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ダイナミックパラトグラフィによる青森県深浦方言 の分析

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国立国語研究所学術情報リポジトリ

ダイナミックパラトグラフィによる青森県深浦方言 の分析

著者 高田 正治

雑誌名 研究報告集

巻 10

ページ 81‑131

発行年 1989‑03

シリーズ 国立国語研究所報告 ; 96

URL http://doi.org/10.15084/00001119

(2)

ダイナミックパラトグラフィによる    青森県深浦方言の分析

高田正治

Takada Sh6ji: An Analysis of Hukaura, Aomori Pialect Using Dynamie

    Palatography

         一一一一 81 一.一

(3)

要旨:Dynamlc PalatQgraphyを分析法の主軸として,青森県深浦方嘗の特徴的な 音声を対象として実験音声学的な立場から分析を進めているが,ここでは母音〔i〕,

〔磁〕,〔e]及び長母音についての以下の分析結果を報告する。

1) V型およびCV型のこの方言の特徴的な母音〔i〕,〔tu〕,(e〕の舌の位置の分布 の実態を調音,音響の両側薗から明らかにした。

2)標準語1)の長母音の特徴として調音上の峯が後よりになり,かつ,出わたりが急 峻になる傾向があること,また,長母音の直後の子音がより語頭的な姿になる傾向を みいだした。

3)深浦方言の長母音を持続時間及び上記の2)の側面から分析することを試み,長母 音が僅かに長めになっている傾向をみいだした。

キーワード:.D¥namlc pζ1atg9「aphy・蘇方言沖舐音・長鰭

Abstract: We are presently conducting an analysis fro!n the point of view ef experimental pkg.Retics of t!e distin.gtl,ye,,?.honeti,c fgatures of the Hukaura dialect in Aomori Prefecture, primarily uslng dynamic palato−graphy. Here we report on the following yesult$ of an analysis of the vowels [1], [ut], and

[e], and the lons vowels.

1)We determined the actua正dis瞬butio隷of the pos圭tion of the tongue for the vowels (i], [di], and [e] in V and CV syllables frem the points of View of articulation and acoustics.

2) As special characteristics of the iong vowels of the standard language, we noted the tendency of a iate peak and steep off−glide during their articuiation,

and that the consonants immediately following the long vowels resembled word−initial consonants.

3) We attempted an analysis of the long vowels from the point of view of their length of duration and the characteristics in 2) and observed a tendency for siight lengthening o£ long vowels.

Keywords: Dynamic Palatography, Aomori dialect, central vowels, long vowels

一 82 一一

(4)

1.はじめに

 近年,方言研究の分野で実験音声学的な定量的な研究が,意欲的に活発に 進められ始めているが,それらの研究は,主として音響音声学の側面からの ものであり2),調音音声学の側面からの研究はほとんど行われていない3)。

調音の側面を定量的に観測する方法としては,X線映像による方法,超音波 による方法,動的人工口蓋による方法,磁界による方法その他があるが,今 回,動的人工環蓋法によって東北方言の特徴的な発音運動を観灘分析するこ

とを試みたのでここに報告する。

2. 資料・方法

 1. 鋤的人工□蓋法(Dynamic Palatography)について

 入込口蓋図法(Palatography),つまり,調音時における上顎日蓋面への 舌の接触パタンの観測法は100年ほど前から実験音声学的な分野で用いられ てきている4)。この方法は発話者の上顎から作った人工口蓋板(薄いパラフ

ィンワックス製)に歯磨粉等の粉末を塗布して上顎に装着し,一回だけ発音 してそれを取りはずし,歯磨粉等の粉末がはがれた部分から舌の接触部位を 求めてきた。しかし,この方法では,観測の対象音が主に発話の頭音に限定

されたり,また,舌の接触開始から接触解除までの問の接触パタンの時間的 経過を読み取ることは不可能であったが,最近では,エレクトロニクスの発 達にともなって,それらの観測が可能になっている。

 つまり,上記の歯磨粉の粉末等のかわりに63個の金製の微小電極値径1 ミリ)を薄いプラスチック製の人1口蓋板(厚さ約◎.5mm)に一定の配列

(5mm聞隔)でうめこんだ舌の接触センサーが開発され(図1),これに よって,舌の接触の動的な観測ができるようになった。このような,発話時 における舌と硬庸蓋との接触状態の時聞的変化を観測する手法をダイナミッ クパラトグラフイと呼び,そのための装置をダイナミックパラトグラフ,

(以下DPと略す)その装置によって得られた記録図をダイナミックパラト       一83一

(5)

憂国小パ享ル

端︐ ︸繍⁝

  副   鱈〆

 et.e o  e一% ee  . e  e Oe ee ; die O? :Te ee :e

   l

左es@正↓。 額 図1 人工□蓋の外観図と電極配列

グラムという。

 なお,上記の電極をうめこんだ人工口蓋板(以下,電極人工口蓋板と呼ぶ〉

の電極は歯茎から硬口蓋までの範囲に(図1)うめこまれているので,舌の 接触が観測される音は,母音では主として/i,e, u/,子音では主として

/t,d, n, r, c, s, z, k/等にほぼ限定されるが,他の音のばあいでもこ の装置によって無接触であることを確認することが少なくともできる。

 このダイナミックパラトグラフイは1970年頃,東京大学医学部音声言語医 学研究施設で開発された後,1978年頃,言語障害者への簡易型発音訓練用機 器としてリオンKKで商品化された(商難名 エレクトmパラトグラフDP

−01型)。当時,当研究室では,この装置の一部を改造して音声研究用に用い てきた(現在では,音声研究用としての使用にもたえられる機種が販売され ている)。このDP℃1型の機能は,1/64秒(15.6ms)毎に一画面がサンプリ

ングされ,その画面が即座に表示パネル(63個の発光ダイオードが,実物の 電極配列を図式化した形で配列されており,舌が接触した電極に対応する発 光ダイrt 一一ドが点灯するようになっている。)に表示されたり,または,ス テレオカセットテープの一方のチャンネルにDPの接触情報を,もう一つの チャンネルにそのときの音声を収録できるようになっている。

      一84一

(6)

 ふつう,この装置を音声研究用に用いる場合は,まず,発誰者の口蓋の石 膏型を歯科医で作ってもらい,その石肯型から上記の電極人工口蓋板を作る。

この電極人工口蓋板を上顎に装着した状態で発音したときのDP接触情報と 音声をカセットテープに収録し,後日,結果を記録紙に記録する。当研究室 では,当初,毎秒64画面の量で蓑示パネルに表示されるDP接触情報の結果 を手作業で記録していたが,資料1の全体の発話を記録す盈こはその作業量 が膨大なものとなってしまうので,この記録作業を計算機(PDP−11/10)

で処理させることにし,図2に示すパタンでプリントアウトさせることにし

た5)。

     G−1       G.一2       G73     G−4   .G−5

   一 一へ、/一一一 r{一 {{

ロね アのアおし

     1 17       エ$一32     33−4S    46−E4  SS−6a 6:.6S 三色 1轟無規;鶏環鍬二無Σ三無徽鋤1工冒工;mΣ;;エエ班聖1エ覗:エエ 茎写 妻綴綴鍛綴講談秦慧叢綴綴秦棄:    :   :  3ぐ

;1 峯綴鍛鍛欝欝:豪叢叢.叢綴綴禁:     :   :  :

蓋弓 叢欝欝欝欝鍛叢廓慧綴織:    1  :  ls

茎§ 葉欝欝鍛禁峯綴:委棄秦秦禁綴峯禁:    :   :  :

ii iiii轡li灘iilぎ騰  i i iぐ

鴛  叢叢  *欝欝:秦棄秦  *叢叢禁:   棄棄:   :  :e

菱織灘灘:毒畿織: 鼓: : :〈、

;塁 綴綴織禁綴織:1叢* **峯綴:   **1   :  :

li劉讐 陵 iif・

 奮 棄 イ  :   :   :  : }ぐ  3 秦    義:    1   :  : :m

 ; 棄     套:    :    :   :  :

 1 秦    :・   :   1  : 1《

 婁 ・棄     護:   ・ :    :   :  :o

、茸 棄ま   辮綴:*  *聯累秦:    :   :  :

雛 早耳繍鷺綴:秦棄. 灘綴:   :  : 1ぐ

iii馨麟難欝 穫i ; ii・

i2 棄*1  豪*鍛棄:*    *:    :   :  :・

 4     t,      嵐鼠甑噛      ◎      −         魯       噸

      図2 ダイナミックパラトグ:ラムの例

 このようなDP接触パタンのプリントアウトは,一般には一画面のDP接 触パタンを,実物の電極配列を図式化した形で示す方式がとられている。こ の方式では,接触パタンを直接読み取ることができるが,記録用紙を多量に        一85一

(7)

必要とする。一方,図2の方式では,一画面分が横一行に示されており,前 者に比べ接触パタンの読み取りが閥接的になるが,印字用紙が少なくてすむ

し,接触パタンの時間的経過を把握しようとする際に,比較的効率よくおこ なえるようである(但し,ラ行子音以外で)。

 この図2を作るには,まず,個々の電極に番号を与えるが(図1,2参照),

この与え方は馬蹄型の第一層目の左端の電極に1番を与え,第一層の電極を 右方向に数を一つずつ増やしていくと第一層の麿端の電極には17番が与えら れる。同様な与え方を第二層から第五層に向かって順次おこなうと,第五層 の右端の電極には61番が与えられるσ最後に,正中線上の奥に残った二個の 電極に62と63の番号を与える。以下,この第一層のグループをG−1,第二層 のそれをG−2,第三層をG−3,第四層をG−4,第五層をG−5と呼ぶことにす

る。

 な:お,各層を構成する電極の数はG−1=17,G 一2 ・・ 15, G−3;13, G−4=:

9,G−5 =7である。

 図2の左端の数字は,その一行で(一画面で)接触反応があった電極(*

印,以下,これをon電極と呼び,無接触の電極を。廷電極と呼ぶことにす る。)の合計数を表しており,その右側に,上記の番号が与えられた電極が G−1からG−5へと各グループ毎に・印でくぎられて割当てられ,最後の・

印の右側に正中線上に残った62番と63番が割当てられている。このようにし て,行を追ってつぎつぎと画面の内容が印字される。つまり,この表の縦方 向には時閥軸が走っており,64行がユ秒分に相当している。

 この図2の印字方式で(ま,1行の中で少なくともG−1〜G−5のいずれか のグループが。且電極で埋まっていれぽ舌の閉鎖が形成されていることにな

り(図2のイ),この閉鎖のパタンがら正中線付近で若干のon電極を除去 した姿が,一般に〔s〕的な摩擦音として示される(図2のロ)。なお,ラ 行の子音で閉鎖が形成されている場合は閉鎖が複数のグループにまたがって 形成されることが多いので,この記録方式では閉鎖形成の有無が多少読みと

りにくくな:る。、

      一mr・一 86 一::・:::・一t

(8)

 2. 装   議

 今回,収録時に使用した装置は,上記のエレクトロパラトグラフD P−01 型,同録音アダプタDP−03型(リオン製)と録音機(ソニ・一一T C 一4550 S D)及び録画機(ソニー一 SL一∫ 7)からなっており,収録後の資料整理や分 析のために計算機PDP11/10およびソナグラフ(KAY社7029A型)を使

用した。

 3. 資   料

 今回の調査対象に東北方書を選んだのは,東北方言の特徴的な発音の中の

〔i,e,戯, ks〕などがダイナミックパラトグラフィの分析可能範囲にはい っているためである。

 一般に,方書調査の場合には,その土地育ちの老年層からインフit 一マン トを選ぶのが普通であるが,本研究のようにダイナミックパラトグラムを採 取するために,上顎に電極人工ロ蓋板を装着した状態で発話資料を記録する 必要がある場合には,総入れ歯あるいは部分的な入れ歯が使網されることの 多い老人は,電極人工口蓋板が装着しにくい等DP記録採取の面で多くの問 題点を抱えていることが予測されたので,調査対象から除外せざるをえなか った。その他,今灘の記録用の測定機器システムの規模の関係から,収録 の際に当研究室へ来室して頂く必要があったために,インフォーマントは老 人層以外の東北方言のnative speakerであり,かつ,在京の者であること が必要な条件となっていたが,当研究所の変化第一研究室の紹介で,晋森県 西津軽郡深浦町御出身の男性話者S.T.氏(36歳)を選ばして頂くことがで きた。御本人は雷語形成期を同地ですごし,大学入学以後,東京で過ごされ てきており,共通語がたいへん巧みでもあり,深浦方雷とのいわゆるbiliか guistでおられたので,同一話者による深浦方言と共通語の貴重な(平面の 際に個人差の介入が避けられるという点で)資料が得られることが予測され

た。

 調査の対象とした語は,東北大学文学部の東北方書音韻調査票付録の音韻 調査語例索引を参考にしながら,また,インフォーマントの意晃を参考にし       一87一

(9)

ながら222語(資料1)を選び出した。この資料1は発話者自身がB常使わ れていて自然に無理なく発音できる語で,かつ,DP分析が可能な範囲で調 音が行われているような語を選ぶようにした。また,予備的な資料として,

今石元久氏ほかによるH本方書音声スペクトル分析用の音声調査票の1.単 音節・語頭音節の部分のテキストに使われている70語の,一回分を発話者の 希望により変更したもの(資料2)も対象とすることにした。(なお,今石 氏の場合は,一音節語はそのまま,二,三音三重は語頭の拍のみ発音させて いるが,本研究では,発話者の発音のしゃすさを考慮にいれて,後者のばあ いに語頭の拍だけを発音することにこだわらず,語頭の母音だけをやや長め にして当該語の全体を発音してもらうことを試みた。)これらの延べ292語を

1語ずつカードに書きこんだものを,資料1を深浦方言と共通語で,資料2 は深浦方言で,それぞれ普通の発話速度で単独に3回ずっと,「それは〜だ な」というcarrier sentenceに挿入した場合1園を,電極人工口蓋板を.ヒ 顎に装着した状態で発音してもらった。

資料1 深浦方書のDP用音声の調査語

 秋 開ける 上げる 浅い アサリ 足 汗 あっさり 肋 甘い 網

 寒雨梅塩胃息異性板苺一斉糸井戸歌うどん絵

 柄 駅 越後 江戸 甥子 沖 お爺さん 叔父さん/鍵 書きことば  柿っこ 家具 影 火事 数 風 勝つ 鐘 辛い 感じる 木 気管  聞く 岸 雑 汽車 機種 技術 記章 傷 切手 来て 牛乳 着る  銀座 九 釘 九九 櫛 九時 屑 国 栗 来る 毛抜き 鯉 声  /〜させる 札 雑誌 座敷 ざまあみろ 筑 三時五分 三十五 三銭  四 字 爺さん 四角 敷布 敷く 獅子 字面 渋 島 シミ 地面  尺 シャッッ 砂利 邪魔 修学旅行 十三 宿 宿場 数珠 巡査 春

 分食芯神社新聞背清四郎瀬戸物背中図録船頭酢

 図 寿司 煤 炭 図面 寸 ソーダ 育てる 損だ/太鼓 大根 高い  竹 凧糸 縦 狸 煙草 達磨 丹波粟 チーズ 痴漢 知事 地図 散        一88一

(10)

る 釣る 手錠 天井 通った ト ・一タル 時計 時計屋 溶ける 都心 突進 取った/無い 梨茄子 煮込み 虹 ニシン ニ寸 二銭二足 煮る 人参 人数人足 塗る 根 姉さん 寝込み 寝せる 寝る/

馬鹿訳出針鼠半田引くピクニッグ髭左びっくり人 暇紐蛭獄蓋二人振った揮屍蛇減る星干す細い

/前馬子歌〜までマンガン見える右短い水道蜜見る 戯事麦名物 目薬飯雌若し喪主/山羊夜具ヤニ家主/

ランプ林檎六         (合計222語)

資料2 「日本方言音声スペクトル分析用の音声調査票」の     「1単音節・語頭音節」

    (但し,()内は発話者の希望により変更した語である。)

 〔1)清音 44語

 胃絵秋(桶)裏木毛高子九四咳皿二二二手

 田 簿 鶴 二 根 茄子 海苔 沼 火 屍 歯 穂 船 実(芽)松

 二村矢横湯りす歴史らくだ炉留守輪

 {2> 濁音  26言吾

 銀下駄二五軍艦字(膳こ)釈ぞず地震kU m抱く

 毒 図 琵琶べろ ばか ぼろ 豚 ピン ペン パン ポスト プロ

 ペラん       (合計70語)

資料3

 以上の292語の他に,以下のものを参考資料として収集することにした。

これは,当研究室所収のX線映画資料「日本語の発音」の中の第1部「日本 語の音節の発音」の中の一部分で6),Vl:型およびCVI:CV型の次の無意 味音節列からなり共通語で発音で発音した。

(1) al: il: ul r el: ol;

(2) jal : ja jul : ju jel : je jo ll : 3  o

      −89一

(11)

紛の笏⑤の鋤鋤鋤

︵    一    ︵    ︵    ︵    ︵    ︵    ︵

萄⇒3φ︷曙 にαeασ

(16)

(16)ノ

waR : wa pal : pa pja# : pja bal : ba bja] : bja

mal : ma mjal : mja

tal : ta

dal : da sal : sa sjal : sja cil : ci

cjal : cja zal : za

zal za

(1? } zj al : zja

(18>

(19)

cee)

臨 画

圏鶴飼飼

母翁⑫⑫

na駈na

njal : nja ral : ra rjal :rja kal : ka

kj a3 : !〈」 a

gaR : ga gja 1 : g]a

勾al:ηa Bjal : nja han : ha hjal : hja

wil : wi wel:we

wol:wo

pil : pi pu: : pu pel : pu  pjul : pju pjol : pjo bil : bi bul : bu bel : be

bjul : bju bjol : bjo

pol : po

bo] : be

  mil:mi mul:mu mel:me mol:mo

   mjul:mju mjol:mjo

tel i te tol : to del : de dol : do

sil : si sul : su sel : se sol : so  sjul : sju sjel : sje sjol : sjo cul : cu

  cjul : cju cjel : cje cjol : cjo  zil : zi zul : zu zel : ze zol : zo

zll zi zu3 zu zel ze zol ze

  zjuB : zju zjel : zje zjol : zjo

 nil : nl nul : nu nel : ne nol : no   njul : nju njol : njo

 r量コ :ri   ru1 :r聡    rei :re    ro〕 :ro rjul :rju

短ユ:ki

rjol : i−jo

kul : ku ken :Tke

    隔

 kjurr ;kju kjol :kjo gil : gi gul : gu gel : ge  gjul : gju gjol : gjo nil :ni rpul :Bu gel :lje  rpjul : ngju ptol : rgjo  .

hil : hi

hjul : hju

hul :hu hel : he hjol : hjo

kol : ko

gol :go

nol : no

hol :ho

一ge一

(12)

Be) hwal : hwa hwil : h Ti hwel : hwe hwol : hwo

 収録は,まず1983.4.21におこなったが,後日;採録資料を点検した際に 不良.な状態で記録されていた部分が出てきたので,1983.12.8に二回罠の採 録をおこなった。こ㊧二回分で,録音テープに延べ約2.7時間分の資料が採 録された。なお,資料1の深浦方書の部分の音声表記については,後日,こ の方言のnative speakerであるインフrt 一マントに録音テ・…プをもとに音 声記号におきかえていただき,それを参照しながら分析を進めた。また,発 話時の顎の開きや発話姿勢を参考情報として残しておくために,上記資料の 採録時に,部分的にではあるが(約1. 5B9間分),発詰時のインフrt 一マント の鑛部を真横から撮影しビデオテープに記録するにともおこなった。

 このようにして記録されたDPの録音テープをこのエレクトロパラトグラ フで再生すると,即座にこの装置の表示パネルで,そのときのDP接触パタ ンの藩閥的経過の概略が観察できるが,定量的な分析をするためには,この 1/64秒毎の接触パタンを記録紙に記録する必要がある。本研究では,この作 業を計算機(PDP 11/10)で処理することにし,図2の例のようなDP一 画颪を計算機の印字用紙の横一行に収める方式で,約2.7時問分の資料すべ てをプリントアウトした。(長めのポ「ズ区間を対象からはずしたので,実 質的には約1.1時聞分。計算機の印字用紙で約4000ページ分。)

 このようにしてえられたDP接触パタンの記録図には,接触パタンの結果 が記録されているだけで,個々の音の位置の指定がなされていない。この処 理には,一一語毎にソナグラムを記録して個々の音の位置の揚卸をおこなう必 要があり (音声のソナグラム採録時はDP画面との岡期信号を用いる),こ の作業には比較的時間を要するので,とりあえず,三國ずつ発音されている 個々の語の三番目の発話だけを対象としてこの処理をおこなうことにし,全 資料についてそれを実施した。一一,二回目の発話の分については,労析をす すめていく過程で必要に応じて追加していくことにした。

 4. 膏森県西墨筆郡深浦町の沿革

 青森県西津軽郡深浦町は青森県の西爾部にある入口1万余の港町であり,

      一9工一・

(13)

方書区画上では東:北北部方言 の中の津軽方言に属している。

地勢的には,B本海を目前に し,東側に奥羽山脈をひかえ ており,それらは津軽地方の 中心地である弘前市との交流 の障害となっている。このよ

うな地勢から往時では海路に よる西艶本との交流がむしろ 盛んであったようである7)。

3. 結 果  1. 深浦方欝の碍音

 1−1深浦方書の中舌母音〔i), (rkE〕の調音

 この報告の中で,以下,イなどと片仮名で表記されている場合は標準語の 音を意味する。

 北奥方言ですでに指摘されている〔s〕,〔ts〕,〔dz〕に後続するウの〔1〕

音化現象は8),この方言資料の中でも規則的に現れている。一一一・方,この逆の イの〔tu〕音化現象を示す例として,当資料の中から「髭」の〔ftUge]と

「人」〔gete〕の古形の〔蹴to〕の二例が見いだされたが,「髭」の〔蹴9的 はr人」の古形の〔ftuto〕同様の形をとどめている個励的な例と思われる。

なお,この方言資料の中でヒを含む語は「髭」の他に「人,暇,左,紐,蛭」

などがあったが,いずれも〔ge)とな:っている。上記のウの〔1〕音化現象 が起こるのは,先行子音からうける調音結合効果つまり,先行子音の後部構 成要素に摩擦成分(比較的長めな持続時間を必要とする)をもっていること と,その摩擦成分の調音点が歯茎付近にあるためと考えられる。なお,調音 点がややうしろになる摩擦子音〔∫〕,〔5〕の後のウ,つまり,シュ,ジュ などの拗音節のウは当然のことながら〔i〕音化しない。 (この方雷資料で

      一92一

(14)

は,拗音節の直音節化現象はみられない。)

 以下,標準語のウに対応する〔茎〕を〔董〕U,標準藷のウに対応する〔ta〕

を〔tu〕U,標準語のイに対応する〔i〕を〔i〕iと便宜上呼ぶことにする。

 〔i〕,〔蔵〕の舌形は,狭母音イ,ウの中豊化したもので,両者はたがい に接近していて,近い音色の聞こえを持っている。この両者の調音上の実態 をみるため,資料1の中から,「胃」の〔i〕および「歌」の〔戯〕(この資 料の中には単独のウの語がなかったので,やむをえずこの語を使うことにし た。)を選び,DP上の声道の広さを示すところのoff電極数をG1〜G5

までのグループ別にとりだしたものが表1である。また,資料1は同一話者 が標準語でも発音しているので,標準語のそれも表1に加えておいた。な お,この蓑1にあげてある値は3圃の発話平均であり,()内の値は当該 グループ内での接触がゼロであったことを示す。(以下同じ)

   表1 深浦方言と標準語の「pajおよび「歌」の母音のeff電極数        〈3圃発話平均,Inf. =・S. T・〉

Gl G2 G3 G4 G5

方書の胃の〔至〕

   歌の〔W〕

標準語の霧の〔i〕

   歌のこtu〕

3.3 11. 7

3.0

9. 0

7.7 12.0 2.0 9.3

(13. 0)

(13. 0)

2.3 11.3

(9. 0)

(9. 0)

2.7

(9. 0)

(7. 0)

(7. 0)

(7. 0)

(7. 0)

 この表のG1〜G5の値を小数点以下四捨五入して, Inf.の口蓋実体図お よび正中断面実体図9 に変換してみると図3がえられる。なお,この図3で は標準語の接触範囲を実線で,深浦方言のそれを⑧印と点線で示しておいた。

 をの図3から次の点が措摘できる。①標準語のイの援触がG1〜G4と4 層の範隙こわたっているのに対して,この方書の〔1]のそれはG1〜G2

と2層の範翻にとどまり,イのような萌舌部分の硬口蓋への接近が兇られず,

舌の最高点が低くなっていることが示されている。②この方書の〔茎〕にお ける声道の狭まりが舌先付近に現れているが,この狭まりがこの方響の〔導 を緊張して発音する場合などに〔zi〕的な摩擦音を伴なわせやすくさせてい        一93一

(15)

胃のこi〕と〔i〕 歌の〔曲〕と〔ZII)

     〈縮尺==6.7/10>

 ア 。謬

    o o

・縄宅.     o O O      む   ・・瓢・・

       むむ

蓉灘1:絡.

浦9・..・塑◎s

図3 深浦方言(点線)と標準語(実線〉のイとウのDP接触パタンの比較       〈3國発話の平均,王nf.=S. T.〉

るようにみえるlo)。③標準語のウに比べてこの方言の纈〕の接触はやや低 位になっており,この音の舌の最高点がウよりもやや低位にあることが示さ れている。④〔1〕と〔戯〕のGlとG2における接触パタンの違いは,接 触領域が〔i〕のほうでより前方まで進んでいることで示されていることか

ら,〔1〕の舌体全体が〔磁〕に比べて前方に位置していることが判る。

 この方奮の〔至〕や(ta〕のそれぞれの中舌化の程度は,先行子音の種類 によって多様であることが予測できるが, 〔1〕Uや〔菰〕iでその程度が最も 深く,それぞれ隣接する〔i〕や〔tu〕の領域に入ってしまっているものと 思われる。

 一〔i〕uおよび〔煎}の中舌化の程度の実態を,DPデータによって調音の 側薩から調べることを試みてみたので,その結果を以下に述べる。本研究で.

採取した221語の深浦方言DPデータの中から,標準語形でウ段の音を含む 語を抽出、し,その中から同一先行子音が旧例以上になるように68語(うち,

.〔茎〕u=25語,〔軸〕u=43語)だけをとりだし,DPパタン上でのoff電極 数をG1〜G6のグループ男琶に計測してみた。この方書の〔i〕やこ諒〕の

       一= a  94 

(16)

ユ5

10

5

O一も︒︿︒︷︷︑一︑併潔欝︶

1

   1  1  1     1 ,[/

   10 2  i    4  2  3 3  2 ・; 1  1

 2@ 4  2  1

1         1  1  1  2 1 1 1@

三②3 4

3r 2 3

30/・i 1 :・

1一 2

IGI G2

11

平曽均 値

標準自験穂

9・O IO.2 暮。16  エ.93

O 5 IO 15・ 17

       ・二α誕1(off電極数)

図4一一i深浦方言の〔va〕uのG 1  , G 2分布(off燈極数)

DPパタンは,全般にG1からG3の範遡に現れているが, G31こは先行子 音が軟口蓋音などのときに僅かに接触が現れるだけで,接触は主として表1 のようにG1とG2に集中している。

 そこで上記のウ段の音を含む語68語について,G1のoff電極数を横軸に,

G2の◎ff電極数を縦軸にとった二次元平面図(〔t{[〕uを図4−1,〔1〕uを 4−2)を,また参考資料として,〔翌〕iとなっている語を同様に83語えらび

國5を作ってみた。このようなG1〜G2の二次元平面図では,分布が原点 に近づくほど舌が前寄りになっていることになる。

 なお,これらの図のそれぞれの分布を形成している個々の数字は当該位置 の頻度数を表し11),分布全体の重心を×印で話す他に,図4護の〔滋〕U及び 図5の〔i〕iの分布には○で囲ったヨ,ハ,ナ,ク,Peなどでそれぞれ拗音       一95一

(17)

15

 10

Q

l黒象壼

こう5

L

o

1

2

1 1

4 5×23 

1

IGi G2

1

平 均値

標準偏差値

3.0 5.7 0.68 L84

1  1

1

 蜘−o

 電 薮 φ

 1

 一

 G

5 一一一一t一一一一一一一一

         15 17

園4−2 深浦方雷の〔笈〕uのG1,G2分布(off電極数:)

グループ,歯茎音グループ,軟口蓋音グ)V・一一プ,両唇音グループ,先行子音 ゼロのグループの重心の位置を示しておいた12)。また,〔i{[〕u,〔i〕u,〔至〕1 のG1, G 2の分布の平均値,標準偏差値をそれぞれの図中に示しておいた。、

これらの図および表から次の点を指摘できる。

① この表の標準偏差値をみると,G1, G 2とも〔i[tr〕uに比べ〔1〕u,〔i〕i が際だって小さくなっているが,中でも〔i〕u,〔i〕iのG1の小ささがめだ ち〔1〕u,〔i〕iがG1軸上のこの位置に厳しく制御されていることがわかる。

このようにG1軸上での分布が〔1〕u,〔i〕iで狭いのに対し幽〕uでは広い ことが,〔i〕と〔曲〕とのあいだでの母音の交替や統合の際に,調音上の 労力節減の動きに支配されながらかかわりをもっことが考えられる。

② 図4−1の〔ts〕uの分布を先行子音グループ別にみると,拗音グループが       一96一

(18)

15

le

   5

Ω一邸︵ohh齢応徳︶

   1

 3  1  2

2@5 2

6  5 3

3@ln 5  ik@SO 21

3  ユ2 3

 2

o

IGi G2

平 均 値 標準偏差値

2.8 4.6 e. 88 L82

  G−1(o£縄極数)

1TU 17

図5 深浦方言の〔1〕!のG1,G2分布(off璽極数)

最も前よりにあり,ついで歯茎音グループが続いている。この拗音グループ の分布の中で前よりの部分は〔1〕Uや〔茎〕1と接しはじめているが,その付 近は〔i〕に統合されているズの拗音である〔d3tu〕の〔並〕でほぼ占めら れている。なお拗音グループの分布の中で摩擦音の〔侮〕の@〕はうしろ 寄りになっており,閉鎖を伴う〔d3薗〕,〔g海〕,〔k簿〕,〔n海〕の〔磁〕

は前寄りになる傾向が全般にみられ,舌を調音体としている先行子音の調音 方法の影響がこの母音の分布の上に現れている。一方,調音点が唇にある両 唇音のグループの重心はこの〔戯〕ロ全体の重心よりもややうしろ寄りに位置 して中舌化の程度が浅いことを示唆しているようにみえる。なお,図5の

〔i〕iの分布の中には〔曲〕Uの場合と同じように多様な先行子音が含まれて いるが,分布の狭いここでは〔ur〕Uの上述のような先行子音励の傾向を見い        一97一

(19)

だしにくい。

③資料3の(1)の標準語のul:の位置(◎印)を函4−1の繊〕u図に入れ てみると,(t C[〕Uの分布の年寄りに位置し,この方書に比べて中舌化の程度 が浅いことが示されでいるようである。

④〔i〕Uの分布は〔1〕iの分布の中にはぼ収まっており,両者の重心の位 置も接近していることから〔i〕Uが〔蔓〕勘こ完全に統合されているといえよ

う。

 1〜2深浦方言の〔e)の調音

 以下,標準語のイに対癒する〔e)を〔の㌃標準謬のぞ〔に対応する〔e)

を〔e〕eと便宜上呼ぶことにする。

 北奥地方の方書ですでに措摘されているところの,エが標準語のそれより やや狭く一般に〔e)と表記される音となる現象は,ζ(ρ方雷資料の中でも ほぼ一貫して観察される。(エが〔三〕となっている例として,「飯J→〔憾s董〕

が1例だけあ?たが,「名物」, 「目薬」,「雌」などが〔e〕となっているの で,この1例は語彙的なも㊧と思われるナ、このようなCe〕eの他に,〔e)i としては,語頭のイの一一一一geのもの(息,井矩,苺,異性,一斉など。なお,

この資料の中では,胃,板,糸の語頭のイは中舌の〔匂となっている)及 びヒの母音をあげることができる。この黒頭に現れる単独のイの〔i〕また は〔誇〕⑳二種目音への置きかえについては,川本氏(1963]の下北方言の 場合での指摘にあるイの後続子音が〔t〕の場合にのみイが〔三〕になって いるという1規即が,ここでもVCV型の2例でみられる。一方, CV型の場 合ではヒ以外のイ,段の母音が〔i 〕となっているのに,ヒの母音だけが〔的

となっているのはヒの子音〔9〕の調音点の影響をうけているためであると 考えられる。

 このような〔e)の実態を上述の〔i〕と〔面〕の場合と同様1こDP資料 によって明らかにす為ことを試みたので以下に述べる。

 イに近づいているこの〔e)のDP上での鳶の接触範囲は,上述の〔i〕

と〔龍〕の場合のように.G 1ヴG2の狭い範囲に限定されることがなくG1       =. 98 r.

(20)

表2騨語の冒識と深浦輝嘩の発諦ρpp上の。蝿極数

       〈3回の発話平均,Inf.=S. T.〉

標準語のr腎」〔i〕

標準語の「絵」〔e〕

深浦方雷のr絵」 〔の

G1

3.0 6.0 5.0

G2

OQり3 28ド0

G3 G4 G5

2.3

1L7

6.0

2.7

(9. 0>

6.7

(7. 0)

(7. 0)

(z o)

〔i〕と〔e〕 〔e〕と〔e]

    ノ感  6 . ン  網一も

q.r}=llrE..T .一Lt−S一,:l

   e

  、  o ◎

 /嫡。

  ゆて⑳・◎b

  ⑭     o 芝⑪⑬⑲⑱

/醜魯:。奔   む論。。。、岬

  ノe

  x

o運⑤㊤

 ④⑭て 9eas

 pa .e oe

lG・ト

G2

〔・〕・〔・〕嵯}…1

3.0

  /  /

て⑱   ユ㈱

 o Oo

N,bT . o

醍宅防x

   図6 標準語の胃,絵(実線)と深浦方欝の絵(点線)のDPパタン

ー一f4の広い範腰に及んでいるので, DP接触パタンを巨視的にみただけで も〔匂と〔的を区卜することができる。

 こe)方言の「,tkj  と標準語の「絵」および標準語の「胃」のDP上の声道 の広さを示すところのoff電極数を表2に示す。

 この表2のG1〜G5の値を少数点以下四捨五入して,インフォーマント の口蓋実体図および正中断面実体図に書き込んだものが図6である。

 この表2で,標準語の「絵」と方言の「絵」の差の値をG1〜G4につい

て求めてみると,

              1・・ G・i

      i・.・1・・3}差の計22・・、

一 99 r.

(21)

となる。これを差の大きいJ順に並べるとG3, G2, G4, Glとなり,〔e)

の接触に比べて〔e]のそれが主として前上方向に拡がっていることが判る。

同様にして標準語の「胃」と方言の「絵」の差の値を求めてみると,

i Gi

G2 G3 1 G4

〔・〕・〔e〕の劃… …i・・7i4・・1差の計・3・・

となり,差の大きい順に並べるとG4, G3, G 2, G 1となており,ここ でも〔e)の接触に比べて〔i〕のそれが上の場合と岡様に前上方向に拡が

っていることが判る。

 このようなエと〔e〕,イと〔孚〕のあいだの接触領域の違いを実現させて いる背景には,舌自身の動きの他に下顎の動きも関与しているものと思われ るが,今回採取した資料の範囲からそれを見いだすことは難しい。

 なお,方書のDP資料採取時に発話者の横顔をビデオテープに一部記録し てあるので,それによって方言発話時の唇の動きを定性的に観察してみたが.

その大まかな印象は,①この方言の五母音のあいだでの唇の開きの差は標準 語の場合に比べ小さいようである。②この方言の五母音の唇の開きを大きい ものから順に並べると,ア〉エ≧イ〉オ〉ウの傾向がみられる。③この方の 方言の唇の突き軽しはオに冤られ円唇母音的であるt3)。

 この方書の〔e]の接触面積が,標準語の〔e〕,〔i〕のいずれに近いか をみるために,上の〔e〕と〔g)の差の合計値と〔i〕と聡〕の差の合 計値とを比べると,それぞれのG1〜G4の合計は12,0:13.◎で〔e]は

〔e〕寄りにわずかに(1電極分)近づいているだけでほとんど同じであり.

接触薗積の広さの面では〔e〕は〔e〕,〔i〕のほぼ中間に位置しているこ とになる。しかし,この差が田老では主として前雷付近に現れているのに対 し,前者では全体に平均してそれが現れている傾向が図6の口蓋実体図から よみとられる。その結果として巨視的に図6をみたときイの接触パタンが

(e〕やエとは異質な印象をあたえてくれる。この接触パタンをみた印象か らいえば〔サ〕はエに似ているといえそうである。

       一100一

(22)

 1−3 〔e〕eと〔¢〕iの調音

 以下,標準語のイに対応する〔e〕を〔e]i,標準譜のエに対応する〔e)

を〔e)eと便宜上呼ぶことにする。

 前節で標準語のイ,エとの比較に用いた深浦方言の〔のeは,単独の母音 だけからなる「絵」の1音節語であったが,2音節以上からなる語の中に現、

れたCV型の〔e〕eの調音の実態をDP資料によって調べたものが表3であ る。この表3で扱われている語は,資料1の中に現れた〔e )eの中から子音 の調音点甥のサンプル数が揃うように配慮して語を求めだが,両鷹音:7,

表3 深浦方言の〔e〕eのDP上のoff躍極数

(・V型〉季割・・レG・ ・・1・引・・1例数

mm毛tddn鷺訟Ssss999湾99¢  物井錠 で んる頭る  る 屋 る 飴   縦ま させ せ背蝉け竹計影 蛇駝  名天手  〜西之寝船さ  溶 時 減

平    均

標準儒差

0300000303070030GOOG54555555645357655545

5.i O. 77

3000730007000030Q33055555666645557666545

5.5 0. 68

0037377000000370003066557666769708665756        エ

6.7 1.17

 ︶    ㌧!︶       

︶︶︶︶ 00730003700GOOOOOO7079579987769999655865

 ︵    ︵︵        

︵︵︵︵

7.5 1. 39

︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶︶   

︶︶㌧ノ

000000000000GOOOOOOO77777777777777766777

︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵︵r\︵︵︵   ︵︵︵

6. 9

0.26

33333333331333331331

計54

「絵」 〔e〕 5.0 5.3 6. 0 6.3 (7.0) i

一 101 一

(23)

表4深浦方言の〔?〕 のDP上の縦騨勢:

メV型)

Gl G2 G3 G4

   G5 i暦数

  戸性斉均差       偏

所記

      準   井異一平標

4.7

4.0 4.3 4.0 4.5 4.3 0.29

5.0 3.3 4.7 4.0 4.0 4.2 0. 64

4. 7 3. 7

5.0 4.3 5.0 4.5 e. 51

5.7 4.3 4.7 5.0 5.0

4. 9 0. 49

(7. 0)

(7. 0)

(7.0)

(7.0)

a. e)

(7.0)

33332計14

(・v型)季誓レ

︸ 一

暇蛭左下 

   薬毒標

  9

  9   9   g く 9

 均

偏 差

3.0 4.3 4.7 5.3 5.3 4.5 0.88

3.7 5.3 4.7 6.3 5.3 5.1 0. 88

      6 3073050 47婆ρり551

4.0・

7.3 4.3 6.3 4.7 5.3 1. 31

g7.o? 1

(Z・9) 1

,glg,

(g18)

O.29

33333計15

〔絵〕 〔e〕 5.0 5.3 6.o 1 6.3 (z o) 1

歯茎音=31,硬口蓋音== 6,軟口蓋音=10の計54例となっていて,両唇音,軟 口蓋音,硬口蓋音の資料が少なくサンプル数が不揃いになってしまっている。

また,この資料1の中から〔e)iが現れている語を抽出してみたら,〔e〕i はすべて語頭に現れており,その語頭の音節がV型であるものが5語,CV 型であるものが5語の計10語29サンプルがえられた。これの調音の実態を

:DP資料によって調べたものが表4である。なお,表3および表4のそれぞ れの最下行に比較の便のため「絵」〔e)の平均値を入れておいた。

 表3の〔e )eのCV型の平均値と〔e)eのV型の「絵」のそれを比べてみ ると,CV型のほうがG1〜G4をとうして大きくなっているが,中でも G3〜G4でそれぞれ約1電極分増えているのが目だち, CV型の接触領域 がV型のそれよりも主としてG3〜G4で後退していることが示されている。

この後遺に強く関与している調音グループ(先行子音劉の)をこの表3から は昆いだしにくいが,歯茎音のグループがやや効いているようである。なお,

      一 102 一

(24)

9

   ら

(}

齣V︵O鞘認齢薦慧︶ ◎イ

 4w7

  ×

1  1  1

◎エ

  O 5 IO 13

      G−3(off電極数)

図7−1深浦方寸の1鷲型の(9)iの=G3〜G4分布(off躍極数〉

9

 5

0i良︒剛︷齢蕨購﹀

      O 5 10 13

      G−3(off電極数)

図7一・2 深浦方言のCV型(C=〔9〕)の〔9〕iのG3〜G4分布(o登羅極数)

後述の図7−3を参照されたい。

 同様にして表4の〔e)iのV型およびCV型の平均値と〔g〕eのV型の

「絵」のそれを比べてみると,ここでは,逆に〔e〕iのV型およびCV型の ほうがG1〜G4をとうして小さくなっているが,中でもV型のG1〜G4 で約1電極分減っているのが目だち,〔e〕iのグループの申でV型が標準語 のイに最も近い接触パタンであることが示されている。

      一 103 一

(25)

9

Ω 5

膳 ︵oh鷺轟訟齢蝶煙︶ ◎イ

4  86  2 ②◎

6x

2

2 2 ,s 3  6  2 2  5

3  3  1  1 2

◎エ

    O 5 10 13

      G−3(off電極数)

図7−3深浦方誉のV型及びCV型の〔曾〕のG3〜G4分布(off羅極数)

 なお,表2の〔i〕と〔e〕の結果から,G1〜G4の中でG 3とG4とがエ とイの違いに主として関与しているようなので,ここで分析の対象にしたす べての識こついて図4の場合と同様にG3の。登電極数を横軸に, G 4のoff 電極数を縦軸にとった2次元平面図(V型の(e〕iを図7−1,CV型の〔e〕i を図7−2,V型及びCV型の〔e )eを図7−3)を作ってみた。このようなG3

〜G4の図では,分布が原点に近づくほど馬体が前上方よりになっているこ とになる。なおこれらの図には,それぞれの分布の重心をx印で,(図7−3で は先行子音携重心も図4−1場合と同様に)また,比較のために資料3の(1>の 標準語のi■:とe::の位置も◎印でいれておいた。この図7から次の点が指 摘できる。

① この方言の二つの型の〔e]eおよび二つの型の〔e)iのいずれの分布も,

標準語のイとエの中問に置かれている。

②CV型の〔e〕e, CV型の〔e〕i, V型の(e〕iの三者全体の分布の重 心がG3=5.6, G 4=5.9となっており,その位置がV型の絵の〔e)e付近 にあることから,上記のようなさまざまな〔e)は規範的な絵〔e ]eの周辺 に分布するといえそうである。

③各分布の重心の位置からは,標準語のイからエのあいだにV型の〔e〕三,

       一104一

(26)

cv型の〔e)i, CV型の〔e)eの順にそれぞれの分布が並んでおり,図7 の3図全体の〔e)全体の分布の中で,標準語のイに対応する〔e)のグル ープが標準語のイ寄りに分布する傾向が承されている。なお,〔e)iのうち,

CV型のそれは子音が〔g〕であるので後続母音がイ寄りになるものと思わ れるが14),V型の〔e )i euついてはそのような調音上の理由をみいだすこと が難しい。このような結果に対しては,なお,老年層の資料での確認が必要 であると思われる。

 1−4深浦方書の母音の音響上の特徴

 1暖〜1−3でえられたこの深浦方量の調音上の特徴が音響管としての声道に そえられたときに,作りだされる音響としての音声の実態を第1フォルマン ト(F1),第2フォルマント(F2)によって確かめてみることにした。

 母音の音響分析に欠かせないフォルマント抽出については,最近では計算 機処理による高精度の音響分析が行われるようになりつつあるが,本報告で は計測精度の点でやや劣るソナグラム分析によってその作業を進めた。この ためのより規範的な発話資料を得るために,今石氏ら(1984)による「音声 調査票」一日本方雷音声スペクトル分析用一の中の「L単音節・語頭音節」

の調査語(延べ70語)を部分的に変更したものを使わせていただいた。(発 話者の発音しやすさの面からの希望によって,尾一一・$rk,目→芽,銭→膳こ,

の変更を,また,この調査票の中の二・三音心裏のものについては語頭の音 節のみを発音することになっているが,これも発音のしゃすさの他に計測対 象になる母音の定常部が求めやすくなることも期待して語頭の音節の母音だ けを長母音に置きかえて語全体を発音してもらうことにした。)なお,この 資料2は1−1〜1−3で母音の調音上の特徴抽出に使詳した資料1とは別のもの であるが,この資料2は資料1に引きつづいて同一話者が発音したものであ

るので音響計測の対象として使用することにした。(なお,この資料2では 計測対象の母音を長めに発音しているので,当該音素固有の声遵の形により ちかずいた調音が一いわゆるなまけ現象の少ない調音が一現れることが期待

1される。)

      一105一

(27)

表5−1深浦方書の母音のF1,・密2(資料2のV型の濁音)

        〈3園の発話平均・、1nL ==S. T.・論義需H・〉

t腎のq絵の引墨の・Fdiの・1口外

19研

FF

346 1721

349 2325

688 1259

、38工

763

375 1500

表5−2 深浦方言の母音のF1,F2(資料2のCV型の母音)

       <3回の発話平均,Inf. =S. T.,単位=Hz>

t

e︒

Fl

F2

平均値 最小値 最大値  6 平均値 最小値 最大値  a

396 336 583

43. 8

1682 1502 1875

129.2 361 303 456

50. 7

2298 2165 2350

 55. 3

656 538 829

89. 4

1207 1111 1274

 47. 6

406 333 450

39. 8

796 720 87e

34. 3

381 337 428

32. 5

1433 1155 1800

180. 4

(優し,ウ列の「酢,鶴,図,ズ」の四護の語頭の母音は〔i〕として処理した。〉

表6 標準語の母音のFl,F2(資料1のV型の母音)

        <3回の発謡平均,Inf. xS. T.,単位コHz>

1胃の・降の・i秋の・樋の・隊簾

2336287 2048440 1264793 472754 1324344

 この資料2の70語のソナグラム分析は,当該母音区間内の母音定常部のほ ぼ中央の時点での周波数スペクトルをセクションによって記録し,Fl F 2のそれぞれのピ》一ク値を視察によって求めた。その結果(3厩発話の平均 値:)のうちV型の単独の母音のばあいを表5−1に,CV型の母音のばあい

(但し,「酢,鶴ズ,図」の4語の母音は〔i〕として処理した)を表5−2に 示す。なお,比較のための資料として,同一譲者による標準語発話時(資料

1の胃,絵,秋,沖,歌の5語の語頭の母音について)の結果も表6に示し        一 106 一

(28)

巨︒−0

30e

4Qb

oroO;

soe

1eee 12e{

[「

i 1 一__一

c 〔  一  噂 一 、

︸ ︸

}   t 、》

i i 、  \

r  ム

、、

̲ 7

!︾

L ﹁ 崖

翫◎一AU 2

 3ee

 4ee

:.

 5弓§

 600  seo  leeo  l200

30eo

 図8

      …標準語(NNK        アナ10名平均.

       今石より)

       muS.T.による標        準語

       一深浦耐湿(V型)

・・o・1P一GGO sge 60・・see・Hz im深浦方耗。型)

深浦方雷の母音と標準語の母音のF1−F 2園

l i

@}

 …

陶  q

輔 一  一 鴫 r 一

一 一需ワ

、、

̲

!ノ/

\    !、  /

O O G 3

9

       一深浦方欝(V型〉

       一一一深浦方雷(CV        型)

       …一五所河原市方言

2000  1500 1200iobg SOO  6005GO 1 {z      (今石より)

   F2

深浦方雷と五}寳河原市方欝の母音のFl一潔2託

ておいて。

 この表6〜7の結果をF1−F 2の二次元平面上にプPットしたものが図 8〜9である。なお,この図には比較のために今石ら(1984)による標準語

(NHKアナウンサー10名の発話平均)および奢森県五所三原市方雷(老年 男性10名の平均)のそれも加えさせていただいだ5)。この図から,次の点を        一le7一一

(29)

詣摘できる。

① このInf. S. T.の発話による標準語の母音五角形とNH:Kアナ.のそ れを比べると,S.T.のウのF2がわずかに高めになっている他はNHK:ア ナ.10名ののそれぞれの母音の最大値と最小値の閥にほぼ入っており,全体 的にNHK:アナ.の母音五角形に近い姿が示されている。

②深浦方言の母音五角形の中で〔i〕と臨〕と〔e)の三者が互いに近 い位置にあるが,中でも〔i〕と(ta〕の両者が最も接近している。また,

〔a〕,〔o〕の位置が標準語のそれよりも高めになっていて,舌が高位にあ ることが示唆されているが,〔a〕,〔o〕はDP上で無接触であるのでここ では調音の側面からそれを確かめことができない。

③深浦方言の隣〕は,標準語のウより前下方に位置しておりあいまい母 音性の程度を強めていることが示されている。

④ 深浦方言の〔i〕は,この〔tU〕よりわずかに前に位置し,標準語のイ の位置から晃ると後下方にあり,これもあいまい母音性の程度を強めている 傾向がみられる。なお,この〔i〕と〔田〕の分布が,1−1で試みた図4−1

および図5のG−1−G−2図上に示された〔i〕iと臓〕・の両者のG−1軸上 の関係に似ていることから,〔;)iと〔taコuの調音上での特徴抽出にDPの G−1−G−2図の使用がほぼ妥当であったと考えられる。

⑤深浦方法の〔e]は,標準語のイとエの中間に位置しており,これも1−

2で試みた図7のG−3一一G4図上に示された調音上の結果と似た傾向がみら れることから,〔孚〕の調音上の特徴がDPのG−3−G−4図上におおまかに 示されるものと考えられる。

⑥深浦方言の〔i〕,〔t窪〕,〔e)と五所川原市方言のそれとを比べると,

巨視的には似ているが深浦方言の〔1〕がより中舌的であり,また〔e)が やや高位になっていることなどが目につく。

2 長母音

 2−1 標準語の畏母音の調音

 この方言の長母音の分析に先立ち,標準語で一般にみられる長母音の調音       一 108 一

(30)

上の特徴抽出をこのDP資料によって試みることにした。

 標準語のばあい,「暗示」が〔and3i〕,「あっち」が〔att∫i〕となるように,

有声破擦音の直前におかれた揆音や無声破擦音の直前におかれた促音は,ふ つう,後続破擦音の中の破裂音の閉鎖持秘中の舌の構えを1拍分保持するこ

とによって,後続破擦音に,より語頭的な姿をあたえているt6)。叙爵や促音 では,このような後続子音からの調音結合効果を共通に持っているが,日本 語の音韻体系の中で促音,揆音とともに特殊音素として扱われている長母音 がこのような環境におかれたばあい,その後続破擦音はどのような姿で現れ るのか確かめてみることにした。なお,この問題に関心を持ったのは,資料 3一(16)のCVII:CV型のザ行音を標準語で収録する際に,語中のザ行子音 を破擦音と摩擦音の二通りで発音することをたまたま発話者に依頼したとき 摩擦音では発音しにくい旨の訴えを発話者からうけたことが引き金になって いる。(このために摩擦音での発音が容易と思われた資料3一(16ノ)のCVI CV型をその場で急遽テキストに加えて収録した。)

 そこで,この資料3一(16),(16ノ)の標準語による1)Pを対象として,母音 間の/Z/の実態をたしかめてみることにした。

資料3

 (16)/zar:za z1R:zi zul:Zu zel:ze zol:zoノ  (16 ) /zal za zil zi zul zu zel ze zol zo/

 DPパタン上では,図10の例図のように3一(16)の語中の/z/の部分はい ずれのばあいも,ほぼ3〜4フレームの畏さの閉鎖がまず現れ,ひきつづい てほぼ3〜4フレームの長さの〔s〕的な狭い狭窄が現れており,それが有 声破擦音〔dz〕であることがわかる。

 一方,図11の例図のように3一(16ノ)の語中の/z/の部分はいずれのばあ いでも閉鎖形成はみられず, 〔s〕的な狭窄が現れるだけで,それが有声摩 擦音〔Z〕であることがわかる。

 また,このzel:zeとzel zeのソナグラムの当該匿閥をみるとze1:ze では〔d〕的なbuzz bar(閉鎖持続中に発せられる有声音のソナグラムパ        一 109 一・

参照

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