• 検索結果がありません。

カーソル軌跡から評定時間が予測できるか?

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "カーソル軌跡から評定時間が予測できるか?"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 回答行動とカーソル運動

カーソルの移動軌跡を用いて心理学的研究を行おうという試みが様々な分野で注目されている。

Freeman(2018)によれば,画面上(平面上)の選択肢に至るまでの手の軌跡(あるいはマウスの

軌跡)を測定することで,幅広い認知プロセスの時間軸上の動きを調べることができる新研究パラ ダイムが開発されてきたという。このパラダイムでは眼球運動などのデータに類似した軌跡データ が得られるが,ここから

microstructure of real-time decision

を明らかにする能力があるともいう。

椎名も

PC

上での

Likert

型評定判断におけるカーソルの移動軌跡を測定し,回答者の心的状態を

推測する試みを行った(Shiina, 2011; 椎名,2012; Shiina, 2014)。この研究は「測定装置としての評 定尺度」の基本的性質を明らかにするのが目的であった。

ところでカーソルによるポインティングはもう時代遅れではないかという懸念があるかもしれ ない。筆者がこのタイプの研究に注目し始めた

2000

年代初頭では

GUI(Graphical User Interface)

で使用されるポインティングディバイスとしてはマウスが主流であったが,その頃よりスマート フォンとタッチスクリーンが急激に普及し,2010年頃にはマウスは時代遅れであり将来的には使 用されなくなるので,特にマウスによるカーソル軌跡の研究は無意味であるという評価を聞いたこ とがある。確かに,マウスの使用は徐々に減少しているのかもしれないが,少なくともビジネス 系・学校系の

PC

では当分の間は使用され続けるだろうという感触を現時点ではもっている。また,

移動軌跡に注目するパラダイムはネット調査・ネット実験の実務・研究でこれから重要になってい くだろうという逆の予想もできるので,その成長ポテンシャルは注目に値するものと考えられる。

基本的なことであるが,マウス移動と画面上のカーソル移動は同義とは言えない。カーソルの移 動はトラックボール,ジョイスティック,タッチパッド,ポインティング・スティック(トラック ポイント),タッチスクリーン等を使用しても行えるが,「マウスの移動」と言った場合は厳密には マウスの物理的移動ということになる。言うまでもなく,マウスの物理的動きと画面上のカーソル の動きは完全に一対一対応しているわけではないし(例えば,マウスを空中に持ち上げて別の場所 に着地させると,その間の運動は記録できない),種々のポインティングディバイスが,それぞれ

カーソル軌跡から評定時間が予測できるか?

椎名 乾平

(2)

固有の物理的特性を持つのも明らかである。しかし,この分野の研究者はこの点にあまり拘泥する ことなく,画面上の「マウスの移動」ということが多い。またこの分野の研究者は歴史的経緯から か「マウスの操作」と「手の動作」を同一視し,さらに「体の動作」を含めることもある。そこで,

以後「マウス動作」「手の動作」も「カーソル動作」に含めて用語を統一することにする。

カーソル移動に注目した研究は,そもそもの目的は必ずしも同じとは言えないものの,いろい ろな分野で見られる。そこで心理学分野,HCI(Human–Computer Interactionあるいは Human–

Computer Interface)分野,手の運動制御分野(リーチング,目標到達課題)を中心に現状を紹介

したい。

1.1 心理学分野での研究

カーソルの軌跡を積極的に利用した最初の認知心理学者は

Baccino

ではないかと思われる

(Baccino,

1994; Baccino & Kennedy, 1995)。その後 Spivey, Dale

らの認知心理学研究グループが本 格的にカーソル軌跡を利用した研究を行った(Spivey, Grosjean, & Knoblich, 2005; Spivey & Dale,

2006)。わずかに遅れて Freeman, Ambady

らの社会心理学研究グループが続き(Freeman, Ambady,

Rule, & Johnson, 2008; Freeman, Pauker, Apfelbaum, & Ambady, 2010),その後両グループの共同論

文も出版された(Freeman, Dale, & Farmer, 2011)。Freeman(2018)は,カーソルの軌跡を測定す る新しい研究法が普及してきたのはこの

10

年ほどの間であるという。特に,カーソル軌跡の記録 が可能なフリーソフトウェアが利用できるようになったので(Freeman & Ambady, 2010; Hehman,

Stolier, & Freeman, 2015; Kieslich & Henninger, 2017),RT

を含めた軌跡データを容易に収集でき るようになってきたという。確かに

Freeman

の提供した

Mouse Tracker

ソフトウェアには

100

程 度の使用実績があり(http://www.mousetracker.org/),その内容も多岐に渡っている。ただし,ど ちらのソフトウェアも現状では

2

選択肢強制選択課題(two-alternative forced choice)しか扱うこ とができないので,それ以外の状況では自作するしかない。とはいっても,カーソルの座標値と時 間を記録するだけであるから大した技術力が必要なわけではなかろう。

Spivey

Dale

らの初期の研究では,カーソル軌跡の測定は音素処理における「連続処理

vs

離散

処理」という理論的対立を解決するための実験的手続きとされていた。しかし,まったく異なる説 明も可能であり(van der Wel, Eder, Mitchel, Walsh, & Rosenbaum, 2009),現在ではカーソル軌跡 の持つ情報はより広い情報処理過程の特性を示すものと再解釈されている(Freeman, 2018)。

以上はカーソル軌跡を直接用いた最近の研究動向であるが,一方,Freemanや

Spivey

らの研究 では重視されてはいないものの,心理学の古典的研究である

Woodworth(1899)や Fitts(1954)

が以下に述べる心理学以外での軌跡研究にも大きな影響を与えているのを付言しておきたい。

1.2 HCI(Human–Computer Interaction)と人間工学

人間工学(Ergonomics)や

HCI

はマウスを始めとする様々なポインティングディバイスの生み

(3)

の親・育ての親であるから(Bardini,

2000),カーソル軌跡の研究で重要な役割を果たすのは間違

いない。大きな研究分野であり簡潔にまとめるのは難しいが,主に心理学由来の知識・法則が発展 的に利用されているようなケースも取り上げたい。その中にはむしろ心理学そのものと呼ばれるべ き研究も含まれる。心理学系研究でも

HCI

系研究でも

Fitts

の法則(Fitts, 1954; MacKenzie, 1992)

平均反応時間=a+b・log

2

2D

W

(1)

は基本原理として重要視されている(Dはカーソルの移動距離,Wは目標対象物の幅,a, bは未知 パラメーターである。尚,この式にはいくつかの変化形がある).

HCI

系の研究では,軌跡を

submovement

に分解してその性質を理解しようという方向性が見 られる(Jagacinski, Repperger, Moran, Ward, & Glass, 1980)。そもそも,目標到達運動研究の嚆矢 である

Woodworth(1899)において,到達運動は initial impulse phase と current control phase

に 分解されうるものとされている(Elliott, Helsen, & Chua, 2001)。到達運動のパフォーマンスは,

軌跡全体や

submovement

に対して定義された様々な指標を用いて調べられる。例えば,Walker,

Meyer, & Smelcer(1993)は,継続時間,平均速度,および最初の submovement

の移動距離の総

移動距離に対する比率を調べた。MacKenzie, Kauppinen, & Silfverberg(2001)では,7つの新し い指標が提案されている。また,Hwang, Keates, Langdon, & Clarkson(2005)では

15

種類の指標 が用いられている(例えば終了までの時間,休止の回数,休止の長さ,確認時間,submovement の回数,等々である)。

元々は到達運動を理解しようという目的,あるいはマウスの性能を評価しようという目的(Lin

& Tsai, 2015)のために指標群が定義されているわけだが,逆に被験者の属性や実験状況が指標に

影響を与えるだろうと予想し,様々な実験条件における指標の差異を用いて,被験者の属性,例え ば年齢や障害度を分離しようという研究もある。例えば,Walker, Philbin, & Fisk(1997)は老人と 若者の運動特性の差を調べているし,Hwang, Keates, Langdon, & Clarkson(2005)は身障者の特 性を調べようとしている。また

Chen, Hoffmann, & Goonetilleke(2015)では,Fitts

の法則から予 想される課題の難易度((1)式の(2D)

/W

の部分)が軌跡の

submovement

数を増加させ,その 結果反応時間を増加させるという結果を得ている。同様の結果は

Walker, Meyer, & Smelcer(1993)

Phillips & Triggs(2001)でも報告されている。この事実を逆に利用し,submovement

数が多け れば課題が難しいあるいは被験者が逡巡しているという心理学的予想が立つかもしれない(3.1で の椎名の評定課題の解釈の根拠となっている)。

1.3 手の運動制御(リーチング)

マウス課題とリーチング課題が同一視されることは多い。リーチングの研究は,そもそもは手の運 動制御のメカニズムを動力学的に調べようとするものであった。その後,課題設定の差異より生じ

(4)

るリーチング運動の変化から,心的過程を読み取ろうとする研究が増加してきている。現在ではリー チング課題が隠れた認知状態を反映するというアイディアは相当に受け入れられていると言ってよ かろう(Song & Nakayama, 2009; Wolpert & Landy, 2012; Gallivan, Chapman, Wolpert, & Flanagan,

2018; Wispinski, Gallivan, & Chapman, 2018)。そしてカーソルの移動をリーチングの一変種と見なす

ならば,リーチング課題での知見がカーソル移動課題に般化・転移するものと期待できよう。

到達運動研究には一つ重要な流れがある。それは日本人研究者では宇野(2014)や川人(1996)

に代表される,(主として)手の到達運動の数学的規範モデル(Marrの用語を用いれば計算モデ ル)の研究である。この流れはそもそもは

Woodworth

に始まる心理学的到達運動研究とは別系の 研究動向と思われる(例えば初期の研究では

Woodworth

も Fittsも引用されないし,submovement のようなものも眼中にないようである)。この流れでは工学的最適制御によってリーチングが制御 されるものと仮定し,相当厳密な数学モデルあるいは神経回路モデルを立てて,主として

Morasso

パラダイム(Morasso, 1981)とでも言うべき実験条件下での到達運動を精密に検討した。おそらく

Morasso

の実験装置(manipulandumと呼ばれる

2

関節運動装置)では複数の

submovement

が生

起しないようにうまく工夫されているものと思われる。この流れの研究も,心理学的知見を考慮に 入れ統合しようとする方向性が見られる。きっかけは

Todorov & Jordan(2002)による最適フィー

ドバック制御理論の導入のようである。この分野の最近の動向は

Gallivan et al(2018)に詳しい。

1.4 急速な統合へ向かうカーソル軌跡研究

以上の先行研究を要約すれば,元来はやや異なる目標に対して行われてきた研究であるが,どの 研究分野でもカーソル軌跡が様々な認知状態の時間軸上の変化を示す指標として機能するというコ ンセンサスが形成され,バラバラだった研究動向が急激に統合される方向性にあると言ってよか ろう(Song & Nakayama, 2009; Freeman, Dale, & Farmer, 2011; Freeman, 2018; Gallivan, Chapman,

Wolpert, & Flanagan, 2018)。最近では,運動行動を,感覚,動作および課題の不確実性下で,運動

結果の効用を最大化する意思決定問題とみなす立場がある(Wolpert & Landy, 2012)。そもそも何 か目的があるから運動するのであって,最適化をするために運動するわけではなかろうから,これ は当然の成り行きのようにも思える。この見方では,運動計画の選択と運動制御は統計的決定理論 の応用となり,リスク下の運動,損失関数の推測,様々な状況における運動行動,を説明するのに 成功しているとされる。

2 Likert 型評定課題におけるカーソル軌跡

一口に

PC

上のカーソル運動といっても,1)どのような画面デザイン上で,2)どのような質問 がなされるのか,そして

3)どのような反応フォーマットが用いられるか,によって,速度・軌跡

といった運動特性はまったく異なるものになるであろう。椎名(2011, 2012, 2014)の一連の研究で 調べられたのは,

Likert

尺度という回答フォーマット(図

1)におけるカーソル移動の特性であり,

(5)

また質問された内容は「単純な数値マッチング」や「加算の結果」から「性格自己評定」や「ライ フスタイル」まで多岐にわたった(表

1,図 2

参照)。この反応フォーマットは,心理学で多用さ

れる

Likert

型評定尺度を模したものだが,手やカーソルの到達運動研究の文脈から見ればユニー

集中力がある

いいえ わからない はい

図1  左)評定実験で使用されたフォーム。質問項目は「集中力がある」。図上にある曲線は軌跡の一例。

右)研究2で使用されたフォーム。順行カテゴリー条件。被験者は窓上に現れた数字と同じ数字のク リックを求められる。図上にある曲線は軌跡の一例。

Table 1 Summary of 16 Tasks

  Items N

0)Benchmark 5 140

1)Self esteem(Rosenberg) 10 140 2)Maximization(Schwartz) 8 140

3)Regret(Schwartz) 8 140

4)Big 5 Extraversion 5 140 5)Big 5 Neuroticism 5 140 6)Big 5 Conscientiousness 5 140 7)Big 5 Agreeableness 5 140 8)Big 5 Openness to Experience 5 140 9)Indeterminacy 15 140

10)Social desirability(Marlowe-Crowne) 10 140

11)Life style(e.g., We can be happy without money) 5 185 12)Opinion(e.g., Japan has rather a bright future) 5 185

13)Addition and subtraction(e.g., 3-2+1, 1+3-2.) 30 70

14) Division(e.g., 17/13.) 10 173

15)Geography(France is larger than Japan in land area) 5 185 Note. † “1-2-3-4-5” Category label was used.

Otherwise “No-Don’t know-Yes” label was used.

(6)

クなものといえる。その特徴は,選択肢数が多いこと,運動の範囲が小さいこと,選択肢に数字や 単語が振られているといった点であろう。このパラダイムは,5つの異なる目標に対する到達運動 課題と見なすこともできるが,カーソルは単純到達運動よりずっと複雑な動きをするものと予想さ れる。

Likert

型評定課題が,到達運動課題をはじめとするこの分野の研究と根本的に異なるのは,到達

運動では目的地点は実験者によって定められているのに対して,Likert型評定課題には通常は「正 答」がないため,どのボタンに移動してクリックするのかを被験者が決定しなければならない点で ある。言い換えると,「反応自己生成課題」とでも言うべきパラダイムになっている。また,評定 課題は,数値による回答を求めることがあるので(図

1

右),数感覚・数情報処理との関係がでて くるだろう。すると,このパラダイムで

SNARC

効果(Dehaene, Bossini, & Giraux, 1993)が生起 するかどうかなども問題となろう。以下椎名(2011,

2012, 2014)の研究の概要を述べる。

1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6

1 2 3 4 5

M E A N R E S P O N S E T IM E ( S )

RESPONSE CATEGORY

Benchmark Self esteem Maximization Regret Extraversion Neuroticism Conscientiousness Agreeableness Openness to experience Indeterminacy Social desirability Life style Opinion

図2  13種類の課題におけるカテゴリー別反応時間。 逆U字型あるいは

逆J字型のパターンがほとんどである。最下部のベンチマーク課題 は,数字の単純クリック課題であり,U字型パターンとなっている。

(7)

2.1 評定までの平均反応時間

1

左における回答カテゴリーに左から

1,2,3,4,5

の番号を割り当てることにする。「性格 の自己評定」や「社会的態度」といった主観的判断課題では,逆

U

字型や逆

J

字型

RT

効果が生起 する。すなわち,反応時間は

3

1

より長く,5は

1

3

より短い傾向がある。逆

U

字型効果は 様々な文脈で観察されている(Kuiper, 1981; Akrami, Hedlund, & Ekehammar, 2007; Brown, Marley,

Donkin, & Heathcote, 2008; Mignault, Marley, & Chaudhuri, 2008)。

一方単純に評定カテゴリーのクリックを求める課題では,

V

字型のRTパターンとなる(3が短く,

1

5

は長い。図

2

参照)。

2.2 接線速度(軌跡の方向にそった速度)

接線速度(軌跡の方向にそった速度)を解析したところ,眼球運動におけるサッカードのような すばやい動き,すなわち弾道運動(Ballistic movement)が観察された(図

3)。この運動をストロー

クと呼ぶことにする(HCIでの

submovement

に相当する)。この概念を用いると,カーソル軌跡 は複数のストロークと,ストローク間を連結する微細な運動が時間軸上で連結されたものとみなす ことができる。ストロークが大きく,かつ発生頻度が少ない場合,「決定に躊躇がなかった」と考

図3  上はストローク数1,下はストローク数3の接線速度曲線。

横軸は時間,縦軸は接線速度。山の部分がストロークで ある。

(8)

えられ,またストローク数が逆

J

字効果に関連することが予想された(図

5

も参照)。

2.3 平均接線速度曲線

試行ごとに図

3

のような接線速度曲線が得られるわけだが,このような曲線の多数の平均をとる と,図

4

のような滑らかな曲線が出現した。このようなベル型曲線は弾道運動の特徴であるから,

平均弾道運動曲線が発見されたと言いたくなるが,元の曲線は図

3

のようなパルス形状であるから これは言いすぎとなる。図

4

のような平均曲線が表現するのは単位時間当たりのパルス発生頻度で あると考えられる。

2.4 接線速度の揺れ

4

のような平均弾道曲線は図

3

のようなデータを平均したものだから,各時点における接線速 度の散らばりを求めることができる。この散らばりを軌跡変動指数(CV)と名づける。

2.5 単純な回帰式による反応時間の説明

2

に見られるような逆

J

字型

RT

効果を説明するために,上記

CV

を含む

2

次回帰モデル 平均反応時間= −0.434+0.065×(質問の文字数)

+0.285×(回答カテゴリー値)−0.072×(回答カテゴリー値の二乗)+1.359×CV を構成したところR=0.97を得た。ただし,この回帰式で逆

J

字効果を説明する成分は回答カテゴ リー値の

2

次の項であり,その意味であまり面白い結果とは言えないかもしれない。この式の解釈 としては内的葛藤が軌跡振動を生起させ,説明力を上げるというものが考えられる。以上が椎名

(2011, 2012, 2014)の概要である。

さて,平均反応時間を予測する変数としては他にも様々なものが考えられるが,Shiina(2014)

0 50 100 150 200 250 300 350 400

TIME (256 steps)

VELOCITY (dot/s)

category 1 (1.33s) category 2 (1.21s) category 3 (1.23s) category 4 (1.23s) category 5 (1.36s)

図4  接線速度の回答カテゴリーごとの平均曲線。

横軸は基準化された時間,縦軸は接線速度。

ベンチマーク課題。

(9)

では図

3

上で示したような単一ストロークの軌跡が多いと反応時間が短くなるという傾向が示唆さ れている。そこで,研究

1

では接線速度曲線のストローク数と

CV

で反応時間を説明できるかどう か,簡単な回帰式を用いて検討する。

3 研究 1

様々な質問項目を

PC

上に提示し,5段階カテゴリー尺度を用いて評定させた。図

1

左に示した フォームで中央に提示される「提示」ボックスをクリックすると刺激文が提示され,被検者は下部 の

5

個の尺度値ボタンをクリックして評定判断を行った。その際に,反応時間と判断に至るまでの カーソル軌跡が記録された。評定の対象は表

1

に示すような各種性格テスト,態度測定項目であっ た。被験者数は質問項目によって異なるが,70人から

185

人である。

3.1 結果

各課題・各カテゴリーごとの平均反応時間はすでに図

2

に示されている。次に,各接線速度曲線 から,Shiina(2011)の方法を用いてストローク数をカウントした。ストローク数の比率を,各回 答カテゴリーごとに示すと図

5

のようになる。たとえば,回答カテゴリー

1

に到着した軌跡の内,

ストローク数が

1, 2, 3, 4, 5

であった場合の比率が,0.20,

0.34, 0.30, 0.13, 0.02

であることを示し,

またストローク数が

1

であった場合に選ばれたカテゴリーの比率が,カテゴリー

1, 2, 3, 4, 5

の順に

0.20, 0.17, 0.16, 0.21, 0.27

であることを示している。図

5

1

ストロークの比率が

J

字型,

4

ストロー

図5 選ばれたカテゴリーとストローク数の関係

(10)

クの比率が逆

J

字型を取るのが見て取れる。そもそも評定に要する時間は,a)課題を読み理解す るための時間(情報処理時間),b)意思決定するための時間(意思決定時間),c)カーソルを動 かして反応するための時間(カーソル移動時間),の

3

成分から構成されるものと考えられる。問 題の読解と意思決定はこの順番で生起しその所要時間には加算性が成立するものと考えられるが,

カーソルの移動は読解中あるいは意思決定中にも生起するであろうから,a)b)との加算性は必ず しも成立しないであろう。ここで

「質問を構成する文字数」を読解情報処理の「負荷」に関係する指標

「CV」 を情報処理あるいは意思決定の「ゆれ」の傾向を示す指標

「単一ストロークの比率」を意思決定における迷いの程度を反映する指標(1.2参照)

と考え,説明変数とすることにする。尚,「単一ストロークの比率」は元来「カーソル移動におけ る迷いの少なさの指標」であるが,さらに「意思決定における迷いの程度」を反映する変数と再解 釈したことになる。

上記の

3

変数を用いて,平均反応時間を予想する回帰式を構成すると

平均反応時間= −0.47−3.46×(単一ストロークの比率)+0.076×(質問を構成する文字数)

+1.66×平均

CV

となり,R=0.95であり相当な説明力があるのが明らかになった。予想された平均反応時間を図

6

に示す。図

6

は図

2

の全曲線パターンを回帰分析で予測した結果であり,両者は類似しているとい えよう。

3.2 考察

以上より,ストローク数は

CV

には反応時間を予測する能力があり,また心的迷いを予測する能 力があると言えるであろう。この傾向が図

1

以外のフォーマットでも成立するかが今後の課題とな ろう。

4 研究 2

4.1 目的

本研究では,反応カテゴリーの順番を変えた場合にもストロークの発生頻度と軌跡変動指数

(CV)が,反応時間のパターンを説明できるかどうかを記述統計学的に調べる。実験では,複雑な 認知プロセスが存在しないと考えられる,単純にカテゴリーのクリックを行う課題が用いられた。

Dotan & Dehaene(2013, 2016)も同様のパラダイムを用いている。

(11)

4.2 実験条件・被験者・手続き

1

右における反応カテゴリーが「12345」と配置された条件(順行条件),「54321」と配置され た条件(逆行条件),および「24153」,「35214」と配置されたもの(それぞれ

Scrambled

1

条件,

2

条件)の

4

条件で被験者内変数であった。被験者は大学生

37

人。

実験は被験者ペースで行われた。被験者が図

1

右のフォームの中心に置かれた「スタート」ボタ ンをクリックすると,ボタンが消去され,フォームの中央の表示ボックスに

1

から

5

までの数字が ランダムに提示され,被験者は,「提示されたのと同じ」カテゴリーボタンをクリックするように 求められ,最初と最後のクリック間のカーソル軌跡と時間が記録された。試行は各条件とも各数字

図6  回帰分析で予想された平均反応時間。

図2と対照されるべき図である。

(12)

5

回ずつ,計

25

回であった。被験者は

4

条件とも参加した。

4.3 結果

条件ごとの平均反応時間を図

7

に示す。単純にクリックを求める実験なので,過去の実験と同様

V

字型の反応パターンになっている。Scrambled(まぜこぜ)条件の反応時間が長く,順行,逆行 条件間には特に差がない。本実験での

SNARC

効果はあるとしても小さいと思われる。

接線速度曲線(図

3

に一例を挙げた)からストローク数をカウントした(Shiina, 2011)。ストロー ク数は

1

から

4

までのものがほとんどであった。平均反応時間をストローク数と

CV

で予測する重 回帰式は

平均反応時間= −.021×ストローク数

1

の頻度

−.023×ストローク数

2

の頻度−.017×ストローク数

3

の頻度

−.018×ストローク数

4

の頻度+.70×平均

CV+4.022

であり,重相関係数が

0.94

となって相当な説明力があることが明らかになった。

5 まとめと展望

以上よりストロークの発生頻度と軌跡変動指数(CV)が重要な変数であることが確認できたと 言えよう。今後は他の反応フォーマットでの挙動,他の変数との関係を調べる必要があるだろう。

椎名の一連の研究はウェブ調査の基礎研究を直接目論んだものではなかったが,結果として カーソルの移動軌跡という所謂「パラデータ」(Couper,

2017; 松本,2017; 大隅・林・矢口・簑原,

2017)の性質を詳しく調べる実験的研究となっている。この 10

年ほどの間に,ウェブ調査やウェ

図7 各条件,各カテゴリーごとの平均反応時間。

(13)

ブ実験が急激に普及したのは周知のとおりである。カーソル軌跡に注目した心理学や

HCI

の研究 は,これからはネット調査・ネット実験の基礎研究としての意味づけが重要なってくるだろうと予 想できる。

付記

本研究は科研費(16H02050)の援助を受けた。

[参考文献]

Akrami, N., Hedlund, L., & Ekehammar, B. (2007). Personality scale response latencies as self-schema indicators: The inverted-U effect revisited. Personality and Individual Differences, 43, 611-618.

Baccino, T. (1994). Contrôle d’un pointage avec souris informatique et codage spatial. Année Psychologique. 94, 11-24.

Baccino, T., & Kennedy, A. (1995). MICELAB: Spatial processing of mouse movement in Turbo Pascal. Behavior Research Methods, Instruments, & Computers, 27, 76-82.

Bardini, T. (2000). Bootstrapping: Douglas Engelbart, coevolution, and the origins of personal computing. Stanford University Press.

Brown, S. D., Marley, A. A. J., Donkin, C., & Heathcote, A. (2008). An integrated model of choices and response times in absolute identification. Psychological Review, 115, 396-425.

Chen, Y., Hoffmann, E. R., & Goonetilleke, R. S. (2015). Structure of hand/mouse movements. IEEE Trans. Human- Machine Systems, 45(6), 790-798.

Couper, M. P. (2017). Birth and diffusion of the concept of paradata.パラデータ概念の誕生と普及.松本 渉(訳),社会と 調査,18,14-26.

Dehaene, S., Bossini, S., & Giraux, P. (1993). The mental representation of parity and number magnitude. Journal of Experimental Psychology: General, 122, 371-396.

Dotan, D., & Dehaene, S. (2013). How do we convert a number into a finger trajectory ? Cognition, 129(3), 512-529.

Dotan, D., & Dehaene, S. (2016). On the origins of logarithmic number-to-position mapping. Psychological Review, 123(6), 637-666.

Elliott, D., Helsen, W. F., & Chua, R. (2001). A century later: Woodworth’s (1899) two-component model of goal-directed aiming. Psychological Bulletin, 127, 342-357.

Fitts, P. M. (1954). The information capacity of the human motor system in controlling the amplitude of movement. Journal of Experimental Psychology, 47, 381-391.

Freeman, J. B. (2018). Doing psychological science by hand. Current Directions in Psychological Science, 27(5), 315-323.

Freeman, J. B., & Ambady, N. (2010). MouseTracker: Software for studying real-time mental processing using a computer mouse-tracking method. Behavior Research Methods, 42, 226-241.

Freeman, J. B., Ambady, N., Rule, N. O., & Johnson, K. L. (2008). Will a category cue attract you? Motor output reveals dynamic competition across person construal. Journal of Experimental Psychology: General, 137(4), 673-690.

Freeman, J. B., Dale, R., & Farmer, T. A. (2011). Hand in motion reveals mind in motion. Frontiers in Psychology, 2, Article 59.

Freeman, J. B., Pauker, K., Apfelbaum, E. P., & Ambady, N. (2010). Continuous dynamics in the real-time perception of race.

Journal of Experimental Social Psychology, 46(1), 179-185.

Gallivan, J. P., Chapman, C. S., Wolpert, D. M., & Flanagan, J. R. (2018). Decision-making in sensorimotor control. Nature Reviews Neuroscience, 1.

Hehman, E., Stolier, R. M., & Freeman, J. B. (2015). Advanced mouse-tracking analytic techniques for enhancing psychological science. Group Processes & Intergroup Relations, 18(3), 384-401.

(14)

Hwang, F., Keates, S., Langdon, P., & Clarkson, J. (2005). A submovement analysis of cursor trajectories. Behaviour &

Information Technology, 24(3), 205-217.

Jagacinski, R. J., Repperger, D. W., Moran, M. S., Ward, S. L., & Glass, B. (1980). Fitts’ law and the microstructure of rapid discrete movements. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 6(2), 309-320.

川人光男(1996).脳の計算理論 産業図書

Kieslich, P. J., & Henninger, F. (2017). Mousetrap: An integrated, open-source mouse-tracking package. Behavior Research Methods, 49, 1652-1667.

Kuiper, N. A. (1981). Convergent evidence for the self as a prototype: the “inverted-U RT effect” for self and other judgments. Personality and Social Psychology Bulletin, 7, 438-443.

Lin, R. F., & Tsai, Y. C. (2015). The use of ballistic movement as an additional method to assess performance of computer mice. International Journal of Industrial Ergonomics, 45, 71-81.

MacKenzie, I. S. (1992). Fitts’ law as a research and design tool in human-computer interaction. Human-Computer Interaction, 7, 91-139.

MacKenzie, I. S., Kauppinen, T., & Silfverberg, M. (2001, March). Accuracy measures for evaluating computer pointing devices. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (pp. 9-16). ACM.

松本 渉(2017).データ取得プロセスの分析から調査を改善する.社会と調査,18,5-13.

Mignault, A., Marley, A. A. J., & Chaudhuri, A. (2008). Inverted-U effects generalize to the judgment of subjective properties of faces. Perception & Psychophysics, 70(7), 1274-1288.

Morasso, P. (1981). Spatial control of arm movements. Experimental Brain Research, 42(2), 223-227.

大隅 昇・林 文・矢口博之・簑原勝史(2017).ウェブ調査におけるパラデータの有効利用と今後の課題.社会と調 査,18,50-61.

Phillips, J. G., & Triggs, T. J. (2001). Characteristics of cursor trajectories controlled by the computer mouse. Ergonomics, 44(5), 527-536.

Shiina, K.(2011). Tracing the process of rating decisions through cursor movements. Proceedings of the 33rd Annual Conference of the Cognitive Science Society.

http://csjarchive.cogsci.rpi.edu/Proceedings/2011/papers/0154/paper0154.pdf 椎名乾平(2012).評定尺度法とカーソル運動.知能と情報,24,858-870.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoft/24/4/24_858/_article/-char/ja/

Shiina, K. (2014). Inverted-U and inverted-J effects in self-referenced Decisions. Proceedings of the 36th Annual Conference of the Cognitive Science Society.

https://mindmodeling.org/cogsci2014/papers/504/paper504.pdf

Song, J. H., & Nakayama, K. (2009). Hidden cognitive states revealed in choice reaching tasks. Trends in Cognitive Sciences, 13, 360-366.

Spivey, M. J., & Dale, R. (2006). Continuous dynamics in real-time cognition. Current Directions in Psychological Science, 15, 207-211.

Spivey, M. J., Grosjean, M., & Knoblich, G. (2005). Continuous attraction toward phonological competitors. Proceedings of the National Academy of Sciences, 102(29), 10393-10398.

Todorov, E., & Jordan, M. I. (2002). Optimal feedback control as a theory of motor coordination. Nature Neuroscience, 5(11), 1226-1235.

宇野洋二(2014).ヒトの動作の最適化モデル.日本ロボット学会誌,32,525-529.

van der Wel, R. P. R. D., Eder, J., Mitchel, A., Walsh, M., & Rosenbaum, D. (2009). Trajectories emerging from discrete versus continuous processing models in phonological competitor tasks: A commentary on Spivey, Grosjean, and Knoblich (2005). Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 35, 588-594.

Walker, N., Meyer, D. E., & Smelcer, J. B. (1993). Spatial and temporal characteristics of rapid cursor-positioning movements with electromechanical mice in human-computer interaction. Human Factors, 35(3), 431-458.

Walker, N., Philbin, D. A., & Fisk, A. D. (1997). Age-related differences in movement control: Adjusting submovement structure to optimize performance. The Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences,

(15)

52(1), 40-53.

Wispinski, N. J., Gallivan, J. P., & Chapman, C. S. (2018). Models, movements, and minds: bridging the gap between decision making and action. Annals of the New York Academy of Sciences.

Wolpert, D. M., & Landy, M. S. (2012). Motor control is decision-making. Current Opinion in Neurobiology, 22(6), 996-1003.

Woodworth, R. S. (1899). Accuracy of voluntary movement. The Psychological Review: Monograph Supplements, 3(3), i.

Table 1 Summary of 16 Tasks
図 1 左における回答カテゴリーに左から 1,2,3,4,5 の番号を割り当てることにする。「性格 の自己評定」や「社会的態度」といった主観的判断課題では,逆 U 字型や逆 J 字型 RT 効果が生起 する。すなわち,反応時間は 3 が 1 より長く,5 は 1 や 3 より短い傾向がある。逆 U 字型効果は 様々な文脈で観察されている(Kuiper, 1981; Akrami, Hedlund, & Ekehammar, 2007; Brown, Marley,  Donkin, & He

参照

関連したドキュメント

3月6日, 認知科学研究グループが主催す るシンポジウム「今こそ基礎心理学:視覚 を中心とした情報処理研究の最前線」を 開催しました。同志社大学の竹島康博助 教,

本研究の目的は,外部から供給されるNaCIがアルカリシリカ反応によるモルタルの

を軌道にのせることができた。最後の2年間 では,本学が他大学に比して遅々としていた

地域の中小企業のニーズに適合した研究が行われていな い,などであった。これに対し学内パネラーから, 「地元

機械物理研究室では,光などの自然現象を 活用した高速・知的情報処理の創成を目指 した研究に取り組んでいます。応用物理学 会の「光

究機関で関係者の予想を遙かに上回るスピー ドで各大学で評価が行われ,それなりの成果

シークエンシング技術の飛躍的な進歩により、全ゲノムシークエンスを決定す る研究が盛んに行われるようになったが、その研究から

「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー