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論理学と討論術の緊張関係

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Academic year: 2021

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論理学と討論術の緊張関係

― シャーンタラクシタによる『討論の理』の矛盾の解決 ― 佐々木 亮

ダルマキールティは Vādanyāya において敗北の条件(nigrahasthāna)という討論術的概念を 定義するにあたり,asādhanāṅgavacana(立論者の敗北条件)とadoṣōdbhāvana(対論者の敗北条 件)という新しい概念を創案し,さらに前者の概念を五通りに,後者を二通りに解釈し分けて いる。本稿は,このasādhanāṅgavacanaの第二解釈と第三解釈との間に見出される論理的矛盾に 着眼し,両者がいかなる立場において,いかなる仕方で整合化され得るのかという問題を扱う。

ダルマキールティの理解に従えば,asādhanāṅgavacanaは,その第二解釈において「証明手段 の構成要素を述べないこと」と訳され,「論証因が正証因となるための三条件のうち,ただ一つ の条件でも述べない立論者は敗北する」ということをその内容とする。他方で,この概念は第 三解釈において「証明手段の構成要素でないものを述べること」と訳され,「肯定的随伴関係な いし否定的随伴関係の一方を述べたあとで,更にもう一方を述べる立論者は敗北する」等とい うのがその内容である。さて,論証因の第二条件と肯定的随伴関係,第三条件と否定的随伴関 係は,それぞれ文脈によっては必ずしも論理的同値ではない場合も考え得るが,いま仮にそれ らを論理的同値であると捉える。この場合,asādhanāṅgavacanaの第二解釈では立論者は討論に おいて肯定的随伴関係と否定的随伴関係の両方を述べねばならないのに,第三解釈では立論者 は肯定的随伴関係と否定的随伴関係のうちどちらか一方しか述べてはならないということにな る。第二解釈と第三解釈との間に生じてしまうこのような矛盾を,ダルマキールティにおいて は定かではないが,シャーンタラクシタははっきりと認識している。

この問題を検討するに際して,本稿は,敗北の条件が定義される際に論証因の三条件という 論理学的概念が主軸的に活用されていることを踏まえて,ダルマキールティが Hetubindu にお いて不変化詞evaによる限定を伴わない随伴関係の存在を認めている文言に着目した。そして,

不変化詞evaによる論理的限定の有無によって肯定的随伴関係と否定的随伴関係を解釈し分け

れば,asādhanāṅgavacana の第二解釈と第三解釈が整合的に理解できることを示した。他方で,

シャーンタラクシタがasādhanāṅgavacanaの第二解釈にあらわれる集合(samudāya)の概念を再 解釈することによって,肯定的随伴関係と否定的随伴関係とが論理的同値であるという自身の 立場を固持しつつ,上述の矛盾の解消をはかっていることが判明した。

このように,論理学と討論術とは,ときに一方が矛盾していれば他方の視点から整合化をは からねばならないという緊張関係を有しているということがわかる。ダルマキールティとシャ ーンタラクシタが討論術的概念の解釈を異にする今回の事例はその典型とも言うべきものであ り,論理学や討論術の研究の際には十分に意識されねばならない点であると言える。

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118142 久遠(論文集)_本文(三校)

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