反応 やタンパク質の折れたたみの問題がそれらの良い例である。現在では、問題に応じた 色々なコンピュータプログラムが開発されており、生命科学者の要望に答えられるよう になりつつある。 本実験では、分子軌道計算のプログラムを利用し、分子の電子状態、化学反応の予測、 化学反応の遷移状態、核酸塩基間相互作用、ペプチドや糖などのコンホメーション解析 の方法を学び、分子の性質について理解を深めることを目的とする。 2.理論的背景 テキストは以下の URL から取得せよ。 http://www.cherry.bio.titech.ac.jp/ “講義資料”のボタンをクリックすると、その他に「量子化学講義ノートその1」と「量 子化学講義ノートその2」の項目が現れる。いずれも PDF ファイルである。 3.実験 1) 本実験では、学術国際情報センターの教育用コンピュータシステム(図書館横)を 用いる。まず、Windows 端末から、自分のアカウントでログインせよ。 2) 本実験では、Wavefunction 社の SPARTAN という分子軌道計算ソフトウェアを用い

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2 て、演習を行う。このソフトの操作マニュアルを“講義資料”の Spartan Manual (以下 の URL)からダウンロードし、プリントアウトせよ(ただし、Macintosh 用マニュア ルの為ボタン等に違いがあるので、TA 等の指示を良く聞くこと。)。 http://www.cherry.bio.titech.ac.jp/lectures/Spartan_Manual.pdf  プリントアウトを行うときにはブラウザの「ファイル」プルダウンメニューの「ペー ジ設定」を開き、用紙サイズを A4 にしておく。 【1日目】 《演習1》操作マニュアルの第2章「原子フラグメントを組み合わせて分子を作る」に したがって、アセトニトリルの計算を実行し基本操作を習得せよ。

《演習2》ホルムアルデヒドの AM1 法による構造最適化計算(geometry optimization) を行い、以下の事項を調べよ。i) 分子軌道の表示(特に HOMO、LUMO)、ii) 電子密 度図の表示、iii) 双極子モーメントの表示、iv) 静電ポテンシャル図の表示、v) 分子振 動の計算(波数と振動モード)。

 Setup プルダウンメニューの Calculation を開くと、output ファイルに出力する内容を制

御するボタンがある。IR, Orbitals & Energies, Thermodynamics, Vibrational Modes, Charges & Bondorders をチェックし、ホルムアルデヒドの結果を確認せよ。

【レポート課題1】 求核反応

メチルアセテート(CH3COOCH3)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、N-メチルアセトアミ ド(CH3CONHCH3)、アセチルクロライド(CH3COCl)の AM1 法による構造最適化計算を 行い、波動関数を求めよ(Orbitals & Energies にチェック)。また、LUMO の電子密度分 布を調べ、求核反応の起こる部位を特定せよ。LUMO のエネルギーが低いほど反応性 が高いと考えられる。上の 4 つの化合物を反応性の高い順に番号をつけよ。 ここで、原子に割り当てられる電子密度は各軌道の係数の 2 乗の和から求まる。 表1 化合物 LUMO energy /kcal mol-1 LUMO 上の最も電 子密度の高い原子 左の原子の LUMO 上の電子密度 順位 CH3COOCH3 CH3CHO CH3CONHCH3 CH3COCl

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3

【レポート課題2】 求電子反応

ピロールは、生体分子(ポルフィリン、ビタミン B12)の構成要素として重要である。 これはベンゼンと同様に求電子反応を受ける。たとえば、プロトン化すると 2,5-ジヒド ロピロールが生成する。2, 5 位で優先的に反応が起こる理由を HOMO の性質から説明 せよ(AM1 法による構造最適化計算を実行する。Orbitals & Energies にチェック)。

【2日目】 《演習3》溶媒効果 グリシンの中性型(1)と双性イオン型(2)のエネルギーを真空中と水相中で計算 し(AM1 法による構造最適化計算を実行する)、それぞれどちらが安定か調べよ。また、 溶媒和エネルギーを求めよ。以上の結果を溶媒効果の観点から考察せよ(アトキンス物 理化学(上) p.417-418 を参照)。

H

2

NCH

2

CO

2

H (1) H

3

N

+

CH

2

CO

2-

(2)

表2 真空中のエネルギー /kcal mol-1 水中のエネルギー /kcal mol-1 溶媒和エネルギー /kcal mol-1

ΔE

【レポート課題3】ATP の加水分解エネルギー よく知られているように、生体系において ATP はエネルギー通貨の役割を果たす。 ATP のリン酸無水物結合は“高エネルギー”結合と言われ、水中での加水分解により 7.7 kcal/mol (32.2 kJ/mol) の自由エネルギーを発生する。この高エネルギー結合の起源とし て、多くの生化学の教科書では、次の 3 つの因子があげられている。すなわち、1) 生 成物の共鳴安定化、2) 反応物の静電反発、3) 水和の効果(反応物は生成物より水和エ ネルギーが小さい)である。例えば、ヴォート生化学(上)16・4 節 p.443 をみよ。 これらのことを実際に分子軌道計算により検証しよう。ただし、ATP の構造は複雑な ので、ここではトリリン酸メチルエステル(MePPPi)をモデル化合物として用いることに

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4 する。このとき生成物は、MePPi と Pi である。 O P O O -O C P O -O O P O O -O- + H2O O P O O -O C P O -O -O + O P O O O -H H 1) 真空中及び水中で構造最適化計算を行い、加水分解エネルギー

Δ

E を求めよ (Hartree-Fock(HF)法による構造最適化を実行する。基底関数は STO-3G を選択。 Orbitals & Energies にチェック)。

 MePPPi と MePPi については、計算の収束に時間が掛かる場合があるので、Calculation の Option に“GEOMETRYCYCLES=200”と記入して実行すること。 表3 エネルギー (kcal/mol) MePPPi H2O MePPi Pi

Δ

E 真空中 水中 E(水中)-E(真空中) 2) 反応物及び生成物の リン原子や酸素原子上の電子密度を調べ、共鳴安定化説や静電 反発説について考察せよ。 3) 加水分解エネルギーを決めるのに、水和がどのような役割をしているか考察せよ。 その結果と上の教科書の記述を比較し議論せよ。 【レポート課題4】 化学反応の経路と遷移状態 操作マニュアル第3章「反応座標解析から遷移状態を見つける」にしたがって、以下 の SN2 反応の反応経路(反応座標)と遷移状態を求める計算機実験を行え。 Br- + CH 3Cl → CH3Br + Cl -このとき、真空中での反応と水中での反応両方の場合について反応座標を求め図示せよ。

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5 また、以下の表を完成させよ。 表4 エネルギー (kcal/mol) 環境 反応物 遷移状態 活性化エネルギー 真空中 水中 溶媒極性の増大にともなって、活性化エネルギーや反応速度はどのように変化するか。 また、そのような傾向を示す理由について考察せよ。 【3日目】 【レポート課題5】 分子間相互作用(水素結合エネルギー)の計算 分子 A と分子 B から錯体 A/B が生成する反応のエネルギー変化

Δ

E は、

Δ

E = E(A/B) – ( E(A) + E(B) )

で与えられる。核酸塩基間に働く水素結合エネルギーを計算し、実験の会合定数 K と 比較してみよう。これは生体中で頻繁に見られる分子認識反応の一例である。 まず、以下に示す6つのモノマー(ヘテロ環状塩基)のエネルギーを求めよ。ついで、 錯体 1〜6 のエネルギーを求め、表5を完成せよ。

Δ

E を lnK に対してプロットし相関を 調べよ。  以上のエネルギー計算は PM3 法を用いて行うこと。Calculation で Semi-empirical,PM3 を選択する。  分子構造をつくるときは、各原子の混成軌道の型を間違えないように注意せよ。例え ば、-NH2は sp3である。  錯体をつくるには、まず、2つの分子を同一ファイル上にコピーする(新規ファイル を作り、分子構造のコピー(Edit→Copy)と貼り付け(Edit→Paste)を行う)。そして、 2つの分子を同一平面上に置き、水素結合している二つの重原子間距離(水素原子間 の距離ではない)を3Å程度に調整する。

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6

9-methylguanine N-naphthridinylacetamide 6-amino-2-pyridone

model 1 model 2

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7 表5 モノマーE の和 E(A) + E(B) 錯体 E E(A/B)

Δ

E K /M -1 model 1 3.2 model 2 1.3×102 model 3 3.1 model 4 5×103 model 5 5×104 model 6 1.7×104 エネルギーの単位は kcal mol-1 【4日目】 【レポート課題6】 ジペプチドのコンホメーションエネルギー L-アラニル-L-アラニン(L-Ala-L-Ala)の中央の C-N 結合周りのコンホメーションエ ネルギーを求めよう。この二面角を 0°, 90°または 180°に固定し他の自由度を最適化す る計算を行い、シス→トランスあるいはその逆過程のエネルギー障壁を見積もれ。この 結果を C-N 間の結合次数の値から議論せよ(Charges & Bondorders をチェック)。 【レポート課題7】 糖のアノマー効果

以下に示すシクロクロロヘキサン誘導体のアキシアル(axial)およびエカトリアル (equatorial)コンホマーのエネルギーを AM1 法(時間が許せば ab initio STO-3G)で評価 し、実験と比較せよ。

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8

表6

E(ax) E(eq)

Δ

E(eq-ax)

Δ

E(実験)

Chlorocyclohexane (X=CH2) -0.5

2-chlorotetrahydropyran (X=O) 1.8

エネルギーの単位は、kcal mol-1

【レポート課題8】分子の吸収波長と構造の関係

化合物 1~6の AM1 法による分子軌道計算を実行し、HOMO と LUMO のエネルギー を求めよ(Orbitals & Energies にチェック)。ついで、HOMO-LUMO エネルギーギャップ から吸収波長λmaxを予想し、実験値と比較せよ(アトキンス物理化学(上) p.418-419 を参 照)。また、5の化合物の吸収波長が特に長い理由を考察せよ。なお、5はロドプシン の発色団、6はβ カロチンである。

表7

HOMO (eV) LUMO (eV) (HOMO-LUMO) (eV) λmax (nm)

163 217 252 304 610 450 N H+ CH3 1 2 3 4 5 6

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9 【レポート課題9】キノン類の還元電位 キノン類は、容易に電子を受け取り、ラジカルアニオンを与える。溶液中で一電子を 受け取るキノンの能力は、一電子還元ポテンシャルとして定義され、実験的に数多くの 測定がなされている。理論的に電子を受け取る能力(電子親和力)は LUMO のエネル ギーと関係づけられる。以下の化合物 1~5 について、AM1 法による分子軌道計算を実 行し(Orbitals & Energies にチェック)、LUMO のエネルギーを評価し、実験値との相関を 調べよ(アトキンス物理化学(上) p.418 を参照)。 O O O* O - e-O O

1

O O

2

Me O O

3

Me Me O O

4

Me Me Me O O

5

Me Me Me Me

(10)

10 表8 4.参考文献 1) 櫻井実、猪飼篤 編、計算機化学入門、丸善、1999. 2) ヒーリーら(幅田陽一 訳)、有機化学のための分子モデリングワークブック、CRC 総合研究所、2000. 3) ヒーリーら(園田ら 訳)、計算有機化学実験、アイネック学術出版、1996. LUMO (eV) Reduction potential (eV)

0.010

0.023

0.067

0.165

参照

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