1930年代の地方優生運動と障害者の人権
−1931年夏来日のジョンソン博士の優生学講演活動とその影響の検討−
平 田 勝 政
A Study of Local Eugenic Movement and Its Influences on the Rights of Persons with Disabilities in Japan during
1930s
Katsumasa HIRATA
1.研究の目的・方法・倫理的配慮
日本の優生学とその運動・政策が障害者(ハンセン病者を含む)の人間としての尊厳と 人権に及ぼした否定的影響の史実と教訓の解明は,日本の歴史的社会的文化的土壌に深く 根ざしながら「共生社会の実現」をめざしていく上で,重要不可欠な歴史研究の課題であ る。この研究課題に対し筆者も既に一定の成果(平田:2005)1)を上げてきたが,1930年 代における地方優生運動の障害者への影響に関する研究は不十分なままに残されてきた。
本研究は,再研究の一歩として1930年11月に日本民族衛生学会(会長・永井潜)が発足 し第一回日本民族衛生学会学術大会が開催(1931.10.11)されるまでの期間で日本の優生 運動に全国規模で影響を及ぼした1931年夏来日のロズウェル・ヒル・ジョンソン博士(以 下,ジョンソン)による北海道から九州に至る優生学講演に注目し,その活動と地方への 影響を解明しようとするものである。地方への影響とは,1930年代に日本民族衛生学会
(1935年財団法人日本民族衛生協会と改称)の地方組織として優生運動を推進した地方支 部(中央の東京支部を除く)の設立への影響である2)。
ジョンソン博士の来日とその優生学講演活動に関する先行研究としては,筆者の学会報 告3)の他に,K.J.シャフナー氏(以下,シャフナー)による最新の研究4)がある。同氏の 研究は,一次史料であるカリフォルニア工科大学の資料室保管のジョンソン自身の来日講 演活動記録(=「ガスニーへの報告書」)を分析して貴重な示唆を提供してくれている。
しかし,この間日本側の資料を調査・収集をしてきた筆者から見ると,ジョンソンの記憶・
記録の正確さという点では疑問が残り,「ガスニーへの報告書」そのものに欠落や不正確 な点があるのではないかと推察される。例示すれば,来日直後のラジオ講演や地方講演活 動における高松市の欠落などである。本研究は,先行研究の問題点をふまえ,末尾の<資 料1>に整理した文献に基づきジョンソン来日講演活動の全容と影響を解明しようとする ものである。なお,以下の本文では,引用文中に「癩」「精神薄弱」等の人権尊重上不適 切な表現が含まれるが歴史的表現として原文のまま引用とすることをお断りしておく。
2.ジョンソン博士の来日とその優生学講演活動
日本では『応用優生学』(原澄次訳,1929年)の著者として知られるジョンソンは,日 本の優生運動の現状視察とその促進ために1931年7月初めに来日(横浜入港)し,7月下
旬から8月末まで全国各地で優生学に関して「前後二十九回講演をなし,其の外に新聞紙 を通じ或は印刷物を撒布して其の趣旨の普及に努めた」(<資料1>の目録№21より,以 下では出典として№のみ記載)とされる活動を展開した。以下では,7月の東京滞在中の 活動と7月末から8月末までの地方講演活動の2つに分けて整理・検討していく。
(1)来日直後のラジオ講演と東京滞在中の視察・講演活動 1)7月5日のラジオ講演とその内容
ジョンソンは,来日直後の7月5日に第一声としてラジオ(JOAK)放送で「応用優生 学に就いて」と題して午前11時から約1時間の講演をしている。通訳は,日本優生協会理 事の兼子常四郎である。ジョンソンのラジオ講演の番組案内は掲載紙多数であるが,講演 要旨をラジオ番組の紹介欄で掲載した新聞は,東京の「時事新報」と「二六新報」,山口・
福岡両県の「馬関毎日新聞」と「九州日報」などである(目録№2〜5)。
講演者のジョンソンと通訳者の兼子常四郎の両方の略歴を掲載しているのは,「時事新 報」(№2)で,それぞれ次のように紹介されている。
「ドクター ロスウヰル ジョンソン氏 米国ピッツバーグ大学の優生学教授,前米国 優生協会会長,同博士は今回日本に於ける優生運動の発達を促進するために米国優生協会 より派遣されたものである。」「兼子常四郎氏 米国オハヨー州大学,コロンビア大学並に 米国中央神学校等に学び,リフォームト教会の牧師をしていた方で,日本優生協会理事の 他東京府社会事業協会,海外中央会等の嘱託をやっている。」
講演内容の要旨を最も詳細に報じているのは「二六新報」(№3)であるが,ここでは より簡潔な「時事新報」(№2)の報道を,以下に示す。
「▲…優生学は其創始者フランシス・ゴールトンの言へる如く『人間の肉体上及び精神 上に於ける性質を改善若しくは損傷するところの種々の社会的原因を研究する学問』であ ります。▲…ダーウィンの進化論が世界の学界に一大変革を促して,人々は自然界が一定 の法則に依って進化するものであることや人々が目撃する種々の現象は自然の法則といふ 一定の法則に従って動いているものである事を確認するやうになった。▲…昔から人間の 性質が遺伝するといふ事は一般的に認められて居た。支那,ギリシア,ローマ,ユダヤ等 の歴史中に此事が書かれてある。優生学の目的は肉体上或は精神上に欠陥を有する人間の 増殖を抑制し,それと同時に肉体上精神上に優れて居る人間の増加を図って人間の平均価 値を高めやうとすることにある。▲…斯の如く優生学の目的は現在既に実行しつつある進 化の知識より思慮しても決して不可能なことではない。必ず実現さるべきものなのである ことを信ずる。」
このラジオ講演では,優生学とはなにか,その定義・歴史・目的・課題・展望について 通俗的な話がされていると言える。
2)東京滞在中の視察活動
視察の日時が明確なのは,①法政大学優生学研究室(7月9日),②ハンセン病療養所 の全生病院(7月22日)で,その他に日時は不明だが③東京府立第一高等女学校(校長・
市川源三),④東京帝国大学生理学教室(永井潜と会見),⑤伊豆大島の藤倉学園(園長・
川田貞治郎)を訪問している。
①に関しては,日本優生協会理事の兼子常四郎が法政大学優生学研究室を案内し,同大 学の高山兼吉教授と法政大学新聞会が応対している。7月13日付でジョンソンから英文の
返礼が届けられ,法政大学新聞にはその原文と当日の記念写真が掲載されている(№1, 6)。
②に関しては,「山桜」第13巻第8号(1931年8月号)掲載の日誌「村便り」(32頁)の
「視察」欄に「七月廿二日 米国優生学たいとループウエル・ジョンソン氏が内務省野邊
(地)技師の案内にて来院」(原文ママ,たいと=泰斗)と記されている。
③に関しては,市川源三の1933年論文「優生主義の実行の為の教育的施設」(「民族衛生」
第2巻第4号)の中で,「最近,米国の優生学者,ジョンスン氏が我が校を訪問されて日 本の教育制度を批評され,日本の教育にはScholarshipのないことは最も遺憾である旨を 述べられた。」(397頁)とあり,時期は不明だが府立第一高等女学校を視察している。
④は「民族衛生」(№18)に「東大生理学教室にも見え,永井博士と会見された」とあ る。
⑤は,前記のシャフナー(2013:177頁)が指摘する「川田によって大島に作られた精 神薄弱者のための学園(私立)」に依拠するもので,時期は不明だが藤倉学園を訪問して いる。同じくシャフナーによれば,施設を特定できないが感化院や精神病院を視察した可 能性があることも示唆されている。
これらの視察は,その後の講演旅行・講演内容のための事前準備(打合せ・情報収集)
であり,その中に「精神薄弱」や「癩」の問題が位置づけられている点は注目される。
3)東京滞在中の講演活動
東京滞在中のジョンソンは,7月下旬に入ると講演活動を本格化させる。「民族衛生」
の記事(№17)には,「七月二十日の夜は神田の基督教青年会館で最初の講演を試み,二 十一日は東京会館,二十五日夜は学士会館で有志の歓迎晩餐会及び同博士の講演があっ た。」と記されてある。以下,その3つの講演を確認していく。
①7月20日の講演:ジョンソンの講演活動は,「東京朝日新聞」(№7)も報じるように
「来る二十日夜,神田のYMCAにおける講演」から始まる。シャフナー(2013:168頁)
によれば,題目は「優生学上より見たる産児制限の諸問題」で,聴衆は1,000名であった。
②7月21日の講演:日本優生協会主催の歓迎会(於・東京会館)の席上での講演である。
「日本之医界」第21巻第30号の「医界グラフ」(№10)に次の③の歓迎講演会と共に写真 で紹介されている。紙幅の関係で写真は省略するが,写真の説明文には「優生協会主催に て丸の内東京会館で開かれたジョンソン博士歓迎会」とある。題目・講演内容等は不明で あるが,その翌日(7.22)から「都新聞」に兼子常四郎の「優生学の話」(№8)が連載 されており,ジョンソン講演を契機に日本優生協会の存在と主張を知らしめている。
③7月25日の講演:講演会は「医海時報」(№9)が「日本精神衛生協会主催にて本二十 五日午後六時より神田学士会館にて歓迎会を開催し,席上『断種問題』と法律的方面殊に 日本事情に適切なる事項(通訳附)の講演」となることを予告している。「医海時報」の 続報(№13)によれば,講演会は,「野邊地慶三氏の通訳にてジョンソン氏は約一時間に 亘り米国各地に於て実施しつつある精神薄弱者に対する断種術の状況を述べ」たとされて いる。講演は,「医事公論」(№11)が写真入でその大要を,「日本之医界」(№15)が講演 の全文を掲載し,主に日本の医学界に伝えられた。大要を掲載した「医事公論」(№11)
によれば,出席者は,「呉(秀三),三宅(鑛一)博士等精神衛生協会関係者等三十名余」
で,講演は,①断種の対象と断種技術(この講演では癩は対象に含まれていない5)),②
産児制限の問題,③結婚を制限する委員会組織(結婚許可制度)の必要性,④精神薄弱・
精神病等による犯罪の問題と対応策(断種・隔離等),⑤移民問題への対応(メンタルテ ストの実施により平均以上のみ入国許可)といった内容で構成されていた。講演全文掲載 の「日本之医界」の記録(№15)には,全生病院の視察(7.22)を反映して日本の特殊事 情として「癩予防撲滅の為に支出する大きな負担」の問題があることに言及している。
(2)ジョンソン博士の地方優生学講演
東京での視察・講演後,ジョンソン博士は北海道に移動する。その北上途中(7.26〜29)
の活動については,シャフナー(2013:168頁)が盛岡での講演の存在を示唆している程 度で不明な点が多く,以下では資料的に裏付けられる北海道の講演から見ていく。
①北海道:7月30日に北海道(札幌)入りし,同31日に北大医学部南海堂にて「優生学実 行の種々なる方法」について講演した。「北海タイムス」は,ジョンソン来道前に社説で
「優生学の実行」(№22)を論じて迎えた。講演後,旭川の「近文のアイヌ部落」の視察 等を経て,青森県へ移動する(№23〜25)。
②青森(弘前):8月4日昼過ぎに弘前入り。予告(№26)では市公会堂で講演会とされ ていたが,その後に変更され4日夜に東奥義塾において弘前の学者・教師らを集めて優生 学座談会(通訳・笹森順造塾長)が開催された(№27)。
③新潟:8月6日新潟入り。同夜に日本赤十字社新潟支部楼上にて講演会開催(№28)。
④名古屋:新潟から長野滞在(8.8〜10,長野での講演の有無不明)を経て,13日夕方に名 古屋入りしたジョンソンは,名古屋社会事業助成聯盟主催の歓迎会に臨み,午後7時より 名古屋市会議事堂で「日本における人種改善」と題する公開講演(通訳:大石三良愛知県 社会事業主事)をおこなった。後援した名古屋新聞社は,13日朝刊の社説で「民族改良と 優生学」(№27)を取り上げ,市内版(5面)で「ピッバーグ大学教授・民族衛生学の権 威」という肩書で「ジョンソン博士講演会」の開催案内と「今夜極めて通俗的に優生,衛 生学を説く」との見出しで講演会への参加を呼び掛けている(№30)。翌14日朝刊では
「滔々流るる如き人種改善の雄弁,きのふジョンソン博士講演会」との見出しで,ジョン ソンが,「優生学上から,精神欠陥者の救済施設より人種改善のため去勢手術の有効であ ることをのべ更に結婚制度の改善を事こまかに説明し,最後に日本はこの優生学の立場よ り国民の改善を行ったならば世界の指導民族となるであろうと結び」,大喝采の中に講演 を終了したと写真入で報じている(№31)。
⑤大阪:名古屋から京都入りし,京都に滞在しつつ,大阪で8月19日夜,大阪府衛生課主 催の下に優生学講演会(於・知事別館,通訳・牧野虎次府嘱託,参会者約60名)が開催さ れ,約1時間半余に亘り,「種族改善の必要」等について講演した(№33)。要旨は,東京 講演(7.25)と同じで「社会事業研究」等(№34〜36)に掲載された。東京講演との違い は,「癩病問題」の解決に「断種」を「認めざるを得ない」とした点である(№36)。
⑥京都:8月20日午前10時より,京都府庁議事堂において「日本に於ける民族の進歩」と 題する講演(京都府衛生課嘱託で医学博士の前田正文が通訳)を行う。講演は,「府庁の お役人に優生学の講演」という見出しで翌日の「京都日出新聞」(№37)に写真入で報道 され,要旨は,「医事公論」第1000号(1930年9月)に掲載され医学界に紹介された(№
38)。
⑦神戸:8月21日午後1時より兵庫県主催で県議事堂において「如何にして最善の子供を
産むべきか」をテーマに優生学講演会が開催され,「まづ日本人の種族を向上せしめよ」
と説いた(№39〜41)。
⑧香川(高松):神戸から船(夜行)で香川に移動し8月22日早朝高松港に到着。高松市 内近郊を探勝し,午後7時より香川県議事堂でジョンソン博士の「民族衛生大講演会」
(通訳:高松高等商業学校森本教授)が開催された(№42〜43)。
⑨広島:高松での講演後,高松港から海路で宮島に向い8月23日に広島市に入る。同日午 後7時から広島県教育会と県衛生課の共同主催で「優生学大講演会」(於・医師会館,通 訳:亀井県通訳官)が開催され,講演(演題不明)をおこなった(№44)。翌24日に宮島 から海路で大分(別府)に入り,阿蘇を経て熊本市に到着(27日頃)する(№45)。
⑩熊本:8月28日午後7時より熊本県・熊本市役所主催(九州日日新聞社後援)で熊本公 会堂にて「優生学の講演会」(通訳・丹治七郎熊本県農事試験場長)が開催される。九州 日日新聞は,26日に神戸での講演記録を神戸新聞より転載(№46,鹿児島へも波及№49)
し,続く27〜29日の3日間に亘り講演会の案内をし,さらに講演記録を「応用優生学」
(№48)と題して連載するなど熱心な報道をおこなった。
⑪長崎:ジョンソンの長崎入りついては,「長崎新聞」(1931.8.15夕刊)が「ジョンソン 来崎」の見出しで,「米国優生学協会のジョンソン博士は過般講演行脚のため来崎し,各 地を講演中であったが来る二十九日午後五時長崎駅着の列車で熊本より来崎。三十日は大 浦ジャパンホテルに滞在し,三十一日午前九時発の列車で福岡に向ふ予定である。」(№50)
と報じた。熊本から長崎市入りしたジョンソンは,8月30日に長崎県議会場において「日 本における人種改良」と題して講演(通訳・長崎医科大学教授阿部俊男)した。講演要旨 は9月5〜7日の「長崎新聞」に「ジョンソン氏の日本に於ける人種改良講演要旨」と題 して3回連載された(№51)。
⑫福岡:8月31日に長崎から福岡(博多)に移動したジョンソンは,同夜,福岡日日新聞 社主催の「優生学講演会」(於・同新聞社講堂)で「優生学上より見たる人間の改造」と いう演題で聴衆500名に講演(通訳・西南学院高等部佐々木教授)し,日本での講演活動 の日程を終了した(№52〜54)。講演記録は,「福岡日日新聞」に3回連載され,その要旨 は詳記しないが見出しに集約されている(№55〜57)。福岡講演後に東京へ移動し,永井 潜会長らによる慰労送別会に招待され,同5日に横浜から帰米の途についた(№58〜59)。
3.ジョンソン博士の優生学講演の特徴と障害者の人権への影響(まとめ)
ジョンソン博士による全国各地での講演は,新聞報道等に地域差(精粗)があり一様で はないが,総合的に考察すると下記の特徴と影響を指摘できる。
①講演会の名称は,「ジョンソン博士の優生学講演会」が最も多く,講演の基調は,優 生学の応用による人類の進歩と人間(日本人)の改造・改良策の提唱にあった。
②講演会には,医療・衛生・社会事業等の関係分野の要人を主対象とする限定的なもの
(7.25の東京,大阪,京都など)と入場無料で広く一般公開するもの(名古屋,熊本,福 岡など)とがあり,座談会形式(弘前)のものもあった。
③その後の民族衛生学会地方支部設立との関係で見ると,東京・名古屋・大阪・神戸・
福岡・熊本での講演会は盛況で新聞報道も講演要旨・写真を掲載するなど熱心であり,そ の後の民族衛生学会の名古屋・大阪・福岡・熊本等の各地方支部発足との地域的相関が高
い。愛知(名古屋)支部の設立には,ジョンソン講演会で通訳をした大石三良が関係し人 物的に一致している6)。大阪支部の結成には大阪講演に出席した田結宗誠が尽力している。
④障害者(ハンセン病者を含む)の人権に関わっては,熊本での講演記録(№48〜49)
に典型的に現れるが,消極的優生学を説く中で「劣等な人間」(=「悪質者」)には,「癩 病,白痴,癲癇,盲目,聾者,唖者等」が該当するとして,その対応策として隔離または 断種の実行を提起しており,優生学的障害者観を直接参会者(特に要人)に,新聞報道を 通して広く国民に普及・浸透させるという役割を果たしている。特に日本の特殊事情とし ての「癩病」問題に言及し断種の対象に位置づけた点は,強制隔離をめざす「癩予防法」
(1931年4月公布)の施行(同8月)と同時期の講演でもあり,隔離主義の癩予防運動に 優生思想の影響を及ぼした可能性大である。また逆に積極的優生学を説く中で,結婚の改 良(優生結婚)による優秀な人間の増殖と教育支援(育英制度)の充実等を提唱すること で,「劣等な人間」の存在意義と価値を低めている。総じて,人間の優劣によって人権は 異なるという差別思想を普及し,日本の優生運動に弾みをつけたといえる。なお,講演で 人類の改善・進歩のため「国際間の戦争は防止撤廃すべきである」と主張をしている点は 注目に値し興味深い。
4.今後の課題
今後の課題は,①未だ不明な点が残る東京滞在中の視察先や東京から北海道に移動中の ジョンソンの講演記録の発掘,それらをふまえた全国講演行脚の全体像の明確化,②ジョ ンソンの優生学著作と来日講演の内容の比較検討,③ジョンソンを派遣した米国優生協会 と日本優生協会の関係の解明,などである。さらにジョンソン講演会を受け入れて準備・
開催した地域と民族衛生学会地方支部設立との関連性を検討した上で,各支部による地方 優生運動の展開とその障害者(ハンセン病を含む)への影響を解明していくことである。
<注>
1)平田勝政『日本における優生学の障害者教育・福祉への影響とその克服過程に関する 研究』(平成14〜16年度科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書:課題番号 14510300),全114頁,2005年
2)目下確認できている地方支部は,①大分支部(1932.10.29発足),②広島支部(1933.
5.6),③愛知支部(1933.5.10),④大阪支部(1934.10.19),⑤福岡支部(1934.10.21),
⑥熊本支部(1934.10.22),⑦鹿児島支部(1935.10.14),⑧金沢支部(1935.10.19)で ある。
3)ジョンソン来日講演活動に関する筆者の研究は,末尾の(付記)に記している第1報
(2007)と注6)に記した第2報(2010)とがある。
4)K.J.シャフナー「日米優生学の連携の一例―ロズウェル・ヒル・ジョンソン―」
(山崎喜代子編『生命の倫理3 優生政策の系譜』所収,九州大学出版会)161〜191頁, 2013年。なお,筆者は,シャフナー氏の研究には敬意を表しつつも,①173頁の(二)
のタイトル「日本優生学会」は「日本優生協会」の間違いではないか,後藤龍吉の「日 本優生学会」と兼子常四郎の「日本優生協会」を混同してはいないか,②本稿ではジョ ンソンの通訳者・案内役は金子直一ではなく兼子常四郎であることから,金子と兼子は
同一人物なのか別人なのか,その点を明確にする必要はないか,等の疑問を持っている。
5)この講演では,断種の対象となる「劣等な分子」として,「精神薄弱者」「精神病者」
「癲癇患者」「盲者」「唖者」「精神変格者」を挙げている(№15より)。
6)平田勝政「1930年代の地方優生運動と障害者・病者の人権(第2報)―日本民族衛生 学会愛知支部の優生運動と十坪住宅運動との関連性の検討―」(『日本特殊教育学会第48 回大会発表論文集』690頁,2010年)参照
(付記)本研究は,日本特殊教育学会第45回大会(2007年9月22〜24日,兵庫教育大学)
において発表した「1930年代の地方優生運動と障害者・病者の人権(第1報)−1931年夏 来日のジョンソンによる全国優生学講演の地方への影響の検討を中心に−」(『日本特殊教 育学会第45回大会発表論文集』728頁所収)を改題して,その後の調査で得られた知見を 加え,修正・加筆してまとめたものである。
〈資料1〉優生学資料目録(ジョンソン博士の来日・講演会関係資料) 2015.10.30案
№ 著 者 名 資 料 名 誌名・紙名/号数 面/頁 発 行 年 月 日 備考
1 具体化してきた優生問題研究,学理実地の 両方面から劣等児を俎上に
※ジョンソン来日に言及
「法政大学新聞」
第12号
2面 1931(S.6).6.5 東京
2 ロスウヰル・
ジョンソン
(通訳・兼子 常四郎)
(ラジオの頁)応用優生優生学に就て語る
※1931.7.5午前11時よりJOAKの番組で
「応用優生優生学に就て」と題して講演
(講演の要旨と演者・通訳者を紹介)
「時事新報」第17266号 5面 1931(S.6).7.5 東京
3 ロスウヰル・
ジョンソン
(通訳・兼子 常四郎)
応用優生優生学の目的と可能性
※1931.7.5午前11時よりJOAKの番組で
「応用優生優生学に就て」と題して講演
(講演の要旨と演者・通訳者を紹介)
「二六新報」第6006号 6面 1931(S.6).7.5 東京
4 ロスウヰル・
ジョンソン
応用優生優生学に就て
※7.5のラジオ講演の要旨
「馬関毎日新聞」
第13390号
3面 1931(S.6).7.5 山口
5 ロスウヰル・
ジョンソン
応用優生優生学に就て
※7.5のラジオ講演の要旨
「九州日報」第14650号 3面 1931(S.6).7.5 福岡
6 本学会(=新聞会)に寄せたジョンソン氏 の書簡(英文)
「法政大学新聞」
第16号
2面 1931(S.6).10.19 東京
7 優生学の応用で人種改良を説く学者,日本 を講演旅行
「東京朝日新聞」
第16242号
3面 1931(S.6).7.19 東京
(全国)
8 兼子常四郎
(日本優生協 会)
優生学の話(上)人の素質は改良できる 優生学の話(下)家系はなぜ重ずべきか,
遺伝の怖ろしさ
(上)「都新聞」
第15681号
(下)「都新聞」
第15682号
9面 9面
1931(S.6).7.22 1931(S.6).7.23
東京
9 ジョンソン氏歓迎会 「医海時報」第1927号 1422 1931(S.6).7.25 東京
(全国)
10 (医界グラフ)ロウエルジョンソン博士歓 迎会
※1931.7.21(日本優生協会主催)と7.25
(日本精神衛生協会主催)の歓迎会の写真
「日本之医界」
第21巻第30号
36 1931(S.6).8.1 東京
(全国)
11 米国優生学者の講演(ジョンソン博士講演 大要)
※1931.7.25(日本精神衛生協会主催)の 講演
「医事公論」第993号 30 1931(S.6).8.1 東京
(全国)
12 優生学講演 「東京青年」
1931年8月号
1931(S.6)‑8 東京
№ 著 者 名 資 料 名 誌名・紙名/号数 面/頁 発 行 年 月 日 備考 13 ジョンソン氏歓迎会 「医海時報」第1928号 1450 1931(S.6).8.1 東京
(全国)
14 ジョンソン氏歓迎会 「神経学雑誌」
第33巻第6号
440 1931(S.6)‑8 東京
(全国)
15 ロスウエル・
ジョンソン
断種問題に就て(殊に本邦事情に適切なる 事項)(一)(二)
(一)「日本之医界」
21巻第32号 (二)「日本之医界」
21巻第33号
51‑52 51‑52
1931(S.6).8.15 1931(S.6).8.22
東京
(全国)
16 (人とその働き)R・L・ジョンソン氏
(米国優生学会前会長)
「精神衛生」第2号 10‑11 1932(S.7)‑2 東京
(全国)
17 ジョンソン博士の来朝 「民族衛生」
第1巻第3号
152 1931(S.6)‑8 全国
18 ジョンソン博士講演行脚 「医海時報」第1929号 1509 1931(S.6).8.8 全国 19 優生学者ジョンソン氏の全国講演行脚 「日本医事新報」
第469号
2112 1931(S.6).8.8 全国
20 ジョンソン氏全国行脚 「日本之医界」第21巻
第32号
31 1931(S.6).8.15 全国
21 優生学講演で日本中を行脚 「台湾教育」
31年第349号
155 1931(S.6)‑8 台湾
22 (社説)優生学の実行 「北海タイムス」
第14478号
3面 1931(S.6).7.11 北海道
23 優生運動の権威,ジョンソン博士来道 「北海タイムス」
第14498号
2面 1931(S.6).7.31 北海道
24 ジョンソン博士札幌を視察 「小樽新聞」第12716号 2面 1931(S.6).7.31 北海道 25 優生学実行の方法種々,産児制限と離婚善
用(ジョンソン博士の講演)
「北海タイムス」
第14500号
8面 1931(S.6).8.2 北海道
26 ジョンソン教授,市公会堂で講演,優生学 の大家
「弘前新聞」第11179号 2面 1931(S.6).7.28 青森
27 ジョンソン氏の優生学座談会 「東奥日報」第13977号 3面 1931(S.6).8.5 青森 28 民族衛生の世界的権威,ジョンソン博士来
る
「新潟新聞」第5462号
(夕刊)
3面 1931(S.6).8.6 新潟
29 (言論)民族改良と優生学 「名古屋新聞」
第12717号
2面 1931(S.6).8.13 名古屋
30 ジョンソン博士,市議事堂で講演,今夜極 めて通俗的に優生,衛生学を説く
「名古屋新聞」
第12717号
5面 1931(S.6).8.13 名古屋
31 滔々流るる如き人種改善の雄弁,きのふジ ョンソン博士講演会【写真入】
「名古屋新聞」
第12718号
5面 1931(S.6).8.14 名古屋
32 来朝中のジ博士を招いて優生問答,各方面 の知名の士らと
「大阪毎日新聞(大阪 版)」第号
9面 1931(S.6).8.19 大阪
33 世界的権威が優生学講演,昨夜知事別館で 「大阪朝日新聞」
第17880号
9面 1931(S.6).8.20 大阪
34 大阪で断種術力説 「医海時報」第1932号 1649 1931(S.6).8.29 大阪 35 ジョンソン博士講演 「医事公論」第997号 38 1931(S.6).8.29 大阪
36 ジョンソン博士の優生学講演会 「社会事業研究」
第19巻第9号
207‑
210 1931(S.6)‑9 大阪
37 府庁のお役人に優生学の講演,来朝中のジ ョンソン博士【写真入】
「京都日出新聞」
第15987号(夕刊)
1面 1931(S.6).8.21 京都
38 日本に於ける民族の進歩 「医事公論」第1000号 23‑25 1931(S.6).9.19 京都
№ 著 者 名 資 料 名 誌名・紙名/号数 面/頁 発 行 年 月 日 備考 39 優生学講演会,廿一日県議事堂 「神戸新聞」第12078号 6面 1931(S.6).8.21 神戸 40 ジ博士講演 「神戸新聞」第12079号 7面 1931(S.6).8.22 神戸 41 まづ日本人の種族を向上せしめよ,ジョン
ソン博士が説く優生学の内容
「神戸新聞」第12081号 5面 1931(S.6).8.24 神戸
42 ジョンソン博士の民族衛生大講演会,廿二 日県議事堂で
「香川新報」第13439号
(夕刊)
1面 1931(S.6).8.22 香川
43 ジョンソン博士来る,民族衛生講演 「徳島毎日新聞」第 10896号
10面 1931(S.6).8.22 香川
44 優生学講演会 「中国新聞」第13342号
(夕刊)
2面 1931(S.6).8.23 広島
45 優生学の泰斗ジョンソン博士,別府から阿 蘇へ
「九州日日新聞」
第16047号
2面 1931(S.6).8.26 熊本
46 まづ日本人の種族を向上せしめよ,ジョン ソン博士が説く優生学の内容
「九州日日新聞」
第16047号
4面 1931(S.6).8.26 熊本
47 ジョンソン博士歓迎会 「九州日日新聞」
第16051号(夕刊)
1面 1931(S.6).8.30 熊本
48 応用優生学(上)(下),熊本市公会堂に於 ける講演,ロズウエル・ジョンソン氏
(上)「九州日日新聞」
第16052号
(下)「九州日日新聞」
第16053号
2面 2面
1931(S.6).8.31 1931(S.6).9.1
熊本
49 まづ日本人の種族を向上せしめよ,ジョン ソン博士が説く優生学の内容
「鹿児島朝日新報」
第10935号
4面 1931(S.6).8.31 鹿児島
50 ジョンソン博士来崎 「長崎新聞」第9069号
(夕刊)
?面 1931(S.6).8.15 長崎
51 阿部 俊男
(長崎医大教 授)
ジョンソン氏の日本に於ける人種改良講演 要旨(一)(二)(三)
(一)「長崎新聞」
第9090号
(二)「長崎新聞」
第9091号
(三)「長崎新聞」
第9092号
2面 2面 2面
1931(S.6).9.5 1931(S.6).9.6 1931(S.6).9.7
長崎
52 (案内)主催・福岡日日新聞社,ジョンソ ン博士優生講演会
「福岡日日新聞」
第17211号
3面 1931(S.6).8.31 福岡
53 優生学宣伝のジョンソン博士,今夜本社講 堂で公開講演会/(案内)今晩七時半より 本社講堂にて優生学講演会
「福岡日日新聞」
第17212号(夕刊)
1面 1931(S.6).9.1 福岡
54 「よき誕生」を勧める,ジョンソン博士の 優生学講演【写真入】
「福岡日日新聞」
第17212号
3面 1931(S.6).9.1 福岡
55 優良な人間は盛んに産め,劣等人種は隔離 せよ(優生学上より見た人間の改造(上)
ジョンソン博士の講演大要)
「福岡日日新聞」第 1721号
5面 1931(S.6).9.10 福岡
56 自由結婚に日本は準備が足らぬ,男女共学 制がいい(優生学上より見た人間の改造
(中)ジョンソン博士の講演大要)
「福岡日日新聞」
第1721号
5面 1931(S.6).9.11 福岡
57 国と国との争ひは優生学の敵,階級闘争も 避けよ(優生学上より見た人間の改造(下)
ジョンソン博士の講演大要)
「福岡日日新聞」第 1721号
5面 1931(S.6).9.12 福岡
58 ジョンソン博士歓迎講演会 「日本医事新報」
第474号
2417 1931(S.6).9.12 東京
59 ジョンソン博士慰労送別会開催 「民族衛生」
第1巻第4号
112 1931(S.6)‑10 東京