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第Ⅲ部 認知症ならびに関連症状

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第Ⅲ部 認知症ならびに関連症状

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第13章

アルツハイマー型認知症

1 . 認 知 症 の 概 要 1 . 1 認 知 症 の 定 義 と 診 断 基 準 「 認 知 症(dementia)」は「慢性、進行性の知的機能障害」と定義される。“dementia” は ラ テ ン 語 の“demens”を 語源とす る。 “demens”は 本来 、狂気 、分 裂、解 離し た心、 を意 味 す る 語 で あ る 。 初 め て 医 学 的 用 語 と し て“demens”を 用 い た の は ギ リ シ ア 人 セ ル ス ス (BC30-AD50)であるといわれ、彼はこれを老人にみられる麻痺に関する記述のなかで 使 用 し て い る 。“dementia”は当初、「戸惑い」、「当惑」、「錯乱」などのような精神症 状 を 表 す 言 葉 と し て 用 い ら れ た 。 現 在 の よ う に 知 的 機 能 障 害 と い う 意 味 で の 用 法 が 定 着す る の は 19 世紀後半である。 ア メ リ カ 精 神 医 学 会(APA)の「精神疾患診断統計マニュアル第 IV 版(DSM-IV)」で は 認 知 症 を 「 日 常 生 活 に 支 障 を 来 す よ う な 知 的 機 能 の 慢 性 的 低 下 」 と 定 義 し 、 以 下 の 5条 件 を 全 て 満 た す こ と を 診 断 基 準 と し て い る 。 1 ) 記 憶 障 害 が あ る 。 2 ) 失 行 、 失 認 、 失 語 、 遂 行 機 能 障 害 の ど れ か が あ る 。 3 ) 上 記 の た め に 社 会 生 活 に 支 障 を き た す 。 4 ) 上 記 の 状 態 の 背 景 に 脳 な ど の 身 体 的 な 原 因 が あ る か 、 あ る と 推 定 出 来 る 。 5 ) 意 識 障 害 は な い 。 世 界 保 健 機 構(WHO)の「国際疾病分類第 10 版(ICD10)」における認知症の診断基 準 は 表 1 3 - 1 の ご と く で あ る 。 後 に 詳 し く 述 べ る が 、認 知 症 に お け る 社 会 生 活 阻 害 の 原 因 と な る の は DSM-IV が指摘す る 知 的 機 能 障 害 よ り も 行 動 、 人 格 面 で の 障 害 で あ る こ と が 少 な く な い 。 一 般 に 認 知 症 は知 的 機 能 障 害 と 考 え ら れ 、本 書 で も 取 り あ え ず そ の よ う に 定 義 し た 。し か し 、ICD10 の診断 基 準 か ら も 明 ら か な よ う に 、 そ の 障 害 は 知 的 機 能 に の み に 限 ら れ る も の で は な い 。 心 理学 13-2

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で は 人 格 ( パ ー ソ ナ リ テ ィ ) を 知 、 情 、 意 の 3 側 面 に 分 け る 。 認 知 症 で は こ の 3 側 面 のい ず れ も が 障 害 さ れ る 。 一 旦 完 成 し た 人 格 が 徐 々 に 解 体 さ れ 、 そ の 統 合 と 秩 序 が 失 わ れ てい く 過 程 、 そ れ が 認 知 症 で あ る 。 か つ て 認 知 症 は 永 続 的 、 不 可 逆 的 な も の と 考 え ら れ 、 ヤ ス パ ー ス や ブ ロ イ ラ ー な ど の 精 神 医 学 書 で は 認 知 症 は 永 続 的 、 不 可 逆 的 で あ る と 記 載 さ れ て い た 。 一 方 、DSM-IVでは認 知 症 は 治 療 可 能 な も の も あ り 、 不 可 逆 的 な も の と は 言 え な い と し て い る 。 ア ル ツ ハ イ マー 型 認 知 症 に 対 す る 薬 物 治 療 の 進 歩 な ど も あ り 、 認 知 症 は 固 定 的 な 状 態 で は な い 。 神 経 病理 学 者 白 木 が 指 摘 す る よ う に 、 失 語 、 失 行 、 失 認 な ど の 脳 局 所 症 状 か ら 認 知 症 を 経 て よ り広 範 な 脳 機 能 障 害 で あ る 失 外 套 症 候 群1に 至 る 人 格 解 体 症 候 群 の 一 断 面 と し て 捉 え る 視 点 が 重 要 と 考 え ら れ る 。 認 知 症 は 固 定 的 な 状 態 で は な く 、 正 負 い ず れ の 方 向 へ も 変 化 し う る人 格 全 体 の 解 体 過 程 で あ る2 表 1 3 - 1 WHO の認知症診断基準 A . 次 の 2 項 が 存 在 す る 。 ( 1 ) 日 常 的 に 支 障 を き た す 記 憶 障 害 ( 2 ) 一 般 知 能 障 害 B . A 項 の 症 状 を 明 ら か に 確 認 出 来 る 十 分 な 期 間 が 存 在 す る 。 周 囲 の 状 況 を 理 解 す る 能 力 は 保 た れ て い る 。 C . 次 の 1 項 目 以 上 を 認 め る 。 ( 1 ) 情 緒 的 不 安 定 性 ( 2 ) 易 刺 激 性 ( 3 ) 無 関 心 ( 4 ) 社 会 行 動 に お け る 粗 雑 さ D . A 項 の 症 状 が 明 ら か に 6 ヶ 月 以 上 存 在 し て 確 定 診 断 さ れ る 。 1 第18章参照。 2 この意味において、知的機能の障害のみを意味する「認知症」の名称は極めて不適切で あ る 。 13-3

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表 1 3 - 2 認 知 症 の 原 疾 患 変 性 疾 患 非 変 性 疾 患 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 血 管 性 認 知 症 レ ビ ー 小 体 型 認 知 症 多 発 梗 塞 神 経 原 線 維 変 化 型 認 知 症 ビ ン ス ワ ン ガ ー 病 パ ー キ ン ソ ニ ス ム ・ 認 知 症 ラ ク ネ 梗 塞 コ ン プ レ ッ ク ス 感 染 症 に よ る 認 知 症 石 灰 沈 着 を 伴 う 瀰 漫 性 神 経 原 線 維 脳 ・ 脊 髄 炎 、AID 変 化 症 プ リ オ ン 病 辺 緑 系 神 経 原 線 維 変 化 認 知 症 ク ロ イ ツ フ ェ ル ト ・ ヤ コ ビ 病 グ リ ア タ ン グ ル 型 認 知 症 ゲ ル ス ト マ ン ・ シ ュ ト ロ イ ス ラ ー ・ 進 行 性 核 上 性 麻 痺 シ ャ イ ン カ 病 皮 質 基 底 核 変 性 症 変 異 型 ク ロ イ ツ フ ェ ル ト ・ ヤ コ ビ 病 第 17 番染色体に連鎖する前頭 (狂牛病) 側 頭 型 認 知 症 ・ パ ー キ ン ソ ニ ス ム 神 経 梅 毒 な ど 嗜 銀 性 グ レ イ ン 型 認 知 症 膠 原 病 に よ る 認 知 症 前 頭 側 頭 型 認 知 症 全 身 性 エ リ セ マ ト ー デ ス 、 動 脈 炎 ピ ッ ク 病 神 経 ベ ー チ ェ ッ ト 病 な ど 進 行 性 皮 質 下 グ リ オ シ ス 外 傷 に よ る 認 知 症 運 動 ニ ュ ー ロ ン 疾 患 を 伴 う 初 老 期 痴 呆 脳 挫 傷 、 慢 性 硬 膜 化 血 腫 非 特 異 的 前 頭 側 頭 型 痴 呆 栄 養 障 害 、 代 謝 障 害 に よ る 認 知 症 皮 質 下 病 変 に よ る 認 知 症 ウ ェ ル ニ ッ ケ ・ コ ル サ コ フ 症 候 群 ハ ン チ ン ト ン 病 ウ ィ ル ソ ン 病 ( 銅 ) な ど 歯 状 核 赤 核 淡 蒼 球 ル イ ス 体 萎 縮 症 内 分 泌 障 害 に よ る 認 知 症 視 床 変 性 症 中 毒 に よ る 認 知 症 一 酸 化 酸 素 中 毒 、 水 銀 そ の 他 重 金 属 中 毒 薬 物 中 毒 ( 向 精 神 薬 、 抗 ガ ン 剤 な ど ) そ の 他 多 発 硬 化 症 、 水 頭 症 、 脳 腫 瘍 な ど 13-4

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1 . 2 認 知 症 の 原 疾 患 認 知 症 は 症 候 群 、 す な わ ち 現 象 で あ り 、 多 く の 疾 患 に 伴 っ て 出 現 す る 。 認 知 症 と 関 連す る 疾 患 は 、 ① 変 性 疾 患 、 ② 非 変 性 疾 患 に 大 別 さ れ る ( 表 1 3 - 2 ) 。 変 性 と は 、 細 胞 が行 う 代 謝 過 程 に 何 ら か の 異 常 が あ り 、 そ の 結 果 細 胞 が 形 態 学 的 な 変 化 を 示 す こ と で あ る 。非 変 性 疾 患 は 、 ① 脳 固 有 の 疾 患 、 ② 全 身 性 疾 患 に 伴 う 脳 疾 患 、 に 大 別 さ れ る 。 当 然 な が ら認 知 症 は ① で 多 く 認 め ら れ る 。 特 に 脳 血 管 障 害 に 伴 う 認 知 症 は よ く 知 ら れ て い る 。 認 知 症 は 大 脳 皮 質 お よ び 皮 質 下 諸 核 の 損 傷 に 伴 う 症 候 群 で あ る の で 、 大 脳 皮 質 や 皮 質下 諸 核 を 侵 す 疾 患 で あ れ ば 、 そ の 病 理 や 発 症 機 序 の 如 何 を 問 わ ず 発 症 す る 。 表 1 3 - 2 はこ の こ と を 如 実 に 示 し て い る 。 精 神 疾 患 と 認 知 症 と の 関 連 に つ い て は 古 く か ら 議 論 が あ る 。 統 合 失 調 症 の 概 念 を 提 出し た ク レ ぺ リ ン は こ の 疾 患 が 最 終 的 に は 認 知 症 に 至 る と 考 え 、 「 早 発 性 認 知 症 」 の 概 念 を提 唱 し た 。 現 在 で は 統 合 失 調 症 が 認 知 症 の 原 因 と な る と は 考 え ら れ て い な い3 中 高 年 齢 者 に 発 症 し た 鬱 病 は 現 象 的 に 認 知 症 に 酷 似 し た 症 状 を 呈 す る こ と が 少 な く な い。 こ の 症 状 は 可 逆 性 で あ り 「 偽 認 知 症 」 と 呼 ば れ 、 真 の 認 知 症 と は 区 別 さ れ る 。 た だ し 偽認 知 症 が 真 の 認 知 症 に 移 行 す る 場 合 も あ る 。 ま た 一 見 鬱 病 類 似 の 症 状 で 発 病 す る 認 知 症 もあ る 。 鬱 病 と 認 知 症 と の 鑑 別 は 時 と し て 必 ず し も 容 易 で は な い 。 1 . 3 認 知 症 の 疫 学 認 知 症 の 有 病 率4に つ い て は オ コ ン ナ ー が 四 つ の メ タ 解 析5の 結 果 を 要 約 し て い る 。そ れ に よ れ ば 認 知 症 の 年 齢 段 階 別 の 有 病 率 は 表 1 3 - 3 に 示 す ご と く で あ る 。 年 齢 が 高 く なる に つ れ て 認 知 症 の 有 病 率 は 増 大 す る 。65 歳代から 80 歳代までは 5 年毎に有病率はほぼ倍 増 す る 。 西 暦 2000 年における世界の認知症患者数は 8,400 万人と推定されている。日本 に お け る 認 知 症 患 者 数 の 推 移 お よ び 将 来 推 計 は 図 1 3 - 1 に 示 す ご と く で あ る 。2020 年ま で は 急 激 な 認 知 症 患 者 数 の 増 大 が 予 想 さ れ る 。 そ れ 以 降 は 総 人 口 の 減 少 に 伴 っ て 伸 び 率は 低 下 す る が 、 患 者 数 は 増 大 す る と 予 測 さ れ て い る 。 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 年 齢 段 階 別 の 有 病 率 に つ い て は ロ ボ ら が 11 の研究報告につ い て 行 っ た メ タ 解 析 の 結 果 が あ る 。 表 1 3 - 4 に 示 す ご と く 年 齢 が 5 歳 増 す 毎 に 有 病 率は 3 ただし統合失調症に種々の知的機能障害が存在することは広く認められている。 4 定められた一時点における疾病異常者の人口に対する割合。 5過 去 に 独 立 し て 行 わ れ た 複 数 の 臨 床 研 究 の デ ー タ を 収 集 ・ 統 合 し 、 統 計 的 方 法 を 用 い て 解 析 し た 系 統 的 総 説 。 13-5

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約 2 倍 に な る 。 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 発 症 率6に つ い て は 、 オ コ ン ナ ー が 最 近 に お け

る メ タ 解 析 の 結 果 を 表 1 3 - 5 の ご と く 要 約 し て い る 。80 歳代後半以降発症率は急激に増 大 す る 。

表 1 3 - 3 認 知 症 の 有 病 率(%)のメタ解析

Jorm et al. Hofman et al. Ritchie & Kaldea Fratiglioi et al. (1987) (1991) (1995) (1999) 研 究 数 22 12 9 36 地 域 ヨーロッパ ヨーロッパ ヨーロッパ ヨーロッパ、米 日 本 カ ナ ダ カナダ、アジア 豪 日 本 結 果 年 齢 平均 65-69 1.4 1.4 1.5 1.5 1.5 70-74 2.8 4.1 3.5 3 3.5 75-79 5.6 5.7 6.8 6 6.3 80-84 10.5 13.0 13.6 12 13.1 85-89 20.8 21.6 22.3 22.1 90-94 38.6 32.2 31.5 31.7 95-99 34.7 44.5 41.2 0 50 100 150 200 250 300 350 400 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 年 万人 図 1 3 - 1 日 本 に お け る 認 知 症 患 者 数 の 推 移 お よ び 将 来 推 計 6 定められた期間(通常1年)内に新しく発生した疾病異常者の単位人口に対する割合。 13-6

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表 1 3 - 4 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 有 病 率 ( % ) ヨ ー ロ ッ パ に お け る 11 研究のメタ解析結果 年 齢 男 女 65-69 0.6 0.7 70-74 1.5 2.3 75-79 1.8 4.3 80-84 6.3 8.4 85-90 8.8 14.2 90+ 17.6 23.6 表 1 3 - 5 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 発 症 率(千人あたり%)のメタ解析

Jorm & Jolly Gao et al. Fratiglioi et al. Bookmeyer et al. (1998) (1998) (2000) (1998) 研 究 数 23 7 8 4 地 域 ヨーロッパ ヨーロッパ ヨーロッパ 米 米 米 カ ナ ダ 年 齢 65-69 3.5 3.3 1.2 1.7 70-74 7.4 8.4 3.3 3.5 75-79 15.5 18.2 9.1 7.1 80-84 32.7 33.6 21.8 14.4 85-89 68.7 53.3 35.3 29.2 90-94 144.3 72.9 59.5 95+ 121.0 13-7

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ロ ボ ら に よ る 血 管 性 認 知 症 の 年 齢 段 階 別 の 有 病 率 研 究 の メ タ 解 析 の 結 果 ( 表 1 3 - 6 ) で は 、 有 病 率 は ア ル ツ ハ イ マ ー 病 よ り 低 い 。 そ の 年 齢 段 階 別 の 発 症 率 は 表 1 3 - 7 に 示す ご と く で あ る 。 年 齢 段 階 が 高 く な る と 発 症 率 は 高 く な る が 、 増 加 率 は ア ル ツ ハ イ マ ー 型認 知 症 よ り か な り 低 い 。 表 1 3 - 6 血 管 性 認 知 症 の 有 病 率 ( % ) ヨ ー ロ ッ パ に お け る 11 研究のメタ解析結果 年 齢 男 女 65-69 0.5 0.1 70-74 0.8 0.6 75-79 1.9 0.9 80-84 2.4 2.3 85-90 2.4 3.5 90+ 3.6 5.8 表 1 3 - 7 血 管 性 認 知 症 の 発 症 率 ( 千 人 あ た り%) ヨ ー ロ ッ パ に お け る 8 研究のメタ解析結果 年 齢 男 女 65-69 1.2 0.3 70-74 1.6 0.8 75-79 3.9 3.2 80-84 8.3 4.5 85-90 6.2 6.1 90+ 10.9 7.0 13-8

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1 . 4 認 知 症 の 分 類 認 知 症 は 、 ① 原 疾 患 ( 表 1 3 - 8 ) 、 ② 発 症 機 序 ( 表 1 3 - 9 ) 、 ③ 損 傷 部 位 ( 表 1 3 ― 1 0 ) 、 ④ 臨 床 症 状 ( 表 1 3 ― 1 1 ) 、 な ど 様 々 な 基 準 に 従 っ て 分 類 さ れ て い る 。 表 1 3 - 8 原 疾 患 に よ る 分 類 ICD-10 DSM-IV F00 アルツハイマー病 290.0 アルツハイマー型認知症、晩発型 F00.0 早発型アルツハイマー病 合併症状なし F00.1 遅発型アルツハイマー病 290.10 ピック病による認知症 F00.2 混合型もしくは 290.10 クロイツフェルト・ヤコブ病による 非 定 型 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 認知症 F01 血管性認知症 290.10 アルツハイマー型認知症、早発型 F01.0 急性発病型血管性認知症 合併症状なし F01.1 多発梗塞型血管性認知症 290.11 アルツハイマー型認知症、早発型 F01.2 皮質下型血管性認知症 譫妄 F01.3 皮質・皮質下混合型血管性 290.13 アルツハイマー型認知症、早発型 認 知 症 抑鬱 F01.8 その他の血管性認知症 290.20 アルツハイマー型認知症、晩発型 F01.0 血管性認知症、分類不能 妄想 F02 他の原因による認知症 290.21 アルツハイマー型認知症、晩発型 F02.0 ピック病 抑鬱 F02.1 クロイツフェルト・ヤコブ病 290.3 アルツハイマー型認知症、晩発型 F02.2 ハンチントン病 譫妄 F02.3 パーキンソン病 290.40 血管性認知症 合併症なし F02.4 HIV 疾患認知症 290.41 血管性認知症 譫妄 F02.8 他の疾患に伴う認知症 290.42 血管性認知症 妄想 F03 分類不能な認知症 290.43 血管性認知症 抑鬱 13-9

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表 1 3 - 9 発症機序による分類(コーファー) 1 ) ア ミ ロ イ ド / タ ウ 病 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 2 ) α シ ヌ ク レ イ ン 病 パ ー キ ン ソ ン 病 レ ビ ー 小 体 病 多 系 統 変 性 症 3 ) タ ウ 病 前 頭 側 頭 葉 認 知 症 進行性核上性球麻痺 皮 質 基 底 変 性 症 4 ) ト リ ヌ ク レ オ チ ド レ ピ ー ト 病 ハ ン チ ン ト ン 病 脊 髄 小 脳 変 性 症 5 ) 毒 物 / 代 謝 障 害 ウ ィ ル ソ ン 病 ( 銅 ) ハ ロ バ ー デ ン ・ ス パ ッ ツ 症 候 群 ( 鉄 ) 6 ) 白 質 ジ ス ト ロ フ ィ 違 染 色 性 白 質 ジ ス ト ロ フ ィ 7 ) プ リ オ ン 関 連 疾 患 ク ロ イ ツ フ ェ ル ト ・ ヤ コ ビ 病 ゲ ル ス ト マ ン ・ シ ュ ト ロ イ ス ラ ー ・ シ ャ イ ン カ 病 致 死 性 家 族 性 不 眠 症 ( 視 床 認 知 症 ) 変 異 型 ク ロ イ ツ フ ェ ル ト ・ ヤ コ ビ 病 ( 狂 牛 病 ) 13-10

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表 1 3 - 1 0 損 傷 部 位 に よ る 分 類

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表 1 3 - 1 1 臨 床 症 状 に よ る 分 類 ( シ ェ ラ ー ) 1 . 健 忘 型 認 知 症 ~ 初 期 に は 青 年 時 代 の 年 代 的 に 古 い も の に 対 す る 健 忘 症 状 が 前 景 に 出る が 、 実 際 に は 殆 ど 全 て の 作 業 領 域 に 障 害 を 持 つ 。 そ の 失 見 当 の 本 質 は 年 代 学 的 秩 序 づ け の 障 害 と し て の 見 当 識 障 害 で あ る 。 こ の 型 の 認 知 症 は 老 人 性 認 知 症 や 瀰 漫 性 脳 病 変 で み ら れ る 。 辺 縁 系 の 内 側 縁 弓 ( 乳 頭 一 脳 弓 一 海 馬 ) の 損 傷 に よ る 。 2 . コ ル サ コ フ 症 候 群 ~ 1 . と は 別 の 失 見 当 、 つ ま り 、 物 理 的 時 間 、 空 間 に お け る 失 見当 で は な く 、 自 己 の 生 活 史 上 の 位 置 を 自 覚 す る こ と が 出 来 ぬ 見 当 識 錯 誤 が 基 本 障 害 で あ る 。 プ レ ス ビ オ フ レ ニ ー 、 せ ん 妄 、 も う ろ う 状 態 、 例 外 状 態 な ど の 急 性 意 識 障 害 の 失 見 当 と 同 様 の も の で あ る 。 脳 外 傷 後 コ ル サ コ フ 症 候 群 が 代 表 的 で あ る 。 患 者 は 自 己 を 歴 史 的 時 間 秩 序 に 位 置 づ け る こ と は 出 来 る が 現 在 を 自 己 の 連 続 し た 生 活 史 に 正 し く 位 置 づ け る こ と が 出 来 な い 。 コ ル サ コ フ 症 候 群 で は 重 度 の 記 憶 障 害 が 見 ら れ る が 、 こ れ は 自 伝 年 代 学 的 な 記 憶 に お い て 著 し く 、 一 般 的 学 習 能 力 は そ れ ほ ど 障 害 さ れ な い 。 脳 梁 に 沿 う 外 側 緑 弓 の 損 傷 に 起 因 す る 。 3 .価 値 世 界 解 体 症 候 群 ~ 高 次 の 人 格 的 、価 値 的 世 界 の 崩 壊 の 結 果 、人 間 ら し さ を 失 っ て 、 種 々 の 行 動 異 常 を 示 す 。 記 憶 、 一 般 知 能 は 比 較 的 保 た れ る 。 前 頭 葉 底 面 、 眼 裔 面 の 病 変 が 考 え ら れ る 。 ピ ッ ク 病 、 進 行 麻 痺 な ど で み ら れ る 。 4 . 自 発 性 欠 如 症 候 群 ~ 自 発 唖 な い し 鍼 黙 、 反 響 症 状 、 強 制 注 意 、 口 ・ 手 ・ 視 線 の 強 制症 状 、 姿 勢 固 執 な ど を 示 す 。 こ の 行 動 異 常 の 本 質 は 自 己 が 環 境 世 界 へ 引 き 渡 さ れ て い る こ と に あ る 。 前 頭 葉 凸 面 、 お よ び そ の 求 心 経 路 や 脳 基 底 核 の 病 変 が 推 定 さ れ 、 ピ ッ ク 病 や 両 側 前 頭 葉 凸 面 腫 瘍 で み ら れ る 。 5 . 空 間 世 界 解 体 症 候 群 ~ 無 関 心 、 目 的 不 明 の 行 動 、 落 ち 着 き の な さ 、 情 動 の 平 板 化 とい っ た 症 状 を も っ て 始 ま る 。 そ の 本 態 は 幾 何 学 的 空 間 世 界 の 崩 壊 で あ る 。 大 脳 白 質 の 広 範 な 脱 随 を 示 す 症 例 で み ら れ る 。 頭 頂 ・ 後 頭 葉 症 候 群 で あ る 。 6 . 失 象 徴 症 候 群 ~ 超 皮 質 性 失 語 ま た は ク ラ イ ス ト の 名 辞 失 語 が 中 核 症 状 で 、 そ の 他 種々 の 高 次 の 象 徴 機 能 の 障 害 を 示 し 、 次 第 に 言 語 常 同 性 、 無 関 心 を 伴 う よ う に な る 。 側 頭 葉 に 病 変 を も つ 。 ピ ッ ク 病 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 が そ の 代 表 と さ れ る 。 13-12

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2 . 加 齢 と 高 次 脳 機 能 2 . 1 加 齢 に 伴 う 知 的 機 能 の 変 化 ヒ ト の 一 生 を 通 じ て 知 的 機 能 が ど の よ う に 変 化 す る か を 明 ら か に す る に は 三 つ の 方 法 が あ る 。 第 一 は 同 じ 個 人 を 長 期 に わ た っ て 追 跡 し て 同 一 の 検 査 を 繰 り 返 し 実 施 す る 方 法 であ る 。 縦 断 的 研 究 と い う 。 第 二 は 異 な っ た 年 齢 段 階 の 個 人 を 選 び 出 し て 同 一 の 検 査 を 実 施、 年 齢 段 階 ご と に 比 較 す る 方 法 で あ る 。 横 断 的 研 究 と い う 。 第 一 の 方 法 は 各 個 人 の 知 的 機能 の 発 達 や 変 化 の 克 明 な 資 料 は 得 ら れ る 反 面 、 研 究 に 非 常 に 時 間 が か か る 。 第 二 の 方 法 は資 料 の 収 集 に は あ ま り 時 間 を 要 し な い 反 面 、 結 局 は ま っ た く 別 の 個 人 の 比 較 に な る の で 、年 齢 段 階 に よ る 差 が 見 ら れ て も 、 そ れ が 真 に 年 齢 に よ る 差 な の か 他 の 要 因 に よ る 差 な の か判 断 し に く い と い う 欠 点 が あ る 。 そ こ で こ れ ら 二 つ の 方 法 の 欠 点 を 補 う 第 三 の 方 法 と し てコ ー ホ ー ト 研 究 法 が 開 発 さ れ た 。 こ れ は 20 歳代、30 歳代、等それぞれの年齢段階の個人を 一 定 の 期 間 追 跡 研 究 す る も の で あ る 。 こ の 方 法 を 用 い る と 年 齢 に よ る 違 い と そ れ 以 外 の要 因 に よ る 違 い を あ る 程 度 分 離 す る こ と が 可 能 で あ る 。 以 下 各 々 の 研 究 結 果 を み て い く こと に す る 。 1 ) 縦 断 的 研 究 ~ バ ー レ イ ら は 36 年間にわたって主として WAIS を用いて知的機能変 化 の 縦 断 的 研 究 を 行 っ た 。図 1 3 - 2 は そ の 結 果 で WAIS の各下位検査別に粗点の変化を 図 示 し た も の で あ る 。全 体 と し て 言 語 性 検 査( 常 識 、語 彙 、類 似 、直 接 記 憶 、算 数 、理 解 ) は 年 齢 が 高 く な る ほ ど 粗 点 も 高 く な る 傾 向 が あ る が 、 動 作 性 検 査 ( 絵 画 完 成 、 絵 画 配 列、 ブ ロ ッ ク ・ デ ザ イ ン ) の 粗 点 は あ る 年 齢 段 階 で 頭 打 ち に な り 、 そ れ 以 降 は 横 ば い も し くは 低 下 し て い く 傾 向 に あ る 。 2 )横 断 的 研 究 ~ ウ エ ク ス ラ ー は 約 200 名の被検者について WAIS 得点の年齢比較を行 っ て い る 。 結 果 は 図 1 3 - 3 の ご と く で あ っ た 。 言 語 性 検 査 、 動 作 性 検 査 と も 25~30 歳 で 得 点 は 最 も 高 く な り 、 後 は な だ ら か に 低 下 し て い く 。 た だ し 下 位 検 査 に よ っ て 最 も 高い 得 点 を 示 す 年 齢 段 階 は 異 な り 、 最 も 速 く ピ ー ク に 達 す る の は 算 数 、 ブ ロ ッ ク ・ デ ザ イ ンな ど で 、 常 識 な ど は や や 遅 れ る 傾 向 に あ る 。 ま た 年 齢 が 高 く な る に つ れ て 置 換 検 査 な ど では 得 点 が 大 幅 に 低 下 す る が 、 常 識 で は そ れ ほ ど で も な い 。 3 )コ ー ホ ー ト 研 究 ~ シ ャ イ エ ら は 22 歳から 70 歳までの各年齢段階の被検者約 450 名 に つ い て 21 年間の間隔をおいて知能検査を実施した。表13-12は最初の検査と2回 目 の 検 査 の 得 点 を 示 し た も の で 、 マ イ ナ ス は 得 点 の 低 下 を 意 味 す る 。 加 齢 に 伴 い 最 も 速い 13-13

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ま た 最 も 著 し い 低 下 を 示 す も の は 語 の 流 暢 性 で あ り 、40 歳台ですでに有意に低下する。他 の 機 能 は 60 歳台になって有意な低下を示す。

図 1 3 - 2 加 齢 に 伴 う 知 能 検 査 成 績 の 変 化 ( 1 ) : 縦 断 的 研 究

図 1 3 - 3 加 齢 に 伴 う 知 能 検 査 の 変 化 ( 2 ) : 横 断 的 研 究

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表 1 3 - 1 3 加 齢 に 伴 う 知 能 検 査 成 績 の 変 化 ( 3 ) : コ ー ホ ー ト 研 究 2 . 2 加 齢 に 伴 う 脳 の 解 剖 学 的 な ら び に 生 理 学 的 変 化 2 . 2 . 1 解 剖 学 的 変 化 1 )脳 容 積 ~ フ ォ テ ノ ス ら は18 歳~93 歳の男女 362 名を対象に加齢に伴う脳容積の変 化 を MRI により計測した。結果は図13-4に示すごとくであった。20 歳~80 歳の間に 脳 容 積 は 男 性 で は 1,193cm3か ら 1,025 cm3に 、 女 性 で は 1,195cm3か ら 1,050 cm3に 減 少 し た 。1 年あたりの減少率は男性で 0.24%、女性で 0.20%である。この減少率は高年齢者 で よ り 高 く な る 。65 歳~80 歳の 1 年あたり減少率は男性 0.45%、女性 0.35%である。 加 齢 に 伴 う 脳 容 積 の 変 化 は 脳 領 野 に よ り 異 な る 。 カ ベ ザ ら の 総 説 に よ れ ば 、 嗅 内 皮 質 で は 1 年 あ た り の 容 積 の 変 化 は 1.5%に達する。次で海馬(1.3%)、尾状核(1.2%)、前頭葉(1.1%)、 小 脳 (0.7%)、頭頂葉(0.5%)、後頭葉(0.5%)、側頭葉(0.4%)、の順となる。 2 )線 維 連 絡 ~ 高 年 齢 者 で はMRI画像で白質高輝度所見や白質容積減少所見の頻度が高 く な る 。 拡 散 テ ン ソ ル 画 像7に よ り 大 脳 白 質 の 線 維 連 絡 を 直 接 測 定 し た 研 究 に お い て も 、 高 年 齢 者 で は 白 質 線 維 連 絡 の 統 合 性 が 低 下 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 特 に 、 前 頭葉 お よ び 後 頭 葉 に お け る 統 合 性 低 下 が 顕 著 で あ る 。 2 . 2 . 2 生 理 学 的 変 化 2 . 2 . 2 . 1 単 純 な 知 的 課 題 種 々 の 課 題 遂 行 時 に お け る 脳 活 動 性 の 加 齢 に よ る 変 化 に つ い て は デ ス ポ ジ ッ ト ら の 総 説 が あ る 。 比 較 的 単 純 な 刺 激 ― 反 応 課 題 遂 行 時 の 脳 活 動 性 の 変 化 を fMRI で測定した研究の 7 第2章参照。 13-15

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結 果 は 次 の ご と く で あ る 。 若 年 齢 者 (20 歳代)に比して高年齢者(60~70 歳代)では、 ①S/N 比の減少、②感覚・運動野における脳活動性増大領野の減少、③刺激提示後の脳活 動 性 増 大 の 潜 時 の 遅 れ 、 ④ 視 覚 野 に お け る 活 動 性 減 少 、 ⑤ 運 動 野 の 活 動 性 は 若 年 齢 者 と差 は な い 、 な ど の 知 見 が 得 ら れ て い る 。 図 1 3 - 4 加 齢 に 伴 う 脳 容 積 の 変 化 ( 横 断 的 研 究 ) 縦 軸 : 脳 容 積 (cm3) 、 横 軸 : 年 齢 ( 歳 ) 2 . 2 . 2 . 2 複 雑 な 知 的 課 題 複 雑 な 知 的 機 能 関 連 課 題 遂 行 時 の 加 齢 に よ る 脳 活 動 性 変 化 に つ い て は 、 以 下 の 知 見 が報 告 さ れ て い る 。 1 ) エ ピ ソ ー ド 記 憶 課 題8~ 若 年 齢 者 で は 記 銘 時 左 前 頭 葉 お よ び 海 馬 の 活 動 性 が 増 大 す る が 高 年 齢 者 で は 両 側 前 頭 葉 の 活 動 性 が 増 大 す る 。 若 年 齢 者 で は 前 頭 葉 の 活 動 性 と 記 憶成 績 の 相 関 は 非 常 に 高 い (r=0.94)が高年齢者では低い(r=0.02)。 2 ) 言 語 作 業 記 憶 課 題 ~ 若 年 齢 者 に 比 し て 高 年 齢 者 で は よ り 多 く の 領 野 の 活 動 性 が 増 大 8 記憶の分類については第11章参照。 13-16

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す る 。 ロ イ タ ー ・ ロ ー レ ン ツ ら の PET による研究結果は次のごとくである。年齢に関係 な く 左 前 頭 葉 、 左 前 運 動 野 、 左 頭 頂 葉 の 活 動 性 増 大 が 認 め ら れ る が 、 高 年 齢 者 で は こ れに 加 え て 右 前 頭 葉 領 野 、 特 に 右 4 4 野 の 活 動 性 増 大 が 認 め ら れ る 。 リ プ ラ ら に よ る fMRI を 用 い た 研 究 で も 高 年 齢 者 で は 右 前 頭 葉 活 動 性 増 大 が 若 年 齢 者 よ り 顕 著 で あ っ た ( 図 1 3- 5 ) 。 図 1 3 ― 5 記 憶 課 題 遂 行 時 脳 活 性 化 領 野 の 若 年 齢 者 と 高 年 齢 者 の 比 較 O > Y : 高 年 齢 者 で 活 動 性 大 、 Y > O : 若 年 齢 者 で 活 動 性 大 Encoding:記銘、Retrieval:想起、WM:作業記憶 3 ) 視 覚 作 業 記 憶 課 題 ~ 全 般 に 若 年 齢 者 で 活 動 性 増 大 が 顕 著 で あ る 。 若 年 齢 者 は 領 野 間 の 活 動 量 の 相 関 が 高 年 齢 者 よ り 高 い 。 ま た 、 高 年 齢 者 で は 左 前 頭 葉 の 活 動 性 が 増 大 す る。 高 年 齢 者 で は 視 覚 的 刺 激 を 処 理 す る 際 に も 言 語 的 手 掛 か り を 利 用 し て い る こ と を 物 語 る知 見 で あ る 。 4 )長 期 記 憶 課 題 ~ 高 年 齢 者 は 若 年 齢 者 に 比 し て 側 頭 葉 内 側 特 に 海 馬 の 活 動 性 が 小 さ い 。 若 年 齢 者 で は 記 憶 の 属 性 に 応 じ て 一 側 前 頭 葉 の 活 動 性 増 大 す る が( 言 語:左 、空 間:右 )、 高 年 齢 者 で は 記 憶 の 属 性 に 拘 わ ら ず 両 側 前 頭 葉 の 活 動 性 が 増 大 す る 。 自 伝 的 記 憶 の 再 生課 題 遂 行 時 、 若 年 齢 者 で は 左 海 馬 の 活 動 性 が 増 大 す る が 、 高 年 齢 者 で は 両 側 海 馬 の 活 動 性が 増 大 す る 。 以 上 の 知 見 を 総 合 す る と 次 の 結 論 と な る 。 若 年 齢 者 で は 課 題 に 応 じ て 異 な っ た 領 野 の 活 13-17

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動 性 が 増 大 す る 。 高 年 齢 者 で は 課 題 に 拘 わ ら ず 脳 の 広 範 な 領 野 の 活 動 性 が 増 大 す る 。 この こ と は 次 の よ う に 説 明 さ れ る 。 高 年 齢 者 で は 脳 の 各 領 野 の 機 能 が 低 下 し て お り 、 特 定 領野 の 活 動 だ け で は 課 さ れ た 課 題 を 遂 行 出 来 な い 。 そ こ で 多 く の 領 野 が 協 同 で 課 題 遂 行 に 関与 す る の で あ る 。 こ の 解 釈 を 裏 付 け る デ ー タ が グ ラ デ ィ ら に よ っ て 報 告 さ れ て い る 。 視 覚パ タ ー ン の 短 時 間(0.5 秒~4 秒)保持課題遂行時における海馬、前頭葉、側頭葉領野間の相 関 は 若 年 齢 者 よ り 高 年 齢 者 で 高 か っ た 。 2 . 2 . 3 加 齢 に 伴 う 知 的 機 能 変 化 の 神 経 生 物 学 的 背 景 上 述 の ご と く 、 高 年 齢 者 で は 白 質 線 維 連 絡 の 統 合 性 が 低 下 し て い る 。 ケ ネ デ ィ と ラ ッ ツ は 、19 歳~81 歳の 52 名の対象者について、加齢に伴う知的機能の低下との白質線維連絡 統 合 性 の 低 下 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 以 下 の 知 見 が 得 ら れ た 。 1 ) 反 応 速 度 の 低 下 ~ 前 頭 ― 頭 頂 葉 間 統 合 性 低 下 に 関 連 。 2 ) 作 業 記 憶 の 低 下 ~ 脳 領 野 全 体 、 特 に 脳 前 方 領 野 の 統 合 性 低 下 に 関 連 。 3 ) エ ピ ソ ー ド 記 憶 の 低 下 ~ 側 頭 葉 お よ び 内 包 の 統 合 性 低 下 に 関 連 。 4 ) 反 応 抑 制 の 低 下 ~ 脳 後 方 領 野 の 統 合 性 低 下 に 関 連 。 5 ) 行 動 柔 軟 性 の 低 下 ~ 脳 前 方 領 野 ― 脳 後 方 領 野 間 の 統 合 性 低 下 に 関 連 臨 床 的 に 特 に 神 経 症 状 を 認 め な い 高 年 齢 者 を 対 象 に MRI 検査を実施すると白質の高輝 度 化 が 認 め ら れ る 場 合 が あ る 。こ れ は 脳 血 管 障 害 の 存 在 を 示 唆 す る 所 見 と 考 え ら れ て い る 。 白 質 高 輝 度 所 見 が 認 め ら れ る 高 年 齢 者 は 、 所 見 の な い 高 年 齢 者 と 比 較 し て 、 エ ピ ソ ー ド記 憶 な ど の 知 的 機 能 が 低 下 し て い る と い う 報 告 が な さ れ て い る 。 本 章 第 8 節 で 詳 し く 述 べ る よ う に 、ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症(ATD)の危険因子として ア ポ リ ポ タ ン パ ク E(ApoE)の遺伝子多型がある。ε4 を有する個人では ATD の発症率 が 高 い 。 健 常 な 高 年 齢 者 で も ε4 を有する個人は、他の遺伝子型の個人に比べて、エピソ ー ド 記 憶 な ど の 知 的 機 能 の 低 下 が 顕 著 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 ま た 、後 述 す る よ う に 、ATD の特徴的神経病理学的所見として海馬の萎縮とアミロイド 沈 着 が あ る 。 こ の 所 見 は 認 知 症 症 状 が 認 め ら れ な い 高 年 齢 者 で も 認 め ら れ る 。 モ ル ミ ノら は 60 歳以上の認知症症状のない高年齢者を対象にエピソード記憶課題成績と海馬萎縮お よ び ア ミ ロ イ ド 沈 着 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た 。 海 馬 に お け る ア ミ ロ イ ド 沈 着 の 程 度 は海 馬 萎 縮 の 程 度 お よ び エ ピ ソ ー ド 記 憶 成 績 低 下 と 有 意 に 相 関 し て い た 。 ま た 海 馬 萎 縮 の 程度 は エ ピ ソ ー ド 記 憶 成 績 低 下 と 有 意 に 相 関 し て い た 。 13-18

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3 . 軽 度 認 識 障 害 3 . 1 概 念 、 診 断 基 準 、 頻 度 、 転 帰 上述のごとく、加齢に伴って知的機能が低下することは避けられない。一方、このいわ ば 正 常 な 知 的 機 能 の 老 化 以 上 に 知 的 機 能 の 低 下 を 示 す 個 人 が 存 在 し 、 「 軽 度 認 識 障 害 (MCI) 」と呼 ばれている 。1995 年 ペ ターソン らよって提 唱された概 念である。 彼ら は MCI の診断基準として表13-13をあげている。 MCI の頻度についてはいくつかの報告がある。全人口中の有病率は 4~38%という数字 が 報 告 さ れ て い る 。 長 期 的 追 跡 研 究 の 結 果 に よ れ ば 、MCI の転帰は様々である。認知症、鬱病、心臓血管障 害 、脳 血 管 障 害 、な ど が 含 ま れ る 。MCI の転帰で最も重要な意味を持つのは認知症である。 詳 細 は 後 述 す る が 、MCI が認知症を発症する頻度は①1年あたり 10~15%、②2年間で 40%、③3年間で 30%、④3年間で 53%、などの結果が報告されている。全人口中の MCI か ら 認 知 症 へ の 転 換 率 は 年 7%程度と推定されている。 表 1 3 - 1 3 軽 度 認 識 障 害 の 診 断 基 準 1 ) 近 親 者 に よ る 記 憶 障 害 の 存 在 の 報 告 : 患 者 自 身 の 自 覚 が あ る 場 合 は 家 族 や 近 親 者 ら の 情 報 に よ る 確 認 が 必 要 で あ る 。 2 ) 年 齢 の 割 に は 著 し い 記 憶 の 客 観 的 低 下 : 健 常 統 制 群 よ り 1.5 標準偏差以上の低下。 3 ) 全 般 的 知 的 機 能 は 保 た れ : 言 語 、 注 意 、 空 間 的 認 識 な ど に 多 少 の 障 害 は 認 め ら れ る が 、 明 瞭 な 知 的 機 能 障 害 と は 言 え な い 。 4 ) 日 常 生 活 に 大 き な 支 障 は な い 。 5 ) 認 知 症 で は な い : 専 門 的 臨 床 家 か ら 見 て 認 知 症 の 印 象 は 受 け な い 。 明 ら か な 認 知 症の 症 状 は 存 在 し な い が 、 記 憶 の 明 瞭 な 低 下 が 認 め ら れ る 状 態 で あ る 。 3 . 2 . 臨 床 像 3 . 2 . 1 神 経 心 理 学 的 検 査 所 見 ペ タ ー ソ ン ら は 健 常 者(234 例)、MCI(76 例)、軽度アルハイマー型認知症(48 例)、 重 度 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症(46 例)を対象として種々の検査を実施し、その結果を図1 3 - 6 の ご と く 要 約 し て い る 。MCI は一般知能や認知症尺度(MMSE)で健常者より劣る 13-19

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が な お 正 常 範 囲 に 留 ま っ て い る 。 論 理 記 憶 ( 物 語 の 記 憶 ) 、 視 覚 的 再 生 の 成 績 は 大 き く低 下 し 健 常 統 制 群 よ り ア ル ハ イ マ ー 型 認 知 症 に 近 似 し て い る 。MCI の記憶障害は記銘、想起 い ず れ の 側 面 で も 認 め ら れ る 。 図 1 3 - 6 軽 度 認 識 障 害 の 神 経 心 理 学 的 検 査 所 見 Controls:健常者、MCI:軽度認識障害、AD0.5:軽度アルツハイマー型認知症 AD1:重度アルツハイマー型認知症 3 . 2 . 2 精 神 症 状 MCI では種々の精神症状が認められる。パルマーらによれば、気分障害(36%)、欲求 障 害(36%)、不安(24%)などが認められる。この頻度は健常高年齢者(それぞれ 18%、 13%、6%)よりいずれも有意に高い。 3 . 2 . 3 軽 度 認 識 障 害 の 類 型 MCI の臨床像は多様である。多くの症例は記憶障害を主症状とするが、記憶障害よりも 言 語 、 遂 行 機 能 、 視 空 間 知 覚 な ど の 高 次 脳 機 能 障 害 が 目 立 つ 症 例 も 少 な く な い 。 こ の 点を 考 慮 し て 、 最 近 ペ タ ー ソ ン ら は MCI を以下の類型に分類することを提唱している。 1 )多 領 域 健 忘 型 MCI~記憶障害に加え言語、遂行機能、視空間知覚など他の知的機能 に も 障 害 が あ るMCI。 13-20

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2 )多 領 域 非 健 忘 型 MCI~言語、遂行機能、視空間知覚などの知的機能に障害があるが 記 憶 は 保 た れ て い る MCI。 3 )単 一 領 域 非 健 忘 型 MCI~言語、遂行機能、視空間知覚などの知的機能のいずれかに 障 害 が あ り 記 憶 を 含 む 他 の 知 的 機 能 に は 障 害 が な い MCI。 図 1 3 - 7 MCI 鑑別診断のフローチャート(ペターソン) そ し て 図 1 3 - 7 に 示 すMCI類型診断のフローチャートを提案している。まず、知的機 能 障 害 を 訴 え る 個 人 (Cognitive Complaint)を「知的 機能は正常 ではないが 認知症では な い 。 日 常 生 活 は 自 立(Not Normal for Age,Not Dementia,Cognitive Decline,Essentially Normal Functional activities)」を根拠にMCIであることを診断し、記銘力に問題がある か ど う か (Memory impaired?)で健忘型MCI(Amnestic type)と非健忘型MCI(Non- amnestic MCI)を診断し,さらに記憶障害以外の障害があるかどうか(Memory impairment only?)で多領域型(multiple domain)と単一領域型(single domain)に分類するという流 れ で あ る 。 各 下 位 類 型 は 異 な る 病 因 と 関 連 を 有 す る と 考 え ら れ て い る 。 単 一 領 域 健 忘 型 MCIはアルツハイマー型認知症への移行が考えられる。多領域非健忘型MCIはアルツハイ マ ー 型 認 知 症 以 外 の 認 知 症 、 例 え ば レ ビ ー 小 体 認 知 症9へ の 移 行 が 予 想 さ れ る 。 ペ タ ー ソ ン ら は 、MCIの類型分類は将来移行する可能性のある認知症を予測し、その予防のため薬 9 第15章参照。 13-21

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. 3 病 理 学 所 見 10 例の記憶障害を主症状とする MCI の脳の病理学所見を報告して . 4 画 像 解 析 齢 者 、MCI、アルツハイマー型認知症の大脳皮質の厚さを MRI によ 目 . 5 認 知 症 と の 関 連 知 症 の 転 帰 を と る こ と が 多 い 。ペ タ ー ソ ン ら は MCI を 48 ヶ月 表 物 投 与 な ど を 行 う た め に も 重 要 で あ る 、と 主 張 し て い る 。MCIの診断基準に記憶障害の存 在 を あ げ な が ら そ の 下 位 類 型 に 記 憶 障 害 が 存 在 し な い 類 型 を 設 定 し て い る 点 は い さ さ か疑 問 が あ る 。そ れ な らMCIを最初から「知的機能に年齢不相応の低下が認められるが、日常 生 活 に 支 障 は な く 臨 床 的 に 認 知 症 と は 診 断 出 来 な い 状 態 」 と 定 義 す べ き で あ る 。 3 マ ー ク ス ベ リ ー ら は い る 。MCI の老人斑(後述)の数は新皮質、扁桃体において健常者より有意に多かった。 皮 質 の 老 人 斑 の 数 は MCI と早発型アルツハイマー型認知症との間に差はない。しかし扁 桃 体 と 海 馬 采 で は 早 発 型 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 で 多 か っ た 。 神 経 原 線 維 変 化 ( 後 述 )は 頭 頂 葉 、 側 頭 葉 内 側 で MCI が健常者より多かった。対象者全体として記憶検査の成績は 海 馬 CA1 の神経原線維変化数と有意な負の相関を有していた。 3 シ ン ら は 健 常 高 年 り 検 討 し た 。 健 常 高 年 齢 者 に 比 し て MCI では大脳皮質の厚さが減少していた。特に側頭 葉 内 側 、 前 頭 葉 眼 窩 部 、 頭 頂 葉 の 皮 質 が 薄 く な っ て い た 。 こ れ は 左 大 脳 半 球 に お い て 顕著 で あ っ た 。MCI がアルツハイマー型認知症に進行するとこの傾向はさらに顕著となった。 後 で 詳 し く 述 べ が ア ミ ロ イ ド β (Aβ )はアルツ ハイマー型 認知症の病 因として最 も 注 さ れ て い る 。 ロ ー ら は PET を用いて Aβを可視化し、MCI および種々の認知症でその 大 脳 皮 質 内 分 布 を 比 較 し た 。結 果 は 図 1 3 - 8 に 示 す ご と く で あ っ た 。MCI の Aβの皮質 内 蓄 積 量 は ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 よ り は 少 な い が 健 常 統 制 群(HC)よりは有意に多い。 MCI の 脳 内で はアルツハ イマー型認 知症に至る 病的過程が 既に進行し ていること を示 唆 し て い る 。 3 前 述 の ご と く 、MCI は認 に 渡 っ て 追 跡 調 査 し た 。そ の 結 果 は 図 1 3 - 8 に 示 す ご と く で あ っ た 。1 年 あ た り 12%の MCI がアルツハイマー型認知症に移行した。MCI と同一年代の健常統制群におけるアル ツ ハ イ マ ー 型 痴 呆 の 年 間 発 症 率 は 2%以下である( 1 3 - 4 ) 。MCI は認知症の非常に 13-22

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型 認 知 症 へ の 移 行 に は ど の よ う な 要 因 が 関 与 し て い る か 。 臨 大 き な 危 険 因 子 で あ る 。 MCI からアルツハイマー 床 的 側 面 で は 、 フ ラ イ シ ャ ー ら に よ れ ば 記 憶 障 害 が 重 度 で あ る MCI はアルツハイマー型 認 知 症 に 移 行 し や す い 。パ ル マ ー ら に よ れ ば 、MCI と共に不安症状がある症例は非常に高 い 確 率 (83%)で 3 年以内にアルツハイマー型認知症に移行する。全般的に精神症状を有 す る MCI は有しない MCI よりもアルツハイマー型認知症に移行しやすい。 図 1 3 - 8 ア ミ ロ イ ド β の 皮 質 内 分 布 HC:健常統制群、MCI:軽度認識障害、AD:アルツハイマー 型 認 知 症 DLB:レビー小体認知症、FTD:前頭側頭型認知症 図 1 3 - 9 MCI からアルツハイマー型認知症へ移行する割合 APOE4 の遺伝 子 多 型 ε4 はアルツハイマー型認知症の危険因子である(後述)。フ ラ イ 13-23

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シ し て 大 脳 ー じ め と ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 概 念 と 診 断 基 準 . 1 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 研 究 史 周 知 の ご と く 、1906 年A・アルツハイマーが症例D・ ャ ー ら に よ れ ば ε4 を有する MCI はアルツハイマー型認知症へ移行しやすい。 ボ ザ リ ら に よ れ ば 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 に 移 行 し た MCI は健常統制群に比 皮 質 の 広 範 な 領 野 で 灰 白 質 密 度 の 低 下 が 認 め ら れ た 。 特 に 前 帯 状 回 、 中 お よ び 内 側 前頭 葉 、 左 島 回 、 右 上 お よ び 中 側 頭 回 、 左 側 頭 葉 内 側 、 紡 錘 状 回 で 密 度 低 下 は 顕 著 で あ っ た 。 デ バ ナ ン ド ら は MCI 例 132 例を対象として海馬および嗅内皮質の容積とアルツハイマ 型 認 知 症 へ の 移 行 と の 関 連 に つ い て 検 討 し て い る 。 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 に 移 行 した MCI の海馬、海馬傍回および嗅内皮質の容積は移行しなかった MCI より有意に小さかっ た 。 ま た 8 年 間 に 渡 る 追 跡 調 査 の 結 果 で は 海 馬 お よ び 嗅 内 皮 質 の 容 積 と ア ル ツ ハ イ マ ー型 認 知 症 へ の 移 行 率 の 間 に は 密 接 な 関 連 が 認 め ら れ 、容 積 が 小 さ い 程 移 行 す る 率 が 高 か っ た 。 ジ ョ ン ソ ン ら はMCI の糖代謝を SPECT を用いて検討し、転帰との関連を検討している。 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 へ 移 行 し た MCI は移行しなかった MCI に比べて帯状回後方の糖 代 謝 が 低 下 し て い た 。 ま た 前 頭 葉 下 内 側 部 の 糖 代 謝 は 移 行 例 で 逆 に 上 昇 し て い た 。 以 上 か ら MCI の機序は二つあることが解る。一つはアルツハイマー型認知症をは す る 認 知 症 の 前 段 階 と し て の 知 的 機 能 障 害 で あ り 、 他 の 一 つ は 認 知 症 と は 異 な る 機 序に よ る 知 的 機 能 障 害 で あ る 。 前 者 に つ い て は 適 切 に 対 応 す る 手 段 を 見 い だ せ れ ば 認 知 症 の予 防 に 役 立 つ 。後 者 は 知 的 機 能 の 加 齢 変 化 の 機 序 を 解 明 す る 上 で 有 力 な 手 掛 か り を 提 供 す る 。 更 に は 知 的 機 能 老 化 防 止 の 手 掛 か り と な る デ ー タ が 得 ら れ る か も 知 れ な い 。 今 後 の 研 究の 進 展 が 期 待 さ れ る 。 4 . 4 ア ル ツ ハ イ マ ー 病(AD)の研究は、 ア ウ グ ス テ を 学 会 報 告 し 1907 年専門雑誌に掲載された時から始まる。アウグステは女性 で 51 歳頃から嫉妬妄想が始まり徐々に記憶障害、失語、妄想、幻聴などの症状が出現し た 。 こ の 認 知 症 症 状 は 次 第 に 進 行 、 高 度 の 廃 絶 状 態 と な っ て 55 歳で死亡した。その脳は 剖 検 さ れ 、 神 経 細 胞 内 に そ れ ま で 報 告 さ れ た こ と の な い 異 常 な 構 造 物 、 い わ ゆ る 神 経 原線 維 変 化 が 多 量 に 存 在 す る こ と が 見 出 さ れ た ( 図 1 3 - 1 0 ) 。 ア ル ツ ハ イ マ ー の 研 究 は注 目 さ れ 1912 年までに類似の症例が 12 例報告された。新たな神経疾患の発見ということで 当 時 ア ル ツ ハ イ マ ー の 研 究 が 如 何 に 注 目 さ れ た か が よ く 解 る 。 ア ル ツ ハ イ マ ー の 論 文 出版 13-24

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か ら わ ず か 2 年後の 1910 年アルツハイマーの師であるE・クレぺリンはこの症例は新し い 疾 患 で あ る と 認 識 し 、 彼 の ラ イ フ ワ ー ク で あ り 当 時 最 も 権 威 が あ る と さ れ て い た 精 神医 学 の 教 科 書“Psychiatrie:Ein Lehrbuch für Studierende und Ärzte”の第8版において「ア ル ツ ハ イ マ ー 病 」 と し て 記 載 し た10 図 1 3 - 1 0 ア ル ツ ハ イ マ ー が 記 載 し た 神 経 原 線 維 変 化 ア ル ツ ハ イ マ ー の 症 例 報 告 は 議 論 を 引 き 起 こ し た 。 ア ウ グ ス テ の 脳 の 小 血 管 に は 動 脈硬 い る 。ア ル ツ ハ イ マ ー の 報 化 像 が 認 め ら れ た 。 厳 密 に 言 え ば ア ウ グ ス テ は AD ではない可能性がある。ある研究者は ア ウ グ ス テ は 代 謝 障 害 に 伴 う 認 知 症 の 可 能 性 が あ る と 指 摘 し た 。 そ の 後 、 ド イ ツ の 著 名な 神 経 病 理 学 者 ス ピ ー ル メ イ ヤ ー が ア ウ グ ス テ の 脳 を 詳 細 に 検 討 し 、AD の特徴的病理学所 見 で あ る 老 人 斑 と 神 経 原 線 維 変 化 が 存 在 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 し か し ア ウ グ ス テ が AD で は な い 可 能 性 は 現 在 で も な お 完 全 に は 否 定 出 来 な い 。 そ れ 以 降 のAD研究の歴史を松下は表13-14のごとく纏めて 告 後 約 50 年間、ADは神経科学全般はもちろん神経病学においてさえ主要な研究課題で は な か っ た 。 当 然 一 般 社 会 に お け るADの 認 知 度 も極 めて 低 かっ た11。 ホ ッ ジ ス に よ れ ば 1960 年代にはADに関する論文はわずか 12 編しかなかった。しかし、1970 年代になると 電 顕 に よ る 研 究 か ら 神 経 原 線 維 変 化 や 老 人 斑 の 微 細 な 構 造( 超 微 形 態 )が 明 ら か に さ れ た 。 次 い で 分 子 生 物 学 の 進 展 に 伴 い 神 経 原 線 維 変 化 や 老 人 斑 の 分 子 構 造 が 明 ら か に な っ た 。更 10 ベリによればこれには次の事情がある。当時クレぺリンの研究室(ミュンヘン大学精神 医 学 研 究 室 ) に は 他 の 大 学 の 研 究 室 に 対 抗 し て 優 れ た 業 績 を 上 げ る 必 要 が あ っ た 。 ク レ ぺ リ ン は 新 し い 疾 患 の 発 見 は 彼 の 研 究 室 の 業 績 に な る と 考 え て ア ル ツ ハ イ マ ー の 研 究 を 大 き く 取 り 上 げ た 。 11 筆者は 1970 年大学院の演習で AD の症例を報告した。学生はもちろん教官達も AD と い う 疾 患 を 知 ら な か っ た 。 13-25

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表 1 3 ― 1 4 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 研 究 史 に 家 族 性ADの研究からAD遺伝子が発見され、AD発病の機序解明に大きく貢献した。さら に 1970 年代以降平均余命の伸長に伴って老人性の疾患が医学のみならず社会的にも大き な 問 題 と な り 、高 年 齢 者 に 多 い 疾 患 と し てADはにわかに注目を浴びるようになった。現在、 学 問 的 に もAD研究は神経科学の最先端の研究課題である12 . 2 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 と ア ル ツ ハ イ マ ー 病 4 12 ホッジスによれば 2000 年代の AD 関連の論文は実に 13,863 編に達する。 13-26

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経 原 線 維 変 化 が 出 現 す る 疾 患 で あ . 3 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 診 断 基 準 い る の は ア メ リ カ の 国 立 神 経 疾 患 研 究 所 状 と 前 述 の ご と く 、ADは認知症を症状とし脳に老人斑と神 る 。 一 方ADよりは高齢の老人に発症する認知症で病理学的にはADと同じく老人斑と神経 原 線 維 変 化 が 認 め ら れ る 疾 患 と し て 「 老 人 性 認 知 症 」 が あ る 。 当 初 ア ル ツ ハ イ マ ー はAD の 方 が 発 症 年 齢 が 若 い こ と か ら 両 者 は 異 な る 疾 患 で あ る と 考 え 、ADを「初老期痴呆症」13 の 一 種 に 分 類 し た 。 こ の 分 類 は 広 く 受 け 入 れ ら れ た 。 と こ ろ が 1970 年代アメリカの研究 者 を 中 心 に 両 者 は 発 症 時 期 が 異 な る だ け で 基 本 的 に 同 じ 疾 患 で あ る と の 考 え が 有 力 と な り、 老 人 性 認 知 症 とADを併せて「アルツハイマー型老人認知症(SDTA)」と呼ぶようになっ た 。最 近 で は 両 者 を 区 別 せ ずADと呼ぶことが多い。日本では病理学的には両者は別個の疾 患 と 考 え 、臨 床 的 に は 両 者 を 合 わ せ て「 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症(ATD)」と呼ぶ研究者 が 少 な く な い 。本 書 で も 臨 床 的 側 面 の 記 述 に 際 し て はATDを用い、病理学もしくは病因論 的 側 面 の 記 述 に 際 し て はADを用いる。「認知症」は臨床症状でありADは病名である。現 時 点 で は 両 者 間 に 一 対 一 の 対 応 関 係 は 認 め ら れ て い な い 。臨 床 的 にATDであっても病理学 的 に はADではない症例が存在する。生前に病理学的診断が行えない現時点ではATDとAD と は 区 別 さ れ る べ き で あ る 。 4 ATD の 診 断 基 準 と し て 最 も 広 く 用 い ら れ て (NINCDS ) と ア ル ツ ハ イ マ ー 病 関 連 疾 患 会 議 ( ADRDA ) が 協 同 で 作 成 し た NINCDS-ADRDA 基準(表13-15)である。病歴、臨床症状、臨床検査、神経心理学 的 検 査 結 果 な ど か ら 、AD の診断を「疑い(possible)」、「ほぼ確実(probable)」、「確実 (definite)」に分類する。臨床的には「ほぼ確実」であれば ATD と診断してよいとされる。 DSM-IV では AD ではなく ATD の診断基準として表13-16を示している。臨床症 ,特に精神症状に重きを置いた基準で、当然ながら他の精神疾患と鑑別が重視されている。 ICD-10 では ATD の診断基準として表13-17を示している。他の病因による認知症 の 鑑 別 に 重 点 が 置 か れ て い る 点 、 早 発 型 と 晩 発 型 を 分 け て 診 断 基 準 を 示 し て い る 点 が特 徴 で あ る 。 13 ここにはピック病(第16章参照)なども含まれる。 13-27

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表 1 3 - 1 5 NINCDS-ADRDA のアルツハイマー病診断基準

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表 1 3 - 1 6 DSM-IV のアルツハイマー型認知症診断基準

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表 1 3 - 1 7 ICD-10 のアルツハイマー型認知症診断基準

. 4 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 診 断 基 準 の 精 度 4

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究 報 告 が あ る 。 い ず れ も . 5 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 疾 患 マ ー カ ー 学 所 見 は 神 経 原 線 維 変 化 と 老 人 斑 で あ る 。 前 よ . ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 病 理 学 所 見 . 1 脳 萎 縮 憶 障 害 を 主 症 状 と し 、同 時 に 失 語 、失 行 、失 認 な ど の 高 次 脳 機 能 障 害 を 示 NINCDS-ADRDA 基 準 の 精 度 に 関 し て は い く つ か の 研 NINCDS-ADRDA 基 準 に 基 づ く 診 断 と 病 理 学 的 診 断 の 一 致 率 を 検 討 し た 研 究 で あ る 。 probable の場合一致率は最大で 100%、平均 80%程度である。ロぺは感受性(AD を ATD と 診 断 す る 確 率 )95%、特異性(1.0-AD 以外の疾患を ATD と診断する確率)79%と報 告 し て い る 。 バ ー ン ズ ら に よ れ ば probableAD の一致率は 92%、possibleAD では 87%で あ っ た 。リ ッ ト ヴ ィ ン ら の 研 究 で は probableAD 診断の感受性は 95%、特異性は 79%であ っ た 。 4 後 に 詳 し く 述 べ る が 、AD 脳の特徴的病理 者 は リ ン 酸 化 タ ウ で あ り 後 者 は ア ミ ロ イ ド β で あ る 。 脳 脊 髄 液 は 脳 の 細 胞 外 液 と 直 接 接触 お り 、 脳 内 の 変 化 は 脳 脊 髄 液 に そ の ま ま 反 映 さ れ る 。 そ こ で 脳 脊 髄 液 の ア ミ ロ イ ド β やタ ウ を 測 定 す る こ と に よ っ て AD を診断しようとする試みがなされている。瓦林・東海林の 総 説 に よ れ ば 、 脳 脊 髄 液 ア ミ ロ イ ド β を 指 標 と し た 場 合 の AD の診断精度は感受性 56~ 100%、特異性 62~100%である。同じく瓦林・東海林の総説に れ ば 、タ ウ 単 独 で 診 断 し た 場 合 の 感 受 性 は 57~95%、特異性 84~100%である。アミロイドβとタウを組み合わせ て 診 断 し た 場 合 の 精 度 は 感 受 性 85~100%、特異性 83~100%である。脳脊髄液のアミロ イ ド β や タ ウ はAD の疾患マーカーとしてかなり有力である。 5 5 ATD は重度の記 す 。 こ の こ と に 対 応 し て AD の主病巣は大脳皮質および大脳辺縁系にある。石井は AD に 見 ら れ る 病 理 学 所 見 を 表 1 3 - 1 8 の よ う に 分 類 し て い る 。AD の所見は、①高年齢者 全 般 に 認 め ら れ る 変 化 、 ②AD に特異的な変化、の二つに大別される。①の代表的所見が 脳 の 萎 縮 で あ る 。 本 章 第 2 節 で も 述 べ た ご と く 、 高 年 齢 者 で は 多 か れ 少 な か れ 脳 の 萎 縮が 認 め ら れ る が 、AD では特に著しい脳の萎縮がある(図13―11)。1,000g 以下にまで 脳 重 量 が 低 下 す る 場 合 も あ る 。萎 縮 は 前 頭 葉 、側 頭 葉 、頭 頂 葉 に お い て 目 立 ち 、30%~40% の 萎 縮 が 認 め ら れ る 。 中 心 回 、 後 頭 葉 で は 余 り 目 立 た な い 。 大 脳 皮 質 以 外 で は 海 馬 、 扁桃 13-31

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表 1 3 - 1 8 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の 病 理 学 所 見 A. 体 特 異 的 と 考 え ら れ る 変 化 変 性 体 、 尾 状 核 な ど で 25%~45%の萎縮がある。小脳、被穀、異質、青斑核、脊髄前核、など で も 萎 縮 が 認 め ら れ る 。 脳 の 一 般 的 加 齢 の 強 調 さ れ た も の 1.脳の萎縮,脳重量の減少 2.リプフスチンの沈着 3.神経突起の変性 4.シナプス変性 5.マリネスコ小体 6.平野小体 7.レビー小体 8.アミロイド小 B.アルツハイマー病に 1.アルツハイマー原線維変化 2.老人斑 3.顆粒空胞 図 1 3 - 1 1 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 に 見 ら れ る 著 し い 脳 萎 縮 光 顕 で 観 察 する と 、 上 記 の 脳 萎 縮 に 対 応 し て 皮 質 幅 の 減 少 が 認 め ら れ る 。大 脳 皮 質 で は 13-32

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12 脱 落 が 認 め ら れ る 。海 馬 CA1 の錐体細胞数は健常統制群に比し て . 2 神 経 原 線 維 変 化 イ マ ー は AD における特徴的病理学所見として神経原線維変化 ( 薄 く (10μm 程度)切って銀で染色して光顕で観察すると、神経細胞の細胞 体 維( ね じ れ 細 管 、PHF)が対になって螺旋状に ね %~25%の減少が認められる。特にⅢ層、Ⅴ層、Ⅵ層で著しい。前頭葉、側頭葉、頭頂 葉 、 内 嗅 皮 質 な ど で 皮 質 幅 減 少 が 顕 著 で あ る 。 こ の 皮 質 幅 減 少 は 神 経 細 胞 の 脱 落 を 意 味す る 。テ リ ー ら の 研 究 に よ れ ば 、中 前 頭 回 で40%、上側頭回で 46%、中側頭回で 58%の細胞 細 胞 脱 落 が 認 め ら れ た 。 皮 質 下 諸 核 で も 神 経 細 胞 60%~70%減少と報告されている。マイネルト基底核は ATD の記憶障害と関連すると さ れ 、AD において細胞数が顕著に減少する。この核においてホワイトハウスらは 79%、 ア レ ン ト ら は 70%に及ぶ細胞数減少を報告している。 5 前 述 の ご と く 、 ア ル ツ ハ NFT)を記載した。NFT は AD だけに認められる所見ではないが(後述)、AD の重症 度 と 密 接 に 関 連 し て お り 、AD の発症に直接関連を有する構造物として活発な研究がなさ れ て い る 。 AD の脳を に 太 い 線 維 束 が 認 め ら れ る 。 こ れ が NFT である(図13-12)。とぐろを巻いたよ う な 形 か ら“neurofibrillary tangle(神経線維の渦巻き)”と命名された。神経細胞内の 神 経 線 推 が 不 規 則 に 太 く な り 、 ね じ れ た 状 態 に な っ て い る 。NFT には様々の形態がある。 海 馬 領 域 の 錐 体 細 胞 の NFT は核から樹状突起に向かって直線的あるいはゆるやかなカー ブ を 描 い て 走 行 し 「 炎 型 」 と 呼 ば れ る 。 視 床 下 部 や 脳 幹 部 の も の は 核 周 囲 を 取 り 巻 く よう に 存 在 し 「 円 球 型 」 と 呼 ば れ る 。 NFT を電顕で観察すると、2本の細い線 じ れ た 状 態 に あ る( 図 1 3 - 1 3 )。PHF の直径は 10nm で 80nm 毎にねじれ合ってい る と さ れ て き た 。 し か し 、 最 近 の 研 究 で は PHF は8本の「原線維」で囲まれた中空な構 造 で あ る と 報 告 さ れ て い る 。 さ ら に PHF の構成成分は線維ではなく小さな円球状の構造 物 で あ る と の 説 も 提 出 さ れ て い る 。正 常 細 胞 の 神 経 線 推 に は「 神 経 微 小 管 」、「 微 細 線 維 」、 「 神 経 細 線 維 」 の 3 種 が あ る 。NFT は神経細線維であるとの説が有力であった。上記の PHF に関する研究は NFT が正常細胞にみられる神経線維とは異なる構造物であることを 示 し て い る 。 13-33

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図 1 3 - 1 2 神 経 原 線 維 変 化 ( 光 顕 像 )

AD のマイネルト基底核の光顕像。上方が円球型、下方が炎型

図 1 3 - 1 3 神 経 原 線 維 変 化 ( 電 顕 像 )

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NFT には PHF 以外に周期的なねじれを持たない太さ約 15nm 程度の「直細管(SF)」 と 呼 ば れ る タ イ プ の 線 維 も 認 め ら れ る 。PHF も SF も同じ細胞に同時に認められる。 NFT の主たる構成成分は微小管結合タンパクの一種であるタウである。病因の項で詳し く 述 べ る が 、 タ ウ は 微 小 管 の 形 成 と 安 定 化 に 関 与 す る タ ン パ ク で あ る 。 正 常 脳 の タ ウ と異 な り AD のタウは全てリン酸化されている。タウの過剰なリン酸化は他のタウ異常疾患(タ ウ 病 、 詳 細 は 後 述 ) に 共 通 す る 現 象 で あ る 。 タ ウ リ ン 酸 化 が AD の発症に重要な役割を果 た し て い る こ と を 物 語 る 。 NFT は基本的に細胞体内に存在するが、細胞体外に存在する NFT もある。海馬、嗅内 皮 質 に 多 く 認 め ら れ る 。 こ れ ら の NFT は直細管によって構成されている。 AD の NFT の分布について、石井は次のように述べている。大脳皮質、海馬、視床下部、 脳 幹 部 に 多 く 分 布 す る 。 大 脳 皮 質 で は 前 頭 葉 、 側 頭 葉 に 多 数 見 ら れ 、 Ⅲ 層 、 Ⅴ 層 に 多 い。 視 床 下 部 で は マ イ ネ ル ト 基 底 核 、 乳 頭 体 漏 斗 核 に 多 発 す る が 、 視 索 上 核 、 室 傍 核 、 乳 頭体 に は 殆 ど 見 ら れ な い 。 視 床 、 被 殻 、 淡 蒼 球 も 比 較 的 少 な い 。 扁 桃 体 、 側 座 核 に は 多 数 出現 す る 。脳 幹 部 で は 背 側 縫 線 核 、上 中 心 核 、青 斑 核 、網 様 体 に 多 数 出 現 し 、黒 質 に は 少 な い 。 カ ミ ン グ ス と ベ ン ソ ン は NFT の好発部位として、大脳皮質、海馬、扁桃体、青斑核、縫 線 核 、 な ど を あ げ て い る 。 コ ン ス タ ン チ ニ デ ス と リ チ ャ ー ド はNFT の頻度と認知症症状との関係を検討している。 大 脳 皮 質 NFT の頻度の高い症例では、①記憶障害の出現年齢が低い、②失語、失行、失 認 な ど の 道 具 的 障 害 の 出 現 率 が 高 い 、な ど の 特 徴 が あ り 、海 馬 NFT は記憶障害と関連し、 大 脳 皮 質 NFT は道具的障害と関係するという。 NFT は AD のみに見られるものではない。頻度は少ないが健常高年齢者にも出現する他、 高 年 齢 の ダ ウ ン 症 患 者 、 パ ー キ ン ソ ン 病 、 進 行 性 核 上 麻 痺 、 パ ー キ ン ソ ン 病 、 亜 急 性 壊死 性 脳 炎 、 遺 伝 性 小 脳 失 調 症 、 な ど 種 々 の 疾 患 で 出 現 す る 。 5 . 3 老 人 斑 AD では大脳皮質や海馬に多数の老人斑が出現する。老人斑もしくは神経斑は直径 50~ 200μm の球形の構造物である(図13-14)。老人斑は、脳実質の細胞外腔に斑状に 沈 着 す る ア ミ ロ イ ド β と 、 そ の 沈 着 に 対 す る 反 応 と し て の 腫 脹 神 経 突 起 や 反 応 性 グ リ ア 、 ま た 一 部 の 老 人 斑 で は 血 管 な ど か ら 構 成 さ れ て い る 。 老 人 斑 は 一 般 に 様 々 の 大 き さ の 嗜 銀 性 の 球 状 構 造 を 呈 す る 。 老 人 斑 の 電 顕 像 は 図 1 3 - 1 5 に 示 す ご と く で あ る 。 通 常 中 心 部 13-35

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に 芯 と よ ば れ る 濃 染 部 を 囲 ん で 、 そ の 周 囲 に 小 球 状 を な し た 多 数 の 細 胞 突 起 の 群 が 冠 状 に 存 在 す る 。 反 応 性 の グ リ ア 、 特 に 反 応 性 ア ス ト ロ サ イ ト と 反 応 性 ミ ク ロ グ リ ア が 周 囲 に 認 め ら れ る 。 図 1 3 - 1 4 老 人 斑 ( 光 顕 像 ) 図 1 3 - 1 5 老 人 斑 ( 電 顕 像 ) 13-36

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平 野 に よ れ ば 、 老 人 斑 の 微 細 構 造 は 以 下 の ご と く で あ る ( 図 1 3 ― 1 6 参 照 ) 。 老 人 斑 の 芯 を な す 部 分 は ア ミ ロ イ ド 線 維 で あ り 、 そ の 太 さ や 形 態 は 脳 以 外 の 組 織 に 見 ら れ る アミ ロ イ ド と 同 じ で あ る 。 周 辺 部 は 多 数 の 神 経 突 起 が と り ま き 、 そ れ が 変 化 し 膨 化 し て い る。 そ の 異 常 な 神 経 突 起 の 中 に は 変 性 し た ミ ト コ ン ド リ ア 、 濃 染 顆 粒14、 管 状 小 胞 状 物 質 な ど が 認 め ら れ る 。こ れ ら の 膨 化 し た 細 胞 突 起 の 一 部 に は シ ナ プ ス 小 胞 が 見 ら れ る 。こ の 場 合 、 多 数 の シ ナ プ ス 小 胞 が 軸 索 中 に 遊 離 し て い る こ と が あ る 。 さ ら に 微 小 管 や 微 細 線 維 が 増加 し て い る 突 起 も あ る 。 大 脳 皮 質 の 老 人 斑 に は 神 経 原 線 推 変 化 が 認 め ら れ る こ と も し ば しば あ る 。さ ら に 平 野 小 体( 後 述 )も 出 現 す る 。退 行 変 性 し た 神 経 突 起 や シ ナ プ ス も 見 ら れ る 。 そ れ に 伴 っ て ア ス ト ロ サ イ ト の 変 化 や ミ ク ロ グ リ ア も 出 現 す る 。 図 1 3 - 1 6 老 人 斑 の 構 造 14 通常、血小板に存在する。ADP、ATP、セロトニンなどが蓄えられており、止血の際にこ れ ら の 物 質 を 放 出 す る 。AD ではアミロイドの凝集に関与すると考えられている。 13-37

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図 1 3 - 1 7 老 人 斑 の 分 類 老 人 斑 は 通 例 3 種 類 に 分 類 さ れ る ( 図 1 3 - 1 7 ) 。 そ の 特 徴 を 山 口 は 次 の ご と く 記 載 し て い る 。 1 ) び ま ん 性 老 人 斑 ~ ア ミ ロ イ ド β (Aβ ) 免 疫 染 色 で 淡 染 す る 境 界 不 鮮 明 な 不 整 円 形 な い し は シ ミ 状 の 斑 で あ る 。 免 疫 電 顕 で は 、Aβはア ミロイド線 維を形成せ ずに細胞膜 に 沈 着 し て い る 。 ア ミ ロ イ ド 線 推 は あ っ て も 少 量 で 、 グ リ ア の 反 応 に も 乏 し い 。 び ま ん性 老 人 斑 は 、 認 知 症 の な い 高 年 齢 者 の 連 合 野 、AD の小脳分子層、大脳基底核、脳幹などで 主 要 な タ イ プ で あ る 。 び ま ん 性 老 人 斑 は 他 の 老 人 斑 の 形 成 初 期 の も の も あ る が 、 長 期 間び ま ん 性 老 人 斑 の ま ま で 止 ま っ て い る も の も あ る 。 2 ) 原 始 老 人 斑 ~ ア ミ ロ イ ド 量 が あ る 程 度 に 増 加 し 、 電 顕 で は 直 径 9nm 程度のアミロ イ ド 線 推 が 束 や 小 塊 を な し て 斑 内 に 散 在 し て い る 。 軸 索 終 末 由 来 と 考 え ら れ る 。 膨 化 変性 し た 神 経 突 起 に は 変 性 ミ ト コ ン ド リ ア 、 濃 染 顆 粒 な ど 膜 の 変 性 産 物 、 神 経 微 小 管 や PHF な ど が 集 ま っ て い る 。 大 脳 皮 質 の 原 始 老 人 斑 出 現 量 と 認 知 症 の 程 度 は よ く 相 関 し て い る 。 3 ) 典 型 的 老 人 斑 ~ ア ミ ロ イ ド 線 維 が イ ガ 栗 状 の 塊 を な す 核 を 中 心 と し て 多 数 の 膨 化神 13-38

表 1 3 - 2   認 知 症 の 原 疾 患 変 性 疾 患                                 非 変 性 疾 患  ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症                 血 管 性 認 知 症  レ ビ ー 小 体 型 認 知 症                       多 発 梗 塞 神 経 原 線 維 変 化 型 認 知 症                   ビ ン ス ワ ン ガ ー 病 パ ー キ ン ソ ニ ス ム ・ 認 知 症
表 1 3 - 3   認 知 症 の 有 病 率 (%)のメタ解析
表 1 3 - 4   ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 の 有 病 率 ( % ) ヨ ー ロ ッ パ に お け る 11 研究のメタ解析結果                      年 齢             男           女                      65-69                      0.6                0.7                                          70-74
表 1 3 - 9     発症機序による分類(コーファー)  1 ) ア ミ ロ イ ド / タ ウ 病                                       ア ル ツ ハ イ マ ー 病                         2 ) α シ ヌ ク レ イ ン 病                                 パ ー キ ン ソ ン 病                           レ ビ ー 小 体 病
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