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『「マルタの鷹」講義』の受講者であれば、この「ノワール」の「講義」には 別の意気込みをもって臨むべきだろう。『マルタの鷹』というひとつの作品に 切り込んでいく「講義」を仮に「ゼミ」とでも呼ぶのであれば、『ノワール文 学講義』はさしずめ「概論」といったところだからだ。しかしながら、この「概 論」も、けっきょくのところ、ダシール・ハメット論へと収束していくのであっ て、「講義」名だけを見て登録してしまったという受講者のなかからは、予期 していたものとちがった、という声が漏れ聞こえてきそうでもある。それでも やはり、ハメットが他のハードボイルド探偵小説家たちとは一線を画す「成長」
を遂げた、ノワール小説の先駆かつ確立者であり、いかに稀有で魅力的な作家 であるかということについては十分に説得されるだろう。
そもそも「ノワール」とはなにか、という問いからこの「講義」ははじまる。
第一章「黒の黎明」、 「黒い誘惑─初期ノワール小説について」である。「ノワー ル」は、第二次世界大戦後のフランスで相次いで上映されたアメリカ映画を総 称した「フィルム・ノワール」に由来し、明確な定義もなければ、ジャンルで もない。ただ閉塞感という「雰囲気」をもつ作品を指すのだという。この「雰 囲気」は 30 年代という大恐慌の時代を背景として書かれたことによるもので、
それを共通項に初期ノワールとして緩く括られる作品群は、ゆえに、社会批判
倉 田 麻 里 諏訪部浩一著
『ノワール文学講義』
(研究社、2014 年)
〈書評〉