職業の継続に必要な動産の差押禁止
その他のタイトル Pfandungsverbot der zur Fortsetzung der
Erwerbstatigkeit unentbehrlichen Gegenstande
著者 栗田 隆
雑誌名 關西大學法學論集
巻 45
号 6
ページ 1393‑1427
発行年 1996‑02‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00024570
職業
の継
続に
必要
な動
産の
差押
禁止
一定範囲の動産が差押禁止財産とされている︒本稿で取り上げるのは︑そ
の内で︑個人的生業維持に必要なものとして差押えが禁止されている一三一条四号・五号・六号所定の動産である︒
差押禁止財産は︑債務者が破産した場合でも︑自由財産として債務者に留保されるのが原則であるが︑︵破産法六条
二項︶四号の動産︵農業維持に必要な動産︶及び五号の動産︵漁業維持に必要な動産︶は︑例外的に破産財団を構成
するものとされている︵破産法六条二項但書︶︒他方︑六号の動産︵その他の職業上必要な動産︶は︑原則通り債務
者の自由財産となる︒
ところで︑内科開業医のレントゲン撮影機は民執法六号の動産にあたるとするのが︑多数説になりつつあると言っ
てよい︒これを前提にすると︑レントゲン撮影機は債務者の破産の場合でも債務者の自由財産となる︒しかし︑それ 民事執行法では︑種々の配慮に基づき︑ ︹
論説
︺
は じ め に
栗
職業の継続に必要な動産の差押禁止
田
︵一
三九
三︶
隆
ため不可欠な器具及び薬品︵七号︶︒そして︑同条二項は︑一定範囲の差押禁止動産につき︑債務者の同意がある場 旧民事訴訟法の制定 では︑農業・漁業を営む者とのバランスを失するのではなかろうか︒
︵一
三九
四︶
こうした疑問を出発点にして︑これまでの判例を振り返りながら︑職業継続に必要な動産を差押禁止にすることの
根拠を検討し︑高額な動産が差押禁止財産にあたるとされた場合に︑債権者の利益との調整をどのようにはかるべき
なお︑実印は︑職業生活上も必要なものであるが︑それのみならず︑その他の社会生活上も必要なものであり︑こ
れを差押禁止財産とすることには問題がないので︑以下ではこれには言及しないこととする︒
法 律 と 判 例
最初に︑職業維持に必要な動産の差押禁止規定と判例を年代順に見ていこう︒
現行民事執行法の前身である明治二三年制定の旧民事訴訟法︵第六編︶は︑債務者の職業継続を可能にするために︑
五七
0条一項において次のものを差押禁止動産としていた︒
( a )
技術者︑職エ︑労役者及び隠婆について︑その営業
に不可欠の物︵三号︶0︵P )
農業者について︑農業に不可欠な農具︑家畜︑肥料︑および次の収穫まで農業を続行す
るために不可欠な農産物︵四号︶0︵
y )
文武の官吏︑神職︑僧侶︑公立私立の教育場教師︑弁護士︑公証人及び医師
について︑その職業を執行するために不可欠な物ならびに身分相当の衣服︵五号︶0︵8
)薬舗について︑調薬をなす かを検討することが︑本稿の課題である︒
関 法 第 四 五 巻 第 六 号
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合には差押可能であるとしていたが︑これらの職業維持に必要な動産はこれから除外されていた︒
こうした規定は︑どのようにしてできていったのであろうか︒旧民訴法はテッヒョーがドイツ語で書いた原案に由
( l)
︵2
)
来するが︑それに手を加えた委員修正民事訴訟規則では︑六九三条において︑債務者の職業維持のために次のものが
差押禁止動産とされていた︒
( a )
文武の官職に必要な物品︵一号︶︒︵B︶﹁職業又は学芸に必要の物品︒但し其物品
( 4)
は本人の選択に任すと雖も其代価の総額五0円を過ることを得ず﹂︵六号︶︒これは︑原案の主意に従い日本の事情に
( 5)
適応すべく︑かつ独仏両国訴訟法を参酌して修正したものであるとされており︑前記
( B )
の金額制限は︑フランス民
( 6)
事訴訟法五九二条に由来するものであろう︒
その後の民事訴訟法草案六五九条は︑旧民事訴訟法に近い規定になっていたが︑職業維持に必要な差押禁止動産に 関しては︑委員修正民事訴訟規則と同じであった︵八号︑九号︶︒明治ニ︱年七月二三日の民事訴訟法草案議案三八
( 8)
︵9
)
号では︑差押禁止動産は五六0
条において規定され︑また︑内容も修正され︑旧民訴法の規定と同一のものとなった︒
修正の理由は︑次のように述べられている︒﹁第二号までは原文のまま︒第三号より第七号までを本文の如く修正し たるは︑是等のものは総て差押ふべからざるものと思考すればなり︒而して順序を改めたるは︑第三号より第八号に
( 10 )
︵1 1 )
至る事項は公益に関するものなる故︑独法に倣いここに纏めたり﹂︒
こうした変遷を経て旧民事訴訟法の差押禁止規定ができあがったが︑委員修正民事訴訟規則にあった︑職業上必要 な動産の差押禁止の金額による制限が採用されなかった点が注目される︒次に︑旧民訴法の下での公表先例と破産法
の関連規定を見てみよう︒
︵ニ
ニ九
五︶
︹3︺ 物﹂にはあたらないと判示した︒ ︹2︺ 長崎区判裁判年月日不詳法律新聞六九八号二五頁︵明治四四年二月︶は︑債務者所有の漁網が仮差押えされ︑
債務者が旧民訴法五七0条一項三号違反等を理由に損害賠償を請求した事案である︒この損害賠償請求は︑他の理由
により一部認容されたが︑裁判所は次のように判示して︑仮差押えされた漁網は差押禁止財産に当たらないとした︒
﹁同条に所謂労役者とは主として労務に服し糊口を凌ぐ者を指し︑此等の者の営業上鋏く可らざる品物は公益上差押
を禁ずる趣旨にして﹂︑本件で仮差押えされた網は高価なものであり︑﹁原告は此く高価なる数種の網を所有し︑且此
等網を使用し漁業をするには多数の人夫をも使役せざる可らざるは当然にして︑単に労務に服し︑其日の糊口を凌ぐ
所謂労役者と認むるを得ざる﹂︒
大正︱一年に現行破産法が制定され︑六条三項において︑差押禁止財産は破産財団に属さない自由財産とされたが︑
( 1 2 )
旧民訴法五七0条四号・七号の動産は自由財産に含まれないとされた︒ ︹1︺
横浜地決昭和三年︱二月︱二日法律新報ニ︱七号二八頁は︑開業医のレントゲン機器の差押えが拒否された
のに対し︑債権者が異議を申し立てた事件である︒裁判所は︑民訴法五七0条一項三号にいう﹁技術者とは技芸又は
技術を営業とし︑若くは教授する者を指称するものと解すべく︑病者の診療を業とする開業医の如きは技術者に非ざ
る﹂とし︑また︑レントゲン機器は民訴法五七0条一項五号にいう医師が﹁其職業を執行するため欠く可からざる
大決昭和五年四月一六日民集九巻六号三九二頁の事件では︑結核患者を治療することを目的として設立され
た株式会社の治療業務に必要な電気暖房器が差し押さえられた︒裁判所は次のように判示して︑この差押えは差押禁 2旧民訴法下での先例と法令 関法第四五巻第六号
四
︵ニ
ニ九
六︶
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五
止規定に反しないとした︒﹁民事訴訟法第五七0条第一項第五号に於て医師其の他同号所掲の者に就き︑其の職業を
執行する為め鋏くべからざる物並身分相当の衣服は之を差押ふることを得ざる旨規定せるは︑是等の職業を執る者に
付ては仮令強制執行を受くるも生活資料を得る途を吐絶せしめず︑職業を継続せしむるを以て社会政策上当を得たる
ものと認めたるに由るものとす︒従てここに医師とは現に診療に従事し生計を営む自然人を専ら指称し︑医師を招聘
して患者を治療することを目的として設立せる法人自体の如きは︑右規定に所謂医師に該当せざるは勿論﹂︑類推適
大決昭和八年二月一0日民集二︳巻二0九頁は︑シビ縄やハエ縄等の漁具を所有し一人乗りの伝馬船を賃借
して漁業を営んでいる債務者の漁具が差し押さえられた事件である︒原審は︑次のように判示して︑この差押えを適
法とした︒民訴法五七0条一項三号において﹁労役者其の他同号所掲の者に就き其の営業上訣く可からざる物は之を
差押ふることを得ざる旨規定せるは︑是等の営業に従事する者に付ては仮令強制執行を受くるも其の営業を継続せし
むるを以て社会政策上当を得たるものと認めたるに因るものに外ならずして︑是等の者の生活の保障と謂ふが如き単
︹中略︺明白なりとす︒従てここに労役者とは︑他人に雇用せられ
て労役に服する者を指称し︑抗告人の如く他人に雇用せらるることなく漁業を営む者は右規定に所謂労役者に該当せ
ざるは勿論﹂︑類推適用の必要もない︒これに対して大審院は︑次のように判示して︑この差押えを違法とした︒﹁民
事訴訟法第五七0条第一項第三号に所謂労役者とは︑債務者の業態を経済上より観察して債務者自身の労役が其の業
務上の所得の主要なる原因を為す場合を指称し︑其の労役の肉体的なると精神的なると他人に隷属して之を為せると
独立して之を為せると又主たる業務なると副業に過ぎざるとは一切之を問わざるものにして︑従って他人の労役を利 純なる主観的問題に着眼したるものに非ざること ︹4︺ 用すべきでもない︒
︵ ︱ ‑ ︱
‑ 九 七 ︶
︹5︺
昭和
一
0年には︑経済恐慌による債務者︵特に農民︶ 用し又は物的手段を有することが右所得の経済上の主要なる原因を為すが如き場合を除外せる趣旨なりとす﹂︒
( 1 3 )
の疲弊の救済のために︑旧民訴法五七0条が改正されたが︑
本稿に関係があるのは︑差押禁止財産の範囲を執行裁判所の裁判により拡張することを認める五七0条の二が追加さ
れたことである︒
︵一
三九
八︶
大判昭和︱一年︱二月二四日民集一五巻ニニ八八頁は︑活版印刷職工の営業用印刷機械が差し押さえられ︑
それは違法執行であるとして損害賠償が請求された事件である︒原審は債務者を﹁電力に依り運転する活版印刷機一
式を自ら所有し注文に応じ印刷を請負﹂う一個の印刷所の主人であると評価した上で︑次のように判示して︑右差押
えは適法であるとした︒民訴法五七0条一項三号の規定の趣旨は﹁債務者が自身の労作のみに頼り若は主として自身
の労作に依りて労務に従事し生計を立つる場合に於ては概して収入少く︑其の営業上鋏く可からざる物の価格も亦高
価ならざるに︑之を差押へんか債務者は其の職業を継続すること能はず︑生活資料を得るの途を杜絶せらるべきを以
て︑斯かる場合に於ては債務者の営業上訣く可からざる物は之を差押ふることを禁ずるを以て社会政策上当を得たる
ものと為すに在る﹂から︑本件差押物は差押禁止財産に当たらない︒これに対して︑大審院は︑五七0条一項三号の
差押禁止規定の趣旨については原判決と同趣旨を説示した上で︑次のように判示した︒﹁労力を主とする性質の営業
に従事する者に在りては︑仮令其の営業に若干の機械器具其の他の物件を要する場合と雖︑右条項に所謂技術者職工
若くは労務者たるを妨けざるものと解すべく︑反之営業用の物件の利用が主にして之に要する営業者の労力は寧ろ従
たる関係に在るが如き性質の営業に従事する者は︑前記の技術者職工労務者の何れにも該当せず︒従て右営業用の物
件は之が差押を為し得るものと解するを相当とす﹂るが︑原審認定の事実では︑債務者が﹁労力を主とする営業の経 関法第四五巻第六号六
︹9︺ ︹8︺
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らないとした︒
七
営者﹂であるか︑﹁物件を主とする営業の経営者﹂であるか判然とせず︑審理不尽であるので差し戻す︒
石巻区決昭和一四年︱一月七日法律新聞四四九二号一四頁は︑農業を営む債務者の所有する牡馬が仮差押え
された事件である︒裁判所は︑債務者が馬を使用して水田を耕作し︑副業として荷馬車挽きを営んでいることを認定
の上︑本件馬匹は債務者の農業に不可欠のものであり︑差押禁止財産にあたるとした︒
( 1 4 )
仙台高決昭和二七年六月六日下民集三巻六号七八九頁は︑病院を経営する債務者の占有する医療器具の差押
えが執行吏により拒絶されたことに対し︑債権者が異議ならびに抗告を申し立てた事件である︒抗告審は︑次のよう
に判ホした︒民訴法五七0条一項五号の規定は︑医師等同号所定の職業に従事している者の仕事は﹁公共の福祉に影
響するところ大であるから︑たとえその債務のため強制執行を受ける場合にも継続してその職業の執行に従事せしめ
ることが社会政策上必要であるとの見地に出たものと解すべきである︒従ってここにいう医師とは︑現に診療に従事
している者を指称するのであって︑本件債務者のように自らは診療に従事することなく医師を雇入れて診療に従事せ
しめている所謂病院経営者のごときは同条の医師に該当しないし︑また同条を類推適用すべきものでない﹂︒ ︹7︺ ︹6︺
高松高決昭和三五年九月一四日下民集︱一巻九号一八九七頁は︑脱穀機︑籾摺機各一台が差し押さえられた
事件である︒裁判所は︑右各差押物件は民事訴訟法五七0条一項四号にいう﹁農業上欠ク可カラサル農具﹂にはあた
東京高決昭和三六年二月一四日下民集︱二巻二号二八四頁は︑土木建築業を営む債務者のミキサー及び発動
機が差し押さえられた事件において︑これらの物は債務者﹁及びその家族の労役によって営んでいる土木建築事業の
ため欠くことのできない物件である﹂として︑民訴法五七0条一項三号所定の差押禁止物件に該当するとした︒
︵ ︱ ‑ ︱
‑ 九 九 ︶
押禁止財産にあたるとされた︒ ︹
1 2
︺ ︹
1 1
︺ たるとは言えないとした︒
︵一
四0
0)
鳥取地決昭和四二年五月二五日判タニ︱六号二三七頁は︑農業と保険外交員を営む債務者の耕運機ならびに
自動脱穀機が差し押さえられた事件である︒裁判所は︑債務者の農業経営の規模︑態様と右物件の用途・使用期間等
を考慮して︑耕運機はほとんど一年中耕作や肥料・農産物の運搬のために使用されているから差押禁止物件であると
したが︑他方︑脱穀機は秋に五日間ほど︑春に数日使用される程度であるから︑農業に欠くことのできない農具に当
東京高決昭和四六年五月一八日下民集二二巻五・六号六一九頁は︑自動車修理業に必要な動産が仮差押えさ
れた事件のようである︒原審が︑債務者の申立てに基づき民訴法五七0条一項三号の差押禁止財産に当たるとして仮
差押執行を不許としたのに対し︑債権者が即時抗告し︑債務者はもともと運転手であり︑自動車修理の技術者や職工
でもなく自動車修理に関しては専ら他人を雇い入れて営業を営んでいた企業主であると主張した︒裁判所は︑﹁自己
の労力を主とする性質の営業に従事する者は︑その営業に若干の機械器具その他の物件を必要とする場合であっても︑
民事訴訟法第五七0条第一項第三号にいう技術者・職エ・労役者に該当すると解すべきであるが︑これに反し︑営業
用機械器具等の利用を主とし自己の労力は従たる関係にあるような性質の営業に従事する者は︑前記の技術者等のい
ずれにも該当しないと解するのが相当である﹂と判示し︑債務者がいずれに該当するかは明白でないとして︑原決定
を取り消して︑事件を差し戻した︒
山口地︵宇部支︶決昭和五五年二月一八日執行官雑誌︱二号七四頁では︑自己所有の山林等を宅地に造成し︑
これを売却して得た収入によって生計を立てている債務者が宅地造成業に使用しているプルドーザー一台が一二号の差 ︹
1 0
︺ 関法第四五巻第六号
八
3
︹1 5
︺ ︹
1 4
︺
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東京地決昭和五五年七月二八日執行官雑誌︱二号七五頁では︑著述業を営む者は三号の技術者に含まれ︑こ
の者が日常使用している両袖机は差押禁止財産にあたるとされた︒
民事執行法の制定とその後の先例
九
昭和五五年一0月からは民事執行法が施行されたが︑その一三一条において︑職業維持に必要な動産は︑
( a )
農業
用動
産︑
( P )
漁業用動産︑および
( y )
その他の職業のための動産とに分類されて差押禁止財産とされた︒これにあわ
せて破産法六条三項も改正され︑民執法一三一条四号・五号の動産は破産財団から除外されないものとされた︒法案
の作成にあたっては︑旧民訴法のような特定の職業にある者のみを保護するような規定は︑私権の実現に関する一般
法たる民事執行法にふさわしくなく︑すべての職種について平等な差押禁止規定を設けるべきであるとの方針の基に︑
旧民訴法五七0条一項三号と五号とを統合する形で︑民執法一三一条六号が置かれた︒また︑漁業を農業と平等に扱
( 1 5 )
うために︑五号の規定が置かれた︒ ︹
1 3
︺
( 1 6 )
東京地︵八王子支︶決昭和五五年︱二月五日判時九九九号八六頁は︑開業医︵内科・小児科︶
れた
年の
一
0月だけでも九回使用されていること等を認定して︑差押禁止財産に当たると判断した︒ のレントゲン
撮影機が差し押さえられ︑債務者が民事執行法一三一条六号の差押禁止動産に当たるとして執行異議を申し立てた事
件である︒裁判所は︑開業医から勤務医への転職の可能性については特に言及することなく︑個人開業医が﹁技術者
その他主として自己の知的な労働により職業に従事する者﹂に該当すると判断し︑レントゲン撮影機が差し押さえら
山口地︵徳山支︶決昭和五七年五月ニ︱日民事執行関係裁判例要旨集二三三頁は︑妻子を補助者としてタイ
︵一
四0
1)
︹1 7
︺ ︹
1 6
︺ ヤ修理販売業を営む債務者について︑洗車機︑タイヤ交換機︑ジャッキ︑
む債務者の農機具製造に必要な機械︵プレス︑研磨機︑
︵一
四
0
二 ︶
コンプレッサー︑溶接機が差し押さえられ
た事件であり︑裁判所は民執法一三一条六号の差押禁止動産にあたるとした︒
新潟地︵三条支︶決昭和五七年一0月二三日民事執行関係裁判例要旨集二三三頁は︑園芸農機具製造業を営
コンプレッサー︑ボール機︑グラインダー等︶が差し押さえ
られた事件である︒裁判所は︑︿民事執行法一三一条六号は︑自己の知的または肉体的な労力を主とする性質の職業
又は営業に従事する者の保護規定であり︑営業用機械器具等の利用を主として自己の労力は従たる関係にあるような
性質の営業に従事する場合はこれを除外する趣旨である﹀との一般論を前提にして︑債務者が従前は従業員を一0名
ほど使用しており︑現在は規模を縮小したとはいえ従業貝一名及び妻を使用して営業していること︑差し押さえられ
た機械の使用に特別高度な専門的知識・労力を要するものではないことを認定の上︑六号の適用はないとした︒
東京簡判昭和六二年六月一六日執行官雑誌一九号二四頁は︑学生寮に勤務する債務者が主として賄用食料品
( 17 )
等の購入・運搬に使用し︑その合間に古紙回収業務に使用している軽自動車が差し押さえられたのに対し︑債務者が
差押禁止財産にあたること等を理由に国家賠償を請求した事件である︒裁判所は︑請求を棄却するにあたって︑次の
ように判示した︒﹁民事執行法ニニ一条六号の趣旨は︑技術者︑職人︑労務者その他主として自己の知的又は肉体的
労働により職業又は営業に従事する者の生活保持手段はまさにその者の身についた特殊の技能︑知識︑資格あるいは
労働力であるから︑これらの能力を発揮するのに必要不可欠の物に限って差押えを禁止するものであると解するのが
相当である︒そして︑債務者の業務に有用な動産すべてが同号所定の差押禁止動産に該当するわけではなく︑これに
該当するとされるためには︑当該動産が︑それなしには債務者において自己の知的又は肉体的な能力を発揮できなく
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10
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禁止
執行官実務協議会の協議結果
次に︑執行官実務協議会の協議結果をみると︑次のものが一三一条六号にあたるとされている︒①芸妓の座敷用衣
( 1 8 )
︵1 9 )
︵2 0 )
服︒②大工が使用しているミゾ掘機︑電気カンナ等の機械︒③鮮魚小売業者の陳列ケース︒
( 2 1 )
他方︑貸衣裳屋の貸衣裳は︑物的設備を利用する営業であるとの理由により︑差押禁止財産にあたらないとされた︒
民執法一三一条四号から六号の規定の趣旨が︑個人的生業の維持に必須の動産が差し押さえられることにより債務
( 2 2 )
者が将来に亘って収入源を断たれることがないようにする点にあることについては︑文献上の争いはない︒問題は︑
個人的生業の範囲をどのように考えるかであり︑開業医のレントゲン撮影機を差押禁止財産とした先例︹
1 4 ︺
の当
否を
めぐって︑差押禁止肯定説と否定説とが対立している︒
( 23 )
肯定説は次のように説く︒
( a )
病院勤務医と個人開業医とはそれぞれ医師としての固有の業務であり︑各形態にお
いて社会的職能を発揮させるのが執行法上の政策として合理的であり︑そこには債務者の生活保障を一歩超えた保護
法益があると認めるべきである︒
( B )
差押禁止範囲を広く解しても︑個別事情を考慮して調整することは︑
により可能である︒
( r )
誠実な債務者がその職業を継続することができれば︑破産を避けつつ債務の弁済を継続的に
( 2 4 )
行ない︑その結果債権者がより高い満足を得ることもできよう︒
( 8
) 今後の方向としては︑器具・機械の進歩に伴い 4
文
献
なるようなものでなければならないのである﹂︒
︵一
四
O l l i
)
︱ ︱
‑ =
一 条
四
︵ 一
四
0
四 ︶
ますます高度の技術がその業務につき必須となれば︑その技術を支える器具・機械も︑ますますま広く差押禁止範囲
( 2 5 )
に取り込まざるをえないであろう︒
( 2 6 )
これに対して︑否定説は︑次のように説く︒
( a )
医師は︑開業医として保護されるのではなく︑彼には勤務医の道
も残されており︑勤務医をなす場合にも必要な器具が差押禁止財産になるにすぎない︒
( P )
そうでないと︑他の職業︑
特にサラリーマン︑あるいは執行法上の動産でないがために差押禁止財産となりえない自動車を使用する個人タク
( 2 7 )
シー運転手とのバランスがとれない︒
ドイツ語圏の法
問 題 の 検 討
( 2 8 )
問題の検討に入る前に︑ドイツ語圏の法︵ドイツ︑オーストリー︑スイスの法︶を簡単に見ておこう︒
( 2 9 )
ドイ
ツ法
では
︑
NPo八︱一条により動産の差押禁止が定められているが︑そのうちで職業維持に役立つと思われ
( 3 0 )
るものをやや広めに取り上げると︑次のようになる︒
( a )
限られた数の小動物︑並びに︑乳牛一頭または債務者の選
( 3 1 )
択に従いこれに代えて合計二頭のプタ︑山羊若しくは羊︵三号︶0︵
P ) 農業を営む者について︑必要な肥料を含めて
農業経営のために必要な農具及び家畜︑並びに︑債務者︑その家族及びその労務者に対する扶養を確保するために又
は同一若しくは類似の農産物の次期の収穫に至るまで農業を継続するために必要な農産物︵四号︶0︵
y)
肉体的若し
くは精神的な労働又はその他の人的給付に基づいて生計を立てる者については︑この生業を続けるために必要な物
︵五
号︶
0︵
8)
第五号に掲げる者の寡婦及び未成年の相続人については︑この者が自己の計算において代理人により 関法第四五巻第六号
職業
の継
続に
必要
な動
産の
差押
禁止
生業を継続する場合に︑その生業を継続するために必要な物︵六号︶0︵
e)
債務者の使用に供する職務上の衣服及ぴ
職務上の装備品︑並びに︑公務員︑聖職者︑弁護士︑公証人︑医師及び助産婦については︑職務を行なうのに必要な
物及ぴ相当の衣服︵七号︶0︵t )
薬局の経営に不可欠な器具︑容器及び商品︵九号︶︒
( 32 )
︵3 3 )
オーストリー法では︑職業上必要な動産のうち差押禁止財産となっているのは︑おおむね次の物である︒
( a )
乳牛
一頭または︑債務者の選択により︑山羊二頭もしくは羊二頭およびその飼料︵三号︶0︵
P ) 官吏︑聖職者︑教師︑弁
護士︑公証人︑医師及び芸術家ならびにその他の知的職業に自ら
(p er so nl ic h)
従事しまたは修業している者につい
て︑その職務の執行・修業に必要なものおよび身分相当の衣服︵五号︶0︵
r ) 手工業者︑小規模営業主︑職人︑工場
労働者︑もしくはその他の手仕事により収入を得る者又は助産婦については︑職業を自ら継続するのに必要な物︑な
らびに︑債務者が選択する最高五000シリングまでの加工用原材料︵六号︶0︵8
)薬局の経営のために不可欠な器
具︑容器および商品在庫︵九号︶︒
( 3 4 )
スイス法では︑おおむね次のものである︒
( a )
道具︑装置︑器具および書物︒但し︑それらが債務者およびその家
族にとってその職業を行なうために必要な場合︑または︑売得金から費用を控除した剰余がわずかであるために︑取
( 3 5 )
上げることが妥当でないと直ちに認められる場合に限る︵三号︶︒なお︑この中には農業に必要な動産︵収穫機︶な
( 3 6 )
ども含まれる︒
( P )
債務者の選択に従い︑乳牛二頭もしくは肉牛二頭︑または山羊四頭もしくは羊四頭および小動物
ならびにその飼料︵四号︶0︵
y )
軍人の制服︑装備品︑武器︑役馬および給料︵六号︶︒
( 3 7 )
破産の局面を見ると︑差押禁止動産が破産財団に含まれないという原則の点では三国とも同じである︒しかし︑ド
イツ破産法一条二項が農業に必要な動産および薬局の備品をその例外とし︑また︑オーストリー破産法でも︑明文の
︵一
四
0五 ︶
するところであると考えたい 債務者は︑債務の弁済のためにすべての財産を用いなければならないのが原則であるが︑それでも彼は社会の一員であり︑社会の一員として必要な日用品は彼に留保されなければならない︒のみならず︑彼に労働能力がある限り︑
( 4 2 )
労働収入を得て自立的に生活していくべきであり︑憲法二七条一項は︑勤労を国民の権利であり義務としている︒そ
( 4 3 )
して︑労働収入を得るためには︑なんらかの動産を勤労者自身が所有していることが必要である︒したがって︑国民
がその能力と境遇に応じて勤労ないし労働するのに必要な最小限度の動産を差押禁止財産とすることは︑憲法の要請 2 規定はないが︑薬局経営のために不可欠な物については︑これに対する個別執行を禁ずる衛生政策上の考慮は︑それ
( 3 8 )
らを破産財団に取り込むことを妨げるものではないとされている︒この点は︑農業用動産については︑次のように説
明できよう︒ドイツ法が農業用動産を差押禁止にした本来の趣旨は︑農業に必要な動産を執行一般から免除しようと
したのではなく︑これに対する動産執行を許すと︑農業に必要な動産がバラバラに売却され農業経営が破壊されるの
( 39 )
で︑動産執行を許さないことにしたのであり︑不動産の従物として不動産と共に売却することは認める趣旨である︒
従って︑農業用動産を一体的に破産財団に取り込むことは︑前記差押禁止規定の趣旨に反せず︑また破産財団に取り
込まれることを規定する必要があった︒もっともドイツにおいても︑現在では︑農業用動産の差押禁止規定の前述の
( 4 0 )
趣旨︵経営の維持︶は時代遅れであり︑職業保護
(A rb ei ts pl at zs ic he ru ng )
が重要であるとする見解︑あるいは食料
( 4 1 )
の供給の保護と職業保護の双方を強調する見解もある︒
労働収入獲得の必要
関 法 第 四 五 巻 第 六 号
︵この視点からすれば︑先例︹
1 7
︺の設定した要件は厳しすぎよう︶︒
一四
︵一
四
0六 ︶
職業
の継
続に
必要
な動
産の
差押
禁止
考慮しないこととする︶︒その外にも︑若干の動産が必要な場合がある︒たとえば︑看護婦の場合には︑病院で着用
( 4 4 )
する看護帽・看護服および聴診器などである︒ともあれ︑債務者が他人に雇用されている場合には︑職業上必要な動
産の価格は通常それほど大きくない︒これらの動産は︑従来職業についていなかった債務者が動産執行を受けたこと
を機に就業する場合にも︑債務者に留保されるべきである︒
なお場合によれば︑被用者が軽自動車等を持ち込むことが必要な雇用関係もありうるが︵直接これに該当するわけ
ではないが︑先例︹
1 7 ︺の事案参照︶︑この場合には︑高額な動産を必要とする自営業の場合の取り扱いに接近する︒
企業経営と自営業との区別
職業にはさまざまなものがある︒差押禁止動産との関係では︑企業ないし財産経営と自己の労働を主体とする自営
︵先
例︹
4︺ ︹
5︺など参照︶︒他人を雇用する個人企業の経営者も知的な労働を行なってい
る点では︑医師や弁護士などと異ならない︒彼が企業経営に経験を積み︑そこで最も自己の能力を発揮できる場合に︑
彼が他の職業に就くことを強いられることは︑医師が他の職業に就くことを強いられるのと同様な悲哀を伴う︒しか
し︑それでも債務者の収入維持のために彼が経営する個人企業の動産を差押禁止にすることは︑企業動産の額が大き
くなりやすいだけに︑適当でない︒債務者は︑債務の弁済のために企業動産が売却され︑経営者の職を奪われ︑転職
せざるをえないこと︑場合によれば失業状態におちいることを甘受すべきである︒経営者というのは︑本来そうした 業との区別が重要である 3 のための衣服・仕事着•履物などは必要である(その多くは、
一五
労働のために債務者が動産を所有する必要が最も少ないのは︑他人に雇用される場合であろう︒その場合でも通勤
一三一条一号の動産ともなろうが︑ここではその点は
︵一
四
0七 ︶
影響は小さいということにより是認されよう︒
︵一
四
0
八 ︶
リスクを伴う地位というべきである︒さらに︑自由主義経済体制のもとでは︑社会変動に伴う企業の破綻あるいは不
効率な企業の破綻は︱つの生理現象である︒それを無理に阻止することは社会の需要に合わない企業・不効率な企業
同様な考慮は︑基本的には自営業︵ここでは農業・漁業を含め︑債務者または債務者とその家族の労働を主体にし
て営まれている小規模な営業︶の場合にも妥当しよう︒それにもかかわらず︑この場合には職業維持に必要な動産の
差押禁止が比較的容易に認められるのはなぜであろうか︒それは︑おそらく︑前述の意味での自営業者が必要とする
︵企業経営の場合ほどには大きくない︶ことを前提にすることができるからであろ
う︒これを前提にすれば︑債権者にあまり多くない満足を与えるために債務者から職業に必要な動産を取り上げて職
業を変更させるよりは︑あるいは経済状態が悪化している時期であれば彼を失業状態に追い込むよりは︑彼に従前の
職業を継続させる方が得策である︒とりわけ︑彼が従前の職業を継続して得る収入から債権者が満足を得る見込みが
ある場合は︑そうである︒問題は︑自営業者が必要とする動産の価額がそれほど大きくないという前提をどのような
旧民事訴訟法の制定過程において︑職業上必要な動産の差押禁止財産の範囲を金額により制限する案が出されたこ
ともある︒これであれば︑職業間の不平等という現象が生ずることも少なく︑また︑債務者の職業が社会変動から取
り残されたものであり︑その職業の継続が経済学的には無駄なことであったとしても︑それが国民経済全体に及ぼす
しかし︑旧民事訴訟法は︑金額により上限を設けることはしなかった︒そして︑大審院の先例︹4
︺は
︑﹁
債務
者の
形で確保するかである︒ 動産の価額がそれほど大きくない を存続させることになる︒
関 法 第 四 五 巻 第 六 号
一 六
職業
の継
続に
必要
な動
産の
差押
禁止
4従前の職業の維持
一七
業態を経済上より観察して債務者自身の労役が其の業務上の所得の主要なる原因を為す﹂か否かを問題にし︑それが
肯定される債務者の動産が差押禁止財産になるとした︒これが︑その後の先例︹5︺等に受け継がれた︒民事執行法も
これを受け継ぎ︑職業上必要な差押禁止動産につき金額制限を設けなかった︒立法者は︑債務者の勤労維持の利益と
債権者の利益とを調整するために︑職業上必要な動産を一定範囲では差押禁止財産とし︑かつ︑その範囲内でのみ差
押禁止財産にしようとしたのであるが︑その範囲を金額で限定したのでは硬直的になりすぎるので︑それに代わる柔
軟な限定方法として前記のような表現を採用したと考えてよいであろう︒そして︑社会全体が豊かになるにつれて︑
自営業の継続に高価な動産が必要になることも否定できないであろう︵三で紹介した肯定説の論拠
(8
)
参照
︶︒
他方で︑経済状態が悪化しているときに自営業者から職業に必要な動産を取り上げて︑彼を失業状態に追い込むこ
とには抵抗を感じるが︑しかし︑失業の苦しみは彼のみが味合うわけではない︒経済が悪化したときには︑倒産した
企業に雇用されていた労働者も失業の苦しみを受けるのである︒自営業者と給与所得者との間に不公平感が生じない
ようにすることは必要である︵三で紹介した否定説の論拠
( P )
参照
︶︒
債務者からその職業に必要な動産を奪うことは︑不況の時期には︑彼を失業に追い込むことになりやすい︒職業に
必要な動産を彼の手許に残し︑彼に従前の職業を維持させることが︑彼の自活のために必要である︒
しかし︑好況時には︑必ずしもそうとは言えない︒多くの人間が企業に一雁用される労働者となっている現代社会に
おいて、通勤ための衣類•履物・仕事着を除けばそれほど特別の動産を必要としない職業(たとえば、
︵一
四0
九 ︶
一般
事務
職︑
5債務者の自営業が収益を挙げる見込みのない場合 営業職︑販売職など︶
︵一
四一
0 )
の職場は多数ある︒高額動産を必要とする職業に就いている債務者が経済的に行き詰まった場
合︑彼が従来の職業の維持のために必要としていた動産を差し押さえられ︑職業の変更を余儀なくされても︑それで
彼が直ちに生計の道を絶たれることにはならないであろう︒そのことを考慮すると︑民事執行法四号ないし六号の差
押禁止の趣旨を債務者の生計の維持のみで説明することは︑それが重要な要因であることは認めつつも︑なお不十分
さを感じざるを得ない︒次のように考えたい︒
( a )
人は︑ある職業に就くことを目指して︑長期間勉学に励むことが
ある︒たとえば︑医師の場合がそうである︒医師から他の職業への転職は︑長期間の勉学の意味の大半を失わせるこ
とになる︒また︑いったんある職業に就いてそこで経験を積めば︑それが彼の天職となり︑その職業を継続すること
が経済的にもまた人格の発展上も最も適当であることが多い︒たとえば︑長期間第一次産業に従事してきた者が第三
次産業へ転職することは︑相当の苦痛と損失を伴うであろう︒それゆえ︑職業維持に必要な財産を差押禁止財産にし︑
従前の職業の維持を可能にすることは︑債務者の幸福追求の保障︵憲法二二条︶の点から好ましいことである︒
( P )
そして︑債務者が従前の職業を継続することは︑多くの場合に︑他の職業に転職した場合よりも多くの収入をもたら
すであろう︒債権者は︑その収入からより多くの弁済を得ることができるであろうから︑債務者に従前の職業を維持
させることは︑債権者にとっても有利なことである︵三で紹介した肯定説の論拠
( y )
に賛
成︶
︒
しかし︑だからといって︑債務者の職業の継続を常に保障すべきだとは言えないであろう︒たしかに︑人は一っの
職業につくと︑しばしばそれから離れられないものである︒その職業に熟達するために多くの期間を必要とすればす 関法第四五巻第六号
一八
の命題は︑差押禁止財産の制度を基礎付ける重要な命題であり︑それ自体としてはまったく正当である︒しかし︑こ
の命題を職業維持に必要な財産に適用する場合には︑次の点に注意すべきであろう︒
( a )
債務者の生活保障のため
に彼の失業を防止することは重要なことであるが︑しかし︑差押禁止財産の制度のみですべての失業を防止できるわ
けではない︒企業倒産の際には差押禁止財産の制度は作動せず︑その企業に働く者が失業することは容認せざるをえ
ない︒彼らの生活保障は︑少なからぬ場合に公共の負担となろう︒自営業者の生活保障についてのみ︑債権者の負担 6
職業の継続に必要な動産の差押禁止 その価額にかかわりなく許されるべきである︒
一九
︵一 四
るほど︑その職業についている期間が長ければ長いほど︑そして︑その者が高齢であればあるほどそうである︒それ
にもかかわらず︑社会の非情な変化は︑その職業を衰退させ︑その職業を継続してもほとんど利益を産まず︑むしろ
職業に必要な動産を売却して転職した方が良い場合を生じさせる︒自由主義経済体制の下では︑その危険は各自が引
き受けるべきである︒さらに︑自営業者として適性を欠いたために︑あるいは経験不足のために経営に失敗したよう
な場合には︑債務者に自営業に必要な動産を留保したところで︑
債務者の生活保障の負担の公平な分担 やはり自営業を継続することは困難であろう︒個々
の事件において執行裁判所がこれらの点の判断を的確になしうるかの問題はあるが︑ともあれ実体的には︑これらの
場合にまで自営業に必要な動産を差押禁止財産として債務者に保留させることが妥当とは思われない︒それゆえ︑債
務者の自営業が収益を挙げる見込みがない場合には︑民執法一三二条により自営業の維持に不可欠な動産の差押えも
( 4 5 )
法は﹁債権者だけの満足のために債務者の生活保障が公共の負担に帰すこと︵憲二五条一項参照︶を許さない﹂と
︵民執法一五二条一項参照︶︑自営業者が得る収入の少なくとも四分の一は︑執 行債権者の満足に充てられるべきである︒そして︑自営業者が民執法一三一条により自営業に必要な動産の差押えを 免除された場合には︑差押禁止により満足を得ることができなくなった債権者への代償措置として︑自営業の収益か らの弁済責任を強調してよいであろう︒もっとも︑給料生活者の場合と異なり︑自営業者の所得の把握は︑必ずしも
給料生活者との均衡を考慮すれば 7
差押禁止制度により自営業の継続が可能となる者の弁済責任
を必要とする場合の取り扱いである︒ 債権者の負担としてよい ての債権者と公共との間での公平な分担である︒ を強調するのは適当でない︒
( B )
職業継続に必要な動産を奪われた自営業者が失業すると決まっているわけではな い︒彼には︑他に転職する道が残されている︒現実に転職できるか否かは︑その時々の経済状態あるいは債務者の年 齢等︑彼の努力ではどうすることもできない要因にも依存するが︑他面において︑彼の自助努力にも依存する︒
( y ) 多数の者の負担において少数の者が利益を得ることが正義に反するように︑少数の者の負担において多数の者が利益
を得ること
分担を決する重要な要因の一っは︑
とも︑承認されている︒問題は︑両者の中間の場合︑
関法第四五巻第六号
二0
︵一
四︱
二︶
︵ここでは︑俵務者の生活保障の負担の軽減︶も正義に反しよう︒璽要なのは︑債務者の生活保障につい
やはり︑差し押さえられるべき動産の価額であろう︒それが小さい場合には︑
︵但
し︑
前述
5
に注意︶︒債務者が他人を雇い入れて企業経営を行なっている場合には︑そ れに必要な動産は差押禁止財産とはならず︑その売却の結果債務者が失業して︑その生活保障が公共の負担になるこ
つまり自己の労働により営業を営む者がその営業に高額な動産
職業の継続に必要な動産の差押禁止 ようと思えば︑彼は破産免責の救済を求めることになるが︑それもやむをえないであろう︒
(8
)
民事執行法一三一
はあ
るが
︑
︶とにして︑正確な資料の提出を促すべきであろう︒
( y ) のみならず︑目的物が高価な物である場合には︑その
容易ではない︒通常であれば︑債権者が債務者の所得を探索する負担を負うが︑自営業に必要な動産の差押えが免除 される場合には︑この負担を次のような形で軽減してよいと思われる︒すなわち︑
( a )
債務者に現在の収入状況な
らびに将来の収入予測に関する資料と︑債権者への弁済予定に関する資料を提出させ︑妥当な弁済計画に従って弁済 するか否かを二二二条一項所定の﹁その他の事情﹂として考慮し︑債務者が誠実に弁済しなければ︑差押えを許可す ることである︒これは︑機能的に見れば︑動産執行を強制管理に接近させるものであり︑目的物の価額が小さい場合
には︑そこまでする必要はないであろうが︑
レントゲン機器のような高額な動産の場合には︑そうしなければ︑債権 者と債務者との間のバランスを維持できないのではなかろうか︒
( B )
債務者が自営業の継続によって得る収入が︑
債務者とその家族の最低生活の維持に必要な額以下の場合には︑債権者がその収入から満足を得ることができないこ
とも
︑ やむえない︒そのような場合には︑給料生活者についても一五三条一項により給料債権全額の差押えが禁止さ れよう︒この論理を悪用するために債務者が虚偽の資料・不正確な資料を提出をすることが予想されるが︑それに対 しては︑第一次的には︑虚偽の資料・不正確な資料を提出をしたことを理由に差押えを許可することができるとする
時々の経済状況をも考慮のうえ︑
一部弁済を継続していくだけの収益をあげる責任を債務者に負わせ︑その責任を果 たせない場合には︑差押えを許可してよいのではなかろうか︒若干の迷いはあるが︑そして多くの動産の交換価格が 急速に低下していく現在の社会において︑﹁高価﹂の意味をどのように考えるのかという問題を未解決にしたままで
一応肯定しておきたい︒右の責任を果たすことのできない債務者がなおかつその動産の執行売却を回避し
︵一
四︱
︱︱
‑︶
8
民事
執行
法は
︑
一三一条において法定の差押禁止動産の範囲を定め︑ る必要がある︶も認めてよいであろう︒ と
ニニニ条において執行裁判所が差押禁止動産
︵一
四一
四︶
条・一三二条では︑動産を差し押さえるか否かの二つの選択肢しかない︒差押え自体を不許可にすると︑債務者が自
営業を自発的に中止して︑目的物を任意に売却してしまい︑その代金を債務の弁済に充てないという事態が生ずるこ
とも予想される︒差押えを許可すれば︑早い時期に換価に至るのが原則である︒いずれの選択肢も︑前述のような形
で債務者に負わせた弁済責任の履行を確実にするのに十分でない︒差し押さえられた物の使用を債務者に相当期間認
める必要がある︒実際上は︑執行官が差押え後に売却を事実上停止することもできないわけではないが︑
項による申立の一部認容として︑裁判所が差押えのみを許可して売却は停止する旨の決定をなすこと︵この場合には︑
申立により︑債務者が誠実に弁済することが確実になった時点で差押えを取消し︑誠実に弁済しないことが確実に
なった時点で売却を許可することになる︶︑あるいは︑差し押さえられた物の売却を一定期間停止する決定をなすこ
︵この場合には︑債務者が誠実に弁済することまたは誠実に弁済しないことが確実になるまで︑その決定を反復す
一三一条と一三二条との間の手続的問題
一三
二条
一
の範囲を変更することができるとしている︒したがって︑職業上必要な動産が差し押さえられた場合に︑
( a )
それが
差押禁止動産にあたるのであれば︑債務者はニ︱︱一条違反を理由とする執行異議によりその取消しを求め︑
( P )
法定
禁止財産にあたらないが前述のような考慮により差押えが取り消されるべきであれば︑
関 法 第 四 五 巻 第 六 号
一三二条の申立てをなすべき
ことになる︒しかし︑差押禁止財産にあたるのか︑あるいは一三二条により差押えが取り消されるべきなのかは︑か