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ホスファチジル基転移反応における

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Academic year: 2021

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(1)

     博 士(水産科学)佐藤理奈 学位論 文題名

ホスファチジル基転移反応における

ホスホリノヾーゼD の立体選択性に関する研究 学位論文内容の要旨

    

ホスホリパーゼD (PLD)はりン脂質のりン酸ジェステル結合を加水分解してホスファチ

  

ジン 酸と塩基 を産生す る加水分 解酵素の ーつであ るが、第1級アルコールの存在下で

  

は、リン脂質のホスファチジル基をアルコールに転移する反応(ホスファチジル基転移反

  

応)も触媒する。他の加水分解酵素にはみられないこの特異な性質を利用して、魚類細

  

胞膜の主要成分であるホスファチジルコリン(PC)から、ホスファチジルグリセロール(PG)

  

やホスファチジルセリンなど天然には少量しか存在しない有用なりン脂質を容易に合成

  

できるため、有機合成化学の分野から大きな関心が寄せられている。PLDはキャベツな

  

どの高等植物、放線菌などの微生物や酵母、脳などの動物組織から見出されているが、

  

ホスファチジル基転移反応には専ら、調製の容易なキャベツまたは微生物由来のものが 用いられている。

  

キャベツ

PLD

の有するホスファチジル基転移反応によって、

PC

(R配置)とグリセロール から 得られる

PG

は従来R,

S

体とR,R体のジアステレオマーの等量混合物であると言われ てきた(Fig.1)。このことは、キャベツ

PLD

はプロキラルなグリセロールの2っの第1級水酸 基を区別しないこと、すなわち立体選択性をもたないことを意味する。しかし、最近、キラ ル 高速液 体ク口マ トグラフ イー(HPLC)を用 いて市販 の合成PG(合 成方法は 不明)の 立 体構造を分析した結果、必ずしもジアステレオマーの等量混合物ではなく、R,R体が高い 割合で含まれる場合もあることが明らかにされた。この結果は、酵素反応の条件によって は、立体選択性の発現する場合のあることを示唆するが、これまでこの点については何も

(2)

             O

                                   II  0. H2C‑O‑C‑R

       [l R'‑C‑O ‑‑    H O

                                      II HzC‑O‑P‑O‑

                                                                      I           o'

sn‑l

2‑diacyl PC     

configuration)

     HzC ‑ OH       I  H‑ C ‑ OH       I H2C OH

      o

      II  0  H:  i‑C‑R

R'‑C‑O ‑      H:

      I   Is sn‑3,sn‑l'  O‑HO C H   (R,S)      H2C‑OH       o

      II  o  H:  i‑C‑R

       11 ‑0 ‑‑2g ‑1‑

R'‑C‑0     1 0 .          1  .   II H2C‑O‑P‑O‑CH2

      I       ̲ LR sn‑3,sn‑3'   0‑ H C‑OH

  (R,R)        H2C‑OH

Fig. 1  Phospholipase D (PLD)‑catalyzed transphosphatidylation ofl,2‑diacyl‑sn‑glycero‑3‑phosphocholine (PC, R configuration) to phosphatidylglycerol (PG). sn‑3,sn‑l':  1,2‑diacyl‑sn‑glycero‑3‑phospho‑l'‑sn‑

glycerol (R,S c.onfiguration); sn‑3,sn‑3': 1,2‑di acyl‑s n‑glyce ro‑3‑p hospho ‑3'‑sn ‑glycer ol (R, R conf igurat ion)

明らかにされていない。ホスファチジル基転移反応は生体でも起こると推測されるが、天 然 物 由 来 の PG に は 従 来 R,S 配 置 し か 存 在 し な い と いわれ てき た。 キラ ルHPLC 法 によ って、最近、大腸菌PG 中に約10 %のR ,尺体が見出されたことから、他の生物、特に海洋 生物におけるR ,R 体の分布やその機能に興味がもたれている。しかしながら、生体にお け るR , R 体 の分布 やR,S 体 との 物理 的、 化学的 性質 の違 いや 生理 機能 の差異について は ほ と ん ど 何 も 明 ら か に さ れ て お ら ず 、 解 明 さ れ る べ き 課 題 と な っ て い る 。    以上 の観 点から 、本 研究 では ホス ファ チジ ル基 転移 反応 にお ける PLD の立体選択性 の詳細を明らかにすることを目的として、以下の検討を行った。(1 )植物及び微生物由 来 PLD の 立 体 選 択 性 、 (2) PLD の 立 体 選 択 性 に 及 ば す 反 応 温 度 の 影 響 、 (3) 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸 高 含 有 PG ジ ア ス テ レ オ マ ー ( R , S 体 と R , 尺 体 ) の 合 成 。

(1 )植 物及 び微生物由来PLD がホスファチジル基変換反応において、グリセロールの2 つの第1 級水酸基を識別するか否かを、基質に尺配置(天然型)及びS 配置(非天然型)

の PC を 用 い て 詳 細 に 検 討 し た 。 放 線 菌 (Streptomyces TH2 株 、 K5 株 、 K6 株 及 び

イctinomadura sp. )由 来PLD を 用い て様 々なアシル基を有するPC (卵黄及びサケ卵PC

    ‑ 62 ‑

(3)

を含む)から PG を合成し、これをキラルHPLC で分析することにより、 PLD の立体選択 性を決定し た。その結果、得られたすべてのPG は 30‑40 %の R,S 体と60‑70 %のR,R 体 のジアステレオマー混合物であったことから、放線菌PLD はプロキラルなグリセロールの 2 っの水酸基をある程度区別すること、及び基質アシル基の炭素数と二重結合数によっ てその組成にわずかに差のあることが明らかになった。遺伝子組換えPLD (rK1 、TH2/K6 、 K6/TH2) も野生株由来PLD と同様の立体選択性を示した。一方、植物(キャベツ及びピ ーナツ)由来 PLD は従来報告されているように、R ,S 体とR ,R 体のほば等量混合物を生 成したことから、立体選択性を示さないことが確認された。次に、基質にS 配置(非天然 型)の PC を用 いて PLD の 立体選択性 を検討した 結果、放線 菌 PLD を用 いて得られた PG は、約70 %の S,R 体と 30 % の S,S 体の 混合物で構成されて韜り、 R 配置(天然型)

のPC を基質に用いたときと同じくグリセロール部がR 配置となるPG を優先的に生成した。

一方、キャ ベツ PLD を 使用して合 成したPG は、 基質に尺配置の PC を用いた場合と異 なり、40 %のS,R 体と60 %のS,S 体の混合物であった。このことから、キャベツPLD は基質 の 立 体 配 置 に 依 存 し て 、 立 体 選 択 性 を 発 現 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 (2) PLD の立体 選択性に及ぼす反応温度の影響について検討した。放線菌PLD を用い て基質 PC ( R 配置)から合成したPG は 300C で 40 %のR ,S 体と 60 %の R ,R 体から構成さ れていたが、 OoC では30 %のR , S 体と 70 %のR ,R 体となり、反応温度が低いほどR,S 体 よりもR , R 体が優先的に生成した。これらの結果にアイリング式を適用したところ良好な 直線関係が 得られたた め、放線菌 PLD の立体 選択性は反応温度に依存して徐カに変 わることが明らかになった。この結果を遷移状態理論を用いて考察し、尺,S 体及びR,R 体を生成する反応における遷移状態の熱力学量から反応温度とジアステレオマーの生 成比に相関関係のあることを明らかにした。一方、キャベツ PLD には温度の影響はほと んど認められなかった。従って、温度効果は微生物由来 PLD の有する特徴的な性質で あると考えられる。

(3) PLD のホスファチジル基変換反応を利用して高度不飽和酸を多く含むPG ジアステレ

オマー(R,S 体と尺,R 体)の簡易合成法を検討した。放線菌PLD の存在下で、1 ,2 ‐及び

     ー63 ‑

(4)

2

,3‐イソプロピリデン‑sn‑グリセロールとPC (R配置)からホスファチジルーイソプロピリデン化 合 物 を 合成 し た 後、 ホ ウ 酸を 含 む ト リメ チ ル ホウ 素 中 でイ ソ プ ロピ リ デ ン基 を 分解 してPG を 調 製 し た 。 そ の 結 果 、 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸 を 豊 富 に 含む サ ケ 卵PC( エ イコ サ ペ ンタ エ ン 酸 約

20

% 、 ド コサ ヘ キ サエ ン 酸

19

% ) か ら95% 以上 の 純 度で 両 ジ アス テ レ オマ ー (

R

,S体 とR,R体)を高収率で合成することに成功した。

  

本 研 究 で 明 ら か に し た

'PLD

の 立 体 選 択 性 は 、

PLD

の 起 源 ( 微 生 物と 植 物 )に よ っ て 異 な って い た こと か ら 、PLDの構 造 と の 相関 を 明 らか に す る上 で 重 要な 知 見 とな る と 考え ら れ る 。 ま た 、

PLD

の 立 体 選 択 性 の 解 析 は 海 洋 細 菌 を 含 む 微 生 物 リ ン 脂 質 の 生 合 成 経 路 を 検 討 す る 観 点 か ら も 意 義 が あ る と 思 わ れ る 。 最 近 、 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸 を 多 く 含 む

PG

(R,S

体 ) に は 、 レ チ ノ イ ン 酸 と の 併用 に よ り骨 髄 性 白血 病 細 胞に 対 し て分 化 誘 導効 果 を 有 す る こ と が 報 告 さ れ た 。 ` 本 研 究 で は、 高 度 不飽 和 脂 肪酸 を 豊 富に 含 み 入手 の 容 易な サ ケ 卵 を 用 い て 純 度 の 高 い

PG

ジ ア ス テレ オ マ ーの 合 成 法を 確 立 した こ と から 、 今 後R,

S

及 ぴ

R,R

間 の 生 化 学 的 性 質 の 差 異 や 生 理 活 性 の 違 い が 明 ら か に なる も の と期 待 さ れる 。

(5)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ホスファチジル基転移反応における

ホスホリパーゼ D の立体選択性に関する研究

  

ホ ス ホリパ ーゼD (PLD)はりン 脂質のり ン酸ジ ェステル 結合を 加水分解 する酵素 であ る が、 第

1

級ア ル コ ー ルの 存 在 下で は 、 ホス フ ァ チジ ル 基 をアル コール ヘ転移す る反 応(ホ スファ チジル基 転移反 応)をも 触媒す る特異ぬ 性質を有 する。他の加水分解酵素 に はみ ら れ ない こ の 転 位反 応 を 利用して 、魚類 細胞膜の 主要成分 である ホスファ チジ ルコリ ン

(PC)

から、ホスファチジルグリセロール(PG)やホスファチジルセリン(PS)など天 然 には 少 量 しか 存 在 し なぃ 有 用 なりン脂 質を容 易に合成 できるた め、近 年食品や 医薬 品 の分 野 か ら大 き な 関 心が 寄 せ られ て い る。 本 研 究は 、 こ の転移 反応にお ける

PLD

の 立 体選 択 性 の解 析 と そ の応 用 を 目的とし て行な われたも のである 。得ら れた成果 は以 下のよ うに要 約される 。

1

PC

か らPGへ の転 位 反 応に お い て 、

PLD

はプ ロ キ ラル な グ リセ ロ ー ルの 第

1

級 水酸

  

基 を 全 く 識 別 し な い と 従 来 言 わ れ て き た 。 し か し 、 本 研 究 で は 、 放 線 菌

    

Streptomyces TH2

K5

K6

及 ぴ

Actinomadura sp.)

由 来

PLD

を 用 い て 、 飽和

  

(14:0,

16:0

18:0)

及ぴ不 飽和(18:1,

18:2

18:3

,20:5,22:6)の 脂肪酸 を含むけ

  1

2

−ジアシルPC(吊配置)とグリセロールからPGを合成し、これをビス―3,5ージニトフ

  

ェニ ル ウ レタ ン 誘 導体 に 変 換し て キ ラ ノレ

HPLC

で分 析した結 果、得 られたす べての

  PG

は 、 定説 と 異 なり 、

30

40

% の尼

S

体 と60―

70

% の 尼々 体 の ジア ス テ レオ マー 混

  

合物 で あ った こ と から 、

PLD

が プ ロ キラ ル な グリ セロー ルの第

1

級水 酸基をあ る程度

  

識別 し な がら

2

っ のジ ア ス テレ オ マ ー を生 成 す ること 、すなわ ち、放 線菌PLDは、ホ

  

スフ ァ チ ジル 基 転 移反 応 に おい て 立 体 選択 性 を 発現する ことが 明らかと なった。 基

  

質に ホスフ ァチジル エタノー ルアミ ン(PE)を用 いた場合 も同様で あった 。遺伝子 組換

  

PLD (rKl

TH2/K6

K6/TH2)

も 同様 の 立 体選 択 性 を示 し た が、 植 物 ( キャ ベツ及

  

びピ ー ナ ツ) 由 来

PLD

は 従来 報 告 さ れて い る よう に 、 兄ざ 体 と 兄吊 体 の ほぼ 等量 混

  

合 物 を 生 成 し た こ と か ら 、 立 体 選 択 性 は 微 生 物 由 来PLDに特 有 の 性質 で あ る と結

  

論した。

65

豊 翼

夫 浩

   

   

和 靖

橋 木

下 藤

板 鈴

宮 安

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

(6)

(2)

実 験 に 使 用 し た す べ て の 放 線 菌

PLD

は 、 反 応 温 度 が 低 い ほ ど尼 ざ体 より も兄 月体

  

を 優 先 的 に 生 成 す る こ と を 見 出 し た 。 す な わ ち 、 々 配 置 の

PC

か ら合 成し た

PG

は、

  

た と え ば

30

°

C

で は

40

% の 足 ざ 体と

60

% の足 月 体か ら構 成さ れて いた が、

O

C

では

  

S

体 が 減 少 し 、 そ の 比 率 は

30

% 足 &

70

% 足 月 で あ っ た 。 得 ら れ た 結 果 に ア レ ニ

  

ウ ス 式 を 適 用 し た と こ ろ 、 す べ ての

PLD

にっ い て良 好な 直線 関係 が得 られ たこ とか

  

ら 、 放 線 菌

PLD

の 立 体 選 択 性 は 反 応 温 度 に 依 存 し て 徐 々 に 変 わ る こ と が 明 ら か に

  

な っ た。 また 、ア イリ ング の遷 移状 態理 論を 用 いて 考察 し、 兄ざ 体及 ぴ兄 々体 を生

  

成 す る反 応に おけ る遷 移状 態の 熱力 学量 から 、 反応 温度 とジ アス テレ オマ ーの 生成

  

比 に 相 関 関 係 の あ る こ と を 明 ら かに した 。一 方、 キャ ベツ

PLD

に は温 度の 影響 はほ

  

と ん ど 認 め ら れ な か っ た こ と か ら、 温度 効果 は微 生物 由来

PLD

の 有す る特 徴的 な性

    

質 で あ る と 結 論 し た 。

(3) PG

の 両ジ アス テ レオ マー (兄

S

体 と兄 々体 ) を高 純度 で合 成す る方法を検討した。

  

放 線菌

(Actinomadura sp.) PLD

の存 在下で、光学活性1,

2

一及び2,3ーイソプロピリ

  

デンーsn―グリセロールと.ゞ伊1,2ージアシルPC(月配置)を反応させてホスファチジルー

  

イソプロピリデングリセロールを高 収率で合成することに成功した。これをホウ酸を含

  

む ホウ 酸ト リメ チ ル中 でイ ソプ ロピ リデン基を分解して (90℃で数時間加熱)PGを得

  

た 。そ の結 果、 飽 和脂 肪酸 やモ ノエ ン脂肪酸から成るPCばかりでなく、

20

5

EPA

  

22

6

DHA

冫 な ど の 高 度 不 飽 和 脂 肪 酸 を 豊 富 に 含 む サ ケ 卵

PC

か らも

95

% 以上 の

  

純 度で 両ジ アス テ レオ マー を高 収率 で合 成す るこ とに 初め て成 功した。現在、兄S及

  

び 尼 吊 間 の 生 化 学 的 性 質 の 差 異 や 生 理 活 性 の 違 い は 不 明 で あ る が 、 合 成 法 が 確

  

立したことから、その違いが今後明確になるものと期待される。

  

以 上 の 成 果 は 、 ホ ス フ ァ チ ジ ル 基 転 移 反応 にお ける 微 生物

PLD

のグ リセ ロー ルに 対 す る 立 体 選 択 性 の 詳 細 を 明 ら か に し た も の で あ り 、 ま た

EPA

DHA

な ど高 度不 飽和 脂 肪 酸 を 含 む

PG

のジ アス テレ オ マー の簡 易合 成法 を確 立し たも ので あり 、審 査員 一同 は 本 研 究 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。

参照

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