こんにちは。PwCの内田です。今日はお招きいただきありがとうございました。私からは,
グローバル戦略と,あまり大袈裟な形ではなくて,皆さんにいくつかの視点を提示させていただ いて,一緒に考えていただきたいと思います。
まず本題に入る前にプライスウォーターハウスクーパースはどのような会社かということだけ,
簡単にご紹介だけさせてください(図1参照)。PwCは今,全世界で
158
ヵ国,776都市に拠点 を持っておりまして,18万人のプロフェッショナルがおります。主に行っているのは会計監査,税務,アドバイザリーです。ご存じかと思いますが,PwCと いうのは,いわゆるビッグ
4,世界 4
大会計事務所の1
つと言われています。会計事務所で監査 とか税務というトラディショナルなサービスがあるわけですけれども,それだけではなくて,コ ンサルティングとか,ディール・アドバイザーをするアドバイザリー部門を含めてやっています。日本では,会計士法や税理士法による制限があるため,3つの法人に分かれていますが,監査 はあらた監査法人が,税理士法人のほうで税務関係をやっています。私が担当していますのは,
図 1 PricewaterhouseCoopersの概要
PwC as of 2012.12
転換期を迎える日本企業のグローバル戦略
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 代表取締役会長 内田士郎氏
アドバイザリーということです。ディール・アドバイザリーで,事業再生とか再編とか,M&A,
企業買収,それから
PPP,いわゆる事業再編をして,官民パートナーシップを構築していくも
のです。JICAさんとも全世界で活動しています。それとあとはコンサルティングです。日本の 企業の世界戦略をつくって,それを実行実現するまでご一緒していくと,そのようなことをやっ ています。日本で4,000
名です。もっといなければいけないのですが,人が足りない状態です。希望する方は,ぜひ連絡をください。
私は日本のアドバイザリー部門であるプライスウォーターハウスクーパース株式会社の会長を やっておりますが,近年は日本企業がグローバルに進出するのに合わせて,JBN(Japanese
Business Network)というネットワーク組織を PwC
の中に構築しています。日本企業を世界でサポートするような体制を確立するということのグローバル・リーダーをしています。そういっ た関係で,月のうち半分ぐらいしか日本にいないのですが,今年
1
年で約82
ヵ国で日本企業の サポートをしました。22ヵ国に,日本から200
名の日本人を駐在させています。海外からも200
名来ています。そのような形で,日本企業をグローバルでサポートしようということをやってい るわけです。2012年IMD世界競争力ランキング
今日は皆さんといくつかの視点をお話ししようと思っています。まず図
2
ですが,これはIMD
の世界競争ランキングということで,ご存じのようにスイスのビジネススクールが毎年発 表している世界ランキングです。これは,国のランキングではなくて,どの国で活動すると,競争力を発揮しやすいかというこ
図 2 2012年IMD世界競争ランキング①
とで出しているものです。1位が香港,2位が米国,3位がスイスです。日本は残念ながら
27
位 になっています。これをもうちょっと細かく見てみると,4つのエリアに分かれています。経済状況で
24
位,インフラで
17
位,政府の効率性が48
位と,相当足を引っ張っています。ビジネスの効率性で33
位です。いいところはどのようなものがあるかというと,経済状況で,経済の多様性,日本 という国自身にはdiversify
された産業が,いろいろな産業があって,経済が多様化された状況 があるというのが強みで9
位です。科学研究も9
位です。サステナビリティ重視という意味では1
位,2位は韓国,3位はスウェーデンだったと思います。ビジネスの効率性という意味では,顧客満足志向であるが
2
位です。社会的責任感,健康安全環境への配慮,これは3
位です。労働 意欲という意味では4
位です。これはいいところです。政府の効率などは1
個もありません。足 かせになっています。これで今度は悪いところはどのようなところがあるかといいますと,図
3
を見ていただければ 分かりますが,経済状況では,経済の回復力。失われた20
年と言われていますけれど,回復し ません。それでも皆幸せに暮らしている不思議な国と言われていますが,48位です。為替レー トについては58
位です。リーマンショックの2008
年以降,110円ぐらいの平均値から80
円ま で落ちて,企業収益に与える影響は12
〜3%だと言われています。ですから,今まで売上高利
益率で
10%以下だった会社は,今軒並み赤字になっています。利益率が 10%でていないと,為
替の影響で今,赤字になっています。韓国はまったく逆になっています。そういう円高を含めた,
生産移転の脅威ということで,皆海外へ出て行って空洞化するのではないかという意味では,59 位です。59ヵ国のものですから,最下位です。
政府の効率性というところでは,年金財源や政府の決断力,高齢化,こういうところが
51
位 であり,海外から投資を呼び込む投資インセンティブが52
位です。法人税率に至っては最下位図 3 2012年IMD世界競争ランキング②
に近い
58
位です。インフラ,大学教育は54
位だそうです。ただ,立教大学さんは,国際化を進 めていらっしゃるので,ここには当てはまらないかもしれないですけれど,知識だけを詰め込ん で,テストはできるけど実際何もできない学生を育てているそういう教育システムが,やはり54
位です。言語スキルとか英語力は,皆さんには当てはまらないと思うのですが,TOEFLなど の平均値で最下位です。58位です。アイルランドがこれには参加しなかったので,58位という ことは最下位です。北朝鮮が入ったか分かりませんが,少し悲惨な状況です。ビジネスの効率性という意味では,高スキルの外国人の活用がうまくできません。大企業の国 際標準対応ができません。優秀な経営幹部,企業家精神が
53,54
位です。外国への排他的文化 とか。クリスマスなどはたくさんやっていますが,そういう排他的文化,経営幹部の国際経験が,ちょっと驚きで
59
位という形で,随分失礼だなと思うのですが,このように世界は見ています。この中で
1
つは,日本の社会システムが抱える構造的な課題がいくつかあるということと,も う1
つは,個々人の意志,努力で解決できる課題があります。特に皆さん方にぜひやっていただ きたいのは,英語スキルとコミュニケーション・スキルです。これから皆さんが社会に出て仕事 をしていく中で,たぶん今までとは違った形で,日本にずっと住みながら生活していくというこ とはほとんどなくなるのではないかと思います。日本人ではあるけれど,いろいろな形で,いろ いろな国の人たちと仕事をしていく体制の時に,コミュニケーションする能力が求められます。英語ができればいいというものではありません。ちゃんとコンテンツを持った,英語。または英 語だけでなく,コミュニケーション・スキルをつけていくというのは,非常に重要になるかと思 います。
こういう中で,今まで日本企業でよくこれだけ競争力を保ってきたなと思うので,それだけの 素晴らしさを持っているのです。これが
1
つ,世界から見た日本という国の客観的な評価になり ます。日本の年齢別人口構成
つぎに,今度は日本の年齢別人口構成ですが,図
4
の2012
年を見てください。今年の1
億3
千万人の日本の人口の年齢別構成です。左側のところが0
歳から14
歳,色が薄いところです。13%と書いてあるのが若年層です。それから,15
歳から65
歳まで,これは生産年齢人口と言われますけれども,社会生産に寄与する年齢層が
63%です。65
歳以上が,老齢人口が24%と言わ
れています。この2012
年のみ丸が2
つありますが,この右側の丸は団塊の世代です。1つの特 徴は,団塊の世代の人たちが65
歳を迎えて,全員年金受給世代に入っています。それと,もう1
つの丸,左側は30
代後半から40
代,団塊ジュニアの世代です。ここの世代は何かと言うと,40
代の人たちというのは,消費需要が一番高いのです。教育であるとか,家を建てるなどといっ たことです。そういう意味で,団塊ジュニアが,今消費を,ここの部分が増えると景気がよくな ると言われているのですが,どう見てもなんとなくバラ色には見えないです。まだ団塊ジュニア がここで,消費を下支えしてくれているというのが現在です。では,昔はどうだったかというと,42年前,皆さんがまだ生まれる前です。42年前,1970年,
高度成長時代が終わって安定成長期に入った頃です。この丸は団塊の世代の人がちょうど
22
歳 で,皆さんと同じ歳ぐらいで,社会に出て行く時です。ここを見ていただくと,きれいに右肩下 がりで,65歳以上の人の人口比率は7%しかないのです。私たちの年金の設計は,これを前提に
してつくられています。それから,今から
22
年前,1970年の20
年後,1990年。ここから失われた20
年が開始され,バブルが弾けた時です。ここのいわゆる団塊の世代が
40
代を超えて,50代に入る。要するに消費人口をピークアウトしたところに入って,それからその後ろの若い世代が,それほど数が激減 していきますから,消費が伸びません。そういう形で起こったのがこの時代です。
さらに将来はどうなるでしょうか。10年後,2022年を見ていただきますと,団塊ジュニア世 代(丸がついています)が
52
歳に入り,消費のピークアウトをする時です。ですから,これを見 ていると,今の日本の今からこれから10
年が,日本が自立で反転成長する最後のチャンスなの ではないかなと思います。さらに
20
年後,2032年,団塊ジュニア世代が退職します。30年後,皆さんはおいくつになっ ているでしょうか。50歳ぐらいでしょうか。そうすると,団塊ジュニアが,皆さんのお父さん よりももう少し若い人かもしれませんが,年金受給世代になって,65歳以上の人が37%になり
ます。ですから,5人で4
人ぐらいの人を支えなければいけないことが起こってくるわけです。人口も
2042
年には1
億3
千万人が1
億人ぐらいに減って,100年後は,今の推計ですと,多 くて6
千万人,今の半分です。少ない場合は4
分の1
の3
千万人ぐらいに減少するかもしれない という推計が,政府のほうから出ています。これがもう1
つ,たぶん確率高く起こるであろう人 口の推移です。今の状態から何が起こるかというもう1
つの視点です。Globalization(グローバリゼーション)
今日はポスト・グローバリゼーションということで,グローバリゼーションについて変遷を見 ていきたいと思います(図5参照)。
昔,80年代,90年代から言われたグローバリゼーションというのは,いわゆる多国籍企業が 世界のマーケットの中で,安いところでつくって,高く売れるところで売ってきました。欧米の 多国籍企業が非常に発達しました。先ほど田中先生がお話しされたように,ウォルマートや
HP,
IBM
など,そういう多国籍企業が全世界において席巻していった時代です。国家を超えて,80 図 4 日本の年齢別人口構成年代,90年代,たとえば大前さんなども,ボーダーレスの時代で,三極でやっていくとおっ しゃっていたわけですが,そういうまさに多国籍企業が活躍した時代です。この時は,グローバ ル化というのは,いわゆる欧米化であったり,それから実際には,グローバル・スタンダードに 合わせていく,そういうものをグローバル化と言ったわけです。特に多国籍企業が国を越えた,
国家の
GDP
を超えた牽引力を持った時代でした。それがさらに今進んで,2000年になってくると,新興国が出てきます。ゴールドマンサック
スが
BRICs
という名前を提案しました。もう今は死語になってきましたけれども,新興国が突出してきて,それが成長してきて,生産拠点ということだけではなくて,実際にはそこがマー ケットとして見直されるようになってきます。それと新興国が出てくると,今度は国家資本主義 という話が出てきています。ロシアや中国の国家資本主義に基づく国営企業の台頭,それから,
新興国のオーナー企業,たとえば,インドのタタやウィプロなど,アジアのそういう新興国の オーナー企業が出てきます。そういうところが出てきて,たとえばスピード感も変わってきます。
意思決定のダイナミズムとスピードという意味では,たとえば,JICAとはまた違いますけれど,
中国の政府の高官がアフリカに行って話をして,「では資金援助しましょう」というと,その翌 週には国営企業が飛んでいって,質はどうあれ鉄道を敷いたり,ダムを造ったり,道路を造った り,そういうインフラ整備をすぐさまやります。そういうダイナミズムが動いてきます。
それから,新興国のオーナーが,実際につぎつぎと,今回でも鴻海(ホンハイ)という台湾の
EMS
の会社はシャープと提携の話をしているようです。そういう彼らが自家用ジェットに乗っ ていきます。いまや中国から自家用ジェットに乗って野菜を買いに来ていますから,そのような 形で,どんどん非常にお金持ちの人たちが増えて,どんどん決めていきます。ですから,日本の 企業はどちらかというと,そこではガバナンスが利いて,いろいろ調べていろいろやっていく中 で,スピード感というところでは,彼らに遅れをとったところがあります。G20というのは,お聞きになったことがあると思います。今まで国際関係の交渉ごとのプラッ 図 5 Globalization
PwC as of 2012.12
トフォームは
G7,先進国 7
ヵ国で話をしてサミットでやっていたのが,2008年の11
月リーマ ンショックの後に,新興国も入れて決めないと何も動かないということで,G20,新興国を入れ た形での組織体が,それがプラットフォームになりました。ただ,それが今どうなっているかというと,さらに今
G0(
ジーゼロ)の時代と言われていて,「20ヵ国が集まって皆で相談しましょう」といっても,何も決まらないです。昔はアメリカが 引っ張っていました。昔はオランダ,イギリスがあって,アメリカが引っ張っていました。そう いうものが今は利かなくなってきて,G0の時代,リーダーのいない時代で何も決められない時 代となってきています。
それとグローバル企業は,欧米の多国籍企業がさらに今度は新興国の国営企業,それから新興 国のオーナー企業が非常な形で伸びてくる中で,さらに今度は日本の企業もそうですけれど,ダ イバーシティで世界中につながっていくような状況になっています。
そうすると,地政学の影響というのは非常に多く受けるようになってきています。ですから,
グローバル企業自身も,たとえばこれは
JIBs
と書いています。JapanとIsrael
とBritain,イギ
リスを言っています。地政学の影響を受ける1
つの例として,たとえば尖閣問題や中国と韓国と 緊張状態が起こっている事例も1
つです。たとえば,日本の1
つのリスクと呼ばれているのは,日米の軍事同盟があるがゆえに,米国と対立している中国が日本から距離を置き出すのではない かという
1
つのリスクがあると言われています。また,米国との微妙な関係で今イスラエルが近 隣諸国と最悪の状況になっています。一触即発の状態になりつつあると言われています。そうい う問題であるとか,イギリスは今度逆にEU
が経済危機の中で,経済危機を脱するためにつぎつ ぎと経済統合をしようとしている中で,ひょっとするとイギリスだけ取り残されてしまうのでは ないかというリスクがあります。そういう地政学の影響が出てきていると言われています。そういう中で,今グローバル企業が直面しているもう
1
つの課題は,グローバル企業の立ち位 置をどう捉えるかということです。これはどういうことかというと,今まで1
つのブランドで単 一商品を世界中に供給していました。たとえば,それを「コカ・コーラ・モデル」と言いますけ れど,コカ・コーラのように,コカ・コーラを全世界に浸透させてやってきたモデルがグローバ ル化の一番極端な部分だとすると,それの対極にあるのがロッキード・マーティンです。ロッ キードというのは,戦闘機をつくっているアメリカの会社があるのですが,ロッキード・マー ティンは,相当大きな会社で,12万5
千人の従業員がいます。95%がアメリカに在住していて,その中の
8
割の売上は,アメリカの米国国防総省です。残りの2
割はアメリカの同盟国に売って います。そういうロッキード・マーティン・モデルと,コカ・コーラ・モデルの立ち位置に大き く見直しが出てきています。たとえば,皆さんは
6
億人いると言われている世界最大の中国のインターネットにはつなげないでいます。それは,や はり地政学上のリスクとつながっています。彼らは,ザッカーバーグは,実際にそれと,最近の
TPP
の問題を見ていても,いわゆるグローバルからブロック経済化への動き もあります。そういう意味で,グローバル企業としての立ち位置をどう考えるかというのが,も う1
つの流れです。未来に対する2つのアプローチ
こういう流れの中で,ではわれわれはどういう形で動いていけばいいですか,変化にどう対応 すれば,未来にどうアプローチしていけばいいですか,という問題があります(図6参照)。
こうした時に,1つの視点として,通常は過去の連続,きょうの続きがあしたにつながるとい うことで,一生懸命同じことをつなげていく。過去の延長線上にある未来に対して現在打つ手を 考えます。これが今までトラディショナルにやられていることですが,果たしてこれで生き延び ていけるのでしょうか。
もう
1
つ。未来をしっかり見据えて現在何をすべきかを考えるということがあります。未来に 軸足を置いて,そこから何をすべきかを考えていくという仮説検証型の2
つのやり方があります。持続可能なのはどちらかというと,今の現状を可能な限り長く維持することです。これは日本 企業が得意とするところです。これで本当につながるのでしょうか。実際は,現状の持続は不可 能で破局を避けるために,今何かをやらなければいけないということが必要なのではないかと思 います。
たとえば,こういう話をする時に,僕の頭の中に浮かぶ日本の企業は富士フイルムです。今,
古森さんが社長をやってらっしゃいます。2000年に古森さんが社長になられた時,デジタル化 が進んで,当時は,皆さんはご存知ないかもしれませんが,写真はフィルムを使って現像して写 真をつくっていたのですが,今は皆デジタルです。当時
10
年前,売上の収益,利益の90%は,
フィルムの収益から上がっていたのです。今は
2%弱です。それを古森さんがデジタル化の波を
知った時に,どうしたかというと,その薄膜技術やいろいろなフィルムをつくる技術を使って,図 6 未来に対する2つのアプローチ
PwC as of 2012.12
新たな仕事を始めて,化粧品や医薬品,液晶の画面に貼るフィルムなどは,富士が
90%のシェ
アを持っています。そういうものに特化することによって,3兆円の企業が,今も売上を落とさ ず高収益を維持してます。それをやり損ねたのがコダックです。だから,今同じことをずっと続けていこうとした企業は衰退し,今未来から見てそれをやった 企業が生き残っています。そういうことが起こるわけです。IBMもそうです。ガースナーが
90
年代に入った時に,その時,滅び行くダイナソー,恐竜と言われてIBM
は揶揄されて,大きな メインフレームのハードウェアを売っていた会社から,ガースナーが方向を転換してサービス業 に転換しました。それで,40万人いた人を入れ替えていき,今も40
万人弱いますが,そのうち の20
万人ぐらいはインドです。15万人の人がインドにいて,人は全部入れ替わっているけれど,会社の中身は変わっているけれど,同じ名前で,いまや
IBM
の売上の収益の6
割はサービス業 で,ハードの売上は3
割に満たない状況になっています。そういう形で,常に何かを打っていく ということは,未来から考えるということです。創造的破壊─
Creative
これは,例えですがそういう中で,今の日本の企業に必要であるのは,巴投げです。要は,ク リエイティブにイノベーションを起こしていかなければならない時に,自分も巴投げで,ひっく り返って投げなければいけないので,結構勇気が要るのです。ただ指示するのではなく,身を投 げ出してやるわけです。こういうことをやる企業が増えてこないと,日本は再生していかないの ではないでしょうか。
ここで怒られてしまうかもしれませんが,たとえば,武田薬品の長谷川さんが
CEO
です。経 済同友会の代表幹事も務めています。彼がやっている武田薬品も,日本では超優良企業で,医薬 ではナンバー1
の会社ですけれど,グローバルから見ると15
番目です。それで,彼自身が「俺 は2
兆円を使った男だ」とおっしゃいますが,ここ数年で2
兆円を使って,ナイコメッドなどの 医薬品会社を買収して,それまで15
ヵ国しかリーチしていなかったものが,今では88
ヵ国に販 売拠点を持つグローバル企業になりました。実際の本社機能はスイスにあり,R&Dはアメリカ のシカゴに置くという形で,グローバル企業に転換していっています。それも日本にいたら超優 良企業を,このままでは駄目だということで変えた,巴投げをかけた会社ではないかなと思いま す。こういうことをやっていくためには,リーダーが非常に大事になります。経営者,リーダーが,
実際には何をやるか,どういう形でやるか,皆さんの気持ちを
1
つにしてやるよりも,利害関係 者のあれこれを全部含めて,「こっちに行くんだ」と言えるリーダーがいるかどうかということ にかかっています。転換期を迎える日本企業に必要な戦略は?
そういう中で,転換期を迎える日本企業に必要な戦略といった時に,ビジネスの成長を考える 時に,まず図
7
にある2
つ。コントロール困難な要因と可能な要因とを考慮する必要があります。困難の要因は,外部要因とミクロ的要因の
2
つに分かれます。コントロール可能な要因は,社内 のプロセスや人材育成など,そういうものがあったとしたら,企業戦略というのは,この困難な 要因と自分の可能な要因をどううまくつなげ合わせていくかが戦略になるのです。これはマネジ メント・コントロールもそうですが,Howの部分です。ただ,今一番必要なことというのは,アンビションとかビジョン。何をすべきか,ミッション を含めてどこへ向かうかということを,経営者は決めていかなければいけません。ここを間違う と,やはり同じことを一生懸命やっていっても,潰れてしまうコダックのような形になってしま います。
今日お話ししたかったのは,次のようなことです。日本の中で,グローバル化の中で,たとえ ば企業の経営幹部とかマネジメント・スキルなど,そういうところを海外と比べると劣っている と思われています。もう
1
つ言葉の壁の問題があります。それから,政府が何も決められない,いろいろな要因がある中で,連続でこのまま行っていいのかどうかというのは,20年間成長し ないできたけれど,20年間来て皆幸せだったら,このまま
10
年後もなるかというと,どうもそ うではないらしいわけです。それからグローバルの
G0
の時代から,実際のダイバーシティを含めて,いわゆるコカ・コー ラ・モデルからロッキード・マーティン・モデルの間の立ち位置のどの間にそれを落とし込むか ということが大事になってきます。その中で,皆さんはどういう形で行いますか。会社をどうし ていきますかということだと思います。変化に対応するやり方としては,変化にできるだけ早く対応するやり方,リアクティブに,た とえば雨が降ってきたら傘を差すように,何か起こったらそれに対して行動を起こすわけです。
間に合えばいいですけれど,今,そのスピード感で間に合わない状況になる時に,プロアクティ ブに変化を予測して,変化の準備をしておいて,未来から見て何かいろいろなことをやってくる のです。富士フイルムもそのようにやってきたわけです。かつ,それだけではなくて,彼らが やったことは,クリエイティブに自ら率先して変化をリードすることが,今一番大事なのだと思 います。
今日,この後,荒川さんがたぶんブリヂストンの話をされると思います。ブリヂストンも,も う昔からグローバル化をやっていらっしゃって,1988年にファイアストン,ブリヂストンより
図 7 転換期を迎える日本企業に必要な戦略は?
PwC as of 2012.12
大きな会社を買収して,そのシナジーを構築することで,今世界ナンバー
1
のシェア,世界一の タイヤ・メーカーとして君臨されているわけです。きょうはたぶんその話があると思いますが,あの時にそういう危機感から何かをやるわけです。常に一歩前に打って,経営者の視点とイノ ベーションを出していくというのが非常に大事になってくるのではないかと思います。
ポスト・グローバル時代の価値創造企業とは
ですから,21世紀の持続可能な企業,価値創造企業とはなんだろうと考えた時に,私は答を 探すのではなくて,皆さん,1人
1
人が答をつくっていくことだと思います。人に教えてもらっ たことをやるのではなくて,自分の頭で考え,自分の思いでやっていきます。これがすごく大事 です。もう
1
つ皆さんは,いろいろな就職をされて,たぶんほとんど内定が決まって,立教大学は国 際的な大学なので,引く手あまたで皆さん決まってらっしゃると思います。しかし,脅かすわけ ではないですが,今の優良企業は,30年後に優良企業とは限りません。フォーチューン500,ま
たはトップ20
にある会社,30年前と今,全部違います。残っているのは本当に数社だけです。ですから,そういう中で,自分がどういう形でやるかと考えた時に,これはジグソーパズルの ピースを思い浮かべていただきたいのです。このピースを見た時,これを情報だと思ってくださ い。このジグソーパズルのピースを組み上げていくというのが,日々の経営判断としてやってい くことなのです。
ただ,このピースは,全部のジグソーパズルのピースが揃っているかどうか分からない状態で す。または,違うパズルのピースが混ざっているかもしれません。ノイズが入っているかもしれ ません。はたまた,いつもあるジグソーパズルの箱にある絵がなくて,完成図なんか誰も見たこ とがないかもしれません。そういう中で組み上げていくのが,経営判断ということです。そうい う中では,やはり自分を信じてつくっていくしかありません。
もう
1
つ,コップの水を見た時に,これはまだ半分あると思うか,もう半分しかないと思うか,これで全然経営判断は違ってきます。そういう中で,これを使って何を行っていくのでしょうか。
やはり,皆さんが何をするか,思いによって価値が変わってくるということだと思います。
今,何もしないことが一番リスクになってきている世界です。じっとしていることはけっして いいことではなくて,一番のリスクです。何か動いて前に出なければいけません。その時に何を していくべきかと考えていく時に,やはり思いから始めたいと思います。
What are you doing?
最後に皆さんに,これからやっていく
1
つのヒントとしてお話ししておきたいのは,ドラッ カーのマネジメントに出てくる有名な話です。旅人が歩いていると,石を削っている石工に出会 いました。1人目の人に出会って,「あなたは今何をしているのですか?」と尋ねたら,「石を削 れと言われたから削っているのです。日も暮れてきたし寒いし,早く帰って食事して寝たいので すが。これは仕方がありませんね。生活のためにやっているのですから」と答えました。最初の 人がそう答えました。次の石工はなんと答えたでしょうか。手を休めずに「私は,この石工の技術力,これを世界ナ ンバー
1
になろうと思ってやっています。技術の習得をしているのです。来年は,これの世界大 会に出て,私はナンバー1
で優勝したいと思って自分のスキルを高めています」という石工に出会いました。
それから
3
人目の石工に会ったら,「何をしているのですか」と尋ねたら,非常に嬉しそうな 遠くを夢見るような顔をして眺めながら,「実は,世界で一番美しい教会の土台をつくっている のです。この教会ができた時には,世界中から人が集まってきて,その美しい教会に集まるので す。その教会の一番大事な土台を私はつくっているところなのです」「もう暗いし,帰らないの ですか?」「いや,年内にどうしてもこの土台を終わらせなければいけない。工程から少し遅れ が出ているので,きょうはどうしてもやりきらなければいけないところまでやって,年内に土台 を築き上げたいのです」と言って作業をしています。同じ作業をしていて,黙々と作業をしているのも
1
日だし,自分の技術の習得というモチベー ションを持ってやるのも1
日ですし,やはり世界一美しい教会をつくろうと思って燃えてやるの も1
日です。皆さんはどれをやりたいと思いますか?ですから,経営の判断を行う中で,思いというのはすごく大事で,世界一美しい教会をつくっ ているのだと思ってやることによって,同じ石を削るクオリティも変わってくるし,結果も変 わってきます。そういう意味では,思いからまず始めるというのは,とても大事になると思いま す。
ですから,今,企業戦略などで,いろいろな形で,経営者の方たちは,非常にいろいろなもの にフェイシングしながら,きょう話したような,このまま続いてはいかないだろうというものを,
見ないふりをして行けないところまで来ています。日本も最後のところで,この
10
年で,再生 反転ができなければ,37%の人たちを皆さんが,50%の人でサポートしていかなければいけませ ん。サステイナブルではないのです。そういう中で,われわれは何をしていくのか,何に向けて 自分が生きていくかということがとても大事になります。日本は,先ほどのIMD
の統計で,あ れほど酷いことを言われていますが,これだけ競争力を持ってやってきています。たとえば,ブ リヂストンもそうですし,グローバル企業で世界ナンバー1
のシェアを持っています。たとえば,コマツなどでも,キャタピラと伍してやっていきながら,彼らとしてもダントツ経営ということ で,ダントツ商品,ダントツサービス,ダントツソリューションということで,コマツの全建機 に
GPS
が入っていて,世界のどこで動いているか,全部把握できるようになっています。それから,皆さんもテレビで見たことがあるかもしれませんが,実際に山でコマツの
300
トン のトラックが無人で動いています。無人で動いて,運転手がいない中で5
センチの誤差で全部が 運転できます。それも,毎日経路が変わります。ゴルフ場のカートのように下にラインが引いて あるのではなくて,全部7
つぐらいのGPS
でリンクして動かしている,そのような形でやる競 争力は持っています。ですから,日本でも素晴らしい企業はたくさんあります。ただ,その中で皆さんがこれから仕 事をしていく中で,思いはとても大事です。また,経営者の方たちが,皆さんにやる気を与える ための環境づくりをする,そういうアンビションを与えてやっていくということは出てきます。
その中で,その思いを持ってやるかどうか,皆さん
1
人1
人の課題です。何かあったらこの石工の話を思い出して欲しいのですが,生活のために削っても,自分の技能 のために削っても,素晴らしい教会をつくる,また日本の再生のために俺はやっているのだ,と いうことをやって