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地域における障害者の 「自立」と「共生」の支援試論

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はじめに…今、なぜ改めて「障害者の自立生活」を取り上げるのか?

今の日本は、昨年の戦後70年を越え、今年は日本国憲法公布70年という節目 の年(2016年)を迎えている。そして、日本から時差12時間のブラジルのリオ デジャネイロでのオリンピック&パラリンピックが開催された年でもある。

筆者は、平和の祭典と呼ばれる「オリンピック」&「パラリンピック」のアス リート達のドーピングが問題となるリアルな現実を見聞する際に、障害者アス リートが、<身体の機能不全(インペアメント)、能力障害(ディスアビリティ)、

さらに、社会的不利(ハンディキャップ)>を乗り越えるという従来からの議論 と少し距離をおいた視点で検討してみたい。今回は、その多様な障害を、様々な 立場による見解があることを承知の上で、あえて、障害それ自体を当事者の「個 性」と位置付けながら自立生活問題として考察してみたい。その意味で本稿は、

その障害という「個性」があるが故に「社会的な生きづらさ」を感じている障害 当事者との「自立」と「共生」の支援試論である。

尚、障害を「個性」としてとらえることの議論については、本稿では、紙面の 関係上深めた議論はせずに進めることになる。しかし、基本文献の一つとして、

茂木俊彦(2004)『障害は個性か:新しい障害者観と「特別支援教育」をめぐって』

(大月書店)は比較的、分かり易く、「障害個性論」について考える手がかりとな る文献であることを紹介しておきたい。

Ⅰ.障害者の自立問題の起源と歴史

1.CIL の始まりとその運動の歴史…エド・ロバーツという人物を中心に 障害者の地域生活を支援する為の拠点として、今日では世界的な広がりを展開 している「自立生活センター」(Center for Independent Living:以下CILと表記 する)がある。

研 究 ノ ー ト

地域における障害者の

「自立」と「共生」の支援試論

結城 俊哉

(福祉学科教員)

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このCILの始まりは、アメリカのカリフォルニア州バークレーで暮らすある重 度の障害当事者を起源として始まった。

その人物とは、エド・ロバーツ(Edward Roberts)(1939年~ 1995年:56歳 にて逝去)というその人である。彼は、13歳の時にポリオにかかり四肢麻痺、呼 吸障害(全身性障害)となる。そして、1962年カリフォルニア大学バークレー校 へ入学。彼の障害に対応できるバリアフリー住宅が確保できず構内の学生保健セ ンターの一室から通学という状況にあった。その当時のアメリカは、マイノリ ティ・グループ(例:黒人に対する人権侵害・差別問題を提起したキング牧師等)

を中心に公民権運動(1964年公民権法制定)が展開されており、共通の問題を抱 える当事者達の運動が展開される時期でもあった。彼はそれらの運動にも参加す ることを決意した。その後、大学院を経て、教鞭をとり、さらに1970年に連邦政 府から財政援助を得て「障害をもつ学生への援助プログラム」を作り、1972年(~

75年)バークレーのCIL所長となる。さらに、1975年カリフォリニア州リハビリ テーション局長・国際障害研究所の所長を務めた。

彼は、1979年日本へ来日し、全国各地で自立生活(CIL)とは何か、その必要 性についての講演を行なった。彼の来日は、参加した障害当事者達に大きな刺激 を与えることになる。日本でもその後、1981年(国際障害者年)を契機にアメリ カ系企業でもあるダスキン(ミスタードーナツ)が「広げよう愛の輪基金」を設 立し社会貢献プログラムとして、「アメリカでの障害者リーダー育成海外研修派 遣事業」を開始し、日本の多くの障害者リーダーがアメリカでの研修を受け、今 日の日本のCIL運動の担い手として育っていった。

そして、自立生活の理念(IL運動:independent Living Movement)の実現に 貢献した彼は、「障害は、パワーだ!」という有名な言葉を残している。その言 葉こそ、CILの起源そのものだといっても過言ではないだろう。

なお、1986年日本で初めてのCILとして「ヒューマンケア協会」が東京都八王 子市で誕生した。その後、1991年にCILと障害者自立生活運動の支援協議団体と して「全国自立生活センター協議会(Japan Council on Independent Living : JIL)が設立され現在に至っている(JIL加盟CIL/2016年現在、約130団体)。

2.自立生活(CIL)運動が直面する課題

  …「医療モデル」という呪縛からの脱却、そして「社会モデル」へ…

ここからは、「新しい自立観」の提唱(IL運動の展開から)についてその概要 を簡単にまとめておきたい。CIL運動の中で提起された「新しい自立観」、それは すなわち、「他者への依存は排除しないが、自分自身で選択・判断し、決定する こと、すなわち自己決定への他者の恣意的な介入及びコントロールは排除する」

という考え方である。

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つまり、「<自己決定>することに自立の価値を置くという自立観」である。

これは、換言するなら、例え「ADL(日常生活動作:着替え・食事・排泄・入浴・

移動等)の支援を受けながらでも、自己決定権の行使に基づく自己選択をするこ とに自立の本質がある」という「新しい自立観」の提示がなされたのである。そ の地点からさらに、自立問題の本質について検討しておきたい。

(1)「自立問題の本質的課題」に内在しているもの

自立問題の本質的課題は、基本的に「障害者である当事者個人の側」にあるの ではなく、障害というある特別な個性がある為に、「生きづらさ」をもたらす最 大の原因が、「社会の側に問題」として存在しているという認識の仕方である。

この自立問題の本質に内在化している核(コア)となる思考モデルの変更は、

障害当事者だけでなく、家族、ヘルパー、ボランティア等のケアの担い手自身に も同様に求められている。

それは、リハビリテーションを含む「医療モデル」という呪縛からの脱却であ る。しかし、この「医療モデル」の考え方は、極めて自然な発想でもある。

例えば、中途障害者をイメージしてみて欲しい。当然ながら、「失った機能の 回復・再生」は、医学的治療及びリハビリテーション医学の専門家の思考パラダ イムに従うことを余儀なくされる立場におかれるのである。つまり、「健常者の 世界」に近づけようとする「リハビリテーション医学」の視点からの脱却を目指 すことはかなり至難の技であり、初期段階では、基本的不可能である。しかし、

リハビリテーションも長期戦となると、障害当事者も次第に医学モデルへの疑 念・不審・不安を感じるようになる。つまり、「障害受容」の問題にせまられる ことになるからでもある。

そこで登場した考え方が、「社会モデル」という視点である。

この視点は「障害(当事者)が非障害者(=健常者)に変わるための個別の訓 練による矯正に準拠した生き方ではなく、障害のある人間が生きにくい、率直に 言うならば、障害者に迷惑で困難な状況を作り出している社会(環境・制度)の 側の方こそが、障害者が生きやすいように変わるべきなのだ」と主張する考え方 である。

この「社会モデル」は、「障害者をノーマルにするのではなく、障害者がノー マルな生活ができるように生活環境を調整・変更することがノーマライゼーショ ンの具現化である」と主張する「ノーマライゼーション理念」と正に呼応するも のだと考えることが可能だろう。

なお「医学モデル」の持つ呪術性について、筆者は(2016)『ケアのフォーク ロア:対人援助の基本原則と展開方法を考える(第2版)』(高菅出版)の中で、

「第7章 シャーマニズムとケアの関係論」として述べた点でもある。つまり、人

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は、人智を越えた「シャーマニズム」的なるものへの畏敬と依存というメンタリ ティー(心性)を誰もが持ち、それ故に、自分自身の存在の不確かさとケアをつ なぐ存在としてのシャーマン(=例えば、「メディスンマン」)が必要とされたの である。それが、現在の「医者(medical doctor)」の原型であることを確認した。

つまり、「脆弱性(weakness)/傷つきやすさ(vulnerability)」を回避できな い運命にある私たち人間には、シャーマニズム的なケアの考え方は、私たちの日 常生活の至る所に宿っている。

(2)「障害学(disability studies)」と「社会モデル」

ここで、「障害学」について触れておきたい。『現代社会福祉辞典』(有斐閣)

によれば以下のような説明がなされている。

「障害を分析の切り口として確立する学問、思想、知の運動である。障害学では、

社会が障害者に対して設けている障壁や、これまで否定的に受けとめられること が多かった障害の経験の肯定的側面に目を向け、文化としての障害、コミュニ ティとしての障害、障害がもつ独自の価値・文化に着目する。日本では、長瀬修 らが中心となって取り組んでいる」[現代社会福祉辞典(2003)p.223]

「障害学」という新しい学問は、従来のCILの歴史と連動する当事者活動/運 動の一環であるという文脈として理解することができる。それは、障害に対して 否定的(ネガティブ)な価値観を与えている「社会システム/社会環境への異議 申立て」であり、且つ「障害を肯定する生き方、それが及ぼす社会的な意味と価 値と文化に対する変革」を志向するという積極的に当事者から発信された学問研 究分野なのである。その意味でも、従来からの障害者福祉分野を体系化している

「障害者基本法」をはじめとする障害者福祉の制度・施策に対する視点の転換を もたらす意義がある。

まさに、「Nothing About Us Without Us.(私達を抜きに、私達の事を決めな いで)」ということなのであり、その考え方が、2006年の『障害者の権利条約』

において貫かれているのである。

(3)CIL の基本理念とそのプログラムの概要 1)CIL の基本理念を支えるもの

ここから、障害者の自立生活支援モデルの基本理念とそのプログラムについて 若干の紹介をしておきたい。

『現代社会福祉辞典』(有斐閣)の自立生活支援モデルの項目を抜粋引用しておこう。

ディジョング.G(DeJong, G)は、障害に関する問題を障害者個人に帰し専門

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的介入によって問題解決を図るリハビリテーション・モデル(医療モデル)に対 して、問題は環境にあり、ピア・カウンセリングや障害者自身による権利擁護に よって問題を解決する自立生活モデル(independent living model)を提示した。

[現代社会福祉辞典(2003)p.250]

ここで、デジョング.G(DeJong.G)の自立生活支援モデルの考え方を敷衍する ならば、(自立の)問題は個人にあるのではなく、リハビリテーションという医 療モデルによる処方箋の側にある。つまり、医師と患者の関係のように、支援の 専門家とクライアント関係において特徴とされてきた<依存関係>という、専門 家の指示に従うことが、当然であるとする「社会的関係」が問題なのである。

その意味で、障害者は(消極的的で)依存的患者やクライアント役割を脱して、

(積極的で)主体性を持つサービスの消費者(コンシューマー)になるべきであ るという意図が込められている。

2)CIL の基本条件とその活動プログラムと障害者施策の課題

ここで、CILであることの基本条件(a.b.c.)と4つの活動プログラム(d.①~④)

を簡単に整理しておきたい。

a.運営委員の51%以上が障害者であること。

b.実施責任者は、障害者であること。

c.現在は,障害種別を越えてサービスを提供すること。

d.4つの活動プログラム

①介助サービス…介助者探しとサービス内容のコーディネート

②自立生活プログラム

…金銭 管理、移動管理、介助者管理等の方法について具体的に訓練するプ  ログラム

③住宅サービス…バリアフリー住宅探し、賃貸交渉支援

④ピア・カウンセリングの提供…当事者による当事者へのカウンセリング

尚、CILの基本方針として、パーソナル・アシスタント(personal assistant)

又はパーソナル・アテンダント(personal attendant)とも呼ばれる「介助者」は、

サービスの消費者である「障害当事者」よってリクルートされ、雇用・教育・管 理され、場合によっては解雇されるもの(立場)であるというものである。

現在、CIL活動は当事者活動を中核としながら障害者から社会・福祉施策への 問題提起が積極的になされるのと同時に、「障害者総合支援法」(2013(平成25)

年4月1日施行)が障害者福祉サービスの基盤となっている。しかし、現実問題

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として、これだけでは、障害者の生活(24時間・365日)の地域における自立生 活を支援する基盤としては極めて脆弱である。

そのため、「介助者」として、学生・主婦・会社員等のアルバイトやボランティ アの募集に頼らざるを得ない厳しい状況にある。その意味でも、CILの運営の基 本課題として、以下の課題が不可避な状況ある。

***********************************

①障害者支援の制度基盤の弱さを強化する取り組み。

②障 害当事者の「自己決定する力」、「介助者を管理する力」の養成強化につな がる、自己決定力及び・管理(マネジメント)力や他人との交渉力の養成。

③CIL運営の財源問題として地方自治体からの委託事業頼みの状況の打破。

④コミュニティにおける「障害者」の理解促進の為の活動等々。

***********************************

  以上の4点は、CIL当事者による運動体としての役割だけでなく、制度施策 的な支援サービスとの連帯する事業体として展開されることも必要不可欠な条 件なのだと考える。

4.障害者の自立を妨げるものへの挑戦…歴史状況の検討…

CIL運動をはじめとして、障害者の自立を妨げるものには、従来の福祉施設中 心の障害者福祉サービスのあり方と家族関係に当事者が挑戦したことも忘れては ならない。

(1)施設及び家族の否定と介助者のあり方…当事者団体からの告発。

障害者の自立生活運動では、障害者の自立を妨げる「壁」は、「障害者の福祉 施設であり、家族の愛情である」という認識から始まったといえるかもしれない。

その意味では日本における「自立生活センター」(CIL)の設立までの前史につ いて触れておかねばならないだろう。それは1957(昭和32)年「青い芝の会」誕 生が極めて象徴的な意味を持っている。

「青い芝の会」の当初は脳性マヒ者の相互親睦の集団として始まった。しかし、

1970年、横浜で起きた母親による障害児殺害事件で、近隣住民による署名による 母親への減刑嘆願書を契機に、当事者団体として「障害者は、本来あってはならな い、殺されても構わない存在なのか!」と反対声明を掲げ、障害者を排除・管理し ようとする社会のあり方を告発したのがまさに、この「青い芝の会」であった。

それ以後、「青い芝の会」は、日本における障害当事者団体として極めて明確 な主張を持つ社会運動団体としてその活動を展開することになる。

尚、その後の活動についての詳細は、安積純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真 也著(2012)『(第3版)生の技法…家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(生

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活書院)等の関連文献を参照していただきたい。

(2)1981 年「国連・国際障害者年」というインパクト

日本おける障害者運動に対するインパクトは、1980年「障害者インターナショ ナル(DPI:Disabled People’s International )」設立され、その後、1981年から 日本も参加した団体を中心として国際的な運動の展開が行なわれた。そのエポッ クメイキングが、1981年「国連・国際障害者年」である。

そのキャッチフレーズは、ノーマライゼーションの理念を基盤として日本では、

「完全参加と平等」という標語(スローガン)が掲げられた。その後、国際的には、

1960年代から進められていた「施設収容によるケアからグループホームなどを中 心とした地域生活ケアへ」の動向が、この「国際障害者年」以後、日本における ノーマライゼーション理念の普及啓発活動の促進の結果、施設収容によるコロ ニー施策から、地域におけるグループホーム作りへと次第に転換が図られるよう になった。その当時は、身体障害者・知的障害者への障害者福祉施策の充実が中 心であり、精神障害者が福祉施策の対象となるのは、さらに遅れて1993年の『障 害者基本法』の成立まで待たねばならなかった。

Ⅲ.自立における多様性の中の共生関係 1.自立(independence)の基本問題として

自立とは何か、従来の自立という考え方からの転換については、CIL運動の中 で生まれた「新しい自立観」の中で既に述べた。

ここでは、個別的な自立の諸相について簡単な定義を示しておきたい。基本的 な「自立概念」の各論的基本概念を検討する場合、身辺自立・精神的自立・経済 的自立・住環境の自立・社会的自立が考えられるであろう。

しかも、「本当の自立」とは何だろうか、それは、極めて多義的な概念を含む 自立の諸相と呼ぶべき課題でもある。そして、この世界に、誰にも頼らずに「完 全なる自立を実現している人間」は、本当に存在しているのだろうか?

以下において、筆者なりの定義と自立をめぐるコメントを素描しておきたい。

(1)身体的自立

【定義】

「障害当事者自身にとって日常生活上、必要であり、適切であり、安全である 介助方法を介助者に依頼し、迅速かつ快適な介助を可能にすることである」

つまり、自己決定が尊重されるのであれば、ADL(日常生活動作:着替え・食 事・排泄・入浴・移動等)に関しての「依存による自立」・「依存しながらの自立」

も「自立」であるという<新しい自立観>の提示を意味する。

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(2)精神的自立

【定義】

「自己選択と自己決定が自分自身で行えるようになり、それによる結果に責任 が取れるようになること」

この精神的自由を獲得することは、自立に伴う「危険(リスク)/危機(クラ イシス)」に遭遇する経験を引き受ける覚悟が必要なのである。基本的には、「自 己選択―自己決定―自己責任」という当事者の決定権とリスクを負うことへの覚 悟の獲得が、障害当事者の自尊心・自信につながり、セルフ・エンパワーメント の醸成を促進することになる。それは、同時に、他者に対する「精神的依存関係」

からの脱却とセットとして成立・存在する自立なのである。

(3)経済的自立

【定義】

「仕事に就き、自らの手で生活費を稼ぎだしていくこと。また、障害により、

就労することができなくとも、年金や生活保護費を自主的に管理できるようにな ること」

この経済的な自立のあり方は、就労の工賃(給与)もしくは障害年金等の社会 保障制度を活用しながら得た収入の自主的な金銭管理(貯金・節約・使う)能力 を持つことが求められている。尚、日本国民の貯蓄率の高さは、国の社会保障制 度への信頼感が低いこと、そして、その自己防衛策の表れなのかもしれない。

(4)居住環境の自立

【定義】

「自分に合った生活形態を決定し、生活の場(空間)を確保し、実現できるよ うになること。また、設備や内装に使用不可能や不便な点があれば改造し、自由 に使用できる住環境を作り出していくこと」

この考え方によれば、室内外のバリアフリー化促進、「安心して住むことがで きる場所の確保」は自立の目標でなはなく、自立生活実現に向けた基本であり、

社会福祉の基盤であるという認識が、従来の社会福祉の視点から抜け落ちていた ことは事実である。尚、この問題について以前より指摘して来た先駆者である早 川和男氏による(1979)『住宅貧乏物語』岩波新書、(1997)『居住福祉論』岩波 新書、早川和男・岡本祥浩著(1993)『居住福祉の論理』(東京大学出版会)など が極めて参考になる。

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(5)社会的自立

【定義】

「自らが生きる社会に存在する秩序や道徳を身に付け、自分を取りまく人々や 社会から、その自らの存在を社会に貢献でき得る者として受け入れられるように なり、自分自身もそれが社会的アイデンティティとして確認できるようになるこ と」

この社会的自立は、障害者に限らず全ての人間における自立の最終目標ではあ る。しかし、基本的には、社会の中での自立という考え方は、極めて社会的資本 としての人的及び物質的かつ経済的なネットワークを形成しながら到達する極め て難易度の高い自立のあり方である。

2.共生概念と多様性をもたらす境界線

(1)シンビオス (symbiosis) という「共生」

基本的な考え方は、生態学的な観点からすれば、2種類の生物が空間的に接触 しながら暮らしている互い何らかの利益の共有(相利共生)もあるが、時に、一 方的な場合も含めてなにかしらが「共有」する場合の事を言い、関係がない場合 を「共存」と呼ぶ。

この考え方は、社会学者のテンニース.Fが提起した社会関係及び社会類型の 概念として知られている、「ゲマインシャフト」(=(運命)共同社会:本質意志)

と「ゲゼルシャフト(=利益共同体:選択意志)」の概念が極めて酷似する考え でもあり、今後、共生社会論の基本概念の枠組みの一つとして検討する課題でも ある。

(2)コンヴィヴィアリティ (conviviality) という「共生」

異質な存在が、宴会気分、親しく陽気な言動を伴う場を共有する関係性を意味 する。しかし、異質な存在を許さない行為が「ホロコースト(殲滅の思想)」を 産み出すことになる。互いの違いを認め合いながら共存することが当然だという 社会意識の醸成によって成立する「共生」のあり方で、ノーマライゼーション理 念の近接概念として検討すべき可能性があると考える。

(3)ダイバーシティ(diversity)という「非対称性」

「ダイバーシティ」(=多様性)という言葉は、近年、盛んに耳にすることが多 いのではないだろうか。このダイバーシティという概念は、「基本的には、人種・

性別・宗教等の違いを多様性と意味して来たが、近年は、同性愛者・高齢者・身 体障害者・精神障害者を含めた多様性」を意味することが多くなり、互いの差異・

相違点という非対称性を尊重することに価値を置くことが社会的に求められてい

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るという意味で、ノーマライゼーション理念に最も近い概念の位置にある。

Ⅳ.自立と共生の支援モデルのICF(国際生活機能分類)について 1.障害者の自立の為の統合的支援モデルとしての「生活モデル」

障害者の自立支援モデルとしての「医学モデル」から「社会モデル」への転換 については、すでに述べた。

本稿で、最後に提案したい「自立と共生の生活支援モデル」として、「生物・

心理・社会(バイオ・サイコ・ソーシャル)モデル」を発展させたものとして理 解できる、「生活(ライフ)モデル」について若干のコメントを加えておきたい。

「生活(ライフ)モデル」は、ジャーメイン(Germain,C,B.)及びギッターマン

(Gitterman,A)によって1970年代から提唱された概念である。そこでは、人と環 境の交互作用によって相互に影響を与え合いながら利益の相互交換や適応及びス トレス・コーピング(対処)による相互変容を伴う生態学(エコロジカル)的視 点から障害者の自立の為の「統合的支援モデル」の提案であると、位置付けてみ たい。

2.ICF(国際生活機能分類)と障害者の自立支援の展開と今後課題

最後に、ICF(国際生活機能分類)(表2)は、障害者の自立生活支援を考える モデルでもあることを指摘しておきたい。

「ICFモデル」は「生活(ライフ)モデル」と極めてよく似た障害者の自立支 援モデルを提案している。

つまり、ICFの基本的な考え方は心身機能・構造をもつ障害者の、「活動と参加」

を基軸としながら、「環境と個人の抱える因子」と「健康状態」との相互作用を 描き出したという意味で、障害の否定的(ネガティブ)な部分に焦点を当てて「障 害を構造的に理解する」という従来までのICIDH(国際障害分類)(表1)の改 訂版としてWHO(世界保健機関)から2001年に堤出された障害分類である。

その意味でも、障害による「能力障害(ディスアビリティ)」や社会的環境に おいて生じる「社会的不利(ハンディキャップ)」に注目することから自由になり、

障害者の健康な側面、可能性、環境調整の必要性について相互作用の考え方を通 して提案し、障害者の自立生活支援方法を考える視点を提供したという点は高く 評価できる。

しかし、このICFモデルをどのように具体的な障害当事者の生活場面の中で活 用するかは、「障害者の権利条約」で提起された「合理的配慮」という考え方と 有機的にリンクさせる視点こそが、障害者がごく自然に地域社会の中で、<共に 生きる>を実現するための具体策とその実践として、これからの障害者福祉学に 問われている。筆者自身の今後の研究課題としてさらに積極的に取り組んで行き

(11)

たいと考えている。

(表1)

(出典:佐藤久夫(1992)『障害構造論入門』青木書店 p.50(一部改変))

(表2)

(出典:障害者福祉研究会編『ICF:国際生活機能分類-国際障害分類改訂版』中 央法規出版、2002 年、p.17(一部改変))

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【参考文献】

秋元美世・大島巌・芝野松次郎・森本佳樹,他編(2003)『現代社会福祉辞典』有斐閣

安積 純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真也(2012)『(第3版)生の技法:家と施設を出て暮ら す障害者の社会学』生活書院

藤井克徳(2014)『私たち抜きに私たちのことを決めないで』やどかり出版 早川和男(1979)『住宅貧乏物語』岩波新書、

早川和男・岡本祥浩(1993)『居住福祉の論理』(東京大学出版会)

早川和男(1997)『居住福祉論』岩波新書、

星加良司(2010)『障害とは何か:ディスアビリティの社会理論に向けて』生活書院 石川准・倉持智明編著(2002)『障害学の主張』明石書店

石川准・長瀬修編著(1999)『障害学への招待』明石書店

楠 敏雄(1998)『自立と共生を求めて:障害者からの提言』解放出版

見田宗介編集顧問・大澤真幸・吉見俊哉・鷲田清一編集委員(2012)『現代社会学事典』弘文堂 茂木俊彦(2003)『障害は個性か:新しい障害者観と「特別支援教育」をめぐって』大月書店 中西正司・上野千鶴子(2003)『当事者主権』岩波新書

中西正司(2014)『自立生活運動史:社会変革の戦略と戦術』現代書館 佐藤久夫(1992)『障害構造論入門』青木書店

障害者福祉研究会編(2002)『ICF:国際生活機能分類-国際障害分類改訂版』中央法規出版 杉野昭博(2007)『障害学:理論形成と射程』東京大学出版会

結城俊哉・奥野英子編著(2007)『生活支援の障害福祉学』明石書店

結城 俊哉(2016)『ケアのフォークロア:対人援助の基本原則と展開方法を考える(第2版)』

高菅出版

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(※1) 「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会報告書」 (平成 29(2017)年 12 月 15 日)参照。.. (※2)

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