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アメリカ自動車工場の苦闘(上) ──アメリカの工場・日本の工場──

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(1)

──アメリカの工場・日本の工場──

石 田 光 男

目次

1章 はじめに

1−1.問題意識 1−2.方法 1−3.調査 2章 組織的特徴

2−1.経営組織 2−2.組合組織

2−3.階層構造(組合員)

2−4.階層構造(経営者・監督層)

2−5.労使関係への含意

3章 生産計画・勤務体制・配置をめぐる労使関係 3−1.生産計画に伴う勤務体制の労使協議 3−2.勤務体制の上限

3−3.労使協議の違いの含意

4章 方針管理と労使関係−組織と担い手−

4−1.概要 4−2.A工場 4−3.J 1工場

4−4.J 2工場 (以上,本号)

5章 品質管理と労使関係 (以下,次号)

5−1.概要 5−2.A工場 5−3.J 1工場 5−4.J 2工場

6章 能率管理と労使関係 6−1.稼働率

6−2.要員水準漓−量産に先だっての要員設定−

6−3.要員水準滷−量産後の効率化−

―61 ―

(2)

1章 はじめに

1−1.問題意識

この論文の副題と似た著名な本がある。R. ドーア『イギリスの工場・日本 の工場』である。ドーア氏ほど行きとどいた労働の風景の記述はできないけれ ど,労働は市場経済が課す規律によって一様に造形されるものではないという ことを明らかにしたいと思っている。産業により国々により,そこで働く人間 達が異なった歴史や価値規範を担っているからである。労働が国々によって異 なるとなれば,企業活動も経済も一様でなくなり,それぞれの国柄が存続す る。競争という市場規律によって労働のありようは一様化を迫られるが,その 一様化の圧力は,労働の担い手である人間が国柄としての国々の歴史や価値規 範に制約されているので,市場の規律と組織の価値規範との鐚藤が避けられな いのが普通である。メガコンペティションと呼ばれるようになった市場的規律 と国々の歴史や価値規範との鐚藤の中から国柄に応じた競争力が構築されると 言ってよいだろう。したがって,この市場という一様性と国柄という個性との 鐚藤の詳細な事実こそが国々の企業活動の,したがって労働のリアリティーに 迫るたった一つの途である。そこがよくわからないと結局,その国の労働はよ くわかったことにならないのである。

そして,このような国々の労働のわかりかたがあってはじめて私たちの国=

日本もようやくにして「わかる」ことができる。自らの苦しみを「わかる」た めには他者の苦しみがよくわかることがなくては駄目なのだろう。

これは国際比較研究にあたっての私が常日頃抱いている一般的な問題意識で あるが,特にこの研究で明らかにしたかったことは次の点である。

(1)アメリカをわかりたい

米国自動車工場の労働はテーラリズムやフォーディズムとして概念化されて きたが,トヨタの工場をモデルにした「リーン生産方式」との競争に直面し,

―62 ―

(3)

「チーム・コンセプト」の導入によって,日本との競争力のギャップを埋める 改革が80年代後半以降進められたという報告が多くなされてきた(1)。しか し,労働の事実を明らかにせずに「リーン生産」とか「チームコンセプト」と かの多分にイメージによりかかった概念によって事実を説明したかのような装 いをとる先行研究があまりに多かったのではないか。簡単に言えば,肝心かな めのアメリカ自動車工場の事実が書かれておらず「読んでも本当のところはよ くわからない」研究が多産された。アメリカの自動車工場の事実は教科書的な 説明にとどめ,つまり,フォーディズムの市場ニーズへの不適応を概念的に説 明するにとどめ,日本の工場はフォーディズム的な制約から自由で柔軟な労働 の地としてバラ色に描く。このバラ色の日本へのキャッチアップのために,つ いに米国自動車工場も日本のように職場労働者の参加を組み込んだ職場組織の 改革が始まったのだと説明するのである。その職場改革を「チームコンセプ ト」と呼ぶ。このようにして「チームコンセプト」という言葉が流行語として ビジネス界を賑わしてきた。

世の中の風向き(ファッション)を情緒や感情に訴えて表現する分野があっ て勿論よいと思うが,それは時々刻々そういうメッセージの産出を業務として いるマスメディアの仕事ではないのか。ゆっくり考え,よくわかったことをわ かったように記述することが,フィールドワークと呼ばれる分野が社会科学の 学問領域として認知されるための最低の要件であろう。そのような記述はたし かに迅速さに欠ける恨みがある。だが,歴史や文化に埋め込まれた人間はファ ッションほどには迅速に変化できない存在であり,変化しゆく時代の風向きに 変わらざるものとしての自己の存在の確認に,生きている価値をかろうじて見 いだすのが人間のいとおしいありさまである。そもそも時々刻々の情緒的メッ セージに身を晒し続けると,ついに本当に分かったことは何一つない人間がで きあがる。私もそういう人間になりかかっていた。だから,ファッションとし ての言説に,大げさに言えばけんか腰で向かわないと自分が空虚になってしま うのである。社会科学の仕事は,そういう流行語のけんか腰の解体作業になら ざるを得ないのではないか。

―63 ―

(4)

さて,そもそも「チームコンセプト」とは何なのか。ジョーブローテーショ ンのことなのか。チームにリーダーを置くということなのか。しかし,労働組 織が「チーム」の形態をとるのは当たり前のことではないのか。それが何故,

作業組織の革新と言えるのか。通常の日本人はそう思う。そもそも,作業組織 の革新は工場の品質向上やコスト低減に貢献するようになるから革新と呼ばれ るはずのものである。アメリカ自動車工場の「革新」のわからなさは,端的に 言うと,作業組織の改革と工場の品質向上やコスト低減等の工場全体の業績向 上との制度的連関がわからないということである。だから,まず第一に,「チ ームコンセプト」とは具体的にどのような職場組織のことを言うのか,第二 に,それが何故,いかに工場の業績向上に不可欠な改革であったのかを正確に 分かる必要がある。第三に,アメリカの場合,市場の規律と歴史や価値規範と の鐚藤の処理方策として「チームコンセプト」があるわけだから,「チームコ ンセプト」それ自体は,単に問題解決=改革の次元でとらえるだけでは不十分 で,問題の未解決・新たな問題の醸成の次元でもとらえる必要がある。

このように,きちんと「わかる」ためには,日本の自動車工場を観察したそ の眼を持ってアメリカの自動車工場を観察する必要がある。しばしば国際比較 研究の落とし穴は,国際比較研究と名うって,実際の研究は自国の研究者が自 国の研究を行い,それらをいくつかの国について集めてみせるだけの研究に終 わることである。「よくわかる」「胸の内に落ちる」という次元の研究でないの ならば,それも有効な方法であるが,ある程度以上の「わかり方」を求める以 上,そのやり方では駄目である。自国の研究者は自国の対象に対して驚きや感 動がないからである。そうした生気のない単なる観察と記述は「わからなさ」

を増幅するだけである。

だから,この研究ではアメリカの自動車工場を「こうわかった」という観察 の結果を書こうと思う。

(2)日本をわかること

この研究はアメリカ自動車工場に主たる関心が置かれているが,アメリカの

―64 ―

(5)

鐚藤がわかればわかるほど日本が見えてくるということが,私の場合起きた。

かつて特に1970年代以前,日本の労使関係研究は労使の対等性や労働組合 の自律性の点で問題含みであるという指摘が普通であった。日本の対極には欧 米が置かれていて,欧米の労使関係(欧と米の区別は重要であるが)がそれぞ れ自国内での鐚藤の果てに成立しているという次元でとらえられていなかった ために,常に日本の労働は立ち後れた存在と判定されてきた。欧米の市民社会 が理想とされる時代であった。欧米へのコンプレックスを心情的前提にして,

日本が欧米に近づくことが目標になりうる時代であった。

1970年代の欧米の苦境と日本の引き続く経済的躍進を受けて,1980年代は

「日本的経営」の時代であった。集団としての労働である労働組合の対等性や 自律性の議論は瞬く間にかき消され,個々の労働そのものが時に「働き中毒」

として,時に「多様性」として特徴付けられ,企業組織の集団的・画一的規律 が個々人の自由を抑圧しているという言説が流行した。集団から個の時代へと 議論は急速に移ろった。その背後には日本的経営の競争力が,その原因は様々 に論じられたが,貿易摩擦に表現されたように圧倒的な事実として存在したた めに,競争力の議論とは別にむしろライフスタイルとしての個々の労働が論じ られるに至った。つまり1980年代という時代は国際競争力を一旦横に置い て,それとは別に個々の労働や生活の革新が論じられた時代であり,根源的な 全体像を問わないという意味において社会の認識論としても個別化を特徴とし ていた(2)

そして今日,80年代の個の時代の議論の延長でワークライフバランスが政 策課題にくっきりと浮上したが,他方で日本の経営の競争力については,バブ ル崩壊後の失われた10年の後遺症からか,概して沈黙がちになっている。個 の時代という優しげな政策理念とは縁遠い,余剰人員の削減,業務の外部委託 という厳しい方策が今の収益を確保している以上,競争力と個の尊重の議論と はしっくり折り合わないからである。

このように,過去から現在にいる言葉の移ろいは,日本の企業組織の特性を よくわからないままにその時々の気分によって散布されてきたものであって,

―65 ―

(6)

結局,私たちは今どこに立っているのかが分からない状況に置かれている。

アメリカをわかることによって,日本の組織の特性をわかることがこの研究 の副産物である。「コミュニケーションの希薄化」などという一見して無内容 な課題が,昨今企業から最重要課題として発せられるのは何故か。それが深く 日本企業の競争力とかかわっていることを理解できるようになりたいと思 う(3)。このわかった次元から,もう一度集団と個人の関係やそれと不可分の関 係にある日本企業の競争力についてしっかり考えても遅くはないのだ。

(3)研究方法を錬磨し適用すること

(1)にアメリカの自動車工場の改革がわからないということを述べた。研究 の数はおびただしいにもかかわらずである。そうなると,労働研究自体の,日 本に限らず世界中の研究力の衰弱に根拠があると私は確信めいたものを抱くよ うになった。80年代の中葉から90年代にかけて寄ってたかってこの「生産シ ステム問題」(分かりやすく言えばトヨタへのキャッチアップ問題)に世界の 労働研究者は群がったが,上に述べた結果に終わったのは,研究力不足に原因 があったと言わざるを得ない。

この労働とその組織業績との連関は,しばしば,多変量解析を通じて連関の 有無を論ずるのがアメリカという学問風土での習い性になっているが,そのよ うな変数相互の連関で何と何が有意であるかが示されても,品質の向上のため に「作業組織をこのように変えた,変えた結果このような変化がみられた」, という程度の素朴な理解はなかなか得られない。

この素朴な理解を得るためには,日本の自動車工場を観察したその眼を持っ てアメリカの自動車工場を観察する必要がある。この観察方法とは何か。

1−2.方法

(1)経営学批判と制度派の経済学

経営組織の分析であるから,通常は経営学,とくに経営管理の知見から学ぶ ことが穏当であろう。しかし,いくつかの本をにわか勉強しても,これは全く

―66 ―

(7)

使えないということがわかった。私の調査手法は当事者にヒアリングする手法 である。その際の重要な点は聞き取り項目の作成である。経営学の体系はその 作成のよすがにならない。ヒアリングする項目が立たないということは,本来 実証的でなくてはならないこの学問の性格に根本的な問題があるということで ある。

私の不満の要点だけ触れよう。

経営管理の教科書はその内容を,(ア)組織構造,(イ)個人属性,(ウ)組 織過程に区分けする(4)。経営が集団で組織目標を達成しようとする行動である とすれば,その学問体系も(ア)集団全体をどのような役割の小集団に区分す るか=組織構造,(イ)集団を構成する個々人の動機付けをどう高めるのか=

個人属性,(ウ)その組織とそれを構成する個々人が組織全体の目的を達成す るために「計画し」「リードし」「統合する」=組織過程という三つの構成にな ることはうなずける理屈である。

これが単に概念だけの展開になることをおしとどめ,実際の経営行動との照 応を確保し,事実と概念との交流による事実の概念化という認識の錬磨の過程 を学問がその内側に方法として含むことが実証的な社会科学であるための要件 であると思う。しかし,上記の三つの入れ物=(ア)組織構造,(イ)個人属性

=動機付け,(ウ)組織過程に,経営のどのような事象を観察し拾い上げ,は め込むのかという点に配慮がまったく施されていないのが経営学の特徴であ る。経営組織に関わる事象・事実は無限であり,無限の事実から何を切り取る のかが恣意的であれば,その恣意性に応じてその観察結果や分析も恣意性を免 れない。こういうわけで経営学にあって,概念の自己展開を補足する事実は,

どうしても「エピソード」たることを免れないのである。経営学の分野の類書 は総じてこの恣意性=おもいつきを特徴としており,客観性の担保がないとい う点で,経験科学としての致命的欠陥を免れていない(5)

この恣意性を克服するためには,組織の様々な事象の表現物=記号はルール であるという観点にしっかりと立脚する必要がある。市場とは異なる経済組織 の社会科学的特性を最も深く考え抜いた作品は経営学の分野ではなく,経済学

―67 ―

(8)

の 一 分 野 と し て の 制 度 的 経 済 学 で あ っ た。そ の 最 高 峰 は ウ ィ リ ア ム ソ ン

(1975)であろう。ウィリアムソン(1975)の要点は,企業組織の市場に対す る優位は「符号=codes」の開発力にあり,価格を媒介にした取引に依存する 市場に比べて,誘因=incentiveと統制=controlの二つの機能を果たす「符号」

による取引のほうが経済的であるという点にあった。組織内の人間活動は誘因 と統制の「符号」によって規律され,経営行動はそうした「符号」を梃子にし て組織の目的を達成する道筋として観察され叙述されることになる。勿論,こ の議論には欠陥もある。「符号」による組織内取引が市場取引よりもコスト増 になる場合もあって,市場の失敗に対する組織の失敗を十分に考慮に入れた理 論構成になっていない。にもかかわらず組織は「符号」の体系であるという認 識は,上に見た経営学の理論構成にない卓見が含まれている。経営を抽象概念 と「エピソード」でパッチワーク的に貼り合わせて描いたことにするという杜 撰な学風に対して,経営行動の集約点が「符号」にあるというこの一点に学と しての規律があるばかりでなく,「符号」を発見し「符号」という事実に基づ いての記述可能性の確保の優位は動かしがたい(6)

こうしたウィリアムソン(1975)の知見をくぐって再び経営学の体系に戻る と,老婆心ながら,経営学も今半歩のつめを施せば実証科学への通路をつけら れることもはっきりしてくる。

まず,上の(イ)個人属性=動機付けは,様々な人間観に応じて種々なる理 論が,と言うより種々なる意見が並立しているが,それは人間が多層の意識か らなる存在であるから当然のことである。だからいずれの動機付け理論が正し いかの詮索はほとんど無駄な作業であり,ともかく労働に対して賃金を支払う ことを止める企業活動はあり得ない以上(7),賃金という「符号」に動機付けに 関する様々な理解が制度として凝結しているとみるのが素直な理解である。ウ ィリアムソン(1975)の誘因=incentiveの「符号」がこれである。「符号」の 読み解き方には各様の解釈があってよいが,賃金という「符号」を外した動機 付けの分析は,分析の客観的・制度的基盤を欠いた分析であり,所詮は個人的 意見の表明に堕してしまうのが普通である。

―68 ―

(9)

(ウ)の組織過程は「計画し」「リードし」「統合する」過程であると経営学 は言う。これは素直に考えれば,組織目標を設定し,目標達成に向けて部門が 努力し協力する過程であるから,その努力や協力の進捗を目標に照らして管理 し,目標達成を促す仕組みがこの過程の命となる。これが首尾よく進むか進ま ないかは,「計画」に無理があるとか,「計画」の前提になる「経営戦略」に問 題があるとか,あるいは,努力や協力を引き出す「リーダーシップ」に欠ける ところがあるとか,「統合する」にも部門間の利害調整が円滑でないとか,外 部環境が予想以上に変化したとか,様々な問題が付きまとうことは自然のこと である。そういう種々の問題がつきまとうにもかかわらず,枢要点は進捗管理 のよすがとなる「符合」の設計にあるということは動かない。この「符号」

は,したがって,組織内部の進捗管理の手段となっている「部門業績管理指 標」ということにならざるを得ない。ウィリアムソン(1975)の言う統制=con- trolの「符号」である。経営学は,この枢要点を外してそれに付帯する種々な る問題を,個人的意見表明としての思いつきを語ることに腐心する傾向が顕著 である。「経営戦略」,「リーダーシップ」「部門間利害調整」などが人気のトピ ックスになるのはそのためである。その背後にある地味な「組織業績指標」が

「符号」として組織過程の日常を司っていることを軽視しがちである。これは

(イ)の動機付け論と同様に抑えるべき軸心を欠いた議論の作法と言わなくて はならない。

最後になったが,(ア)の組織構造は,(ウ)の組織過程との内的連関が深 い。組織過程の諸問題は「部門業績管理指標」上の問題として認識され,その 抜本的解決は「部門」自体をどのように編成し直すかという課題として認識さ れるに至り,組織構造の改革として具体化するからである。現状分析ではそう した中期的な動態はとらえられず,与件として描かざるを得ない。なお,組織 構造は端的に「組織図」という「符号」に表現される。

要約すれば,表1−1のようになる。経営学の概念+「エピソード」というふ しだらな記述の仕方を,「符号」の体系として翻訳し直す必要があるというこ とである。

―69 ―

(10)

(2)労使関係論の方法

労使関係論=Industrial Relationsは「雇用に関する規則=ルールの研究」で ある。したがって,上述したウィリアムソン(1975)の,組織を「符号」の体 系としてみる観点とは親和的である。

だが,「雇用に関する規則」の研究と言っても,この研究の伝統は,その規 則を手続き的ルールと実体的ルールに区分し,主として手続き的ルールの分析 に注力してきた。それは敵対的な労使関係,労働組合の強力な団体交渉力を与 件としたときに,集団的な紛争解決を通じて安定的な労使関係を確保するとい う要請に強く影響されていた。集団的な紛争解決はすぐれて手続き的ルールの 制定運用にならざるを得ないからである。

しかし,労働組合の力量が低下し,敵対的な労使関係が後景に退くと労使関 係論の伝統的手法は現実の雇用労働問題の中心を射抜くことができなくなる時 代を迎えた。Human Resources Management(HRM)=人的資源管理論が登場す る必然性がここにあった。この変化を平易に言えば,労働は交渉=合意形成と して描くのではなく,管理=人事労務管理として描くという変化である。しか し,HRMには,管理といっても規則とか「符号」という記号論的方法への自 覚がない。これが経営学と同様に学問の致命的欠陥になっている(8)。HRMが 企業の人事部の業務をなぞることに終始している所以である。集団的取引の比 重が低下して,その分だけ取引的様相は後景に退いた。しかし,そうであって も雇用が結局「働いていくらになるのか」という取引に司られている事実は動 かし難く,その取引は組織内の取引である以上,規則に則る以外にないのであ るが。

労使関係論の方法的課題は,したがって,「雇用に関する規則」を個別的取 表1−1 経営学の概念の「符号」への翻訳

経営学 ウィリアムソン(1975) 労使関係論 組織構造

個人属性 組織過程

誘因という「符号」

統制という「符号」

組織図

賃金表(賃金論)

部門業績管理指標(仕事論)

―70 ―

(11)

引にもいかに拡張すべきかとして立てられている。

詳細は石田(2003)を参照いただきたいが,要点は次の三点である。

漓伝統的方法が「雇用に関する集団的取引」を主たる対象にしていたのに対 して,新しい方法は個別的取引をも対象にしようとすれば組織内の全ての取引 を視野に入れなくてはならない。個別的取引は,上司対部下の「仕事の配分や 評価」を基本的単位としており,組織はこの上司部下関係の集合であるから,

結局この取引の全体は組織内の全ての取引を視野に入れなくてはならない。

滷伝統的方法は集団的取引の表現である団体交渉とその帰結である労働協約 が重要なルールになっていた。その労働協約はルールである以上,手続き的側 面と報酬や仕事に関する実体的側面とを規定しているが,報酬も仕事も集団的 画一的性格が濃厚であるために,取引の動力=ダイナミズムはそのような画一 的な実体規定をめぐる集団的紛争にあり,ルールの真骨頂はその処理様式=手 続きルールにあった。これに対し,新しい方法は,個別化した取引の下では集 団としての結集力を字義通り失っているから,この取引の動力=ダイナミズム は個々人の「仕事とその評価」そのものにある。紛争の種はあっても,それは 個別化し内向化し,その処理様式も集団的紛争の処理とは異なってくる。あり うべき紛争は「報酬と仕事」の実体的ルール内部にその未然防止の様式として 埋め込まれる傾向が強い。このような訳で,注力すべきは「報酬の規則」と

「仕事の規則」それ自体となり,ウィリアムソン(1975)の言う「誘因」とい う「符号」は「報酬の規則」として,「統制」という「符号」は「仕事の規則」

として翻訳され,労使関係論と一致せざるをえないことになる。

澆新しい方法の最難関は「仕事の規則」である。労使関係論の伝統では「働 いていくらになるのか」のルールの内の「どのくらい何を働いて」を規定する ルールである。これはいかにも狭い把握である。個々人が「どのくらいのレベ ルでどんな働き」をしたかは,労使関係論の伝統では,労働組合や職場集団の 規制というルールを記述すればそれで済むとしてきた。この集団的規制が脆弱 になると,仕事は経営によって与えられるものとしてまずは記述されなくては ならない。仕事総量の個人別配分と,その個人別配分を当初の目標通りの成果

―71 ―

(12)

として完遂させる仕組みの記述が求められる。この領域はすでに経営そのもの の領域であるが,上述したように,この記述の手がかりを求めようとする学風 が経営学には見事に欠けている。だからこそ,ウィリアムソン(1975)がこの 問題を「統制」の「符号」と呼んだのは卓見なのだ。この「統制」の「符号」

は組織業績を把握する事項(アイテム)と実績値である。これに付帯して,そ の進捗を円滑にする「コミュニケーション」のあり方,もっと絞って言えば,

進捗の「会議と運営」が「符号」の付属物である。

以上の説明を要約すれば表1−2の通りである。表中の◎は最も注力すべき 事項である。大まかには,手続き的ルールから実体的ルールへ,実体的ルール における仕事の規則の重視への転換である。

(3)この調査での具体化

以上述べたことをこの調査で具体化するにあたって,留意したのは次の諸点 である。報酬の規則と仕事の規則は,それぞれ賃金論と仕事論と呼んでもよ い。

漓労働を「働いていくらになるのか」という観点,つまり,取引関係として 認識し,取引を通じてとりあえずの合意を形成するプロセスとして認識する。

つまり労使関係論の基本に戻って正攻法で接近するということである。

1−2 労使関係論の方法的伝統と革新

労使関係論の伝統 労使関係論の革新

手続き的ルール 経営の決定 政府の決定 労働側の決定 労働協約 ◎ 政労使の決定

経営の決定 ○ 政府の決定 労働側の決定 労働協約 政労使の決定 実体的ルール 報酬の規則 ○

仕事の規則 ○ 配置の規則

報酬の規則 ◎(誘因の「符号」) 仕事の規則 ◎(統制の「符号」) 配置の規則

前提 雇用に関する集団的取引 組織内部のあらゆる取引

―72 ―

(13)

滷この「働いていくらになるのか」は賃金制度を見ればよいが,「働いて」

の側は,大きく定常業務と非定常業務とに区分するのがわかりやすい。定常業 務は,具体的には生産計画と勤務体制や配置をめぐる取引で決定され,非定常 業務は工場の方針管理とその実行の成否=取引(合意)で決まる。以上は石田

(2003)の方法である。

澆だが,非定常業務は,小池(1991)の強調する生産労働者のホワイトカラ ー化に相当する業務であるが,取引関係だけでは済まない。団体交渉であれ,

個別の取引であれ,「やれ」「やります」というだけでは非定常業務は遂行でき ない。「できる」かどうかが問題になる。技能=担い手の問題である。方針管 理によってプログラムとして示される非定常業務と遂行体制は担い手の問題を 浮上させる。

潺,賃金論と仕事論は雇用関係を労働と報酬の短期時取引としては妥当であ るが,仕事論の短期的取引を円滑にするためには技能=担い手=人材育成が不 可欠となり,雇用の短期的取引と中期的取引の整合性が避けられなくなる。

簡単に言えば,賃金論と仕事論での分析の不備は小池熟練論で補足される必 要があるということだが,労働研究を熟練論から入り熟練論で終わるような労 働研究=熟練論=技能形成論という観点に方法を萎縮させてはいけない。入り 口は賃金論と仕事論から入り,そこから仕!!!!!!!!!!熟練論をくぐ り,再び賃金論と仕事論に回帰する。熟練論は賃金論,仕事論と異質なもので はなく,短期(賃金論と仕事論)と中期(熟練論)の取引として,しかるべく 位置づける,そういう叙述ができるかどうか。

そういうわけで,賃金論と仕事論からぎりぎり押していって,担い手の問題 が見えてくるという叙述の仕方にこだわりたいと思う(9)

1−3.調査

この研究のアメリカ調査については同志社21世紀COEプロジェクト(平 成15年度採択;名称「技術・企業・国際競争力の総合研究」拠点リーダー中 田喜文同志社大学ビジネス研究科教授)の中のグローバル人的資源管理プロジ

―73 ―

(14)

ェクト(プロジェクトリーダー石田光男)の研究成果の一部である。また,日 本企業の調査については,労働政策研究・研修機構の「自動車産業の労使関係 と国際競争力−生産・生産技術・研究開発の観点から−」(2003年より3年 間,研究主査石田光男)及び科学研究費補助金(研究課題名;「国際競争力の 組織的基盤」平成18年度・19年度,基盤研究(C))の研究成果の一部であ る。

以下,アメリカの工場はA工場,日本の二つの工場はJ 1工場,J 2工場と 表記する。日本の二つの工場に共通の特徴を語る際にはJ工場と表記してい る。

2章 組織的特徴

2−1.経営組織

A工場とJ 2工場は通常の組織である。J 1工場は旧来の課組織以下が,「モ ジュール」組織となり,課単位に生産,品質,保全,生産技術等を集約して課単 位の組織業績が把握できる組織となっている。図2−1から2−3を参照のこと。

2−2.組合組織

A工場は職長(supervisor)以上は非組合員であるが,J工場は現場監督層ま で組合員である。組合専従役員はJ工場では規約に定められた人数である が,A工場は規約上の人数以上に数十名の任命役員appointeeと呼ばれる会社 が給与を支払う専従役員が存在する。これはA工場の経営革新の苦闘の跡で ある。

2−1 労働組合組織

組合員数 範囲(階層) 部署

A工場 J 1工場 J 2工場

4,000 5,420 4,506

一般のみ

ユニットリーダー(係長)まで 係長まで

生産技術等除外 全部門 全部門

―74 ―

(15)

Vice President and General Manager̶北米自動車製造 Manufacturing Manager̶北米自動車製造 Plant Manager Plant Engineering Capacity Assurance Coordinator

Manufacturing Coordinator Maintenance Supervisors(5) 保全労働者 Trim Engineers(5)

Finance ManagerMaterial Director Plant Superintendent Manufacturing Engineering Assistant Superintendent Assistant Superintendent (夜勤)

Trim Department Superintendent Manufacturing Coordinator(2) Supervisors(16) team(7〜8) 生産労働者

Chassis Superintendent

Body shop Area ManagerPaint Department Area ManagerGeneral Assembly Area Manager Manufacturing PlannerAdministrative Assistant Personnel DirectorCustomer Satisfaction Manager

Communication CoordinatorQuality Engineering Manager

Assistant Plant Manager 事業所レベル

本社レベル

工場レベル

2−1A工場の組織

―75 ―

(16)

塗装工場長   モジュールマネージャー   ユニットリーダー 塗装工場長   モジュールマネージャー   ユニットリーダー 塗装工場長   モジュールマネージャー   ユニットリーダー

ユニットリーダー ユニットリーダー ユニットリーダー

エレメント エレメント エレメント エレメント

モジュールマネージャー   ユニットリーダー モジュールマネージャー   ユニットリーダー モジュールマネージャー   ユニットリーダー

所長    管理部長 組立工場長   モジュールマネージャー   ユニットリーダー 管理スタッフ 品質スタッフ 保全スタッフ 工程スタッフ 工程トレーナー

2−2J1工場の組織概要

―76 ―

(17)

2−3 J 2工場の組織

―77 ―

(18)

A工場は組合組織をローカルと呼んでいる。ローカルは工場の工程作業者 と保全を中心に組織していて,階層上の組織範囲は一般者のみで,職長(super-

visor)以上は含まない。また,A工場のローカルは工場部門中心で,たとえ

ば,生産技術部門(engineering & maintenance,ただし保全労働者は組合員で ある),管理部門(finance, planning, personnel)は組織していない。ただし,物 流(material),環境,品質保証の一般者は組織している。

J 1, J 2工場が属する支部は,係長まで組合員である。したがって,一般者

以外に監督層を組合員としている点が大きな違いである。また,係長クラスま では部署に関係なく全部門を組合員にしている点もA工場との大きな違いで ある。以上表2−1を参照されたい。

表2−2の組合役員の数に質的な相違が見て取れる。

A工場の専従役員の多さが目につく。内訳は,全国協約で定められた定数 に基づいて選挙によって選ばれる専従役員は20人。また全国協約で定められ た任命役員(appointee)が13人。ローカルが独自に任命できる,ローカル任 命役員(local appointee)が40人。合計73人である。選挙で選ばれる専従役 員20名は組合費から給与が支給されるが,任命専従役員は会社が給与を支払 う。

この日本では考えられない任命役員の多さは,小論で明らかにされるように A工場の工場経営と労使関係の内実を最も雄弁に表現している。この点は以 下,行論の中で明らかにされる。

なお,J 1とJ 2を比較するとJ 2の職場委員配置が手厚い印象を持つが,こ の人々の便宜供与の内容を正確に比較しないと正しい評価はできない。

2−2 専従役員

専従役員 非専従役員

A工場 J 1工場 J 2工場

73人 4人 5人

不明

執行委員22人,職場委員114人

執行委員15,職場委員等488人

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(19)

2−3.階層構造(組合員)

表2−3をみられたい。A工場には組合員内部の階層はなく,従ってキャリ アもない。J工場は複数の階層があり,人事考課を通じて昇格するキャリアが ある。重大な違いである。

A工場は米国自動車工場特有のジョッブクラシフィケーションに応じた時 間賃率の設定が伝統であったが(賃率の高いジョッブへの異動をpromotionと 呼称していたが,それは完全に先任権順位によっていたが),この工場では90 年代にジョッブクラシフィケーションを完全に統合し,生産労働者(team op- erator)は2005年9月現在,時間賃率は全員が一律に26.16ドルである(10)。た だし,チームリーダーであるteam coordinatorは時間あたり0.5ドルの上乗せ がある。また,保全労働者は時間賃率29.60ドルである(11)

この査定のない賃金制度についてローカルの複数の執行委員と話し合っ た。質問「日本の自動車労働者は賃金の査定がある。しかし,この国では同 一の賃率であるが……」答え「そうなったのは最近のことだ。我々もかつて は様々な賃率の等級 pay classificationがあった。だから日本と同じだった のだ。」(質問の趣旨を取り違えている。査定の有無と賃率が職務毎に複数存 在したこととを混同している。査定の有無に関する質問だとはとっさには思

2−3 階層組織

階 層

A工場 階層はなし。ただしteam coordinatorあり。生産労働者と保全労働者の 賃率の差はある。

J 1工場 6つの等級。K 3→K 2→K 1→H 3→H 2→H 1というキャリア。

K 3からK 1までの「発揮ステージ」とH 3からH 1までの「発揮ステ ージ」で賃金体系は異なる。

図2−2のユニットリーダーはH 2(H 1もあり),各種スタッフはH 3(H 2もあり),工程トレーナーはK 1,作業者はK 3, K 2が主体である。

J 2工場 5つの役割等級。PX 2→PX 1→PT 3→PT 2→PT 1というキャリア。

図2−3の係長は,おおむね,PT 1,工長はPT 2,指導員はPT 3,一般 作業者はPX 2もしくはPX 1である。

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(20)

えないのが彼我の違いをかえって浮きだたせている。)質問「そうです。し かし,安全でも品質への取り組みでも誰かは優秀で,誰かはそうでないとい うことがあるでしょう。仕事ぶりに差があるでしょう。この点について組合 の考え方はどうなっているのか。」答え「うん。組合の執行部として,私は 全員が平等に代表される権利があると考えている。だから,ね,私の仕事が 君の仕事とは違っても,それは成し遂げなくてはならない仕事であることに は変わりがない。」質問「そうです。」答え「だからな,誰もが不利になるこ とがないようにしているのだ。」質問「うん。」答え「全員が公平であるよう に心がけているのだ。全員が同じ組合費を払っており,したがって,全員が 同じ権利を持つべきなのだ。」

質問「私の質問のような挑戦を経営はしないのか。」答え「何だって。」質 問「挑戦,うん,次からは個々人に別々の賃金を払うとか。」答え「そんな ことは一度もない。」答え(別の人)「そんな目にあいたくないな。」答え

(別の人)「経営は実際一度もそんな要求をしたことはない。」答え(別の人)

「ないな。一度も経験がない。我々も賃金に違いがあるのだ。保全労働者

tradesmanは高いし,チームコーディネーターは少し多いし。」

質問「そう,少しだけれどね。」答え「だから我々も賃金が違っているの だ。」質問「はい。」答え「だから,訓練が非常に重要なのだ。誰かが仕事が できないということになれば(問題で),だから,我々はローテーションを しているのだ。」

やむなく,我々は日本の賃金査定の現状を説明せざるを得なくなる。逆に 質問されるはめになる。ローカルの質問「どうも説明有り難う。もしえこひ いきがあったらどうなる。我々のやり方はそのえこひいきを取り除いている のだIt takes that out of the game.」

J工場はA工場とは天と地ほどの差がある。J 1工場もJ 2工場も戦後一貫 して人事考課に基づく賃金設定と組合員内部にも等級区分,キャリアの形成が 存在したこと,近年,人事考課がより大きな比重をもって処遇差を設定できる

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(21)

ような制度改革を行った(12)

この相違は,あっさりいえば,J工場が,報酬決定の個別化が深く浸透して いるのに対して,A工場は報酬決定に個別化の余地が全くないという相違に すぎないという人もいるかもしれない。だが,この相違はそうした平板な比較 を許さない(13)。まず,理論的には,表2−4のように,報酬決定の個別化の有 無は,労働における個人差(労働成果であれ努力水準であれ)の発生の有無と 表裏の関係にあるからである。個人差が発生しない労働の維持のためには,作 業を標準化し,標準化した作業を平等に分担するだけでなく,ライン労働以外 の品質の維持向上,機械の稼働率の向上,作業標準の改善等の非定常業務の除 外も必要になる。何故と言って,それら非定常業務は,努力した者,考えた 者,経験を積んだ者がよりよく遂行することになり,そこに個人差が発生する ことは避けられないからであり,発生する個人差を一切評価しない一律の賃金 の下では,努力した者の努力を長続きさせるのは一般に困難であるからであ る。

J工場は違う。ライン労働にあっては,作業の標準化は技術的合理性の上か らA工場と選ぶところはないけれど,作業分担は必ずしも機械的平等である 必要はない。さらに重要なのはA工場で排除される非定常業務が受容される ことなしには個人差の発生する労働は恒常的にありえないという推論が可能な ことである。

上はあくまでも理論的な推理にとどまる。しかし,各社,各工場がおかれて 表2−4 報酬決定の個別化の有無と労働との対応

報酬決定 労働への理論的含意 A工場 集団的・一律的

決定

個人差の発生しない労働

→漓作業の標準化+滷平等の作業分担

+澆非定常業務の排除 J工場 個別的決定 個人差の発生する労働

→漓作業の標準化+滷作業分担の差異

+澆非定常業務の受容

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(22)

いるグローバル競争は,各社にコスト低減,品質の確保を厳しく要請し,その 要請を工場は果たさなくてはならない。ここで述べた工場労働者の賃金,キャ リア,階層構造の天と地ほどの相違は,A工場とJ工場の経営管理と労働の 違いに具体的にどのように表現されているのだろうか。

賃金の違い,そこから推理される労働の違いは,A工場では管理する者と 管理される者,考える労働(知的労働)と考えない労働(肉体労働)との截然 とした区分のある世界であり,J工場はそうした截然とした区分のない世界を 推論させるに十分である。この違いは労働組合の役員と経営階層との対応関係 にも正確に表現される。表2−5がそれである。

2−4.階層構造(経営者・監督層)

ところで,A工場の経営者の処遇体系はどうなっているのか。ここはとば して読んでもかまわないが,A工場の社会関係の全体像をイメージするには 必要な観察である。

(1)社員等級

経営者・監督者の社員等級は表2−6のように,6つの等級がある。

生産労働者の時間賃率が全員一律に26.16ドルであるから,年収換算で5万 ドル程度と推定される。これを念頭に上表をみると,工場レベルでの経営を含

2−5 階層と組合役員の関係 A工場 平の労働者

J 1工場 職場委員は通常ユニット内の「スタッフ」もしくは「工程トレーナー」

クラスが多い。

J 2工場 職場委員(343人)は指導員クラスが多い。職場長・副職場長(職場長 34人・副職場長63人:職場長会議があり,執行委員会の方針を職場が 受けられるかどうかを実質的に決定)は工長クラスが多い。組織担当

(25人各課1名:係長の教育担当係長が担う。会社の方針を組合に伝達 する。課内の組合役員の人事に強い影響力をもつ)は係長である。組合 役員のキャリアのイメージは,職場委員2年→副職場長2年→支部執行 委員もしくは代議員→常任委員へ。

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(23)

めた階層秩序は日本と大差のない状況であろう。

この社員等級を基本に,5から8等級まではそれぞれ各等級内部を3区分し た賃金等級Pay Gradeがある。例えば,7等級であれば,その中が7 C, 7 B, 7 Aと区分され7 Aが上位である。9等級と役員Executivesには細分したPay

Gradeはない。したがって,Pay Gradeに即して等級区分される数は,全部で

12である(5等級はひとつとみて)。

このPay Gradeと日本の職能等級との違いは,Pay Gradeが仕事基準であり

日本の職能等級が人基準であることである。どういうことか。

1.各Pay Gradeに,具体的なJob Titleが記載されている。

2.勿論,個々のJob Titleに,職務の内容を細大漏らさず記載し職務内容 の変化を正確に記録する機能を期待することは困難であるから,仕事基 準であるためには,この困難を補う仕事基準特有の賃金管理の仕組みが 必要である。

3.その仕組みは,本社人事部の職務の再評価の仕組みである。例えば新工 場の立ち上げでTraining Managerの職務への期待が高まり職務内容が高 度化したとする。Training Managerは全社の基準(全社の全てのJob Ti- tleは各事業共通のコード番号がつけられ,同一コードのJob Titleは同 一のpay structureが適用される)では7 CのPay Gradeであっても,事 業所の人事部は,職務内容の高度化を説明する文書を付して本社人事部 に再評価の申請を申し込む。理由が説得的であれば再評価される。

4.したがって,Pay Gradeは常に職務内容の裏付けをもって設定されるこ 表2−6 経営者・監督層の社員等級と年収

等級 代表的職位 構成比率 推定年収

5 6 7 8 9 役員

エントリーレベル supervisor

senior supervisor,各種technical job superintendent

area manager

plant manager, personnel director

0 50−60%

20−35%

数%

少数 少数

5万ドル

6.5万ドル

8万ドル

10万ドル 15万ドル 20万ドル

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(24)

とになる。

5.このため,昇進は7 Cから8 BへというようにPay Gradeを飛ばしての 昇進は例外ではない。昇進後のJob Titleの属するPay Gradeが適用さ れるからである(14)

以上がA工場のPay Gradeが仕事基準だと判断されるゆえんである(15)

(2)賃金制度

賃金の仕組みの詳細は不明であるが,概 要はわかる。賃金は基本給Base Payと成 果給Performance based Payとからなる。

成果給は年ごと に 払 わ れ る 一 時 金Lump

sum payであり,したがって,年々積み上

がる賃金ではない。基本給に対する成果給

の比重は平均的にみると次の表2−7のように高い等級ほど比重は高い。な お,成果給は2000年以前は,Executivesだけに支払われていたが,近年,非 組合員全員に支給される仕組みに変化したという。これにより経営・監督層と

Executivesとの賃金制度は共通の性格になったという。

(3)基本給

基本給の仕組みは,各等級毎に給与レインジがあると想定される(詳細不 明)。個々人は年々の昇給を積み上げていく。これをAnnual Increaseまたは Merit Increaseと呼んでいる。2005年以前の5−6年は年々平均3% から3.5%

のIncreaseであったが,調査年の2005年は0% であった。この昇給がMerit In-

creaseと言われているのは,平均3% から3.5% に対して優秀者には7% と

か,非優秀者には0% の査定昇給になっているからである。

昇給原資は,以下に見る人事考課と関係しているが,優秀者に対する昇給原 資とそれ以外の者に対する昇給原資が別枠で予算化されていて,いずれの予算 も本社が決定し事業所に配分される。上記の平均昇給率は,非優秀者に対する

2−7 等級別成果給の比重 等級 成果給の比重

6 7 8 9 Executives

5%

8%

10−12%

15−18%

20−30%

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(25)

予算である。この非優秀者個々人にどのように昇給額を配分するか。事業所に 配分された昇給原資を,各部課に再配分し,当該部課の配分予算を充足してい る限り,個々人に何%の昇給を適用するかは部門長の裁量に委ねられている。

日本の1980年代までの職能給との比較をすれば,等級設定自体は仕事基準 と人基準という違いがあるのは上述したとおりである。賃金管理としてみれ ば,次の特徴が指摘できる。

1.日本の職能給の昇給がベースアップと定期昇給(ここに査定が組み込ま れる)が区別され両者の合計からなるのに対して,この基本給はベース アップと定期昇給が区別されず,両者は混合している(16)

2.それでも,個々人の年々の積み上げ方式であるから,年々の初任給水準 の改訂動向にも依存するけれど,基本的には基本給は年功カーブを描く ことになる。

3.Pay Gradeが変更された(昇進)場合,個々人の積み上げてきた基本給

額と当該Pay Gradeの給与レインジを考慮して個別的に決定されると考

えられる。

4.人事考課(下記にて詳述)は優秀者と非優秀者との区分に重点が置か れ,非優秀者の昇給額決定は部門予算の充足という縛り以外に,配分ル ールはなく上司の裁量に任されている。日本がこの配分に人事考課の結 果(SABCD等の標語)に応じた配分比を詳細に設定し,部門間で調整 しているのと著しい対比をなしている。

(4)成果給

成果給は上の表2−7のように,等級毎に基本給に対する比率が平均的に設 定されているが,これも予算の設定であって,好成績の者には6レベルであっ ても,5% ではなくて9% を支払う等,部門内の裁量が大きい。

成果給の考課と基本給の考課との違いは日本の賞与考課と基本給の昇給考課 の違いと同じであると理解して差し支えないであろう。

この成果給の支払い方式は,一つは現金であり,もう一つはStock Option

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(26)

での支払いである。どのように選択するかは個々人に委ねられていると推定さ れる。

(5)人事考課

ここでは主として基本給の昇給に関する人事考課を説明する。特徴的なこと は以下の諸点である。

1.目標面接を行っている。年初に上司と部下の間で目標を決めて年の中途 でフォローの面接をし,年末に成果を話し合う。ただし,「かつては6 段階の評価ratingを行っていたが,近年10年くらいは行っていない。」 実施しているのは,「何が不十分であったか,その理由は何か,どう修 正すべきかを書面で確認する」だけである。

2.したがって,人事考課結果をフィードバックすることもない。推定であ るが,上司は基本給および成果給の配分の目安として順位やratingらし きものは頭の一角に置いているだろうが,それ以上ではない。日本の動 向(成果主義化,人事考課の透明性強化,評価と賃金との照応のデジタ ル的対応の追求)と対照的な動きがかえって新鮮である。

3.人事考課で経営が注力しているのは,日本のような万遍なく全員をrating することではなく,能力の高い従業員を集団として識別し,彼(彼女)

らがそれにふさわしい能力開発とキャリアを積んでいるのかどうかを管 理することである。具体的には,8, 9レベルを対象にExecutive Potential

Employeesを母集団の5% を目安に特定すること,対象レベルは不明で

あるが,Management Potential Employeesを10−15% を目安に特定する ことである。この二つの集団の確定に当たっては事業所のExecutives 全員(8人)が,各自候補者のリストをあらかじめ用意して一堂に会し ての合議を経ている(17)

(6)採用

エンジニアーは理系大卒を社内の卒業生を介して人事が大学に行き採用す

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(27)

る。また,インターンシップ制度を通じてHigh Performerを探す。

事務系は企業業績が悪いため近年はほとんど採用していないという。そこで 上位職務に欠員ができたときに,上記6レベル層から抜擢している。

(7)補充,昇進

社内の手続きは,空席となった職名Job Titleを社内共通のフォーマットに 事業所人事部が記載し,電子情報として本社に送付する。フォーマットにはコ ード番号,Job Title,職務内容,Pay Grade,配置職場等が記載される。この空 席募集情報は社内のオンラインシステムで全従業員に周知され,希望者はオン ラインで本社人事部に応募する。本社人事部は2週間以内に事業所へ候補者リ ストを回付する。それをもとに事業所が選抜を行う(18)

しかし,この仕組みであると最適の人間が補充できるとは限らない。仕事を 通じて能力があり気心も知れた人物を配置することを組織の責任者は考えない のだろうか。

質問「工場長がスコアーカード(工場の目標値を示したカード)の目標達 成に熱心で,この公募制度に頼っていられない。特定の人を必要とするの だ,とは考えないのか。」答え「うん,実際,今の工場長はその点が非常に 上手であった。例えば塗装工場の責任者であるArea Managerが空席になる と,目星をつけて人に電話をして公募に応ずるように依頼する。その者は当 然有望な候補者となる。事業所での選抜は候補者を3, 4人に絞ってから面 接を行う。事前に応募を依頼した者が最終的に選抜される可能性は通常非常 に高い。」質問「完全公募による補充と事前に応募依頼する補充との比率は どうなっているか。」答え「レベル9以上は完全公募は非常に少ない。この レベルの補充になると,本社から優秀者rising starの推薦が工場長にあっ て,その者が候補者リストに入ることもままある。しかし,レベル7や8に なると基本は純粋な公募になる。レベル6や7になると,上位者がこのプロ セスに介入することはない。」

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(28)

おそらく,レベル9以上の補充(昇進)になると,人事考課の項で触れたEx- ecutive Potential EmployeesやManagement Potential Employeesが推薦や応募依 頼,最終決定等のプロセスで優遇されると考えられる。したがって,経営・監 督者層のおよそ2割ほどの人々についてはキャリア開発がある程度系統的にな されていると考えられるが,その他多数者は系統的にキャリア開発がなされる 仕組みにないと判断できる。

以上は,社内公募制による補充と昇進の仕組みであるが,外部市場からの調 達,スカウトの比重はどうかという問題が残る。各レベル別に簡潔に述べた い。

レベル6はいわゆる職長レベルである。かつては半数が職場上がりで残りの 半数が大卒の初任配置職場であった。それが,おそらく80年代以降100% 大 卒の初任職場として位置づけられる時代を経て,今日は,第4章で詳述するよ うに,半数が大卒初任職,残り半数が外部からの人材派遣になっている(19)。大 卒者は3年くらいで生産技術等エンジニアリング部門に異動していく。職場管 理の最大の問題がここに存在している。

工場長の話では,新工場では昔のように,現場上がりと大卒初任者とを半数 位ずつで構成したいという。その場合の現場上がりは,チームコーディネータ ーから補充したいという。何故か。「チームコーディネーターがきちんと仕事 をしていれば,それはすでに第一線の現場監督職first level of supervisionをこ なしているということになるからだ」という。チームコーディネーターが必ず しも高卒というわけではない。すでに,労働者自体大卒比率が高まっており,

おおむね20% が大卒である。

レベル8はSuperintendentのレベルである。日本で言えば係長とかトヨタの

工長クラスか。ここは,工場長の話では外部から補充した経験はないという。

全て企業内である。この層は想像していた以上に内部補充である。

レベル9以上は日本で言えば課長・部長以上職であるが,「たまに社外の人 を採る」という。しかし,20人に一人くらいだという。

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(29)

2−5.労使関係への含意

労働は一般の商品と違い,購入者が実際どの程度の有用労働の支出を確保で きるかはあらかじめ契約で確定できず,労使当事者間の生産過程における公 式,非公式のその都度の合意の形式(「やってくれ」と「わかりました」の関 係)をとらざるを得ない。そこに安定した秩序をもたらそうとすれば,合意の ための手続き(procedural rule)をも合意しなくてはならない。合意の実体的 内容(substantive rule)とともに,手続きルールを含めた,これら二つの規則 の制定と運用の営みが労使関係である。

しかし,2−3で述べたように,第一に,報酬決定における個別化が浸透する とともに,第二に,市場競争が非定常業務の遂行を余儀なくするとともに,労 働支出の確保=労働支出の決定にあたって,労働協約や作業集団の慣行という 労使関係になじみの集団的な規則が後退すると予測される。それに代わり経営 主導の管理という名の,したがってどうしても個別的な規則が前面に現れるこ とが予測される。

そうすると,A工場では,集団的な職場の社会秩序に個別化を要請する業 務課題が押しつけられ,そこに軋轢が生ずるのは避けられないが,それでも市 場が需要する商品を生産し続けなくてはならない以上,その鐚藤をそれなりに コントロールし秩序化をはからなくてはならない。この鐚藤含みの秩序の意味 が正しく解釈されなくてはならないだろう。

他方,J工場は個別的な処遇と個別化を要請する業務課題との整合性が確保 されており,A工場に見られるであろう鐚藤=対立は前面には現れようがな い。しかし,そうであればあるほど,経営管理が通りやすく,働く人々の落ち 着きのある仕事と生活のバランスの確保が難しくなる。この人間サイドの欲求

(=生活時間の確保,働きがいや成長,よき仲間との協力)を,あえて経営管 理の中にいかに制度として(つまりはルールとして)埋め込むのか。その埋め 込みがなければ安定した秩序たりえない。この管理含みの秩序の意味が正しく 解釈されなくてはならないだろう。

いずれも重たい課題である。だが,課題解決を急いではならない。実証研究

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(30)

の手続きとしては,労働支出がどのように決定されているのかの観察にまずは 集中し,その上で,その決定様式を解釈するという手順で考えるのが労使関係 論の正攻法であるからだ。

3章 生産計画・勤務体制・配置をめぐる労使関係

さて,工場の労働は,まず第一に,生産計画に対する勤務体制をどのように 合意するかの観察から始める必要がある。それは効率性(生産性や品質を含む 広い意味で使用)を一定とした際に,人員×労働時間がどれだけ必要とされる のか,それはどのようにして決定されるのかをまず観察するということであ る。続いて,第二に,効率性(生産性と品質を含む)それ自体の維持向上のた めの努力をどのように引き出しているのか観察である。

この章では生産計画・勤務体制の決定を扱う。短期の労働支出をめぐる取引 である。5章以下では品質向上・効率性を達成するための労働支出の決定を扱 う。やや中長期の労働支出をめぐる取引である。

3−1.生産計画に伴う勤務体制の労使協議

生産計画に対して,どれだけの労働投入が必要とされるかは,労働投入が人 員×労働時間×労働密度(労働生産性)であるから,この三つの変数の決定に 関わっている。しかし,短期に変えられるのは労働時間であり,次には人員で あり,労働密度(労働生産性)は機械の導入や「改善」によるので時間が必要 となる。したがって,ここで扱う問題は,生産計画の立案策定を受けて労働時 間と人員をどのように決定するかに限定される。労働生産性は,次章以下で扱 うが,それは通年にわたり日常不断の職場の効率化施策の実践や設備投資を通 じて決定される。施策が実行できるかどうかは労使関係のありように左右され る。その決定が,短期にあっては与件となる。このようにこの三つの変数は時 間的経過の中で循環していることを留意されたい。

特に労働時間は賃金と並ぶ主要な労働条件であり,提案される労働時間を労

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(31)

働組合がどのような仕方様式で合意するかは労使関係の最も表に現れやすい姿 である。

表3−1をみられたい。違いは一目瞭然である。

A工場には,労使協議はない。工場長がバーゲニングチェアマン(ローカ ル書紀長)に耳打ちする程度である。生産増の場合,全国協約(20)に則って一日 1時間まで,土曜日の休日出勤の2週連続は不可という条件さえ満たしていれ ばそのまま実施される。他方,生産減の場合,先任権に基づいてレイオフがな

3−1 工場レベルの勤務体制をめぐる労使協議制度一覧

労使協議の名称 当事者 内 容

A工場 なし なし プラントの人事部長がbargaining chair に伝達。

J 1工場 所長団交

生産・販売 団交

確認会

ブロック 折衝 書記局折衝

拡大事務折衝

経営;事業所交渉 メンバー 労働;支部執行部 経営;事業所交渉 メンバー 労働;支部執行部 経営;事業所交渉 メンバー 労働;書記長

書記次長 経営;部・課長 労働;執行委員 経営;事業所交渉

窓口 労働;書記長

書記次長 経営;全課長 労働;全執行部

年1回。事業計画の説明と組合からの提 言。

2ヶ月に1回。会社の生産販売計画の説 明とそれに伴う勤務体制上の協力要請に ついて協議決定する。

生産・販売団交の翌月に,協力要請内容 の確認。

毎週木曜日。休日出勤等の協力要請につ いて協議決定する。

随時。会社施策について協議する。協力 要請については協議決定する。

年3回。大型連休等の勤務体制の協力要 請について協議決定する。

J 2工場 事業所労使 協議会 月次生産協議 特別労使協議

職場労使意見 交換会

経営;事業所長等 労働;支部常任以上 経営;担当部課長 労働;支部常任以上 経営;担当課長等随

労働;委員長他随時 経営;課長 労働;職場委員長等

年2回。年間生産計画,新車計画等説明。

月次生産計画にともなう勤務体制の協議 月次生産協議で決まった基本勤務体制の 変更や,労使で確認している「勤務体制 ルール」から逸脱する提案の協議。

月例を目指すが未達。有給取得,職場環 境について意見交換。

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(32)

されるだけのことである。ここに何らの労使協議は存在しない。

他方,J工場では緻密な労使協議の仕組みが構築されている。J 1工場では

「生産販売団交」「確認会」「部課長折衝」「書記局折衝」等,J 2工場も「月次 生産協議」「特別労使協議」「職場労使意見交換会」等である。その上で勤務体 制について,36協定の特別時上限,平常時の上限等を,工場支部のルールに 則ってコントロールしている。J 1工場は,この点で特に厳格な規制を実施し ている。

このめざましい違いは何に由来するのだろうか。以下,立ち入って観察しよ う。

3−1−1. A工場

まず,明瞭な違いは,A工場に労使協議制度がないということ,J工場では 労使協議制度が緻密に構築されていることである。表3−1は工場レベルのみ を書き出したが,本社レベルにもJ工場は同程度の多層の協議制度をもつ。

この違いはあまりにも明瞭である。

(1)生産計画

生産計画は3ヶ月毎に策定される。

GM本社の北米の製造担当最高責任者である副社長(Vice President and Gen- eral Manager, North America Vehicle Manufacturing)とその部下の製造担当役員

(Manufacturing Manager, North America Vehicle Manufacturing)が,販売部門か らの販売情報を受けて,北米製造拠点であるA工場他数カ所(21)の工場長(Plant Manager)と連絡調整し,各工場に生産を割り振る。

それを受けて,A工場では工場長,副工場長(Assistant Plant Manager),車 体,塗装,組立の3人の製造課長(Area Manager),及び調達部門のマネジャ ーが車体,塗装,組立の生産計画を立案する。

その際に,この計画を日程計画に具体化し,人員計画に展開するためには,

第一に,生産量の変動や車種構成(モデルミックス)の変更に応じて各工程の

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参照